川 ゚ -゚)クーは生き続けるようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:24:40.59 ID:lRz+A5xn0
第三話 『裏側』

ノハ#゚听)「何処行ってたのーッ!!」

玄関のドアを開いた瞬間、怒声がぶつかってきた。

(;,,゚Д゚)「あ、いや、えと……」

ここまで怒る姉も珍しい。
どうやらかなり心配していたようだ。

現在時刻八時半。
家を飛び出して、中国風な女を撃退して、彼女を連れて帰るまで一時間半。

遊び盛りの高校生の帰宅時間として、別に珍しくない時間帯ではあるが
やはり出て行き方がまずかったらしい。

ノハ#゚听)「本当に心配したんだからねッ!!」

(;,,゚Д゚)「本当にごめんなさいです」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:30:19.81 ID:lRz+A5xn0
ノハ#゚听)「いやッ、今日という今日は御飯抜きで――」

川 ゚ -゚)「待って下さい」

怯えるギコの背後から、クーが出てきた。

川 ゚ -゚)「私が勝手に出て行ったから悪いんです。
     ギコ君は私を心配して、外まで迎えに来てくれたんです」

ノハ#゚听)「へッ?」

川 ゚ -゚)「本当にすいません……。
     地理が解らなくて、迷子になっていたところをギコ君が見つけてくれて……」

( ,,゚Д゚)(よくもまぁ)

嘘は良くないが、とりあえずここは彼女に任せてみる。

ノハ#゚听)「っていうことは、ギコは貴女を見つけるためにッ?」

川 ゚ -゚)「だから私が悪いんです」

すいません、と深く頭を下げた。

ノハ#;゚听)「あッ、いやッ、えと……どうもですッ!」

戸惑ったかと思えば、ヒートも頭を下げ返す。
どうやら自分の思っていた出来事と違った事実を聞かされ、少し混乱しているらしい。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:32:10.46 ID:lRz+A5xn0
( ,,゚Д゚)「ってか、腹が空いた件について」

ノハ#゚听)「あッ、ごめんごめんッ! すぐ暖めるから待っててッ!」

慌ててリビングへ駆け込む姉。
夕食抜きとか言っておいて、実はしっかりと準備済みだったのが微笑ましい。

( ,,゚Д゚)「……クーさん、頭上げていいよ」

川 ゚ -゚)「……何とかなったみたいですね」

( ,,゚Д゚)「嘘吐くのは良くないけど場合が場合だしな。
     一応礼を言っておく。
     それと――」

川 ゚ -゚)「?」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:34:59.55 ID:lRz+A5xn0
( ,,゚Д゚)「姉にはともかくとして、俺に敬語を使うのはやめてほしい。
     何かむず痒いし……グラウンドの時のアンタがアンタらしいと思う」

川 ゚ -゚)「……そうか?」

( ,,゚Д゚)「ま、アンタが言い易い方でいいか。
     それより飯までもう少し掛かるみたいだし、シャワーでも浴びて来いよ」

そこでギコはクーの服装を見る。
黒色のドレスは相変わらず綺麗なのだが、所々が裂けている上に血液まで付着している。
中国風の女性との戦闘で無茶した結果の傷だ。

( ,,゚Д゚)「着替えも必要っぽいな。
     風呂出るまでに準備しておくから、まずは一直線に風呂場へGO」

ぴっ、と廊下の奥を指差す。
その様子が可笑しかったのか、クーは目を細め

川 ゚ -゚)「……あぁ、ありがとう」

と呟いた。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:39:09.21 ID:lRz+A5xn0
ノハ#゚听)「……おぉッ」

