( ^ω^)とひぐらしのなく頃に。のようです
- 4: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:17:20.61 ID:oYluWxRv0
- 6月19日。
この日も梨花ちゃんは学校に来る事はなかった。
時間は無いが、ヤケを起こすのも無謀だと判断。
もう一日、耐えてみることにした。
6月20日。
朝、目が覚めたときに気付く。
いつも見ていたあの悪夢から開放されていた事に。
些細な事……とはとてもじゃないけど思えなかった。
何か良い事の前兆、そんな気がしたから。
学校に着くと、誰も居ない。
それもそうだ。いつもの登校時間より大幅に早めて来たのだから。
目が覚めたときの興奮が抜け切れなかった。
今日こそ、運命に決着をつけられると。
悪夢から開放された時、そんな予感を感じたのだ。
- 5: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:19:47.39 ID:oYluWxRv0
一人、また一人と生徒たちが登校してきた。
低学年の生徒ばかり。
挨拶もほどほどに、教室のドアを眺め続ける。
次にドアが開いたときには、彼女が来るんじゃないか。
そんな思いが、僕の心臓の鼓動を早めていた。
時計の針はゆっくりと動いていた。
いや、僕がそう感じているだけなのは分かっている。
両親の帰りをまつ子供のように、
誕生日を待ちわびた少年のように、
デートで恋人が来るのを待っている青年のように、
僕は彼女を待ち続けていた。
学校に訪れてから、いくらかの時間が経つ。
時計の長針が、僕が初めに見た方向から、正反対の方向を差そうと針を動かそうとした。
……その時、開いたドアに僕は歓喜したのだ。
- 7: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:22:07.58 ID:oYluWxRv0
――――。
沙都子「梨花、今日は学校に行くんですの?」
梨花「はい、長い間心配をかけてごめんなさいなのですよ。」
沙都子「私はいいんですけど……。まだ顔色が少し悪いようでしてよ?」
梨花「皆の顔を見れば治るのですよ、にぱー。」
沙都子「まぁ、病は気からって言いますものね……遊ぶ事も大切ですわね!」
梨花「その通りなのです。」
沙都子「それでは、遅刻しないように行きますわよ。
梨花の顔を見て、喜ぶ皆さんの顔が目に浮かぶようですわ〜!」
梨花「それはとても楽しみなのです。」
- 8: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:25:08.05 ID:oYluWxRv0
沙都子「では、行ってきます!……って、何してるんですの?」
梨花「ちょっと忘れ物なのです。先に行って欲しいのですよ。」
沙都子「あんまり遅いと置いてきますわよ!」
梨花「分かっているのですよ。大丈夫なのです。」
梨花「……危ない、危ない。
これを忘れるわけにはいかないからね。」
- 10: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:27:48.29 ID:oYluWxRv0
――――。
沙都子「おはようございますですわー!あら、ブーンさんお早いことで。」
( ^ω^)「おはようだお、沙都子。」
沙都子「ふっふっふっ、今日はとってもいい事があるんでしてよ!」
( ^ω^)「ほぉ、そいつは気になるお。」
沙都子「さぁ、梨花。そろそろ良いですわよ!」
梨花「ブーン、おはようございますなのですよ。」
ようやく、姿を見れた僕の待ち人。
嬉しい反面、心は落ち着いていた。
感情をコントロール出来なくては、話にならない。
それは前の世界、この世界で学んだ事。
- 12: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:31:30.37 ID:oYluWxRv0
( ^ω^)「おはよう、梨花ちゃん。なんだか久しぶりだお。」
沙都子「ありゃ?なんだか反応が薄いですわね。
もうちょっと驚いてくれると思ってましたのに。」
( ^ω^)「僕は、梨花ちゃんがすぐに学校に来てくれると信じてたたからだお。」
梨花「……それはありがとうなのですよ。」
沙都子「まぁいいですわ。さて、せっかくだし圭一さんの為にトラップでも仕掛けておきますわよ。」
梨花「みー、思いっきりやっちゃうのですよ。」
沙都子「ほーほっほっ、梨花の復活祝いに圭一さんの慌てふためく姿をプレゼントといきますわ!」
せっせっとトラップを仕掛ける沙都子。
それを楽しそうに見つめる梨花ちゃん。
……少し前の楽しかった日常に戻れたような気がした。
