川 ゚ -゚)クーは生き続けるようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:30:47.25 ID:/I7JV6380
第七話 『理想』

モララーの下から、クーを連れて家に帰る。

ちなみにクックルによって破壊された家は、実はまだそのままであったりした。
応急処置はしたものの、未だ風通しの良い半壊状態である。

現在は、一時的に家具を奥の部屋に移して暮らすようにしていた。
元々から家が広いので、困るようなことはあっても住めないことはなかったのが幸いだった。

少しコンビニに寄り道したギコ達を、半壊した家で迎えたのは

ノハ#゚听)「おかえりッ」

川;゚ -゚)「!」

(;,,゚Д゚)「ヒ、ヒー姉? 起きてて大丈夫なのかよ?」

頭に包帯を巻いたヒートだった。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:32:23.48 ID:/I7JV6380
一昨日の襲撃時、彼女はクックルの一撃を受けて気絶してしまった。
そのまま今日、ギコがモララーの家に行くまで部屋で眠っていたはずなのだが――

ノハ#゚听)「目が覚めたらスッキリパッチリッ! 調子乗って夕御飯まで作っちゃったッ!」

えへへ、と照れたような笑みを浮かべるヒート。
よくよく意識を家の中へ向ければ、良い匂いが漂ってきているのに気付く。

(;,,゚Д゚)「ってか、『作っちゃったッ』じゃねぇ!
     アンタは怪我人なんだから無茶すんな! 大人しく寝てろ!」

ノハ#゚听)「ひどいなぁッ。 これでも鍛えてるんだよッ」

(;,,゚Д゚)「鍛えてるっつったって身体は人間だろ……無敵にはなれねぇよ」

川 ゚ -゚)「…………」

ノハ#゚听)「まぁまぁ落ちついてッ。 とりあえず御飯食べよッ」

ちなみにヒートには『病院に行ってきた』と話したので、余計な心配はされることはなかった。
(それでも過剰ではあったが、比較的という意味で)



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:34:17.56 ID:/I7JV6380
ヒートの作った夕飯を食べ、自室へ戻ると、

川 ゚ -゚)「……すまん」

と、何故かクーが謝ってきた。

(,,゚Д゚)「いきなりどした?」

川 ゚ -゚)「迷惑をかけてしまった」

再度、ぺこり、と頭を下げるクー。
対してギコは、その様子を見て額に汗を浮かべた。

(;,,゚Д゚)「……いや、何というか……その、困る」

川 ゚ -゚)「困る?」

(,,゚Д゚)「そもそもクーが倒れたのは右腕が無くなったから、ってモララーから聞いたぞ。
     だったら根本的に悪いのは俺だ。 だから気にするなよ」

川 ゚ -゚)「私は、君が私を運んでくれた労力に対して礼を言っているのだが」

(,,゚Д゚)「その労力を発揮しなきゃならなくなった理由は、究極的には俺に起因するだろ?
    お互い様ってやつだ」

川 ゚ -゚)「しかしだな……」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:36:42.03 ID:/I7JV6380
尚も食い下がるクー。
ギコは脳裏でデジャヴを感じつつも、両手を開いて突き出し

(;,,゚Д゚)「ストーップ! この調子でいけば、互いの意見が交わることなんかねぇから止めよう」

川;゚ -゚)「前々から思っていたが、君と私はとことん気が合わないな」

(,,゚Д゚)「いや、クーが頑固なだけだ」

川 ゚ -゚)「む、それはこっちの台詞だ。
     君が私の言うことをちゃんと聞けば良いんだ」

(;,,゚Д゚)「えー、その押し付けを頑固って言うんじゃねぇのかよ」

川 ゚ -゚)「む……かもしれんな。
     さて――」

言い、立ち上がる。
ギコの視線が追う中で、クーは棺桶を模った突撃機構槍を左肩に担い

川 ゚ -゚)ノ「では、世話になったな。 さようなら」

(;,,゚Д゚)「待て、状況クラッシャー」

川 ゚ -゚)「……何か?」

不思議そうに首を傾げる。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:39:25.67 ID:/I7JV6380
(;,,゚Д゚)「いきなり『さようなら』はねぇだろ……常識的に考えて」

