( ^ω^)机は繋がり僕らは出逢うようです。

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:37:24.58 ID:1FLXSN0o0
《そのご 休日しせんくぐり。その1》

从 ゚∀从『いーか、日曜大会だけど絶対くんなよ! 来たら死なす!』

ハインリッヒの言葉だ。

そんな訳で日曜日の午前11時。
僕は市立のスポーツセンターの駐輪場にいた。

ずらりと並んでいる色とりどりの自転車のフレームに、太陽の光が反射している。
梅雨の晴れ間と言うやつだろうか。空はとにかく青い。

(; ^ω^)「それにしても来たら死なすて物騒な……」
けれども行かなかったら行かなかったで殴られるのだ。すごい理不尽。
……しかしそういえば僕も、小学2年くらいの時母に『明日授業参観だけど、来ないおね?』と
一見聞いておけば牽制のような、ただし真意は見に来て欲しい心持ちで言った記憶があるような。

それと同じ心境か。
僕の呟き声に反応する人影はない。
しめたものだ。ついでにため息も大げさに吐いた。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:38:21.62 ID:1FLXSN0o0
(; ^ω^)「あいつは小学生かお……」
思えばあの、金曜日の日の陸上の話が前フリだったのかもしれない。
それはともかく。

( ^ω^)「グラウンドは……こっちかお」
自転車を所定の場所に直してから、グラウンドへ向かう。沸き踊る歓声はまだ遠い。
ジャリ、とスニーカーが乾いた砂を噛んだ。
僕なり心配していたグラウンドの状態だけれど、水はけの悪い駐輪場の地面がこの調子だ。

( ^ω^)「ま、大丈ぶい」

その声を吸い込むようしてグラウンドから上がった歓声に、また一つ大きなため息が出た。

蝉の声はまだ聞こえず、けれども確かに初夏を
感じされる6月の空が、頭上にあった。





4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:39:29.28 ID:1FLXSN0o0
広い場所、殊に陸上の大会などでハインリッヒを見つけたい場合は、
その空間内で一番黄色い歓声が上がっている所を見つければいい。
それはイコール、ハインリッヒ高岡の現在地になる。


VIP高の核弾頭こと、ハインリッヒ高岡。また別の名を
( ^ω^)「砲丸投げのプリンス…………」
なんでプリンス、とか突っ込んだら負ける。それを本人に言うと極めて高確率で
綺麗な川とお花畑が見える。触らぬ神に祟りなし。

今は砲丸投げや走り幅跳びと言ったトラックの中で行われる競技が中心らしかった。
アップや休憩の為にトラックを歩いたり走り回ったりする陸上部員の姿がちらほら見える。

目を細め、それらの風景を歩きながら見る。
胸の中が確かに熱くなるけれど、この足は走り出さない。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:41:00.62 ID:1FLXSN0o0
( ^ω^)「……おー。やっぱいたお」
先に言った法則はまだまだ健在のようだ。
投げ終わったらしいハインリッヒがベンチに戻っていくのが見えた。
スタンドからキャーキャー聞こえる。高岡様ー! とか聞こえる。

さま……?

聞かなかった事にする。すごい賢明。
マネージャーからタオルを手渡される高岡様の顔は終始不機嫌そうだ。
般若面、は流石に可愛そうだから人を食い殺そうとしている目とでも言っておこう。


( ^ω^)「たっ…………」
黙った。
小動物的勘が『近づくとデストロイ』としきりに訴えかけてくる。
しかし理性的思考が『このまま帰るとデストロイ』とも言う。

行き着いたのは痛みが先に来るか後に来るかの話ですおね、と結論。

よし。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:42:28.58 ID:1FLXSN0o0
( ^ω^)「たっ…………」
黙った。
小動物的勘が『殺される! 逃げなきゃ殺されるッ! 逃げなきゃあ!』と訴えかけている。
理性的思考が『逃げるんだよォォォーーーーーーッ』と言う。

逃げれる訳ねーだろ、と結論。

僕に気付いたハインリッヒ高岡が、あの般若面で、
人を食い殺そうとしている目で、こちらに、向かってくる。
え、何本当に来て欲しくなかったとかそういうオチ?