- 13: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:34:48.72 ID:oYluWxRv0
久しぶりに学校に来た梨花ちゃんを見て、誰もがホッと胸を撫で下ろした。
これで今年も楽しい綿流しのお祭りが出来るから。
そんな喜びの輪の中に僕は加われなかった。
彼女にもう一度、話をしなければならないかもしれない。
あの時のわだかまりが残っていたからなのかもしれない。
……いや、違うか。
僕は直感的に何かを感じ取っていた。
梨花ちゃんにある、妙な違和感を。
本当に些細なことなので、僕以外の誰かがそれを感じているとは思えなかった。
むしろ、僕の気のせいだと思いたかった。
現に、彼女が見せる笑顔は本当に楽しそう。
それを取り囲む者達もまた、幸せだと口にしなくても分かるほどだった。
……それでも、僕の小さなひっかかりを元に戻す事は出来ない。
- 15: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:37:34.40 ID:oYluWxRv0
時間はゆっくりと、でも確実に流れていく。
それは梨花ちゃんと、再び話をする時が近付いているという事。
窓の外を見ると、生憎にも良い天気とは言えない。
分厚い雲が太陽を遮り、空気が重く感じられる。
……まるで空が僕の心と同調しているように感じられた。
もうすぐ、最後の授業も終わる。
眠そうにしている魅音。
同様に、欠伸をする圭一。
真面目にノートをとるレナ。
落書きを隣の子に見せている沙都子。
無性に彼らと話がしたくなった。
また会おうと、そんな約束がしたかった。
理由も分からないけど、何故か僕の心が警笛を鳴らすのだ。
……ふと気付くと、頬に一筋の雫が零れ落ちていた。
- 16: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:40:58.37 ID:oYluWxRv0
―――――カラーン、カラーン。
チャイムの音が学校中に響き渡る。
僕には、それが運命の切り替わる時報のように感じられた。
圭一「しゃあ!授業も終わったし、久しぶりの部活といこうぜ!」
魅音「だね!梨花ちゃんの復活祝いも兼ねてパーッといこうか!」
レナ「はぅ〜、今日は負けないんだよ、だよ!」
沙都子「おーほっほっ、私のトラップの恐ろしさを思い出させてやりますわ!」
梨花「……盛り上がっているところ悪いのですが、今日は先約があるのです。」
そう言って、梨花ちゃんは僕を見つめる。
約束をした覚えはない。
しかし、そんな事をする必要も無いのも確かだった。
- 19: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:43:54.77 ID:oYluWxRv0
( ^ω^)「うん、ちょっと僕と梨花ちゃんは用事があるんだお。」
圭一「……そっかー、じゃあ部活はもうちょっとお預けかな。」
魅音「これで、梨花ちゃんの復活祝いは綿流しまでお預けになるかな。」
レナ「それはハードな部活になりそうだね!」
沙都子(…………。)
梨花「じゃあ、少し行って来るのですよ。」
( ^ω^)「だお。日曜日の綿流し楽しみにしてるお!」
皆に別れを告げて、廊下に出る。
……そんな時だった。
沙都子「梨花!ブーンさん!ちょっと待って!」
- 20: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:45:36.51 ID:oYluWxRv0
梨花「沙都子、どうしたのですか……?」
沙都子は先程までとは、うってかわって悲しげな表情をみせていた。
今にも泣きそうなくらいに顔を歪め、語る。
沙都子「……また会えるのですよね?
これで、お別れになるなんて事はないですわよね?」
梨花「当たり前なのですよ、どうしたのですか?」
( ^ω^)「……沙都子?」
沙都子「私にもよくは分かりませんが、そんな気がするんですわ。
……これが最後に会う機会になる、そんな予感が。」
( ^ω^)「そんな事はないお。
僕達はまた会えるし、もう一度、いや何度でも遊ぶんだお。」
- 21: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:46:09.47 ID:oYluWxRv0
沙都子「でも、でも!あの時と同じ胸の痛みが甦るんですの!
にーにーがいなくなった時の、あの頃の記憶と辛さが!!」
とうとう、沙都子の目から涙が溢れ出す。
前の世界でも聞いた彼女の悲痛な叫び。
沙都子「梨花とブーンさんの間に何があったのかは知らない。
けど、2人が大きな悩みを抱えているのだけは分かってた!
