( ^ω^)とひぐらしのなく頃に。のようです
- 34: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:51:00.97 ID:LdiFmqZV0
- 空の機嫌は悪くなる一方だった。
ゴロゴロと唸る様な音が鳴り始めている。
少しのきっかけで、それが雷鳴に変わることは目に見えていた。
それと相反するように、教室内には静けさが満ちている。
僕の発言に続く者はない。
いや、僕とドクオが発するべき言葉は無い。
無言のときは、モナーの発言を急かす意味を持っていた。
もっとも、それに効果があるのかを僕が知る由は無い。
だが、俯くばかりの彼に焦りと苛立ちを持つのはむしろ僕の方である。
何にしても、モナーの言葉を聞かない限りは何も出来ない。
彼が行動を起こさなければ、僕たちも何も出来ない。
今は静寂を保つ意外に出来ることは無かった。
- 36: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:51:51.85 ID:LdiFmqZV0
- しかし、そんな僕の思いは切り裂かれる。
眩い光が一瞬だけ全てを照らした。
遅れをとって、天を討つような轟音が堕ちる。
それが雷鳴だということは嫌でもわかる。
だが、僕が衝撃をうけたのはそれではない。
教室内を、嘲るような笑い声が包んでいる。
そして、その狂気を示すかのように天候が荒れ狂っていたのだ。
一言で表すなら異常。
先ほどとは一変した空気が満ちている。
声の主は、他でもなくモナーだったのだ。
- 39: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:53:28.71 ID:LdiFmqZV0
- ( ´∀`)「仲間…友達…傷ついたツンか……ヒヒハハハハ!」
('A`)「…何がおかしいんだ」
( ´∀`)「いやなに……お前らは本当に無力だよな。
壊れる寸前まで助けを求めなかったと分かっていながら、救うと言うのか……」
モナーは明らかに豹変していた。
朗らかな笑顔ではなく、妖しさを感じさせる笑み。
優しげな雰囲気は微塵も感じられない。
口調も変わり、別人と言って良いほどに違いがある。
何より、圧倒されるまでの狂気が物語る。
間違いなく、この男がツンに傷を負わせた張本人だと。
- 40: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:55:16.44 ID:LdiFmqZV0
- ( ^ω^)「救えるお、お前さえいなくなれば必ず。」
( ´∀`)「俺がいなくなれば、か。
所詮、お前達の仲間意識なんてカスほどの価値も無いのに?」
('A`)「お前に、俺達の何がわかるっていうんだ?」
( ´∀`)「わかるさ、俺はお前らの先生やってるんだぜ?
普段の生活態度や軽い雑談で大抵の事はわかっちまうもんさ」
それに、と彼は続ける。
( ´∀`)「ツンが本当に辛かったとき頼ったのは誰だ?
お前達か?…いいや違う、この俺だ。
優しい言葉をかけ、救いを差し出したのはこの俺だ。」
自慢げに手を広げ彼は語る。
まるで、自分こそが正義とでも言わんばかりに。
- 43: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:56:58.04 ID:LdiFmqZV0
- ( ^ω^)「人の落ち目につけこむのが、救いなのかお?」
( ´∀`)「つけこんだなんて人聞きの悪いことは言うなよ。
俺は唯、ツンに愛を注いでやっただけなんだぜ?」
狂っている、僕はそうとしか感じられなかった。
愛という言葉を盾に全てを正当化する。
矛盾など関係がなく、自分が正義だと確信している。
紛れも泣く、悪の犯罪者の考えだった。
('A`)「でも、今ツンが救いを求めたのは俺達だ。」
( ´∀`)「救い、か……果たしてそれは本当にそうなのか?
親切の押し売りという事かもしれない…嫌々話したのかもしれない。
ツンも、もしかしたら俺の愛を求めているのかもしれない……
- 45: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 20:58:46.83 ID:LdiFmqZV0
- ( ^ω^)「脅しをかけるような真似してよく言うお。」
( ´∀`)「脅し…?ああ、写真やビデオの事か。
しょうがないだろ、ああでもしないと逃げられちゃうじゃないか。
僕の玩具が無くなるなんて、考えられない。」
('A`)「ツンがお前の愛を求めているんじゃなかったのか?」
( ´∀`)「好きだからこそ、逃げたくなる事もあるんじゃないのか?