高岡の第一声はこれだった。

从 ゚∀从「ああ」

それから矢継ぎ早に

从 ゚∀从「ちょうどいい所にサンドバッグが」
(; ^ω^)「サンッ…………!?」

ガードする暇すらなく、僕の首に、ハインリッヒの両腕が絡みつく。
背中にはハインリッヒの気配と濃い死の香り。
スタンドから上がった悲鳴は、これから開始される僕の私刑を案じての事だろうか。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:45:18.11 ID:1FLXSN0o0
『あたしィィィの高岡様がァァー!
う…うろたえるんじゃあないッ! プリンセスはうろたえないッッ!』

チミらにはこれが甘い恋人の抱擁に見えるらしい。
どう見てもヘッドロックですありがとうございました。

(; ゜ω゜)「ぬぁー! ぬぁー! ギブッ、ギブギブギブッッ!!」
从 ゚∀从「はっはっはっうるさいサンドバックだなぁ!」
(♯^ω^)「っーっせぇこの洗濯板ァッ!」
从 ゚∀从「あん?」
きゅっ。力が強まる。

し、死亡フラグ……!?
遠くの方でオタコンが僕の名前を連呼している。
キャーキャーと、スタンドからは甲高く僕への罵声が聞こえる。
恋は盲目らしかった。


(=゚ω゚)ノ「せんぱーい、お疲れ様でしたいよ……いよよぅ!?」

あ? ハインリッヒが体ごと振り向く。振り子の原理で白目剥いてる僕の体もふりむく。
ひぃっ。息を呑んだのはスタンドの方々だろうか。それとも目の前の小柄な少女だろうか。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:46:05.40 ID:1FLXSN0o0
从 ∀゜从「…………いようか」
( ゜ω゜)「お……僕はもってないですお、6文なんてお金……」
船頭が渡し賃金6文を要求してきた所で腕は放された。
危うく崩れ落ちそうになる体をどうにか両足で支えた。


(;=゚ω゚)「先輩、この方……」
从 ゚∀从「このサンドバックはここで拾った。今師匠から伝授された技をかけていた所だ」
(; ^ω^)「サンドバックて……!」

从 ゚∀从「あー?」
ハインリッヒから両手が伸ばされる。すばやくホッピング土下座。
背中に、暑さからではない汗が流れた。

(*=゚ω゚)「もしかして、ないとう、内藤ホライゾンさんですかよう?」
(^ω^ )「お? おー、そうですお」
名前を呼ばれ、鎌首をもたげる。膝についた砂を払って、立ち上がる。
僕よりも頭二つ分小さい、小柄な女子。
その大きな目は何か、僕が汲み取ることの出来ない種類の感情で揺れている。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:48:00.12 ID:1FLXSN0o0
(*=゚ω゚)「やっぱりですよう!! VIP中の大鷲、かの内藤先輩!」
( ^ω^)「お?」
从 ゚∀从「……始まりやがった」
突き出されたいようの拳はかすかに震えていた。
ハインリッヒの嘆息。少女の目には情熱の光。うぉ。思わず一歩退いた。

(*=゚ω゚)「両手を広げて100mトラックを走るその姿はまさに大空を羽ばたく鳥のようだと称えられ、
空気抵抗をみじんも考えてないフォームなのに早いし何故かそれは見る人の心を強く打つ!
しかしそのフォーム故にレーン侵害、ひどい時は失格を与えられたのにも関わらず自分の姿勢を一切変えないで、
あの超自由形で3年間走り続けた真正のアホ!!」

从 ゚∀从「それ褒めてんのか? 貶してんのか?」
(*=゚ω゚)「そんな内藤ホライゾンさんに生でお逢い出来るとは光栄ですいよう!」
ハインリッヒのツッコミをスッパリ無視して、更に熱弁を奮っていたいようが前へ出て僕の両手をにぎった。
スタンドからはざわめき声がする。

