( ^ω^)がマジ切れしたようです

8: 代理 :2007/10/05(金) 21:48:03.60 ID:/rjBXgxY0
今日は良い日。

そんな内容の歌が頭の中を繰り返しリピートしている。曲名は……なんだっけ?
のど元まできてるのに思い出せないや。
小高い丘を切り取った上に建てられたマンションの陰で涼みながら、青い空を滑っていく雲を見つめた。
おーい、雲さん。できればその上でがんばってる太陽さんを隠してくれないかなぁ。

ウォルマートとエッソの間を通る道は車だらけ。どの車もハイブリット、もしくは低排出ガス車。
なんて街だ。地球温暖化対策にご協力くださいって、街ぐるみで示してるってか。
エッソさん。できればガソリンはもうちょっと安くしてくださいな。140円台は、流石に厳しいよ。

信号が変わって、ランドセルを背負った小学生が楽しそうに横断歩道を渡る。
水泳のバッグだ。ああ、あたしもプール入りたい。

そういう奇跡の一つ一つがこの街を作り上げて、素敵な街にしてるんだなぁ。
でも、あるひとつの確定事項がこの街をめちゃくちゃな虚偽の街にしてしまう。

影があるから、光がある。影があるからこそ、光は輝きを増す。
この街の人は、そのことを分かってないのかな。

ごみのない綺麗過ぎるこの街は、どこか作り上げられた感じがする。
嘘の街。虚構の街。そんな言葉が頭の中で渦巻いて、走っていく車の車輪の中に消えていった。

('A`)「四年前に町長が変わって以来、この街も変わった」

潔癖症という言葉だけでは収められないくらい、街を綺麗にすることに関する完璧主義。
視界の中だけでも、実に十個のごみ箱が見える。



9: 代理 :2007/10/05(金) 21:51:06.67 ID:/rjBXgxY0
('A`)「確かに綺麗な街になった。そのことに目をつけた企業は挙ってここに進出してきた。
人口も増えて、にぎやかになった。まぁ、良い街になったさ」

得たもののかわりに、失ったものが大きすぎる気がする。目に見える得たものが大きい分、
失ったものは気づきにくいけど、確実に、それはなくなっている。

('A`)「でも、かわりに息苦しい街になったよ。コンビニの袋を持って公園のベンチに座っているだけで、
   どこからやってきたかわからない親父に注意されるんだもんな」

一つのリアルもないこの街。見上げたマンションも、なんだかまるで現実味がない。
築10年だというマンションは、昨日建てたばっかりの様に小奇麗だ。
時折感じる孤独感。それが、この街で一番現実味を持ってるなぁ。

('A`)「まぁ、こんな街ですが、僕の街です。どうぞよろしく」

信号がかわり、とまっていた車が再び走り始める。タイヤとアスファルトの擦れる音が、甲高く響いた。
 





ここは『綺麗な街』。



12: 代理 :2007/10/05(金) 21:53:47.53 ID:/rjBXgxY0
















ドクオくんの世界だ。






ブーンがマジ切れしたようです

『  从'ー'从渡辺さんのワンダーウォール ( ^ω^)は綺麗な街に住んでいるようです 』



16: 代理 :2007/10/05(金) 21:56:10.68 ID:/rjBXgxY0






【 今日は良いの日のようです 】



 

从'ー'从「その1!」



21: 代理 :2007/10/05(金) 21:59:50.20 ID:/rjBXgxY0
('A`)「市街地はここからもうちょっと行ったところ。ウォルマートは広い土地が必要だったからこの辺に店を構えてるんだ」