川 ゚ -゚)「もう、私がここにいる意味も何もないのでな。
     むしろ留まることによって、術式連合の手が迫ることも解っている。
     ならば私は早々に出て行くべきだ」

(,,゚Д゚)「……!」

ツーの件がある。
クックルの件がある。
モララーの師の家が襲撃された件がある。

つまるところ、クーがいる場所は例外なく危険地帯と化すわけだ。

(,,゚Д゚)「出て行って……どうするんだよ」

川 ゚ -゚)「前からやっていることと変わらん……身を隠して生きていくしかない。
     ただ、これからは一人の男を探すことになるだろうが」

(,,゚Д゚)「ずっとかよ」

ギコが、少し強い調子で言葉を放つ。
それは疑問というよりも、確認の色合いが濃かった。

(,,゚Д゚)「ずっと、ずっとずっとずっと隠れて生きていくのかよ」

川 ゚ -゚)「私は人間の身体を持つが、もはや人間ではない。
     無用な迷惑をかけないためにも人に見つからずに生きていく必要がある」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:41:14.47 ID:/I7JV6380
(#,,゚Д゚)「おかしいだろ、それ……!」

川 ゚ -゚)「え?」

(#,,゚Д゚)「何でクーが隠れなきゃならねぇんだよ!
     全然悪い奴じゃねぇじゃんか! 害なんてまったくねぇじゃんか!」

川 ゚ -゚)「ギコ……」

(#,,゚Д゚)「それに奴らも奴らだ! 何が術式連合だよ……!
     善悪さえロクに知らずに、クーが悪者だと決め付けて殺すのかよ!」

川 ゚ -゚)「……それは違う。
     二十一種という存在は在ってはならないんだ。
     在る時点で、その世界にとって絶対的な毒であり悪なんだよ、ギコ」

(#,,゚Д゚)「だったら――!」

理不尽に対する怒りが止まない。
その点で言えば、ギコの精神はまだまだ子供だと言えるだろう。


(#,,゚Д゚)「なんでクーは生きてんだよ……!!」


そしてだからこそ、怒りに任せて言ってはならないことを吐き出してしまったのだ。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:43:15.89 ID:/I7JV6380
闇があり、冷たい空気が満たされている。
ここは寂れた倉庫街の一角にある建物の内部だ。

そこに三つの影がある。

(*゚∀゚)「…………」

( ゚∋゚)「…………」

二本の曲刀を腰に吊った中国風の女に、人間とは思えないほどの巨躯を持つ大男。
そして
  _、_
( ,_ノ`)「…………」

煙草の臭いを纏わせた長身の男。

三者が垂れ流す空気は異様だ。
真っ当な精神を持つ者であれば、一目散に逃げたくなるだろう。
そこには、単純明快な理屈が一つ横たわっているだけである。


なんてことはない。

ここには、人間でありながら人間から外れかけている者が集っているだけなのだ。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:46:02.94 ID:/I7JV6380
  _、_
( ,_ノ`)「俺も出る」

沈黙を破ったのはこの一言だ。
それを起因として、闇に包まれた空間が動き始める。

(*゚∀゚)「……まさか、それを宣言をするために私達を呼び戻しタ?」
  _、_
( ,_ノ`)「否定出来んわけだが。
    もう少し情報を集めたかったんだが、連合本部から催促があってな」

(*゚∀゚)「催促?」
  _、_
( ,_ノ`)「今まで大規模に暴れたことさえない、比較的おとなしい二十一種の捕縛が遅れてるのが気に入らんらしい。
     まぁ……俺の『実績』から考えても、今回の狩りはちょっとのんびりだからな」

(*゚∀゚)「そかー、渋澤さんは単独で二十一種を倒したことがあるんだっケ?」
  _、_
( ,_ノ`)「やんちゃだった昔の話さ。
     今ではお前らも知っている通り、もうロクに走ることなど出来んがな」

は、と自嘲気味の吐息。
もし息に色があるとするならば、吐かれたそれはきっと力無き灰色に近いものだったのだろう。

しかしその眼光は鋭く、そして一瞬だけ爛々と輝いたのをツーは見逃さなかった。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:47:38.21 ID:/I7JV6380
( ゚∋゚)「…………」

