川 ゚ -゚)クーは生き続けるようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:15:31.08 ID:fIRjb7Zo0
最終話 『救済』

それは、まさに『突如』と言うに相応しい襲撃だった。

川#゚ -゚)「もらった――!!」
  _、_
( ,_ノ`)「む!?」

ギコの位置を特定し、魔力弾をぶち込んだと同時。

果たして今まで何処に隠れていたのか。
渋沢の真上からクーが殺気と共に落ちてきたのだ。
まさかの襲撃に、対する動作が一瞬の遅延を孕んでしまう。

これが本命か、と渋沢は思った。

ギコという囮に自分が夢中になった隙を狙っての奇襲。
確かにこれならば、二人が繰り出せる中でも最も効果的な作戦と言えるだろう。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:17:36.58 ID:fIRjb7Zo0
咄嗟に振り上げた左腕に強烈な衝撃が走る。

正体は棺桶だ。

そしてその上に乗るクーの体重が相成り、かなりの重さが渋澤の身体に圧し掛かる。
思わず膝を折った彼は、倒れてしまう前に右腕を振るおうとするが
  _、_
( ,_ノ`)「!!」

弾けるように跳躍したのは黒い女性の影だ。
空中で一回転した彼女は、しかし足が地面に届く前に攻撃を再開する。

川#゚ -゚)「喰らえ!」

ぱがん、という気の抜けた音を立てて開く棺桶。
見えた中身はドラキュラなどというファンタジーなものではなく
常識外と言うべきか、予想内と言うべきか――
  _、_
(;,_ノ`)「おいおい……!」

――渋澤の額に汗が浮かぶ。

それは、みっしりと敷き詰められた弾薬の塊だった。

おそらく一撃限りの使用を目的とした、奇襲用の限定武装。
簡単に例えるならば、棺桶の形をした巨大銃口から多量の銃弾が飛び出す機構である。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:20:18.34 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
(;,_ノ`)「この火力馬鹿が!!」

川#゚ -゚)「それだけが取り柄でな――!!」

既に腰は落としているので、地面を蹴りさえすれば離脱は可能だった。
だが、その寸隙の間すら与えずにクーの棺桶が吠える。

爆音は一回で、しかし直後に撃音が連射された。
それを彩るように閃光が瞬く。

一瞬だ。

渋澤目掛けて飛び出した弾は、放射線状に広がりながら全てを穿つ。
定められた目標など無い。
ただ、行く手を阻む物体に全力でぶつかるのみ。

反動で更に一回転したクーは、そのまま少し離れた位置に着地。

川;゚ -゚)「……!!」

だが、その間に見た光景は信じられないものだった。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:22:19.88 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
(; ,_ノ`)「ってぇ……やっぱ歳だな、こりゃ」

身体の所々から煙を上げ、しかし倒れてすらいない渋澤の姿。
彼は腕を口に当て、咳を二、三回ほど吐き出す。

ありえない、とクーは恐怖する。
あの距離とタイミングで、あの攻撃で、この結果なのか、と。

川;゚ -゚)「衝撃を魔術で防いだというのか……!?
     あの大男と同レベル――いや、それ以上の防御結界だと?」
  _、_
( ,_ノ`)「おいおい、俺はある意味での能無しだぞ?
    出来ることと言えば魔力をそのままに打ち出すことだけだ。
    結界などという器用な真似なんぞ出来ん」

川;゚ -゚)「まさか――」

渋澤に可能な抵抗として思い浮かぶは一つの方法だ。
だが、果たしてそれを人間が可能とするのか、という点においてクーは確信を持てなかった。
故に出た『まさか』なのだが、しかし、渋澤の状態を考えるに、

川;゚ -゚)「討ち出された弾を全て、対応するように展開した魔力弾で相殺した……?」
  _、_
( ,_ノ`)「まぁ、瞬発力と判断力があれば誰でも出来る芸当だろうよ。
    俺の場合は身体能力の衰えで少し間が空いちまったがな」

その瞬発力と判断力こそが常人を超えているのだというのに、平気でそんなことを言う渋澤。
格の違いを見せつけられたクーは、頬を流れる汗に焦りを見せていた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:24:46.85 ID:fIRjb7Zo0
元々、クーの戦闘力は高いとは言えない。

二十一種の一種とはいえ、能力は『不死』。
他の種に比べて生存に特化している彼女は、だからこそ突撃機構槍『リュミシカラス』を背負っている。

川;゚ -゚)(あの時もそうだった……私は、私以上の力を持つ相手には勝てない……)

死なないだけが長所だった。
腕を千切られようとも、内蔵を破壊されようとも、必ず生き長らえる能力。

ただし、千切られた腕は新しく生えてこない。
破壊された内臓も再生されることはない。
それでも生きていられる程度の補正が入るだけである。

故に、不死身ではなく不死。
魂こそ絶対的な生を約束されてはいるが、対する身体はいくらでも死ぬ。
まさに『呪縛』と呼べる能力。

それが、クーの全てであった。
  _、_
( ,_ノ`)「しかし俺に気配を悟らせないとは。 術式でも使えるのか、お前?」

川 ゚ -゚)「……教える馬鹿はいない」
  _、_
( ,_ノ`)「術式素質があるとは思えんな。
     となれば、誰かから符でも手に入れたということか」

川 ゚ -゚)「…………」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:26:45.90 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
( ,_ノ`)「ただの気配隠蔽じゃないな?
     何せさっきお前が奇襲してくるまで、俺はお前の存在を忘れていた。
     いや、覚えてはいたんだが『何処かに潜んでいる』という思考を封じられていた、が正しいだろう」

ふむ、と息を吐き
  _、_
( ,_ノ`)「気配どころか存在すら薄めるほどの強力な術式。
     簡単に手に入る代物じゃあるまい……やはりモララーが肩入れしているのは本当のようだな?」

川;゚ -゚)(コイツ……)
  _、_
( ,_ノ`)「まぁ、彼の息子ならば解らんわけでもない。
     あの血を引いているのならば、情に厚い部分も持ち合わせているだろう。
     それが褒められるか否かは無関係に、な」

言う目は鋭い。
ゆっくりとした口調でクーを精神的に追い詰めている。
解っている事実を明かすことにより、揺さぶりを掛けているのだ。
  _、_
( ,_ノ`)「だが一つ解せんことがある。
     いくらモララーでも、奴は生粋の気術師。 本来の仕事は二十一種の排除のはず。
     しかし敢えてお前に手を貸している……それほどの理由があるのか?」

確かにそうだ。
モララーも、渋澤達と同じく術式連合側の人間のはず。
彼の立場を考えれば、クーと敵対するのが普通だ。

しかし彼はこちらに味方をした。
それを、渋澤は疑問に思っているのだろう。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:28:45.02 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
( ,_ノ`)「モララーが本来の仕事を無視するほどの正義が、お前達にあるというのか?」

再度、噛み砕かれた疑問を向けられる。
しかし対する答えを、クーは持っていた。

川 ゚ -゚)「……お前は一つ勘違いをしている」
  _、_
( ,_ノ`)「ほぅ」

川 ゚ -゚)「私に正義などない。
     私はただ、ここで生きていくことを望む」
  _、_
( ,_ノ`)「それならば俺達に捕まった方が安全ではないか?
     聞けば二十一種とは、互いに互いを殺し合う仲だったと言うじゃないか。
     だったら組織に匿ってもらう形で俺達に身を委ねるべきだろう」

川 ゚ -゚)「それじゃあ駄目なんだ」

少し目を伏せ、言い難そうに

川 ゚ -゚)「……私は待っているから。
     それまで誰のモノにもならないし、死ぬわけにもいかない」
  _、_
( ,_ノ`)「何を待っている? この世界にトドメを刺すための災害か?」

川 ゚ -゚)「違う。 私を助けてくれた――ッ!?」

途端、がく、と突然にクーの膝が折れる。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:30:43.70 ID:fIRjb7Zo0
それを見た渋沢の口端が微かに吊りあがった。
  _、_
( ,_ノ`)「やはりツケが回ってきたな。
     右腕が無い状態で本気出せば、そうなるに決まっている」

川;゚ -゚)「くっ……」

身体の力が抜けていく感覚。
そして冷えるようで、熱くなる脳髄。

限界以上の力を引き出してしまったための一時的なオーバーヒートである。

短順に言えば右腕を失っているため、本来以上の力を出すことが難しくなっているのだ。
今のように全力で動いてしまえば、無理をした身体が休息を求めるのは当然。
あの時、クックルと戦った後と同じ状態になってしまったのである。

ぎり、とクーは歯を噛む。

この奇襲で勝負を決めるつもりだった。
渋澤に時間と距離を与えてはならないからだ。
時間を開ければ、距離を開ければ、その分だけこちらが不利になっていく。

天才と言えど『余裕』を抜き取れば能力低下が見込める。
人間というカテゴリーに入っている限り、突然の出来事に対応するのは難しいからだ。
故の奇襲だったわけだが、それも防がれ、更には自身もこの様となっている。

川;゚ -゚)(力の無い私にも出来ることが通用しなかった……)

かつての過ちを繰り返さないための行為が、昔と決別したはずの力が。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:32:41.25 ID:fIRjb7Zo0
川;゚ -゚)(――こういう時、彼ならどうする)

