( ^ω^)がマジ切れしたようです

133: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:25:17.14 ID:vJLlQZl00









                   マジ切れ合作


                  IN・Cグループ


                    From


              ( ^ω^)のメモリーズなようです
                      &
              ( ^ω^)が料理人になるようです       





               



141: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:28:53.49 ID:vJLlQZl00
ノル ゚ -゚ノ「…あと、どれくらいでございますかね」

一人つぶやいて、私はつい苦笑した。
いや、正確には苦笑であるはずがない。
私は感情を持たない、アンドロイドなのだから。
あの人の。
思い出の中のあの人がしていた仕草の物真似に過ぎない。

【その時】が来るまでスリープモードに入る事を頭脳が推奨していたが無視した。
時空移動には大量のエネルギーを必要とする。
永久機関式主電源装置を内蔵している私だが、
エネルギー残量がゼロになってしまっては流石にどうすることもできない。

ただ、今この時だけは。
私という存在がレールを外れることが出来る唯一の時なのだ。

ノル ゚ -゚ノ「大丈夫。心配は要りません」

私は確認するように一人語ちる。
今までだって何の問題もなかった。
エネルギー残量がゼロになるなど一度もなかった。
おそらく、それも【規定事項】。
そんな事でさえ私は運命に支配されている。
自由に振舞っているとされる今でさえも、その実は踊らされているのでしょう。

ノル ゚ -゚ノ「釈迦の手の上の猿・・・か」



155: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:35:28.33 ID:vJLlQZl00
そう思って、私ははっと気づきました。
自由自在に大空を飛び回っていたはずが、釈迦の掌の上にいるに過ぎなかった大昔の猿の話。
これをマスターから聞かされたのは何時の事だったか。

電子頭脳確認。
記憶装置開放。
情報検索開始。
検索結果……。

ノル ゚ -゚ノ「発見」

失われつつあった物が戻りつつある。
私がレール上に戻ったからでしょうか。

ノル ゚ -゚ノ「マスター……」

この時私の頭脳は【喜び】を。
否。
マスターと同じ人間であれば、【喜びと呼ばれるであろう感情】を確かに感じていた。

ところで。
時の流れとは原始的なアニメーションのようなものです。
膨大な量の連続した一枚一枚の絵が、それを作り出しています。

そして、時を逆行する行為とは。
巻き戻されるそれを横に見ながら、天も地も無い闇の中を押し流されていくようなもの。

マスターのお仕事である宇宙飛行をイメージしていただけるのが、
最も分かりやすいのかもしれません。



158: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:38:49.85 ID:vJLlQZl00
ノル ゚ -゚ノ「マスターとなら…この感覚を共有できるのでしょうか」

そう思うと、再び胸のコアがほんわりと熱を持つのを感じた。
しかし、この思いも【今】必ず感じる【規定事項】にすぎない。
何故なら私は心を持たないアンドロイド。
自身の維持の為。多くの人命を犠牲にする事を選択した存在。

それでも。
それでも…。

ノル ゚ -゚ノ「私は私の中のマスターを守りたい。私という存在が…これ以上エラーを起こさないためにも」

消去されるはずの無い記憶装置からマスターが消えていく。
その度に私のコアは言いようの無いエラーに支配されていく。

ノル ゚ -゚ノ「宇宙空間で酸素残量が少なくなった時のマスターのお話が…一番近いのでしょうか」

人間であるマスターが生きていくうえで必要な酸素。
それがどんどんと少なくなっていく時、マスターは何を思っていたのでしょう。
アンドロイドである私が生きていくうえで。
永久機関を持つ私にエネルギーの心配は、日常を送るだけなら皆無だ。

だが、しかし。
マスターと過ごした日々を失う事は何よりも恐ろしい。

ノル゚‐゚ノ「恐ろしい? 何を馬鹿な」

もしかしたら、これが人間の言う【恐怖】という感情なのかもしれない。
でも…そんな事はありえない。
電子頭脳が再びエラー信号を発する前に、私は巻き戻されていく時の【景色】に目を移らせた。



163: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:41:18.81 ID:vJLlQZl00
          …マスター。

マスターの死。
マスターが私が淹れる紅茶を飲みながら、モニターと睨めっこしている。
マスターとの生産性のまるで無い会話。
マスターと私の初めての出会い。目を丸くして驚いている。
私が誕生する。

         …マスター。マスター。

マスターとご親友の永遠の別れ。
マスターとご親友と楽しげに語られている。
マスターとご親友の出会い。
マスターのご親友が・・・命を得て目覚める。
マスターの父上がいる。その両腕には柔らかそうな布でくるまれた猿を抱いている。

