三丁目の('A`)ドクオ達のようです

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 19:59:39.42 ID:ee5lWl33O
('A`)「…………」
('A`)「なんじゃいここは」

間抜けな呟きを零す。

梅雨には似つかわしくない青空、周囲に建ち並ぶ薄汚れたビル。
あちこちに散らばるゴミ、壁を複雑に走るパイプ。
なんじゃいとは言ったが、ここがどこなのかは最初から分かっていた。
西区の屑鉄広場。かつて俺が仲間達と共に過ごした場所だ。

その広場の真ん中に、ぽつんと佇んでいる。
いつから此処にいたのかとか、周りの連中はどうなったとか、
突っ込みたい事は他にも山ほどあるのだが、何よりもおかしいモノがあった。

('A`)「どういうこっちゃ……」

右腕を見る。
随分昔にバイバイ有難うさようならしたはずの右手が、さも当然のように引っ付いていた。
それだけではない。何かちょっと自分自身縮んでる気がする。というか若返ってる。

この屑鉄広場だってそうだ。この景色、あまりにも──

( ・∀・)「自分の記憶にある『屑鉄広場』そのもの。そうだろう?」

('A`)「!」

( ・∀・)「久しいな、ドクオ」

第二十四話 六月十九日・朝方



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:02:59.70 ID:ee5lWl33O
('A`)「……ああ、何だ。死んだのか俺」

随分と懐かしい顔が目の前に脈絡無く現れた。
なるほど、そういう事か。という事はここが俺の天国なのか?
嫌だな、こいつが居る天国とかむしろ地獄だろ。

( ・∀・)「おいおい、勝手に結論を出さないでくれないか。僕が出て来た意味が無いだろう」

('A`)「何か違うの?」

( ・∀・)「うーん、どうかな。まぁ大体は合ってるのかな」

('A`)「ほらな。あーあ、此処まで来て死んじまったのかよ、だっせーな俺……
    何でも出来そうな気がする! とかカッコいい事言っといて死亡かよ……」

( ・∀・)「ははははは」

('A`)「うざっ、久々に聞いたら改めてウザいんですけどその笑い声」

( ・∀・)「……。何か君、随分と態度がデカくなったな。死者は敬うべき存在じゃないか?」

('A`)「え、でも俺も死者側だし」

( ・∀・)「違う違う、仮死状態みたいなものだよ。これは君の頭の中で繰り広げられてる夢みたいなものさ」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:04:35.14 ID:ee5lWl33O
耳がぴくんと動く。

('A`)「……ん。仮死状態? だったら俺生きてんの」

( ・∀・)「一応ね」

('A`)「うし、んじゃあ帰る」

(;・∀・)「もう暫くは目覚めないぞ君。何をそんなに焦ってるんだ」

('A`)「何をってあーたガチンコの最中だったんだからそら焦りますよ、早く起きなきゃ……」

( ・∀・)「安心しろ、あいつは逝ったよ。ギコと……えーと、プーンだったかな? 彼らのおかげで」

('A`)「何!? そ、そうか、何とかなったのか……良かった……。
    あ、あとブーンな」

( ・∀・)「君らは良くやってくれたよ、私としてもあれ以上苦しむモナーを見るのは心苦しかった所だ。
      ……ようやく、あいつも楽になれたのかもしれんな」

懐かしむように瞳を伏せるモララーの言葉に、ふと違和感を覚える。

('A`)「……。待てよ。何か、おかしいな。
    俺の夢の中なのに、何で俺が知らない事をあんたが知ってるんだ?」

( ・∀・)「君は無意識の可能性をまだまだ軽んじているようだな。ん、それとも何か?
      僕が幽霊で、実際に君の夢枕に立っているとでも思いたいのかい?」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:06:17.61 ID:ee5lWl33O
モララーはおちょくったような口調で語りながら、塀の上に飛び乗る。
生前、屑鉄広場を拠点にしていた頃の彼の定位置だった。

('A`)「……まあ、何でも良いさ。ただでさえ違和感有りまくりなんだ、
    あんた程度いてもいなくても大差無いわ」

( ・∀・)「ははは、それなりには言うようになったな。嬉しいよ」

('A`)(何かマジで生き返ってきたみたいにうぜぇ……)

( ・∀・)「心の中で呟いても無駄だぞ、顔に出てる」

('A`)(クソうぜぇ……)

