川 ゚ -゚)クーは生き続けるようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 13:57:49.34 ID:Plvp84cP0
在り得ないなど、在り得ない
だから私に自由を与えよ。 しからずば死を与えよ
川 ゚ -゚)クーは生き続けるようです
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 13:59:48.59 ID:Plvp84cP0
- 第一話 『切断』
闇色。
シン、という音が聞こえそうな深い色だ。
何処を見渡しても同じ色で、自分の身体さえも判別出来ない。
ここは何処だ。
身体の感覚がない。
自分は何をしている。
そもそも自分など存在しているのか。
問えているということは、自分がいる証拠だ。
様々な疑問が浮かび、そしてそのお陰で自分が存在することを確信する。
しかし自分は居るだけで、在るわけではない。
現にこうして身体の感覚も――
……いや、微かだがある。
身体の輪郭というか、触覚では解らない微弱な感覚。
そして気付くわけだ。
右腕に、恐ろしいほどの違和感があることに。
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:01:27.09 ID:Plvp84cP0
- 自分のモノであって、しかし違うような不気味な感覚。
そして湧き上がる不安感。
「――ッ!」
声が聞こえた。
瞬間、それを合図としたかのように暗闇の世界が一瞬で割れる。
続いて五感が徐々に感覚を取り戻していった。
そしてようやく気付くわけだ。
――あぁ、全て夢だったんだ、と。
( ,,-Д-)「むぅ……ん」
酷く頭が痛む。
その鼓動といえる響きが、段々と思考をクリアにしていく。
背中の感触が冷たい。
そして周囲の空気も冷たい。
ついでに言えば、汗にまみれた身体も冷たい。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:03:20.19 ID:Plvp84cP0
- 頭痛と冷気が脳を刺激したらしく、真っ白に染まっていた過去が浮かび上がってきた。
( ,,゚Д゚)「あ」
何処に倒れているのかを、ようやく思い出す。
のっそりと上半身を起こして周囲を見た。
そこは見慣れた景色といえる、道場だった。
必要なモノ以外は排除されており、ある種の東洋的な神秘ささえ感じさせる空間だ。
何本かの竹刀や木刀、そして蛇のような字が描かれてる掛け軸が見える。
「やっと起きたかッ」
女性の声。
凛々しく、しかし優しいような楽しそうな響き。
その声をスイッチとして、少年はようやく自分の身に何が起きたのかを思い出した。
(;,,゚Д゚)「えーっと……確かヒー姉が俺の頭をバシーンだっけ?」
ノハ#゚听)「その通りだ、ギコッ。
何を考えていたのかは知らないけど、お前は時々隙だらけになるぞッ」
視線の先、竹刀を握った姉が仁王立ちで立っていた。
長髪が美しく揺れ、その凛々しい表情と道着が恐ろしくマッチしている。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:04:57.50 ID:Plvp84cP0
- ノハ#゚听)「最近は、体捌きもなかなか様になっているようだけど……やっぱりまだ甘いなッ」
( ,,゚Д゚)「具体的にkwsk」
ノハ#゚听)「気合が足りんッ!」
(;,,゚Д゚)「うん、解った……自分で何とか頑張る」
ギコと呼ばれた少年は額から流れる汗を軽く拭い
(;,,゚Д゚)「うわ、すげぇ汗……ヒー姉の一撃は身の毛も弥立つからなぁ」
ノハ#゚听)「だったら防御するか回避するかしたらどうだッ」
『無茶だろ』と思うも口にはしない。
あの姉には、反論など説教の燃料に過ぎないのだ。
喉元まで出かかった言葉を無理矢理に飲み込む。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:07:32.17 ID:Plvp84cP0
