( ^ω^)ブーンがピアノを弾かされるようです。

51: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:10:40.91 ID:qY6pkeUu0
どうやらGはひどく顔色が悪いようだった。

( ^ω^)「どうした? 何か…」

そこでブーンはGが右手に何か持っていることに気付く。
最初は木の棒に見えた。
ヒノキか何か、丸く加工した木材。
しかし、こちらを向いている側が何か赤い布で縛られていた。
否、それは木材でもなければ布は元々赤くなかった。

(;^ω^)「そ、それ…人の腕…」

それは上腕から切り落とされた人の腕だった。
一体何がどうなってGがこんな物を持っているのだろう。

(;^ω^)「G、それどうしたんだ?」

ブーンが聞いてもGは返事をしない。
嫌な沈黙が流れる。
ブーンはそれでもGの返事を待った。

(;゚∀゚)「すまねぇ…」

しばらくしてGは意を決したのか、やっと口を開いた。
しかし、内容は全く意味を成していない。



52: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:11:52.66 ID:qY6pkeUu0
(;^ω^)「すまねぇって…G、答えになって…」

そしてブーンに突如、嫌な予感が走る。
しかし、まさか、そんなはずが無い。

(;゚∀゚)「すまねぇ…ブーン…」
(;^ω^)「謝らないでくれ…G」

ブーンの背後におぞましい寒気が擦り寄ってきていた。

(;゚∀゚)「すまねぇ…すまねぇ…どうしようもなかった…」
(;^ω^)「G…頼むから…」

予感が今まさにその形を変えようとしていた。
その手の指に、どこかで見た指輪――――

(;゚∀゚)「すまねぇ…! 俺が行った時にはもうお前の彼女は――――」
(#^ω^)「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ブーンは渾身の力でGを殴り飛ばした。
部屋の外へと転がり出るG。
そこへすかさず男達が何人か入ってきて、ブーンを取り押さえる。
追い討ちをかけようとしたブーンの拳は、男達によって腕ごと無理矢理後ろに引き戻されてしまう。

(#^ω^)「離せ! 離せぇぇぇぇぇぇ!」



53: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:12:47.98 ID:qY6pkeUu0
怒りに任せて暴れるブーン。しかし、男達は馴れているのかビクともしない。
ブーンが暴れているとGがゆっくりと立ち上がってこっちを見た。

(;゚∀゚)「…すまねぇ…ブーン…」

それでもGは同じ事しか言わなかった。

(#^ω^)「なんでだぁぁぁぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

男達は治まらないブーンをピアノの場所まで引きずり、ピアノの足と一緒に手錠で繋いだ。
それでも野犬のように暴れまわるブーン。

(#^ω^)「お前ら! ツンが! ツンが何をしたぁぁぁぁぁ!!」

ついさっき、互いに言葉を交わしたツンの腕が何故そんなところにあるのか。
理解できていないのに、ブーンの怒りは治まらない。

(#^ω^)「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

肺が擦り切れるのではないかという、そんな悲鳴。
ブーンは目の前の理不尽に、叫ぶことで徹底的に抗っていた。
そんなブーンの口からは最早意味を持つ言葉は出てこなくなっていた。



54: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:14:32.28 ID:qY6pkeUu0
そんなブーンの様子をモニターで見ながら男はニタニタと笑う。

('A`)「そうそう…それだよ、ブーン君」

押さえ切れない喜びが男から溢れ出てくる。

('A`)「楽しみだ…本当に楽しみだよ。あぁぁ……どんな芸術が生まれるのか。ふ…ふふふふ…楽しみで仕方ないよ!」

見慣れた光景であるとはいえ、さすがにこの男の様子には近くに控えていた男達も困惑の色を隠せない。
何がそこまでこの男を駆り立てるのか。
正常な者から見れば、この男は間違いなく狂っていた。
しかし男達はこの男についていく事を決めている。
それが正しいことなのだ、これは止むを得ない事なのだと、そう思っているのだから。