ヒヒハハハハ、乙女心ってやつは複雑で理解できませんねぇ。」
支離滅裂な言動。
顔に張り付いているかのような笑みの仮面。
もし、これがこいつの言う通りだとしたとするのなら。
……愛とは、ここまで人を狂わすもなのか。
僕にはそれがとても恐ろしく思えた。
- 46: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:00:04.19 ID:LdiFmqZV0
- #'A`)「くそっ!ちょっとは反省の色を見せやがれ!!」
駆け出した勢いそのままにモナーの胸倉を掴み、ドクオが叫ぶ。
しかし、モナーの笑みは崩れることなく尚も狂気が加速し続けている。
( ´∀`)「反省?何が言いたいのか全く分からないね。
そもそも、お前らは俺に何をさせたいんだ?
土下座してツンに謝れば、俺を許してくれるのかい?」
( ^ω^)「…その上で、警察に突き出すのが僕の理想だお。」
( ´∀`)「ヒヒハハハハハ!!馬鹿言うんじゃねぇよ!!
警察に突き出されるの分かってて、誰が謝るかっての!
そもそも、お前らには証拠も糞も無いだろうが。
先生を嫌いな生徒達が捏造した事件で終わりなるんじゃね?!」
- 49: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:01:51.17 ID:LdiFmqZV0
- 'A`)「前科有りの奴なら、ちょっとは信憑性生まれるんじゃねぇか…?」
握っていた手を離し、ドクオが言う。
落ち着いた声には、脅しをかける意味が込められていたのだろう。
しかし、モナーは苦にもせずに受け答えする。
( ´∀`)「……随分とめんどくせぇことまで知ってるじゃねぇか。
だがなぁ、それでもお前らは俺を警察に突き出すことなんかできねぇよ。」
( ^ω^)「どういう意味だお?」
( ´∀`)「写真やビデオはこういう時に使うもんだぜ?
俺自身が楽しむだけでなく、切り札として使うことも出来る……。」
('A`)「お前、まさか…!」
( ´∀`)「そうさ、警察が動き出した時点で俺はやらせてもらうぜ。
最近のネット社会ってのは怖いからねぇ……破滅に追い込むなんて簡単なもんさ。
犯罪者がばら撒く餌への食い付きなんてきっと、半端ねぇだろうなぁ!!」
- 53: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:04:19.98 ID:LdiFmqZV0
- (;'A`)「外道が……!!」
( ´∀`)「だってよぉ、一人で奈落に堕ちるなんて寂しいじゃねぇか。
それなら愛しいツンにも一緒に付いてきてもらうぜ。
……地獄でも、どこでもよぉ!!」
またしても、笑い声と重ねるように轟く雷鳴。
もはや、この空間はモナーが支配していると言っても過言ではなかった。
……しかし、僕には何の恐怖も感じられない。
彼の脅しは意味を持たないことを僕は知っていたから。
( ^ω^)「それで、どうするんだお?」
( ´∀`)「……あ?」
( ^ω^)「奈落にツンと共に落ちて、どうするんだお?
何の楽しみも無いのに、周りには闇以外には何も無いのに。」
- 55: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:05:27.60 ID:LdiFmqZV0
- ( ´∀`)「……俺一人でいるのが寂しいだけだ。
そこに楽しみとかそういうのは必要ねぇだろうが。」
( ^ω^)「相変わらず、狂った考えだお。
それに、ツンは僕とドクオが救いだすから何の問題も無いお。」
( ´∀`)「はぁ?そう簡単にショックから立ち直れると思うか?
つか、お前も実際に見てみれば考えも変わるさ。」
モナーは懐から紙のような物を取り出し、僕らに見せ付ける。
それは写真、写っているのはツン。
見たことも無いような表情、格好を虐げられている彼女の姿だった。
(;'A`)「こ、これは……。」
( ´∀`)「これを見ても、お前らはまだそんなことが言えるのか?
こんな物が世に出回ってツンが平気でいられるとでも思うのか?」
モナーの言葉は止まらずに続く。
- 56: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:06:40.53 ID:LdiFmqZV0
- ( ´∀`)「この写真なんてよぉ、絶望に混じってある一つの感情が見えねぇか?
