( ^ω^)机は繋がり僕らは出逢うようです。

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:33:42.49 ID:Vh2pD5Qu0
《そのじゅうさん 軌跡をたどりきせきをまつ。》

冷然と並ぶ墓石の花崗岩に、上天にある爽涼な青。
ただそれだけが、故人たちを偲び、その餞として添えられている。

そんな中で、僕は墓の前に座り込む一人の女性を立ち尽くしながら見ていた。
屈んで膝を抱える、脆弱な雰囲気の、ガラス細工のような女性。
その横顔、額にかかる少し長めの金髪。髪型はツインテール。



( ^ω^)「まさか――――」

冗談じゃない。
冗談じゃないけれど、頭に上って来たもしもを、僕はまだ完全に否定しきれずに居る。


( ^ω^)「ツン、せんぱい?」

その声に反応し、こちらに振り向く彼女。
青白く生気のない――しかしそれでいて精悍なフランス人形のようでもある――その顔は、
僕を見るなりくしゃりと歪んだ。つられて顔の筋肉が引きつるのを感じる。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:34:43.38 ID:Vh2pD5Qu0

ξ゚听)ξ 「なんだ、内藤じゃない」

沈黙の音は木々のざわめきで、その音が世界の全部だと錯覚しそうになる。
だけどいつか聞いたような梢の音は今じゃ耳障りでしかなくて。


ξ゚听)ξ 「元気にしてた?」
( ^ω^)「は、はい。まあ、それなりですお」



ξ゚听)ξ 「そう」

会話が途切れた。また葉擦れの音が返ってくる。
小さく開かれた彼女の唇から、惰弱そうな吐息が出た。



座り込む彼女をちょうど見下ろす感じに眺めながら、僕は最悪な憶測の真偽を――

ξ゚听)ξ 「なんで私がここにいるのか、って表情ね」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:36:50.95 ID:Vh2pD5Qu0

(; ^ω^)「違いますお。そうじゃなくて、」


ξ゚听)ξ 「簡単に否定しないで。じゃあ何でそんなに慌ててるのよ」
(; ^ω^)「…………それは」

思わず口を噤んだ。
はあ、と息の音が聞こえる。



ξ゚听)ξ 「贖罪、なのかもね」


『須田』と刻まれた墓石を眺めながら、ツン先輩が言った。
墓石の両脇に添えられた仏花の色鮮やかさを眩しがっている感じの遠い目で。


( ^ω^)「しょくざい?」
ξ゚听)ξ 「そう、罪滅ぼしよ。罪には罰しかないし、それに――――」
碧眼の両目が天を見た。僕もつられてそちらに眼を向ける。
確かに夏の訪れを感じさせる、薄い雲の膜が張り、淡い水色をした空。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:38:06.35 ID:Vh2pD5Qu0
寝息みたいにそろりと息を吐き、ツン先輩が言葉を紡ぐ。






ξ゚听)ξ 「クーは私が殺したから」





強張っていた肩は自然に降りて来ていた。
一瞬、重苦しい圧力が肩にかかる。耳がぴくりと動く。


( ^ω^)「どう言う事ですかお……?」


冗談じゃないもしもが、



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:40:03.55 ID:Vh2pD5Qu0
ξ゚听)ξ 「言葉通りの意味しかないでしょ? クーは私が、」
(♯^ω^)「違うッッ!!」

びくり、とツン先輩が震える。
そんな物今はお構いなしだと僕の喉は悲鳴を挙げる。


頭に上って来たもしもが、完全に否定しきれずに居る僕を襲う。


それは――――


(♯^ω^)「違う違う違う違う! そんな事はどうでもいいんだお!
 未来はッ、未来は変わったんじゃないのかおッッ!?」


ξ゚听)ξ 「内藤、あんた」

ツン先輩が今度は目を見張った。
座り込んでいた姿勢から立ち上がって僕を見る。対等になった視線。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:40:47.51 ID:Vh2pD5Qu0
(♯^ω^)「なら、なら僕は一体何の為に諦めなかったって言うんだお!!」
ξ゚听)ξ 「ないとう」