56: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:16:28.69 ID:qY6pkeUu0
ブーンが落ち着いたのはすっかり日が暮れて、夜もだいぶ更けた頃だった。
暴れすぎて手首が真っ赤になっていた。
腕の筋肉も随分と痛んでいる。
ブーンはあれから何度も頭の中の記憶を整理していた。
何故、ツンがあんな目に遭わなければならなかったのか。
自分に何か落ち度があったのか。
あるわけが無い。

( ^ω^)「じゃあ何でっ…!」

ブーンの叫びが室内を悲しく木魂した。

( ^ω^)「何で……」

全身の疲労感を感じ、がっくりとうな垂れるブーン。
そんなブーンの元に近づく人影。
人影に気付き顔を上げると、そこに居たのはGだった。



57: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:17:56.14 ID:qY6pkeUu0
( ゚∀゚)「………」
( ^ω^)「………」

目があったのだが、Gはそのまま視線をそらし何も言わずにしゃがみ、ブーンの手錠の鍵を外しにかかった。
二人の間をカチャカチャと細かい金属音だけが歩いていく。
ここからでは角度的にGの顔を窺うことは出来ない。
そこでブーンは何か声を掛けようかと思ったが、殴った相手にかける言葉なんて持ち合わせてはいなかった。
Gの無言がいまや暴力にさえ感じ始めている。
何故Gを殴ったのだろうか、とブーンは再び後悔した。
別にあちら側の人間なのだから、この行動は間違っていないのではないか。
何度も出た意見だが、ブーンはそれを結論には出来なかった。
自分は何を望んでいるのか。
ブーンはまた思考の迷宮へと迷い込んで行く。



58: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:18:49.23 ID:qY6pkeUu0
スッと衣擦れの音が聞こえた。
どうやらGが開錠を済ませて立ち上がったようだ。
両手の自由を確認して、ブーンは再度Gの目を見る。
しかし、Gは何も言葉を発さない。
それはブーンもまた同じである。
ほんの2,3秒視線を交わし、二人の距離は、また遠のいていった。
そして最後に重苦しいドアの音を聞いて、ブーンは言いようも無い孤独感に打ちひしがれるのであった。

( ^ω^)「………」

ブーンはその夜ピアノを弾く事無く、布団の中へと安らぎを求めた。

( ^ω^)「馬鹿だ…」

消え入るような独り言を呟いて、ブーンはそのまま眠りに落ちた。



59: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:20:09.17 ID:qY6pkeUu0
その翌日からGはブーンの部屋に来なくなった。
見知らぬ男が、会話をするでもなくただ食べ物を置いていく。
それでもブーンは扉の音がする度にGの幻を見る。
そして同時にツンの腕を思い出す。
どうしていいかわからない気持ち悪い衝動が、ブーンの心を内側から食んで行く。
そんな不安定な状態の為かブーンはピアノを弾かなくなっていた。
代わりにブーンは単純行動でストレスの発散をし始める。

例えば部屋の壁際を只管歩き続けた。
何回も、何回も、ぐるぐると。
ピアノの蓋の開け閉めを2時間やっていたこともあった。
ブーンはとにかく落ち着いて物事を考えられなくなっていた。



61: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:21:49.86 ID:qY6pkeUu0
そんな中いつも食事を運んでくる男が持ってきたものが、さらにブーンを追い詰める。

男「ほらよっ」

男はブーンの目の前でごとり、と人間の足を放ったのだ。
何も言わずともそれが誰のものかは察しがついた。

( ^ω^)「………」

ブーンはそれを確認するなり無言のまま男を殴った。
殴る、殴る、殴る。
地面に仰向けに寝転がる男を、ブーンは今まで行ってきた単純作業と同じように、ただ殴った。
10発目を入れようとしたとき、気付いたほかの男達に止められた。
しかし、ブーンは暴れない。
ただ、虚ろな目で床に倒れている汚い顔の男を見ていた。
殴られて尚、男は懲りずに口を開いた。