……ほんの少しばかりだけど快楽に溺れてる、そんな面がよぉ。
お前らのお仲間とやらは、こんなに汚れてんだぜ!?」
( ´∀`)「ヒヒハハハハハハ、ドクオどうしたよ.
さっきまでのこわ〜い顔が見る影もないぜ!?
それともこの写真見て欲情とかしちゃってんのか、ヒヒハハ!」
ドクオがたじろいでいる様子が目に見えた。
無理も無い、普段からは想像も出来ない姿の仲間の姿を見せ付けられたのだ。
覚悟の出来てないドクオからしたら、そのショックは計り知れないものだろう。
では、その覚悟が出来ている場合はどうか。
それはつまり僕のこと。
どんなことがあっても曲げない信念を持つが故に動揺なんてしない。
- 60: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:08:00.09 ID:LdiFmqZV0
- ( ^ω^)「…もう、終わりにしようモナー。」
( ´∀`)「……あ?」
( ^ω^)「反省の意志を見せないのはよくわかったお。
お前に必要なのは慈悲や微かな希望なんかじゃない。
社会が造った正義の鉄槌だけで良かったんだお。」
モナーの怪訝そうな顔を見て僕は続ける。
( ^ω^)「回りくどい言い方をしてごめんだお。
でも、単純に話すだけじゃちょっとつまらなかったから。
ただ、警察に突き出すという事実を言うだけじゃ。」
それを聞いてモナーは再び笑う。
同時に、揚げ足をとるかのように反論する。
- 62: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:09:22.86 ID:LdiFmqZV0
- ( ´∀`)「お前、さっきの俺の話聞いてなかったのか?
何らかの行動があったとみなした時、俺は写真を……」
( ^ω^)「だから、それが意味無いんだお。」
モナーの発言に被せるように言い切る。
分かりきった内容を聞く気はさらさら無かった。
もっとも、僕の言葉にはドクオですら衝撃を隠せないみたいだが。
( ^ω^)「ここまで来たら隠すつもりも無いお。
お前に反省を求めるのが無駄だとわかったから……。」
言葉と共に僕の視線は入り口へと進む。
それを追いかけ、他の二人も同じように。
そして、ドアがゆっくりと開いた。
- 65: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:10:44.12 ID:LdiFmqZV0
- 扉の向こうに立っていた少女に一同は目を奪われる。
もっとも、僕だけは何が起きたのかを知っていた。
僕のはあくまで彼女の挙動を見逃さない為だった。
しかし、モナーは驚愕。
ドクオに至っては、信じられないと言った様子で唖然とするばかりだった。
少女の足が一歩、また一歩と前へ進む。
それは未来への前進と例えても良いのではないのだろうか。
忌まわしき過去を断ち切るために。
そして、強き信念と絶対的な覚悟。
彼女の表情からはそれらが見て取れる。
少女の名はツン。
僕たちの仲間、そして今現在からはモナーの敵となり得る存在だった。
- 67: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:12:19.99 ID:LdiFmqZV0
- (;'A`)「え、え、これってどういう……?」
( ^ω^)「すまんだお、ドクオはとりあえず黙って見てて欲しいお。」
慌てふためくドクオをなだめる。
無理もない事だが、今は説明をする必要は無いと判断した。
(;´∀`)「……こ、このタイミングで現れるとはどういうことだ?」
モナーも未だ衝撃からは立ち直りきれていないのだろう。
搾り出したように出した声は、苦し紛れのように聞こえる。
更に、戸惑いの様子が体全体からも大いに発せられていた。
ここまで登場を遅らせた甲斐があるというものだ。
滑稽な姿に、方頬に緩みを感じてしまうほどに。
- 70: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:14:29.75 ID:LdiFmqZV0
- ( ^ω^)「……ツン、自分で言うかお?」
ξ゚听)ξ「もちろん、その為にここに来たんだから。」
燃えるような意志を秘めた瞳がまっすぐにモナーを睨みつける。
…美しく気高い女性だと素直にそう思った。
ξ゚听)ξ「大体の話は外で聞いていたわ。
…まぁ、雨とか雷とかで聞こえないとこもあったけど。」
( ´∀`)「……それなら、今この状況がどういう事だかわかってるんだろう?」
ξ゚听)ξ「ええ、あんたが私を脅そうって言うんでしょ?