思い出すは過去。
それも、最も古い記憶。
いつかあった戦いで、彼女は彼を助け、助けられた。

戦闘力が皆無だったクーを護り、そして共に戦い抜いてくれた男。

その声は、未だ耳に残っている。
その姿は、未だ脳裏に焼きついている。
その生は、未だクーの行動に深く影響している。

川;゚ -゚)(そうだ。 彼なら、きっと彼なら――)
  _、_
( ,_ノ`)「さて、今度こそ終わりだ。
     何か事情があるようだが、こっちにも同じように事情があるのでな」

一歩ずつ近付いてくる渋澤の動きに隙はない。
足や体力に衰えは見えるが、その気配自体は危険そのものである。

対し、クーは片膝をついたまま動けずにいる。
すぐにでも退避したい状況なのだが、限界越えしてしまった身体は震えを起こすのみ。

意識にも微かな靄が掛かり、それは段々と抵抗心をも蝕んでしまっていた。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:34:44.44 ID:fIRjb7Zo0
しかし、このまま無抵抗に捕まるのだけは嫌だった。

どんな状況にあろうとも決して抗う意志だけは失くしてはならない。
彼の行動を通じて教わり、最近ではギコの行動を見て、そう確信した。


――だから、諦めない。


川;゚ -゚)「私は私の意志で生きるんだ……!」

突撃機構槍を支えに立ち上がり、尚も戦おうと鋭い視線を上げた時。

川;゚ -゚)「なっ!?」

まったく予想していなかった光景が目に飛び込んできた。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:37:45.16 ID:fIRjb7Zo0
時間は数分前に遡る。

ギコが意識を取り戻したのは、クーと渋澤が言葉を交わしている最中だった。

(;,,-Д゚)「ってぇ……」

仰向けに倒れていた身体を何とか起こす。

額の鈍痛を元に考えるに、こちらの位置を把握した渋澤の早撃ちがヒットしたのだろう。
あまり覚えていないが、ギコを気絶させるほどの威力を持っていたようだ。

周囲は低めの草木に囲われている。
ここに隠れていたのだが、渋澤の言葉にまんまと踊らされてしまい
見事に仕留められてしまったのだった。

(,,゚Д゚)(けど、これで……)

もう少しかっこよくするつもりだったのだが、一応、渋澤の隙は生み出されたはず。
ギコの身が無事だということは、もしかしたらクーが奴を倒せたのかもしれない。

一縷の期待を抱えて広場に顔を出す。

だが、目に入った光景は彼が望んだものではなかった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:39:54.53 ID:fIRjb7Zo0
(;,,゚Д゚)(あれは――)

クーが姿勢を崩している。
それを渋澤が見下ろしている。
彼の背後の地面から、幾筋かの細い煙が生えている。

状況を瞬時に理解したギコは、渋澤の動きを止めるために足を出そうとして、

(;,,゚Д゚)(俺が行ってどうにかなるのか……!?)

しかし、踏み留まった。

今の状況で飛び出して行くには分が悪過ぎる。
もはや渋澤が容赦する理由はないため、出て行けば忽ち蜂の巣にされてしまうことだろう。
そうなればクーを助けられなくなってしまう。

だが、好機を待っていられる状況でもないのも確かだ。

見たところ、既に勝負は決している。
あとは渋沢がクーを気絶させるか何かして、術式連合とやらの本部へ持ち帰るだけ。
だとすれば、今こそが最後のチャンスであった。

(;,,゚Д゚)「どうする……どうすればアイツを助けられる……」

飛び出して、渋澤の意識をこちらに向けた瞬間に離脱を促すことも出来るが
その可能性は決して高いとは言えない。

後がないことを考えれば、確実に彼女を助けられる方法が欲しいところだった。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:43:02.21 ID:fIRjb7Zo0
と、その時、ふとギコはある考えに思い至る。

――何故、クーは疲労しているのか、と。

(;,,゚Д゚)「っつ!?」

何かを思い出そうとした途端、激しい頭痛が襲った。
思考を阻害する痛みは、次の瞬間に別の思念を強制的に開いた。

まるでテレビのチャンネルを変えるかのように、ぱちり、と視界が変わったのだ。

(;,,゚Д゚)(こ、れは――!?)

赤い世界。
そう呼ぶに相応しい光景が広がる。

空も陸も何もかもが血のように赤く、そして黒い。

この光景を、ギコは知っていた。

(,,゚Д゚)(あの時に見た夢か、これ……)

クーと別れる直前まで見ていた悪夢だった。

嫌なものだと思い、振り払うかのように忘却していたはずのそれは
しかし、今まさにギコの目の前で展開されている。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:45:39.17 ID:fIRjb7Zo0
何故、という疑問が再び生まれた。
確かに嫌な予感はしていたが、何故今なのか、と。

そして、この不吉な空気が気に入らなかった。
以前から見る正夢は慣れたものだと思ってはいたが、これは今までのレベルを逸している。

――絶対に無視してはならない。

そう思わせるほどの強い何かを感じた。

(;,,゚Д゚)(――っ!?)

ばちり、という電気的な弾音が聞こえる。
それに合わせたように、身体の一部分から刺すような痛みが来た。

咄嗟に痛みの根源を見る。

それは、彼の――



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:48:23.00 ID:fIRjb7Zo0
(;,,゚Д゚)「――おおわっと!?」

確認しようとした瞬間、いきなり現実へと引き戻された。
先ほどまで視界の全てを埋め尽くしていた赤色が無くなり
木々を示す緑と、暗くなりつつある空の色が目に飛び込んでくる。

……今のは何だったのだろうか。

そう思うと同時に、ギコは先ほどの続きを無意識に行なった。

視線は右へ。
微かに下へ。

そこにあるのはギコの右腕。
いや、正確に言うならばクーから借りている腕である。

(,,゚Д゚)(もしかして……お前が……?)

思い、己の身である左腕で偽物の右腕を掴む。
少し撫でるように擦り、そして軽く握った。

微かな、本当に微かな波を指先に感じる。

それは『気のせい』で済ませられるような微弱さだった。
だが、それをギコは無視することなど出来なかった。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:51:01.83 ID:fIRjb7Zo0
この腕が与えてくれたモノに嘘はない。

まだ出会って間もないの頃、クーがギコの家から抜け出してしまった時、
この腕が彼女の居場所を知らせてくれた。
クックルと戦った時は、盾となってギコの身を守ってくれた。
この腕があったからこそバランスが保たれ、渋澤から全力で走って逃げられた。

だから当然のように、ギコは右腕が発する何かに耳を傾ける。


《――wwヘ√レvv――》


きし、という硝子を引っ掻くような音。
共に入ってきた情報は、ギコが望んでいたものだった。

(;,,゚Д゚)「……っ」

だが、一瞬だけギコの表情が複雑に歪む。

確かにこの方法ならばクーを救うことが出来るかもしれない。
ついでに自分の目的も同時に果たすことが出来るはず。

ならば、何を躊躇することがあるというのか。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:53:11.80 ID:fIRjb7Zo0
(;,,-Д-)「……くそっ!」

我慢すれば良いだけ。
そう、ただ自分が我慢すれば良いだけなのだ。

しかしそれが、想像するだけで鳥肌を立たせるほど恐ろしい行為であることも、また明白。

情けない、と強く思う。
この程度のことで何を戸惑うか、と。
彼女を助けるためならば、彼女を想うならば――

(;,,゚Д゚)(くそっ! くそくそくそっ!!
     俺は最低だ! 自分の身が可愛いだなんて、最低だ!!)

落ち着け、と左手で胸を叩く。
迷うことが出来るのならば、どちらかを選べるということだ。

落ち着いて思い出せ。

――何故、ギコはクーを救いたいと願ったのか。

それは、



川 - )



一度として、見たことの、なかった、彼女の、笑顔が、見たかった、から――――?



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:55:17.86 ID:fIRjb7Zo0
(,,゚Д゚)「ッ!!」

何だ。
たったそれだけのことではないか。
彼女が、心から笑うことの出来るようにしたかっただけなのだ。

特別なことなんかじゃない。

好きな人を救いたいと思うのは、男ならば当然のこと。

(,,゚Д゚)「だったら」

言い紡ぐ。

(#,,゚Д゚)「だったらさ――!!」

思う。
強く思う。

救え、と。
迷わず救え、と。

救えば何かが――きっと、何かが――!



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:57:07.41 ID:fIRjb7Zo0
今度は一抹の雑念もなく、左手が右腕を掴む。

(,,-Д-)「お……」

限界まで力を籠め、握り、扼し

(#,,゚Д゚)「――ぉぉぉぉぉぉぉぉ」

その偽物の腕を、

(#,, Д )「おおおおおおおぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」



力任せに、引き千切った。



(;,, Д )「――――ッ――!!?」

電流が走るような悪寒。

骨が砕け、筋肉が断裂し、張り巡らされた神経と血管がぶちぶちと音立てて裂けていく。
全ては一瞬のはずが、何時間にも感じられる苦痛となってギコの脳を侵食した。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 21:59:03.42 ID:fIRjb7Zo0
(#,, Д )「ぎっ――ぁ――っ!?」

か、とも、き、とも受け取れる奇音が頭の中に響いた。

意識が割れようとしている。
放射線状にヒビが入った意識が、耐え切れずに瓦解していく。

元々はクーの腕であるため、ただ千切ることだけに関しては造作もない。
存在が別々ならば、その切れ目があるのは当然の道理。
繋がっている本人の意志さえあれば、自分の力で分離させることも可能ではある。