- ノハ#゚听)「そういえば何やらうなされてたみたいだけど、悪い夢でも見たのかッ?」
( ,,゚Д゚)「いや、悪夢じゃなくて正夢っていうの? たまに見るんだよなぁ。
今回は右腕に違和感があったけど……」
ノハ#゚听)「病院逝くかッ?」
( ,,゚Д゚)「ノーサンキュー」
首を振って立ち上がる。
たまに見る予知夢のようなもの。
もはや慣れたもので、既に内容なんか忘却の彼方だ。
とはいえ、そんなに重要かつ確実な未来を見るわけではない。
昔こそ怖がっていたが、その肝心の未来は大したことないことが圧倒的に多かったので
今では全然気にしていない、というわけだ。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:09:23.77 ID:Plvp84cP0
- ノハ#゚听)「んッ、こんな時間かッ」
タオルで汗を拭いていたヒートが、足元に置いてある携帯電話を覗いて呟いた。
追うようにギコも自分の携帯を見る。
『06:29』と表示されていた。
(;,,゚Д゚)「もう六時半かよ。 俺どんだけ寝てたんだよ」
ノハ#゚听)「そろそろ切り上げようッ。
今日の朝食当番はお前だったなッ。
シャワーは私が先に使わせてもらうぞッ」
言うや否や竹刀を壁に掛け、そのまま出て行ってしまった。
それを見送った後、ギコはそのまま仰向けに倒れる。
(;,,゚Д゚)「あー……疲れた」
今まで行っていたのは朝稽古だ。
朝五時に起き、家の隣にあるこの簡素な道場で一時間ほど打ち合う、という単純なもの。
随分と昔から続けているが、今になってもなかなか体は慣れることがない。
――疲れの色をあまり見せない姉は、やはり半端ないな。
毎日のように思っていることを、ギコはまた無意識に思ってしまった。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:11:37.90 ID:Plvp84cP0
- シャワーを浴び、朝食を姉と共に終え、ギコは自室に戻ってきていた。
見た感じ、決して狭くはない洋風の部屋だ。
現在時刻七時半。
目的地まで、自転車で三十分ほど掛かる。
そろそろ出発の準備をしなければならない。
( ,,゚Д゚)「さて、と」
壁に掛かったそれに視線を向ける。
少しくたびれたブレザーだ。
紺色を基調とし、銀色の校章が左胸部で光っている。
その下には、やはりくたびれた感じの学生用バッグ。
( ,,゚Д゚)「今日で一年生が終わり、か……」
軽い溜息を吐く。
「おーいッ、そろそろ出るぞッ」
ドア越しに姉の声が聞こえた。
( ,,゚Д゚)「あいよー」
少しネクタイが変だが、姉を待たせるわけにもいかない。
足元の学生用バッグを肩に掛け、机の上に置いた携帯音楽機器をポケットに入れて部屋を出た。
直後、部屋の外で待っていたヒートに文句を言われつつ
歪んだネクタイを直されたのは言うまでもない。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:13:34.51 ID:Plvp84cP0
- 朝の日差しが心地よい。
春を目の前に控えた、暖かい風が吹いている。
ギコとヒートの住む家は大きい。
『家』というよりも、『洋館』と言った方がしっくりくるだろう。
二階建てで庭も広く、二人で住むには少し大きすぎる感もあった。
ちなみに洋館の隣にある似合わない道場は、ヒートの趣味で建てたものである。
玄関の鍵を閉め、二人は自転車にまたがった。
ギコは鞄をカゴに放り込み、イヤホンを耳に装着する。
ヒートも鞄をカゴに放り込み、竹刀用バッグを背負った。
ノハ#゚听)「少し遅れているなッ、急ごうッ」
( ,,゚Д゚)「何で?」
ノハ#゚听)「生徒会長の仕事というのは意外と多いんだッ。
特に今日は終業式だから、色々と準備することもあるのさッ」
そういえば忘れていた。
二年生であるヒートは、これから向かう学園の『生徒会長』という役職に就いていたのだ。