なんとなくふてくされたような顔つきで、ドクオくんは言った。

从'ー'从「市街地のほうには何があるの?」

('A`)「んっと、映画館とか。百貨店とか。それなりのものは揃ってますよ」

从'ー'从「やった。あとでちょっと寄っていこう」

(´・ω・`)「住みやすい街だね」

(炎^ω^)「メイド!メイド!」

('A`)「……せいぜい、秋葉っぽいのっていえば、電気屋が市街地に。まぁ、大き目の量販店が二軒くらいあるだけだけど」

(炎^ω^)「じゃあメイドとかはいないのかお……」

('A`)「……この街じゃあ、多分そういうのも風俗に反するってことになると思います」

(炎^ω^)「残念だお」

っつーか、いつもその中に浸ってるんだろ、内藤君。別の世界に来てまで、そんな。

从'ー'从「なんか逆に感心するよ」



23: 代理 :2007/10/05(金) 22:02:35.62 ID:/rjBXgxY0
(炎^ω^)「ん?何がだお?」

从'ー'从「あ、いや……」

川 ゚ -゚)「綺麗なんだけど、めんどくさい街だな。息苦しいし」

長髪を揺らして、今まで沈黙を守っていたクーちゃんが言った。いつもとは違い、真剣な顔つきになっている。

从'ー'从「クーちゃんがまともなこと言ってる……」

(´・ω・`)「街の雰囲気に飲まれてるね」

川 ゚ -゚)「かもしれん」

('A`)「まぁ、特に案内する必要はないと思う。みんな目的は違うだろうし、別行動でもいいかな。集合場所だけ決めようか?」

(´・ω・`)「じゃあ、ここでいいんじゃないかな?」

('A`)「じゃあ、ここで。ウォルマートの前の女神像」

女神像。ドクオくんはそう言って近くにあった銅像を指差した。触ると指紋が残りそうな、綺麗な像だ。
いくらかけて作ったんだろうか、という疑問が浮かんだ。



27: 代理 :2007/10/05(金) 22:07:00.74 ID:/rjBXgxY0
从'ー'从「この世界には何日くらいいるつもり?」

川 ゚ -゚)「あんまり長すぎても……でも短すぎるのも嫌だな」

(´・ω・`)「一日くらいは泊まっても良いかな」

(炎^ω^)「おっおっ。じゃあ一泊二日くらいが妥当かお?」

从'ー'从「あたしはそれでいいと思う」

('A`)「じゃあいいかそれで。ジャムさんの世界に帰るにはどうすればいいんだっけ?」

(炎^ω^)「あー、湖の方に行けって言ってたお」

从'ー'从「そうだったね。湖ってどこにあるの?」

('A`)「湖……ああ、湖ってのは多分ラウン湖。ここからもうちょっと南にいったところにある。じゃあ帰るときはそこまで案内するよ」

从'ー'从「りょうかい」

(´・ω・`)「わかった」

(炎^ω^)「把握だお」

川 ゚ -゚)「こんばんは」

('A`)「じゃあ、そういうことで。また、あとで。とりあえずは自由行動な」



29: 代理 :2007/10/05(金) 22:10:06.75 ID:/rjBXgxY0




それなりに活気のある街。だけど現実味がないのは確かで。

路駐を取り締まるお巡りさんと目が合って、なんのやましさもないのに思わず目をそらしてしまった。
怪訝そうな顔をしているお巡りさんの隣を足早に駆け抜け、市街地へと向かう。

从'ー'从「(それにしてもほんっとに綺麗な街だなぁ……)」

模型を見ているような気分で、街を見渡しながら散策を続ける。マンションの白い壁に太陽の光が反射して、一瞬、まぶしさで目を覆った。

从'ー'从「(あ、ここよさそうな喫茶店だ。あとできてみよう……)」

『ファイア』という立て札のある喫茶店の前を通って、駅の前まで。大きな駅ビルの陰で一息つきながらぼーっとしていたそのときだった。

从'ー'从「(……あ)」

ギターの音が聞こえてきた。アンプで増強している音ではなく、ギターの生音。それもとてもクリアな。

路上演奏かな?

自然と足は音のするほうへ向いていた。



31: 代理 :2007/10/05(金) 22:13:35.05 ID:/rjBXgxY0
从'ー'从「あ」

人通り激しい駅の前の路上で、「Mother's Milk」とプリントされたTシャツを着ている男がギターを弾いている。
足を止めてその歌を聴いている人の姿は見えない。それでも、そのTシャツの男は熱心に弦をかき鳴らし、声を張り上げていた。


 それにしてもマザーズミルク……母乳?