(*゚∀゚)「そうヨ。 渋澤さんの魔術は飛んだり跳ねたりする必要ないネ。
    戦場に立ってるだけで最強ヨ」
  _、_
( ,_ノ`)「それで動き回れれば言うことないんだがな。
     まぁ、無いモノをねだっても仕方ねぇか」

やれやれ、と肩をすくめる。
  _、_
( ,_ノ`)「で、だ……シビレを切らした術式連合が、どうやら援軍を送ってくるらしくてな」

(*゚∀゚)「は?」
  _、_
( ,_ノ`)「これ見てみろ」

懐から取り出されたのは一枚の写真。
画質が悪く、非常に不鮮明ではあるが、そこには二つの人影が映っていた。
  _、_
( ,_ノ`)「誰だか解るか?」

(*゚∀゚)「これは……流石兄弟カ?」

術式連合の中では割と有名な術師である。
ツーも何度か名前を聞いたことがあるし、一度だけだが顔を合わせたこともあった。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:49:05.94 ID:/I7JV6380
冷静沈着な方術師の弟と、それを護るボディガード役の兄のコンビだった。

方術を扱うために地形の影響を最大限に受けるが
条件にハマることが出来れば、最強候補にも挙げられるほどの力を発揮するらしい。
ツーは直接の戦闘はしたことがないが、評判はすこぶる良いと聞いている。

(*゚∀゚)「何でそんな奴が……それに、方術師まで介入してくるのは何故ヨ?
    bP7『NNN』の捕縛は魔術師がやることになってたはずネ」
  _、_
( ,_ノ`)「実を言うと。
    この情報、本来は俺達の耳に入ることはなかったはずの情報なんだ」

( ゚∋゚)「?」
  _、_
( ,_ノ`)「ちょっと独自のルート使ってな。
    どうにも上の動きが気に入らんので別から仕入れてみたんだが……これが釣れたというわけだ」

(*゚∀゚)「ってことは、この方術師の援軍は私達に秘密で行われてたってことカ?」
  _、_
( ,_ノ`)「もはや援軍とは言えんが、気に入らんだろう?
    おそらく上の一部の独断だろうよ」

(*゚∀゚)「えー? 荒巻さんがそんなこと許すかネ?」
  _、_
( ,_ノ`)「いや、荒巻もモナーも関係ないはずだ。
    おそらくは方術代表であるペニサスの差し金……。
    捕縛に時間が掛かるとまずい理由があるのか、それとも手柄を横取りしたいのか」

(*゚∀゚)「そりゃ確かに気に入らんネ」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:54:17.48 ID:/I7JV6380
だろう? と渋澤が頷く。
クックルもまた、二人と同じ意見なのか腕を組んで同意を示した。

(*゚∀゚)「だったらどうするヨ? 先にこの兄弟ぶっ殺すカ?」
  _、_
( ,_ノ`)「おいおい、そんなことしたら俺らが上から抹殺されるぞ。
    非常に魅力的な意見だということは認めてやるがな、これが」

( ゚∋゚)「……先ニヤル」
  _、_
( ,_ノ`)「それだ。 クックル、お前たまに口開いたら良いこと言うよな」

(*゚∀゚)「流石兄弟に獲られる前に獲るってことカ?
    それなら三人同時襲撃が一番手っとり早い気がするヨ」
  _、_
( ,_ノ`)「そのためにお前らを呼び集めたわけだ。
    どうせ電話で伝えても勝手に動きそうだったしな」

(*゚∀゚)「あいやー、渋澤さん頭いいネー」
  _、_
(;,_ノ`)「……いや、お前らが突発的な行動を控えてくれれば、こんな面倒しなくて済むんだが」

もはや諦めたかのような溜息。
そこにあるのは、ただ仲良し三人組の大人が談笑し合っているかのような空気だ。

しかし忘れてはならない。

彼らもまた、二十一種にとり憑かれたモノに対するため、人を超えた力を行使することが出来るのだ、と。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:55:56.95 ID:/I7JV6380
訪れたのは微かな沈黙だった。
一人の少年と、一人の女性が、まるで時を止めたかのように身動きしない。