だが、その神経や肉はしっかりと繋がってしまっていた。

粘着質な音と共に右腕が剥離していく。
その激痛たるや、常人の想像など追いつけない領域だ。

滴る鮮血と、糸を引く正体不明の液体が地面に落ちたのを見て、ギコは更に背筋を凍らせる。

(#,, Д )「――っは――づ――ぅうう……!!」

しかし止めるわけにはいかない。
今も尚、危機を迎えているクーを助けなければならないのだから。

こんな己の痛みなど、自分次第でどうにでもなるのだと思い込まねばならない。
ここで痛み苦しむよりも、クーを救えない方が嫌なのだから。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:01:17.69 ID:fIRjb7Zo0
(;,,゚Д;)「ハァー!! ハァー!! っ、ぜはぁ!!」

奥歯を一本噛み砕いた頃、無限と思えた自傷の時間が終わる。

汗にまみれ、凍えるように震えている身体。
既に心は軋み続けてヒビだらけになっている。

今すぐにでも倒れて、そのまま死んでしまいたい衝動に駆られた。

(;,,゚Д;)「だが断る――!!」

倒れかけた身体に鞭を打ち、全力で右足を前へと出す。
体重移動を感じると同時に左足を同じく。

連続させれば疾駆となる。

動物として出来て当然の行為は、しかし、今のギコにとって学力試験の難問と同等であった。

右腕から響く激痛のせいか
いちいち行動を頭の中で組み立て、そして意識しながら実行しなければならない。
そうしなければ動くことすら出来なかった。
しようとも思えなかった。

少年のモノとは思えぬ光を宿した瞳で、救うべき人がいる方角を睨む。
彼は塗炭の苦しみと言える激痛の中、

(#,,;Д;)「ゴルァァァァアア!!!」

吼え、一心不乱にクーの下へ走った。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:03:24.63 ID:fIRjb7Zo0
川;゚ -゚)「なっ!?」
  _、_
(;,_ノ`)「おいおいおい、正気か……!?」

真っ先に気付いたクーが声を上げ、振り向いた渋澤が驚きに目を見開く。

それもそのはず。
己の右腕を左手に持った男が、血を流しながら走り寄って来るのだから。

様々な死線を潜り抜けてきた澁澤であっても、この光景には流石に動揺を隠せなかった。
  _、_
(;,_ノ`)「アイツまさか――!」

ギコの奇行を見て、すぐさま狙いを把握する。
あの腕は元々クーのモノだったはず。
それを外してるのならば、ギコの目指す先は言うまでもなく明白である。
  _、_
( ,_ノ`)「だが、ここで見逃すほど御人好しでも無能でもない!」

瞬間、渋澤は脳裏に八つの魔術点を浮かべた。
己の周囲に等間隔として並べられた点に、活力を流し込んで確定する。

それは回転式拳銃――リボルバーに銃弾を込める作業に等しい。

その間は秒すら必要としない。
無限とも呼べる単純な訓練の積み重ねによる、瞬刻の創造だった。
これこそ天才と呼ばれる所以の一つであり、渋沢を構成するファクターである。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:05:37.07 ID:fIRjb7Zo0
八つの魔力を空間という弾装に込めた渋澤は、向かってくるギコへ狙いを定める。

警告の声は要らない。
ただ、その四肢を砕くために発射する。

破裂するような音は一つだ。

同時に発射された八つの魔力弾が、直線の軌道でギコに迫る。
だが、

(#,,;Д;)「おおおおおぉぉぉぉ!!」

ギコの咆哮。
たったそれだけの行為で、渋澤の攻撃が全て打ち消される。
  _、_
(; ,_ノ`)「いや、違う……!? 何が起きた!?」

結界か。
それとも別の何かか。

ツー達の報告には一切なかった事象に、渋澤は慌てて次弾を装填する。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:07:28.67 ID:fIRjb7Zo0
その過程において、彼は一つの言葉を思い出した。


――『人払い』の結界を突破する力を持っていて――

  _、_
(; ,_ノ`)「……ッ!!?」

そういうことか。
そして、何ということか。

ギコを知って真っ先に思った疑問こそが、答えだったのだ。
  _、_
(; ,_ノ`)「坊主、まさか貴様の本当の『異常』とは……!?」

(#,,;Д;)「知るかっ――」

振りかぶる姿勢。
それは野球の投球に等しい。

(#,,;Д;)「――っつーのォォォォォ!!!」

ボロボロの身体から放たれたのは千切った右腕だ。
女性の形をしているそれは元の持ち主へ、血を撒き散らしながら飛ぶ。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:09:13.18 ID:fIRjb7Zo0
川;゚ -゚)「ギコ!」

棺桶にしがみつく様にして立っていたクーがキャッチ。
ギコの考えを瞬時に汲み取った彼女は、接着させるために右腕を傷口に当てる。
途端、元の宿主に戻った腕が高速で修復を開始する。

あと数秒もすれば、自分はようやくフルパワーで動けるだろう。

川;゚ -゚)(だが、よくやる……!)

己の腕を引き千切るなど、普通は考えもしない。
思いついたとしても実行する馬鹿はいない。

だが目の前に、その馬鹿がいた。

目に一杯涙を溜めた彼は、右腕から鮮血を垂らしながらも立っている。

考えられなかった。
一週間ほど前までは普通の学生だったはず。
どこに、そんな気違いとも言える気概があったのか。
  _、_
(; ,_ノ`)「ちィ……! まさにイレギュラーとはこのことか!
     俺が最も嫌いなタイプだぞ、坊主!」

流石と言うべきか、渋澤の対応は迅速だった。
もはや戦うための力を失っているギコを無視してクーへと振り返る。
ここで彼女に回復されれば最悪の場合、逃してしまうことになるからだ。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:11:10.49 ID:fIRjb7Zo0
せっかく追い詰めたのだ。
最悪のケースだけは避けねばならない。
そして何より、生ける伝説としての渋澤のプライドが許さない。
  _、_
( ,_ノ`)「もはやまともに戦う気はない! 回復される前に潰させてもらう!」

川;゚ -゚)「!」

魔力を空間にセット。
今度は逃しようもない全方位射撃の構えだ。
全ての撃鉄を一斉に起こし、未だ腕の修復を行なっているクーへ

(#,,;Д;)「まだ終わってねぇぞおおおお!!」
  _、_
(#)_ノ`)「ぐぉっ!?」

右頬に走る衝撃。
原因がギコの左拳だと気付いた時には、既に身が傾いてしまっていた。
  _、_
(#)_ノ`)「ば、かな――」

ただのガキが、ここまで出来るなどありえない。
ガキではないとすれば
  _、_
(#)_ノ`)「化物か貴様……!?」

(#,,;Д;)「俺は人間だぁぁぁぁああああ!!!」

痛みに耐えるためか、先ほどからギコは叫びまくっている。
しかし充血させた目で、真っ赤になった顔で、未だ震えている身体で言う台詞ではない。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:13:04.25 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
(#)_ノ`)「何故ここまで動ける!? 何がお前を動かすのだ!?」

(#,,;Д;)「腕を切られたのは二度目だ! もう慣れた!!」
  _、_
(#)_ノ`)「ど、どういう理屈だそりゃあ……!」

倒れかけた姿勢を立て直し、ギコへ鋭い視線を向ける。
あんな華奢な身体のどこから力が出るのか、と問いかけるように。

その隙は、彼女にとって充分過ぎるほど大きかった。

川 ゚ -゚)「余所見はらしくないな、『コンスタントガンナー』!!」

先ほどよりも近くで聞こえるクーの声。
完全に回復したのか、見違える速度と勢いを以って渋澤に肉薄する。

今まで以上の――いや、元通りとなった運動性は狩りをするネコ科の動物に等しい。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:14:52.32 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
(#)_ノ`)「っ! ブレイク――!!」

振り向き様に上げていた撃鉄を叩く。
弾け出すように、渋澤の周囲から八方へ魔力弾が飛び出した。
どこへ避けようとも確実に一撃は与える範囲だ。

ここで何とか足を止め、僅かに傾いた形勢を立て直さねばならない。

先ほどからの行動を勘案するに
この二人を嘗めてはいけないのだ、と渋沢の経験が叫んでいたのだ。
たとえ僅かに不利になろうとも、それを全力で打ち消さねばならない、と。

川 ゚ -゚)「っ!!」

だが次の瞬間、クーは迷わず跳躍する。
棺桶の表面を盾とするように構え、身を屈めてすっぽりとその陰に隠したのだ。

結果、放った十二の魔力弾の内の四分の一ほどが棺桶に直撃する。

響く硬音の連鎖。
だが、クーはノーダメージで着地する。
  _、_
(#)_ノ`)「ふン、予想の範囲内だ!」

対し、渋澤は既に第二撃の装填を完了していた。
全弾が棺桶に命中するであろう構えで、だ。

棺桶の隅から覗くクーの顔に、微かな焦りが浮かぶ。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:16:56.05 ID:fIRjb7Zo0
斉射。

クーの身体を破壊するために走る魔力の塊。
疾走する力は、レーザービームのような幅と軌道を持って飛ぶ。
タイミング的にも速度的にも完璧であったはずの、天才の一撃は――

(#,,゚Д゚)「だぁぁぁあああらっしゃああああああっっ!!!」

川;゚ -゚)「ギコ!?」

しかし、彼が最も嫌悪するイレギュラーの存在に防がれる。
一瞬だけ足を止めかけたクーの前へと躍り出て、その盾役となったのだ。
  _、_
(#)_ノ`)「お――前はどこまで邪魔を……!!」