いつも色々と忙しそうにしていたことを思い出す。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:15:48.77 ID:Plvp84cP0
- ( ,,゚Д゚)「把握した」
ノハ#゚听)「よし、行くぞッ」
まだ冬の色が残る空気を身に浴びつつ、二人の姉弟が出発する。
途中で音楽機器の再生スイッチを押すのを忘れない。
心地よいリズムで音楽が流れてきた。
まず見えてきたのは住宅街。
少し下りになっている道を真っ直ぐ行くと、大きな公園にぶつかる。
と、その時だ。
( ,,゚Д゚)「?」
視界の端に見かけない存在が映ったような気がした。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:17:38.04 ID:Plvp84cP0
- 黒色を基調とした、おそらくは人影だろう。
妙にヒラヒラした服を着ているせいなのか、それは視界の端にいながらも存在感は大きい。
ノハ#゚听)「どうしたッ?」
(;,,゚Д゚)「え? あ、あぁ……いや、何でもない」
普段なら何とも思わないはずなのだが、ギコはどうしても今の存在が気になった。
道を戻ってまで確認したい衝動に駆られる。
しかし、姉に文句を言われるのも嫌なので無理矢理に無視した。
公園内を横断するように走っていくと、周囲の景色が変わり始めた。
主に住宅だったのが自然の緑へと変わり始める。
ここも下り道になっており、そのまま緩いカーブを走ると大きな交差点へ。
右折すれば学校。
左折すれば商店街。
直進すれば海へと出る。
今日は学校へ向かうために右折だ。
チラホラと見えてきた生徒の間を縫って、二人は自転車を走らせた。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:20:05.42 ID:Plvp84cP0
- その高校の名は『北神学園』といった。
卒業生のほとんどが進学する教育校で、なかなかに人気のある学校の一つ。
入るのに割と苦労したが、その努力に見合う良い学校だった。
大きな校門をくぐる。
脇にある駐輪場に自転車を置き
ノハ#゚听)「私は終業式の準備があるから行ってくるぞッ。
今日で一年が終わりだからって、気を抜くなよッ」
( ,,゚Д゚)「おk」
ノハ#゚听)「あ、それとッ」
校舎の方へ歩き出したヒートが、足を止めて
ノハ#゚听)「今日は帰りが遅くなるから先に帰ってていいぞッ。
夕飯はお前に任せたッ」
( ,,゚Д゚)「了解ー」
背筋を伸ばして颯爽と歩いて行った姉を見送り、ギコは鞄を手に取った。
イヤホンを外して内ポケットへ。
少し背伸びして
( ,,゚Д゚)「うっし、行きますか」
昇降口へと歩き出した。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:21:59.30 ID:Plvp84cP0
- 何時の時代も、終業式のような儀式はつまらないものだ。
退屈で静かな空間に響く、やはり退屈な声。
数々の生徒と同じように、ギコもまた睡魔に襲われていた。
(´・_ゝ・`)『――であるからして、次学年の目標を今の内に――』
( ,,゚Д゚)(人の良さそうな顔してんだけどなぁ……)
壇上で語る学園長へ視線を向けて溜息を吐く。
のっぺりした顔ではあるが、不快感は感じない良い表情をしている。
しかし残念というか、そのスピーチの量は時間にして三十分を超えていた。
(´・_ゝ・`)『はい、というわけで……私からの話は以上です』
( ,,゚Д゚)(次は何だー、もう教室に帰らせろー)
心の中でブーイングを送る。
と、学園長に代わって、ある人物が壇上へと上がった。
生徒会長であり、姉であるヒートだ。
ノハ#゚听)『おはようッ! 諸君ッ!!』
(;,,゚Д゚)(諸君はねぇだろ、諸君は……いや、ありなのか?)
ノハ#゚听)『今日も元気にッ! 来年度も元気にッ! 以上ッ!!』
( ,,゚Д゚)b(GJ! 流石だヒー姉! たぶん面倒くさいだけなんだろうな!)
