( ^ω^)机は繋がり僕らは出逢うようです。

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:46:40.26 ID:ZZh9BIx50
《そのじゅうなな 大空はばたくとりのように。》


(; ^ω^)「なん……なんなんだお?」
その声に呼応するように、もう一度僕の机の周囲が淡く光る。
結局僕は、ホームルームの扉前で立ち尽くしながらその様子を見るしかない。



一体全体、これはどう言う事だお……?
現状を分析しようとする度に混乱は増していって、思考力は削ぎ落とされる。




( ^ω^)「…………」
前方にある窓から朝日が差している訳でもないし、
どこからか強い光が当てられている訳でもなかった。

言葉通りの意味で、机とその周囲自身が『発光』しているんだ。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:47:52.62 ID:ZZh9BIx50
( ^ω^)「…………光?」


そして僕には、どうしてもそれが危ないようなものには思えなかった。


誘い込まれるように一歩進み、体をその光に踏み入れる。
教室の敷居を踏む間際、ああ、切り替わった。そう思った。


(^ω^ )「別にかわった所なんてないお……?」


きょときょとと僕はその辺り一帯を見回してみる。
鼻腔をくすぐるのは、生暖かいような、それでいてどこか埃っぽい木の匂い。いつもと同じ匂い。
何度か確かめるように足踏みしてみるけれど、そこに何か変わったような物はなくて。
結局どれもこれも、一つの異常を除けばいつもと同じって事だ。


( ^ω^)「いつもと同じ、だお?」


いや、そもそもいつもってなんだお?



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:49:22.69 ID:ZZh9BIx50
(^ω^ )「…………」
そこでふと、思い至る事が一つだけあった。
まだ光を失わない自分の机と、出入り口の扉を交互に見る。



( ^ω^)「……あの感覚は、」


教室に入る時に感じた『切り替った』って言う感覚。
視覚、聴覚、触覚、その全部。まるでチャンネルを回した時みたいな、あれは。


( ^ω^)「僕は毎日感じてたけど……」
別段珍しくもないと思ったそれそこが、そもそもの根幹じゃないのかお?
頭の隅っこで、僕が呟く。脳みそがそんな思考で一杯になり始めていた。
考えは形にならないまま泡になって消えていって、


( ^ω^)「でもなんで……?」
容量からはみ出たそれは言葉になる。

何かを忘れているような気がする。でもその何かって、なんだお?
考えれば考える程思考のスピードは減速していき、目的地は遠ざかって行っているようで。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:50:52.44 ID:ZZh9BIx50
窓辺まで歩き出し(また切り替る。)僕は遠目からその様子をもう一度見てみる。
視点を変えれば、何か新しい発見があるかも知れないと思ったからだ。


( ^ω^)「…………」
それでもやはり事実は事実のままらしく、
僕の机と机の周りは、やんわりと発光しているだけで。


(#`ω´)「ああくそもう――!」
どうなってんだお。と苛立った所で、突然の眩しさに僕は目を瞑る。
何もあの光が強くなった訳じゃない。ただ、


(-ω- ;)「朝日かお……」

東向きの窓から降り注がれる、太陽の一矢のせいだった。
腕時計で時間を確認してみれば午前5時55分。
すげぇぞろ目だお。どうでもいい事にちょっと嬉しくなったり。

答えは一向に見つからず、グラウンドの土色を眺めながら頭を掻いた。
悩んでようが一日は始まって来ている、それだけの話だ。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:51:47.33 ID:ZZh9BIx50
( ^ω^)「……机が光ってようが、今更驚くようなもんでもないかお」
これ以上のミラクルを、僕は体験してるんだから。
ため息と一緒にそんな言葉を吐いて、頼まれているマイナスドライバーを探すべく僕は振り返った。



そうして、省みたその光景が全部の答え。



( ^ω^)「――――おぁ」
思わず言葉が出る。

あぶり出しの暗号を解く時みたいに、そこには正解が記されている。


なるほど。そう言う事か。


そこでようやっと僕は気付いた。相変わらず、僕は気付くのが遅い。
でも今は手遅れじゃない。それだけが救いのように思えた。
目的地と終着地点は、始まったここだったってだけだったんだ。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:52:49.23 ID:ZZh9BIx50
( ^ω^)「ここ……朝日が当たらない場所だったのかお」
頭から漏れ出した情報が言葉になって出て行く。


机の一角、あの発光していた部分だけに朝日が当たっていないんだ。
僕の予想が正しければ、それは多分――



( ^ω^)「3年前から――」



ようやく行き着けた。行き着いた思考が指さす仮定はただ一つ。



『朝日と時間の経過、その関係』



朝日や、あるいは日の光こそが、あらゆる物や人の時間を調節する
ペースメイカーなんじゃないかという事。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:56:05.36 ID:ZZh9BIx50
それは例えばドクオ。
3年前のあの日から、朝日を遮断したあの部屋の主の事。

『外に出たほうがエネルギー使って余計老けるって事だろ。』
3年前からまったく変わっていない姿で笑うドクオの姿が思い浮かぶ。
それはそうだろう。彼は一度だって、あの日から日の光を浴びた事がないんだから。


それは例えば僕の記憶障害。
取り戻した時の、あの頭痛の正体の事。

そもそもあれは3年前のあの日の事を封じ込めた僕への戒めなんじゃなかったのか?
日の光を受けて、確かに進んでいるのに記憶の時間を止めた僕の罪への、罰なんじゃないだろうか、と。


そしてその最たる物、



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:57:10.51 ID:ZZh9BIx50



( ^ω^)「何でクー先輩と交信がとれたか……!」



それを考えるべきだったんだ。
3年前のあの日交通事故にあって亡くなったハズの彼女と、僕が通信していた事。
それこそがこれに直結する確かな証拠じゃないか。


いつか僕が穏やかだと思ったこの場所は、
いつか僕が高岡と喋った誰そ彼のこの場所は、3年前から時間を止めていたって――!



