(´・ω・`)ショボンが悲しい夏を振りかえるようです

5: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:42:18.27 ID:JUWRz7gi0

【希望編】

あれは6年前、僕が高校一年生のときだった。
その頃の僕はマジメで優秀な生徒――を演じていた。そうしていないと医者である父からは怒鳴られるし、お嬢様育ちの母からは泣き叫ばれるから。

そんな僕の毎日は、勉強と習い事ばかり。勉強は嫌いではないが、そのとき習わされていたピアノは大嫌いだった。
英才教育とは名ばかりの、母の自己満足。その為に僕はピアノを3歳のときからやっていた。
当然13年間も続けていれば、それなりのものは弾けるようになり、少々名のあるコンクールでの入賞も度々あった。
すべてを親に決められた生活。当然ストレスも半端ではなかった。しかし、そんな生活の中にも僕を支えてくれるものはあった。

――6年前

うだるような暑さの中、僕は、毎朝決められた登校時間より二十分早く学校へ行く。
僕の学校はバリバリの進学校なので、みんなそれくらいの時間に登校しては、黙々と勉強をしているんだ。
しかし、その中にもやっぱり一人や二人は例外もいる。



6: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:44:22.15 ID:JUWRz7gi0

(; ゚∀゚) 「遅刻ぎりぎりセーフのエブリデイ!!」

それがこの男、長岡ジョルジュであった。
今、本人が言ったとおり、ジョルジュは毎日遅刻ぎりぎりで登校してきていた。そんな彼に冷ややかな視線を浴びせるクラスメイトは多い。
しかし、それでもジョルジュがいじめられたりすることはなかった。その理由は、至って簡単である。

(´・ω・`) 「やあ、ジョルジュ。今日も騒々しいね」

( ゚∀゚) 「おっす! ショボン! そこは賑やかと言ってほしいな!」

僕と友達であるから。
成績は常にトップ、スポーツも万能で、ピアノも優秀。そしてなにより、有名な外科医である父。それらの肩書きが、自然と僕をクラスの中心人物へとのし上げていった。
しかし、僕は正直そのポジションが嫌いであった。
僕についてくるブランドばかりを気にして、近づいてくる友達。反吐がでる。
それに対して、ジョルジュは本当の僕を見てくれている、と思う。そう思えたから、ジョルジュとは仲良くやっていた。



8: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:46:23.73 ID:JUWRz7gi0

放課後になると、この学校の8割の生徒は塾へと向かう。残りの2割の生徒は部活へと向かう。部活に入っている生徒のほうが少ないという珍しい学校だった。
僕は当然前者で、ジョルジュは少数派の後者であった。

(´・ω・`) 「じゃあ僕は塾があるから先に帰るよ」

( ゚∀゚) 「ああ、俺は今日もサッカー部員の勧誘だ」

(´・ω・`) 「いつも大変だね。健闘を祈るよ」

( ゚∀゚) 「お前が入部してくれれば楽しくなるんだけどなー」

(´・ω・`) 「フフ、僕もできればそうしたいんだけどね。それじゃあバイバイ」

ジョルジュが入部しているサッカー部は、他の部活よりも圧倒的に部員が少なかった。その数3名。ジョルジュと、二年の先輩と、三年の先輩だけだ。
そのため、一年のジョルジュはいつも部員勧誘のビラ配りをしていた。そのほとんどは、ゴミ箱いきであったけど。
しかし、ある日ジョルジュが興奮気味に僕のところへやってきた。



10: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:48:24.79 ID:JUWRz7gi0

(*゚∀゚) 「くぁwせえdrtgふじこlp;」

(´・ω・`;) 「まず落ち着こうか」

興奮しすぎて、ものすごい早口のジョルジュ。よく聞いてみると、新入部員が入ったらしい。といってもマネージャーで、一年C組のしぃ、という女の子であった。

(´・ω・`) (一年C組……。同じクラスじゃないか)

そのときは大して気にもとめなかった僕だったが、次の日早速、僕はしぃの顔を知ることになる。

今日もいつも通りに二十分前に登校し、自分の席に着く。そしていつも通りジョルジュが来るまで、ボーっとしてる。しかし、そのときいつも通りではないことが起きた。
視線を感じる。それもものすごく凝視されている感じだ。僕は、恐る恐る視線の感じる方向へと目を向けた。

(*゚ー゚) 「……」

(´・ω・`*) (可愛い……)



15: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:50:30.71 ID:JUWRz7gi0

かなり離れた席から僕を見ていた。
しかし、そんなことはどうでもいいくらいにその子は可愛かった。
透き通るような白い肌。白い頬がほんのりと赤くなっているところも良い。目もパッチリしていて、小柄で――
なにもかもが僕のストライクゾーンであった。
なぜ、今まで気づかなかったのだろう。こんな可愛い子の存在に。しかし、その謎はすぐに解けた。

彼女が座っている席は、いつも空席の席であった。
登校拒否、ではない。入学時に担任が、長期の入院と説明していた。
きっと最近退院したのだろう――僕がそんなことを考えながら、彼女のほうを見ていると、不思議なことに彼女が段々と大きく――

