( ^ω^)がマジ切れしたようです
- 135: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:02:14.80 ID:J+Hjp2mF0
- 【6.僕は出会った】
童貞を失った日から現在に至るまでの僕の人生は、面白がって話すようなことではない。
まずは名も知らぬ彼女についてだが、あの日から僕たちは逢瀬を重ね続けた。
おかげで、こと性交においての技巧だけが上達したものだ。
しかしながら、僕たちはそれ以上の関係にはならなかった。
あの古ぼけたアパートの一室で、ただ交わるだけの関係だ。
僕の家庭や学校生活については何一つ語ることはなかったし、彼女について何も聞くことはしなかった。
唯一、部屋の床に転がっていた名刺や手紙から、彼女の職業についてのおおよその見当がつき、
おそらく僕の想像していたような娼婦まがいの仕事と似たようなものだ、と確信することができた。
振り返ってみれば謎が多い女性だったが、深くは知りたいとは思わなかったし、今でもそれは同じだ。
つまり、僕の彼女に対する興味とは、純粋に性的な面でのことであった。
そして、中学卒業を間近に控えた冬のある日、彼女は突如姿を消した。
いつものように放課後彼女の部屋を訪ねたところ、もぬけの殻となっていたのだ。
一言も告げることのない、手紙すらも残すことのない唐突の別れだった。
僕はその後、私立の進学校に特待生として入学した。
ひとつは家庭の経済的な都合で学費がかからないところを選ばなければいけなかったこともあるが、
もうひとつに素行の悪い不良との付き合いを避けたかったこともある。
どうしてもああいう人種に対しては、僕の道化も効果が薄いのだ。
少しでも目が合えば手を出すような彼らとは、話し合う余地すらもないのだから。
高校生活はまさに無難なものだった。
読書部だとかいう文化部に入り、成績も中の上ほどの順位をキープする。
しかしながら、きちんとクラスの生徒とはそれなりに交流する。
- 136: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:03:55.11 ID:J+Hjp2mF0
- そして、はじめての恋人もできた。
同じ部の、まっすぐ伸ばされた長い黒髪に眼鏡をかけた、まさに目立たないポジションの子だ。
ルックスは普通で特に可愛いわけでも、醜いわけでもない。
別に僕自身恋人としての関係を望んではいなかったのだが、その当時の高校生独特の風潮、
つまり、よほどの変人醜人でなければ彼氏彼女がいることが当たり前だという考え方が皆に広まっていた上に、
彼女がそういう関係にとても乗り気であったために、不本意ながらもそうしたまでだ。
彼女の心を射止めることは簡単だった。
彼女が愛読していたドストエフスキーの『罪と罰』で描かれたような人間の罪について、恥じげもなく熱く語り合ったり、
シャークスピアの『ハムレット』のような悲劇の恋に憧憬を抱いていることに、心からの同意を表したりと、
いわば彼女の考え方に全面的に肯定するようなふりをしただけにすぎない。
しかし、僕として恋人が彼女であったことは都合がよかった。
まずは、万一何かのきっかけで不仲になったところで影響が少ない。
仮に彼女がクラスの人気者であるとしたら、関係に亀裂が生じたときに僕に対する皆の非難が轟々となることは間違いないが、
あいにく彼女はそんなに友人が多くなかったため、そのような余計な問題を抱え込むおそれはまずない。
次に、彼女がひどい妄想家であったことだ。
これは、体の関係を持つことにかなり有効である。
彼女の性に対する知識や印象というものは、小説やドラマを通して受けただけのものだけであり、
それでいてひどく歪曲され美化されたものであった。
つまり、彼女が望むような美的な展開であれば、彼女は簡単に操を許すというわけだ。
結果、僕は彼女の処女を奪うことになる。
場所は放課後の二人きりの図書室。
僕はうんざりするほどの甘い言葉をささやき、彼女をその気にさせて交わることとなったのだ。
- 139: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:04:56.44 ID:J+Hjp2mF0
- その後、高校を卒業した僕は彼女との関係を断ち切るように、地元を離れ、単身、都会の国立大学に入学する。
余談だが、なぜ彼女と別れたかについてを一言でいえば、疲れたからだ。
彼女は重度のロマンチストであった。
彼女は僕に白馬の王子様としての理想を重ね、またそれをしきりに望んでいた。
はじめは他愛のない要望であったのだが、関係が深まるにつれてそれがエスカレートしはじめたのだ。
別れ話を持ちかけようとすればひどく取り乱して泣きじゃくり、しまいに鉈を持ち出すような、
下手をすれば首を刈られかねない燦々たる修羅場が予想できたために、僕は逃亡という選択をしたわけである。
とにかく、大学生となった僕は相変わらずつつましく生活していた。