すれば、と続く声は紡がれなかった。

先ほどと結果は変わらない。
何故か、放った魔力弾はギコを目前に霧散していく。
この不可思議な現象の答えを既に得ていたが、渋澤はそれどころではなかった。

眼前にまでクーが迫っているのだから。

川#゚ -゚)「命までは獲らん……だが気絶くらいは覚悟してもらう!」
  _、_
(#)_ノ`)「くそっ……!」



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:18:45.92 ID:fIRjb7Zo0
咄嗟に足を一歩引くが、勢いに乗ったクーからは逃れられない。
そこでようやくカウンターしようと頭を切り替えた時には遅かった。

迫る棺桶の先端部。

引き伸ばされた感覚の中、渋澤は戦いの敗因を考える。

確かにクーの天敵は渋澤であった。
だが、その彼にも天敵がいた。

敵の名はギコ。

いや、彼はもはや渋澤だけの天敵では――

川#゚ -゚)「ッ!!」
  _、_
(#)_ノ`)「ぐっ――」

鳩尾へ潜り込むような一撃が入る。
骨の折れる音が身体の中を通り、内側から鼓膜を叩いた。
しかし、クーの攻撃はそれだけに終わらない。

川#゚ -゚)「っはぁ!!」
  、_
(#)_ノ )「――ぉぉぉぉおおっ」

棺桶型突撃機構槍『リュミシカラス』のギミックである、パイルバンカーが炸裂したのだ。
腹の皮膚を突き破る勢いで打ち出された鉄片は、鍛え上げられた腹筋を破壊する。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:20:29.89 ID:fIRjb7Zo0
衝撃が突き抜けた。

空気の圧すら視認出来そうな強力な一撃。
血肉を貫く激しい衝撃を、渋沢は止めることが出来なかった。
脳天まで突き抜けたそれは、渋沢の持つ全機能を徐々に蝕んでいく。


軋む。
渋沢の全てが軋んでいく。


くの字に折れ曲がった身体。
絞り出される酸素。
確定しない足裏。
震えるばかりの両腕。
悲鳴を挙げる内臓。


白くなる意識。
薄くなる戦意。
滲み出る悔しさ。


そして、僅かな感嘆。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:22:37.01 ID:fIRjb7Zo0
ふ、と短い息と共に吐かれる言葉。
それを皮切りとして、渋沢の身体が力なく崩れていった。

地に伏せる音を背中に受けたクーは、僅かに俯く。

川 ゚ -゚)「……これは、私だけの結果じゃない」

それを、少し離れた位置でギコは聞く。
既に足に力が入らないのか、姿勢を半分落としたままで、だ。

(メ,,゚Д゚)「――――」

段々と下から自分の意識がなくなっていく感覚の中、
そして未だ燃え続ける苦痛の中、
ギコはそれでも、クーから一度たりとも目を離さない。

(メ,,゚Д゚)「やっぱ……綺麗だ」

陽が落ちる公園。
紫に近い色を浴びる彼女の姿を見て、ギコはそう呟いた。
次の瞬間、彼の意識は闇の中へ放り込まれることとなる。


目に焼き付けた、一枚の絵画のようなクーの姿を見つめながら。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:54:15.70 ID:fIRjb7Zo0
川 ゚ -゚)「……? ギコ?」

もう一つの倒れる音を聞き、クーが振り返る。
案の定、倒れているギコを見て慌てて駆け寄った。

(;,,-Д-)ウーン

川;゚ -゚)「まったく無茶をする男だ。
     これで死んでしまっては元も子もないというのに」

自分で言い、しかしそれはどうか、と思った。

彼のことだ。
もしかすれば、本気で命を捨てても良いと考えていたかもしれない。
自分の腕を自分で千切ったことから、むしろその可能性が高い。

川 ゚ -゚)「……お前は馬鹿だ。
     私なんかのためにここまで痛い思いをして……本当に馬鹿だよ。
     関わる必要なんかなかったのに――」

右腕の止血処置を行ないつつ、クーは小さく言う。

川 ゚ -゚)「……ありがとう、ギコ」

それが彼の耳に届いたかは解らないし、どちらでも良かった。
ただ、クーは自然と感謝の言葉を口にしたということに意味を得ていた。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:55:32.60 ID:fIRjb7Zo0
「――終わっているようですね」

ふと声が聞こえた。
既に聞き慣れた部類に入るものだったので、クーは振り返りもせず答える。

川 ゚ -゚)「そちらも、だな?」

( ・∀・)「応援に来たつもりなんですが、無駄足だったようで」

川 ゚ -゚)「いや、人手が欲しかった。
     ギコが無茶をやってしまってな。 すぐにでも病院に連れていきたい。
     だから渋澤を見張っていてくれ」

( ・∀・)「……思い切り彼も怪我をしているようだけど」

川 ゚ -゚)「知らん。 後は頼んだ」

素気なく言うと、クーは軽々とギコの身体を抱え上げた。

( ・∀・)「あ、一つ聞きたいことが」

川 ゚ -゚)「何だ?」

( ・∀・)「……前から思ってたんですが、ギコの本当の右腕は何処へやったのですか?
     一週間も経つのに見つからないということは、誰かが持っていてもおかしくないはずで」



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:56:54.14 ID:fIRjb7Zo0
言葉に、クーの表情が微かに固まった。
一筋の汗を頬に浮かべた彼女は、口を開いて閉じ、開いて閉じを数回繰り返し

川;゚ -゚)「……私が持っていた」

と、酷く言い難そうに告白した。

( ・∀・)「持って『いた』? 過去形なのは何故?」

川;゚ -゚)「その……もしかしたら現代の医療で何とかなるかもと、切られた彼の腕を持っていたのだが
     何と言えば良いか……保管していた場所が悪かったようだ」

( ・∀・)「?」

川;゚ -゚)「…………」

首を傾げるモララー。
無言で背負っている棺桶を揺するクー。

( ・∀・)「……もしかして、その中とか?」

川;゚ -゚)「えっと、だな……このリュミシカラスは特殊な術式加工を施されていて
     詳しくは言えんのだが、一種の生体エネルギーを必要とする武装なんだ」

成程、とモララーは呟いた。

確かにただの機械では、あれほどの戦闘力を発揮することは出来まい。
リュミシカラスを使用したクーが疲労するのは、使う度に彼女の生命エネルギーを吸い取っているのだろう。
だから身体の一部を失ったりすると、一時的に動けない状態になってしまうことがあったのだ。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 22:59:01.39 ID:fIRjb7Zo0
そこで一つの事実に気付く。
もし本当にギコの腕が、あの棺桶に格納されていたとすれば

(;・∀・)「まさか――」

川;゚ -゚)「……ギコには黙っていてくれないか。 とりあえず今は嫌われたくない」

(;・∀・)「はぁ」

今更あのギコが嫌うとは思えないが、という言葉は呑み込んでおく。

川 ゚ -゚)「じゃあ――」

( ・∀・)「あ、病院なら最寄ではなく、駅の方角にある方のが良いかと。
     そこなら僕の父の息が掛かってるので安全ですよ」

川 ゚ -゚)「……例を言う」

安心したように吐息するクーを見送ったモララーは、渋澤の下へ歩み寄った。

( ・∀・)「起きているのでしょう?」
  _、_
(#)_ノ`)「やれやれ……最近のガキは加減を知らんから困る」

仰向けに倒れたまま渋澤はそう言った。
口の端から血を流しているが、意識はハッキリしているようだ。
普通ならば身体の痛みに苦しんでも良いはずなのだが、やはりこの男、並大抵の精神を持っていないらしい。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:00:52.71 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
(#)_ノ`)「お前もお前だ、モララー……ったく、どいつもこいつも解らん」

( ・∀・)「御久し振りですね。 かれこれ五年振りくらいになりますか。
     まさかこのような形で再会するとは思いませんでしたけど」
  _、_
(#)_ノ`)「俺の方が驚きだ。 しかしまぁ、腕は悪くないようだな。
     昔とは大違いだ」

( ・∀・)「で、これからどうするのです?
     連合本部に戻って更なる応援を呼びますか?」
  _、_
(#)_ノ`)「…………」

答えはない。
何かを考えるように押し黙る。
  _、_
(#)_ノ`)「モララー。 お前はアイツの異常に気付いていたか?」

( ・∀・)「さて。 危険を見る能力のことか、それとも――」
  _、_
(#)_ノ`)「感付いていたようだな。 流石だ。
    そう、あのガキの危険視は副次的産物に過ぎん」

( ・∀・)「貴方はその正体を知ったのですね?」

そう言うモララーは、未だギコの『異常』を理解出来ていない。
ただ、危険視だけに留まらないことだけは何となく解っていた。



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:02:07.94 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
(#)_ノ`)「奴は元々は別の能力の持ち主だった。
    しかし今まで普通の生活をしていたから、それに気付くことはなかった」

( ・∀・)「……術式に関係がある、と?」
  _、_
(#)_ノ`)「あぁ。 そして、そもそも答えは最初の時点で出ていた。
    奴が俺達の戦いに関わることとなった、あの最初の夜にな」

モララーは思い出す。
聞いた話だけではあるが、ギコがクーと出会った夜の状況を。

( ・∀・)「ツーさんとクーさんが戦っていたところへ来てしまった、と」
  _、_
(#)_ノ`)「術式や二十一種といった非日常を、日常に晒すわけにはいかんのは知っているな?
    それが術師としての……二十一種討伐の他の、もう一つの絶対使命だと」

無論、とモララーは答えた。

何せこう見えても気術東派の次期当主である。
今、この地で行なっている師との修行が終われば
故郷へ帰り、本格的に気術師として生きることとなるだろう。

――ギコの選択次第では、もう二度と会うこともない。



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:03:41.71 ID:fIRjb7Zo0
浮かんだ苦い思いを何とか抑えつけ