川 ゚ -゚)「…………」

無表情。
人形に似た瞳が、真っ直ぐにギコの目線をなぞっている。
その冷気と沈黙のおかげか、沸騰していた頭が一気にクールダウンさせられた。

(,,゚Д゚)「……あ」

数呼吸を経て、自分が言ってはならないことを言ってしまったのだと気付く。
動きは直後だった。

川 ゚ -゚)「ギコ」

(;,,゚Д゚)「す、すま――ぐはっ!?」

途切れさせるように衝撃が走る。
クーの左腕から打ち出された拳が、ギコの頬に直撃したのだ。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:58:02.99 ID:/I7JV6380
(#)゚Д゚)「……!?!?」

川 ゚ -゚)「すまん」

言い残し、部屋を出ようとするクー。
数瞬の間だけ唖然としていたギコだが、すぐさま目に意志を取り戻し

(#)゚Д゚)「ちょ、ちょっと待った!」

川 ゚ -゚)「……やり返さなければ気が済まないか?
     しかし、今の殴打が私に出来る唯一の反撃だったよ」

(#)゚Д゚)「違う!」

川 ゚ -゚)「では、何だ」

(#)゚Д゚)「今は夜だろ!」

言葉に、クーは窓の外へと視線を向ける。
そこにあるのは暗闇で、少し位置をズラせば円に近い形の月が浮いているのが見えた。

ギコの言う通り、外は夜である。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 21:59:29.11 ID:/I7JV6380
川 ゚ -゚)「……それが?」

(#)゚Д゚)「夜が危険だってのはクーの方が解ってるはずだ。
     だから、今夜くらいはここで過ごした方がいい」

川 ゚ -゚)「あの大男の襲撃のような危険があるのを忘れたか?」

(#)゚Д゚)「奴ら、表立って暴れるわけにはいかねぇんだろ?
     今近所では、この家の一部が破壊されたっつって注目を浴びてる。
     警察だって周囲にいてもおかしくねぇ……そんな中で襲撃してくるとは思えない」

川 ゚ -゚)「それを掻い潜ってくるのが奴らだ」

(#)゚Д゚)「でも、このまま外に出るよりは安全なはずだろ」

放たれた言葉に反することが出来ない。
目の前で真っ直ぐこちらを見る男は、クーを逃す気などないのだろう。

川 ゚ -゚)「…………」

(#)゚Д゚)「別に他意はねぇぞ。
     クーにとって一番安全そうな意見を出してるだけだ」

川 ゚ -゚)「何故、そこまでするんだ?
     私はお前を殴ったんだぞ。
     殴った相手の安全を求めるなんて……」

(#)゚Д゚)「殴られたのは自分のせいだからな。 むしろ納得してる。
     それよりもクーの安全の方が優先事項だ」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:01:55.54 ID:/I7JV6380
川 ゚ -゚)「……変わった奴だな、お前は」

(#)゚Д゚)「アンタに言われたかないやい」

川 ゚ -゚)「いや、私は身も心も『変わった』女だが、お前は良い意味で変わった男のようだ。
     すまなかったな、殴ったりして」

ギコは一般人だ。
二十一種や不死などの話に対し、必ずしも冷静に判断を下せるわけではない。
理解不明なモノを見れば、混乱だってするだろう。

問答無用過ぎたかもしれない、と反省の意を示す。
しかしギコは首を振った。

(#)゚Д゚)「クー、それは謝っちゃ駄目だ。
     何で殴られたかっつーのは俺には解んねぇけど、ちゃんとした理由があったんだろ?
     ここでクーが謝ったら、その理由を否定してしまうことになっちまう」

だから謝るのは止めろ。
ギコはそう言い、殴られた頬を軽く撫でた。

(#)゚Д゚)「それにちょっと嬉しいんだ。
     突発的に殴ったってことは、それだけ本気だったってことだし」
  _,
川 ゚ -゚)「……?」

何故か笑みを浮かべるギコ。
その理由が解らず、クーはただただ首をひねるだけだった。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:04:30.91 ID:/I7JV6380
それから数分後。
ギコ家、二階廊下。
まだ少し難しい顔をするクーを客室に入れ、ギコは安堵の息を吐いていた。