『オレェェェのいようちゃんがァァー!
う…うろたえるんじゃあないッ! 頼れる男はうろたえないッッ!』

まるで阿鼻叫喚。
月夜のない夜には気をつけようと思う。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:49:25.71 ID:1FLXSN0o0
(♯^ω^)「っ……いてぇお!」
从 ゚∀从「うるせぇ」
ハインリッヒにつま先を一思いに踏んづけられた。
当然の事ながら競技終わりの砲丸投げのプリンスはスパイクを履いている。

(=゚ω゚)「あはは。先輩、さっきの砲丸でファール取られたから機嫌悪いんですいよう!」
( ^ω^)「お?」

(=゚ω゚)「きっと内藤さんにいい所見せたかったんですよう!」
从 ゚∀从「いよう」
真実じゃないですか。と朗笑するいように、眉間にしわを寄せて口止めにかかるハインリッヒ。
いようの笑い顔には、なんとなく懐かしくなる。
誰かに似ていると思うのだが、誰だったかは思い出せない。

(^ω^ )「お?」
(=゚ω゚)「あ、それに僕が走るといっつも先輩、内藤さんの話だすんですよう?
やれアイツはもっと速かったぞーとか。……内藤さんのフォーム真似してる僕も悪いかもしれませんけどよう」
( ^ω^)「……お?」
从 ゚∀从「あー、もー、いようっ!」
お前そろそろ短距離のアップすんだろ! ハインリッヒの怒声。
いようの首根っこを掴んで歩き出した。お前のバツの悪そうな顔なんて久々に見たお。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:50:59.81 ID:1FLXSN0o0

从 ゚∀从「うるせぇ。あ、かっこ悪いからこれみんなには言うなよ」

顔だけをこっちに向けて、捨て台詞を吐く砲丸投げのプリンス。
その際少し耳が赤かったとか言うのは、きっと僕の幻覚に過ぎない。うん。多分。

(;=゚ω゚)「僕はもうちょっと内藤さんと喋りたいんですよう! その為に陸上部入ったのに……」
从 ゚∀从「だからアイツはもう陸上やってねーって言ってんだろ!」
(;=゚ω゚)「っ! ですから、納得の行く弁解を要求するんですよぅ!」
从 ゚∀从「ファビョんな阿呆」

遠ざかって行く二人の掛け合いの声をドナドナの気分で見送りながら、
僕はゆったりと息を吐いた。

『親指を! あいつの! 目の中につっこんで! 殴りぬけるッ!
俺は あいつがっ 泣くまで 殴るのをやめないッ!
悪意がある 悪意の血液の流れを感じる!』

もう一回息を吐いた。
空を仰げば寸分違わない青さがある。そしてとん、と叩かれた肩。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:51:47.56 ID:1FLXSN0o0

/ ,' 3「ほぉ、内藤か」

その声に突き動かされるように振り向く。


( ^ω^)「……荒巻せん、せい?」

年老いた、けれども威厳を感じされる雰囲気が彼にはある。
僕の師が。歩み方を、僕に走り方を教えてくれた先生がそこにいた。


つきあがってきた感情は、懺悔と後悔。






15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:52:43.74 ID:1FLXSN0o0
/ ,' 3「ほれ」
( -ω-)「……すみませんお」
おごって貰った炭酸飲料を受け取り、礼。

/ ,' 3「大した事はないの」
缶コーヒーのプルタブに手を掛けながら朗笑する荒巻先生を見て、
上がっていた頭が段々と下がって行った。漏れたため息は多分、心から溢れ出した物だ。

/ ,' 3「まさか一度陸上を離れたお前がまたここに来るとはの」
あの人はいくつになっても少年のように振舞う。
それに言葉も倣うのか、刺のある言葉でも嫌味と言う物を感じない。今だってそうだ。

グラウンドから少し離れた所にある、雑木林。
そこに備え付けられたベンチに座って、まあジュースでも奢るから
話でもしようかと荒巻先生が提案したのは、ほんの5分前のことだった。