( ・∀・)「で、その使命がどうしました?」
  _、_
(#)_ノ`)「解らんか?
    俺達は非日常を日常に漏らすのを防ぐため、ある処置を施すだろう?」

( ・∀・)「結界――」

言い、そして気付く。
本来は一般の人間が入ることの出来ない空間に、ギコが入ったのだ、と。

それは決して不可能ではない。
術式という魔法じみたものがあれば、それを解除するための術式もある。
いくら結界と言えど、術式で構成されたものであるならば術式で無くすことが可能なのだ。

(;・∀・)「しかし、彼は術式の素質など持っていませんよ?
     それは半年ほど一緒にいた僕が一番知っている」
  _、_
(#)_ノ`)「違う、モララー。 事はもっと単純だったんだ」

一息。
  _、_
(#)_ノ`)「あのガキが持つ本来の能力は――『術式無効化』なんだよ」

(;・∀・)「えっ……!?」



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:04:56.16 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
(#)_ノ`)「術式でも何でもねぇ。 アイツは術式を全て無効化する体質を持ってやがるんだ。
    だから人払いの結界を無視出来たし、さっきの攻撃も全て消去された」

確かに『そういう能力』ならば術式の素質など何も関係ない。
反応を示すはずの術式の存在を隠していたモララーが、ギコの特異性に気付けるわけがなかったのだ。

(;・∀・)「で、ですが……」
  _、_
(#)_ノ`)「あり得ない話じゃねぇ。
    術式の素質を持つ人間が生まれるなら、術式に抵抗力を持つ人間が生まれてもおかしくないからな。
    そういうケースを聞くのは初めてだが」

(;・∀・)「し、しかし、それだけでは説明がつきません。
     彼が術式を無効化することが出来るのならば、あの危険の視覚化はどうするのですか?」

そう、元々の異常は『危険視』である。
これがあったために、ギコはこの戦いへ臨んでいったのだろう。

となれば、まさか彼は二つの能力を同時に内包しているのだとでも言うのか。



100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:06:01.53 ID:fIRjb7Zo0
だが、それでは説明出来ないことが多過ぎる。

モララーの焦燥を感じ取ったのか、渋澤は落ち着け、と呟いた。

答えは既に得ている。
焦る必要は何もない。

ただ、思う。

これがもし本当だとするならば、自分が負けたのはある意味必然であるかもしれない、と。
負けるべくして負けたのならば意味があったのだろう、と。

そしてゆっくりと言い聞かせるように、
  _、_
(#)_ノ`)「俺の予想が当たっていれば、あれは――」



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:07:18.28 ID:fIRjb7Zo0
そこは静寂に包まれていた。
だが騒がしくもあった。

様々な色が見え、しかし何も見えない。
何かが肌に触れ、しかし何も無い。
何処までも行けそうで、しかしとてつもなく狭そうな空間。

何も無く、そして何もかもが在る世界――人はそれを『夢』と呼ぶ。

そんなまどろみの中。
ギコが佇んでいた。

(,,゚Д゚)「…………」

虚ろな目で周囲を見渡す彼に、ハッキリとした意識があるのかは判断し辛い。
おそらく自分が夢の中にいるということすら解っていないのだろう。

ふと、その目が何かを捉えた。

(,,゚Д゚)「……あ」

そこで気付く。
自分の中の何かが無くなっていることに。



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:08:33.08 ID:fIRjb7Zo0
しかし喪失感よりも、安堵感の方が先に湧き上がってくる。

不思議だった。
何かを失ったというのに、それが正しいと思えた。
よく解らないが安堵している自分に、ギコは不思議と疑問を抱かなかった。

(,,゚Д゚)「…………」

ふと、見る。
姿こそは見えないが、今まで自分の一部だったモノが離れていくのを。

(,,゚Д゚)「そっか……もう役目を終えたのか」

何となく解った。
アレはもうやるべきことを為したのだ、と。

だとすれば、この身に留まっておく理由は何もない。



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:09:55.99 ID:fIRjb7Zo0
何処かへ去っていく『何か』をいつまでも見続ける。
それはきっと大切だったモノで、しかし自分が持っていても仕方ないモノ。
そして、ギコにとって大事な何かを共に護ってくれた『何か』。

(,,゚Д゚)「……サンキューな」

全てが解らないけれど、礼を言うべきだという思いから口に出す。
果たして声が届いたのかは解らないが、その『何か』は言葉を起点として消滅した。

いや、戻っていったのだ。

(,,゚Д゚)「さぁて」

それを確認したギコは軽く背伸びをする。
周囲の景色や音が一気に変わっていくのを見つつ、左手を腰に当て

(,,-Д-)「――――」

何かを呟き、この世界から己という意識を引き上げていった。



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:11:50.91 ID:fIRjb7Zo0
「あ」

という声が真っ先に聞こえた。
それは聞き慣れた声で、安心感を与えてくる。

続いて嗅ぎ慣れない匂いが鼻をつくことに気付き、
神経と血流の波に乗った意識が身体の重さを認識し、そこで両目を開いた。

(,,゚Д゚)「……お?」

ノハ#;凵G)「ギ、ギコッ!!」

( ・∀・)「ようやく目が覚めたか」

そこにいたのはヒートとモララーだった。
パイプ椅子に座っている二人は、ギコを挟んで左右に位置している。
わー、と半泣きで抱きついてくるヒートを呆然と見つつ、ギコは己の状態を確認した。

と、そこでようやく、自分が真っ白なベッドに寝かされていると理解した。

(,,゚Д゚)「えっと……?」

( ・∀・)「ここは病院だ。 何があったか憶えているか?」

(,,-Д-)「んー……」



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:12:53.80 ID:fIRjb7Zo0
( ・∀・)「まぁ、無理して急いで思い出すこともない。
     とりあえず身体の方は特に問題ないから、意識をハッキリさせるのに集中――」

(;,,゚Д゚)「――あっ!!」

多少のタイムラグを経て、ギコは全てを思い出す。
周囲を見て、目的の人物がいないことに気付いた彼は、身を跳ねるように

(,,゚Д゚)「……って、あれ?」

しかし、思った結果は得られなかった。
起き上がろうとした上半身が、上手く動いてくれなかったのだ。

いや、違う。
身体がおかしいのではない。
身体を支えようとして、出来なかったのだ。

夢で見た喪失感を、今度は強く得る。
何かに導かれるような自然さで右方を見て、

(,,゚Д゚)「あ――」

自分の右腕が無くなっていることに、初めて気付いた。

直後、ヒートとモララーが微かに俯く気配。



117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:14:23.81 ID:fIRjb7Zo0
不思議な感覚だった。

まだ頭の中では『右腕は存在する』と認識しているのか
無いはずの右腕の感触は、未だ神経と繋がっているようだった。

だが、どう見ても無い。

手品のように消えている右腕の根元には、清潔そうな包帯が強く巻かれているだけ。
微かな生温い感触が、背骨を伝ったのをギコは感じる。

( ・∀・)「……見て解る通り、お前の右腕は無い。
     その理由はお前が一番解っているな?」

(,,-Д-)「あぁ……もちろん」

自分でやったのだ。
クーが与えてくれた腕を、彼女に返すために。

この先、腕を千切った痛みを忘れることなど出来はしないだろう。
それこそ死ぬ瞬間まで、そしてこれからは悪夢にうなされる夜が続くに違いない。
見えぬ痛みと痒みに襲われ、しばらくベッドの上でもがき苦しむオプション付きだ。

だが、後悔は微塵もなかった。

むしろ右腕が無いという事実に安心さえした。



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:16:01.81 ID:fIRjb7Zo0
(,,゚Д゚)「……クーは?」

( ・∀・)「お前は手術が終わった後も三日ほど眠りこけていてな」

(;,,゚Д゚)「ま、まさか」

( ・∀・)「だが安心しろ。 彼女はまだこの地に留まっている。
     お前に話があるらしい」

言いつつ、モララーは椅子から立ち上がった。

( ・∀・)「丁度良く、もうすぐ彼女が見舞いにくる時間だ。
     どうせなら下で迎えよう。 お前が元気であることを証明するためにも、な」

(,,゚Д゚)「俺、もう歩いたりして良いのか?」

( ・∀・)「ここの医者は僕の父上が認めるほどの腕を持っている。
     いくつかの注意事項と薬を受け取れば、すぐにでも退院出来るよ。
     ただし絶対安静だけれどね」

割と無理を言ったのではなかろうか。
素っ気なく答える親友に、ギコは心の中で感謝した。



120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:17:26.00 ID:fIRjb7Zo0
(,,゚Д゚)「――っと」

モララーに肩を借りて立ち上がる。
血が足りないのか、少し思考に霞が掛かってはいるが特に問題ないようだ。
病室の出口を目前にする頃には、もう一人で歩けそうな状態になっていた。

(,,゚Д゚)「って、そういやヒー姉は……」

傍で心配そうにこちらを見るヒート。
普通に右腕切断やら何やら物騒な現実なわけだが
果たして、彼女はどこまで知ってここにいるのだろうか。

( ・∀・)「勝手で済まないが事情は説明している。
     そうでもしないと納得しなかったし、何より彼女自身もそれを望んだ」

ノハ#゚听)「じゅ、術式とかよく解らんが……ッ。
      お前が大変な事件に巻き込まれていたのは解ったぞッ。
      まぁ、家が壊された時点で色々と感付いてはいたがッ」