家出した高校生を僕のアパートで飼ったり、バイト先の人妻と昼下がりの情事を繰り返したりしていたが、
特に大した出来事もなく平穏な日々の繰り返しだった。
そして、大学卒業後は某大手食品メーカーに勤めることになった。
営業職として地方支店への転勤を重ねつつ、出世コースではないにしろそれなりの待遇と評価を得てキャリアを積んだ。
二十代後半になって、結婚もした。
大人しく控えめで古風な、丸顔が特徴的な女性だ。
出会いは、上司の紹介がきっかけだ。
その発端は、いい年にもなって浮いた話もないのか、という飲みの席の他愛ない話題だった。
僕はてっきり冗談かと思い生返事をしてその場を収めたのだが、おせっかいなことに上司の方はしっかりと覚えていたらしく、
事態がエスカレートしたことで僕は彼女と会うはめになったのだ。
僕は、はっきりいって結婚などという社会的儀礼に微塵も興味を示していない。
むしろ、ただ煩わしいだけだと感じている。
それに当時は、(皆には秘密であったのだが)恋人というか、体の関係を持っていた女性も複数いたわけで、
上司のいうような女っ気に飢えていたわけでもなかった。
- 141: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:06:00.67 ID:J+Hjp2mF0
- だが、残念ながら簡単に断れる状況ではなくなっていた。
これまでに同僚や後輩からの紹介や、いわゆる合同コンパなどの誘いを受けてもすべて断り続けたのだが、
このころになるとさすがに、皆に不審がられていることが痛いほどわかった。
単に不要なトラブルを避けるために、会社関係のつながりで恋人を作らないようにしていただけなのだが、
皆はさすがにそこまでは想像できなかったらしく、しまいには、
僕がゲイセクシャルなのではないかといううわさまで立つほどになってしまっていたのだ。
そこで僕は断るデメリットと承知するデメリットを秤にかけた結果、彼女に会うことに決めた。
それからの交際は順調そのものだった。
十まで言わずとも僕の意図を汲み取れるほどに賢く、その上、僕に心の芯から尽くしてくれる献身ぶりが素晴らしい、
まさに良妻賢母タイプの女性であった。
結論からいえば、僕は彼女を結婚相手にすることに決めた。
『妻』としてはこの上なく都合がいい女性であるからだ。
ただ、彼女には性の相手としての役割は求めなかった。
なにしろこれから長い間、下手をすれば天寿をまっとうするまで付き添う相手となりえるため、滅多なことはできない。
それなりの体の交渉というのも夫婦生活に必要なのだが、彼女は性に対して非常に淡白な人間であるために、
僕の望むような変態的な行為を受け入れてくれる可能性は、残念ながら低い。
それに僕が頑張って彼女という女体を開拓するにしたところで、最終的には、
僕たちが中年と呼ばれる年齢になったときに体の関係が冷え切ってしまうのは明白だ。
結局、僕は彼女を『よき妻』としての立場にいてもらうことに決めた。
『世間一般的』に平穏な毎日を送るには必要でありつつも、邪魔にならないくらいの丁度いい存在だ。
それが僕たちにとって一番よい選択なのだ。
実際、僕も家庭の中では『よき夫』を演じている。
仕事から帰れば家事を手伝っているし、休みの日には買物にも付き合っている。
円満な夫婦生活を営むうえでの努力を惜しむつもりはまったくない。
しかし、その代わりに空いた時間さえあれば、僕は密かに愛人と逢瀬し、交わり続けていることも事実だ。
- 144: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:07:31.67 ID:J+Hjp2mF0
- そして、そんな生活を送っている中で『彼ら』は突然僕の前に現れた。
僕が長年尽力していた営業畑から離れ、どういうわけか広報部に回された直後のことだ。
ちなみに僕の会社の広報部とは、平たくいえば自社および自社商品の宣伝部隊である。
僕の会社の有力商品は全国区で販売され、あらゆるメディアでコマーシャルが大々的に行われており、
その関係でうちの部署では広告代理店や、TV局、雑誌社などに出入りするような華々しい仕事を行っている。
だが一方で、路上やスーパーマーケット、イベント会場での試供品配りなどの地道な企画も存在しており、
僕は部署に配属されたばかりで、非エリート組であったために当然のごとくそちらの仕事を任せられることになった。
( ・∀・)「では計画書のほう、よろしくお願いいたします」
「はい、本日はお時間と取っていただきましてありがとうございました」
この日の午前中、僕は大手のイベント企画会社からの来客応対に追われていた。
今回の案件は、宣伝カーを都内各地に走らせて新商品の拡販を行うものであった。
僕がこれまで受け持ったなかでも比較的大きな案件だったが、商談は思いのほか上手くまとまり、
担当者を玄関まで見送り終えて、ほっとため息をついたときに事件は起こった。