(,,゚Д゚)「よし、これで今夜は安心か」

クーは強気で難しい性格だと思う。
しかし、人のアドバイスさえも蔑ろにする人間ではないと解っていた。
あれはあれで義理堅い性格なのだ、と。

心の中で、少し卑怯かな、と苦笑する。

(,,゚Д゚)「……後は」

逃げ出す様子がないことを確認したギコは、自室へと足を向けた。

ポケットから取り出したのは携帯電話。
ほとんど空っぽのアドレス帳を呼び出すため、片手指でボタンを叩く。

画面には『モララー』という表示。

そのまま通話ボタンを押し、携帯を耳に押し当てる頃には自分の部屋へと戻ってきていた。

『――もしもし』

静かで、しかしハッキリとした声が聞こえる。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:06:39.17 ID:/I7JV6380
(,,゚Д゚)「うぃ、ギコだけど」

『どうした? あれからクーさんに何かあったか?』

ストレートな問い。
やはりというか、この男は自分のことをよく解っている。

(,,゚Д゚)「いや、大丈夫。
    それより一つ相談があるんだが……おk?」

『すまん、ちょっと待ってくれ。
 今立て込んでてな……また後にしたいんだが、それは急ぎなのか?』

(,,゚Д゚)「早い方がいいけど……多分、明日までが限界だと思う。
    それにちょっと長くなると思うから、時間を多めに確保してくれると嬉しい」

『ならば明日の朝、そっちに行こう。
 何となく内容も予想がつくし、丁度僕の方もお前に用がある』

(,,゚Д゚)「解ったけど、出来るだけ早く頼むな」

『心得た』

話はそれで終わりと判断したのか、一方的に通話が切れた。
電子音を奏でる携帯電話を折りたたみ

(,,゚Д゚)「……何か言い忘れた気がする」

と、一人ごちるギコ。
懸念が重要だったということに気付かされるのは、その翌日であった。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:08:42.30 ID:/I7JV6380
そして翌日。
朝日が差し込み始める時間帯。

まだ静かなギコ家に、インターフォンから発せられる電子音が鳴り響いた。

(;,,ぅД-)「……あの野郎」

もはや誰が来たのか解っているため、ギコは額に汗を浮かべて玄関を開く。
その先に立っていたのは、私服姿の親友だった。

( ・∀・)「やぁ、おはよう」

(;,,-Д-)「今何時だと思ってる?」

( ・∀・)「午前五時を少し過ぎたくらいだな」

(;,,゚Д゚)「早く来いっつったのは俺だけど、この時間はねぇだろ!」

( ・∀・)「すまん、お前がこんなにも遅起きだとは知らなかった」

あぁ、そうだったよ。
こいつは『早く来い』と言ったら、本当に早く来るタイプの男だった。

……昨夜何かを言い忘れていたと思ったが、このことだったのか。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:10:30.31 ID:/I7JV6380
(;,,゚Д゚)「まぁいいや……上がってくれ。
     まだヒー姉やクーは寝てるから、静かにしてくれよ」

( ・∀・)「あぁ、解った。 御邪魔します」

丁寧に頭を下げるあたりがモララーらしい。
片手に荷物を持った彼は、言われたとおり音を立てずに玄関を上がった。
そしてその背後から、チャラチャラと金属音。

('A`)「邪魔するぜ」

(,,゚Д゚)「!!」

モララーの陰になっていて気付かなかったが、そこにはブサイクがいた。



いや、よく見たらドクオだった。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:12:35.54 ID:/I7JV6380
(;,,゚Д゚)「……って、何でアンタが?」

('A`)「もしもの時のためだ。
   モララーだけじゃあ、襲撃された時に心許ねぇしな」

(,,゚Д゚)「俺だって、クーだっているぞ」

('A`)「ガキのお前に何が出来る? 何も出来なかったから俺達を頼ったんだろう?
   それに、いくら危険が見えたとしても対処出来なきゃ意味がねぇ。
   あの不死女も、片腕を失ってキャパシティ不足ときてやがる」

