('A`)ドクオは再び銃を手にするようです

381: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:35:16.09 ID:m+C4YUrd0
川 ゚ -゚)「危うくドクオの誕生日が過ぎてしまうところだった。危ない危ない」

(*'A`)「え?何?もしかしてプレゼント?」

川 ゚ -゚)「うむ。食事を終えてから渡すつもりだったんだが……」


意味深な表情を浮かべるクー。


川 ゚ ー゚)「誰かさんに押し倒されたせいで、こんな時間になってしまったよ」

(;'A`)「さいですか」

川 ゚ -゚)「順序は狂ったが、改めて。誕生日おめでとう」

クーはプレゼントを手渡す。

('A`)「開けるよ?今」


頷くクー。
箱に入っていたのは革張りのオイルライター。


川 ゚ -゚)「できれば愛用して欲しかったんで、実用的なオイルライターにしてみた。
     革張りだと滑らないし、傷もつきにくいかなと思って」

('A`)「今使ってみるね」



387: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:37:08.90 ID:m+C4YUrd0
ドクオはデスクに向かい、引き出しを漁る。
ライター用オイルを見つけ、プレゼントに給油する。

ベッドに戻り、ドクオは煙草に火をつける。


川 ゚ -゚)「どうだ?使い勝手は」

('A`)「革張りの手触りがいい感じ」

川 ゚ -゚)「ほお、ちょっと使わせてくれ」

('A`)「ダメ」

川 ゚ -゚)「何故だ」


ドクオは答えず、煙草をくわえたままクーに顔を近づける。
クーも自分のメンソール煙草をくわえ、頬をよせる。

火の付いたドクオの煙草の先に自分のそれをくっつけ、火を移すクー。
二筋の紫煙が天井の換気扇あたりで溶け合う。


('A`)「ごめん、一度やってみたかったんだ」

川 ゚ ー゚)「奇遇だな。私も一度やってみたかった」


笑いあう二人。



391: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:39:18.45 ID:m+C4YUrd0
('A`)「……あのさ」

川 ゚ -゚)「?」

('A`)「クーは何が欲しい?誕生日に」

川;゚ -゚)「うーん……今の生活に何の不満もないんだ。
      何か欲しいものか……」

('A`)「まあ急がないけどね。誕生日までに思いついてくれれば」

川 ゚ -゚)「急がないものなら一つ思いついた。
     ただ、まだ私にその資格がないんだ」

('A`)「???」

川 ゚ -゚)「資格が出来たら伝えるよ」

('A`)「え、車か何か?」

川 ゚ ー゚)「そのときまでは秘密。しかもノーヒントだ」

('A`)「えー、全然わかんねえよ」


クーは穏やかな眼差しで、頭を抱えるドクオを見つめる。


川 ゚ ー゚)(……いつの日か、私にも母親になれる自信がついたら
     ドクオの子供を生みたいよ。でもまだ当分駄目だろうな)



395: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:41:22.00 ID:m+C4YUrd0
              ※



失われた甘い記憶がゆるやかに、ドクオの胸を締め付ける。



突如、後方からの奇襲。

振り向きもせず、ドクオは肩ごしに殺気の発生源を撃つ。
銃声の直後、何かモノが倒れる音。


何事もなかったかのようにさらにガーデンの奥へと進んでいく。


弾丸を1発、薬室に残した状態で弾倉を交換する。
交換した弾倉は決して地面に落とさない。


市街戦、特に屋内戦の鉄則。

屋外で、敵からドクオが丸見えのこんな場合ではあまり守る必要のないルール。
しかし無意識のうちに昔の癖が出たようだ。


無造作に殺気を帯びたものどもを撃ち殺していくドクオ。
無意識に弾倉を交換しては、無感動に殺気の源を撃つ。



401: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:43:19.22 ID:m+C4YUrd0
ふと、ドクオは殺気のない気配を感じる。



( ,,゚Д゚)「ちょっと待てゴルァ」


ドクオが声に振り返ると、ガーデンの花々の中でもひときわ大きく妖しい鮮血色の花。
その傍らに、中年男性の幻が立っている。


( ,,゚Д゚)「若僧、お前が探しに来たのは俺じゃないのか?」

('A`)「あんたがギコ教授か?」

( ,,゚Д゚)「そうだ。すまないな若僧、女房の依頼はキャンセルしてもらえねえか。
     キャンセル料として俺の全財産を家ごと持ってってもらって構わん。
     ……まあ別の支払い方もあるんだが」