( ^ω^)「私、『株式会社VIPプロジェクト』の内藤と申しますお。で、隣は私と一緒にやっております風羽ですお」
(*ノωノ)「……風羽です」
「どうも、お世話になっております。本日はどういったご用件で?」
( ^ω^)「実はですね、尾布市で秋に行われる予定の、市民マラソン大会の協賛の件でお話があるんですお。
広報の担当者の方はいらっしゃいますかお?」
「かしこまりました。アポは取っていらっしゃいますか?」
- 147: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:08:57.70 ID:J+Hjp2mF0
- (;^ω^)「……ッ!! いや、その……実は今日がはじめての訪問なんですお」
「……はあ。そう言われましても当社にいらっしゃるお客様は多いので、
こちらとしてもアポなしでお通しするわけには……」
(;^ω^)「いや……その、そこを何とかお願いできませんかお?」
「そう言われましても……」
(*ノωノ)(先輩……がんばってください)
( ・∀・)「……」
受付で、受付嬢と二人組みの男女が何やら揉めているようだった。
しかしながら、これもよくある光景だ。
現に僕の会社には数百もの取引先や関係会社の人間が出入りしており、
中には取引先を装って、対応した社員に個人的な投資をもちかける輩も存在する。
そのため、セキュリティの問題もあって、外部の人間を基本アポイントなしでは通さないようにしているのだ。
(;^ω^)「べ、別に怪しい者じゃないですお!! ……ほ、ほらちゃんと免許書だって」
(*ノωノ)(……先輩、ここは警察じゃないです)
( ・∀・)「……」
受付嬢は困った様子で受け答えしていたが、最悪の場合警備員がどうにかしてくれるだろう、
と、僕は高をくくってそのまま自分の部署へと戻る。
- 148: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:10:38.28 ID:J+Hjp2mF0
- はずだった。
( ・∀・)「いらっしゃいませ。私広報部の茂良と申しますが……うちの部署に何か?」
Σ(;^ω^)「えっ!? あ、あの!! 私、『株式会社VIPプロジェクト』の内藤と申す者で、こちらg」
( ・∀・)「確か風羽さん、とおっしゃいましたか?」
(;ノωノ)「え……あ、はい。私が風羽です」
「あ、あの……茂良さん? こちらは?」
( ・∀・)「……ああ、大丈夫だ。アポは取ってあったんだが、どうやらうちを紹介した会社が僕の名前を伝え忘れたらしくてね。
内藤さん、風羽さん、こちらのミスでご迷惑をおかけして申し訳ありません」
(;^ω^)「……はあ」
僕は、彼らに声を掛けた。
実際のところ彼らと会うアポイントは取ってないのだが、思わずそう口に出してしまった。
奇妙な好奇心に駆られて出た嘘、だろうか。
ともかく僕は彼ら――特に、男性のほうに声を掛けられずにはいられなかったのだ(別にゲイセクシャル的な意味ではなく)。
なぜそうしたのかは、このときの僕には見当がつかなかったが、
彼らを客人に仕立て上げてしまった以上、招かないわけにはいかなかった。
( ・∀・)「では、こちらにどうぞ」
(*ノωノ)「……?……」(^ω^;)
- 153: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:11:39.54 ID:J+Hjp2mF0
- ( ・∀・)「改めましてご挨拶を。私広報部の茂良と申します。
イベント会場や市中での販促キャンペーンを主に担当しております」
(;^ω^)「あ、どうも。『VIPプロジェクト』の内藤ですお」
(*ノωノ)「……同じく、内藤の下についている風羽と申します」
( ・∀・)「ふむふむ、イベント企画をやってらっしゃるのですか。で、今日はどういったご用件で?」
僕は彼らを応接室に招き入れると、改めて挨拶を兼ねて名刺を交換した。
どこか不思議な雰囲気を漂わせた二人だった。
内藤と名のった男性のほうは、若干くたびれたスーツ、しまりのない胴体、そして社内に入ってからのたどたどしい動作から鑑みて、
どうにもやり手の営業には見えないのだが、まったくもって不快感を与えるような人物ではなかった。
むしろほほえましさというか、柔和な空気をたたえており、それが僕に好印象をもたらしたのかもしれない。
一方風羽と名のった女性のほうは、内藤の影に隠れるようにこちらのほうを何度も伺いながらも、
一向に僕に対して売り込みをかける様子も見られない。
僕から言わせてみれば挙動不振に立ちつくしているだけで、なんの補佐もできていない。
だが、逆にかっちりとしたスーツに不似合いな可愛らしい容貌とそのつつましさが、いじらしい。
要するに彼らは僕の警戒心を、もともと持ち合わせているそのやわらかいムードで取り払ったとでもいうべきか。
(;^ω^)「……あの、その前にちょっといいですかお?