(,,゚Д゚)「……そうだとしても、二人で力を合わせれば」

('A`)「ガキ、良いこと教えてやるよ」

一歩、ギコに近付き

('A`)「半人前が二人くっついたって一人前には為り得ねぇ。
   戦いっつーのは数字では計れん……1+1=2にはならねぇんだよ」

(;,,゚Д゚)「っ……!」

('A`)「俺はテメェが大嫌いだが、モララーにとって大事な奴だってんなら手を貸してやる。
   それだけだ。 感謝しとけ」

一通り睨みつけ、玄関を上がっていくブサイク――ではなくドクオ。
後には、歯を噛むギコ一人が残されることとなる。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:13:51.35 ID:/I7JV6380
(#,,゚Д゚)(くそっ……俺だって、好きで役立たずやってんじゃねぇよ……!)

解っている。
役立たずだということなど、疾うに解っているのだ。

確かにギコは、危険を見ることが出来る能力を有している。
しかし、それがどうしたと言うのだろう。
筋力も思考も経験もない自分が持っていたって、それはただの『宝の持ち腐れ』である。

(#,,゚Д゚)(でも――)

理解しているだけでは駄目なのだ、と思い始めた自分がいるのに気付いたのは何時だろうか。

示したい。
理解を示して覆したいと、心の何処かが軋みを挙げている。

理由は解らない。

一つ確実に言えるのは、己の奥底に黒い熱が在るということだけ。
それがギコを不動とさせなかった。

動け。
問え。
考えろ。

解らないままに、弱いから仕方無いと言い訳して、そのままにしておくことを許さない何かがあった。
それは胸の奥から鼓動として発せられ、ギコを揺さぶってくる。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:15:58.01 ID:/I7JV6380
(#,,゚Д゚)「…………」

自然と、左拳が胸を軽く叩いた。
その奥にあるはずの、しかしとても小さな魂を。
小さいながらも、現状に対して何かアクションを求める勇敢な魂を。

(,,゚Д゚)「……よしっ」

大丈夫だ。
まだ自分はギコを諦めていない。
何かが出来るはずだと、しぶとく思えることが出来る自分がいる。


思いを確認した、その時だった。

「う、うわぁぁぁ!?」

(;,,゚Д゚)「お? 今のはモララーか?」

あの男が叫び声を挙げるなど、珍しい。
それだけ尋常ではない事態が起こったということだ。

とりあえず何事かと駆け足でリビングへと向かう。
そこには――



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:17:33.08 ID:/I7JV6380
(;・∀・)「くぁwせdrftgyふじこlp;」

言葉にならない声を発するモララーがいた。
持っていた荷物を床に落とし、戦慄くように全身を震わせている。
そしてその眼前には

ノハ#ぅ听)「……なぁにぃ? お客さん〜?」

パジャマ姿で片目をこするヒートが突っ立っていた。
どうやら話し声が気になって起きて来たらしい。

(;,,゚Д゚)「やべっ、ヒー姉は寝起きに弱かったんだった」

御存じの通り、モララーはヒートに好意を持っている。
さて、その彼が、あんな弱々しい状態の彼女を見ればどうなるだろうか。




ヾ(*・∀・)ノシ「――素晴らしいッ!!」




なんかこうなった。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:19:04.13 ID:/I7JV6380
(,,゚Д゚)「……は?」

(*・∀・)「寝間着姿だぞ!? 人生の三分の一の間に着る服だぞ!?
     太陽の出ている間にしか会えない僕が、それを見るチャンスなんてほぼないんだぞ!?」

(;,,゚Д゚)「いや、そうだけど――」

(*・∀・)「実家に帰る前に見れて良かった! 本当に良かった! 感動した!」

ノハ#ぅ听)「ん〜……? 何でモララー君がここに〜?」

(*・∀・)「はい! 及ばずながらもギコ君に協力するためです!」

ノハ#ぅ听)「んー……ありがとぉ〜」

(*・∀・)「はいッ!!」

('A`)「……行こうぜ、モララー。
   おい、お前の部屋何処よ?」

(,,゚Д゚)「あの廊下を突き当って右の扉」

(*・∀・)「も、ももももうちょっと――」

('A`)「ほら、俺が後で写メ撮っておいてやるから、な?」

(*・∀・)「絶対ですよ! 絶対に――」

ずるずる。
首根っこを掴まれたモララーは、本当に引き摺って連行されていった。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:20:40.13 ID:/I7JV6380
ノハ#ぅ听)「?」