こうして、妙な爽快感を残して終業式が終わった。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:25:33.14 ID:Plvp84cP0
- 体育館を出て教室へ帰る途中、背後から声をかけられた。
ここ半年で随分と聞き慣れた声だ。
( ・∀・)「いやぁ、君の姉の挨拶はいつも素晴らしいな」
同じクラスのモララー。
ギコよりも少し背が高く、眼鏡を掛けている。
容貌どおりの秀才であり、運動も出来る優等生だ。
ただしこの学校の正式な生徒ではない。
違う都市から、ある目的で一時的な転校をしてきている。
詳しいことは知らないが、二年に上がる前には元の学校へ戻ると言っていた。
つまり、学校で会うのは今日で最後となるのだ。
( ・∀・)「あの儚い言葉の中に彼女の魂が凝縮されているわけだな。
僕は感動した……来年度からは違う学校になるが、今年もまた頑張ろうと」
( ,,゚Д゚)「そんな深くは考えてないと思うけどなぁ」
モララーはヒートに惚れていた。
理想の高い彼が惚れていることを勘案すれば、ヒートがどれほどの高スペックかは想像に難しくない。
容姿端麗、成績優秀、豪快大胆と、何処のエロゲのヒロインかというレベルなのである。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:28:39.91 ID:Plvp84cP0
- この二人は夏休み以来の友人同士である。
一方的にモララーの方から話しかけられて、それ以来の仲だ。
教室へ戻る。
席に座ったモララーが、ふと感慨深げに溜息を吐いた。
( ・∀・)「この光景も今日で最後か」
( ,,゚Д゚)「いつ向こうに帰るんだ?」
( ・∀・)「春休みの終盤だ。 最後の調整がまだ必要だからな」
モララーが、わざわざこちらの学校に転校してきた理由。
それはこの地にいる師匠に武術を習うためだった。
( ・∀・)『師は面倒臭がり屋でな……そのため、わざわざ僕が転校することになったわけだ』
とか言っていた記憶がある。
どんな武術で、どんな師で、モララーが家がどんな家柄なのかは知らないし
それに関して聞き出すようなこともしなかった。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:31:19.44 ID:Plvp84cP0
- ただ一つ、聞きなれないワードを発していたことは憶えている。
もちろん聞き出すようなことはしなかったが、今でも気になっていると言えば気になっていたりする。
( ,,゚Д゚)「しかしまぁ、由緒ある家だか何だか知らんが
わざわざ修行のために転校たぁ、大変だよなぁ」
( ・∀・)「いや、別にそうでもないさ。 ギコという親友が出来たからな」
(;,,゚Д゚)「バ、バカ、そんなこと口に出すもんじゃねぇよ」
( ・∀・)「そうかな?
あ、ところで今日の放課後は空いてるか?」
( ,,゚Д゚)「午前放課だしな、空いてるぞ」
( ・∀・)「よし、今日が最後だろうし……午後は一緒に過ごそうじゃないか。
まだついていない決着もあるしな」
( ,,゚Д゚)「いいぜ、いつものゲーセンだな。
今日こそは完勝してやる」
( ・∀・)「こちらの台詞だ」
ふふ、と不敵に笑うモララー。
会えるのも残り一ヶ月無いというのに、この男は気負った様子を見せない。
それが彼の強い部分の表れなのだろう、とギコは勝手に思っていた。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:33:02.10 ID:Plvp84cP0
- ( ,,゚Д゚)「ふぅ、すっかり遅くなっちまった」
陽が落ちた午後六時半。
藍色に染まった道路を自転車で走る。
ついつい白熱し過ぎて、小遣いの大半を消費してしまった。
――まぁ、楽しかったから良いが。
ヒートから『帰っているぞッ』というメールは無いので、まだ学園に残っているのだろう。
さっさと帰って、夕食の支度をせねば。
交差点へ出る。
左折すれば海、真っ直ぐ行けば学園、右折すれば家の方角だ。
丁度良く信号が青だったので、右へ体重を――
( ,,゚Д゚)「?」
その直前に、あることに気付く。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:34:42.45 ID:Plvp84cP0
- 聞きなれない音。
ガ行を基本とした、鋭い音が微かに聞こえた。
工事現場の騒音に近いと言えば近いのだが、それにしても散発的すぎる。
( ,,゚Д゚)「……何だ?」
自転車を止め、その音の方角へ視線を向けた。
ここからでは何も確認することが出来ないが、相変わらず音だけは鳴り響いている。
この先は海と倉庫街だ。
時間的に考えて、あまりまともな人間がいるとは思えない。
何か起きているのだろうか。
( ,,゚Д゚)「…………」
嫌な予感がする。
止めろ、行くな、と本能が危険信号を発していた。
そうだ。
ここで行くのは馬鹿がすることだ。
興味本位で首を突っ込んで、後悔しなかった試しなどほとんど無い。
( ,,゚Д゚)「……帰ろう」
うん、と首を立てに振る。
まるでそこから逃げ出すようにギコは右折した。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:36:26.80 ID:Plvp84cP0
- おかしい。
おかしい。
おかしい。
これは絶対におかしい。
(;,,゚Д゚)(どうなって……!?)