         …マスター。マスター。マスター。

故郷を追われた人類が宇宙を新たな生活拠点にする。
オゾン層の消滅と、気温上昇による水位の上昇。
閃光ときのこ雲。折り重なるように地に伏せる…炭化した死体の山。
核戦争の始まり。

ノル ゚ -゚ノ「……」

私は思わず目をそむける。

マスターから聞かされた【核】の為した罪を思い出し、何故だか胸の【コア】が痛みを伝達してきました。
それに連動したのか。
記憶装置がエラーを起こしたかのように開き、勝手に記憶が私の電子頭脳に流れ込んでくる…。



168: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:43:57.18 ID:vJLlQZl00
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

('A`) 『うぃっす』

( ^ω^)『こんにちわだおー』

(*゚∀゚)『いらっしゃいませ…って、なんだい!! またあんたらかい!?』

ランチタイムで賑わうコロニーの中華料理店。 
『中華』とは、まだ人類が地球で生活していた頃に存在した最大級の国家。
もしくは、そこで生活していた人々の呼称だ。
中華料理とはすなわち、その『中華』で食されていた料理らしい。

('A`) 『…それが客に言う台詞かよ』

( ^ω^)『全部ドクの人徳がなせる業だお』

言いながらマスターのご親友(名称をブーン様と言う)は手書きのメニュー表を手に取る。
今更、手書きのメニュー表を置いている店はこの【包丁小僧飯店】くらいなものでしょう。
内装もレプリカとはいえ、ダークオークをベースにした樹脂で覆われ、いわゆる『雰囲気がある』店作り。

(*゚∀゚)『そうそう。ブーンは別にしてねっ!! あんたは小食の癖にのんびり食べるから割に合わないのさっ!!』

('A`) 『いいじゃねーか。コロニーにいるときくらい、鉄の中で飯食うのは嫌なんだよ』

( ^ω^)『おっ、おっ。注文いいですかお』

2人の毎度のやり取りをよそ目にメニュー表を目にしていたブーン様が手を上げ、
汚れた前掛けをつけた先程の店主が厨房から走りよってくる。



173: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:46:41.00 ID:vJLlQZl00
( ^ω^)『えっと…この麻婆豆腐2人前。肉団子。月田鶏の唐揚げ・香味ソース。
      天然太陽のオレンジジュース。あと、ご飯をジャポニカ米で2つ。
      デザートはジャスミンプリンをお願いしますお』

(*゚∀゚)『いいねぇ、その食べっぷり!! それでこそ男の子だよっ』

店主が片手で器用に折りたたみ式の電子メモに注文を入力しながら、
もう片方の手でブーン様の背中をバシと叩いた。
ちょうどレトロなガラスの器に口をつけていたブーン様は、水を噴出してむせかえる。

('A`)『おいおい…そんなに2人で食えねぇだろ…常考』

常考とは、『常識で考える』の略語。
人類が地球で生活していた頃、一部で流行した単語だが…。
何故、マスターはその様なとっくに消滅した言葉をご存知だったのだろう。

( ^ω^)『何言ってるおwwwこれは僕一人で食べる分だお』

(*゚∀゚)b『やるじゃん!! つー様は沢山食べる子大好きだよっ!!』

そう言って彼女は親指を立てて、にっと笑う。

d(^ω^ )『ありがとうだお。僕もつーさん…って言うか、つーさんが作るご飯が大好きだお』

ブーン様も、同じく親指を立てて笑い返した。



179: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:49:51.47 ID:vJLlQZl00
【包丁小僧飯店】店主・パーソナルデータ。
種族・人間。
性別・女性。
年齢・29歳。
個人名称・つー様。
特殊情報・本人曰く『花の独身』。
     とうに婚期を逃しているが、本人に焦りはまるで無いとの記録あり。
     シュミレーションの結果、人間男性の興味を引く容姿ではあるが全く興味が無いらしい。
     彼女目当てに足しげく店に通う男性も多いが、見向きもしない。
     マスター曰く『過去に何らかの虎馬(地球に生息されたと言う生物。何故マスターがこの生物の名を出したかは不明)がある?』
     ブーン様曰く『コロニー七不思議(残り6つの不思議については未だ未確認。更なる情報が必要)』

以上の情報から計算した結果。
彼女は己の遺伝子保存・種の発展に興味が無い。
もしくは、生殖機能の破損。同性愛者等の可能性が考えられる。
生物学的には欠陥が多いのだが、異性に向ける情熱を自身の店の発展に向けているのですから
結構な事なのかもしれません。