(,,゚Д゚)「ヒー姉は気にしなくていいよ。
    それにまだ怪我が治ってないんだから、もう一回寝ること」

ノハ#ぅ听)「うん、寝る……」

素直にギコの言葉を聞き入れ、彼女は自分の部屋へと戻っていった。

(,,゚Д゚)(早朝のヒー姉は別の意味で素直だから面白い)

時計を見れば五時半前。
寝るにも起きるにも微妙な時間帯だが、ヒートは怪我をしているため、とにかく休む必要がある。

(,,゚Д゚)「今日は俺が朝飯作るかな」

いつまでも姉に甘えているわけにもいかない。
それに一時的かつ偽りのモノはあるが、自分には右腕がある。

未だ慣れない、女性の右腕が。

しかし出来ることはやろう、と、ギコはメニューを考えつつ自室へと足を向けるのであった。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:22:13.58 ID:/I7JV6380
その自室には、既にくつろいでいる二人がいた。

モララーはギコのベッドに仰向けで寝転がり、何やら念仏のような言葉を呻いている。
ドクオはギコの椅子に腰掛け、近くにある雑誌や漫画に手を出していた。

(,,゚Д゚)「お前ら、いつも何時に起きてんだ?」

('A`)「んー? モララーは基本四時〜五時起きだったっけ」

(;,,゚Д゚)「うへぇ」

('A`)「俺は大体昼起きだぞ。 だから眠い」

(,,゚Д゚)「それは色んな意味で駄目だな」

('A`)「うるせぇ」

ぱらぱら、と雑誌をめくっていた手が止まった。

('A`)「ところで、お前の相談って何なのよ」

(,,゚Д゚)「モララーに言うからいい」

('A`)「へーへー……ま、大体は予想つくけどな。
   お前ってホント甘い奴だわ」

(,,゚Д゚)「……む」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:23:40.72 ID:/I7JV6380
反論など出来るわけがなかった。
今、自分の中にある考えは間違いなく理想の極みである。
そのための材料は用意しているが、それが有効打となるかは確信を持てない。

(,,゚Д゚)「でも、やってみなくちゃ解らないだろ」

('A`)「やらなくても結果は見えてるだろーが。
   お前の考えてる理想が叶う確率なんて、ほぼゼロなんだからよ」

(;,,゚Д゚)「う……」

( ・∀・)「いや、あながちそうとは言えないと思いますよ、ドクオさん」

いつの間にやらモララーが起き上がっていた。
その鼻にティッシュが詰められていることから、どうやらヒートのパジャマ姿にガチ興奮したらしいことが解る。

( ・∀・)「確かにギコ一人での実行なら、成功する確率は限りなく低い。
     そしてだからこそ僕を呼んだ。 そうだな?」

(,,゚Д゚)「うんうん」

('A`)「……あぁ、そういうことか。
   確かにモララーなら説得力もあるかもしれねぇな」

(,,゚Д゚)「立場を利用するようで悪いとは思ってる。
    でも、それでも俺はクーを何とかしてあげたいんだ」

言葉を聞き、モララーが口元に笑みを浮かべ、ドクオは半目となった。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:25:13.87 ID:/I7JV6380
('A`)「しかしよぉ、それはあの女が求めてることなのかよ?」