今まで通りにだけど、その写真とビデオを使って。」
- 71: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:15:30.89 ID:LdiFmqZV0
- ( ´∀`)「それが分かっていながら何故ここに来た?
お前はこれがある限り、俺には逆らえない……。」
ツンはその言葉を聞いて軽く息をつき、
ξ゚听)ξ「私はそれをくだらない、と笑い飛ばしに来たのよ。」
堂々と言い放った。
脅しに対する恐怖等、微塵も感じられない。
しかし、モナーもその発言には異議を唱える。
( ´∀`)「どういうことだ?
まさか、写真を奪おうっていうのか?
それは無駄だ、ここにある量なんて意味が無いほど家にはあるからな……。」
( ^ω^)「そんな気は全くないお。」
モナーの顔に疑問の色が浮かぶ。
ツンの強さを知らぬこの男にはわかるはずも無い。
- 72: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:16:24.97 ID:LdiFmqZV0
- ξ゚听)ξ「そもそも、前提が間違ってるのよ。
私が恐れてるのは世間の目なんかじゃないわ。」
( ´∀`)「……は?」
ξ゚听)ξ「私が恐れていたのは仲間の目。
つまり、ブーンとドクオがどう反応するか。
汚れた私を見て、軽蔑されたらと思うのが怖かった。」
でも、とツンは続ける。
ξ゚听)ξ「この二人はそれでも良いと言ってくれた。
汚れている私を見ても、仲間だと言ってくれた。
それを聞いたとき、私は救われたわ。
……だからもう、あなたの脅しになんて屈しない。」
今まで塞き止めていた感情のダムが壊れた。
つまり、溜まっていた言葉をぶつけることになる。
その勢いに、モナーは成すすべなく飲み込まれるだけだろう。
- 75: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:19:55.34 ID:LdiFmqZV0
- ξ゚听)ξ「私には世界中を敵に回しても、仲間だと言ってくれる人達がいる。
それなら、私もそれを信じればきっと幸せになれる。
現に、今の私はこの上なく幸せなんだから。
ずっとずっと、私達は仲間でいられるんだから。」
( ^ω^)「そうだお、僕たちは何があっても仲間だお。」
('A`)「お、おお。もちろんだ。」
微笑むツンにそう応える。
ドクオ、さっきうろたえてたのは黙っといておく。
ξ゚听)ξ「だからモナー、私はあんたを警察につき出すわ。
例え、世間に私の写真やビデオをばら撒いたとしてもね。
…アンタには絶対に罰を償わせてやる。
その為なら、多少の事なんか気にしてられないわ。」
敵意を秘めた言葉。
何の躊躇もなく、それがモナーに向けられた。
- 80: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:21:47.87 ID:LdiFmqZV0
- そしてモナー。
( ∀ )「……。」
何も応えずに沈黙。
完全に言葉を失くしていた。
自らの武器を失くしたも同然なのだ。
その先に待ち受けるは牢獄という名の闇だけ。
希望も光もない、無機質な未来が彼に待ち受けている。
それを知った時、人はどうなるのか。
呆然と立ち尽くし、絶望に打ちひしがれているだけなのは正しい事なのか。
まして、相手は犯罪者。
何らかの行動を起こさないはずが無いと僕は推測する。
つまり、この状況下で起こる事とは。
- 81: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:24:11.59 ID:LdiFmqZV0
- (;^ω^)「まずいお……。」
('A`)「え?」
(;^ω^)「こういう場合の約束ってやつだお。
追い詰められた犯罪者が起こす事と言えば……。」
僕が言葉を言い切らぬ内に、モナーがゆらりと動き出す。
目は虚ろで呼吸が荒くなっていたが、口元の笑みは消えずにいた。
狂気が今まで以上に露になっていく。
そう、この状況下で犯罪者がが起こす事とは。
( ´∀`)「……俺の愛を馬鹿にするんだよなぁ。
前の女も、そして今回も……本当に世の中ってのは間違ってやがる……。」
それは暴走、全てを投げ出し悪意に身を任せる。
モナーが懐から取り出したナイフが妖しく光りを放っていた。
- 84: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:26:10.83 ID:LdiFmqZV0
