( ^ω^)がサイレンの鳴る雛見沢でわらべ唄を歌うようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:45:07.77 ID:8J8/T0s80


八月十七日

一度目のサイレンが哭く。


土砂降りの雨の中、ぼくは愛車のマウンテンバイクを必死に押していた。
全身に雨を受けながら、おおきく溜息をつく。

(;^ω^)「……天気予報はずれすぎだお…」

誰に言うでもなく呟いた声はすぐさま雨音にかきけされてしまう。
そう、今朝みてきて天気予報では、こんな大雨になるなど一言もいっていなかった。
今日だけじゃない、今後一週間は雨なんて降る予報じゃなかったはずだ。
晴れのちくもり、たしかその程度。

だから雨具なんて用意せずに来たっていうのに。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:45:56.45 ID:8J8/T0s80

(;^ω^)「ちくしょー失敗したお…」

服は雨をすいこんでいよいよ重たいし、もうずっと歩きっぱなしで、疲労はピークだった。
ほんとうに村なんてあるのだろうか。
迷信である可能性も高い。村跡すらないかもしれない。

こうして半ば迷子になりながら雨にうたれ、ぼくは自分を心底愚かだとおもう。
おもうけど、決して後悔はしていなかった。
オカルト好きの血が騒いで飛び出してきたのだ。
好きでやったことに、後悔する必要はない。

( ^ω^)「迷子もなかなかいいもんだお…なんて…うう、さむいお、やっぱ帰りたいおっお」

それに腹も減ったし。
このまま遭難して死ぬんじゃないだろうか。

前言撤回。やっぱり、すこし後悔している。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:47:05.73 ID:8J8/T0s80

あたりは薄暗いし、まわりの景色はずっと木ばっかりで、時間の感覚がなくなってきた。
この腹の減り具合から、きっともう夕方だ。
いや深夜かもしれない。もしかしてもう朝?
ぞっとする。

( ^ω^)「あ、そういえばGショックつけてたんだお」

すっかり忘れていた。
防水加工のすごい時計だ。コンパスもついているのだ。

画面に付着しまくっている雨粒をぬぐいさり、時間を確認しようとしたとき、
妙な音が聞こえた。

それは風の音のようでもあったし、生き物の鳴声のようでもあった。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:48:09.34 ID:8J8/T0s80

( ^ω^)「へんな音…」

ぞくりと悪寒がはしった。
雨が冷たいからじゃない。
この音のせいだ。
遠くから、いやすぐ下の地面から?
四方から聞こえてくるようだ。
この雨音の間をぬって、直接耳にひびいてくる。
低く、高く、澄んだ、いや濁った、不思議な音だった。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:49:06.38 ID:8J8/T0s80

(;^ω^)「なんか…ヤな気分だお……恐いお」

空気をふるわせ、地を伝い、耳を通って内臓にずんと響く。
不快だ。不安を煽られているような。
なにか…警告されているような。


これは――― サイレン ?


(;^ω^)「どどどどどうするお、土砂崩れとか、川の氾濫とか、死ぬおっおっお」

雨がさらに激しくなった気がした。
警報が響く。
いったいどこに逃げたらいいのだろう。
耳を澄ますが、サイレンと雨の音しか聞こえない。

歩く足を止めてしまう。

警報が響く、響く。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:50:12.06 ID:8J8/T0s80

「…じょ、ぶ…かな……?」

え?

「大丈夫、かなあ…?」

サイレンが止み、雨音が聞こえなくなった。気がした。


目の前に現れたのは、赤い傘をさした女の子。
年はぼくとたいして変わらないだろう。

从'ー'从「大丈夫、かなー?」

小首をかしげてもういちど問われた。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:51:28.75 ID:8J8/T0s80

( ^ω^)「ぼ、ぼくですかお…?」
从'ー'从「迷子かなー?」
( ^ω^)「まあ、そんなようなもんですお」
从'ー'从「そっかあ。でも大丈夫だよー、ちかくに村があるからね、休んでいったらいいですよ?」
そういって彼女は傘をさしだした。