(,,゚Д゚)「それは……解らない」

('A`)「駄目じゃん。
   だったら、お前の考えてることは意見の押し付けじゃねぇか」

(;,,゚Д゚)「でもそれが一番いいじゃねぇか!
     いつまでも隠れて生き続けるなんて、そんな人生よりもよっぽど!」

('A`)「それが押し付けっつってんだろ。
   あの女は俺ら普通の人間とは別モノなんだぜ?
   お前の思う最善と、不死女が思う最善が同じなわけ――」

(#,,゚Д゚)「――別モノだと!?」

弾けるようにギコが立ち上がった。
あ? と首を傾げるドクオへ向かって声を荒げる。

(#,,゚Д゚)「別モノなんかじゃねぇ! クーは人間だ!」

('A`)「死なない人間は人間とは呼ばねぇんだよ。
   いつか必ず死ぬからこそ人間なんだ」

(#,,゚Д゚)「死ぬのが人間なら、生きてる奴だって人間だろうが!!」

('A`)「必死だな。
   そこまであの女を擁護する理由が解んねぇ……お? もしかして惚れてるとか?
   ま、極甘ちゃんと不死女なんて釣り合わねぇけどな」



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:27:20.58 ID:/I7JV6380
(#,,゚Д゚)「てンめぇ……!!」

( ・∀・)「落ち着け、ギコ」

今にも飛びかかろうとするギコを、モララーが肩を押さえて制する。

( ・∀・)「ドクオさんも言い過ぎですよ。
     確かに甘い理想かもしれませんが、それでもギコは真剣なんですから」

('A`)「わぁーってるよ。 ついからかっちまっただけだって」

( ・∀・)(それにしてはマジっぽかったけど、まぁいいや)

(,,;Д;)「モララー、俺こいつ嫌いー」

( ・∀・)「気持ちは解るけど我慢我慢」



(;'A`)「え? 気持ちが解っちゃうの?
    なぁ、それって何気に酷くね? ちょっとガチで傷ついたんだけど」



スルーされたのは言うまでもない。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:29:27.67 ID:/I7JV6380
( ・∀・)「で、だ」

それから少し経ち、ようやくギコはモララーに相談を持ちかけることとなる。
自室だとドクオが邪魔してくるので、二人は応接室の方へと移っていた。
何やらゴソゴソと人の部屋を漁る音が気になるが、ギコは超人的な精神力で我慢する。

( ・∀・)「ギコ、僕に相談したことって何なんだい?」

予想はついている。
ギコらしい判断だと思うし、そういう類のことを考えるだろうとは思っていた。

しかしここで自分が言っても意味がない。
モララーは、ギコ本人の口からその内容を聞きたかった。

(,,゚Д゚)「……俺は、クーを助けたい」

何故、と問う前にギコの口が動いていく。

(,,゚Д゚)「クーが言ってたんだ。
    『これからもずっと隠れて生き続けるしかない』って」

当然と言えば当然だ。
二十一種とは怪物に等しい。
いや、『怪物にしてしまう』が正しいわけだが、どちらにしても危険なのは変わりない。

(,,゚Д゚)「『しかない』って……まるで諦めてるみたいに言ってたんだ」

( ・∀・)「…………」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:31:15.55 ID:/I7JV6380
(,,゚Д゚)「勝手かもしれないけど、俺はそれを聞いてこう思った。
    『もしかしてクーは普通に生きたいんじゃないか』って」

( ・∀・)「その根拠は?」

(,,゚Д゚)「クーは二、三百年前に二十一種ってのにとり憑かれたってのは知ってるよな?
    それからクーはずっと隠れて生きてるんだ」

( ・∀・)「不死だから仕方ない話なのではないか?
     下手に目立って、どの時代にも出てきてしまってはまずいことになるだろう」

不老不死は人間願望の一つだ。
もし目の前にそんな力を持った人間が現れれば、その秘密を得たいと思うのは当然である。

実のところ術式連合が彼女を執拗に追うのも、それが目的ではないかとモララーは勘案していたりするのだが。

しかしギコは、それと異なる考えを持っていた。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/21(火) 22:33:02.03 ID:/I7JV6380
(,,゚Д゚)「でもこうも考えられないか?
    『普通に生きたいから』隠れて生き続けてるって。
    そういう……何というか、普通になれるチャンスを待ってるんじゃないかって」

( ・∀・)「甘い理想だよ、それは」

(,,゚Д゚)「そんなこと解ってるさ。
    でも、悪くはないだろ?」

( ・∀・)「その考えは嫌いじゃないけどな。
     で、君は僕に何を頼もうとしている?」

(,,゚Д゚)「お前に頼みたいのは、たった一つだけだ」

息を吸い




(,,゚Д゚)「――術式連合に、クーが無害だってことを証明するのを手伝ってほしい」



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