川 ゚ -゚) クーは異境の地で暮らすようです

293: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:33:16.39 ID:yHTahav10


              ※


今日も私は愛しのもやし男にネクタイを締めてやる。

甘えん坊に甘えられて喜ぶのは病気よ、なんてトソンは言う。
正直私も病気だと思う。

でも、幸せなら病気でも別にいいじゃないか。

もし日本にいた頃の私と街ですれ違ったら、たぶん軽蔑されるだろう。
捨てられるために男と暮らすのか?馬鹿馬鹿しい。
そんな風に白い目で見られるはずだ。

今の私の方も、きっと相手を軽蔑するだろう。
幸せを掴まずにひっそり生きるなんて無駄な人生だって言ってやる。

殴り合いでも勝つ自信はあるぞ?
何しろこっちには『左利きのドク』がついている。



しかしその頼もしい男は最近顔色が冴えない。



295: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:35:16.58 ID:yHTahav10
川 ゚ -゚)「どうした?最近顔色が悪いな」

('A`)「いや、仕事がね」

川 ゚ -゚)「悩みがあるなら言ってくれ」

('A`)「悩み……ただ疲れてるだけだよ」

川 ゚ -゚)「そうか?ならいいが……」

('A`)「帰ってきたら甘えると思うけど、キモいって言うなよ?」


私はドクオの顔を両手で捉え、彼の目を見つめた。


川 ゚ -゚)「もしドクオがキモいというのなら
     私はキモ男好きの狂人で結構」

(*'A`)「元気出てきたよ。じゃあ行ってきます」

川 ゚ -゚)「行ってらっしゃい」


私の方は今日は休みで暇だ。
ドクオが心配なのは確かだが、悩んでいるのも時間の無駄だ。
とりあえず無心になろうと家事に精を出した。


部屋が見違えるように綺麗になり、やけに豪勢な夕食が出来た。



298: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:37:16.16 ID:yHTahav10
無心に家事をしていたら、いつの間にか夜になったようだ。
ドクオが帰ってきた。


('A`)「ただいま」

川 ゚ -゚)「待ってたぞ。さあ甘えろ」

(*'A`)「ちょwwwwwwwwww」


とりあえず二人で夕食を食べた。
ドクオは食べながらしきりにありがとうと繰り返していたが
何がありがたいのだろう?

まあいい。
食事も終わって一服もしただろう?
早く甘えるんだ。


川 ゚ -゚)「……」


ソファーに腰掛けたドクオの背後から、頭を抱いてみた。
性的な方でも心理的な方でも構わん。
ほらほら、早く甘えなさい。



そうしていると、ドクオはゆっくりと話し始めた。



303: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:39:18.77 ID:yHTahav10
('A`)「いやさ、最近変な任務が追加されたって言ったじゃない?」

川 ゚ -゚)「ああ、VIPガーデンの見回りだったか?」

('A`)「だいたいそんなとこかな?
    正確にはVIPガーデン付近での原因不明の急死と
    噂の”妖精”との関連の確認、場合によっては”妖精”の排除」
   
川 ゚ -゚)「見回りと探索、できれば処理ってとこか」

('A`)「そうそう。そうやって聞くとおかしいだろ?署長が狂ったかと思ったよ。
    それでファンタジーだと思って行ってみたら、中身はけっこうホラー気味」

川 ゚ -゚)「?」

('A`)「本当にいるんだわ、”妖精”がさ」

川 ゚ -゚)「そりゃファンタジーだな」

('A`)「いるだけならね。ガーデン付近の通りすがりや
    中に侵入した連中の魂を吸ってやがるんだ」

川 ゚ -゚)「……」


にわかには信じがたい話だ。
でも、ドクオは私を騙したりはしない。
現代科学への信頼よりドクオへの信頼が勝った。



304: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:41:21.95 ID:yHTahav10
川 ゚ -゚)「腰を落ち着けて聞いた方が良さそうだな」