( ,,゚Д゚)「へぇ……」

暖め終わった夕食をテーブルに並べ、クーを出迎えた二人。
彼女のドレスの代わりとして、ヒートの持っている服を貸してあげたのだが

川 ゚ -゚)「何か変ですか?」

ノハ#;゚听)「い、いや、似合うなってッ……」

元々、顔は美人でスタイルも良い。
長い黒髪と、貸した服がひどくマッチしていた。

( ,,゚Д゚)「ドレスも良かったけど、普通の服も合うんだなぁ」

ノハ#゚听)「うんうんッ! すごいいい感じだよッ!」

よく解らない、といった感じでクーは首を傾げる。
その視線がチラチラと夕食へ向けられていることから、随分と腹が減っているらしい。

( ,,゚Д゚)「よし、飯食おうぜ」

ノハ#゚听)「いっただっきまーすッ」

川 ゚ -゚)「頂きます」

( ,,゚Д゚)(ヒー姉、俺達が帰ってくるまで待っててくれたのか……)

嬉しそうに御飯をかき込む姉を見て、ギコは心の中で感謝した。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:42:41.88 ID:lRz+A5xn0
夕食が終わる。
御腹一杯食べた後の倦怠感を無視して、ギコは自室へと戻った。
もちろんクーを連れて、色々な疑問を解消しようと質問をするためだ。

( ,,゚Д゚)「さて、と」

ベッドに座るクーを見て、話を切り出そうとするも

(;,,゚Д゚)「……何を聞けばいいんだ」

川 ゚ -゚)「いや、私に問われても」

色々と聞きたいことはある。
ただ、それを聞いても良いものなのかが解らない。
あまり情報を整理し切れていない、というのもあるのだろうが。

(;,,゚Д゚)「えーっと、じゃあ……」

とりあえず右手を差し出し

( ,,゚Д゚)「この腕は、結局どういうことなんだ?」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:44:32.14 ID:lRz+A5xn0
川 ゚ -゚)「どういう、とは?」

( ,,゚Д゚)「えーっと……これは誰の腕なんだ?」

川 ゚ -゚)「私のだが」

(;,,゚Д゚)「だよなぁ」

聞きたいのはそこではない。
少し考え

( ,,゚Д゚)「じゃあ、何でアンタの腕が俺にくっついたんだ?
     くっつけるにしても、ちゃんとした医療知識がないと無理な気がするけど」

川 ゚ -゚)「私は不死だと言ったな?」

( ,,゚Д゚)「あぁ……死なないって聞いた」

川 ゚ -゚)「この身に受けた傷は自動的に修復されてしまう。
     これは、自己治癒能力が異常に高い、とも言い換えられるわけだ」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:46:58.08 ID:lRz+A5xn0
皮膚だろうが骨だろうが内臓だろうが何だろうが
傷を付けられても元に戻るのだという。

ただし、あくまで『修復』であって『再生』ではないらしい。
例えば身体の一部を無くしてしまうと、傷は塞がるが新たに生えてくることはない、ということだ。

川 ゚ -゚)「しかし強制的なものでな……その速度や有無を私の意思で調整することが出来ない。
     まぁ、今回はそれが幸運したわけだが」

( ,,゚Д゚)「つまり、その治癒力を利用して……俺の腕とした?」

川 ゚ -゚)「普通ならば拒絶反応が起きても不思議ではなかったが。
     まぁ、私の身体の質が常識外だったというわけだ」

(;,,゚Д゚)「何か引っ掛かるが無視するぞ。 で、これを外すとどうなるんだ?」

川 ゚ -゚)「もちろん切断面から出血が再開される……現状、蓋をしているようなものだからな。
     外した私の腕は、切断面の修復が行われる」

( ,,゚Д゚)「で、それをアンタの右腕にくっつければ――」

川 ゚ -゚)「あぁ、元通りにくっつくぞ」

( ,,゚Д゚)「成程な……元に戻そうとすれば、すぐに戻るのか」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:49:03.64 ID:lRz+A5xn0
川 ゚ -゚)「だがその際、お前の方の痛みが凄まじいだろうな。
     何せもう一度腕を切断されるようなものなのだから」