( ・∀・)「しかし、何だな。意外だよ」

不意にモララーは声のトーンを落とし、空を見上げる。

('A`)「?」

つられて視線を上げる。
俺の夢の中だという、この空間に広がる空。
先ほどまで雲一つ無い青空だったはずだが、今は一面雲に覆われていた。

( ・∀・)「うん、何ていうか。君がここまで生に執着してたとは思わなんだ」

('A`)「……ビビりですからね、あんたと違って」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:08:16.13 ID:ee5lWl33O
( ・∀・)「なあ、こうして出くわしたんだ。最後に聞かせてくれよ、君が見出した結論を」

モララーはそのいやに澄んだ切れ長の瞳を、真っ直ぐこちらに突き付けてくる。

('A`)「結論って、何の?」

( ・∀・)「とぼけないでくれ。僕が君に語った事、君自身が体験した事、感じた事。
      色々とあるだろう?」

('A`)「…………」

( ・∀・)「果たして僕ら野良の存在に、君の生涯に、意味はあったか?」
( ・∀・)「……君は。猫に生まれて、幸せだったか?」

('A`)「……」

俺は元来、相手の心情を読み取るとかそういった真似が得意じゃない。そういうのはショボンの専売特許だ。

……だが、不思議な事に今、目の前にいるモララーのそれは、
うっすらと感じ取る事ができた。

いつもの軽い口調だったが、明らかに何かが違う。
興味と期待、そして──恐怖、だろうか。

('A`)(……?)

恐怖って何でだよ。
何を怖がる必要がある、というかモララーが恐怖してるとこなんか生前一度も見た事無いぞ。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:10:28.05 ID:ee5lWl33O
( ・∀・)「さあ」

('A`)「…………」


よく分からん。
よく分からんが、そうだな。話してみるか。他に話せる相手も居ないし。
俺の中でようやく整理がついた物を、
他でもないこの雄に。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:13:14.58 ID:ee5lWl33O
※    ※    ※

川⊆⊇)『……は? 恋人?』

川 ゚ -゚)『親切な人がな、届けてくれたんだ。この携帯、お前のだろう』

川⊆⊇)『!』

川 ゚ -゚)『片腕の無い黒猫に見覚えはないか? そいつな、うちのなんだ』

川⊆⊇)『……、ちっ』

川⊆⊇)『そんな携帯知らないけど? もういいだろ、どけよ』

川 ゚ -゚)『……。違うだろう』

川⊆⊇)『……』

川 ゚ -゚)『そういう物じゃないだろう、お前が手にしてる物は。分かっているのか? お前がしている事は──』

川⊆⊇)『うッざい。だから何? 関係ないだろ? さっさと帰れよ』

川 ゚ -゚)『……』

川⊆⊇)『結局何? 何が言いたいの? お前に何か言える権利あるの?』

川 ゚ -゚)『……』



18 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [>16気分なんでどっちでも] 投稿日: 2009/06/30(火) 20:16:16.00 ID:ee5lWl33O
川 ゚ -゚)『残念だよ。……お願いします』

川⊆⊇)『?』

( ФωФ)『どうも、こんばんは。警察です』

川⊆⊇)『!?』

( ФωФ)『うん、まあ話は大体聞いてるし……こっちで調べもついてるから。行こうか』

川⊆⊇)『ちょ、な……離ッ……返せ!!』

( ФωФ)『……ああ、こりゃあもう多分駄目だね。君、これ普通に犯罪だからね』

川⊆⊇)『はぁ? いや返せってだから』

( ФωФ)『はいはい、じゃあ続きはあっちで聞こうか。盛岡くん、頼む』

(´・_ゝ・`)『あ、はい。行きましょうか……』

川⊆⊇)『──ぐッ! くそっ!』

川 ゚ -゚)『……』



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:18:28.91 ID:ee5lWl33O
( ФωФ)『……ご協力、有難う御座います』

川 ゚ -゚)『いえ。こちらこそ無理を言って……時間をとらせてすみません』

( ФωФ)『恐らく今回の件以外にも、余罪が出て来ると思われます。ご家族の方には心苦しいでしょうが』

川 ゚ -゚)『構いません、お願いします。罰は与えてあげて下さい』

( ФωФ)『……では、改めてご協力感謝します。
       共犯の男もこちらで捜査します、危険ですので夜間の外出は控えて下さい』

川 ゚ -゚)『はい。重ね重ね、有難う御座いました』

( ФωФ)『失礼します』



川 ゚ -゚)『──…………』

川 ゚ -゚)『クロ助……』



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:20:04.10 ID:ee5lWl33O
※    ※    ※

