( ^ω^)机は繋がり僕らは出逢うようです。

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:20:53.17 ID:L4C8a7ML0
《そのじゅうご 過去になったみらい。》

(´・ω・`)「仰るとおりです。家の猫は――ポリフェノールは、三年前姉が助けた子です」
瞳を伏せ、ショボンが言う。
再度口を開いて、決定的なそれを述べた。



(´・ω・`)「その命を持って」


その言葉で水を打ったみたいに静かになる僕の鼓動や息使い。
すとん、と素直に心へ落ちてきた言葉に、頷く前にうな垂れる。

( ^ω^)「やっぱり、かお」
(´・ω・`)「内藤くん――」
ショボンの声。綺麗な畳の目ばかりの視界。
そして直結するシナプス。まだ折れる訳にはいかない、と高らかに宣言する理性に押され、僕はショボンを見る。

そうだ。僕はまだ伝えなくちゃいけない。彼女の事を。
それがせめてもの義務だとも思う。僕は喉を鳴らす。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:22:54.58 ID:L4C8a7ML0


( ^ω^)「――聞いてくれお、ショボン。あの事故は、ツン先輩はクー先輩を突き飛ばした訳じゃないんだお」


ショボンはその顔色を変えない。
どれだけ注意深く見ていても、僕の言葉に顔の筋肉一つ動かさない。
これはどう言う事だお? 思っても、言葉にはせずに僕はショボンの言葉を待った。


何十秒かの沈黙があって、彼はゆったりと息を吐く。





(´・ω・`)「知っています」




38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:25:24.28 ID:L4C8a7ML0
(;;^ω^)「はっ――?」
ショボンが全部伝えてくるまで無言でいようと思ったのに、思わず声がでた。
空気が止まる。ショボンは能面のまま、感情を表そうとしない。

これはどう言う事だお? 思っても、言葉には出来なかった。
しようしないのと出来ないのとはまったく別次元の話だ。



(´・ω・`)「津田麗子は、姉を助けようとした。それが事実だと言う事は知っている、と言っているんです。
 ……むしろ最悪と罵るべきなのは、あの運転手なのだとも」

(; ^ω^)「なら、なんでだお!?」
付言するショボンに問う。だって、知っているのなら。
ショボンが何かを言い出す為に口を開き、僕の思考を止める。



出て来たのは彼らしくもない激情だった。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:29:18.26 ID:L4C8a7ML0
(`・ω・´)「未成年と言うだけで名前も顔も、出身でさえ、僕ら遺族には知らされなかった!
 ただ未成年だと言う、それだけの理由で……!」
( ^ω^)「…………」

(`・ω・´)「家族を殺されて、誰も恨まないなんて程、
 僕は聖人君子でもなければ人間ができているわけでもない!」
むしろそれこそが人間らしい感情じゃないか、とショボンは言う。
それが、当然の摂理だと。


いや、けれど。
僕は思う。だってそれは、


( ^ω^)「ショボン、でも」
(´・ω・`)「誰かを恨まなければ息をする方法さえも見失ったんですよ、僕は」

遠くの甘い果実よりも、手元にあった泥をすすっただけの話だとショボンが言う。
それが、自分にとっての生きる糧だったと。


( ^ω^)「でもショボン、それはただたんの」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:31:39.13 ID:L4C8a7ML0


(´・ω・`)「逆恨みですよ」



ずっと僕の頭の中に巡っていた単語をすんなりとショボンが言葉にする。
なんだ、解ってるじゃないのかお。
とたん水の中に一滴の墨汁を垂らした感じに、広がっていく暗たんとした感情。


( ^ω^)「ならそんな無意味なことは、」


(`・ω・´)「理解するのと、それを実行出来るかは別の話だ!」
あの時墓地で荒げた声よりも、ずっと剥き出しにされた感情。
怒りに満ちて、嫌悪に満ちて、けれど悲しみにも似たような、それは彼を支えてきた物の全てだ。


( ^ω^)「…………」
だからこそ僕は反論できない。
彼の全霊を否定する事が出来ない。理解も共感もしていないはずなのに、それに口出しする事が出来ないんだ。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:33:29.58 ID:L4C8a7ML0
ショボンが肩をすくめ、それから小さく笑って、


(´・ω・`)「つまらない話をしました。すみません、内藤くん」


敷居の辺りで随分長いこと立ち往生していたような気がしますね。とショボン。
仏間の中に入って行き、電灯スイッチを、
――と言っても昔ながらのあの紐何だけど――それを掴んだ。


パチ、と響く通電する音。明るくなる部屋。
けれど僕は留まったまま。



( ^ω^)「……これは、受け売りだお」
(´・ω・`)「?」
そうして思い返す先生の言葉。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:36:57.27 ID:L4C8a7ML0


荒巻先生。貴方は全部知ってたんですかお?