確かに右折した。
海とは逆の、自分の家の方角を目指しているはず。
少しつらい坂を上りきり、後は住宅街を走れば家に着く。
何も間違ってはいない。
なら、何故。
何故。
(;,,゚Д゚)「何で聞こえるんだよ……!」
あの音。
ガ行を基本とした、聞いていて不安になる不快な音。
あの時、確かに海の方角から鳴り響いていた音。
それが、今尚走り続けるギコの耳に届いていた。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:38:34.00 ID:Plvp84cP0
- (;,,゚Д゚)「ハァ、ハァ……おかしいだろ、常識的に考えて……!」
全速力で走っているため、既に息切れ状態だ。
身体も足も、疲労のせいかダルさを感じる。
それでもペダルを漕ぐのは止めない。
恐怖。
悪寒。
そういった、第六感ともいえる感覚が身体を動かしていた。
正面、公園が視界に入る。
ここまで来れば、ほとんど家まで距離がない。
安心出来る距離だ。
そのはずなのに。
何故、こんなにも、心臓に歯を立てられたかのように、
(;,,゚Д゚)「……!?」
視線の先。
公園の中央。
そこに人影が二つ。
周辺住宅の人だろう。
夕食前の散歩をしているのだろう。
そうだったら、もしそうだったら――どれほど良かったか。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:41:05.34 ID:Plvp84cP0
- (*゚∀゚)「――――」
片方は女。
藍色の女性用のスーツを着た、小柄な女性だ。
川 ゚ -゚)「――――」
片方も女。
黒を基調としたドレスのような服を着込んだ女性だ。
たったそれだけならば、『何か変人がいる』という風に見過ごすことも出来た。
しかし二人が行っている動きが普通ではない。
(;,,゚Д゚)「なっ……」
二つの影は動いていた。
地面でぶつかり、跳び、そしてまた空中でぶつかる。
それはギコの知る限りでは、『戦闘』と呼ばれる非現実的な行為だった。
小柄な女性の手には、ナイフをそのまま大きくしたような曲刀が二本。
黒服の女性の手には、やはり黒を基調とした大きな何か――棺桶のような物体だ。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:42:32.79 ID:Plvp84cP0
- あまりに現実的でない光景に、ギコの身体が止まってしまう。
ありえない。
普通、銃だろ。
何でこんな時代に、剣や棺桶を持って戦う人間がいるんだ。
キ、という甲高い音が連鎖する。
火花が散り、しかしそれよりも速く人影が動く。
姉との訓練で慣らしている目で見ても、それは常識外の速さだった。
まだ二人はこちらに気付いてはいない。
おそらく、目の前にいる敵を倒すことに集中しているのだろう。
――逃げられる。
そうだ、ボーッとしている場合ではない。
ここで自分が首を突っ込んだって、どうなる問題でもない。
常識内に生きる自分が、あの非常識な世界に入って何が出来る。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:44:18.05 ID:Plvp84cP0
- さっさと家に帰るべきだ。
何事も無かったかのように、全てを見なかったことにして。
夕食の準備をして姉を迎えて一緒に御飯を食べて少し運動して風呂に入って布団をかぶってそのまま夢の中へと
風が動く。
元から動いていた風が、強く掻き乱されたのだ。
ふと我に返って視線を向ければ
(;,,゚Д゚)「え――」
見えたのは、黒色の服を着た女性がバックステップを開始した瞬間だ。
その背を向けて、こちらに一直線に向かってくる光景。
(*゚∀゚)「逃がすカ!」
小柄な女性が吠え、両腕を背後へ振りかざした。
その反動を利用して、二本の曲刀を投擲する。
途端、目前まで迫っていた女性が地面に足をついた。
しかし止まらない。
地を打ち抜くかのように踏みつけ、身体の軌道を横へ変更したのだ。
つまり
剣を投げた女性からすれば
敵が回避した向こうに、ギコが突如として出現したことになる。
こちらに気付かなかったが故に、だ。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:46:03.89 ID:Plvp84cP0
- (*;゚∀゚)「え? 嘘!?」
女性が驚く。
自分と敵の二人以外はいないと思っていたのだから当然だ。
ただ、それだけに留まらない。
驚きの色が一瞬で変わる。
理由として、その投げた曲刀が真っ直ぐにギコの下へ――
(;,,゚Д゚)「!?」
どう見ても直撃コースだ。
慌てて射線上から身体を退避させようとする。
が、動かない。
あまりに緊張したせいなのか、脳から伝達された『動け』の命令を
身体が瞬間的に受け付けなかったのだ。
いや、そもそも
(;,,゚Д゚)「あ……」