lw´‐ _‐ノv『あんだーうんだーさーたーあんだぎー』

▼ーェー▼「…………」

lw´‐ _‐ノv『はんぎゃらうーばーすてらっちー、こんとらこんとらべんたらー』

▼ーェ・▼「…………なあ、何やってんだよ」

lw´‐ _‐ノv『見て分からんのか。呪いの儀式だ』

▼ーェー▼「クソッ、何で聞いたんだ俺触ったら負けだってのにクソッ、クソッ」

今、神社の床下はあちこちから集まった猫共で溢れかえっている。
周りの猫達を怖がらせてはいけないと、俺は半ば強制的に室内に上がらされていたのだが、
部屋の中ではこの妙な女が妙な儀式とやらをずっと行っていた。
いい加減寝たい。

lw´‐ _‐ノv ハートヲミーガクッキャナイ!キレイニミーガクッキャナイ!

Σ▼・ェ・▼ビクッ

lw´‐ _‐ノv】『はい、もしもし』

lw´‐ _‐ノv】『大丈夫ですよー。……あ、そうですか……はい、分かりました。
       いえ、こちらこそ助かりました、わざわざ有難う御座います』

▼・ェ・▼(何だ電話かって、普通に会話してるじゃねえかこいつ……絶対突っ込まねえけど……)



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:23:43.72 ID:ee5lWl33O
lw´‐ _‐ノv】『はい、はい、それでは……』
lw´‐ _‐ノv『ふう……』

▼・ェ・▼「おい女」

lw´‐ _‐ノv『スパニッシュ』

▼・ェ・▼「今の電話は何だったんだ。こんな時間だ、例の連中の事なんだろ?」

lw´‐ _‐ノv『禁則事項ですけど誰にも言わないと約束するなら教えてやらん事もない』

▼・ェ・▼「約束するから言え」

lw´‐ _‐ノvゞ『変態さんの女さんがとっつかまったのは貴方の心です!』

▼・ェ・▼「つーことは片割れの糞野郎はまだ捕まってねぇって事か」

ひとつ、鼻を鳴らす。
同居はしていなかったのだろうか。
まぁいずれにせよ、片方が捕まってしまったのなら流石にこれ以上暴れるような真似はしないだろう。

lw´‐ _‐ノv『……彼の心は完全に喰われているのよモルダー。もう、重さに耐え切れていない』

▼・ェ・▼「ああ?」

lw´‐ _‐ノv『私達に罰は与えられない、彼らでなければ』

▼・ェ・▼「……ちっ」

▼・ェ・▼俺は突っ込まねえぞ」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:25:41.42 ID:ee5lWl33O
lw´‐ _‐ノv『ジョンのいけずぅ』

▼・ェ・▼「足で腹触んなうぜぇ」

足から逃れるように腰を上げ、縁側の方へと進む。

▼・ェ・▼「おい、戸開けろ」

床下にはドクオのとこのウザい面の猫も居たはずだ。
寝てるかもしれんが、叩き起こしてでも伝えておく必要があるだろう。

lw´‐ _‐ノv『何よ、張り切っちゃって……私は置いてきぼりなの?』

▼・ェ・▼「そりゃあそうだ」

猫共はここを雌や子供達の避難所にするつもりらしい。
東区のグループをまとめ、ゴーグルの出没地点を絞り込もうという魂胆だろう。
この妙な女の後ろ盾が無ければここに集める意味が無い。
周囲に人気の無いこの神社は、むしろいい狩り場と化してしまう。

▼・ェ・▼(……つっても、間に合わない可能性の方が高いが)

猫同士の『統率の取れた行動』などたかが知れている。
各々縄張りを放り出す事に躊躇いもあるだろう。数日かかっても終わるかどうか怪しい。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:27:55.15 ID:ee5lWl33O
▼・ェ・▼「…………」

lw´‐ _‐ノv『行くのかい、ボーイ?』

ぼけっと突っ立っていたら、いつの間にやら女が傍らに立っていた。
考え込んでたとはいえ犬の俺相手に気配を感づかれないって、こいつマジで何者なんだよ。

lw´‐ _‐ノv『アナタはどうして戦うの?』

▼・ェ・▼「いきなり何だ。いやお前の言う事いつもいきなりだけど」

lw´‐ _‐ノv『死に場所を探してるの? なんなの? 死ぬの?』

▼・ェ・▼「おおっとぉ、これまたいきなり」

脳天気に核心を突いてくる女だ。
つくづくやりづらい。
人間と会話なんて事をやってる時点で色々とやりづらいけど。

lw´‐ _‐ノv『アナタの命、アナタがどう使おうと自由よ。死ぬなとは言わない。でも、まぁ何だ。生きろ』

▼・ェ・▼「どっちだよ」

\lw´‐ _‐ノv/『人生五十年。まだまだこれからだ』

▼・ェ・▼「うぜぇ死ね」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:30:30.38 ID:ee5lWl33O
舌打ちを隠しもせず、吐き捨てる。