( ´ω`)「僕は一体、何の為に……」


それは、僕のして来た事が何の意味もなかったんじゃないかっていう憶測。
僕が積み上げてきたことは、僕が諦めたことは何の意味もなかったっていう、勘定。


ξ゚听)ξ 「………………」

ツン先輩は呆然と立ったまま、僕を見ていた。


( ^ω^)「推薦、ですかお」
ξ゚听)ξ 「…………!」

震える瞳孔のその意味は、



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:42:38.18 ID:Vh2pD5Qu0
( ^ω^)「ツン先輩」
ξ゚听)ξ 「……カじゃないの」
( ^ω^)「?」

風が吹く。たなびいていた線香の煙はそれに揺らされ、
微かに鼻をつつく香りだけを残して消える。

ツン先輩が大きく口をあけた。


ξ゚听)ξ 「バッカじゃないの!? そんな訳ないじゃない!
 そんな事でクーを切り捨てるハズないのよ!!!」


頭を両手で囲い込んで首を振る。震えるツインテールに、僕の肩。
唐突な強い拒絶と否定に僕は顔をしかめさせる。

( ^ω^)「先輩」
ξ゚听)ξ 「私が…………私の、」
悲哀とも憤怒ともつかない感情で、ツン先輩の顔は塗りつぶされて行く。
風が強く吹いた。ザウザウと、波の音が逃げ道のない突き当たりの僕らを包む込む。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:43:40.94 ID:Vh2pD5Qu


ξ゚听)ξ 「私は、バトンを――」




そこでツン先輩の言葉は途切れた。
ただ原因は僕じゃなくて、



「何をしているんだ……」


怒号にしては穏やか過ぎて、挨拶にしては憎悪がこもり過ぎている声。
ビクリとツン先輩の体が、瞳が震える。――――その感情は畏怖?


声のした方向を振り返り、僕はその名前を呼ぶ。
普段の物腰とは裏腹に、怨みや憎しみと言ったマイナスの感情が入り混じった顔の、



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:47:05.43 ID:Vh2pD5Qu0

( ^ω^)「ショボン」

クー先輩の弟が、僕の大切な友人がいる。


ザウザウザウと、音がする。

沈黙の音はやっぱり、木々のざわめきだった。




(´・ω・`)「答えろ。何で貴様がここにいるんだ。姉さんの墓前にどの面下げて立てると言うんだ」


ξ;゚听)ξ「わ、私は、その……」
ただでさえ満足に血の通っていないツン先輩の顔が、さらに蒼白になっていく。
彼女はたじたじと後ずさりをしながら、首を振った。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:50:11.28 ID:Vh2pD5Qu


(`・ω・´)「詫びるなら姉に詫びろ!」


今度こそショボンの口から出てきたのは怒り声だった。
その声に反応してか、せき立てられた鳥が飛び立っていく。


ξ゚听)ξ「っ!」

二、三歩後退し、ツン先輩が踵を返して走り去っていく。
引きとめようとのばした手は、何もない空中を掴む。


(; ^ω^)「ちょ、ツン先輩!?」
行動で出来なかったものは言葉で示す。
遠くなっていく背中に声をかけるけれど、その足が止まることはなかった。
視線の先にあった自分の手で頭を掻いてからズボンのポケットに仕舞う。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:52:28.49 ID:Vh2pD5Qu0
(´・ω・`)「………………」
何とも言えない表情をしていたショボン。
段々と下がっていく眉尻を見るのは中々に苦痛だ。


燦々と降り注ぐ太陽の光。
腕時計の針は僕らの空気なんて知らん振りで秒針を刻んでいく。



(´・ω・`)「お見苦しいところをお見せしました、内藤くん」
( ^ω^)「あ、いや僕は別に気にしてないですお。けど」


(´・ω・`)「……あの、彼女は」
律儀に説明をはじめようとしたショボンを右手で軽く制止する。
軽く傾げられた首。


( ^ω^)「知ってるお。中学時代の先輩だったから」
(´・ω・`)「そう、だったんですか」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:53:15.56 ID:Vh2pD5Qu0
頷いて、最後の疑問をぶつける。