そもそも、この時点で身体が動いても間に合わない速度だった。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:47:59.97 ID:Plvp84cP0
- 身体の右側を押される感覚が全身に走った。。
右足が一歩下がり、何事かと目を見開く。
次の瞬間、視界の真ん中を何かが通っていった。
(;,,゚Д゚)「え」
それは腕だった。
男のモノなのだろうか、筋肉が程よくついた腕だ。
妙に綺麗な切断面から血を噴き出しながら、眼前で回転していく。
そして
ビキ、と
(;,,゚Д゚)「――はがっ!?」
全身の毛が逆立つ。
続いて圧倒的な不快感が全身を走りぬけ、右腕全体が刃で削られたかのように――
――いや、もはや、右腕など、無くなtt
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:49:55.15 ID:Plvp84cP0
- (;,, Д )「うわああああああああ!?!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
耐えるだとか耐えられないだとかいうレベルではなく暴力的なまでに荒れ狂う痛
何だこれは痛いだとかそういうものじゃなくて痺れるようでしかし違うような更には
みに支配された身体は動かず息さえも出来ない故に全身の筋肉が弛緩しその分
腕に心臓と痛覚が合わさったモノがくっつけられたようで鼓動と共に死ぬ程の痛み
だけ神経に注ぐ意識が肥大化して痛みは頭の中で鳴り響きそれが元となって連鎖
みがジクジクとビキビキと痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛
するように大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大
て痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛
きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大きく大き
(;,, Д )「が――あっぁ――ぁ!?!?」
全身の力が抜ける。
膝を折り、そのまま地面に伏した。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:51:25.34 ID:Plvp84cP0
- 口が塞がらず、漏れ出た涎が地面を濡らす。
ドク、ドク、と心臓が波打つ度に切断面から鮮血が噴き出す。
そのリズムと同じく、身体が痙攣を起こしてビクビクと跳ねた。
ありえない。
ありえないと、信じたかった。
自分は、ほんの、数分前まで、普通の、世界に、居た、はず、なの、に――
( ,, Д )「――ぁ――っぁ――」
音を立てて壊れる意思。
あまりの激痛に耐え切れず、無意識的にシャットダウンしかけているのだ。
そして遂に、ブチ、という何かが引き千切れる音と共に視界が黒に染まった。
それでも頭の中に響くのは音。
ガ行を基本とした、あの不快な音。
意識が焼き切れるまで、それは頭の何処かで響いたままだった。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:52:49.79 ID:Plvp84cP0
- (*;゚∀゚)「あっちゃー……やっちったネ」
ブーメランのように戻ってきた剣をキャッチし、女は呟いた。
無論ではあるが、その刀身に血がこびり付いている。
川 ゚ -゚)「…………」
地面に着地した女も、倒れたギコの方を見ていた。
そして同じように呟く。
川 ゚ -゚)「……死んだのか?」
(*;゚∀゚)「へ?」
川 ゚ -゚)「……生きてるのか?」
(*゚∀゚)「さァ、運が良ければ生きてるヨ……って、そりゃ生き地獄カ」
川 ゚ -゚)「…………」
(*;゚∀゚)「それにしてもヤバいネ……。
一般人殺したなんて、渋澤さんに何て言えばいいヨ……」
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:54:09.81 ID:Plvp84cP0
- と、そこで女の懐から音楽が鳴った。
軽快な音を響かせるのは黒色の携帯。
(*゚∀゚)「あいあい、もすもす。
え? あー、あいあい、了解しましたネー」
懐から出した携帯を、逆回しのような動作でしまう。
そしてもう一人の女の方を見やりながら
(*゚∀゚)「今日はここまでで勘弁してやるネ。
アンタの戦闘データは取れたから……次は捕まえてやるヨ」
直後、猫を思わせる俊敏な動作で闇へと消えていった。
後に残されたのは一人の女と一人の男。
女は棺桶のような物体を背負いつつ
川 ゚ -゚)「……生きてるのか?」
と、首を傾げてギコへ問いを放った。