- ( ´∀`)「ああムカツクよ、本当に。
俺はただ愛してやってるだけなのにさぁ……。
なんで、そうやって犯罪者を見る様な目つきで見るのかなぁ?」
刃をこちらに向けてモナーは語る。
態度から察するに、動いたら襲い掛かってくるだろう。
( ´∀`)「本当に犯罪者じゃねぇかとでも言いたげだな。
いいんだよ、確かに俺は今から犯罪者になるんだからさぁ。」
一歩前進。
距離が近くなり、威圧感も比例し大きくなる。
( ´∀`)「お前らを殺してさぁ、俺も死ぬことにしようかなって思ったんだ。
もう、これ以上生きててもきっと良い相手に巡り合えないような気がするし……。
それなら、皆で一緒に死ねば寂しくないし良いんじゃね?」
(;'A`)「……狂ってるだろ、お前。」
- 85: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:27:27.35 ID:LdiFmqZV0
- ( ´∀`)「うん、もうそれでいいよ。だからぁ……。」
背筋に凍るような冷たさを感じる。
そして、迫ってくるモナーの目が見開いた。
( ´∀`)「一緒に死のうぜ?」
(;^ω^)「……!!」
とても短い言葉だった。
けれども、そこに込められたのは明確な殺意。
故に常人が使う『死』という言葉とは重みが段違いである。
正直に言えば怖い。
死の気配がすぐそこまで迫っているのが嫌でもわかる。
生きたいという意志を奪い取られるような錯覚にすらなった。
死んでしまえば、この圧迫感から逃れられるのだから。
- 86: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:28:48.89 ID:LdiFmqZV0
- だが……。
だからこそ、僕は自分を保たなければならない。
今、その思いをしているのは僕だけではないのだから。
ツンとドクオ。
守るべき存在がいるのだ。
あの世界でも味わった殺意だ。
二人よりも、ある程度の耐性はついている筈。
もっとも、そんなのは強がりでしかないのは分かっている。
それでも、僕はその強がりを力に変えないといけない。
仲間を守るために。
そう心に誓いを立てると共に近くにあって机を蹴り飛ばす。
衝撃が足から物体に伝わるのが分かる。
妙な興奮により、時間がゆっくりと進んでいるようにすら感じた。
- 87: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:30:22.39 ID:LdiFmqZV0
- ( ^ω^)「逃げるお!!」
同時に叫んだ。
吹き飛んだ机がモナーに当たったのかという確認すらしない。
それほどまでに、僕の本能は逃走の警告を鳴らしていた。
僕の声にドクオとツンが少し遅れて反応。
同時に、駆け出した。
恐らく、逃げ投げればならないという意思はあったのだろう。
だからこそ、混乱がありながらもそれなりに速い対応が出来る。
しかし、モナーは違う。
アイツは既に王手をかけた状態だと思っていたはず。
そこでまさかのイレギュラー、予想外の展開。
生じる混乱は僕たちよりも大きいと推測する。
- 88: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:31:32.95 ID:LdiFmqZV0
- そして、その予感は的中する。
モナーは机に激突した足を庇い、痛みに動揺。
更には、そのまま思考の波に飲まれる。
今、何が起きたのか。
今、自分はどうするべきなのか。
そんな考えに頭を悩ませる。
と言っても、それはほんの僅かな隙にしかすぎない。
時間で表すなら、たったの3,4秒といったところか。
しかし、今はその僅かな隙が重要。
逃げるための時間にはなくてはならないもの。
逃走のためのタイミング、という奴である。
結果、どうにか教室外への脱出には成功する。
- 90: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:33:58.66 ID:LdiFmqZV0
- もちろん安心などというのは皆無だ。
モナーが追ってくるのは目に見えている。
つまり、未だ死の恐怖からは逃れられていないのだ。
それ故、走りながらの会話となる。
ξ;゚听)ξ「ど、どこに逃げるの!?
職員室なら、まだ他の先生がいるかも……。」
(;'A`)「いや、ダメだ!逃げ込んだところで意味がない!
