( ^ω^)ブーンがピアノを弾かされるようです。

244: エピローグ ◆HGGslycgr6 :2006/03/16(木) 22:27:19.81 ID:qY6pkeUu0

「あなた、いつもごめんなさいね」
「いや、気にしなくていいさ」

彼女は夫に申し訳ないといつも思っていた。
食事に行く時には必ずピアノが置いてあるところにしてくれるよう夫に頼んでいたのだ。
そうすればいつかあの人に会えるかもしれない。
彼女はそう思っていたのだ。
けれどもこれ以上あの人を追っていてはいい加減夫に失礼だと前々から思っていた。
だからそれも今日で最後にしようと決めていた。あの人はもういないのだから、と。
最後に彼女はあの人との思い出のレストランで食事をしていた。
そしていつものようにピアニストの方に挨拶をしに行き、曲をお願いする。

「何か1曲お願いできますか?」

するとピアニストは演奏を止め、彼女の願いを聞き入れてくれた。

「それでは…これはある男が恋人を想い作った生涯で唯一の作品『追慕』という曲です」

ピアニストはそういって彼女に微笑みかけて演奏を始めた。
その指先から作り出される音楽に彼女は心の奥底を揺さぶられた気がした。
誰の曲かはわからないが良い曲だと心から思った。
彼女はその旋律を心に深く刻みこんで、ピアニストの元から静かに離れ、夫の待つテーブルへと帰った。

「…さようなら、ブーン」

零れ落ちた一粒の涙が、珠になり、そして、弾けた。



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