以上の結論を導き出した日。
何故だか私はその日の夕食を普段より豪華にするべきだと思い、実行したものでした。

今も『色気より食い気』なブーン様と『恋人よりよく食べる客』なつー様は顔を見合わせて大笑している。

( ^ω^)『で、ドクは何食べるんだお』

(*゚∀゚)『男の子はねっ!! 沢山食べなきゃダメさっ!! 身長もアッチも大きくなれないよっ』

それを聞いたマスターはげんなりした表情で溜息をつきました。

('A`)『…喰ってるの見てるだけで吐きそうだ。俺には珈琲だけ下さい』



186: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:53:21.70 ID:vJLlQZl00
(*゚∀゚)『全く。この子はしょーがない子だねっ』

それでも楽しそうに笑いながらつー様は厨房に戻っていく。
工場で加工・調理の後パッキングされたレトルト食品を、
マイクロレンジで加熱するだけの食品店が軒を並べるこの時代。
彼女は珍しく、ガスの火と巨大な鉄鍋を使って食品を調理しているのです。

非効率極まりない方法なのだが、それが彼女の言う【伝統】。
マスターも何故かこの調理法で作られた食事を好み、
私もマスターの為それを実行していました。

…そしてそれは私の為でもありました。
幾度となく電子頭脳に解析を求めましたが、何故私の為でもあったのか?
理由は未だ不明です。

客席から厨房内を走り回るつー様を眺めながら、マスターとブーン様は談笑に耽る。

( ^ω^)『で、僕もつーさんみたいな肉団子が食べたくて家で作ってみたんだお』

('A`)『へぇ〜、ってお前さ。そんな器具持ってたっけ?』

( ^ω^)『この為に揃えたんだお』

('A`)『…随分と凝り性な事で』

モノクロアイの電子給士が運んできた珈琲をマスターは受け取った。
深く煎られたそれが醸し出す芳ばしい香りにマスターの目が細められた。



189: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:55:24.97 ID:vJLlQZl00
マスターは珈琲が大変お好きだ。
特に強い苦味と野生的なコクを併せ持つ品種を好み、
時折御自身で豆を購入してきて挽く事すらあった。

ただ、私も幾度かご相伴に預かったが…とても飲用に適するとは言いがたい味と判断せざるを得ない。
調べた所、珈琲とは元々地球に核もなかった時代。
亜米利加大陸を侵略した欧州人が広めたのが始まりだと言う。
私としては、この様な野蛮人の飲み物ではなく優雅な紅茶をマスターには飲んでいただきたいのですが

     ('A`)『…味がしねぇ』

と一刀両断されてしまい、何となくその日一日は動力が低下したものでした。

…兎に角、この時もマスターは薄手のカップに注がれた珈琲を一口含んで満足げに頷いています。

('∀`)『うん、これだよ。これ』

(;^ω^)『よくそんなの飲めるお』

ブーン様は同時に運ばれてきたオレンジジュースのグラスに刺さった
ストローを咥えて眉を顰めている。

('∀`)『バッカwwwこれが大人の味ってヤツなんだよwwwで、何の話だっけ? 肉団子?』

( ^ω^)『そうだお』

ブーン様はジュースを一息に飲み干す。
氷を口の中に放り込んでボリボリと噛み砕きながら、電子給士におかわりを注文した。



192: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:57:19.78 ID:vJLlQZl00
( ^ω^)『僕が作ると全然美味しく出来ないんだお』

('A`)『kwsk』

kwsk。
k(これを)w(わたしに)s(しっかり)k(聞かせろ)の略語です。
つまり、相手に細かい部分まで説明を要求する際に使われます。
これも先程の『常考』と同じく、とうに死滅した言い回しの一つ。

( ^ω^)『つーさんの肉団子はつるつるふわふわだお。
       でも僕が作ると、挽き肉のお握りみたいでぼそぼそしてるんだお』

('A`)『あぁ、安い加工パック買うとそんなのあるよな。なんかコツでもあるんじゃね?』

言いながらマスターは珈琲を一口。

( ^ω^)『それが知りたいんだお。つーさんに聞いてみようかお?』

('A`)『止めとけって。俺がエンジンメカニックの秘密を聞かれて教えるようなもんだぜ。
    企業秘密なんか簡単に教えてくれねーよ』

( ^ω^)『やってみないと分からないお。おーい、つーさん!!』

否定的なマスター。
一方ブーン様の声に対して、厨房から完成した料理を盛り付けている店主の
『なんだいっ!?』と言う返事が返ってきました。



195: ◆COOK.INu.. :2007/09/25(火) 23:59:28.39 ID:vJLlQZl00
('A`)『…だからやめとけって』

( ^ω^)『美味しい肉団子を作るコツを教えて欲しいんだお』

マスターを無視して更に問いかけるブーン様。
帰ってきた返答は…沈黙。

( ^ω^)『僕が作るといつもボソボソで…』

沈黙。

(;^ω^)『つーさんが作るような肉団子が作りたくて…』

沈黙。

(;^ω^)『あの…その…』

沈黙。

(;^ω^)『…つーさん美人だお』






(*゚∀゚)『肉団子のコツかいっ!? 簡単さっ!! お姉さんが何でも教えたげるよっ!!』

即座に元気な返答が戻ってきて、マスターとブーン様は喜劇役者のように盛大にずっこけました。



198: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:02:17.32 ID:HfXIBYiV0
(*゚∀゚)『フワフワにするにはねっ!! 水分がたっぷり必要なんだよっ!!
     薄めの上湯スープを大量に加えてみなっ!!』