モナーを止められるやつなんていないだろうし、アイツは何があっても俺達しか狙わねぇだろうしな!」
(;^ω^)「つまり、止められる人間に来てもらうしかないんだお!
ナイフを持っていても太刀打ちできるような、そんな人に!」
言っていて絶望する。
そんな人を僕自身知るはずがないから。
- 91: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:35:45.93 ID:LdiFmqZV0
- ……いや、待てよ?
これは間違いなく、『どうしようも無い問題』だ。
誰かの助けを必要とするならば、答えは一つ。
( ^ω^)「『校門』まで、ダッシュで逃げ切るお!」
ξ;゚听)ξ「外って事!?」
(;'A`)「…そ、そうか!自分で言ったのに忘れてたぜ!
あそこまで逃げれば、きっと何とかなるはずだ!!」
ξ;゚听)ξ「ど、どういう事よ!?」
( ^ω^)「僕も知らないお!今はドクオを信じるしかないお!!」
行く先は決まった。
後は、そこまで無事にたどり着けるか……だが。
- 92: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:36:09.31 ID:LdiFmqZV0
- 後ろからの足音は、間違いなく大きくなっている。
無理も無い、こちらには女の子もいるのだから。
しかし、その近づく足音を聞くと心臓が高鳴る。
恐怖が体の自由を蝕むような感覚。
逃げるという行為が、それ自体をダメにしそうだった。
『ああああああああアアアアアアアアアア!!!!』
後ろから聞こえるモナーのものと思われる声。
それは既に言葉ではなく、単なる雄叫びであった。
いや、だからこそ迫力も増すというもの。
振り返れなかった。
それを確認したら、足がすくんでしまいそうで。
- 93: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:38:18.35 ID:LdiFmqZV0
- 廊下はいつもより長く感じる。
階段はいつもより多く感じる。
一歩一歩が果てしなく重く、遠いように感じる。
駆ける足を止めたら、2度と動かなそうだ。
今ここで止まりでもしたら、間違いなく死を感じることだろう。
( ^ω^)「もうちょっとで玄関だお、頑張るお!」
('A`)「おお!突っ走れ!」
発した言葉は仲間にかけたものだったのだろうか。
自分自身を奮起させるために口にだしたのだろうか。
疑問は浮かべど、考え得る暇は無かった。
- 95: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:39:19.84 ID:LdiFmqZV0
- 玄関の扉を開けて、外へ飛び出した。
天候はもはや嵐と化していた。
校庭が雨に濡れ、土のグラウンドが酷い有様である。
雷鳴が轟き、吹き荒れる風に木々が薙ぎ倒されないように必死に耐えていた。
しかし、そんな事は気にせず走る。
足元が固定されていないので、不安定な事この上ない。
仲間の心配をする余裕を失っていた。
それに気付いたのは次の瞬間である。
ドシャ、と足が地面を踏み抜くのとは別の音が聞こえた。
まさかと思い確認する。
案の定、予測は現実となっていた。
ツンが、地面に伏せていた。
- 97: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:41:11.64 ID:LdiFmqZV0
- 転んでしまった、と瞬時に理解出来た。
同時に、手を差し出さなければとも頭では分かっていた。
だが、体は僅かな迷いを覚える。
何故、と自分自身に問いかける。
その疑問は一瞬の時を経て、解決へと至る。
ツンを見たときに同時に捕らえてしまったのだ。
僕たちを追いかける、その影を。
だから、僕の体は止まってしまった。
時を止めたかのように、息をするのも忘れて目を見開く。
そうしている間にも、影は動く。
ツンが再び立ち上がり、駆け出そうとする時には遅かった。
モナーは既に彼女の至近距離まで迫っていたのだ。
- 98: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:43:44.48 ID:LdiFmqZV0
- (;´∀`)「…はぁはぁ、手間かけさせやがってこの野郎が。」
(;^ω^)「モ、モナー。」
( ´∀`)「だけど、本当についてるぜ。こんな天気になるなんてよぉ。
やっぱり、神様はこの俺に味方してるんじゃねぇか?」
言葉を終えると同時に雷鳴。
本当にモナーの言う通りなのではないかと、錯覚してしまいそうだ。
ξ;゚听)ξ「……!」
( ´∀`)「おっと、動くんじゃあねぇぞ?」
ナイフがツンの体に迫る。
いや、既に体と刃は触れられているのだろう。
僅かな力を込めれば、突き刺さってしまうのかもしれない。
- 101: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:45:47.52 ID:LdiFmqZV0
- ( ´∀`)「その脅えた表情、ゾクゾクするねぇ。
写真に収めたいが…もう、意味がなくなっちまったからなぁ。」
(;^ω^)「……ツ、ツンを離すお!」
( ´∀`)「ヒヒハハハ、それで本当に離す馬鹿がどこにいるんだよ!