▼・ェ・▼「心配してくれんでも、んな大層な事考えちゃいねェよ」

ようやく楽になれたと思っていたのに、どっかの人間に助けられたばかりなのだ。
そういう気分も萎えてしまった。

▼ーェー▼「お前も、あの雌も、あのガキも、あの豚も、あの黒いのも、あの黒ブチも、全員揃いも揃ってうざってえ……が」

▼・ェ・▼「あのゴーグル共は別格だ。アレみたいなのは何かこー、すげームカつく物を思い出すんだよ」

生き延びてしまえば話は別だ。
女が捕まってしまったのなら、男の方だけでもやられた分やり返したって問題ないだろう。

lw´‐ _‐ノv『そうか』

女は静かに目を伏せて、胸の前で十字を切る。

lw´‐ _‐ノv『アナタに、神の御加護があらん事を』

▼・ェ・▼「……。とりあえず戸を開けろ」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:33:06.54 ID:ee5lWl33O
※    ※    ※

('A`)「とりあえず。大体の結論は、あんたと一緒なのかもしれません」

( ・∀・)「ほう?」

('A`)「あんたが死んで、西区はあんたの言った通りになりました。混乱の後、モナーが強引に纏め上げたのは意外でしたが」

( ・∀・)「……」

('A`)「沢山死にました。車にはねられて、飢えて、病気で、餌の奪い合いで、怪我で、人間に殺されて。そりゃあもう、沢山死にました」

脳裏に蘇る、様々な顔。
名前も知らない者から、割と親しくしてくれた者まで。
こうして振り返ると、こんな自分でも思ったより大勢と関わっていたことが分かった。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:35:43.22 ID:ee5lWl33O
('A`)「怖かったですよ。まるで予言みたいに、あんたの言った通りになっていくのは。
    あんまり怖いもんだから西区から逃げ出しちゃいましたし」

( ・∀・)「そうか」

('A`)「俺も、あんたみたいに死ぬんだって。怯えてる内に間抜けな罠に引っ掛かっちまいましたし」

腕を掲げる。じゃらりと鎖の音が鳴る。
いつの間にか錆び付いたトラバサミが、右肘の辺りにがっちり噛み付いていた。

('A`)「コレ引きずりながら思ったんすよ。俺も、このままあんたが言ったように死ぬんだと。
    あんたの言ってた事は何一つ間違ってなかったって、その時は確かにそう思ってたんです」

( ・∀・)「……」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:37:02.25 ID:ee5lWl33O
('A`)「だけどまあ、変な女のおかげでこうして運良く生き長らえましてね。
    ちょっとだけ考えが変わったんですよ」

( ・∀・)「……つまり?」

視線を横に滑らせる。
路地の向こうに、馴染みのある黒ブチの猫と、小さな銀色の子猫の姿が見えた。

('A`)「あんたは無意味に死んだんじゃない。絶望の内に死んでいったんだとしても、ただの惨めな死骸なんかじゃなかったんだ」

( ・∀・)「何故だ?」

間髪入れず問うてくるモララーの瞳は、更に鋭く尖っている。
躊躇することなく、俺は口を開いた。

('A`)「だって、あんたには──」
('A`)「俺が。俺達がいたじゃないか」

( ・∀・)「…………」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:38:48.19 ID:ee5lWl33O
('A`)「あんたが俺達を、どう思っていたのは分からない。けど──結果として、あんたは俺達に色んな物を遺していったじゃないか」

( ・∀・)「……」

('A`)「俺も……同じく。何か遺したりとかそういうのとは無縁だと思ってたんだが、そうでもなかったんだなと」

( ・∀・)「だが、私が遺したという君もじきに死ぬ。君が遺したものも、いずれはな」

('A`)「そりゃそうだ。まぁでもほら、結局のところ虚しいかどうかなんてこまけぇこたぁいいんだよってな話で」

('A`)「どうなったところで、新しい野良はどんどん出てくる。野良ってのは人間が馬鹿やった証、それなら──」

('A`)「連中と野良がもっとマシな付き合い方出来るようになるまで、足掻き続けなきゃならなのかな、って。
    そしたら、いつかはあんたみたいに悩まなきゃいけない奴も居なくなるかもしれない」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:41:24.07 ID:ee5lWl33O
( ・∀・)「……希望的観測が過ぎるぞ。奴らが僕たちの為に変わってくれるだと?」