( ゚∀゚)「Maybe I Just Want To Fly
I Want To Live I Don't Want To Die……」


从'ー'从「(この曲……)」

スーツ姿の会社員が、横目でその男性を見ていく。お前、仕事は?といったニュアンスの目だ。
そんな視線を受けながらもギターを弾きつづけるのをやめようとはしない。かわりにもっと声を張り上げて、
全ての人に聞こえるように、男性は歌い続ける。

でも、やはり足を止めて聴いている人は誰一人としていない。

ちょっと、不憫に思った。そして同情した。

从'ー'从「お上手ですね」

だから、その演奏が終わったとき、あたしは構わずその男性に声をかけた。手をたたいて、最大級の賛美をこめながら。



33: 代理 :2007/10/05(金) 22:18:37.37 ID:/rjBXgxY0
( ゚∀゚)「ん?」

从'ー'从「ギター、聴いてましたよ」

男性は目を丸くしてあたしの顔をまじまじと見て、ギターのネックを見て、もう一度あたしの顔を見て、
はっとした顔をしてすぐに満面の笑みを作った。

( ゚∀゚)「俺の歌を聴いてくれるなんて。あんたももの好きだね」

从'ー'从「いえ、お上手でしたよ。……ただ」

( ゚∀゚)「?」

从'ー'从「路上でやるのに、oasisのlive foreverはないんじゃないかな」

それを聴いた男はまた目を丸くして、にやりと笑うといきなり笑い出した。
指に挟んだピックをあたしに突きつけながら、男は言った。

( ゚∀゚)「ああ、これ?この曲か?あれか。路上でやるならもっとその、大衆向けの、日本語の曲を歌えってか」

从'ー'从「路上でやるからにはやっぱり。斉藤和義とか、19とか。バンドの曲なら、スピッツあたりが受けが良いんじゃないかな?
     そしたら多分みんな聞いてくれるよ。oasisなんて、路上でやってても聴く人は居ないんじゃない?」

( ゚∀゚)「ああ、良いんだよ、別に」



38: 代理 :2007/10/05(金) 22:25:03.77 ID:/rjBXgxY0
从'ー'从「?」

( ゚∀゚)「俺は人に聴いてもらうための曲は歌わない。俺の好きな、俺の歌いたい曲をやるんだ」

毅然とした声で、男は言う。

( ゚∀゚)「まぁ、それに」

从'ー'从「?」

( ゚∀゚)「あんたみたいな人が、聴いてくれるだろ。こんな歌でも」

にやりと笑いながら、下から覗き込む上目遣いでそう言った。その無邪気な表情に一瞬、あたしの思考は停止する。
そして思わず笑いそうになりながら返事をする。

从'ー'从「確かに、そうだね」

( ゚∀゚)「だろ?」

その顔がまたなんだか幼くて、自然と笑みがこぼれた。口元を手で押さえて、笑い声を押し殺すように笑った。

( ゚∀゚)「?」

ごめん、その顔をこっちに見せないで。もう、無条件で笑えてくるから。



41: 代理 :2007/10/05(金) 22:29:04.04 ID:/rjBXgxY0
一本100円の販売機でジュースを買って、公園のベンチに並んで腰掛けた。冷たいミルクティが、のどを通っていく。
後ろに手をついて、空を見上げた。ここにきてからずっと思ってたけど、この街の空は高い。
広いまっさらなところで、横になりながら見たらさどんなに気持ち良いだろう。 


( ゚∀゚)「俺がジョルジュ長岡。ああ、ちゃんと仕事はしてるよ。最近はあんまり調子いくないけどな……で、たまにこうやってギターを弾いてる。   
    あんたは?」

从'ー'从「あたしは渡辺。普段は製紙会社で働いてる。今は訳あって休んでるけど」

( ゚∀゚)「ふーん。渡辺さんか。よろしく」

从'ー'从「長岡くんはどんな仕事をしてるの?」

( ゚∀゚)「俺の仕事?うーん……難しいなぁ。街の清掃、もしくは治安維持。そんなところかなぁ」

从'ー'从「警察?」

( ゚∀゚)「いやいや。ある意味では警察に狙われる仕事かも」

从'ー'从「?」

( ゚∀゚)「いや、まぁ、気にしないでくれよ。この街を綺麗にする、そんなお仕事さ」

从'ー'从「っていうとお役所勤め?公務員なんだ」

( ゚∀゚)「んー、そんなもんかな。ははは」



43: 代理 :2007/10/05(金) 22:31:50.53 ID:/rjBXgxY0
笑いながら、長岡くんはプルタブを起こし、オレンジジュースを一口飲んだ。
ギターはすでにケースの中に納まっていて、長岡くんの背中にぶら下がっていた。