机から発せられる光は強くなる一方で、嫌が応にもやがてくる『交信の時』を連想される。
僕はもう一度時計を見た。5時57分。

机の中にあった文化祭の連絡用紙の事を思い出す。
この朝日が射す時にも、この場所にあったはずのプリントは、確かに3年前の彼女に届けられたんだ。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:57:55.46 ID:ZZh9BIx50
( ^ω^)「いちか、ばちか、かお!」
頷き、新しい仮定を打ち出す。
つまりは3年前に送り出すものを、メッセージじゃなく僕自身に出来ないかってこと。


行動で出来なければ、言葉で示せばいい。
言葉で出来なければ、行動で示せばいい。


( ^ω^)「だってそれが僕のポリシーだったお?」


まだ強く光を放つ自分の机に歩み寄り、椅子を引く。



        ヽ       初めてそう言われたお! ありがとう
         (^ω^)-┐   
       ┗-ヽ ノ       どういたしまして。
         ┏┘     友人はムカツクと言っていたが、私はそうは思わないよ。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 17:59:32.47 ID:ZZh9BIx50
『みんなムカツクって言うから正直落ち込んでたんだお!
 それにしても雨がうっとおしいお』


 【あのらくがき、どうやって書くんだ?
 やろうと思っても上手く書けないんだが……】
『なにこのモッコスww えっと、コツはまず体を書いてから……』

机に記された彼女とのやり取りを指でなぞり、僕はそれに座った。
その視界に飛び込んで来た、彼女の最後のメッセージは――


『絶対なんてこの世にはないよ。絶対に。』


彼女らしい、クー先輩らしい現実論だった。
けれど僕はその『絶対にない絶対』に、縋りに行くんだお。思い、僕はゆっくりと目を閉じる。


( ^ω^)「絶対に、逢えるお」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 18:00:50.29 ID:ZZh9BIx50
朝日を浴びないようにと僕は縮こまって、机に寝そべる。

( ^ω^)「ああ、もう――」
これじゃあまるで始まりと一緒じゃないかと小さな笑いが出て来る。

結局全部はここにあった。落とした瞼。そして降りて来る黒。
ただ耳に響くのは、世界が時間の微調整にかかる音。

そうして、


カッチ、カッチ、カッチ、


それが止まった音がした。


カチ。






20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 18:01:49.47 ID:ZZh9BIx50
緩急、強弱。

  木擦れのような、

さざ波のような。


のび、
         ちぢみ、

反流しては穏やかになる。




( ´ω`)「…………あったまいっておー」


頭を抑えながら起き上がる。


実に変な感覚だった。
スーパーボールの中に入って跳ね回ったらあんな感じになるんだろうか。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 18:02:49.56 ID:ZZh9BIx50


これでまったく同じ風景だったりとかしたら、ただの笑い種だお――


なんて思いながら押し上げた瞼。



( ^ω^)「お……れれ?」


目の前に広がった光景。それは同じなのにどこか違う。
まるで歯に詰まったほうれん草みたいに、気持ちの悪いような感じが競りあがってくる。
教室を見渡そうとして、右を向いた所で止まった。
閉められた出入り口の扉、その下の部分にある換気口。

( ^ω^)「……とてもつなくボロイお」
ガムテープで補強されてるけど、なんと言うか情けなさすらや哀愁すら漂ってきそうなそれ。


( ^ω^)「冬、足元寒いだろおな……ぁ?」
思考はそこで止まった。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 18:03:55.01 ID:ZZh9BIx50
フラッシュバックするのは『隙間風がひどくて足が冷える』の言葉。


それは、紛れもなく彼女からのメッセージで。


(; ^ω^)「まさか」
背もたれに腕を置き、上体を捻って自分の後ろにある連絡黒板を見る。
そこへ色とりどりのチョークで書かれていたメッセージは



『文化祭当日!!  3の1、演目・新撰組
 張り切ってやるぞ! ヽ(*>д<*)ノ!』


そしてその脇に添えられた年度は――


(* ゚ω゚)「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!!」
叫び、僕は立ち上がって握り拳を突き上げる。
その際にガッターンと大げさな音立てて椅子は倒れたけどそれはもう気にせずに。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/22(日) 18:07:04.29 ID:ZZh9BIx50
朝日はまだ昇らず、全部は始まってすらない。



平成16年 6月20日。



黒板に記されているのは、そんな言葉だった。



机はその日、確かに繋がったんだ。


《そのじゅうなな 大空はばたくとりのように。》 終
              そのじゅうはちに続く!



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