ちかくに村が…
もしかしたら、探していたところかもしれない。

( ^ω^)「そうですかお!ありがたいですお!」

さっきまでの不安は吹き飛んでいた。
いつの間にかサイレンは聞こえなくなっていた。
先に歩き出していた彼女をおいかけ、傘をさしてやる。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:52:10.71 ID:8J8/T0s80

( ^ω^)「そういえばさっき、警報が鳴ってたみたいだけど、大丈夫なのかお?」

从'ー'从「あれれー?警報なんて、鳴ってたのかなー?」
( ^ω^)「ついさっきまで、鳴ってたお」

从'ー'从「うーん…風じゃないかな?高い山に囲まれてるから、ただの風が警報みたいに
響くときがあるんだよー?」
( ^ω^)「風かお。なるほど」

確かに風のうなり声のようだったかも、と思い出そうとして、
なぜかまったく思い出せなかった。
どんな音だっただろう。
まあ…どうだっていいか。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:53:03.81 ID:8J8/T0s80

从'ー'从「着きましたよー」

目の前には、瓦屋根が連なり、田んぼや畑がどこまでも広がっていた。
ぽつりぽつりと傘を差し歩いている人の姿も見えた。

从'ー'从「私の家が近くなので、あがってくださいねー?」
( ^ω^)「ありがとうだお」

彼女の家は、以外にも洋風建築のわりと大きな家だった。
表札には【渡辺】と書かれていた。
ドアの前まできて、彼女が一生懸命ポケットをさぐっている。

从'ー'从「あ、あれれ〜?鍵がないよ〜?」
(;^ω^)「え…大丈夫かお」
从'ー'从「あ!あったよー!よかったー」

ドアを開けたとたん、ふわりと暖かい空気が流れ込んできた。

从'ー'从「どうぞ〜」

傘のしずくを払いながら彼女が言った。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:54:10.66 ID:8J8/T0s80

( ^ω^)「おじゃましますおー」

一般的な家だった。
玄関からのびた廊下を歩き、リビングに通される。

从'ー'从「タオルと着替えもってくるねー」
( ^ω^)「なにからなにまで、ふ、えっくしょーいっ!」
前髪からつたうしずくが次々とじゅうたんに落ちていく。
(;^ω^)「ぎゃあああ、大変だお、タオルはまだかお」

从'ー'从「あれれ〜?タオルがないよ〜?」
少し離れたところから彼女のあせった声が響いてくる。
よくなくしものをする人らしい。
あったよ〜!の声とともにぱたぱたとかけてくる足音がする。

从'ー'从「はい、タオルだよー。あと、お父さんのだけど、ジャージどうぞー」
( ^ω^)「すまないお。ありがとうだお」
がしがしと頭をふく。やわらかい。いい匂いがした。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:54:54.85 ID:8J8/T0s80

从'ー'从「紅茶、好きかな?」
( ^ω^)「あ、好きですお」
从'ー'从「じゃあ紅茶を淹れてくるから、着替えててねー」

そういってキッチンに消えていった。
ぐっしょりとぬれた服をぬぎ、ジャージに着替える。
おそるおそるソファにこしかけ、ほっと息をつく。

しばらくして、甘酸っぱい香りとともに彼女がやってきた。
目の前のテーブルに紅茶がおかれる。
何時間も雨の中をさまよって冷え切った身体に、温かい紅茶はとても有難かった。

( ^ω^)「おいしいお。ありがとうだお」
从'ー'从「そうだ、服、洗濯しなきゃねー」
( ^ω^)「す、すまんお。何からなにまで、ほんとに申し訳ないお…」

いいんだよー、と彼女はあかるく笑う。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:56:13.81 ID:8J8/T0s80

親切な人に会えて本当に良かった。
そうじゃなきゃ今頃、屍になっていたかもしれないのだ。

( ^ω^)「なにかお礼をしなきゃだお」
といっても、自分には菓子折りを贈るくらいしかできないな。
何を贈ろうか、と思考をめぐらせる。
ああ、住所をきいておかなくては。

( ^ω^)「…住所、そうだお、そういえば」

ここがどこなのか、まだきいていない。
いつのまにか戻ってきた彼女に、思い切って問うてみる。

( ^ω^)「あ、あの、ここはなんという村なんだお?」


从'ー'从「ここ?雛見蛇村っていうんだよー」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:57:28.12 ID:8J8/T0s80