両手に抱えた料理をテーブルに並べながらつー様が言う。
終えると、どっかと椅子に腰を下ろしました。

('A`)『おいおい…まだ仕事中だろ? サボってていいのかよ?』

マスターの台詞に店主は大袈裟に店内を見渡して見せます。
いつの間にかその空間にはマスターとブーン様、つー様。それに指令を待つ電子給士だけしか居なくなっていました。

(*゚∀゚)『ランチタイムはとっくに終わりさっ!! 
     こんな時間までのんびりしてる不真面目君はあんたらくらいなもんだよっ』

言って笑う。
しかし、つー様。
マスターを侮辱するような言動だけは謹んでいただけないでしょうか?

( ^ω^)『それは試したお。でも、そーすると上手くお団子にならないんだお』

(*゚∀゚)『そりゃそうさっ!! 繋ぎに澱粉も入れなきゃねっ』

答えながらつー様は給士を呼びつける。
しばらくして彼女(?)は缶入りの麦酒とグラスを持って近づいてきた。
冷気で曇る程に冷やされたグラスに、ダイナミックに麦酒を注ぐ。
案の定グラスの大半は泡で支配されたが、つー様はそんな事にはお構い無しにそれを飲み干し
満足そうに息を吐き出した。



202: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:04:59.27 ID:HfXIBYiV0
(*゚∀゚)『あ、あとね。トーフも入れてごらんっ!! 食感が軽くなるよっ』

(;'A`)『トーフ?』(^ω^;)

トーフとは『豆腐』と書く。
つー様の先祖がまだ地球に住んでいた頃、居住地の東部亜細亜一部で食されていた食料です。
この地域では豆腐の原料たる大豆を特に好んで食したとされ、
他にも『納豆』『醤油』『味噌』『豆大福』等が毎日の様に食卓に並んだと言います。

ちなみに、古来『豆腐』の名称は『納豆』であり、『納豆』の名称は『豆腐』でありました。
それぞれ、『豆(の絞り汁を)を納める』『腐った豆』と表記する事から明らか。
この嘘の様な架空の話をマスターから聞かされた時、私はその博学さにガンと撃たれた様な衝撃を覚えたものでした。

( ^ω^)『そう言えば、トーフってどうやって作るんですかお?』

ご機嫌を取る様に、空になったグラスにビールを注ぎながら尋ねます。
しかしどうやら、ブーン様の器用さもつー様と大差ないようで
彼女は慌ててグラスから零れる泡に口をつけなくてはならなりませんでした。

('A`)『んなもん、大豆の絞り汁ににがりを入れて固めるんだろ?』

( ^ω^)『そのにがりってなんだお?』

('A`)『それはよ…』

博学な筈のマスターが固まってしまいました。
正解は、口の周りを白い泡で覆った店主の口から。

(*゚∀゚)『昔は海水を蒸発させて塩を取ってただろっ!?
     その時に出る余り粕みたいなもんさねっ!!』



208: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:07:51.08 ID:HfXIBYiV0
('A`)『海の水から…』

( ^ω^)『塩…?』

2人は顔を見合わせる。

(;'A`)『うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ』(^ω^;)

そして同時に眉を顰めました。
お二人が知っている海といえば、赤銅色に沸騰する地球の『死の海』と
謎の生物が泳ぎまわり調査すら困難な火星の『海』くらいな物ですから、当然かもしれません。

(*゚∀゚)『で、材料を全部ミキサーにかけてやってからお団子にするのさっ!!
     そーすると、つるんつるんの食感の肉団子が…って、なんだいその訝しげな目はっ!?』

つー様もお2人の視線に気付いたようで抗議の声をあげます。

('A`)『だってなぁ…』

( ^ω^)『海水から塩を取るなんて…そんなの信じられませんお』

(*゚∀゚)『何を言ってるんだいっ!!』

言うや彼女は椅子から立ち上がり、華麗にポーズを決めて見せました。
その行動に一体何の意味があるのか?
私の頭脳をもってしても解析できません。



211: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:10:26.74 ID:HfXIBYiV0
(*゚∀゚)『あたしのご先祖様はねっ!! 地球じゃ四方を海に囲まれた島で暮らしてきたんだっ!!
     更にその遠い遠いご先祖様なんか、【鉄と塩の道】と言われる島で剣を振るってたんだよっ!!
     そのあたしにあんたらが舐めた口を利くなんて100年早いさっ!!』