コイツが終わったら、次はお前の番だから覚悟しろよ……。」
駆け寄ってみようかと迷った。
だが、僕の速さで彼の行動を止められるかというと、確立は限りなく零に近かった。
無駄に賢くなった僕の頭は理解してしまっている。
認めたくはないし、諦めたくも無いが、心の奥底ではこう思っている。
万事休すだと。
- 102: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:46:45.04 ID:LdiFmqZV0
- 悔しかった。
何も出来ずに見つめるだけの自分が。
成長したと思っていた。
死を乗り越えて、自らを認められるような自分に。
でも違かった。
僕はこんなにも無力だったんだ。
ツンの青ざめた表情、モナーの悪意に満ちた表情。
この二つを前に、僕は何も出来ない。
僕が何かをしたところで、狂気に支配された空間には何の意味もなさない。
今の僕に出来る事は信じる事。
予想外のイレギュラーが起きないかと願うだけ。
願わくば、『奇跡』を―――
- 106: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:48:00.39 ID:LdiFmqZV0
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……後悔か。
一言で言って良いようなもんじゃねぇなぁ。
人生の分岐点に最悪の選択をしたんだからな。
あの時の事を考えると、今でも胸糞わりぃよ。
好きな女を悲しませるなんてさ……ホントに屑だよな。
んで、神様に貰った新たなチャンス。
それすら、知らぬ間にダメになっちまった。
いつのまにかに息子が死んでるだもんな、意味わかんねぇよ。
おまえに自分が何で死んだのかもわかんねぇままだ。
全く、あの世界は一体なんだったのかね。
夢幻としか、言い表せねぇよ。
……けど。
- 107: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:49:03.29 ID:LdiFmqZV0
- そんな世界でも、俺の守りたいものはあった。
でも、守れない悔しさを味わってしまった。
自分の不甲斐なさを嘆いた。
そして気付かされた、自分の無力さを。
後悔という言葉だけに囚われてる事を。
俺は過去を想うだけで、未来を見つめていなかった。
失敗した過去を嘆いてるだけじゃダメだったんだ。
失敗を、次の成功に繋げないといけなかったんだ。
神様は俺を見捨てたんじゃない。
俺の救いとして、死をプレゼントしてくれたんだ。
- 109: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:49:45.21 ID:LdiFmqZV0
- 今なら理解出来る。
俺は何をすればいいのか。
自らの想いを何に使えばいいのか。
こんどこそ、守るんだ。
未来を、俺が信じられる自分自身を。
教えられた事を、力に変えて闘う。
もう、選択は間違えない。
さぁ、神様に恩返しといこうか。
人生の授業料を払いにいってやるよ。
だから、俺は―――
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- 111: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:50:57.27 ID:LdiFmqZV0
- 『今度こそ、大切なものを守るために。』
そんな言葉と共に、僕の横を風が通り抜ける。
それを自然が起こしたものじゃ無いと気付くにも時間がかかった。
恐らくはモナーも同じ思いだったのだろう。
嵐に紛れて訪れた、予測不可能のイレギュラー。
それ故、対処が遅れる。
モナーにとって、その遅れた時間が悪かった。
風は僅かな隙を突き、あっという間に距離を詰める。
視覚に映ると同時にその足を振り上げ、右腕にぶち当てた。
奇襲により、ナイフを失わせる事のみを考えていたようである。
風――いや、その男は荒々しくも悠然とこう言い放った。
- 114: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:52:52.11 ID:LdiFmqZV0
- (#゚∀゚)「おらぁ!警察だ、大人しくしやがれ!!」
(;^ω^)「警察!?てゆーか、ジョルジュさん!?」
そこにいたのはジョルジュ。