その……なんで、僕たちを簡単に案内してくれたのですかお? 実際アポを取ってもいないのに、嘘までついて……」
と、僕が彼らの目的を聞き出そうとしたところで、内藤は遠慮がちに質問を投げかける。
- 154: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:13:42.96 ID:J+Hjp2mF0
- ( ・∀・)「あ、これは失礼しました。
……うん、何といいましょうか、事実仕事がひと段落ついたからというのもあったのですが、
それよりもなぜかあなた方に興味がわきましてね。こう言ったら失礼なんですが、
ここまでの規模の企業ともなると、社員に個人的な取引を持ちかけてくる不穏な方々がやってくることがしばしばでして……
まあ、大抵そういった方々は胡散臭い雰囲気をかもし出しているものなのですが、
あなた方にはそういったものが一切感じられなかったとでもいいましょうか?
しかし、これであなたの鞄から先物や生命保険のパンフレットが出てきたら大笑いですがね……」
(;^ω^)「はあ……」
僕は馬鹿正直に説明をした。
普段の取引会社の人間に言ったら多少は失礼にあたる発言ではあったが、
彼らは僕の知る限りではまったく接点のない会社の人間であり、そのうえ彼らが売り込む側にあるため、立場上ではこちらが上である。
つまり、ここまで話したところで大事にもならないだろうという考えがあったわけだが、
同時に、万一彼らが個人投資をもちかけてくるセールスマンであった場合のために釘を刺すという意図もあった。
( ・∀・)「まあ、簡単にいえば私はあなた方によい印象を持っているということですよ。
しかしながら、ここから先はビジネスの話。
私は個人的な印象で首を縦に振るような慈善活動をやっているわけではないのです。
当社にとってメリットがあるお話でなければ、遠慮なく断らせていただきます」
(;^ω^)「まったく手厳しい限りですお……でも、これはまたとないチャンス。
わかりましたお。では、当社の企画案件についてご説明しますお」
そして内藤はジャケットの内ポケットからハンカチを取り、額の汗を拭うと、
今度は鞄の中から試作段階とおぼしきパンフレットを出し、一枚を僕に手渡して商談を開始した。
- 156: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:15:24.45 ID:J+Hjp2mF0
- (;^ω^)「今秋に尾布市で開催予定の市民マラソンがありまして、今回は協賛のお願いに……・」
(*ノωノ)「現段階のエントリー人数は9000人ほどでして、最終的な予想人数としては……」
(;^ω^)「一応、今回のマラソン大会を報道するマスメディアとしては、地元ラジオ局に新聞社、ケーブルTV局……」
( ・∀・)「……ふむふむ」
僕は、熱心に彼らの話に耳を傾けていた。
未決定事項も多くパンフレットには空白の欄が散見された上、要点をとらえていない遠回りな言い回しばかりが目立ち、
特別上手いプレゼンテーションとは言い難かったが、それだけの欠点をカバーするほどの熱意はひしひしと感じ取れた。
(;^ω^)「で、雨天の場合の対策としましては……風羽さん、説明おねがいだお」
(*ノωノ)「あっ、はい。雨天などの悪天皇……じゃなかった、悪天候の場合……」
(;^ω^)「ちょっw 一昔前にタイムリーだったネタと同じ間違いをしないでほしいお。
……あ、失礼しましたお。彼女はこういう場にはまだ慣れてないんですお」
(;・∀・)「ああ、いや別に大丈夫ですよ。続けてください」
内藤が風羽に補足説明を促したあとで、風羽が説明に詰まる場面もしばしばあったのだが、
例えるならばそれはシュールな夫婦漫才を見ているかのような掛け合いにも感じられ、飽きなかった。
(;^ω^)「……というわけで、説明は以上ですお。
下手くそな説明で申し訳なかったですけど、何かご質問などあったらお答えしますお」
- 157: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:17:05.41 ID:J+Hjp2mF0
- ( ・∀・)「熱意あふれるご説明、ありがとうございました。
質問は今のところは大丈夫ですよ。まだ決定していない事項もいくつかありますし」
(;^ω^)「では、急かすようで申し訳ないんですが、お返事のほうは……」
(*ノωノ)「……是非お願いします」
( ・∀・)「う〜む……とりあえず、検討させてほしいというのが正直なところです。
この件は申し訳ありませんが、返答は後日にさせていただけませんか?