甘えさせるふりをして巧妙に甘えるのをやめ、
私はソファーの隣に腰掛けた。


('A`)「……ありがとう」

川 ゚ -゚)「何がだ?」

('A`)「実際見てもいないのによくこんな話を信じてくれるな、って思って」

川 ゚ -゚)「ドクオ以外から聞いてたら鼻で笑ったろうな。
     まあ続きを聞こうじゃないか」


ドクオは軽く微笑むと、話を続けた。


('A`)「どうやらガーデンの花の中に化け物が混じってるみたいでね。
    靄を集めて”妖精”を作りやがるんだ。んで、それに取り憑かれたらアウト。
    イッちまった顔してぼーっとしてるうちに死んじまうんだよ」

川 ゚ -゚)「一度取り憑かれたら完全にお終いなのか?」

('A`)「生きてるうちに妖精が消えちまえば助かる。
    モナーとニダーはそれで何とか生き延びた」



310: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:44:26.60 ID:yHTahav10
しかし、”妖精”とやらは靄の塊だろう?
どうやって消すんだ?

私がそれを聞くと、ドクオは無言で煙草に火をつけた。
さりげなく灰皿を彼の手元に押しやり、話し始めるのを待つ。


('A`)「銃で撃てばいったんは消えるんだ。
    でも結局もとの花を特定して始末しないとダメ」

川 ゚ -゚)「花の種類や色は?」

('A`)「俺が見ただけで5〜6種類。しかもまだまだありそう。
    しかも同じ見た目でも、化け物花とは限らないんだ」

川;゚ -゚)「もうどうにもならんな」

('A`)「結局さ、靄を集めてるあたりで発見するしかないんだ」

川 ゚ -゚)「いっそのこと焼き払ったらどうなんだ?」

('A`)「さすがに大火事はまずいよ。
    それに大人数で入ってもみんなイッちまうのがオチ」

川;゚ -゚)「うーむ」

('A`)「結局ガーデン内の探索は俺一人にして、
    別視点から捜査をジョルジュ達にしてもらうことにした」



313: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:46:18.57 ID:yHTahav10
川 ゚ -゚)「捜査?」

('A`)「なんであんなところにわざわざ侵入する馬鹿がこんなに多いのか。
    特に金持ちの爺さま婆さまだの、その使用人だのが多いんだ」

川 ゚ -゚)「……それも変だな」

('A`)「おかしいよね?完全に立入禁止にして壁とか直した方が早いはずなんだ」

川 ゚ -゚)「それが一番だ」


そうすればドクオがこんなに疲れなくてもすむのに。
大体彼一人で探索させるなんて……

待て、ドクオ一人だと?


川;゚ -゚)「おいおい、大丈夫なのか?」

('A`)「何が?」

川;゚ -゚)「何って……」


私は自分の煙草に火をつけ、
懸命に煙を吸って落ち着く努力をした。

失敗に終わった。



318: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:48:22.56 ID:yHTahav10
('A`)「ああ、俺一人で大丈夫かってこと?
    まあ他のメンバーを回収するより楽だよ」

川;゚ -゚)「……」

('A`)「まあ気を失った事も何回かあるけど、
    いつのまにか撃ってるみたいで今日も生きてるよ。
    大丈夫、心配しないで」


心配するなって言ったって……

だが、疲れ切ったドクオに私の気持ちを押し付けてどうする?
私の心配は、たぶん彼を苦しめるだけだろう。
ドクオを苦しめるのだけは絶対に嫌だ。


('A`)「一応、その花の方も調べなきゃいけないしさ。
    まあ結局撃ったあとの花びらを送る事しかできないけどね。
    たとえ生で発見したっておっかなくって運べないしさ」


私の心を知ってか知らずか、ドクオは平然と話す。

気を失ってもいつのまにか銃を撃ってるのは
彼の中の野生の獣なのか?
誰でも何でも構わない。
どうかそのままドクオを守ってくれ。

心の狭い私は、彼のためだけに祈った。



321: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:50:18.93 ID:yHTahav10


              ※


祈りが何者かに届いたのか、
しばらくはドクオの身に危険はなかったようだ。
そういえば彼と出会ってからそろそろ四年になる。

今日は休みが重なったので、二人でゴロゴロとしていた。
もう少しドクオの仕事が楽になったら、一緒にどこかに出かけよう。

何故か今日のドクオは、二人で暮らし始めた頃のようにモジモジしている。
新手のプレイか何かだろうか?
新しい刺激が円満の秘訣だというなら、コスプレでも何でもしてやろう。