( ゚∀゚)「渡辺さんも」

从'ー'从「ん?」

( ゚∀゚)「ギター弾くのか?なんかかなり詳しそうだけど」

从'ー'从「まぁ、ちょびっとね」

( ゚∀゚)「どんなの弾いてる?」

从'ー'从「いろいろだよ。oasisも弾くし、あとverveとかtravisとか」

( ゚∀゚)「UKのバンドばっかじゃん」

从'ー'从「アメリカだとsmashing pumpkinsとか。……あ!」

( ゚∀゚)「どうした?」

从'ー'从「いや、こっちの話だけど。『今日は良い日』っていう歌詞の曲がずっと思い出せてなくて……今思い出した。todayだ。スマパンの、today」

( ゚∀゚)「おお。俺もその曲好きだよ」



45: 代理 :2007/10/05(金) 22:34:00.14 ID:/rjBXgxY0
Today is greatest.
そんな歌詞から始まるのsmashing pumpkinsの代表曲のひとつ。大好きな曲なのに、なんで思い出せなかったんだろう。

从'ー'从「あたしもぼけてきたのかな……」

( ゚∀゚)「なんか言った?」

从'ー'从「いや、なんでもない」

ぐるりとあたりを見渡して、最後に腕の時計を見た。学生の頃、あまりにもお金がなかったから千円均一で買ったひどい安物の時計だ。
百均で新しいベルトを買ったり、店で並んでいた電波時計に時間を合わせたりとしているうちに、自然とあたしもこの時計を気に入るようになってきた。
会社勤めになって、お金に余裕ができてからも、あたしはずっとこの時計を使っていた。

从'ー'从「……」

なんとなく見た時間だけど、まだまだ全然余裕がある。時計から長岡くんに目を移して、あたしは言った。

从'ー'从「ねぇ、この後暇?」

( ゚∀゚)「ん?まぁ、暇っちゃ暇だけど」

从'ー'从「やった。じゃあ、ちょっとあたしに付き合って?行ってみたいところがあるんだ」

あたしは満面の笑みで言った。



49: 代理 :2007/10/05(金) 22:37:52.33 ID:/rjBXgxY0
あたしはスパゲティが好きだ。
一種類の麺に、多種多様な味付けができる。昨日はナポリタン、今日はボンゴレ。
同じ麺でも、味が違えば結構イケる。少なくともあたしはだけど。

忙しいときとかめんどくさいときは茹で上がった麺にバターと塩コショウだけで味つけした具なしの、のっぺらぼうのスパゲティを作る。 
見た目はあれだけど味はそんなに悪くない。
 
余裕のあるときは、卵黄にパルメザンチーズに白ワインにと、自分でソースを作ったりもする。
最近はナポリタンにはまっていた。ケチャップをフライパンで少し焦がしてから絡めると、香ばしく仕上がる。
油で揚げた茄子なんかをそれに添えると、さらにおいしい。

从'ー'从「……でもまぁ、あれだね」

( ゚∀゚)「ふむ」
 
从'ー'从「料理というのは自分で好きなように作るのがいい」

( ゚∀゚)「んだ。見た目が良い喫茶店だからって料理がうまいとは限らねぇ」

从;'−'从「はぁ――……」

長岡くんを引き連れて、さっき見つけた喫茶店『ファイア』に入ってみた。メニューを見るとスパゲティがあった。
あたしは歓喜して温泉卵のカルボナーラをオーダーした。



51: 代理 :2007/10/05(金) 22:40:03.20 ID:/rjBXgxY0
カルボナーラ、一皿800円。
目の前で一口だけ食べられた姿をさらしている。……多分、もう口にすることはない。