( ^ω^)「すみませんお……」
/ ,' 3「否、責めてはおらん」
ちょうど真上に鎮座する初夏の太陽みたく荒巻先生は笑う。

( ^ω^)「先生」

歓声は遠い。
僕はいつから、この位置に落ちていったのだろう。
あの声たちに、いつから蓋をしたのだろう。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:54:10.54 ID:1FLXSN0o0
( -ω-)「聞かないんですかお。僕が、陸上をやめた理由」
/ ,' 3「聞けば内藤はまた陸上をやり始めるのか?」
( -ω-)「………………」
図星もいい所だ。先生は完璧に理解しながら言ってる。
風が吹いて、葉擦れの音がする。こくり。荒巻先生がコーヒーを租借した。


/ ,' 3「内藤。高校入った時、他の先生方に陸上する事を強要されたの?」
( ^ω^)「は、はい。確かにそうですお」
サトリか、この人。大げさに肩を震わせる。
高校入学当初『陸上はもうやらない』と公言した後の事。今でも粒さに思い出せる。
先生がよって集って僕を引き止めにかかった時の事。

『お前は陸上をやる為に生まれてきたんだ』だの、
『お前が走らなくてどうするんだ』だの、

教師も所詮ノルマを課せられたサラリーマンなのだと身をもって理解した一年の春だった。
僕はもう走ることはない。この足はもう前には進まない。
アンタらに何が解ると、ささくれた心は今でも時々痛む。

/ ,' 3「それ、ある時期を過ぎるとパッタリやんだの?」
邪気眼でもついてるんですかお。幸いその言葉は喉にひっかかった。
目を剥いて先生を見たら、はやりしわがれた顔で少年は笑っている。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:55:14.44 ID:1FLXSN0o0
/ ,' 3「あれ、やめさせたのワッチだの」
危うく手に持ったままだった炭酸飲料を落としにかかりそうだった。

/ ,' 3「もしかしたら、あのまま先生方が強要し続けていれば、
 内藤は陸上をやめていなかったかもしれぬ」
だからワッチも共犯だ。そう言ってケラケラ笑う荒巻先生。
また視線は地面へ落ちていく。2年になってから新調した綺麗なスニーカーが目にうつる。
昔は2ヶ月もあれば靴底が磨り減って、脇が破れて、歩くたびに砂が入ったものなのに。

いや、それにしても

(; ^ω^)「どんなマジック使ったんですかお……?」
/ ,' 3「なーに、簡単簡単。陸上部顧問やめるぞと口添えしたの」
(; ^ω^)「…………」
要は脅したわけですかお。

/ ,' 3「交渉術と言ってくれい」
人のピロートークにやんわりツッコミを入れ
今度はケタケタと笑う狸爺、もとい希代の陸上コーチ。

( ^ω^)「怒って、ないんですかお? ぼくは……僕は、
貴方にたくさんの事を教えもらったのに、それを全部ゼロにして……」


/ ,' 3「内藤。」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:56:46.28 ID:1FLXSN0o0
"荒巻コーチ"が僕の名前を呼ぶ。
反射で顔を弾き上げ、隣りにいた先生の方向へ首を曲げる。

視界に写ったのは、全部を許したように笑う荒巻先生だった。
荒巻先生は時々ちぐはぐになる。長く生きた人にしか出来ない表情をするんだ。
その目を見ただけで、情けないことに泣きそうになった。

いっそう強く、葉擦れの音。


/ ,' 3「いいんだの。……あれは、仕方なかった」

しわがれた手が僕の頭へのびる。そのままくしゃり、と撫でられる。暖かい手だった。

( ;ω;)「せん、せい……」
ぼやけた視界に木々の緑はよく映えた。
太陽の光に浮かんできた涙が乱反射して、プリズムの中にいるようだ。

/ ,' 3「ああ、そういえば藻川は元気かの?」
( ^ω^)「ドクオ、ですかお?」
/ ,' 3「左様、藻川だ。アイツも磨けば光る逸品だったの」
( ^ω^)「…………ドクオは」
/ ,' 3「ぬ?」

荒巻先生の眉尻が上がる。
僕らの足はいつからかひしゃげてたって話だ。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:58:59.00 ID:1FLXSN0o0
/ ,' 3「……むぅ、今流行りのにぃととか言う奴かの?」
( ^ω^)「や、先生。ニートとひきこもりは別物ですお!
その違いを敏感に反応する人はたくさんいますお。気をつけて下さいお」
/ ,' 3「ぬ、ぬぅ。今後の参考にするの……」