('A`)「いつかはそんな風にもなるかもしれん、そうなると良いよなあ、みたいな。
    いずれにせよ、今は本気で……そう思ってるんだ」

( ・∀・)「…………」

('A`)「そんな訳で、質問の答え。野良にも俺の生涯とやらにも、意味はあんじゃねえの?
    猫に生まれてどうだったかなんて猫以外経験した事ねーから分からんけど、多分俺はこれでも幸せ者なんだよね」

痒いのでぼりぼりと首を掻く。
右手は無くなっていたので左手で。
雑な答え方だが、紛れもない本心だ。本当はこんな面倒臭い事、猫が考えたところで仕方がないのだろうが。
結局気紛れに猫らしくとはいかないのだろう。
この雄も、俺も。

( ・∀・)「……なるほど、よく分かったよ」

モララーは一度頷き、音も無く塀から降りた。
俺の前に立つと、髭を左右に揺らす。

( ・∀・)「老いたな、ドクオ」

('A`)「うわおばっさりー」



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:43:29.12 ID:ee5lWl33O
('A`)「まぁあんたが俺に言いくるめられるとは思ってなかったけど……」

モララーも俺も、言っている事は同じだ。
単にサイコロの目が一か、六かの違いだけ。そんな事は分かっていた。

( ・∀・)「だが、なかなか面白い話を聞けたよ。君の話をこんなに聞いたのは初めてかもしれんな」

('A`)「……そうだね」

気づけば、からからに舌が乾いていた。
随分と喋ったような気がする。
本当はもっと、こいつとは生きてる時に話をするべきだったんだろうが。

( ・∀・)「良い男になったな、ドクオ。同じ猫とは思えん。むしろ君は本当にドクオか?」

('A`)「誉めてるのかけなしてるのか分からん」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:45:43.07 ID:ee5lWl33O
('A`)「……ああ、いや。どうなんだろ。確かにそうかも」

( ・∀・)「?」

('A`)「あんたの知ってるドクオってのは死んだのかもしれん。この、右手と一緒に」

やせ細った右腕に視線を落とす。
幸せ者と言ったが、事実自分は幸運だったのだろう。
今はそう思えていた。

( ・∀・)「ほう……では、君は? 今僕の目の前にいる、君は一体誰なんだ?」

モララーは、ニヤリと笑っていた。分かっていて聞いている、そう言わんばかりの面だ。

('A`)「……」

ドクオと呼ばれた黒猫は、トラバサミを腕に挟んだまま、
道路の片隅で雨に打たれながら失意の内にその生涯を終えた。

ならば、俺は誰なのだろう。
決まっている。


('A`)「俺は」

('A`)「俺の名前は──」



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:48:08.55 ID:ee5lWl33O
( ・∀・)「──……そうか」

モララーは彼に似つかわしくない、いやに穏やかな笑みを浮かべた。
何故か、その顔は一抹の寂しさすら感じさせた。

('A`)「あの……」

('A`)「!」

言いかけたその時、景色に異変が生じる。
広場が、空が、少しずつ歪んで掠れていく。
テレビの電波が少しずつ弱くなっていくように、屑鉄広場が色あせ、崩れていく。
砂嵐に飲み込まれていく。

( ・∀・ 「ちょうど良いな。時間だ」

モララーの姿も同じく。
景色と混ざり、不鮮明になっていく。
俺だけを残して、目の前の全てが消え失せようとしていた。

( ・∀ 「もう、会う事も無いだろう。君に聞きたい事も無くなったからね」

('A`)「……。じゃあ、せっかくだし。最後にもひとつ言っときます」

モララーの姿は周りと混じり合い、もはや顔の原型すら確認が困難になっていた。
その歪んだ姿に、言い放つ。



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:50:37.30 ID:ee5lWl33O
('A`)「今まで有難う、モララー。それと……ごめんな。あんたらの力になれなくて」

  ・∀  「……」

もう、西区を一匹でうろついていたガキの頃の事はほとんど思い出せない。
物心ついてすぐにこいつらに拾われ、こいつらの下で育った。
だと言うのに、俺はこの雄達も救えなかった。
ろくな恩返しもしてやれなかった。