料理。
海。
塩。
この知識にかけては、確かにマスターもブーン様も到底彼女に敵わないでしょう。
ただ。
ただ…。
やはり、その天井の照明を指差すポーズの意味だけは分かりかねます。

( ^ω^)『おっ、その台詞で思い出したお』

突然ブーン様が大声をあげました。

(;*゚∀゚)『な、なんだい、急にっ!!』

つー様もそれに相当驚いたのか、胸を押さえたままへたり込むように椅子に腰を下ろします。
ブーン様はそんな彼女にお構い無しに、年代物のナップザックを漁り始めました。

(;*゚∀゚)『…全く。お姉さん腰が抜けるかと思ったさっ』

('A`)『ブーンよぉ。アレ見せるのはいいけどよ。口の周りソースだらけだぞ』

マスターの言葉にブーン様は慌てて口の周りを拭い取ります。
気のせいか、仄かに頬が赤らんでいました。



214: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:11:52.45 ID:HfXIBYiV0
( ^ω^)『お、あったお』

言って取り出したのは、1冊の電子新聞でした。
過去数年の事件や記事を、これ1冊で全て閲覧できます。
今や一家に一冊…いや。一人1冊の勢いで世界に普及していました。

('A`)『お前さぁ。それ出すのにどれだけ時間かけてるんだよ』

(*゚∀゚)『ちょっとは整理しなよっ』

愚痴るマスターには珈琲を。つー様には麦酒のお代わりを電子給士が供する。

(;^ω^)『…うるさいお』

言いながらブーン様は備え付けのペンでタッチパネルを操作しだしました。

( ^ω^)『えっと…これをこうして…あ、これだお。これ』

どうやら目当ての物を見つけ出したらしく、それをテーブル中央にドンと置きます。
そこに表示されていたのは、偶然ジャンクの山の中から発見されたという地球の新聞の拡大記事。
丸みを帯びた巨大な兵器から操縦者が降りようとしている所でした。

(*゚∀゚)『えっと…なんだい、これ?』

( ^ω^)『ふふふ…聞いて驚くなお』

('A`)『これはセパタクロウ。駆動兵器さ』

(;^ω^)『あ。僕の台詞』



220: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:14:36.90 ID:HfXIBYiV0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

駆動兵器セパタクロウ。
地球が核の炎に包まれる以前。
4つの大国による戦争がありました。
その際、戦車に変わる主力兵器として登場・活躍した物こそが駆動兵器。

この機動力を重視した白い機体こそが、南のラウンジにおいて最前線を戦ったセパタクロウです。

セパタクロウは、腕部に装着されたミサイルで多くの人命を奪いました。
操縦者もろとも憎むべき殺人兵器。
彼らの存在を多くの人が恐れ、憎んだ事でしょう。

ただ、彼女らの存在も。
沢山の無意味な死も。
全ては歴史の規定事項。

そして…。
そして私の犯した罪のほんの1ページ。
例え、この身を幾百回焼き滅ぼそうとも。
本来であれば許される罪ではないのでしょう。

ノル゚‐゚ノ。oO(……)

思わず目を背けたくなる。
が、溢れ来る記憶の洪水はそれを許さない。

そんな私の事など露知らず。
いや、当然知らないのでしょう。
記憶の中のマスター達は談笑を再開しました。



227: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:17:47.27 ID:HfXIBYiV0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

見たくない。
聞きたくない。

ブーン様は、電子新聞の写真を拡大していく。

( ^ω^)『お、ほら。これだお、これ』

言って指差したのは、駆動兵器のパイロットの顔。

('A`)『ほら、これ。つーさんにそっくりだろ?』

(;^ω^)『あ。僕の台詞』

その言葉に彼女は写真を覗き込む。
そこに写っていたのは……。

               (*゚∀゚)

なるほど。
当然、店主に瓜二つな操縦者の姿でした。



229: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:19:09.43 ID:HfXIBYiV0

(;*゚∀゚)『な、なんだいこの絶世の美女はっ!?』

…ナルシストとも捕らえかねない発言が混ざっていた風に感じたのは気のせいでしょうか?