それを皆で解決することは出来ませんの?私達は仲間なんでしょう!?」
( ^ω^)「仲間……。」
僕達は仲間。
だから、悩みは皆で解決する。
彼女の理論は分かるし、僕もそうありたいと思う。
でも、この問題だけは梨花ちゃんと僕だけで話しあいたかった。
いや、そうしなければならない。
言ってみれば、僕と梨花ちゃんが本当の仲間になるためなのだから。
- 22: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:46:29.28 ID:oYluWxRv0
梨花「……まず言っておくのですが、僕と沙都子は必ずまた会うのです。」
沙都子「……え?」
梨花「だから、何の心配もいらない。
例え、何があっても必ず私と沙都子は必ず再会する。
これは運命、すでに定められた決定事項。」
必ず再会するという言葉に、何故か不安を感じる。
まるで、次の世界で会うから絶対だと言っている様な気がして。
沙都子「だけど……。」
梨花「大丈夫、沙都子が泣かない様に、ずっと一緒なのですよ。
寂しがりやの沙都子には僕がいないとダメなのです。にぱー。」
沙都子「り、梨花!」
- 23: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:47:00.61 ID:oYluWxRv0
( ^ω^)「そうだお。僕達と沙都子はまた会うんだお。
……それに、僕はまだ料理を食べさせてもらってないお。」
沙都子「……じゃあ、絶対に私のお料理を食べに戻ってくると、約束ですわよ!」
( ^ω^)「もちろんだお!」
ようやく笑顔を取りもどした沙都子と指きりを交わす。
そう、僕はそんな幸せな日常を手に入れるために、戦わなければダメなんだ。
梨花「それでは改めて行って来るのですよ。」
沙都子「何をしに行くのかは分かりません……、いってらっしゃいですわ。」
( ^ω^)「ばいばいだお!」
手を振り、再度の別れを告げる。
永遠のではなく、もう一度会うという意味を込めたさよならを。
- 24: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:47:40.89 ID:oYluWxRv0
校舎を出ると、ムワッとした熱気が僕達を包む。
学校に冷房がはいっているとか、そういう訳ではない。
だが、室内特有のヒンヤリした空気と違って、ジメジメとした嫌な空気が辺りを包んでいる。
ほんのりと雨の匂いがした。
( ^ω^)「それで、どこに行くんだお?」
梨花「……着いてきてくださいです。」
梨花ちゃんはそう一言告げて、すたすたと歩き出す。
僕に質問を重ねるのを許さないのか、振り返る事も無い。
僕はただ、その背中に着いて行くことしか出来なかった。
口を開いても、無駄な気がしたから。
- 28: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:51:52.63 ID:oYluWxRv0
彼女が歩く道は、あまり僕が使う道では無かった。
言い換えれば、行く必要が無い道。
普段、あまり人が通らないような場所を僕達は歩く。
どこに向かっているのか、本当に不安になった。
……だが、一歩、また一歩と足を進めるうちに、この場所の記憶を取り戻す。
甦るは、雨の記憶。
全てを終えた後、頬と伝う雫の冷たさ。
甦るは、音の記憶。
砕ける音と、雄たけびの協奏曲。
甦るは、鉄の記憶。
手に持った金属が、破壊を繰り返す地獄の風景。
甦るは、罪の記憶。
信じる事を忘れた者の、哀れな過去。
- 29: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:52:12.27 ID:oYluWxRv0
彼女が向かおうとしているのは、あの場所。
北条家本宅へ向かう道。
……僕が前の世界で、彼女を殺した場所。
何故、そんな所に?
わからない、わかりたくない。
僕は、そこに近付きたくなかった。
いくら、罪を償うと言っても、彼女を殺した記憶を頻繁に思い出す訳ではない。
だが、行けば否応無しに、僕は罪の記憶を思い出す。
必然的に、血で汚れた自分の姿を思い出す。
それでも、梨花ちゃんは足を止めなかった。
今では、はっきりとその場所へ向かっているのが僕には分かってしまう。
……前の世界で、一歩一歩が断頭台への階段であると例えた。
本当にそうなんじゃないかと思えるほど、今の僕の足取りは重かった。
- 32: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:52:32.43 ID:oYluWxRv0
ポツポツと雨が降り始めた頃、あの場所へと辿りつく。
雨の記憶まで再現するなんて、あまりにも非常な世界だと思った。
そのまま、この場所を通り過ぎてくれと梨花ちゃんの背中に願いをかける。
だが、先程までの予想通り、彼女は歩く速度を緩め……そして止まった。
梨花「着いたのです。」
梨花ちゃんは振り返りもせずに、そう告げる。
小さな声なのだが、聞き逃す気はしなかった。
……恐怖を覚えるほど、辺りが静かだったから。
( ^ω^)「こんな場所で話すのかお?」
梨花「こんな場所……ですか?