  ・∀  「……」

  ・∀  「ははははははは。思い上がるなよ、未熟者が」

('A`)「……。サーセン」

   ∀  「……やはりドクオだな。例えお前がドクオじゃなくなっても、僕にとっては相変わらずドクオだ」

('A`)「……」

   ∀  「今まで話に付き合ってくれた礼だ、馬鹿げた事を言ってやろう。馬鹿げてるから聞き流せ」



世界が白に染まる。
全ての感覚が消えていく。
希薄になっていく意識の中、確かに、彼の最後の言葉を聞いた。



      「ドクオ。死ぬなよ」



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:53:37.30 ID:ee5lWl33O
( A )「…………」
( A )「……」
('A`)「……」
('A`)「あて、て、て……背中痛い痛い」

(メ,,メ゚Дナ)「おう、生きてたか」

('A`)「おはよう」

目をしぱしぱさせる。動く度、背中に激痛が走る。折れてないだけマシなのだろうが。
そんな事よりかなり暗い。かなり臭い。
セメントの床と、目の前には尋常ではない汚さの川。

('A`)「何この川。いや、下水か」

(メ,,メ゚Дナ)「ご名答、下水道だ。川んとこのデカい排水溝から中に潜り込んだ。くせぇが、しばらく身を隠すには悪くない場所だ」

('A`)「……」

近場で流石兄弟とブーンが仲良く川の字になって寝ていた。

('A`)「お前一番ヤバいだろ。寝ろよ」
(メ,,メ゚Дナ)「交代で、さっきまで寝てた。慣れてない分、こいつらのが疲れてんだろ」
('A`)「ああ、そう……無理すんなよ」
(メ,,メ゚Дナ)「ああ」

('A`)「……」
(メ,,メ゚Дナ)「……」
('A`)「……」
(メ,,メ゚Дナ)「……」



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:55:44.02 ID:ee5lWl33O
(メ,,メ゚Дナ)「「なあ」」('A`)

(メ,,メ゚Дナ)「……俺から言ってもいいか?」

('A`)「ドゾー」

(メ,,メ゚Дナ)「小僧から聞いた。ショボンは死んだのか」

('A`)「……うん」

(メ,,メ゚Дナ)「……あの馬鹿が。……奴から聞いたんだが、お前も死ぬのか?」

('A`)「そのうちね」

(メ,,メ゚Дナ)「……。そうか」

('A`)「俺の番、いい?」

(メ,,メ゚Дナ)「ああ」

('A`)「モナーは、どうした? どうなった?」



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:57:08.22 ID:ee5lWl33O
(メ,,メ゚Дナ)「死んだ。車にはねられてな。まぁ俺が殺したようなもんだ」

('A`)「そっか……」

(メ,,メ゚Дナ)「どいつもこいつも、逝っちまうな」

('A`)「そうだな、仕方ないやね。世代交代もあるしね」

(メ,,メ゚Дナ)「何故、俺を助けにきた?」

('A`)「……え、それ聞くの? お前死んだら困るからだろ、当たり前じゃん」

(メ,,メ゚Дナ)「……」

('A`)「まだ、お前に代えられる大物は出て来てない。そこにいる馬鹿は、まだまだ幼い。お前の力が必要なんだよ。
    お前には酷なのかもしれんが」

(メ,,メ゚Дナ)「……」



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/30(火) 20:58:40.35 ID:ee5lWl33O
('A`)「それと、だ」

('A`)「お前の理想、何だかんだで嫌いじゃないのよね。頑張って欲しいのよ」

(メ,,メ゚Дナ)「……ちっ。お前のそういう他力本願なとこが嫌いなんだよ」

('∀`)「フヒヒwwwしぃちゃんと子供さん大事にしてねwwwwww」

(メ,,メ゚Дナ)「さっさと寝ろ、二匹起きてても無駄だ」

('A`)「え、いや俺今起きたばっかだし寝れん。お前が寝ろ」

(メ,,メ゚Дナ)「…………分かった」

(メ,,メ Дナ)「適当な頃合いになったら起こせよ」

('A`)「おう。……あ、夢にモララーとか出るかもよ」

(メ,,メ Дナ)「馬鹿な事言うんじゃねえよ」

('A`)「いやいやマジに。俺さっきまで夢の中でモララーとダベってたもん色々」

(メ,,メ Дナ)「何て言ってたんだよ」

('A`)「死ぬなよって言ってた」

(メ,,メ Дナ)「なにそれこわい」


第二十四話 終



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