その言葉を聞いて思い出す、
あの夜、突如として切り落とされた腕の痛みを。

(;,,゚Д゚)「麻酔とか使えば……」

川 ゚ -゚)「私の身体は、言った通り特別だ。
     その私の一部を持っているお前の身体に、麻酔がちゃんと効くかどうかは解らない」

外すことは出来るが、その痛みをしっかりと受ける。
それを聞いて、ギコは安心したような不安なような溜息を吐いた。

(;,,゚Д゚)「……まぁ、この話は保留にしておこう。
     今はちょっと考えたくない」

川 ゚ -゚)「別に考える必要はないのだが……その腕はあげる、と私が言っている」

( ,,゚Д゚)「いや、それだけは駄目だ。
     これはアンタのモノなんだから、アンタの右腕に戻す必要がある」

川 ゚ -゚)「よく解らん」

首を傾げているところを見ると、本当に解っていないようだ。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:50:33.03 ID:lRz+A5xn0
少しズレたモノの考え方をするんだな、とギコは思う。
特に自分の身体に対する執着が見受けられない。
彼女は不死なのだから、こちらの考えと異なるのは当然なわけなのだが。

( ,,゚Д゚)「んじゃ、この問題は後回しにして次の質問だ。
     アンタに襲い掛かっていたあの女は何者なんだ?」

語尾からして中国の方っぽい、曲刀を二本携えた女性。
武器の扱い方からして、どうしても同じ世界に生きる人間とは思えない。

川 ゚ -゚)「彼女――いや、彼女達は『術式連合』から派遣された術師だ」

(;,,゚Д゚)「達? 術式連合? 術師?」

川 ゚ -゚)「この世界には術式という……まぁ、いわば魔法のようなモノを行使する技術がある」

(;,,゚Д゚)「ほぇあ?」

不死の次は魔法。
最初のインパクトが大きかったので、何とか驚きを耐えることが出来た。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:52:15.21 ID:lRz+A5xn0
川 ゚ -゚)「術式には種類がある。
     西洋の『魔術』、日本の『気術』、東洋の『方術』の三つだ。
     使い手は『術師』と呼ばれ、しかし表に出ることはほとんど無い。
     それぞれがコミュニティを持っていて、互いにあまり干渉し合わない関係だった」

(;,,゚Д゚)「えーっと、勝手に話しちゃっていいよ、もう。
     で、それはどうやって使えるようになるんだ? やっぱ修行?」

川 ゚ -゚)「扱える術式は、両親の素質によって異なる。
     気術の素質を持つ親の子は、気術の素質を受け継ぐことになる」

( ,,゚Д゚)「ってことは、この国の術師って奴のほとんどは『気術』を使えるってワケか。
     でも遺伝だから俺みたいなのには使えない、と」

川 ゚ -゚)「あぁ、そうだ。
     両親ともに素質が無いと、子に受け継がせることは出来ん」

まぁそこは関係ない、と言い

川 ゚ -゚)「話がズレたな。
     で、それぞれの術式を扱う術師達は昔から争ってきたんだ」

( ,,゚Д゚)「何で?」

川 ゚ -゚)「プライドというモノだろう。
     どの時代にもあるだろう? どれが最強なのかと争うのだ」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:54:42.86 ID:lRz+A5xn0
( ,,゚Д゚)(術式、ねぇ……そういや何か聞いたことがあるような。
     あれは誰から聞いたんだっけ……?)

川 ゚ -゚)「ギコ、聞いているか? 続けるぞ」

しかし、ある時代を境に彼らは争いを止めることとなる。
それどころか手を組んでしまった。

川 ゚ -゚)「争っていた勢力同士が手を組む……どういう意味か解るか?」

( ,,゚Д゚)「そういうのはよく解んねぇけど、共通の敵が出てきたからか?」

川 ゚ -゚)「あぁ、そうだ」

それは化物だった。
いや、『それ』のせいで化物が現われた、と言った方が正しい。

元々は霊体のような存在で、それぞれが固有の能力を有しており
生物・物質・物体にとり憑くことによって行動を開始するという、摩訶不思議な存在が出現したのだ。

その代償としてかは解らぬが、取り付かれた生物・物体は、その固有能力を扱うことが出来るようになるらしい。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:57:45.23 ID:lRz+A5xn0
結局、二十一もの数が確認された異常生物・物体は、いつしか『二十一種』と呼ばれるようになった。
軽く例を挙げると