確かに、誰も人が通らないくらい何も無い場所なのです。」
( ^ω^)「……うん。」
- 35: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:56:06.87 ID:oYluWxRv0
梨花「だからこそ、私はこの場所を選んだ。
……それは貴方がこの場所を選んだのと同じ理由。」
( ^ω^)「…………。」
やはり、彼女は取り戻していたのか。
他ならぬ、この僕に殺された記憶を。
梨花「誰も通らないから、二人になるなら好都合よね。
おまけに、周りは木に覆われて遠くの方からじゃ、視界が遮られる。」
( ^ω^)「だから、何だって言うんだお?」
梨花「……別に。ちょっと言ってみただけ。」
彼女の言葉、そして僕自身の言葉も白々しいと思った。
互いに牽制するだけで、踏み込みはしない。
どちらも、全て分かっているのに。
- 36: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:56:21.73 ID:oYluWxRv0
梨花「……前に、夜の学校で言ったわね。」
( ^ω^)「何をだお?」
梨花「私はこの雛見沢という世界が大好きよ。
皆がいて、私がいて、いつも楽しく遊んで。」
( ^ω^)「うん、確かにそう言ってたお。」
梨花「そして、私はこうも言った。
私は大好きなこの世界を守りたいと。
そう、例え何があろうとも私はこの世界で生き続けたい。」
( ^ω^)「うん、だから……!」
だから、2人で協力しよう!
仲間達と力を合わせて、この世界を守ろう!
そう言おうとした。
だが、想像も出来ないような事態に、僕は口を閉ざし、混乱する。
- 37: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 20:56:38.49 ID:oYluWxRv0
梨花「だから……その敵となってしまう貴方にはいなくなってもらいたいの。」
そう言って、彼女は右手に持った包丁を僕に向けた。
明確に感じる殺意。
悲しみと怒りが混じったような瞳。
その目は真っ直ぐに僕を睨む。
その手はしっかりと僕の方向を指し示す。
彼女が手に持った包丁は、雨の水滴を浮け、銀色に輝く。
強く握られえた拳に、強い意志を感じる。
敵を排除し、この世界を救うという想い。
100年間の恨みを込めて。
- 41: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:00:45.91 ID:oYluWxRv0
(;^ω^)「な、何してるんだお?
早くその包丁を僕に向けるのを止めるお!」
精一杯、強がってこれが冗談だと思おうとした。
しかし、彼女は呆れるように息を吐いて、語る。
梨花「元々、このつもりで貴方を呼んだのよ。
話なんて、するだけ無駄。どうせ、今回も……。」
そこで彼女は一瞬、言葉を濁らせた。
( ^ω^)「今回も……?」
梨花「……今回も、貴方は私を殺すんでしょう?
私は、死にたくない。でも、あの場を切り抜けるだけの力が足りない。
だから、殺される前に貴方を殺す。」
- 43: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:01:08.76 ID:oYluWxRv0
理解が出来なかった。
彼女は何を言っている?
僕が彼女を殺す?