男「お前はただピアノさえ弾いてりゃいいんだよ。あいつが達磨になる前にさっさと弾き始めた方がいいぜ。へへっ」

男はそう言って床に濁った唾を吐き、誰かの肩を借りて部屋の外へと出て行った。
あの男は殴っても全然心が痛くならなかった。
やっぱりGを殴ったのは間違いだったんだ。
ブーンはゆっくりと、そう結論付けた。



62: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:23:55.80 ID:qY6pkeUu0
しばらくして解放されてからというもの、ブーンはピアノのそばからは離れなくなった。
CDのようにただひたすらピアノを弾きつづけた。
ピアノを弾くと、いつも目に浮かぶのがツンの顔だった。
自分のピアノを聴きたいと、言葉の裏で言ってくれたツン。
それは単純にピアノを弾いているブーンにはうれしい言葉だった。
ましてや、それがあのツンなのだから尚更だ。

( ^ω^)(けれども僕はそんなツンの手足を…)

ブーンは演奏を止め、立ち上がり譜面台を取り外した。
そして、もう一度左から椅子に座りなおし、流れるように両手を鍵盤の上に一瞬置いて、全体重をかけた。
鳴り響く激しくも悲しい音色。
ブーンが弾き始めたのは、ベートーヴェンのビアノソナタ 第8番 ハ短調 作品13 「悲愴」であった。



64: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:25:00.63 ID:qY6pkeUu0
今までのストレスを追い出すように、すべての出来事を忘れるように、ブーンはピアノを引き続ける。
そしてブーンはいつの間にか涙していた。
きっかけはわからない、自分でも気付かないうちにブーンは涙が止まらなくなっていた。
内側から溢れ出るエネルギーがその逃げ場を至る所に求めていた。

( ;ω;)「ぐっ…うっ……うぅぅぅぅぅぅ!!」

唸るように声を出しながら旋律を奏でていくブーン。
激情に合わせて指もせわしなく動いていく。
涙で前が見えなくても、ブーンは演奏をミスしたりはしなかった。
曲が進むに連れてブーンの感情はどんどんと高まっていく。
悲愴の第1楽章を弾き終えてすぐにブーンはショパンの革命のエチュードに移る。
とにかくただ激しい曲が弾きたかった。
第2、第3楽章は今のブーンにはまどろっこしくて仕方なかった。
弾けるような革命を弾き終えると、ショパンの幻想即興曲へ休むこと無しに、寧ろつんのめる位の勢いで移る。
幻想というには余りに荒々しい演奏。
音の一粒一粒に熱を帯びたその演奏は聴いていて苦しいほどだ。
本来なら優しく優雅な中間部も即興でピアノとフォルテが入り混じる。



65: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:27:01.72 ID:qY6pkeUu0
ただ夢中に、演奏以外を排除しブーンはすべてをメロディに変換する。
そして息つく暇も無くベートーヴェンの「熱情」第3楽章に移る。
曲に合わせてピアノは大袈裟な位小さくし、その緊張感を利用して、フォルテで一気に発散させるよう演奏した。
そのせいで激しい曲の起伏に合わせて感情が恐ろしく上下していく。
ブーンの顔も普段から見れば恐ろしいほど酷いことになっていた。
それでもブーンの演奏は止まらない。

( ;ω;)「うぅぅぅぅ!!!ぁぁぁぁあああああ!!!」

部屋に悲しく響く激情の音色。
それは地を這うような唸り声と相俟って、その悲しみの色をより深く、濃くして部屋中に充満させていく。
そして、まるで逃げ回るかのように動き回るブーンの五指。
手から先と自分がそれぞれ自立し、融合し、世界が形成されては崩れていく。
その日、ブーンの部屋からしばらくピアノの音が止むことは無かった。



66: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:28:10.45 ID:qY6pkeUu0
('A`)「聞きたまえ…この演奏…。ここ数日で一番の出来だ…すばらしい。」

男はスピーカーに耳を張り付けぶつぶつと呟いていた。
しかし、傍に従える男達の中にも顔色が優れない者が居る。
ここまでする必要があるのか、と疑問を浮かべ始めるものが少ないにしろ居るのだ。
しかし、絶対に口には出さない。