あの優しげな微笑みがリフレインする。あの日先生が言った言葉はこんな所にも精通していたんだ。


( ^ω^)「人との関係の保ち方は、常に『ヤマアラシのジレンマ』だって」
(´・ω・`)「……互いに身を寄せて暖め合おうとするたびに、相手の針が自分に刺さって苦痛を感じる。
 けれど、体を離すと今度は寒さが身に染みる。ですか……」


( ^ω^)「そんでもって、ヤマアラシは調度いい距離を見つけるんだお!」
ああ、その説明ぐぐった時聞いたのに。と少し悔しい僕。
仕方がないから〆の言葉だけを言う。彼は背中を向けたままだ。


(´・ω・`)「……許せる日が、くるとでも?」
振り返ったショボンの眉がぴくりと動くのが解る。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:40:50.96 ID:L4C8a7ML0
荒巻先生、貴方の言うことは全部正しかったけど、一つだけ違うのがある。
ヤマアラシなのはハインリッヒだけじゃない。ショボンだってツン先輩だって、


そして僕だってそう。


大きく頷く。



( ^ω^)「許すなんて大層なレベルじゃないお。例えば。今すぐじゃなくとも、長い月日を重ねれば、
距離が縮まる日、溝が埋まる日が来るかもしれないんだお。いつかは、そんな日が――」



(´・ω・`)「永劫に来ないんじゃないですか」
(; ^ω^)「ショボン!」
たしなめるが、彼は何のアクションも示さなかった。
ただあの能面の表情で僕を見たまま口だけを動かし、



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:42:59.17 ID:L4C8a7ML0
(´・ω・`)「それこれ、クー姉さんが生き帰らない限り」
そして自傷気味に笑った。電灯は切れ気味なのか、何度も点滅する。
それに合わせて部屋の明暗が目まぐるしく変わっていく。
ポリフェノールの姿はない。まったくもって猫らしい猫だ。


( ^ω^)「…………でも」
(´・ω・`)「所詮どこまで行っても、これは僕とあの女との問題です。でも……ありがとう」
そうして最後には花みたく綻び、笑う。
人を信じきった笑顔を向ける。それっきり僕の言葉は全部摘み取れた。


こんな。こんな悲しい事があっていいのか。ぐらぐらと世界が涙で歪んで行く。
ショボンがブレザーのポケットに手をのばした。
しばらく手で探って、一枚のプリントを取り出す。
そしてその動きの流れのまま、僕に差し出してくる。

(´・ω・`)「内藤くん、これを」
こちらに来ようとする感じはない。仕方がないので僕の方から出向いていく。
それはショボンの右手から僕の右手へ。ざらついた感触が肌を刺激する。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:44:10.73 ID:L4C8a7ML0
( ^ω^)「これって……随分と古い紙だお」
(´・ω・`)「学校を休んだ日に、見つけたんです。今日で納得しました。
そう、だった。納得しましたよ。……内藤くん、だったんですね」

ショボンが付言する。
手の中にはいい感じに風化した一枚のプリント。
シワが丁寧に伸ばされた形跡がある。――もしかして。


(´・ω・`)「それにしてもこれは凄い運命だ。凄く、悲しい運命だ」

違和感は予想に。予想は、確信に。


( ^ω^)「日付は今年の6月……」

僕の呟き。
そうだ、これは


(´・ω・`)「姉の遺品です」

僕が机に置き忘れた、文化祭の連絡用紙じゃないか。





54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:45:31.49 ID:L4C8a7ML0






『君に逢ったら、返そうと思っているこのプリントなんだが、
それだけだと何だか味気ないので裏にでも手紙を書いておくことにするよ。』






風化した藁半紙のプリント。
その裏には、あの机の字とまるで一緒の字体で、
彼女の字でそんな事が書いてある。

ざらついたその紙を、何度も何度も僕はなぞる。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:46:50.44 ID:L4C8a7ML0


『始めまして、久しぶり。何だか変な日本語だけど、一番最初にそう言おうと思っている。
私は、ちゃんと言えたか?


三年後の私はどんな姿で君の前にいるんだろう。君はどんな人なんだろう。
たかが三年が、今はひどく遠いよ。楽しみだ、と言っても良いのかも知れない。



なあ、ブーン。今、君にすごく逢いたい。』




手紙はその一言で終わっている。
仏間の壁に掛けられた古時計が、ニ回鐘を打つ。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:49:50.69 ID:L4C8a7ML0
(  ω )「うぁぁぁぁぁぁあああ……」
心は悲鳴のボリュームを捻り上げていく。僕は首を振る。

三年よりも、時間よりももっと遠くの所に君は行っちゃったじゃないかお!
ぽつりぽつりと目から流れ落ちる涙で、より深い土壁色に染まって行く藁半紙。


(´・ω・`)「内藤くん、君にはこれを持っていて欲しい」
残酷な事を言うショボン。


超えられない溝が、縮む事のない距離が、僕たちの目の前に平然と横たわっている。



(  ;ω;)「うぁ、ッ――うぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」




その日見た全ての色はほの暗い絶望で彩られていた。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/16(月) 19:52:38.29 ID:L4C8a7ML0





『未来は変えられるが歴史は変えられない』
そんな言葉。どこぞの偉い人が残したのは、まるで正確な世界の定義。





《そのじゅうご 過去になったみらい。》終



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