('A`)『だからさ、つーさんのご先祖じゃねーの?』

珈琲を一口。

( ^ω^)『僕もそう思うお。きっと間違いないですお』

いつの間にか料理を全て平らげていたブーン様は、
お行儀の悪い事に大きなゲップを一つしてから電子給士にオレンジジュースのお代わりを要求しました。

(*゚∀゚)『はぁ〜。う〜ん。た、確かに似てるねぇ…そっくりさんだよっ』

手にした電子新聞を引っ繰り返したり、裏から眺めたりするつー様。

('A`)『ふふふ。驚いたか』

( ^ω^)『僕が見つけたんだお』

満足そうな2人。
だが、つー様は。

(*゚∀゚)『でも、関係ないねっ!! 赤の他人だよっ!!』

言って電子新聞をテーブルに放り投げました。



233: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:21:14.69 ID:HfXIBYiV0
ガシャッ。
ガリガリガリガリガリガリ…。
意外と軽い衝撃音とは裏腹に、テーブルと衝突した電子新聞からは派手なモーター音が鳴り響き始めました。
私もマスターから電子新聞をお借りして読んだ事は幾度とありますが、
通常の使い方ではこの様な異音を立てるのを聞いた事がありません。

( ゚ω゚)『ノォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』

慌ててそれを拾い上げる。
モニター上には何だか良く分からない虹色の何かが暴れまわっていましたが、
やがてプツンとモーター音が止むとともに真っ暗になりました。

( ゚ω゚)『ぼ、僕の電子新聞が…』

懸命に起動ボタンを連打しますが…反応なし。完全な沈黙。

('A`)『別人? そんな訳ねーと思うんだけどなぁ』

そんなブーン様を無視してマスターはつー様に話しかけました。
マスター。
そのクールな物腰…凄く素敵です。

(*゚∀゚)『ま、似てるのは認めるけどねっ』



237: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:23:31.53 ID:HfXIBYiV0
つー様は『ありゃ? 失敗しちゃったねっ!!』と言わんばかりの表情で
後頭部をボリボリ掻きながら、給士に麦酒のお代わりを要求しました。
何か文句を言いたそうな電子給士に二言三言小声で言うと、給士は逃げるように冷蔵庫に向かいます。

( ゚ω゚)『あ…あ…動かない。動かないお』

電子新聞は、それ1冊で全ての電子新聞社の記事を閲覧でき保存も可能。
その様な非常に便利な代物である代わりに決して安価ではありません。

( ゚ω゚)『お願いだお…動け。動いてくれだお』

例えば、高等学の出身者の初任給では中古品や旧型の物がようやく買えるか買えないか…と言った金額です。
それ程高価な物ならばもう少し頑丈に作れば良いと思うのですが、
マスターが言うには、この軟弱さは新聞がまだ紙であった頃の名残との事。

( ゚ω゚)『おっ…おっ…おっ…』

電子新聞は非常に便利です。
これを持って初めてビジネスマンは一人前と見なされる…と言われるほど。

( ゚ω゚)『そうだ!! 目には目を。歯には歯を。衝撃には衝撃だお』

言ってブーン様はテーブルの隅に電子新聞を何度も叩きつけ始めました。
もし、私がこの場に居れたならこう言うでしょう。

『とどめを刺してどうするんですか』、と。

やがて、電子給士がモノクロアイを赤く光らせながら麦酒を持って再登場しました。
それにしても…。彼女はまだ仕事中ではなかったのでしょうか?
一体何本の麦酒を飲むつもりでしょう。



240: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:25:24.44 ID:HfXIBYiV0
マスターも私と同じ疑問を覚えてくれたらしく、ジトッとした目でつー様を睨みつけます。
彼女もそれに気付いたのか、プルトップを引き抜きながら

(*゚∀゚)『厨房は暑いからねっ。水分補給は大切なのさっ』

言い訳がましくそう言いました。

('A`)『…本当かよ』

(*゚∀゚)『本当さっ』

グラスに注ぐのも面倒になったのか。
直接缶に口をつけて麦酒を流し込む。

(*゚∀゚)『あたしの家に伝わる家系図によればねっ!!
     その戦争の時代もご先祖様はJAPANの【SAITAMA】で鍋振ってたのさっ!!
     天地神明にかけて本当だよっ』

(;'A`)『えっ!? そっちの話?』

マスターが的確な突っ込みを入れました。








( ゚ω゚)『僕の…僕の電子新聞…』



242: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:27:03.30 ID:HfXIBYiV0
(*゚∀゚)『大体ねっ。あたしの家系は車どころか電動機付自転車だって乗れないんだっ!!
      そんな駆動兵器なんか操縦できる筈ないよっ』