( ^ω^)「ショボン、姉さんの墓前って……」



正対しあう僕らに流れる時間は酷く緩やかで、
だからこそショボンがその回答を述べるまでの時間も長く感じられて、



(´・ω・`)「――ここで騒ぐのは少し不謹慎ですね。内藤くん、よければ家にいらして下さい」


長い長い時間を要して、ショボンが伝えてきたのは、そんな言葉だった。







17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:55:46.05 ID:Vh2pD5Qu0
僕の左手には、やはり整然として格調高い日本庭園。
ここを通るのは2度目なのに歩く時の変な緊張は解けない。
渡り廊下、と言うか縁側をショボンの後を着いて行きながら歩いた。


ぐるぐると頭を駆け巡る事実は一つで、何度も咀嚼する言葉は一つだ。




『未来は変えられるが歴史は変えられない』
そんな言葉。どこぞの偉い人が残した、絶望への切符。
左胸の奥からせり上がって来る感情の理由と、頭を渦巻く何かをやっぱり僕は拭い切れない。
ちょうど僕の隣にある枯れ山水の波紋に似た、雲を掴むような感覚だった。



屋敷には微かに線香の香りが漂っている。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:57:26.37 ID:Vh2pD5Qu0
永遠に続く隘路の次に待っていたのは、無限に広がる回廊だったって訳かお。
苛立ちに顔が歪む。


目下に広がる庭の景色は、全部の煩わしさを取り払ったみたく静かだ。


「にゃぅ」


( ^ω^)「おっ?」
喉の奥でゴロゴロと鳴る、甘えきった声。
僕は前方にいるショボンを眺める。ショボンも後方にいる僕を眺める。
初心なお見合いのように見つめあい、


|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「にゃぁあん」

足元に擦り寄ってきた何かを見た。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 17:59:08.57 ID:Vh2pD5Qu0
( ^ω^)「おっおー、あれっ? ショボン猫飼ってたのかお」
(´・ω・`)「あっ、こらポリフェノール。いつの間に帰ってきてたんだ」
この不良娘め、とショボンがそれを抱きかかえる。


|;;;;;;;|:::: (へ) ,(へ) |シ「にゃぉお」



(; ^ω^)「ポリフェノールて、まああの、その、健康的なお名前ですお」
言っちゃなんだが凄いネーミングセンスおね。

言外にそう伝えながら、ショボンの腕の中にぬくぬくと納まっている猫を見る。
猫に詳しい訳じゃないけれど、見たところによると白黒ぶちの雑種だ。

全体的に白を基調としてて、右目の下あたりにある大きな黒ぶちが印象的な、

( ^ω^)「……ホルスタインに改名しね?」
(´・ω・`)「しません」
きっぱり断られた。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 18:01:05.54 ID:Vh2pD5Qu0
(´・ω・`)「珍しいですね、家の娘が人に懐くなんて」
彼が優しい手つきでそれを撫でる。



って言うかメスかよ。





(´・ω・`)「内藤くん、こちらの部屋に」
通されたのは、あの日とはまた別の部屋だった。6畳程の和室。
一番に眼に飛び込んで来たのは、床の間にある赤い花の一輪挿し。
その場所の電灯しかついていない為か、少し薄暗い感じの部屋。


敷居を踏み、進む。


この部屋からは、線香の匂いがする。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 18:03:03.51 ID:Vh2pD5Qu0
( ^ω^)「お――…………」
絶句する。部屋の上座にある仏壇が視界に入った瞬間の事だ。
いや、正確には、

(´・ω・`)「…………」
( ^ω^)「お、おおおお――」

仏壇の横に飾られた、小さな、手帳ほどのサイズしかない遺影。
その中に収められた、柔らかい視線で微笑む女性の姿を見た瞬間だ。


その時。


やっとの事で脳の中の、全ての糸を繋ぎあわせる事が、
絡まった糸を解く事が出来た。やっとの事で僕らは出逢えた。


その時、やっとの事で僕は、思い出したんだ。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/14(土) 18:04:22.25 ID:Vh2pD5Qu0
凄まじい勢いと熱量をもった記憶の反流。
遡り、押し寄せてくるそれは、


( ^ω^)「ぉおおお……おぁああ――――」
膝をつきうな垂れる。そうか。そうだった。


とどのつまり、僕は鳥になれないただのペンギンだったんだ。



あぉん、とポリフェノールが一度だけ鳴いた。



《そのじゅうさん 軌跡をたどりきせきをまつ。》 終
              そのじゅうよんに続く!



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