ごめんなさい、お宅の玄関がえらいことになってます。
俺のせいじゃないんですが……
正直、弁償しなくて済むのは大変ありがたいです。

ドクオは内心胸をなでおろしつつ、話を促す。

('A`)「別の支払い方?」

( ,,゚Д゚)「たとえば不老不死とか永遠とかその辺だな」



406: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:44:44.19 ID:m+C4YUrd0
('A`)「え?あんた植物学の教授じゃなかったのかい?
    いつからオカルトの方面の権威になったんだ?」

( ,,゚Д゚)「植物学の研究者だからこそだろうがゴルァ。
      若造、植物学とこのガーデンの特殊な植物、
      特に”妖精”達を結びつけて考えてみな」

('A`)「???」

( ,,゚Д゚)「やっぱ説明がいるか、いるよなあ」


うなだれ、頭を抱えるギコ。


( ,,゚Д゚)「俺も言葉が足りないってよく先生にも女房にも言われたもんだ。悪かったな。
あんたは『トラルファマドールの長老の議定書』って本を知ってるか?」

('A`)「……」


また何か高学歴の皆様必読の本かい?無教養で申し訳ないね。
肩をすくめるドクオ。


( ,,゚Д゚)「いや、知らないのも無理はねえ。俺が子供の頃に読んだ古いSFだからな」


SF?そんなの読むのかい?ちょっと親近感が沸いてきたかもな。
ドクオの表情がすこし和らぐ。



411 名前: >>409 外れです 投稿日: 2007/06/10(日) 03:46:33.03 ID:m+C4YUrd0
( ,,゚Д゚)「もし知ってるのなら話が早いと思っただけだ。かいつまんで説明しようか」


旦那の方は高慢な感じもしないな。
学内政治の結果で研究費を大幅カットさせられたって聞いたが、
やっぱり嫌な奴なんじゃなくて世渡り下手の方か。

ドクオは同情するような、わかりあえたような目つきで話を促す。


( ,,゚Д゚)「宗教関係の書物、特に聖書なんかだと、いかにも神は人間を祝福するような
      ことを書いてあるだろ?それに対する皮肉なんだけどな」

('A`)「皮肉かあ、作者の腕次第によっては面白いかもな」

( ,,゚Д゚)「子供の頃に読んで、俺がまだ忘れられないくらいには面白いよ。
      そんで中身だ。ようは神が祝福してるのは実は細菌たちだ、って話でな」

('A`)「は?そりゃ細菌の神様なんじゃね?」

( ,,゚Д゚)「いやいや、そうじゃねえんだ。あくまで俺らからすれば神クラスって連中がさ、
      宇宙全体に生命体をばらまこうって思いつくんだよ。んでスペック的に考えて
      細菌が一番効率がいいと。」


身を乗り出すギコ。身振り手振りが大きくなる。
なかなかの名講義。特に間の取り方が絶妙だ。
これなら確かに職人気質でぶっきらぼうでも人気があるだろうな。

ドクオは前髪をかきあげ、袖で汗をぬぐう。



417: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:48:25.30 ID:m+C4YUrd0
('A`)「ほう、実際そうなのかい?」

( ,,゚Д゚)「とりあえず冬眠できない人間みたいのは全然ダメだな。話にならん。
      あとは大きさとか栄養源とか丈夫さとかまあ色々条件があるんだよ。
      休眠できる細菌だと星の衝突なんかに任せて星々を渡れるってのが強みだな。
      そんで、よりパワフルな細菌を作らないといけない、ってことだ」

('A`)「細菌を進化させなきゃいかんのか」

( ,,゚Д゚)「そうそう。で、進化させるために、奴らは神のふりをして人間に近づくんだよ。
      あたかも人間が神に選ばれたような感じで、発展しろって囁くんだよ。
      産めよ、増やせよ、地に満てよ、ってな」

('A`)「あれ?細菌を進化させろってんじゃないのか?」

( ,,゚Д゚)「お前さんは細菌のために自分を犠牲に出来るのかゴルァ。そこは騙しなんだよ。
      この星に人間が増えて、発展してどうなった?戦争用に新兵器開発して、
      生活のために環境破壊して、病気に対して医学を発展させて……」