(*'A`)「……」

川 ゚ -゚)「ん、どうした?」

(*'A`)「……うん、その、ね?」

川 ゚ -゚)「???」


よく見ると小さな箱を背中に隠しているようだ。
今日は何かの記念日だったか?
まずい、覚えてない。



324: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:52:13.20 ID:yHTahav10
とまどう私をよそに、ドクオは続ける。


(*'A`)「今はさ、まだ忙しいじゃない?お互い」

川 ゚ -゚)「まあな」

(*'A`)「もう少し暇になったらさ、えーっと……」


言葉を濁しながら、ドクオは小さな箱をよこした。


川 ゚ -゚)「開けるぞ?」

(*'A`)「うん」


箱を開けると、指輪が入っていた。
私の誕生石、サファイアの指輪。


川 ゚ -゚)「……」

(*'A`)「この際、正式にさ……」


私は微笑み、指輪をつけてみた。



329: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:53:52.74 ID:yHTahav10
川 ゚ -゚)「ドクオ、覚えてるか?」

('A`)「?」

川 ゚ -゚)「以前誕生日プレゼントをキャンセルした件」

('A`)「そりゃ覚えてるよ。結局資格って何だったのか、いまだに気になってるよ」

川 ゚ -゚)「思わせぶりで申し訳ない。正直まだ自信はないんだ。
     しかし、あとは度胸と勢いかなとも思う」

('A`)「?????」

川 ゚ -゚)「ドクオの子供が生みたい」

(*'A`)「ちょwwwwwwwwww」

川 ゚ -゚)「あのときからいずれは、と思ってはいたんだ。
     でも、まともな母親になれる自信がなかった。
     ……ドクオと二人でならどうにかなるかな?」

(*'A`)「……がんばろう」


ドクオは私を強く抱きしめた。




……せっかくの休日だというのに、二人して体力を激しく消耗した。



332: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:55:21.76 ID:yHTahav10


             ※


控え室で出番を待つ。
今日は久しぶりにドクオが見に来るとのこと。

毎日逢っている相手にいまさらとは思うが、
つい何度も鏡を見ては、メイクのノリを確かめてしまう。

……朝もすっぴんの寝顔を見られているというのに。

等身大の鏡の前で一回転してみた。


川 ゚ -゚)「……何かが足りない」

(゚、゚トソン「そう?」

川;゚ -゚)「おい、いつの間に入ってきた?」

(゚、゚トソン「手鏡とにらめっこしてたあたりかな」

川 ゚ -゚)「……そうか」

(゚、゚トソン「プッwwwww」


トソンが吹きだした。



336: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:57:37.62 ID:yHTahav10
川 ゚ -゚)「……何がおかしい」

(゚、゚トソン「きめえwwwwwwクー涙目wwwww」

川 ゚ -゚)「だからお前は駄目なんだ」

(゚、゚#トソン「あ゙?」

川 ゚ -゚)「時が過ぎ行くのは、自分で思うよりもずっと早いものだぞ?
     恥ずかしがってる暇があったら行動。あとは自分を磨くとか」

(゚、゚#トソン「……嫁き遅れだけど何か質問ある?」

川 ゚ -゚)「すまない。それにはフォローのしようがない」

(゚、゚トソン「……」

川 ゚ -゚)「まあ何だ。きっといつかいい事があるさ。
     この島に来るまで幸運と縁がなかった私が保証する」

(゚、゚;トソン「……それは説得力があるわね」

川 ゚ -゚)「だろう?それで話を戻すが相談がある。
     何かこう、もう一つ足りない気がするんだよ」

(゚、゚トソン「そうねえ……」


トソンは控え室をうろうろと回りながら、私をいろんな角度で見た。



338: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/28(木) 23:59:13.50 ID:yHTahav10
(゚、゚トソン「胸あたりに何かあるといいわね、コサージュとか」