( ^ω^)「ひなみだ、むら…」

間違いない。
ここはぼくが探していた村だった。

――昔、ひとりの若者が発狂し、日本刀で村人を次々と惨殺していった。
村は一夜にして血の海と化したという。
通称、雛見蛇三十三人殺し。

血塗られた歴史。呪いの村。それがここ、…雛見蛇村。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:58:31.72 ID:8J8/T0s80

ぼくはそんな噂ををオカ板で目にし、湧き上がる好奇心をおさえきれずにここまで来たのだ。
そのスレは、そんな村なんて存在しない、地図にも載ってない、という人たちと、
存在する、事件は実際にあった、という人たちでわかれていた。

そこで現れたのがぼくだ。

( ^ω^)「ならぼくが実際行ってみてきてやるお。写真もうpするお」

そして住民からアバウトな地図を受取り、ひたすらマウンテンバイクをこぎ続けたのだ。

( ^ω^)「(やったお。ほんとにあったお。ぼくは勇者だお!)」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 21:59:19.58 ID:8J8/T0s80

从'ー'从「そういえば…あ、えっと、名前は…」
( ^ω^)「すまん、まだ名乗ってなかったお。ぼくは、内藤ホライゾンだお。ブーンと呼んでほしいお」
从'ー'从「ブーンくんねー私は渡辺だよー」
( ^ω^)「渡辺さん。いい名前だお」
そういって微笑むと、渡辺さんの頬が淡いピンクに染まった。

从'ー'从「ふええ、恥ずかしいよ//…そうだ、それで、ブーンくんはなんであんな処にいたのー?」
(;^ω^)「え、っと…それは、か、観光…だお」
まさか不気味な噂を確かめにきました、とも言えず、とっさに出た言葉はひどく苦しいものだった。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:00:17.57 ID:8J8/T0s80

だが、渡辺さんはそれを聞いてぱあっと顔を輝かせている。
从'ー'从「そっかー観光かあー!ここにはどれくらいいる予定なの〜?」

( ^ω^)「ええ…っと、とくに決まってないお…」
从'ー'从「そっかあ〜!じゃあ、うちに泊まっていきなよ〜」
( ^ω^)「!??!い、いいのかお…!?」
从'ー'从「うん、いいよ〜?それで、色々案内してあげるね〜?」

年頃の女の子の家に泊まるなんて、もちろん、はじめての経験だった。
なにかあるかもしれない、ふひひ、とぼくは胸躍らせた。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:01:16.75 ID:8J8/T0s80

从'ー'从「あ、雨あがったねー」

渡辺さんの視線を追い、窓の外をみると、さっきまでの大雨が嘘みたいに晴れていた。

从'ー'从「じゃ、さっそくいこっかあ〜!」
( ^ω^)「え、行くってどこに…」
从'ー'从「雛見蛇の案内だよ〜?」
ぼくの手をつかんで、にっこり笑う。

( ^ω^)「おお、ありがとうだお」
デジカメを手に、ぼくらは家を出た。

さっきまで凍えるくらい寒かったのに、いまはもううっすらと汗ばむほど暑い。
ひぐらしがひっきりなしに鳴いている。

ひぐらしなんて、都会じゃなかなか聞けないなあ、なんて高く生えた木を仰ぎみていると、
渡辺さんがあ、と声をあげた。

むこうから、誰かが手を振っている。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:02:42.45 ID:8J8/T0s80

从'ー'从「ツンちゃんだ〜」
ξ ゚听)ξ「渡辺…と、あれ?こっちは…」
( ^ω^)「ブーンだお。迷子になってた所を渡辺さんに拾ってもらったんだお」
从'ー'从「観光するっていうから、色々案内してあげようと思って〜」
ξ ゚听)ξ「ふーん、そうなの」
从'ー'从「ね、ツンちゃんも一緒に案内してあげよ〜?」
ξ ゚听)ξ「えっ…なんであたしが…」
( ^ω^)「みんなのほうが楽しいお」
ξ ゚听)ξ「…ま、そこまでいうなら…それなら、しぃとクーも誘ったら?さっき公園にいたわよ」
从'ー'从「そうしよう〜!」