bO4『命切』という二十一種は『シュー』という女剣士にとり憑き、殺戮の限りを尽くした。
名の通り、ある条件下において『命を切る』という行為を確実に成功させる能力の持ち主だったらしい。

bO9『ザンヌ』という二十一種は『城』にとり憑いて移動要塞と化し、街や都市を蹂躙したと言う。
『限定王』という能力の持ち主で、限定空間に存在する全ての物質や人間を使役することが出来たらしい。

bP8『ブロスティーク=エザンカ=ミゾーク』という二十一種は、『武器』にとり憑いて使用者を待ち続けた。
『強奪模倣』という能力を有し、殺した相手の力を模倣することが出来たらしい。

(;,,゚Д゚)「おいおい、そんなモンが世界各地に現われたってのか……?
     でも、俺はそんな化物がいたなんて始めて知ったぞ」

川 ゚ -゚)「昔の話だしな。 それに短期間で、そのほとんどが打ち滅ぼされたのも理由の一つか」

いわゆる歴史に載らない戦いだったというわけだ。
と、そこでギコは気付く。

( ,,゚Д゚)「……でもその連合ってのは、まだ続いてるんだよな。 それっておかしくねぇか?」

川 ゚ -゚)「別におかしいことではない。
     まだ、その二十一種全てが滅んだわけではないのだから」

(;,,゚Д゚)「何処かに隠れてるってわけか……物騒だな」

川 ゚ -゚)「二十一いた存在も、残すところ三種となっているらしいがな」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 14:59:49.44 ID:lRz+A5xn0
ギコは頭の中で、ここまでの話を要約する。

つまり二十一種が現われたから、術式連合という組織が作られた。
そしてあの中国風の女は、連合から派遣された術師だということで――

(;,,゚Д゚)「……二十一種って化物を倒す奴らが、何でクーを狙ってんだ?」

口に出し、そして理解する。
答えを言う前にクーが喋ってしまった。




川 ゚ -゚)「私が、二十一種の内の一種だからだ」







23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:01:32.31 ID:lRz+A5xn0
カチコチ、と壁の時計が音を放つ。
しばらくの間、ギコは言葉を発せずにいた。

(;,,゚Д゚)「……え?」

川 ゚ -゚)「厳密に言えば私という個は人間。
     ただし二十一種にとり憑かれた存在だ。
     bP7『NNN』、能力は不死処理……というわけで、私は不死者なのだ」

(;,,゚Д゚)「寄生されてるようなもんか……?」

川 ゚ -゚)「一体化していると言った方が近いかもしれん。
     経緯は面倒だから省くが、とにかく私と二十一種が合体している状態だ」

(;,,゚Д゚)「ちょっと待て、それはいつの話なんだ?」

川 ゚ -゚)「随分と長い年月で忘れてしまったが……少なくとも二百年以上前だな」

二百年。
途方も無い時間だ。
たかだか十七年しか生きていない自分に、その苦労や気持ちが解るわけがない。
ギコはその事に関して、とりあえず軽々と口にしないようにしようと心に決めた。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:03:36.10 ID:lRz+A5xn0
(;,,゚Д゚)「二百年もアイツらから逃げ続けてたのかよ……」