川 ゚ -゚)「シャトリナさんに何か借りてこようか?」

(゚、゚トソン「それもありだけど……この辺なんかどうかな?」


トソンは控え室に届けられた花束を漁る。
その中に、ひときわ大きな花を見つけた。


(゚、゚トソン「これなんか良さそうね」


トソンは器用にその花の茎をカットし、
その辺のゴムやピンなどで上手にコサージュを作った。


(゚、゚トソン「これで良し。そろそろ出番だからね」


そう言って彼女は仕事に戻った。
ありがとうトソン。
結婚式のブーケはトソンに向けて投げるからな。

コサージュを胸につけ、私は出番を待った。



343: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/29(金) 00:01:01.06 ID:tE0xywzi0


              ※


ピアニストの渋沢さんが演奏を始めた。
そろそろ出番か。

今日はドクオも見に来てくれてるらしい。
このドレスと生花のコサージュ、気に入ってくれるといいが……

おいおい、仕事だぞ?
集中集中。
オープニングの演奏が長い曲で助かったな。

私はステージに上がり、歌い始めた。


川 ゚ -゚)「♪走ることに慣れた 速さで息をする 見わたす街並み
      何処へ進むのか 薄れがかる空♪」


聴衆の中にドクオを見つけた。
まったく何をニヤニヤしているんだか。
でも、そんな彼を見つけて安心している自分がいる。



346: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/29(金) 00:02:14.46 ID:tE0xywzi0
歌っているうちに、客席がよく見えなくなっていた。
まるで霧の中にでもいるかのようだった。


何故か私の目の前に、靄が集まってきた
え、靄?
集まる靄ってどこかで聞いたような……

私の目の前、いや胸元で人の形を取り始める靄。



そのとき、一発の銃声が店内に響きわたった。



ドクオの放った銃弾が靄を吹き飛ばした。
靄を、胸に飾った花を貫通した。そして、私の胸に――


そうか、これが”妖精”か。


急に体中の力が抜けた。
胸が、焼けるように熱い。



354: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/29(金) 00:04:13.73 ID:tE0xywzi0
崩れ落ちた私に、ドクオが駆け寄ってきた。


(;A;)「クー、クー!」


ドクオは私を抱きかかえた。
やっぱりお前の胸の中は安心できる。
痛いとか怖いとか、全部どうでもよくなった。

でも、お前と離れることだけがどうしても受け入れられないよ。


川 ゚ ー゚)「どうも……複雑な気分だな……
     私が死ぬことに……ドクオが悲しんでくれ……ている……それだけで
     生まれて……きて……よかったんだ……と思える……
     でも……ドクオには……いつも笑っていて欲しいんだ……」


しゃべっていて、口から血が出た。
これはもうダメだな。

そういえば、死んだクーはクーじゃないらしいな。
私が「私の形をしたゴミ」になるのもそろそろだ。



361: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/29(金) 00:06:16.87 ID:tE0xywzi0
(;A;)「もうしゃべるな。すぐに病院に連れてくから。」

川 ゚ -゚)「残念だが……もう……間に合わないな……
     最期に一つお願い……があるんだ……聞いて……もら……えないか?」

(;A;)「クー、しっかりしろ。クー!」

川 ゚ -゚)「お別れに……キスし……てくれ……ないか?
     血の……味が……混じって……申し訳……ないが」

(;A;)「キスでも何でもするから。
     頼むから病院に着くまでがんばってくれよ」

川 ゚ ー゚)「最……期……まで……無茶を……言うん……だな……
     でも……そ……れも……また……幸……せ……」


ドクオが最期のキスをしてくれた。
暖かい唇の感触。
いや、私の体温が下がったのか。

最期の力を振り絞って、何とか微笑むことができた。


(;A;)「嘘だよな……クー……頼むよ……もう一度目を開けてくれよ……」



368: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/29(金) 00:07:42.34 ID:tE0xywzi0
今度こそ完全に体中の力が抜けた。
もう喋ることもできない。

でもな、ドクオ。前に言ったはずだぞ?


「つかまえた。もう離さないから覚悟するんだな」って。


たかが死んだくらいで、お前を離すわけがないだろう?


魂なんてものが存在するのかどうか、もうすぐわかる。
もしあるとすれば、私はこの手を離さない。



欲深な女ですまない。



私を忘れて幸せになってくれても構わないからな?
でも頼むから、そばにだけいさせてくれないか……



                           〜fin〜



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