从'ー'从「しぃちゃーん、くーちゃーん!」

小さな噴水のまえで談笑しているのがおそらくふたりなのだろう。
噴水からほとばしる水が光できらきら輝いている。
呼ばれたふたりがこっちを向き、にっこりと笑う。
渡辺さんやツンさんにくらべて、少し幼いようだ。小学生くらいだろうか。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:03:49.57 ID:8J8/T0s80

川 ゚ -゚)「ああ、ふたりとも。…と、誰だ?」
(*゚ー゚)「こんにちはあ」

( ^ω^)「ブーンといいますお。観光にきましたお」
川 ゚ -゚)「…観光?こんな村にか」
(;^ω^)「う。そ、そうだお。ぼくは村めぐりをするのが趣味なんだお」
川 ゚ -゚)「変わった趣味なんだな」

从'ー'从「それでねー、村を一緒に案内してあげよ〜ってことになったの」
ξ ゚听)ξ「仕方なくついてきてやったのよ」
川 ゚ -゚)「そうか。それは面白そうだな。私はクーだ。よろしく」
(*゚ー゚)「新しいお友達ですね?あたしはしぃです。よろしくです」
ぺこりと小さな頭をさげる仕草が愛らしい。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:05:05.14 ID:8J8/T0s80

从'ー'从「私たちは部活仲間なんだよ〜」
( ^ω^)「ぶかつ?」

ξ ゚听)ξ「そっ。あたしたちおんなじ学校なの。学校はひとつしかないから、
村の子供はみんなそこに通ってるのよ。っていっても、全校生徒50人くらいなんだけどね」
(*゚ー゚)「ブーンも、特別に部活にいれてあげますよ」
( ^ω^)「おっお。それはありがたいお。何をするんだお?」

川 ゚ -゚)「ゲームだ」
クーがにやりと笑った。
いやな予感がする。ものすごく身の危険を感じた。

ξ ゚听)ξ「もちろん、バツゲームつきの、ね?」

(;;;;^ω^)「げ、げーむって、どんなげーむだお?」
ξ ゚听)ξ「よーし、部活開始よ!せっかく公園にいるんだから、隠れ鬼ね!」

从'ー'从「ええっ?む、村の案内はしないのかな〜?」
ξ ゚听)ξ「そんなもんもういいわよ!それに、ブーンはもう部員なんでしょ?
新入部員に、活動内容を教えてあげないとね〜?」
从'ー'从「ふ、ふええ…」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:05:46.95 ID:8J8/T0s80

ξ ゚听)ξ「最初はぐー、じゃんけんポンッ!」

唐突に声が張り上げられ、みんなの手がとっさに形をつくる。
しまった、出遅れた。

(*゚ー゚)「あとだしはだめですよ。ブーンが鬼ですね〜」
ξ ゚听)ξ「10分以内に全員みつけられなかったらブーンの負けだからね!」
从'ー'从「恐ろしいバツゲームがあるから、真剣にやったほうがいいよお〜」
( ^ω^)「ひい。わ、わかったお…」

恐ろしいバツゲームって、どんなのだろう。
みんなのあの笑顔からして、きっと相当のものなんだろう。
そう考えているうちに、いつの間にかみんながいなくなっていた。
あわてて手で目を覆い、10秒数えはじめる。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:07:22.49 ID:8J8/T0s80

( ^ω^)「も、もういいかお〜…?」

わりとせまい公園だ、丁寧にさがせばすぐに見つかるだろう。
なんて思っていたぼくがバカだった。
まわりからは木々のざわめく音や、噴水の水がはねる音くらいしか聞こえない。
生き物の気配がまるでないのだ。
あれだけ騒いでいたのがうそのように、静まりかえっていた。

( ^ω^)「み、みんなすごいお…自然と同化してるのかお」
すべりだいの下や、ベンチのうしろ、果てはゴミ箱の中まで探したが、一人も見つからない。

(;^ω^)「ちょwwまさかぼくを置いて帰ったのかおwwヒドスw」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:08:03.36 ID:8J8/T0s80