川 ゚ -゚)「?」

(;,,゚Д゚)「いや、アイツらは二十一種を倒すために組んでるんだろ?
     だったらアンタは二百年も逃げ続けてたってことに――」

川 ゚ -゚)「いや、襲われ始めたのは最近なのだが」

(;,,゚Д゚)「へ?」

川 ゚ -゚)「言ったろう? 私は不死処理の能力を持つ、と。
     殺す方法がないから、ずっと襲われることはなかった。
     監視はされていたようだが」

確かにそうだ。
殺せないのなら、戦いを仕掛ける意味が無い。
当時は他の攻撃的な二十一種が暴れていたこともあり、彼女はおそらく後回しにされていたのだ。

(;,,゚Д゚)「で、最近追われ始めたってことは……」

川 ゚ -゚)「おそらく私を『殺す方法』を手に入れたのだろうな」

( ,,゚Д゚)「だったら、出会い頭に初っ端から使えばいいはずだろ。
     それをしないってことは、奴らの持つ『殺す方法』ってのは場所限定なのか……?」

川 ゚ -゚)「だろうな。 でないと私を捕まえる意味がない」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:06:00.57 ID:lRz+A5xn0
何となく話が見えてきた。
彼女は残る二十一種の内の一種で、不死処理の能力を手に入れた。
そして術式連合は彼女の消滅を望んでいる。

今までは、彼女の持つ不死再生のせいで手を出せなかったが
最近になって『殺す方法』を手に入れたため、彼女の捕縛へと乗り出したのだ。

川 ゚ -゚)「現状はそんなところだろうな」

(;,,゚Д゚)「世界の裏を知った気分だ……」

川 ゚ -゚)「どの世界にも必ず表があり、そして裏もあるものだ。
     もちろんお前自身にもな」

(;,,゚Д゚)「……そういうもんかなぁ」

彼女の目を見ることが出来ない。
どうにも見透かされそうな、そういった不安感を得てしまう。
伊達に二百年以上も生きていないらしい。

川 ゚ -゚)「さて、これで満足したか? 理解したか?
     お前が片足を突っ込んでいる世界は、とてもお前の手でどうにかなる世界ではないことを」

( ,,゚Д゚)「さっさと足を抜けってことか」

川 ゚ -゚)「まだ引き返せる。
     術式連合も、出来る限りは一般人を巻き込むようなことは絶対にしない。
     先ほど話した内容を口外しないと誓えば……いや、言いふらしても口封じされるだけだろうが
     とにかく、今なら日常へ戻ることが出来るだろう」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:07:48.60 ID:lRz+A5xn0
魅力的な選択肢だった。
ある程度の事情を聞いて、その上で自己判断を下せる。
この理不尽な社会の中、ここまで自由を与えられるのも珍しい。

どうするべきか。
引き返すべきだ。

(;,,゚Д゚)(だよなぁ……)

答えは一瞬で出てしまう。
思えば当然で、考えれば考えるほど正しいと思う。

しかし、一つだけ気がかりがあった。

( ,,゚Д゚)「クー、俺はアンタに腕を返したい」

川;゚ -゚)「またそれか……」

やれやれ、と肩を竦める。

川 ゚ -゚)「いいか、それはもうお前のモノなんだ。
     持ち主である私があげたんだから、お前は素直に受け取るべきだ」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:10:21.63 ID:lRz+A5xn0
( ,,゚Д゚)「だから、そこがおかしいんだって。
     物なら解るけど、自分の身体の一部を人にあげるなんて……」

川 ゚ -゚)「臓物を他人にあげたりするだろう? アレと同じだ」

(;,,゚Д゚)「む……いや、でも」

川 ゚ -゚)「でもも何もない。
     お前が選べるのは、引き返すか否かだけ。
     まぁ、否を選んだとしても何か出来るわけではないがな」

まったくの正論だ。
一般人のギコとしては引き返すしか選択肢は無い。
しかし

(;,,゚Д゚)「……腕」

川;゚ -゚)「き、君は……」

頑固者と言われようとも、分からずやと言われようとも
ギコとしては、起こった事実を他人のモノで埋めることを良しとしなかった。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:12:21.81 ID:lRz+A5xn0
( ,,゚Д゚)「俺の腕はもう無いんだ。
     それは絶対の事実だから、俺はその通りに生きたい」