私の一存では決定できることではありませんので、一度上司に通してからお返事差し上げたいと思います」
(;´ω`)「……わかりましたお。難しいかもしれませんがお返事お待ちしていますお」
(*ノωノ)「私のほうからも改めてお願いします。
もし決めて頂けるのであれば、一生懸命がんばらせていただきます」
( ・∀・)「わかりました。では結論が出ましたらすぐにこちらからお返事しますので」
(;^ω^)「お忙しい中ありがとうございますお。では我々はこれで」
二人は大げさなほどに深々と頭を下げて、オフィスを後にした。
彼らは建前としては笑顔を最後まで絶やしていなかったが、同時に諦めにも似た落胆の表情も見え隠れしていた。
実際これは無理もないことで、実際こういった仕事を優先的に委託するのはわが社と関わりの深い大手のイベント会社であり、
彼らのような中小規模の会社に直接回すことなどまずない。
新規の取引先ならばなおさらだ。
しかし、僕は却下される可能性が高いことを承知で回答を先延ばしにした。
この選択が地道ながら懸命に営業を続ける彼らに対する気遣いであり、僕ができる精一杯の報いでもあるからだ。
- 159: ◆foDumesmYQ :2007/10/17(水) 00:18:19.37 ID:J+Hjp2mF0
- とはいえ、些細な商談であるにしても報告をまったくしないわけにはいかない。
僕はこの後すぐに話を直属の上司へと回し、判断を仰いだ。
結論から言えば、可能性が限りなく薄いこの小さな案件は見事通ることとなる。
誤解のないように補足しておくと、特別彼らの意見を上司に強調したわけでもない。
それはこのケースでもそうだし、他社の案件でも同じだ。
だが、それにも関わらず採用されたのだ。
理由としては、僕の会社の事情にある。
僕の会社は食品メーカーで、主力商品は加工食品や調味料が大半である。
しかしその一方で、近年、飲料関係の商品にも手を出し、専門外のマーケットを対象にした拡販戦略を行おうとしていた。
残念ながら既存の飲料メーカーの商品に圧迫され、売上は伸び悩んでいたが。
そこで、起死回生の新商品として新たに開発されたのが、『六甲のびゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛水』である。
パッケージにサ○エさんでおなじみのフ○田マ○オをイメージキャラクターとして印刷した、ただのペットボトル飲料水だ。
誰もが売れるはずがないと感じていたこの商品であったが、社長の気まぐれで重点的な販促活動を命じられることとなり、
その結果とばっちりを一番に受けたのが僕の部署というわけだ。
とりあえず最初にスーパーの売り場や路上やイベント会場で試飲販促を行ったわけだが、目に見えるほどの効果はなかった。
さらには、思い切って全国ネットのTVコマーシャルで大々的に宣伝を行ったりもしたが、
その映像がネタとしてインターネットに広まるばかりで、これも直接的な販売量増加にはつながらなかった。
そして、万策が尽きた結果、苦し紛れとして白羽の矢が立てられた宣伝方法がスポーツ大会での協賛だ。
スポーツに必要不可欠なものといえば給水のための飲料。
大会の公式飲料の一つに『六甲のびゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛水』を採用してもらうことで販促効果が生まれるのではないか、
と重役の一人が提案したことが事の始まりだった。
だが、莫大な予算をすでに販促のために投じており、その実行は慎重を要した。
そのため、まずは実験的に小規模の大会で協賛を行い、そこで満足ゆく結果が得られたならば、
最終的には国際大会の公式飲料としての採用を狙ってはどうか、という運びになったというわけだ。
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