从;'−'从「自分で作ったカルボナーラのほうがおいしいってどういう了見かなぁ」

( ゚∀゚)「はっは。若いの、そんなに気落ちしなさんな」

フォークを置いて、コップの中の水をあおった。不快指数をマックスまで高めてくれたスパゲティの味は、その洪水に飲まれて消え去っていく。

那由多の果てに帰れ、未完成の味。

( ゚∀゚)「して、何が気に入りませんで」

从'ー'从「……味が薄い。シュレッドチーズが足りない。卵をのせるカルボなら、味が薄くなる分ブラックペッパーは多めに入れないといけない。それをしてない」

( ゚∀゚)「ほほう」

从'ー'从「そして何よりも許せないのが、ブラックペッパーが挽きたてじゃないこと。……あー、ミルくらい用意しとけってんだよぉ〜」

テーブルに額を押し付けて、グーでテーブルをがんがん叩く。他の人から見たら頭が不自由な人に見えるかもしれない。

むくっと顔を起こす。多分、ひどい顔だろう。でも、構うもんか。



55: 代理 :2007/10/05(金) 22:42:42.67 ID:/rjBXgxY0
从'ー'从「……長岡くん、煙草持ってる?」

( ゚∀゚)「エコーなら」

从'ー'从「煙草の柄なんて分からないよ。普段吸ってないのに」

(;゚∀゚)「はい?吸ってない?なんで、それでも要るの?」

从'ー'从「多分、煙草を吸い始めるキッカケってのはこういうもんなんだって思う」

(;゚∀゚)「あー、そうですかい。それなら……じゃあ、はい」

从'ー'从「おう」

受け取った煙草にライターの火を近づけてみる。……つかない。いったん煙草を口から離して火をつけてみるけど、うまくいかない。

( ゚∀゚)「あー、吸いながらじゃないとつかないよ」

从'ー'从「そうなの?」

吸いながらライターの火を近づけて、ついた。と同時に口の中に入ってくる苦い煙。その初めての感覚に、あたしはたまらず咳き込んだ。

从;'−'从「ごほっごほっ」

( ゚∀゚)「あちゃー。ほら、やっぱり駄目なんだよいわんこっちゃない」

从;'−'从「そうみたいだね……」



57: 代理 :2007/10/05(金) 22:45:55.46 ID:/rjBXgxY0
( ゚∀゚)「ほい」

あたしの口からひょいと煙草を取り上げて、長岡くんはそれをためらいなく口にくわえた。

从'ー'从「……あ」

そしてそれを実においしそうに一口吸った。白い煙を吐きながら、灰皿の上でトントンと煙草を叩く。

( ゚∀゚)「ふぅー。エコーはちょっとなぁ」

从'ー'从「……ていうか、それ間接キス」

(;゚∀゚)「ほえ!?ああ、ごめん!」

あわてて煙草を灰皿に押し付ける。それでもう一度ごめん、と言った。

从;'ー'从「ああー……そんなこと気にするような年でもないよね。ごめんね、変なこと言って」

(;゚∀゚)「いやー、俺もデリカシーがなかったわ」

从'ー'从「まさにDon`t look back in angerだね」

( ゚∀゚)「それ言うのは俺じゃねぇ?」

从'ー'从「ははっ、そうだね〜」



59: 代理 :2007/10/05(金) 22:48:23.82 ID:/rjBXgxY0
( ゚∀゚)「そうだよね〜って、分かってんなら最初から言うなっての」

从'ー'从「あははははは」

( ゚∀゚)「笑ってんじゃねぇよ」

从'ー'从「ごめんね〜」

お冷にもう一度口をつけて、煙草の味を消す。隣に置いてある伝票を見てちょっと鬱になる。同じ値段のパフェでも頼んでおけばよかったかなぁ。

从'ー'从「ところでさ、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

( ゚∀゚)「ん?なに?」

从'ー'从「この街って、なんでこんなに綺麗なの?綺麗って言うか、潔癖っていうか……なんか、おかしいくらいじゃない?」

( ゚∀゚)「ん、あ、あ――……確かにね。そりゃあ、そう思うだろね。あんた、この街にきたのは初めてなのか?」

从'ー'从「うん」

( ゚∀゚)「そうか……。驚いたろ?ゴミ箱の量とか、塵一つ落ちていない道とか」

从'ー'从「あたしの街じゃありえないよ」

( ゚∀゚)「そりゃそうさ。この街が異常なんだから」

从'ー'从「行政のせい?条例がひどく厳しいとか」



62: 代理 :2007/10/05(金) 22:52:03.52 ID:/rjBXgxY0
( ゚∀゚)「まぁ、そんなところだな。四年前に、町長が変わって以来、こうなった」