(,,゚Д゚)「……そっか。 今まで隠しててごめん」

ノハ#゚听)「それはもういいッ。
      だがギコ、クーさんとの再会の後でいいから話があるッ。
      憶えておけッ」

(;,,゚Д゚)「りょ、了解ッス」

何やら鋭い剣幕の姉にギコはたじたじと答えた。
どうも以前の姉とは何かが違うようだが、肝心の内容が解らない。



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:19:14.16 ID:fIRjb7Zo0
(,,゚Д゚)(ま、向こうから話すって言ってるんだし、今は――)

クーと会いたい、と思いを込めて病室のドアノブを回す。
開いた先には

('A`)「よぉ」

白い廊下を隔てての壁際にブサイク――ではなく、ドクオが面倒そうな表情で腕を組んで立っていた。
流石に刀は差していなかったが、おそらく足下に置いてあるバッグの中に入れてあるのだろう。

(,,゚Д゚)「……アンタもいたのか」

('A`)「あくまでモララーの付き添いだ。
   誰が男の見舞いなんぞ喜んで行くか」

(,,゚Д゚)「ですよねー」

この男とはソリが合わないと解っているギコは、適当に返事をして歩き出す。

('A`)「だが――」

(,,゚Д゚)「え?」

('A`)「……まぁ、良い顔になったんじゃねーか?
   男の見舞いは面倒の極みだが、それが見れたのは良しとすっかね」



127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:20:55.95 ID:fIRjb7Zo0
ぶっきらぼうに吐かれた言葉。
意味を理解するのに、ギコは数秒の時間を必要とした。
そしておもむろに窓の外を見て

(;,,゚Д゚)「槍とか降ってないよな……?」

('A`)「おいコラちょっと待て。 どういう意味だそれ」

(;,,゚Д゚)「アンタがそんなこと言うなんて思ってなかったから」

('A`)「言うようになったじゃねぇか……。
   今のテメェは俺の剣の獲物になりえるんだぜ? そこンとこ理解してろ」

さっさと行け、というジェスチャー。
彼の言葉の意味が解らなかったギコは、しかし促されるようにして歩いていく。
背後にいたモララーが小さく笑みを浮かべた。

( ・∀・)「珍しく素直じゃないですか」

('A`)「うっせぇな。 無意味に喧嘩するほど馬鹿じゃねーよ」

( ・∀・)「でも、顔云々は事実ですよね?」

('A`)「……まぁな。 一皮剥けたっつーか。
   モララー、アイツを仲間に引き込むなら今の内じゃねーか?
   鍛えりゃかなり強くなるぞ」



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:22:06.97 ID:fIRjb7Zo0
( ・∀・)「はは、止めときます。 あの二人の仲を裂くことはしたくないし、それに――」

('A`)「それに?」

( ・∀・)「ギコとは仲間ではなく親友でいたいんです」

('A`)「はぁ……ホントお前わかんねーわ」

半目で言い、首を振るドクオ。
モララーとの付き合いは長いが、未だこういう部分は理解出来ていない。
どうも有利不利よりも大義や尊厳を大切にするあたり、父の血を濃く引いているらしい。

( ・∀・)「あとはギコの答え次第です」

('A`)「……まぁ、ほとんど決まってるようなもんだろうがな」

( ・∀・)「ですねぇ」

ヒートの手に支えてもらいつつ歩く後ろ姿を見つつ、二人は違った意味で溜息を吐いた。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:24:02.54 ID:fIRjb7Zo0
空港のロビーに、一際目立つ三人組がいた。
  _、_
( ,_ノ`)「久々の郷国は散々だったなぁ」

スーツ姿の渋沢は椅子に座って缶コーヒーを飲んでいる。
その横ではサングラスを掛けたツーが雑誌を読みつつ

(*-∀-)「ワタシ、この一週間の出来事は全て頭からデリートするネ」
  _、_
( ,_ノ`)「はは、お前らしい。 なぁクックル?」

( ゚∋゚)「…………」

椅子三つ分を占有しているクックルが、ゆっくりと頷いた。

(*-∀゚)「あー、でもとんだ無駄骨だったヨー。
     結局bP7は捕らえられず仕舞いで、しかも速攻で帰還だなんてー」
  _、_
( ,_ノ`)「一日だけ休暇滞在出来たのは誰のおかげだと思ってやがる。
    それに、大量の土産を両サイドに置いて言う台詞じゃねぇな」

(*-∀-)「むぅー」

どうも彼女は休暇云々よりも任務の失敗が気に入らないらしい。
負けず嫌いというわけでもないのだが、どこか完璧を求める部分があるのか。



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:25:28.07 ID:fIRjb7Zo0
  _、_
( ,_ノ`)(まぁ、すんなり切り替えられるよりもマシか)

今回、クーを諦めた理由をツーとクックルは知らない。
後で説明をしようとは思っているが、まずはこの国を出ないと怒りで暴走しかねない。

時間だ、と呟いて立ち上がる渋澤。
面倒そうにツーが荷物を持ち、クックルが抱える。
そんな時だった。

「――ほほぅ、こんな場所で出会うとは奇遇だな」
  _、_
( ,_ノ`)「む?」

(*゚∀゚)「あ?」

( ゚∋゚)「?」

背後から男の声が掛かり、三人が同時に振り向く。
いつの間にか立っていたのは

( ´_ゝ`)「『コンスタントガンナー』様ともあろう御方が、何も得られずに帰られるのか?」

(´<_` )「いや、土産はしっかりと持っているようだが」

双子と思わしき男が二人。
黒の布を肩から足下まで羽織っており、それぞれの手には大きなケースが下がっている。



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:26:50.90 ID:fIRjb7Zo0
流石兄弟と呼ばれる二人組の方術師だ。
気術とも魔術とも異なる三種目の術式の使い手。
東洋系の地域一帯を根城とする、非常に我の強い集団でもある。

( ´_ゝ`)「ははははは、弟者、それじゃあただの旅行帰りだろう?
     渋澤達はbP7を捕らえるという重要任務のため、この国へ来た。
     それがまさか土産だけ持って帰るような無様な姿を見せるわけが――」

言い、双子の片割れが皮肉な笑みを浮かべ、

( ´_ゝ`)「おや? ところでbP7の姿が見えないな。
     どこに折り畳んで収納しているのだろう?
     ガンナー様は強過ぎるが故に、もしかしたら不死さえも殺してしまいましたかな?」
  _、_
( ,_ノ`)「……アンタら、どうしてここに?」

その理由は既に知っているわけだが、知っているという事実は隠蔽されるべきであり
故に渋澤は、とぼける振りをして疑問を口にする。

( ´_ゝ`)「いや、何。 生ける伝説とまで呼ばれる貴方が苦戦していると聞いてな。
     わざわざ援軍に来てみたのさ」

(*゚∀゚)「いらん世話ネ」

(´<_` )「その割には随分と暗いムードで帰還するようだが。
     まぁ、後は俺達に任せておけばいい」

( ´_ゝ`)「そういうことだ。 ははははは」



142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:28:13.66 ID:fIRjb7Zo0
本来ならば怒るべき場面なのかもしれないが、渋澤は呆けるようにして双子を見ている。
やがて面倒そうに溜息を吐いた彼は、下ろしていた荷物を背負って
  _、_
( ,_ノ`)「……まぁ、御苦労なこったな。
    では、そろそろ時間なので我々は失礼させてもらう」

( ´_ゝ`)「くふふ、俺達の戦果を期待しつつ待っていろ」

言い合い、すれ違う。
渋澤達はこの国を出るため、流石兄弟はこの国へ降り立つため。
既に終わった者達と、これから始めようとする者達が交錯する。
  _、_
( ,_ノ`)「あぁそうだ」

少し歩き、渋澤は何かを思い出したように手を叩いた。
  _、_
( ,_ノ`)「アンタら、すぐ帰る準備しといた方がいいぞ」

( ´_ゝ`)「は?」
  _、_
( ,_ノ`)「すぐに解るさ」

不敵な笑みを浮かべた彼は、そのまま流石兄弟を見ることなく歩いていった。
雑踏の中に消えていく三人組を見つつ、双子は首を傾げる。



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:29:39.47 ID:fIRjb7Zo0
と、タイミングを計ったかのように懐から電子音が鳴り始めた。

(´<_` )「む? 連合からか?」

( ´_ゝ`)「あぁ……何だろ」

折りたたみ式の携帯端末の画面を見る。
そこに書かれていたのは、術式連合からの通達命令であった。
無駄に長い形式の文を読んでいくにつれ、二人の顔が青ざめていく。

(;´_ゝ`)「……え? 帰還?」

(´<_`;)「……bP7に手出し厳禁?」

(;´_ゝ`)「ど、どゆこと!?」

(´<_`;)「解らん……だが、とりあえずこの国に俺達のターゲットはいなくなった、ということだ」

(;´_ゝ`)「嘘っ!? だ、だってさっき渋澤さんにあんなこと言っちゃったよ!?
     だってのに何もせずに帰っちゃったら絶対軽蔑されるって!!」

(´<_`;)「しかし命令に背くわけにもいかんだろ」

( ;_ゝ;)「うおおおおおおおん! やだやだぁぁぁあああ!!」

空港ロビーという広い空間に、双子の男の悲痛な叫び声が木霊していった。



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:31:25.58 ID:fIRjb7Zo0
エレベーターを使い、病院の一階部分に辿り着いたギコは
すぐに目的の人物を見つけた。