川 ゚ -゚)「だが、原因を作ったのは私だ。
     それを埋めるのは当然だろう」

(;,,゚Д゚)「だーかーらー、俺は別に腕がなくてもいいんだって」

川;゚ -゚)「良いわけないだろう……常識的に考えて」

( ,,゚Д゚)「それはアンタにも言えることだろう?
     あんな危ない女に狙われてるってのに、片腕がねぇとやりにくいはずだ」

川 ゚ -゚)「私は死なないから大丈夫だぞ」

(;,,゚Д゚)「いや、殺す方法を得たから襲ってくるんだろ……」

互いに断固として譲らない。
話は平行線のまま終わらないのかと思えるほどだ。
さて、どうしたものかと思った時、ギコは根本的なことを思い出した。

( ,,゚Д゚)「あれ……?」

川 ゚ -゚)「どうした」

( ,,゚Д゚)「なぁ、色々と立て続けに起こってスッカリ忘れてたんだけどさ。
     ……俺の右腕って何処行ったんだ?」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:14:10.82 ID:lRz+A5xn0
川;゚ -゚)「え? そ、それは……」

何か気まずそうな雰囲気を醸し出し始めたクー。
先ほどまでと違い、明らかに狼狽している。

( ,,゚Д゚)「まさか公園に落ちたまま?
     でも、そうだったら今頃ニュースとかになっててもおかしくねぇよな……。
     あの後の記憶がねぇから解んねぇ……」

川;゚ -゚)「…………」

( ,,゚Д゚)「あれ? もしかしてクーが持ってたりする?
     ほら、よく(?)あるじゃん。
     切断された指を冷やしておいて、病院行ってくっつけるっての」

川;゚ -゚)「いや、まぁ、その、アレだ、うん、その話は、えー、後々に――」

その時、言葉に被さるように轟音が響いた。
日常では絶対に聞くことの出来ない音で、それを証明するように地面が揺れる。

(;,,゚Д゚)「な、何だぁ!?」

それは元からある物体を力任せに叩き壊す音に等しい。
遠くではなく、かなり近い位置から発せられていた。
嫌な予感が頭を過ぎるも、それを信じたくない自分を自覚する。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:16:03.15 ID:lRz+A5xn0
川;゚ -゚)「しまった……今日は既に撃退したと油断していたか……!」

一目散に部屋を飛び出すクー。
ギコは慌てながらも、何とか冷静になろうと努めつつ後を追った。

廊下には既に異常が出ていた。
パラパラ、という音が静かな空間に響き、濛々と砂煙が立ち込めている。
いきなり非現実的な状況に叩き落とされたギコは

(;,,゚Д゚)「な、何だよこれは!? 」

川 ゚ -゚)「お前はここを動くな! 武器を持ってくる!」

背を向け、客室の方へ駆け出すクー。
それを呆然と見送り、ギコは現状把握のために頭を動かし始めた。

(;,,゚Д゚)(つまり、この家が壊されたってわけか……?)

襲撃される理由は何だ。
どう考えてもクーだろう。
あの中国風の女の仕業かもしれない。

(;,,゚Д゚)(いや、今日はもう諦めたはずだろ)



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:18:06.80 ID:lRz+A5xn0
クーのハッタリは、あの女に確実に効いたはずだ。
そして彼女の頭にはギコが未来予知者だとインプットされたはず。
未来を読む、という敵に対して奇襲など意味がない。
となると

(;,,゚Д゚)(別の奴が来たってことか……?)

しかも家を破壊出来るほどの力を持って、だ。
そこでようやく気付く。

(;,,゚Д゚)「ヒ、ヒー姉は!?」

煙はリビングの方角から発生している。
確かヒートは、まだキッチンで片付けをしていたはず――

思うや否や身体が勝手に動いた。
視界が遮られ、破片を素足で踏みつけ、それでも姉の下へ走る。

とにかく必死だった。
家はともかく、姉を傷付ける奴は絶対に許さない。
何があろうと絶対に護って――

(;,,゚Д゚)「……!?」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:19:51.74 ID:lRz+A5xn0
おそらく、リビングに直撃が来たのだろう。
先ほどまで夕食を楽しんだはずのテーブルが、跡形もなく破壊されていた。