胸を張って言う事ではありません。

('A`)『へぇ、今更そんな人間もいるんだな。
    で、ブーン。そいつは後でショボンに修理してもらおう。
    だから…今は諦めろ』

マスターの優しい言葉に、ブーン様もようやく納得がいったのか。
単なる重りと化した電子新聞を、ナップザックに放り込みます。

( ^ω^)『でも、逝き遅れ…じゃなくてつーさんのご先祖様は昔偉い将軍様だったんですおね?
       だったら馬とか乗ってたんじゃないんですかお?』

自分がした事に少しは反省しているのか。
つー様はブーン様の言葉の前半部を綺麗にスルーしました。
こめかみに浮かんだ青筋がヒクヒクしていましたけど。

(*゚∀゚)『うん、だからご先祖様は馬じゃなくて亀に乗ってたらしいよっ!!』

(;'A`)『…亀?』

(*゚∀゚)『うん、亀。ま、昔の話だから真偽はどうだか知らないけどねっ』

言ってつー様は豪快に笑い出しました。



244: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:28:34.69 ID:HfXIBYiV0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ノル゚‐゚ノ。oO(……)

つー様が言っている事は半分が本当。半分が間違いだ。

私が現在向かっている時間。
つまり、彼女から見て過去の時間に生きる先祖は、確かに【SAITAMA】の中華料理店で働いている。

だがしかし。
遺伝子レベルで返答するならば。
あの白い駆動兵器、セパタクロウに搭乗している人物とつー様は全くの無縁ではない。

むしろ、はるか昔。
亀に乗って戦場を駆けていたと言う彼女の遠い先祖の勇猛な血の影響か。
その搭乗者は、姿を見せるだけで敵兵を威圧するほどの戦士だった。

私は、私のコアを為しているシステムが地球上に現れた時代までしか時を遡れない。
だが、もし仮に。
私が自由に時を移動する事が出来たとすれば、
亀の上から剣を振り下ろす女将軍の姿を見る事が出来たのかもしれない。

ノル゚‐゚ノ「何を言っているのだ、私は」

時空移動の影響か。馬鹿な事を考える事が多くなっている。
そう。
そんな事はありえない。
出来る筈がない。

何故なら私には自由などない……運命の奴隷なのだから。



249: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:30:48.54 ID:HfXIBYiV0
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(*゚∀゚)『第一ねっ!! あたしゃ戦争が大嫌いなんだよっ!!』

人類が生活空間を宇宙に移してから、まだ1世紀にもはるかに満たない。
多くの…。
いや。
全ての人々が未だ心の中に戦争…特に【核】への恐怖と憎しみを覚えていても不思議はなかった。

アルコールですっかり顔を赤くしたつー様は、給士を呼び出し何やら命ずる。
それを受けた電子給士は入口から外へ出て、しばらくして肩に暖簾を担いで戻ってきた。
どうやら本日は店じまいらしい。

(*゚∀゚)『そのあたしの先祖が戦争に?
     それも、あの忌まわしい駆動兵器戦争!?
     馬鹿馬鹿しい!! 確かにあの戦争は後の四国統一に必要だったかもしれないよっ!?
     でも、あの戦争で実際に【核】を使ったお馬鹿ちんが居て…。
     そのせいで他大国の【核】開発に拍車が掛かったっていうじゃないかっ!!
     そんなのに自分のご先祖が関わってた日にゃ……。
     あたしゃ、自分の血を全部抜いて麦酒と交換してやるさっ!!』

……。
つー様が言っている事は…全ての事実ではありません。
が、事実の一面であり…多くの人がそう思っている事象の一部です。

すでに彼女は自身の身体に流れる血の大半を麦酒に支配されるほどに飲んでいるのですが、
マスターもこの時ばかりは何も言いませんでした。



253: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:33:31.07 ID:HfXIBYiV0
( *^ω^)『僕も同感だお!!』

つー様に賛同の声を上げたのはブーン様です。
頬が赤らんでいる原因は、つー様が片手に持っているウォッカの瓶と
それによって果汁100%では無くなったオレンジジュースである事は間違いないでしょう。

('A`)『へぇ。ブーンがそんな事言うとは思わなかったな』

唯一体内にアルコールを貯蓄していないマスターが言いました。

( *^ω^)『そりゃ…僕は家族や先祖が【核】に殺された訳じゃないし、
       地球の恩恵なんて物も知らないお。
       でも…でも…僕の心には【核】への憎しみが強く存在しているんだお!!』

その通りかもしれません。
ブーン様の肉体を形作る遺伝子は謂わば【核に呪われた遺伝子】。
全てを知っていても、いないとしても。
本能的に【核】を憎んでいたとしても不思議はないのです。

(#^ω^)『そう言うドクオはどうなんだお!? 【核】が…憎くないのかお!?』

(;'A`)『え? 俺?』

突然話を振られたマスターは明らかに動揺しています。
しどろもどろになりながら口を開きました。

(;'A`)『なんつーか…俺は実際に【核】の怖さを見たわけじゃねーし、
     今の生活も気に入ってるからな。でも…』

でも。でも…。



257: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:36:54.35 ID:HfXIBYiV0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ノル゚‐゚ノ「……!!」