(,,゚Д゚)「クー!」

声に、今来たばかりなのか、入口の自動ドア付近に立っていた女性がこちらを見る。

川 ゚ -゚)「ギコ」

手に持っているのは少し大きな袋。
おそらく見舞いの品が入っているのだろう。
同じようにギコを見つけたクーは、あまり彼を歩かせないよう早歩きで近付いてくる。

あの時と変わらない姿だ。
ただ違うのは、いつも背負っていた棺桶を持っていないこと。
流石に病院内で持ち歩くわけにはいかないと判断したのか。

川 ゚ -゚)「ようやく目が覚めたようだな。 待ったぞ」

(,,゚Д゚)「あぁ、悪ィな」

川 ゚ -゚)「……いや、よく考えれば当然か。 むしろ早いくらいかもしれん」



152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:33:45.34 ID:fIRjb7Zo0
彼女視線がギコの右肩へ移る。
既に無くなっている部分を見て、眉尻を微かに下げ、

川 ゚ -゚)「やはり面倒ではないか?」

(,,゚Д゚)「いいや、全然。 
    確かに利き腕が無いのはキツいけど、だったら左に変えればいいだけだ。
    サウスポーって何かかっこいいし結果オーライ」

川;゚ -゚)「やはり、私の腕を――」

(,,゚Д゚)「おいおい、また言い合いするつもりか?
    俺が良いって言ってんだから良いんだよ」

それが強がりであることを知っていた。
しかし同時にギコの強情さも知っているクーは、それ以上言うことはなかった。
いや、出来なかった、が正しい表現となるか。

(,,゚Д゚)「んで、俺が寝てる間にどうなったんだ?
    あのオッサンとかに襲撃されてないのか?」

川 ゚ -゚)「あぁ、それについて――」

( ・∀・)「そこからは一番詳しい僕が話そう。
     とりあえず場所を変えて、ゆっくりとね」

背後から追いついてきたモララーが言う。
クーが少しむっとした表情を出すが、確かに病院のロビーで話すような内容ではない。

ドクオやヒートも連れて、ギコ達は早々に病院から退散することとなった。



154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:35:16.78 ID:fIRjb7Zo0
結局、最終的に辿り着いた場所はギコの家であった。
目が覚めてそのまま帰ってきたわけだが、モララーの計らいで退院はすぐにでも出来る状態になっており
残してきた荷物やらは後日、病院側から届けられる手筈となった。

というのも、ギコの回復力が尋常ではないからである。
本来ならば絶対安静期なのだが、眠りこけていた三日の間にその期間が終わってしまったとか。
果たしてギコ自身の治癒能力が高いのか、他に要因があるのかは医師も首をひねっていたらしい。

両方だ、と密かにモララーは思っていた。

いや、正確に言えば後者があったからこその前者と言うべきか。
あの戦いの後、渋澤に聞いた話が無ければ思うことすらなかっただろう

( ・∀・)(…………)

信じられない話ではあったが、
よくよく考えれば、その証拠のようなモノをモララーは幾度か見ている。
それを今から話さねばならないわけだが、ギコが理解出来るか多少心配であった。

玄関を通り、居間へ。
ヒートが御茶の用意をする間に、現状の確認を行なう。

(,,゚Д゚)「……で、襲撃は無くなったのか?」

( ・∀・)「あぁ、クーさんを狙っていた渋澤さん達は撤退したよ。
     もう彼らが襲撃することはないと思う」



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:37:14.73 ID:fIRjb7Zo0
(,,゚Д゚)「何でさん付け?」

( ・∀・)「まだ僕が中学生になりたての頃、一度だけ会ったことがあるんだ。
     彼は父と仲が良くてね。 使う術式は異なれど、だからこそ切磋琢磨して互いを高めていたらしい」

ということは、息子であるモララーの頼みで退いたのだろうか。
思うが、しかし渋澤達がその程度で諦めるとは思えなかった。

( ・∀・)「理由は僕じゃない。 君にある」

(;,,゚Д゚)「お、俺?」

( ・∀・)「君はクーさんと接触してから、不思議な能力が発現したね?」

(,,゚Д゚)「……あぁ」

危険の視覚化。
来るであろう危険を、予め『赤い線』として見ることの出来る力だ。
何故か発現したこの力を使い、ギコは何度かの死線を潜り抜けてきた。

( ・∀・)「僕も渋澤さんも、てっきりそれが君の固有能力だと思っていたんだ。
     だけどそれは違った」

(;,,゚Д゚)「違ったって言われてもな……俺はそれ以外知らないけど」

( ・∀・)「君がクーさんを背負って、僕のいた師の家に現れたのは覚えているかい?」

問われ、思い出す。
クックルとの戦いの後、突然倒れてしまったクーを助けるため
力になってくれるであろうモララーのいる家へ向かった時のことだ。



158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:39:01.26 ID:fIRjb7Zo0
( ・∀・)「僕は防衛と気術の修行の兼ねて、その家の周囲に結界を張っておいたんだ。
     だけど君は、それを完全に無視して入ってきた」

(;,,゚Д゚)「…………」

というかギコにとっては、そもそも結界云々の話が初耳である。

( ・∀・)「それだけじゃない。
     不思議なことに、君がクーさんを連れて帰る時には結界が発動したんだ。
     君が来た時には働かず、帰る時だけね」

(,,゚Д゚)「壊れてたんじゃねぇのか?」

川 ゚ -゚)「それはないな。 術式は完成しなければ発動しないモノだ。
     結界が張られているという事実がある以上、それが機能しないことはない」

( ・∀・)「そして君が最初にクーと出会った時も、同じく結界を突破している。
     このことから考えるに……君は術式というロジックを無視する能力を持っているんだ」

(;,,゚Д゚)「マジか!?」

( ・∀・)「だから渋澤さんも手を引いたんだよ。
     術式を無効化する敵なんて初めてだったし、それに――」

目線はクーが方へ行き

( ・∀・)「彼が言うには『bP7は、あのガキが傍にいりゃ問題は起こさんだろ』らしいよ」



161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:40:17.93 ID:fIRjb7Zo0
(,,゚Д゚)「俺? 何で?」

川 ゚ -゚)「ふむ。 元から起こす気は一つもないのだがな」

('A`)(だーめだこりゃ)

ドクオが誰にも気付かれないよう溜息を吐いた時
茶菓子と湯呑みを盆に乗せたヒートが台所からやってくる。

ギコは、真っ先に茶菓子に手を出したクーを半目で見つつ、

(,,゚Д゚)「じゃあ、あの危険を見る能力ってのはどう説明するんだ?」

( ・∀・)「それは渋澤さんが教えてくれた。
     『スイッチ』だとね」

川 ゚ -゚)「スイッチ……切り替えられるということか?」

( ・∀・)「少し違う。 というのも、ギコは最初は術式無効化の力を持ってたわけだけど
     『ある条件』が重なってしまったことで、危険の視覚化という能力に変化してしまったんだ」

(,,゚Д゚)「ある条件って、まさか――」

( ・∀・)「――そう、クーさんの存在だ」



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:41:35.76 ID:fIRjb7Zo0
ノハ#;゚听)「ど、どういうことだッ?」

( ・∀・)「ギコの右腕の代わりとして、クーさんの腕が接続されたという事実から
     おそらく二十一種としての力がギコの身体に作用したんだと思う。 
     そしてさっき言ったスイッチと言う通り、それはクーさんの意識と繋がってるんじゃないかな」

(,,゚Д゚)「あ」

そういうことか。
モララーの師の家に行った時、クーは意識を失っていた。
ということは、あの時のギコは危険視ではなく無効化の方を働かせていたのだ。

そしてクーが目覚めれば、また彼女の右腕とギコの身体の接続が再開され
危険の視覚化という能力が発現するのである。

この理屈であれば、今まで解らなかった事象の説明も可能だった。

渋澤と戦った時も、ギコはクーの腕を身体から離したからこそ
あの魔力弾を防ぐことが出来たのだろう。

あぁ、とギコは心の中で言う。

目が覚める前に見た夢は、きっと残ったクーの残滓だったのだ。
役目を終えた接続が切れる感覚を、夢として見たのだろう。



165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:43:09.19 ID:fIRjb7Zo0
( ・∀・)「まぁ、そういうわけだ。
     ギコは元から特異な存在でありながら、クーさんという特異な存在に触れたことにより
     更に特異となってしまったわけ、ということだね」

('A`)「贅沢にも程があるぞテメェ」

(;,,゚Д゚)「いや、そんなこと言われても……」

( ・∀・)「術式を無効化する存在と、不死の存在。
     確かに術式で戦う人間から見れば、これほど恐ろしい敵もいないだろう。
     加えて、二十一種の一種とされるクーさんは自衛以外に戦闘行動を起こしていない。
     そういう要素が判明したから、連合の方もしばらく様子を見ることにしたんだ」

ノハ#゚听)「良かったなッ」

(;,,゚Д゚)「お、おぉ! よく解らんが!」

(;・∀・)(……やっぱり)



168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:44:26.40 ID:fIRjb7Zo0
ともかく、しばらくは襲撃の心配がなくなったという事実は伝わった。
あとは連合に帰った渋澤達と自分の働き次第となるが、何とかしてみせるつもりである。
親友の幸せを壊すことだけは絶対に避けたい。

( ・∀・)「とりあえず、これで僕の方からの話は以上だ。
     あとは……」

言い、それぞれの顔を見る。
ドクオは最初から話に興味などないし、ヒートも『後で話せるから』と首を振った。
となれば、残っているのはクーとなる。

川 ゚ -゚)「解った」

モララーの促しを受けた彼女は席を立ち、

川 ゚ -゚)「だが、ギコと二人だけで話したいと思う。 良いか?」

と、ギコの目を見て言い放った。



170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:46:00.84 ID:fIRjb7Zo0
既に昼の時刻を過ぎている陽は、段々と下りの軌道をなぞろうとしていた。