(;,,゚Д゚)「ひっ――」

思わず変な声が出てしまう。
微かに見える煙の向こうに、見覚えのある女性が倒れているのを見つけたのだ。

ノハ#--)「う……」

それは頭から血を流し、苦しそうに伏している姉の姿だった。

(;,,゚Д゚)「うわああああああ!?」

その叫び声がいけなかった。
完全に忘失していたのである。
襲撃した敵が、まだ近くにいるということを。

それは突如として現われた。
煙を掻き分けるように、庭の方角から、破壊された壁を踏み越えつつ。

(;,,゚Д゚)「ッ!?」

(゜∈゜)「…………」

大男。
そうとしか言い様がない、巨躯の持ち主。
ギコの二倍以上はありそうな肉の塊が、突如としてギコの目の前に現われたのだ。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:21:08.40 ID:lRz+A5xn0
(;,,゚Д゚)「な……はっ!?」

何か言葉を吐き出そうとするも上手く声が出ない。
足が勝手に震え出し、呼吸さえも満足に果たせなくなる。

(;,,゚Д゚)「お、お、お前……な、何なんだよ……!?」

(゜∈゜)「…………」

返答は無い。
言葉の代わりとしてか、腕が動いた。
丸太のような、ギコの身体など造作もなく握り潰せそうな腕が迫った。

――殺される。

ギコを殺した後は、当然のようにヒートを狙うだろう。
そして悠々とクーの元へと行く気だ。

(#,,゚Д゚)(ありえねぇ……ヒー姉が殺されるなんてありえねぇ……!)

問答無用、感情無為、迅速排除。
ただ前へ進むのを邪魔する物体を、力任せにどかすようなイメージ。
そこに殺気などあるわけがなく、だからこそ

(#,,゚Д゚)「……てんめぇええええ!!」

ギコは恐怖しなかった。
そして、それが仇となる。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:22:46.19 ID:lRz+A5xn0
(゜∈゜)「――!」

ゴ、という激音が響く。
ただ腕力を用いた薙ぎ払いが、ギコの腹にめり込んだのだ。
肺に溜め込んでいた空気が全て搾り出され、胃の中のモノさえも吐き出してしまう。
身体の内部全てを失ったような錯覚に包まれ、壁へと叩き付けられた。

(;,,-Д゚)「げふっ!?」

痛い。
苦しい。

たった一撃でこの様だ。

頭と腹と背中が痛みを発する。
口と鼻から血と胃液が混ざった粘液が吐き出された。
全身の筋肉が弛緩し、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる。

朝稽古で受けていた姉の一撃など比較にならないほどの暴力だ。
防ぐ防がない関係なく、ただ無理矢理に吹き飛ばされる圧倒的な力。

(メ,,-Д゚)(あ、ありえねぇ……)

突如として舞い降りた非現実に対し、ギコは否定の思いを発する。

しかし無意味、無駄、無価値。
現実は現実として、容赦なくギコの身に牙を剥いた。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:24:24.59 ID:lRz+A5xn0
(゜∈゜)「…………」

こちらを見ていた大男が、ヒートの方へと視線を移す。
身動きが取れないと見たのだろうか、それともより近い方を始末しようと思ったのか。
何にせよ、大男はヒートへとターゲットを変更したのだ。

ノハ#--)「……っ」

大男に比べて随分と華奢な身体が掴まれた。
そのまま持ち上げられる。

(゜∈゜)「…………」

大男の顔が、少しだけギコの方を見た。
それは幻覚だったのか。
解らないが

(メ,,-Д゚)(笑いやがった……だと……!?)