从'ー'从「その市長ってどんなひと?」

( ゚∀゚)「詳しくは知らねぇ。ほとんど部屋で仕事してるしな。俺もあんまり会ったことがない」

从'ー'从「長岡くんはそっち側の人間なんじゃないの?」

( ゚∀゚)「そうだけど……俺なんてぜんぜん下っ端の使いっぱだからなぁ。町長のことなんて、よくわからねぇよ」

从'ー'从「……でも、その町長……なんだか、おかしいよ」

( ゚∀゚)「……」

从'ー'从「少なくともあたしはそう思う。こんなの、生きた街じゃない。動きがない。これじゃあ、まるで、一分の一のジオラマみたいだよ」

( ゚∀゚)「さしづめ俺たちはそのジオラマの中の人形ってところか」

从'ー'从「そう……とにかく、この街にはリアルがひとつもない。作られた街、っていう雰囲気を感じるもん」

( ゚∀゚)「だよな……。俺もこれは間違ってると思うよ」

从'ー'从「じゃあ、改善されてきてるの?」

( ゚∀゚)「いや……さっきも言ったけど、俺はほんとに下っ端だから。俺なんかが訴えても、上層部は考えを変えたりはしない。
    上は、町長を盲信してるからな」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/05(金) 22:55:50.56 ID:/rjBXgxY0
从'ー'从「……そう」

( ゚∀゚)「いろいろと問題山積みなのさ、この街は」

从'ー'从「問題が上層部にあるんだから、余計性質悪いね」

( ゚∀゚)「まったくだ」

綺麗過ぎる、作られた、リアルのない街。そんな世界に住んでいて、いったい何になるんだろう。あたしには分からない。
確かに、綺麗なことはいいことだと思う。でも、度を過ぎると駄目だ。イームズのチェアは座られてこそ意味がある。
なんとなくこの街は、飾りにされて座ってもらえないイームズやパントンのチェアを思わせる。

从'ー'从「あたしのイームズはフル稼働なのに……」

目の前のカルボナーラを見る。皿は、汚される。なぜなら料理を載せるからだ。汚された皿は洗浄され、再び綺麗になる。
街は、汚れる。なぜならそこには人が住んでいるからだ。そして人は、汚れた街を掃除して、再び綺麗にする。これが普通なんじゃないか。

この街は、料理を乗せてもらえない皿だ。まったく、本末転倒じゃないですか。

( ゚∀゚)「まあ、あんたはこの街に住んでる訳じゃないんだから、そんなに気にすることもないと思うけどな」

从'ー'从「結局そんな言葉で片付けちゃうんですかい」

( ゚∀゚)「だってしょうがねぇだろ。どうしようもないんだから……あ、いや」

从'ー'从「?」

( ゚∀゚)「……なんでもない」



67: 代理 :2007/10/05(金) 22:59:08.58 ID:/rjBXgxY0
ちょうどそのとき、曇った顔の長岡くんの後ろの窓の向こうを、白いバンが走り抜けていった。そのバンを横目で追う、長岡くんのその目。

ただ、車を見ている目だけの目だとは思えなかった。

从'ー'从「……やっぱりなんでもあるでしょ」

(;゚∀゚) 「な、なんでもねーよ!」

从'ー'从「どうだかね〜」

まぁ、深くは聞かないでおこう。答えそうにないし。そこまでして聞きだすのも、なんかめんどくさいし。
 
从'ー'从「じゃあまたギター、弾きに行く?」

( ゚∀゚)「ん?あー、うん」

从'ー'从「分かった、ちょっと待ってて。あたしもギター用意するから」

( ゚∀゚)「え、なに?一緒にやろうって?」

从'ー'从「うん。あたしもたまにやってるし」

( ゚∀゚)「へぇ、みんなちゃんと聴いてくれる?」

从'ー'从「あんまり……っていうか、恥ずかしいから、あんまり人が居るところではやらないんだ」

(;゚∀゚) 「それってやってるって言えんのか?」



69: 代理 :2007/10/05(金) 23:01:32.52 ID:/rjBXgxY0
从'ー'从「まぁまぁ、細かいこと気にしなさんな」

あたしは伝票を手に取った。



ゆるい幸せがだらだらと続いていく。まぁそれはそれでいいことなんだろう。
でも、本当にそれでいいのかと思う自分もどこかにいて、新しい刺激を求めるのも悪くはないのかなぁとも思う。

あたしがギターを始めたのも、そんな理由だった気がする。音楽で世界を変えるとか、そんなことを考えたわけではないけど。
少しは刺激になるかな、くらいの気持ちで。
でも、やり始めてみるとこれが結構楽しかった。気がつくと部屋はCDでいっぱいで、ライブハウスにも定期的に通うようになっていた。

音楽というのは、ある意味では麻薬みたいなものなんだ。

音楽がないと生きていけない。そんな人間は世の中に掃いて捨てるほどいるだろう。あたしも、多分そうだ。
仕事で疲れて、もうどうしようもないときでも、ギターを弾いているときだけは、疲れを忘れることができる。
ipodから流れてくる音を聴いているだけで、あたしは多分一週間は部屋で過ごせる気がする。……今のは嘘だ。流石にそれは無理かも。