確かに、僕は前の世界で罪を犯した。
しかし、そんな過ちを犯すような事は2度としない。
……それでも、彼女に僕のこんな気持が届いているはずがない。
そう、彼女は僕が彼女を殺した事を間接的に認めた。
そこで彼女と僕の対話は終わってしまったのだから。
でも、それでは……。
( ^ω^)「僕を殺して、幸せを手に入れようと言うのかお……?」
梨花「……そういうことになるのかしらね。
貴方は私の幸せを壊す外敵。それを排除しないといけない。
自分の障害となるものを破壊する、こんな当たり前の事を導き出すのに時間がかかったわ。」
- 44: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:01:28.97 ID:oYluWxRv0
今の言葉で確信した。
梨花ちゃんの記憶は不完全だという事に。
僕が彼女を殺した。
その記憶の欠片が大きすぎて、他の記憶が埋もれてしまっている。
……それもそうか。
仲間だと信じていた人に、突然殺される。
予兆も無く、普段通りの生活を過ごしていたときに。
そんな体験をしておいて、まともでいられる筈が無かったのだ。
だから、彼女の記憶は混乱し、僕が敵であるという事だけを覚えていた。
つまり、これは僕の罪。
罰を請ける時が今、訪れたのだ。
- 47: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:05:57.55 ID:oYluWxRv0
( ^ω^)「…………。」
両手を大きく広げ、無防備な状態になる。
殺される立場にいる人間にあるまじき行動。
包丁を掲げる者と、それを前に何の警戒も見せない者。
傍から見れば、異常としか思えないような光景なんだろうなと思う。
それに、自分でも不思議に思えるほど、心は落ち着いていた。
梨花「一体、何の真似?」
( ^ω^)「僕は前の世界で君を殺したお。
それは、言い訳も仕様の無い真実。
信じる事を忘れて、君を敵だと決め付けて殴り殺した。」
梨花「やっと自分から白状する気になったのね。」
……性質の悪い事をする。
こちらから言うのを待っていたのか。
梨花「元々、貴方の存在そのものがイレギュラー。
それでいて、私を殺すのだから、貴方は存在しないほうが良いのよ。」
- 48: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:06:37.48 ID:oYluWxRv0
( ^ω^)「……確かに、僕は君を殺した。そして後悔した。
それは、殺す直前に君が言った言葉に悩まされたから。」
梨花「私が言った……?」
( ^ω^)「そう、今でも忘れる事の出来ない言葉。
1度死んでもまだ、僕の心に深く刻み込まれたその言葉。」
梨花「……。」
( ^ω^)「君は僕にこう言ったんだお。
『人を殺して幸せになる。こんな考えを持つ人が異常でない訳がない。』
人を殺して手に入れた幸せなんて、儚く脆いものなんだお。」
梨花「……私が異常だと言いたいの?」
( ^ω^)「よく分かってるじゃないかお。
圭一やレナ、詩音が暴走した世界を見てもなお、凶行に走る。
……僕と同じ、異常な思考に陥った人にしか出来ない行動だお。」
- 50: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:09:02.72 ID:oYluWxRv0
( ^ω^)「僕は確かに罪を侵した、その罰を請ける事に文句は言わない。
そんな僕だから言える、君は間違っていると。」
梨花「……黙りなさい。」
( ^ω^)「幸せは確かに待つだけでは訪れないかもしれない。
自分で掴みにいかなければいけないのかもしれない。
それでも、幸せの為に殺人を犯すだなんてバカげている。」
梨花「……黙れ。」
( ^ω^)「嘘をついたり、隠し事をしたから仲間じゃない?……違う。
幸せを壊されたから、仲間じゃない?……違う!」
( ^ω^)「どんな事があろうとも、自らが相手を信じられなくなった時!
そうなった時にだけ、『仲間』という言葉の意味が失われるんだお!!」
梨花「だまれぇええええええええええ!!!!!!!!」
- 54: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:11:25.82 ID:oYluWxRv0
( ω )「ぐっ……!!」
腹部に焼けるような痛みが走る。
全身の力が抜け、立っていることもままならず、そのままゆっくりと地面に伏せた。
血は留まることなく流れ続ける。
雨と混じりあい、赤い水溜りが広がっていく。
梨花「ハァッ……ハァッ……!!」
梨花ちゃんの荒い息遣いが聞こえた。
なんだか、どこかで聞いた事があるような気がする。
……ああ、思い出した。
これは前の世界の僕と同じなんだ。
人を殺したという、現実を受け入れきれずにいるのだろう。
ただ、息を整えて心を落ち着かせる事だけに集中しているんだ。
- 57: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:13:13.96 ID:oYluWxRv0
梨花「何故……?」
( ω )「……お?」
梨花「何故、避けなかったの?