ξ ゚听)ξ「はーーいっ、時間切れー!!」

どこからともなく声がして、気がついたらみんながいろんなところからひょっこり顔を出して笑っていた。

(*゚ー゚)「へたくそですねー」
川 ゚ -゚)「まったくだ。へなちょこめ」
(;^ω^)「みんなすごいお。忍者かお…」
ξ ゚听)ξ「ブーンの負け!バツゲームー!」

そういって振りかざしたツンの手には、マジックが握られていた。
まさか…
心底うれしそうにツンが笑う。

( ^ω^)「うえっwえwww嫌だお、顔はだめだおw」
ξ ゚听)ξ「問答無用!みんな、ブーンを押さえるのよっ!」

らじゃー!の声とともにぼくは羽交い絞めにされた。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:08:50.05 ID:8J8/T0s80

ξ ゚听)ξ「ま、新入りだからね、今日はこれくらいで勘弁してあげるわ」
満足げにツンがいう。
いったいどうなっているんだろう…
ペンが顔の上をえらい激しく動き回っていたのだが。

( &^^Ω)「どどどどうなってるんだお」
(*゚ー゚)「可愛いですよ、ブーン」
川 ゚ -゚)「うむ、なかなかいいぞ」
从'ー'从「すごいことになってるよお〜」
( &^^Ω)「ていうかツン、それ油性じゃないかおー!」
ξ ゚听)ξ「あら?そうだったかしら?」
( &^^Ω)「ちょwwww」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:10:11.84 ID:8J8/T0s80

気がつけばもう夕方。ひぐらしもどこか寂しげに鳴く。
きれいな茜空だった。
おだやかに、ゆるやかに流れる雲。
あかい空はどこまでも高く、どこまでも澄んでいた。
田んぼ道にのびる影がふたつ。

( &^^Ω)「ツンのやつ、まじでひどいおw」
从'ー'从「ええ〜こんなの序の口だよ〜ふだんはもっとひどいんだから」
( &^^Ω)「うぇwwこんどは絶対負けないお」
从'ー'从「あ。お隣のおばさんだ。ブーンくん、ごめん、ちょっと待ってて〜」
わかったお、と返事をして、かけていく渡辺さんの後ろ姿を見送る。

「…きれいな空だねえ」

( &^^Ω)「えっ?」
いつのまにか隣に人が立っていた。
カメラを空にむけてかまえている。
かしゃ、とシャッターを切る音がした。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:10:53.03 ID:8J8/T0s80

(´・ω・`) 「やあ、すまない。君はここの村の人じゃないね」

( &^^Ω)「そ、そうですお…」
(´・ω・`) 「やっぱり。見ない顔だと思ったんだ」
( &^^Ω)「観光にきたんですお」

(´・ω・`) 「観光?そうか、ぼくはてっきりあの事件を――」

“あの事件”?

( &^^Ω)「あの事件って…もしかして、」
(´・ω・`) 「…嫌な、事件だったね」

ぽつり、何かを思い出すように。
彼はだれだ?あの事件って、ぼくが追い求めてきた、あれのことだろうか。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:12:42.71 ID:8J8/T0s80

( &^^Ω)「嫌な事件だったね、って、やっぱりあれは本当に…?」

(´・ω・`) 「さあ。分からない。ぼくも噂にきいただけだ。
よくいるだろう、噂を確かめに現地に赴く人が。君もそのひとりじゃないかと思ったんだが」

( &^^Ω)「ぼ、ぼくは…ていうか、おじさんこそ、そうなんじゃないですかお」
(´・ω・`) 「いや、違うよ。ぼくはショボン、フリーのカメラマンさ。村人じゃないという点ではそうだが」
がっしりとした一眼レフをあげてしめす。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:13:45.49 ID:8J8/T0s80

( &^^Ω)「そうですかお、失礼しましたお」

从'ー'从「ブーンくーん!」
(´・ω・`) 「連れがいたのか。それじゃ、失礼するよ、ブーンくん?」
ぼくのほうをみてにこりと笑うと、夕焼けを背にしょって去っていった。