でもとにかく、音楽ってのはそういうもんなんだ。今の日本のチャートは商業主義的な音楽ばかりで嫌になるけど、
音楽の本質っていうのは、きっとそういうもんなんだ。




71: 代理 :2007/10/05(金) 23:04:20.08 ID:/rjBXgxY0
日は落ちかけていて、もう夕方近かった。
あたしと長岡くんは、人通り激しい、駅前のロータリー前に居た。

从'ー'从「そこの楽器屋さんで5万」

(;゚∀゚) 「ポールリードスミスか?よく買えたな……しかもアンプ付きときたもんだ」

从'ー'从「いいのいいの。どうせ後で戻ってくるお金だから」

( ゚∀゚)「?」

从'ー'从「タイムリープだよ」

あたしはひょいっと半円を腕で描いてみる。正のx軸から、負のx軸に移動するように。

( ゚∀゚)「……?ま、まぁいいや。渡辺さんが良いって言うのなら」

从'ー'从「そーそー。気にしないで」

( ゚∀゚)「それに、デュオって言ってなかったっけ?」

从'ー'从「最初はアコギにしようと思ったんだけど、バンドサウンドっぽくてもいいかなぁ〜って」

( ゚∀゚)「ほう」

元の世界に戻るときは好きな時間にしてくれるって、ジャムさんは言っていた。だから、ここで使ったお金は、戻ってくる……んだよね?
 
戻ってこなかったらあたしは……あは(はぁと)。一応値切っておいたけど。



72: 代理 :2007/10/05(金) 23:07:11.30 ID:/rjBXgxY0
( ゚∀゚)「で、で、で。最初は何演ろうか?」

从'ー'从「う〜ん……」

首をひねりながら、地面に置かれたアンプを見た。アンプの電源には、公衆電話の電源を失敬させていただくことにした。
エフェクターは特に用意してない。アンプのゲインくんには頑張ってもらおうかな。

从'ー'从「最初は、はじける曲をやろうよ」

( ゚∀゚)「はじける曲?」

はじける曲、と聞いて、長岡くんはうーん、と唸った。そしてすぐに笑顔になって言った。

( ゚∀゚)「じゃあ、ミッドナイトクラクションベイビーな」

从'ー'从「ミッドナイ……ああ、あれか。おk」

ミッドナイトクラクションベイビー。
Thee Michelle Gun Elephantの名曲だ。Thee Michelle Gun Elephantといえば、有名なのはヴォーカル、チバユウスケのガナリ声。

あれだけは、絶対真似できない。

( ゚∀゚)「知ってんだ?」

从'ー'从「うん。ちょうど最近、ミッシェルは人に教えてもらった」

( ゚∀゚)「そいつはいいや。
    ま、声はどうあったって無理なんだ。本家を超えるなんてできねぇよ。リズム隊もいねぇし。ま、そういうわけで、気楽にな」

从'ー'从「うん」



75: 代理 :2007/10/05(金) 23:11:12.44 ID:/rjBXgxY0
ベースとドラムが居ないデュオのスタイルで、この曲。果たして、アコギとエレキ一本ずつでなんとかなるのかしら。それも練習なしで。

やば、緊張してきた。

立てかけたマイクの前に長岡くんが立ち、目をあわせて合図した。一、二、三とカウントを取る。

そら。

あたしのリフのスタートだ。

从'ー'从「……!」

( ゚∀゚)「お」

モナーくんと付き合うようになってから、あたしのギターはかなり上達した。パワーコードはもちろん、スケールも覚えることができた。
もともとアコギのコードプレイしかできなかったあたしが、ペンタ基調のソロくらいなら、即興でできるようになっていた。
 
从'ー'从「……っ」

アンプから響く轟音に、道行く人は足を止め、こちらを見る。安物のアンプだから、音はちょっと物足りないけど。

一人、二人と見物人の数は増えていく。あたしたちの周りに人だかりが出来始める。
あたしのギターの上に乗っかる長岡くんのギター。そして、さらにその上に、長岡くんのヴォーカルが乗る。