場所はギコ家の庭だ。
洋館と呼べるほどに広い家には、それなりの広さを持つ庭もついていた。
流石に運動場レベルとまでは言えないが、走り回れる程度の広大さを持っている。

上着を着ていれば寒くはない。
春という新しい季節が生む、ほどよく暖かい風が髪を揺らす。

そんな中で、クーとギコは立っていた。
クーがギコに背中を見せている状態だ。

川 ゚ -゚)「改めて見るとお前の家は広いな。 金持ちというやつか」

(,,゚Д゚)「まさか。 俺達を育ててくれた人が貸してくれてんだよ」

川 ゚ -゚)「親か?」

(,,゚Д゚)「いいや、両親はいつの間にか死んでたから、小さい頃は親戚に預けられてたんだ」

父と母を何と呼んで良いのか解らず、『両親』という余所余所しい言葉を使う。
それを聞いたクーは、軽く目を見開いた。

川 ゚ -゚)「そうか……すまない。
     よく考えれば解りそうなものだったな」

(,,゚Д゚)「いいよ。 それより聞きたいことがあるんだけどさ」



172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:47:56.52 ID:fIRjb7Zo0
何だ、と軽く振りかえるクー。
未だ見せている背中に、ギコは問う。

(,,゚Д゚)「これからどうするんだ?」

それは聞いて当然の疑問だった。
もはやクーを狙う輩はいない。
しばらく、という限定条件付きではあるが、今までのように隠れて生きていく必要はなくなったのだ。

川 ゚ -゚)「…………」

(;,,゚Д゚)「……あ、あのさ、クーが良ければここに――」

川 ゚ -゚)「すまない」

遮るように放たれた言葉は拒否であった。

川 ゚ -゚)「私には目的があるから」

(,,゚Д゚)「目的……?」

川 ゚ -゚)「この国に来たのもそのためだ。
     まだ私は目的を果たしていないから、止まることは出来ない」

言う目には確固たる意志が宿っていた。
たとえギコが本気で説得しても、おそらく曲げる気はない強い意志だった。



175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:49:16.50 ID:fIRjb7Zo0
(,,゚Д゚)「……そこまで大切なのか、その目的は」

川 ゚ -゚)「あぁ」

迷いもなく吐かれた返事に、ギコは目を伏せるしかなかった。
何度か何かを言おうとするが、声として出ない。
落ち着かせるように少し考え

(,,゚Д゚)「そっか……残念だな。
    ずっと一緒にいられると思ったんだけど」

川 ゚ー゚)「いつかまた会えるさ……いや、君となら是非とも会いたいな」

(;,,゚Д゚)「――!!」

心臓が跳ね上がるかと思った。
いきなり見せられた綺麗な笑みに、一瞬で耳まで赤くなる。

(*,,゚Д゚)「え、あ、いや、お、俺も会いたいから……!」

川 ゚ー゚)「あぁ、君の成長した姿を見るのが今から楽しみだよ」

口元に笑みを浮かべたクーは、右腕を差し出す。

川 ゚ー゚)「約束しよう。 必ずまた会おう、と」

(,,゚Д゚)「クー……」



177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:52:21.32 ID:fIRjb7Zo0
本気で美しいと思う白い右手を、ギコはドギマギしながら左手で握った。
彼女の方も優しく握り返してくる。

握手とは言えない形ではあるが、クーの狙いが解っているので問題はなかった。

(,,゚Д゚)(この前まで、俺はこの腕と一緒に――)

少し懐かしい気持ちが心に浮かぶ。
自分は、つい先日までこの腕と一体化していたのだから当然だ。

(,,゚Д゚)「でもさ……だったら聞かせてくれ。 クーの目的ってのを」

川 ゚ -゚)「君が聞く権利は確かにある。 だが、あまり良い話ではないぞ」

(,,゚Д゚)「大丈夫、だと思う」

そうか、と呟いたクーは少し遠い目をした。
積み重ねた莫大な量の記憶を、大切に掘り下げているような表情だ。

川 ゚ -゚)「……私はな。 ある男を待っているんだ」

(;,,゚Д゚)「お、男?」

川 ゚ -゚)「かつて私を助けてくれて、最後まで一緒に戦ってくれた男だ。
     あの時の彼がいなければ……私は君と出会えてはいなかっただろう」

(,,゚Д゚)「そいつを待ってるのか?」

川 ゚ -゚)「あぁ、約束したんだ。 彼の目的を果たした時、必ずまた会おうって。
     だから私は彼を見送り、そして今まで生き続けてきた」



179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:53:57.96 ID:fIRjb7Zo0
ギコの想像で補えるような小さな話ではないだろう。
彼女が話しているのは、おそらく二十一種全てがこの世界にいた時代の頃だと思えたからだ。

川 ゚ -゚)「もう何百年も経ってしまったが、私はきっと帰って来ると信じている。
     だから誰にも捕まるわけにはいかなかったし、死ぬわけにもいかなかった」

ギコは、手に力を入れまいと必死に抵抗した。

嫉妬が無いと言えば嘘になる。
あのクーに、そこまで言わせる男の存在が気に入るわけがない。

微かな耳鳴りと唇の渇きを自覚しながら、更にギコは問う。

(,,゚Д゚)「その男の名前は……?」

待っていた、とばかりにクーが笑みを浮かべる。
先ほどとは種類が異なるその表情の正体は、ギコの知る限りでは『誇らしい』に属していた。



川 ゚ー゚)「――『クレティウス』。
     私は、その男をいつまでも待ち続けている」



184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:55:39.61 ID:fIRjb7Zo0
それから何を話したのかよく覚えていない。
とにかくクーが嬉しそうに語るのを、ぼーっとしながら聞いていた。

あまり理解は出来なかった。

難しい以前に、そんな神話じみた話をいきなり喋られても
頭がそれを処理し難かったからだ。

ただ、『アスキー何とかシステム』がどうとか、そういう聞き覚えのない単語だけが記憶に残った。

ふと気付けば、ギコは玄関先に立っていた。

( ・∀・)「本当に行くんですね?」

川 ゚ -゚)「あぁ、私はこれから北へ向かう。
     このリュミシカラスのメンテナンスと改造をしてもらうために、ある人物を探すつもりだ。
     それが終われば、またここに来ることが出来るかもしれない」

('A`)「いつになるのやら」

川 ゚ -゚)「さぁ……一年以上かもしれないし、それ以下かもしれない」

大きな棺桶を背負った彼女が、夕日に照らされて立っている。

(,,゚Д゚)「…………」

それを、ギコは半ば呆然と見つめていた。



186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:57:16.08 ID:fIRjb7Zo0
川 ゚ -゚)「では、世話になったな」

ノハ#゚听)「いいやッ、全然ッ! また遊びに来いよッ!」

( ・∀・)「何かあれば連絡してください。
     僕で良ければ、いくらでも力になりますから」

川 ゚ -゚)「あぁ、ありがとう」

('A`)「もう面倒事は起こしてくれるなよ」

川 ゚ -゚)「努力するよ」

苦笑し、ギコへ視線を向ける。

川 ゚ -゚)「短い間だったが、ありがとう。
     一時期は希望を失いかけたが私は君に救われた。
     本当に感謝している」

(,,゚Д゚)「……あぁ、俺もだ。 ありがとう」

川 ゚ー゚)「じゃあ、な」

重そうな棺桶を背負い、余った手にヒート達からの餞別が入った袋を持ち
クーは未練も何も残していないかのように、颯爽と背を向けて歩き始める。



189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/18(金) 23:58:46.35 ID:fIRjb7Zo0
(,,゚Д゚)「…………」

( ・∀・)「良いのか?」

親友の言葉にギコは首を振った。
一時的とはいえ、こんな別れ方は精神衛生上的にも良くない、と。
それで吹っ切れたギコは、あまり動かし慣れない左腕を天へ伸ばした。

(,,゚Д゚)「クー!」

川 ゚ -゚)「?」

(#,,゚Д゚)「今は泣いたり、暗い顔はしねぇ!
     次に会う時にも笑顔が浮かべられるように、笑ってさよならだ!」

呆けるようにクーの表情が固まった。
隣ではヒートが同じような表情を浮かべ、モララーは目を弓にし、ドクオは悪い意味で笑う。
それでもかまわず、ギコは言葉を続けた。

(#,,゚Д゚)「俺、絶対に強くなるからさ!
     クーを護り通せるような奴に絶対なるから! 楽しみに待ってろよ!」

決めた、と強く心に刻む。

自分はクーを護れるようになりたい、と。
クレ云々とか言う変な名前の奴なんかには負けない、と。



193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/19(土) 00:00:23.31 ID:aTnO6aZq0
もはや意味の解らない告白を受け、クーは夕日の中で


川 ^ー^)「あぁ――待っているよ、ずっと」


と、今まで見せたこともない美しい笑顔で返してくれた。

ギコは、その笑みを決して忘れることはないだろう。

彼女と共にいたことによって得た誇りを育て、彼女を護れるようになるまでは。

本当の意味での、心からの笑みを見るまでは。





             在り得ないなど、在り得ない



      だから私に死を与えよ。 しからずば理解の友を与えよ




            川 ゚ -゚)クーは生き続けるようです

                   ―Fin―



戻るあとがき