('A`)「よし、最後だ。首を持って行け」

男はそう言ってまた演奏に入り込んだ。

('A`)「聴かせてくれ…すばらしい芸術を…あぁぁぁ!!ははははははは!!!!」

男は口の端から涎を垂らしながら、天を仰ぎ痙攣した。
そんな男の様子を部屋の外から伺う一人の男。

( ゚∀゚)(………)

男は拳を握り、静かに部屋の中の男を睨み付けていた。



67: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:29:52.71 ID:qY6pkeUu0
この日、ブーンが目を覚ましたのは夕方になってからだった。
どうやら布団にも入らずに、ピアノの傍らで寝てしまったようだ。
ブーンは置いてあった冷えたご飯を食べ、横になった。
これから自分はどうしたらいいのか。
ブーンは悩んでいた。
勿論、ピアノは引き続ける。
引き続けて、その先はどうすればいいのか。
ブーンは先の見えない未来に少し不安を覚えていた。
それでも、まだツンさえ居てくれれば、何とかなるかもしれない。
だから、ブーンはまたピアノを弾き始めた。



68: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:32:56.11 ID:qY6pkeUu0
慌しくなってきたのはいつからだっただろうか。
ブーンはいつもと違う外の様子が気になって、なかなか演奏に集中できなくなっていた。

(;^ω^)「…うっさいな…」

それでも尚、我慢してピアノの演奏をしていたのだが、どうやら一過性のものだったようで、気付けば騒ぎは治まっていた。
しかしながら、逆に今まで騒がしかったものが急に静かになったとなるとそれはそれで気になるものだ。
そこでブーンは扉の近くまで歩いて廊下の様子を窺うことにした。
覗き窓でも付いていればいいのだが、生憎と物音しか拾うことが出来ない。
すると突然足音が近づいてくるのが聞こえたので、ブーンは慌てて扉から離れた。
重々しい音をあげながら開いた扉が開き、その向こう側に現れたのはGだった。

( ゚∀゚)「………」
(;^ω^)「………」

突然の再会に、そして何より全身血まみれのその姿にブーンは言葉を失う。
しかし、Gはそんなことはまるで気にしていないかのようにブーンを真っ直ぐ見つめていた。

( ゚∀゚)「いいか、お前の彼女はV103だ。早く行ってやれ」

Gはそう一言だけ言うとどこかへ走っていってしまった。

(;^ω^)「じ、G!」

とっさに上げたブーンの声もGにはどうやら届かなかったようだった。



69: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:34:19.42 ID:qY6pkeUu0
何故あんな格好なのか、どうして今自分に会いに来たのか。
ブーンはそこでもう一度Gの言葉を思い返す。

( ^ω^)「V103…」

ブーンは迷っていた。
恐らくそこに行けば、ツンに会える。
しかし、さっきのGの様子も非常に気にかかる。
そこまで考えてブーンは考えを振り切った。

( ^ω^)「悩んでも仕方無い…」

そう言ってブーンはツンに会いに行くため、廊下へと飛び出した
出てみて感じたのは、妙に温度が高いことだった。
妙な熱気がブーンを取巻いていたのだ。
何事かと辺りを見回すと廊下の先が白く曇っているのが見えた。

( ^ω^)「…煙?」

ここまで理解してブーンは状況を把握する。

(;^ω^)「まさか、火事…」

ブーンはそう言うや否や廊下を走り出した。



71: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:37:38.40 ID:qY6pkeUu0
先へ進めば進むほど煙の色が濃くなってきていた。
ブーンは袖を口に当て、慎重に部屋番を確認しながら歩を進める。

(;^ω^)「これは非常にヤバイ…」

なるべく姿勢を低くしながらも、確実に前へ進むブーン。
しかし、彼の前に恐ろしいものが立ちはだかる。

(;^ω^)「……燃えてる」

ブーンはここで初めて炎を発見した。
その勢いは今までの人生で見たことの無いほどすごいものだった。
まだ遠くにあるはずなのにジリジリと肌を炙られているような熱気。
距離的に見て、Gに教えてもらった部屋は、あの炎の真っ只中だ。
そう気付くとブーンは一瞬も恐れる事無く炎の中へと飛び込んだ。
全身を炎が舐め上げていく。
熱気を吸い込んで咽ながらもブーンは突き進んでいく。
熱気からか煙からか開かない目を無理矢理開けて現在位置を確認する。
やっとたどり着いた部屋は幸運にも扉が開いていた。
いや、もしかしたら部屋の扉が開いていたことは不幸だったのかもしれない。