( ゚∀゚)「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

チバユウスケを意識したガナリ声。本家には到底及ばないと思う、だけど。

从'ー'从「(これは……)」



77: 代理 :2007/10/05(金) 23:15:26.50 ID:/rjBXgxY0
驚いた。普通に上手だ。あたしの世界のドクオくんのバンドで歌ったら、結構はまるんじゃないか?
そして、オアシスのリアムを意識してるのかどうかはわからないけど、下からマイクをなめるように歌うそのスタイルは、かなり貫禄がある。

从'ー'从「(……やば。あたしもがんばろ)」

ところどころ入る、あたしのコーラス。長岡くんの声に押し消されて、
ほとんどないようなものだったかもしれないけど、それでもあたしも声を張り上げた。

 
人が、集まってくる。集めているのはあたしのギターじゃない。
単純な、長岡くんの歌唱力。さっきlive foreverを歌っていたときとは比べ物にならない歌声だ。

( ゚∀゚)「――――――!!」

ギターをかき鳴らして、長岡くんは叫ぶ。その声の存在感たるや、二本のギターが遠く霞んでいくほど。

――あ、ねぇ。あれ。
――うん。

――パブロック?路上でやる選曲じゃねーよww


――でも、これ。
――ああ。

スーツ姿の会社員、制服姿の高校生、変な紙袋を持ったお兄さん。そんな人たちがみんな足を止めて、あたしたちの周りに集まってくる。
ぽつりぽつりと、手拍子が始まった。一人がたたけばもう二人が。二人がたたけばもう三人が。



81: 代理 :2007/10/05(金) 23:18:49.48 ID:/rjBXgxY0
ギター二本と、ヴォーカルだけのサウンド。その音の薄さを、手拍子がカバーする。

( ゚∀゚)「――――――!!」

どこまでも駆けていく声。どこまでも追いかけていくギター。どこまでもついてくる手拍子。
その、一体感が、グルーヴが。駅前の小さな空間を切り取り、凝縮させる。


夢中でギターを弾いた。さっきそこで手に入れたばっかりで、弦もそのままだったけど、PRSは応えてくれた。
どう手を動かそうとも、ちゃんとついてきてくれた。

从'ー'从「(ああ、この感じだ)」

あたしが好きな、音楽の本質。

――いいな、これ。
――なんて曲だっけ?
――ミッシェルの後期じゃない?


ミッドナイトクラクションベイビー。

以後お見知りおきを。
 

繰り返されるミッドナイトクラクションベイビーという歌詞。
曲の後半になってくると、チバユウスケはこれを叫ぶことしかしていない。



83: 代理 :2007/10/05(金) 23:20:58.31 ID:/rjBXgxY0
それは、長岡くんも同じ。


そして、曲が。

( ゚∀゚)「――――――!!」





 
………
……



 

終わった。



84: 代理 :2007/10/05(金) 23:22:15.79 ID:/rjBXgxY0






(;゚∀゚) 「ふぅ……」

从'ー'从「(よかった〜間違えずに弾けて)」

――よかったよ、二人とも。
――っつーか選曲渋すぎだろww

――ねぇ、次は?


(;゚∀゚) 「おk。でもちょっと待って。まさかこんなに人が集まるとは思ってみなかったから……」

从'ー'从「確かに」

気がつくと、あたしたちは大勢のオーディエンスに囲まれていた。二十、三十……もっといるのかな。

(;゚∀゚) 「さっきは誰も聴いてくれなかったのになぁ……。これも渡辺パワーかな」



87: 代理 :2007/10/05(金) 23:24:23.73 ID:/rjBXgxY0
从'ー'从「なんか言った?」

(;゚∀゚) 「あ、いや。なんでも。次は、何演ろうか?」

从'ー'从「えっと、じゃあね、ワンダーウォールで。わかるでしょ?」

(;゚∀゚) 「まぁ知ってるけど。盛り下げるのかよ」

从'ー'从「クールダウンも必要だよ」

(;゚∀゚) 「下げるポイントはええよ」

从'ー'从「えへへ」

ゲインをさげて、ギターの歪みを抑えた。軽く歪んだギターが、ワンダーウォールのイントロを奏ではじめる。

マイナーコードから始まる叙情あるイントロ。wonderwall、oasisの出世作。



90: 代理 :2007/10/05(金) 23:26:05.46 ID:/rjBXgxY0




 Today is gonna be the day
   That they're gonna throw it back to you……






 

そしてあたしが一番好きな曲だった。




 




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