('A`)「!」

( ,,゚Д゚)「気が付いたか?人間の繁栄のための自然破壊、医学の発展ってのが、
      実は細菌を強く進化させるためなんだ、って話なんだよ」

('A`)「へえ、けっこう面白そうな話じゃないか」

( ,,゚Д゚)「俺の家に転がってるはずだから良かったら持ってってくれ。
      もっとも、ここで俺達と暮らすんなら俺の記憶から直接読めるがな」



421: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:50:25.51 ID:m+C4YUrd0
('A`)「俺達?」

( ,,゚Д゚)「ここの”妖精”たちと俺と女房さ。俺の体はもうなくなっちまったが
      ここにいる分には永遠に死なねえんだ。合意した分なら記憶も共有できるさ」


('A`)(……そういうことか)


ドクオの中で話がつながって来た。


( ,,゚Д゚)「まあその本を読んで細菌信者になったってわけでもないけどな。
      心のどこかに、万物の霊長は人間とは限らないって気持ちは残ってたよ」

('A`)「そりゃそーかもな。人間なんて大した生き物でもないよ」

( ,,゚Д゚)「だろ?そう思うよな?」

('A`)「……何しろ人間なんて、この俺にだって出来るからな」


斜め下を向いて自嘲気味に吐き捨てるドクオ。
しかしギコはそれをジョークと受け取ったようで、腹を抱える。


( ,,゚Д゚)「おいおい、そう来るのかよwwwwwwwあんた面白いなwwww
      まあ話を戻すよ。そんなガキも大人になって植物学者になった訳さ。
     そんで研究三昧の生活の中でだ、5年前にこいつらを発見したんだ」



426: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:52:14.81 ID:m+C4YUrd0
('A`)「……ちょうどガーデンが立入禁止になる直前か」

( ,,゚Д゚)「そう、その頃だ。あの時は正直震えが止まらなかったよ。
      こいつらなら人間と違う文明を築けるかも知れねえ。
      やっぱりそういう事なんだってな」

('A`)「それからは、ずっとこいつらの研究に没頭かい?
    そのせいで学内政治がらみで失脚したって聞いたけど」

( ,,゚Д゚)「学内政治?失脚?ああ、研究が邪魔されたことを言ってるのか。
     そんなんじゃねえ。もっと政治的な何かの介入だろうよ」

('A`)「え?」

( ,,゚Д゚)「たとえVIP大を叩き出されたとしたって、別の大学でも何でもいけばいいだけだ。
     そもそもただの失脚なら、なんで妙な黒スーツどもに追われなきゃなんねえんだ?」

('A`)「ちょっと待ってくれ、話が見えない。あんた追われてるのかい?」

( ,,゚Д゚)「ああ、そうか。あんたは女房に依頼を受けたんだもんな。
     そのときはまだ女房もそんなこと知らなかったな」


ギコは軽く首を左右に振った後、再びドクオを見つめる。


( ,,゚Д゚)「あの日、銃を持った黒スーツどもに追われてここに逃げ込んだんだ。
     ここを封印したいんだか独占したいんだかは知らねえが、
     とにかく俺のことが邪魔だって思う奴がいたみたいだな」



435: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:54:23.17 ID:m+C4YUrd0
やっぱりこの一件は単純な話じゃなさそうだ。
ドクオは煙草を取り出し、火をつける。


('A`)「……その黒スーツどもとやらは、この庭園のどこかに埋まってるのか?」

( ,,゚Д゚)「そうだ。それで瀕死の俺は”妖精”たちと同化することで助かったんだ。
     まあ体は失ったが、別にあの暮らしに未練なんてたった一つだけだったし。
     そのたった一つの未練、女房も今はもうここにいる」

('A`)「しぃさんも同化したのか?」

( ,,゚Д゚)「ああ、でもまだ同化したてだから実体化はできない。俺のそばですやすやと眠ってるよ」

('A`)「……それで本当にいいのか?」

( ,,゚Д゚)「俺はどのみち同化しなきゃ死んでたわけだし、それに欲しいものは全て手に入れた。
     花たちは俺に叡智を与えてくれる、年老いずに女房と永遠に暮らせる、他に何が必要なんだ?
     ……まあ、女房には気の毒なことをしたかもしれないがな……」