73: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:38:53.43 ID:qY6pkeUu0
(;^ω^)「ゲホッ! ツン!」

焼けた扉を通れるくらいの隙間にするために、勢いよく掴んで引っ張った。
手が一瞬扉にくっついた様なそんな感触にブーンは震えた。
それでも萎えずにブーンは何とか入り込んだ部屋の中で、床に転がる黒い塊を見つける。

(;^ω^)「!」

炎に焼かれるのにも構わず近づいて確認するが、既に誰だか、と言うより何だかわからない。
ただ、これが人だったとするなら片方の手足が無いことはわかった。
それを理解した瞬間ブーンはがくん、と膝を折った。
目の前のこれがツンなのだろうか。
この黒く変わり果てた塊があの可愛らしいツンなのだろうか。
この使い古されたコンパスみたいなものが―――。

(;^ω^)「―――――ッ!!!!」

ブーンは考えがまとまる前にそこから逃げ出すように廊下へ飛び出した。
そして炎から逃げるように今来た道を戻っていく。
体はあちこちを火傷してヒリヒリするし、喉はヒューヒュー言って声が出るかも怪しい。
それでもブーンは逃げるように走った。



75: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:39:57.96 ID:qY6pkeUu0
(;^ω^)(あれはきっとツンじゃない! そうだ、ツンは! …ツンは…あんな…)

ブーンは出口を求め必死に走った。
けれども、たどり着いた先は分厚い壁が道を塞いだ行き止まりだった。

(;^ω^)「…………」

それを覚ったブーンは、不思議と何も抵抗する気が無くなり、ゆっくりと自分の部屋へ戻った。
そして部屋の分厚い扉をゆっくりと閉めた。
手のひらが焼け爛れていて、ひどく痛かったが何とか閉める事が出来た。
ふーっとため息を吐くと、ブーンはピアノへと向かった。
実感も何もあったもんじゃない。
ツンが黒い炭になっていて、今自分が死に直面していて、そんな現実あるわけが無い。

( ;ω;)「あははは! ゲホッ! 随分、出来の悪い夢だ、こればっ! はっっっ…! ゲァッ!」

ブーンは涙を落としながら笑った。
かすれた笑い声はついには出なくなってしまう。



77: ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 01:41:37.01 ID:qY6pkeUu0
なんとなく予感はしていた。
どんな形になるにしろ、近いうちに終わりが来ることを。
すでにブーンにはその覚悟が出来ていた。
思い返せば訳のわからない日々だった。
結局あいつらは何がしたかったのか。
でも…きっと、もうすぐツンに会える。
ツンにはなんて言い訳をしよう。

( ;ω;)(はは…僕はまた遅刻だ)

そうだ、あっちにピアノはあるんだろうか。
僕のピアノを聴いたツンはきっと顔を真っ赤にしながら、また何かを僕に言ってくるんだ。
終わることの無い2人だけの演奏会。
そんな世界が待っているなら、これもまたいいかもしれないと考えながら、ブーンはゆっくりとピアノを弾き始める。
その旋律は世界中で誰も知らない音色。
今この瞬間に出来上がった、ある悲しい男の即興曲。

( ^ω^)(この曲を…ツン、君に捧げる…)

ブーンは気力の限り、心を込めて音を奏でていく。
ボロボロの体に残った力をすべて演奏に昇華していく。
この音色が彼女まで届くようにと。
そしてこの音色に乗って彼女の元へと逝けますようにと。
ブーンは炎に包まれた館で独り、その時までピアノを弾き続けた。
そうして悲しい男が奏でる魂の旋律は、静かに夜天へと昇っていった。



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