そして流れる沈黙。
葉擦れの音は低くなったり高くなったり。あるいは強く、弱く。
まるで海にいるみたいだと思った。慣れない感覚だけれど、心地良い。

/ ,' 3「内藤。覚えてるか? お前とドクオが一度、朝練を休んだ日のこと」
( ^ω^)「お? ……いや、覚えてませんお」
/ ,' 3「調度、梅雨初めのこの時期だったの」

荒巻先生が双眸で空を仰いだ。
頭に浮かんだ疑問符に、覚えてないのならいい。と先生の声。

短距離100m走のプログラム開始を伝えるアナウンスで流れた。

/ ,' 3「そろそろワッチは行くの」

そうして荒巻先生は立ち上がり、僕の頭をもう一度撫でた。
頭を垂れて目を瞑る。やがて離れていく暖かさを、少しでも心に刻み込むために。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 18:59:48.17 ID:1FLXSN0o0
(; ^ω^)「お?」
撫でまわす手の動きは止まっているのに、何故か荒巻先生の手は僕の後頭部から離れない。
お? もう一度声に出す。

(; ^ω^)「あ、荒巻先生……?」
/ ,' 3「いやの、いや、のぉ。なんか可愛い可愛い一人孫に悪い虫がついた様での。
しかもそいつの真似までするようになっての、やめろやめろとワッチが言うにもかかわらず
『でもおじいちゃん、尊敬してるんだいよぅ』とか言って泣き落とされての。
まあ可愛い孫の言う事じゃからワッチも百歩譲ってやってもいいかのぉとか思った矢先に
孫の陸上大会にその男が来たようでさっきすれ違いざまに頑張れのと言うてやったら
『聞いておじいちゃん、先輩が来てくれたんですいよぅ!』なんて嬉しそうな声で
言っちゃったりしちゃったりしてくれちゃったりしたりの今までは何を置いてもワッチだったのにそれがどうだの! どうだの!? もうさくっとその悪い虫をやっちゃったほうがいいような気がして来てのぉ」

( ^ω^)「い、いやっ先生? 痛いですお!? ってかホントにってぇお!
 どこからこんな握力でてるんですかお!?」

このままトマト的に僕の後頭部がつぶれるとちょっとした大惨事だ。
つーか高岡のヘッドロックの師匠って先生の事ですかお!?



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 19:05:08.87 ID:1FLXSN0o0
/ ,' 3「と言うのは冗談だの」
(; ^ω^)「どこからどこまでが!?」

冗談じゃない。後頭部の痛みは凄い現実的だ。

/ ,' 3「あとブーン。高岡のことは大切にしてやりの」
( ^ω^)「お……?」
唐突に伝えられた忠告に、小首をかしげざるおえない。
グラウンドからはピストルの音。第一走者が走り出したのだろう。

/ ,' 3「あいつはいつも遠まわしだからのぉ」
( ^ω^)「どこかですかお?」
感情の出し方も凄くストレートですお?
間髪入れずに返した僕の言葉に、荒巻先生がまた一つ朗笑した。

/ ,' 3「さしずめ高岡はヤマアラシだの。『自己の自立』と『相手との一体感』という欲求の、ジレンマ」
( ^ω^)「お?」
/ ,' 3「少年老い易く学なり難し。勉強しろぃ内藤」

荒巻先生の白髪が風に揺れる。
じゃあの。その一言だけが荒巻先生なりの別れの挨拶だった。
振り返ることもせずに先生は歩を進めていく。僕も回れ右で駐輪場へ向かう。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/15(金) 19:06:17.26 ID:1FLXSN0o0
ジャリジャリと砂噛みの音、強弱様々な葉擦れの音。
それから遠くなっていく歓声。


両手を広げて、一歩足を前へ出すものの、走り出しはしない。


僕は走れるのだろうか?


それを実践する気持ちには、どうしてもなれなかった。


《そのご 休日しせんくぐり。その1》 終
             そのろくに続く!



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