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:55:32.52 ID:Plvp84cP0
- 闇色。
シン、という音が聞こえそうな深い色だ。
何処を見渡しても同じ色で、自分の身体さえも判別出来ない。
ここは何処だ。
身体の感覚がない。
自分は何をしている。
そもそも自分など存在しているのか。
問えているということは、自分がいる証拠だ。
様々な疑問が浮かび、そしてそのお陰で自分が存在することを確信する。
しかし自分は居るだけで、在るわけではない。
現にこうして身体の感覚も――
……いや、微かだがある。
身体の輪郭というか、触覚では解らない微弱な感覚。
そして気付くわけだ。
右腕に、恐ろしいほどの違和感があることに。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:57:06.15 ID:Plvp84cP0
- ( ,,-Д゚)「……?」
目を開く。
開けたということは、身体が存在しているということだ。
その事実に安心しつつ、視界に収めた景色の分析に掛かる。
見えたのは天井。
電灯が見えるが、電気は通っていないようだ。
しかし明るいところを見るに、時間的にどうやら朝か昼らしい。
視線を動かすと違うものが見える。
それはよく見知った顔であり、自分の大切なただ一人の肉親。
ノハ#;凵G)「お、起きたかッ!!」
( ,,゚Д゚)「……ヒー姉?」
ノハ#;凵G)「何やってたんだよッ、馬鹿ッ!!」
わー、と泣きながら抱きつかれる。
(;,,゚Д゚)「く、苦しい……何で、何が……」
ノハ#;凵G)「死んだかと思ったじゃないかッ! 心配させるなッ!!」
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:58:16.72 ID:Plvp84cP0
- 死んだと思った?
どうして?
自分はいつも通り起きただけで――
(;,,゚Д゚)「ッ!!?」
ドクン、と心臓が弾けるように高鳴った。
あの記憶が蘇り、全身から滝のような汗が流れ始める。
右腕を失った、地獄のような、激痛の中で、もがき苦しんだ、あの――
ノハ#;゚听)「えッ? えッ? ギコッ? どうしたのッ?」
(;,,゚Д゚)「いや、えっと……」
恐る恐る、と。
震える左腕で、右腕があるべき部分を撫でた。
微かな希望を持って。
在っていてほしい、と。
あの出来事が夢であってほしい、と。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 14:59:44.52 ID:Plvp84cP0
- ( ,,゚Д゚)「……ぁ」
在る。
ちゃんと触ることが出来る。
人特有の温もりがあって、人特有の柔らかさがあって。
そこにはしっかりと『右腕』が存在していた。
ノハ#;゚听)「ど、どうしたのッ? やっぱり痛むのッ?」
やっぱり?
(;,,゚Д゚)「え? どういう――」
「目覚めましたか」
疑問を閉ざすように声が割り込んだ。
続いて扉を開く音がして、誰かが部屋の中に入り込んだことを悟り
そして同時に、今更ながらここが自分の部屋だと気付いた。
川 ゚ -゚)「大丈夫ですか?」
それは女性。
あの時、あの公園で、あの女と戦っていた――
(;,,゚Д゚)「え? えぇ!?」
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 15:01:06.97 ID:Plvp84cP0
- ノハ#゚听)「この人はクーさんって言ってねッ。
倒れてたギコを、この家まで運んでくれたんだよッ」
川 ゚ -゚)「礼には及びません。 人を助けるのは当然のことですから」
(;,,゚Д゚)「あ、あぁ……そうだったんスか……ありが――」
そこまで言って口が止まる。
待て。
ちょっと待て。
おかしくはないか。
自分の右腕は確かにある。
つまり、あの出来事は夢だったはずだ。
なのに何故、その夢に出てきた女が目の前にいる?
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/07(木) 15:04:24.68 ID:Plvp84cP0
- ( ,,゚Д゚)「あ……」
気付いた。
いや、気付いてしまった。
目の前の、恩人となっている女性の右腕が――
(;,,゚Д゚)「ってことは……!?」
慌てて起き上がる。
自分の右腕を包んでいる袖を捲くりあげ、そして確認した。
『?』を浮かべる女性を余所に、ギコは絶望の表情を浮かべる。
そこにあったのは腕だった。
しかし、ギコの腕ではなかった。
それは、どう見ても、どう穿った見方をしても――
――――女性の右腕だった。
――――――――――――――――― To be Continued ――――
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