いくら私が包丁を持っていたとしても、体格の差は歴然。
……避ける事は愚か、返り討ちにすることだって出来たはずよ。」
( ω )「ははっ……僕を殺そうとした人間の言葉がそれかお……。」
梨花「…………。」
( ω )「確かに、僕は力ずくで君を押さえ込むことも出来たお。
逃げようと思えば、いつでも逃げることも出来た。
それでも、そうしたくなかったんだお……。」
梨花「その理由が聞きたいのよ。」
( ω )「……前の世界。」
梨花「え?」
- 58: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:14:54.39 ID:oYluWxRv0
( ω )「前の世界で僕が君を殺そうとしたとき、君が何をしたか覚えているかお?」
梨花「……覚えてないわ。」
( ω )「……何もしなかったんだお。」
梨花「何も……?」
( ω )「そう、何もしなかった……。
最後まで僕を信じて、何もせずに……そしてそのまま……。
僕はそんな君に対して、金属バットを振るったんだお。」
( ω )「だから、今回は僕が君を信じてみたかった。
人を信じて、信じて、最後まで信じ抜いてみたかったんだお。
例え、こんな結果が訪れようとも……。」
梨花「……そう。」
- 62: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:17:14.67 ID:oYluWxRv0
世界が少しずつ、黒く染まっていく。
動かない体は、雨の冷たさを感じる事も出来なくなっている。
……最期の時が近付いていた。
( ω )「梨花ちゃん……君に言わなければならない事があったんだお……。」
梨花「……何?」
この世界に来る前から思い出したかった言葉。
レナに言わなければならないといわれた言葉。
今、それがはっきりと頭に浮かぶ。
最期の言葉にふさわしくて、
人生の終わりには惜しくて、
それでも、僕が彼女に伝えなければならなかった言葉。
- 63: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:18:54.72 ID:oYluWxRv0
今こそ伝えよう。
2つの死と引き換えに、ようやく彼女に送れる。
( ω )「僕は……ただ、君にこの言葉を伝えに……。
そう……『ごめんなさい』…と………。」
梨花「……!!」
- 66: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:20:05.29 ID:oYluWxRv0
『ごめんなさい』
そんな簡単な謝罪の言葉。
だけど、ずっと言えなかった。
前の世界で犯した罪。
それに謝罪できるチャンスを貰えた。
でも、なかなか口に出せなかった。
彼女に、罵られるのが怖かったから。
死ぬ間際に言うのは卑怯だったかな?
それでも、伝えられたから。
彼女に謝る事ができたから。
……今はそれで良いんだ。
きっと、彼女に僕の想いが届いたと、そう信じて。
- 67: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:22:20.15 ID:oYluWxRv0
明確に感じる死への恐怖。
でも、今の僕をそれ以上に満足感が包んでいる。
人を最期まで信じることが出来たから。
彼女に言葉を伝える事が出来たから。
幸せだ。
死ぬ前にこんな気持ちになれるとは思わなかった。
たった少しだったけど、この世界に来れて良かったな。
……あ。
ごめんね、沙都子。
料理、食べられなくなっちゃった。
もう一回、遊ぶって言ったのになぁ。
指きりしちゃったから、針千本飲まされちゃうや。
あはは……でも、皆にもう一回会えるならそれでもいいかな。
- 69: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:23:57.49 ID:oYluWxRv0
圭一。
面白くて、頭が良くて。
もうちょっと時間があれば、最高の親友になれたんじゃないかな。
魅音。
ゲームで勝負したいな。
普通の勝負なら、負ける気はしないけど、イカサマありだときついだろうけど。
レナ。
ごめんなさいと伝えられたと言いたかった。
お礼に人形でもあげたら、きっと暴走するんだろうなぁ。
梨花ちゃん。
もう一度会えるなら、幸せな世界を2人で目指そう。
僕が、君の運命を切り開く力になる。
今度こそは最後まで信じあう、仲間になるんだ。
……そろそろ時間かな。
- 72: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:25:05.75 ID:oYluWxRv0
真っ暗だった世界に光が差し込む。
薄っすらと見えるのは、元の世界の僕の部屋。
……ドクオとツンが泣いていた。
ごめんね。
長い間待たせてしまったみたいだ。
今度は君たちを信じるよ。
そして、本当の友達、仲間になろう。
前の僕とは違うから。
きっと、幸せな世界を手に入れることが出来るから。
さぁ、行こう。
- 73: ◆9d9cVF02x2 :2007/08/16(木) 21:25:33.83 ID:oYluWxRv0
( ^ω^)とひぐらしのなく頃に
――――――――――――――――怨返し編
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