うつむくギコ。
ドクオは煙を吐き出し、ギコの方を向く。


('A`)「……たぶん奥さんは満足してるんじゃないのかな、俺の友人の説によると」

( ,,゚Д゚)「ほう、それは面白い友人だな。ぜひ会ってみたいもんだ。
     よければあんたも奥さんとその友人でも連れてきて、ここで暮らさないか?」



438: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:56:10.50 ID:m+C4YUrd0
思わずドクオは視線をそらす。


(;'A`)「ちょっとした事情があってね。二人とも連れて来れないんだ……」


あんたに叡智とやらを与えてるらしい、ここの植物どもと関ったせいで

俺は婚約者を撃ち殺してしまいました。
そして友人は発狂して射殺されました。


でも、この気のいい中年にそんなことは言う必要もないな。
ドクオの右手は革張りのオイルライターを握り締める。


( ,,゚Д゚)「そうか、そりゃ残念だ。でもあんただけでもどうだ?」


('A`)(……そこの植物どもは確かにクーを冒涜した、ジョルジュの仇だ。
    だがあの夫婦はあれで幸せに暮らしてる、って話だ。)



442: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 03:58:10.71 ID:m+C4YUrd0
( ,,゚Д゚)「……」

ドクオを見つめるギコ。
その傍らにはいずれ、実体化できるようになったしぃが寄り添うのだろう。

肉体を失くしても未来は失くしていない二人。
むしろ二人で暮らす永遠を手に入れたとギコは言う。


  ――二人で暮らす永遠――


それはドクオが5年前に失った、実現しなかった幸福な未来図。


('A`)(……二人を道連れにしてまで、俺に植物どもを滅ぼす資格はあるのか?
    それはテロっていうんじゃないのか?あいつらの幸福は終わっちゃいないんだぜ?)



448: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 04:00:13.96 ID:m+C4YUrd0
などと懊悩するセカンドDTの意思とは無関係に、
かつて実戦で鍛え上げられた「左利きのドク」の身体は
確実に敵の位置を捕捉し、デザートイーグルの照準を鮮血色の花に合わせる。


  ――敵、捕捉――


ドクオの左手はためらわずに引き金を引く。



あの夜と同じように。



巨大な鮮血色の花が撃ち抜かれ、花びらが舞う。
宙を舞う花びらが地面に落ちた瞬間、ギコ教授の幻が消え失せる。

落ちた花びらから感染されたかのように、ガーデンの植物が次々と枯れていく。

枯れた花々は崩れ落ち、木々は倒れる。
崩壊する庭園を背に、ドクオは立ち去る。先ほど破壊した門を出て、車に向かう。
車に乗り込みエンジンを掛けた瞬間、視界の隅に見覚えのある顔を発見する。

ショボン署長。
どこかに電話をしているようだ。

確かにVIPガーデンの崩壊ってのはちょっとした事件だろう。
しかし他の警官がまだ誰も到着してないのに署長自ら出陣ですかそうですか。



452: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 04:01:55.02 ID:m+C4YUrd0


だが、もうどうでもいい。




5年前、自分の半身を失った。


そして、心を許せる友を失った。


あげくの果てに、罪もない他人様の幸福を踏みにじった。


もう何も残っちゃいない。敵さえも。


体中の力が抜けちまった。


今さら昔の知人が何を企んでいようが、もう何もかもがどうでもいいんだ。



ドクオは行くあても思いつかぬまま、車を走らせる。



456: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/10(日) 04:02:54.22 ID:m+C4YUrd0


ドクオを乗せた車が去るのを眺めながら、ショボンは電話を続ける。


(´・ω・`)】「……以上です。状況終了しました」

( ? )】「ご苦労じゃったの。後日、情報を整理してからうちに来てくれんかの?
       それとも滝立飯店に予約でも入れておくかの?」

(´・ω・`)】「まあその辺は後日あらためて連絡致しますのでその際にでも。それでは失礼します」


電話を切り、くわえていたフロンティアを投げ捨てるショボン。
カチカチをオイルライターを鳴らしながら、ドクオの去った方とは別の方角に歩いていく。



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