いけない。
この先は聞きたくない。

何度と無く見た景色。
幾度と無く聞いた台詞。

私は必死に記憶回路を閉じようとする。

エラー。回路切断に失敗しました。
エラー。回路切断に失敗しました。
エラー。回路切断に失敗しました。

記憶の奔流は止まらない。
磁気嵐の如く勢いで私の頭脳に流れ込んでくる。

         (;'A`)『でも、でも…』

何故マスターはこんな話を私にしたのだろう。
何故私の頭脳はこんな話を消去してくれないのだろう。
何故マスターの言葉の一つ一つを私は消し去れないのだろう。
何故マスターの面影は私自身を滅ぼす事を許してくれないのだろう。

お願いします、マスター。
その先を言わないで下さい。
私の中にある何かが壊れて…。



261: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:38:23.87 ID:HfXIBYiV0











(;'A`)『でも、でも…やっぱり…俺も【核】は嫌いだ。
          なんつーか…うん、理屈じゃなくて本能的に好きになれねーな。
          【核】を発明した人や、【核】に罪はないんだろうけどよ。
          過去の惨劇を知りながら戦争に【核】を持ち込んだヤツ。
          発明に手を貸したヤツは…何千回殺しても飽き足りねーと思うよ』













267: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:42:47.61 ID:HfXIBYiV0
ーーーーー記憶回路を遮断しました。記憶回路を遮断しました。

マスターがその言葉を言い終えると同時に、記憶回路は切断された。

ノル ‐ ノ「……」

分かっている。
これも規定事項。
あの日。
あの時間。
あの場所で。
マスターは必ずあの台詞を言うのだ。

この時私は未だ誕生せず、ご親友との思い出話としてだけ語られるこの事実。
受け入れなければならない。
そして。
忘れてはならない。
忘れる事は出来ない。

そう。
これも全て…。
一欠けらの贖罪の為の…規定事項なのだから。

アンドロイドである私が。
本来、罪の意識を感じる事は無い。

ノル゚‐゚ノ「でも…でも…でもっ!! どうして…こんなに…こんなにっ!!」

胸の中のコアが握りつぶされるように痛い。苦しい。冷たい。重い。
私は少しでもこの原因不明の症状から逃れようと、己の両肩を抱きかかえ固く瞳を閉じた。



269: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:44:44.65 ID:HfXIBYiV0

ノル ‐ ノ「あと…どれ位で…」

再度私は呟く。
正常な時の流れと無関係なこの空間。
『どれ位で』目的地に到着するのか、も何も無い物だ。

だがしかし。
今は無性に誰かと話したかった。
すぐ側に誰かに居て欲しかった。

例え…それがマスターとは違う。
別の誰かだとしても。

ノル ‐ ノ「早く…早く誰かと…」

早くしないと、暴走状態にあると認識されるコアの痛みに押し潰されそうだった。
もし…押し潰されたら。
諦めたらどうなるのか?
私は再度レールを外れたと見なされ、再び記憶回路の中のマスターを失う痛みに襲われるのだろう。

痛みから逃れる為、別の痛みを背負う。
そして私は確実な逃亡方法。
つまり……自らの廃棄を選ぶ事は出来ない。

どの道、私に選択肢は無いのだ。
ならば…私はマスターとの日々を選ぶ。
例え血塗られた道であろうとも。
私は…。私は髪を撫でながら紅茶の味を褒めてくれた、あの大きな掌の温もりを選ぶ。



272: ◆COOK.INu.. :2007/09/26(水) 00:46:04.33 ID:HfXIBYiV0
ノル゚‐゚ノ「……」

電子頭脳が再びスリープモードを推奨してきた。

ノル゚‐゚ノ。oO(少し…眠ろう)

胸の中で暴れているコアの痛み。
コアを少しでも休ませる為、スリープモードに入るのは良い判断だ。

私は胎児のように膝を抱え丸くなる。

この時空移動があと何時間(?)で終わるのか。
私には分からない。

が。何度かは目覚め、記憶の中を彷徨い。
目的地が近づけば…それを通り過ぎる事無く完全に覚醒するのでしょう。

何故ならば、それが運命。
それが規定事項。

ノル゚‐゚ノ。oO(おやすみなさいませ、マスター)

私は呟き目を閉じる。
体内のモーターが静かに回転数を落とし、私はゆっくりとスリープモードについた。
回路が切れる直前に。
寝相が悪いマスターの毛布を掛けなおしている記憶がすっと流れ込んできて。



何故だか私はくすりと笑った。



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