从'ー'从「?いまの、もしかしてショボンさん?」
( &^^Ω)「え、なんで知ってるんだお」
从'ー'从「カメラマンさんでしょ〜3日くらい前からここにいるんだよ〜」
( &^^Ω)「ふーん…」

なんとなく、感じのよくない人だな。
慣れなれしいというか、あまり好きになれないタイプの人間だ。
ふりかえると、もうそこに彼の姿はなかった。

( &^^Ω)「…あのさ、ちょっと聞いてもいいかお?」
从'ー'从「いいよ〜」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:15:41.92 ID:8J8/T0s80

( &^^Ω)「雛見蛇三十三人殺し、って知ってるかお…?」

彼女の頬の筋肉がぴんと張り詰めた気がした。


从'ー'从「…さあ。知らない。」


――それははっきりとした拒絶。

( &^^Ω)「そ、そうかお。変なこと訊いてすまなかったお」

そのときぼくが感じたのは、まぎれもなく恐怖だった。
彼女の笑顔が急にニセモノのように思えて、胸がざわめいて、鼓動が早くなった。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:16:40.72 ID:8J8/T0s80

从'ー'从「ううん、いいよ〜」

次に彼女が作った笑顔は、やわらかで優しい、本物の笑顔だった。
いつもの渡辺さんだ。
ほっとする。
やっぱり、失礼だったのだろうか。
いや。それだけじゃない。
もしかしたら、あの噂は本当に…



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:17:21.50 ID:8J8/T0s80

玄関の前で、彼女がポケットをさぐる。
今度はちゃんと見つかったらしい。

从'ー'从「ただいまぁ〜」
伸ばした声に、返答はない。
がらんとした廊下。昼とはちがって、寂々としている。

从'ー'从「夕食の準備してくるね〜ブーンくんはくつろいでていいよ〜」
( &^^Ω)「いや、ぼくも手伝うお」
从'ー'从「そ〜?じゃ、お願いしようかなあ」

キッチンに立つのなんてほとんど初めてだ。
だけど、お世話になるんだからこれくらいしなくてならない。
それにしても彼女の包丁さばきは、素人目にみても危なっかしいことこの上ない。
いつもこんな感じなのだろうか。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:18:02.48 ID:8J8/T0s80

やがて出来上がった料理は、五人前。
あとのふたつにはラップをかけているところをみると、ご両親のぶんなのだろう。
何も言わずにそうしているということは、きっといつもこうなのだ。
いつもひとりで夕食を作って、ひとりきりで食べているのだ。

从'ー'从「いただきま〜すっ」
( &^^Ω)「いただきまーーす、だお!」

声を張り上げて言ってやる。
彼女がびっくりしたようにぼくを見て、そして嬉しそうに笑った。
ついさっきの、凍ったような冷たい笑顔なんて忘れてしまうくらい、温かい笑み。
やっぱりあれは見間違いだったのかもしれない。

そんなことより、今日は彼女をできるだけ楽しませてやりたい。
思いつく限りの冗談を言ったり、彼女の話を聞いたり、その夜は食卓に話し声が絶えなかった。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:18:57.65 ID:8J8/T0s80

从'ー'从「それじゃおやすみ、ブーンくん」
( ^ω^)「おやすみだお」

客用だという和室にふとんを敷いてもらい、そこに横になる。
今日はほんとうにいろんなことがあった1日だったな。
ツン、しぃ、クー、そして渡辺さん。
すごく賑やかで、すごく温かいひとたちだ。
あの不気味な噂なんて似合わないくらい。

“嫌な事件だったね…”

ショボンさんの言葉が脳裏をよぎった。
三十三人殺し。血の海。
ぶるっと身震いする。

( ^ω^)「こわいこと思い出しちゃったお。ねむれないお」
ふとんの中にもぐりこみ、ぎゅっと目を閉じる。
そうしているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/08(金) 22:19:38.27 ID:8J8/T0s80

みのむし ぶらりんしゃん
みのむし ぶらりんしゃん……


どこか、遠いところが歌声がする。
ぼんやりとしているが、不思議と耳にすうっと入ってくる。
ささやくように、やわらかに。


みのむし ぶらりんしゃん…



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