確かに見た。
あの無表情を示す顔の内、口元が微かに吊り上がったのを。
それはこう言っているようにも見えた。

――無力を呪って、姉を殺される様をそこで見ていろ。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:26:13.96 ID:lRz+A5xn0
(メ,,-Д゚)「て……!!」

ノハ#;--)「ギ、ギコ……逃げ……」

直後、大男の腕がヒートの身体を締め上げ始めた。

ノハ#;--)「う、うああぁあ!!?」

(#,,゚Д゚)「てめええええええええぇぇぇ!!!」

痛みなど無視だ。
動かぬのならば動かせば良い。

怪我? 痛み? 苦しみ? 吐き気? 命?

知ったことか。
姉を救えないのならば、この身体など惜しくは無い。

立ち上がる。
身体中が悲鳴を挙げるが完全無視だ。
上手く動かない身体を、勢いのままに前へと押し出す。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:28:03.90 ID:lRz+A5xn0
(#,,゚Д゚)「ゴルァァァァ!!」

叫び、大男の下へと――

「そこまでだ、ギコ」

凛々しい声と共に、女性がギコを抜き去った。
黒い長髪を揺らしつつ、軽く振り向き

川 ゚ -゚)「後は、私に任せろ」

左肩に担った棺桶を構え、クーはそのまま大男へと走った。

(゜∈゜)「!」

反応は早い。
しかし対応が遅い。

ヒートを盾代わりにしようとしたのだろうか、その腕が動く。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:29:19.98 ID:lRz+A5xn0
川 ゚ -゚)「遅い!」

しかし、既に懐へ飛び込んだクーがいた。
棺桶の先を大男の胸元へ押し付け

川 ゚ -゚)「砕けろ!」

重々しい音が響き、大男の身体が吹き飛んだ。
その衝撃で握っていたヒートの身体が放される。

(;,,゚Д゚)「ぬぉぉぉ!!」

それをギコが、何とかダイビングキャッチした。
ズサーッと破片だらけの床を滑り、しかしヒートの身体を傷付かせぬように抱き込んでいる。

川 ゚ -゚)b「ナイスキャッチ」

(;,,゚Д゚)b「ヒー姉は死んでも護るぞゴルァ!」

川 ゚ -゚)「そうだ、お前はお前の大切なモノを護ればいい。
     来る敵は――」

破壊された壁の先、庭の方向へ視線を向ける。
吹き飛ばされたはずの大男が、ゆらりと立ち上がっていた。

川 ゚ -゚)「来る敵は、目の届く限りで私が何とかするさ」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:31:11.09 ID:lRz+A5xn0
(;,,゚Д゚)「で、でもノーダメージっぽいぞ」

川 ゚ -゚)「ふむ……手応えはあったのだがな」

ガシャン、と棺桶を音立てる。
大男へぶつけた底部分に、槍の穂先のような刃が付属していた。

(;,,゚Д゚)「それって……」

川 ゚ -゚)「ん、私の武器だ。
     棺桶を模した『突撃機構槍』……という分類になるのかな。
     少し扱いが面倒だが、使いこなせれば便利だぞ」

笑みを浮かべる。
攻撃が通用しなかったはずなのだが、まったく負ける気はないようだ。
いや、負けることが出来ないと言い換えた方が正しいのかもしれない。

川 ゚ -゚)「あれほどの力を持ちながらも、私に接近の気配を悟らせなかった。
     状況が言っているぞ……貴様も、あの女と同じ術師だとな。
     何とも間抜けな話ではないか? 術式の隠蔽技術が術師の証拠となってしまったとは」

(;,,゚Д゚)(けっこう言うなぁ……)

(゜∈゜)「…………」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/12(火) 15:33:05.91 ID:lRz+A5xn0
大男の動きが止まる。
棺桶を構え、堂々と仁王立ちするクーを見据え

(゜∈゜)「……殺ス」

川 ゚ -゚)「人語を理解出来たのか貴様、意外だな。
     まぁいい、やってみせろ愚鈍」

不敵に笑みを浮かべ

川 ゚ -゚)「今宵の私は少々頭にきている。 覚悟しておけ」

月下。
挑発を皮切りとして、不死と大男の戦いが始まった。







――――――――――――――――― To be Continued ――――



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