あの世界で僕の父親として存在していた男。
(;'A`)「ま、間に合って良かった……。」
( ^ω^)「どこ行ってたんだお?」
(;'A`)「そんな、一人だけ逃げてたみたいに言うなよ…。
ほら前に言ってた警察官の知り合い、あれがその人。」
ああ、そういえばそんな事を。
いや、呑気に会話してる場合じゃないんだけれども。
('A`)「まぁ、大丈夫だよ。あの人は……。」
- 116: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:54:05.43 ID:LdiFmqZV0
- (;´∀`)「畜生、なんでどいつもこいつも俺の邪魔しやがるんだ!」
( ゚∀゚)いや、警察だからさ。」
言うと共に、右腕を振りかぶる。
水飛沫を飛ばしながら、拳が鈍い音を立ててモナーの右頬を貫いた。
その勢いには耐え切れるはずはなく、吹き飛ばされるしかない。
ジョルジュは軽く笑みを溢す。
間違いない、この人は楽しんでいた。
(;´∀`)「どこの世界にそんな好戦的な警察がいやがるんだよ!」
しかし、モナーも甘んじる気は無い。
ナイフを持たずとも殺意を振りかざし、暴力を凶行する。
だが、不思議とその拳に恐れを感じなかった。
- 120: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:56:39.78 ID:LdiFmqZV0
- モナーの拳は空を切る。
動きから察するにジョルジュなんらかの武術をやっているのだろう。
二人の違いを見ると、素人がそれに挑む事の愚かさが良く分かる。
さらに激音。
勢いを殺さぬようにカウンターの要領で殴りぬけたのだ。
当然、先ほどよりも威力は上がる。
立っていられるはずも無く、地面に転がる他ない。
(;´∀`)「いてぇ…糞が……。」
( ゚∀゚)「…なぁお前さ、奥さん殴ったりしてたらしいな。」
静かに語る。
その瞳には異様な気配を感じた。
激情する怒りと……何故かは知らぬが深い哀しみ。
- 121: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 21:58:23.25 ID:LdiFmqZV0
- (;´∀`)「それがどうかしたっていうのかよぉ!!」
既に力の差は目に見えている。
それでも、モナーは牙を剥く事を止めようとはしなかった。
暴走故か。
( ゚∀゚)「いや別に……ただな。」
身構えたジョルジュが力を込めているのが分かる。
何をするのかは知らないが、ただこれで終わりだということだけは理解出来た。
( ゚∀゚)「…俺と同じだなってよ。」
右ハイキック一閃。
美しさを感じるほど決まったそれは、モナーの意識を奪うには充分過ぎた。
力なく崩れ、倒れこむ音が耳に入ると共に安堵感。
全てはここに終結した。
- 126: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 22:00:50.71 ID:LdiFmqZV0
- 「…こらー!ジョルジュ、また暴走しやがったなぁ!!」
(;゚∀゚)「やべ、まいったなぁ……。」
駆け寄ってきた男はジョルジュの先輩なのだろうか。
申し訳なさそうな顔を見るに、それが推測できる。
その男と軽く話し、事情を説明。
そして、連行されていくモナーをただ見送る。
失った意識を取り戻すのはいつのことになるのだろうか。
去り際にジョルジュが僕の方を見る。
何も話す事は無く、ただ数秒間見つめるだけだった。
いや、語らなくても分かる。
きっと、あちらもそういう思いだったのだろう。
……ありがとう、父さん。
- 129: ◆9d9cVF02x2 :2008/01/27(日) 22:02:47.42 ID:LdiFmqZV0
- ('A`)「一件落着……なんですかね?」
ξ゚听)ξ「一件落着……なんじゃない?」
( ^ω^)「一件落着……だお。」
笑いの渦が巻き起こる。
それは本当に幸せからくるもので、かけがいの無いもので。
もう、心配することは何も無い。
ここにあるのは平和な世界。
仲間と共に笑いあえる、最高の世界。
いつの間にかに雨は止み、雲の隙間から太陽の光が差し込む。
その眩しさを覚える輝きが、僕たちを祝福してくれているようだった。
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