(*゚ー゚) 「はじめまして、ショボン君」

(´゜ω゜`;) 「わっ!!」

いきなりのことに僕は慌ててしまった。
あまり女の子に免疫のない僕にとって、女の子から話しかけられることはもちろん、こんな可愛い子から話しかけらることなど、一大事であった。
しかし、僕はすぐに冷静になる。なぜ、この子は僕の名前を知っているんだ。今まで学校に来ていなかったのに。もしかして、僕のことを――



17: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:53:02.87 ID:JUWRz7gi0

(*゚ー゚) 「ジョルジュ君から話は聞いてるよ〜。この度、サッカー部のマネージャーになった、椎名しぃです。よろしくね」

(´・ω・`;) 「ああ、よろしく」

期待はいつも外れるものだ。なんてことはない、彼女が新しくサッカー部に入部したマネージャーであった。
しぃが言ったとおり、僕のことはジョルジュから聞いたから知っていたんだろう。まぁ、それでも少し嬉しいけど。
しかし、それからの学校生活は以前よりも少し楽しくなった。
学校へ行けば、ジョルジュとしぃがいる。

( ゚∀゚) 「よお! ショボン! 例のDVD……ウワップ」

(´・ω・`;) 「その話はやめてくれ!しぃに聞かれたら……」

(´ ・ω・`)

(*゚ー゚) 「……」

(´・ω・`) (オワタ\(^0^)/)

(*゚ー゚) 「なんの話〜? いやらしいことでしょ〜」

( ゚∀゚) 「YES! Iamおっぱい!」

(´・ω・`) (*゚ー゚) 「あははは」

以前ではあり得なかった話題もどんどん話せるようになっていた。
女の子が一人いるだけで、全く雰囲気も変わってくる。いや、女の子だからではない。しぃだから、といったほうが正確だろう。僕は段々としぃに惚れこんでいった。
しかし、そんな楽しい時間も放課後になれば一変した。



19: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:55:16.32 ID:JUWRz7gi0

( ゚∀゚) 「じゃあ、サッカー部の練習いってくるわー」

(*゚ー゚) 「じゃあね、ショボン君」

(´・ω・`;) 「ばいばい」

ジョルジュとしぃは部活へ。僕は塾か習い事へ。

(´・ω・`) (僕だけ蚊帳の外、か……)

塾や習い事をさぼろうと思ったことは何度あっただろう。しかし、僕にはその勇気がなかった。父が怖かったのだ。
ましてや、ピアノに関しては全国コンクールの直前で、とてもさぼろうと思うことができなかった。

ジョルジュとしぃが段々と仲良くなってきているのが、日々の生活で見てとれる。周りから見れば、付き合っているようにも見えるだろう。
だが、付き合ってはいないらしい。ジョルジュが以前、しぃがメールで「好きな人がいる」と送ってきたことがあったそうだ。
でも、僕はジョルジュならしぃと付き合っても全然問題はなかった。むしろ、幸せな気分になれるだろう、とまで思っていた。



21: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 21:58:21.13 ID:JUWRz7gi0

それから2週間経ち、ピアノの全国コンクールの前日となった。
家族、同級生、先生、ピアノのコーチからのどんな励ましも僕にはなんの価値もなかった。
レッスンが終わり、家に帰っても、ただただ二人からのメールを待った。

(´・ω・`) 「まだ来ない……」

携帯の時計を見ると、もう11時になっていた。
明日のことを考えると、そろそろ寝なければならない。しかし、そんな心配より二人からのメールがくるかどうかが重要だった。

(´・ω・`) (一応、コンクールのことは言ってあったんだけどなぁ)

もうそろそろ12時になる、という時に、僕も諦めて寝ようとした。そのときになってやっと携帯からメールの受信音が鳴り響いた。


07/04 23:47

From 長岡ジョルジュ
Sub 明日のコンクール

頑張れよ! 俺もかげながら応援してるぜ!
コンクール終わったら、しぃも入れて三人でパーっと打ち上げでもしよう!


嬉しかった。
来ると思ってはいたけど、実際メールを見るとすごい嬉しい。一瞬泣きそうになってしまった。
僕は急いで、返信する。



22: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:00:38.09 ID:JUWRz7gi0

(´・ω・`) (ありがとう。打ち上げ楽しみにしてるよ、と。送信)

僕がジョルジュに返信をしてから一分後、再び携帯の受信音が鳴り響いた。
ジョルジュにしては、早すぎるな、と疑問に思いながら携帯を開いた。


07/04 23:52

From 椎名しぃ
Sub 件名なし

ショボン君明日はコンクールだね(・∀・*)
プレッシャーとか大変だと思うけど、ショボン君なら大丈夫だよ(0^v^0)
それじゃぁおやすみなさい(−。−)zzz


(´・ω・`*) (ktkr!!!)

僕はものすごく有頂天になった。しぃとはいつもメールしているが、このメールは格別な感じがした。
有頂天になりすぎて、僕は携帯を握ったまま眠りに落ちてしまった。それからすぐに鳴った受信音には気づかずに。



24: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:03:06.74 ID:JUWRz7gi0

次の日、目が覚めて目覚まし時計の時間を見たらギリギリの時間だった。
僕は急いで、朝の支度をして、家を出る準備をした。途中で携帯を見たが、一晩握り締めていたせいで電池切れしていた。
家をでて、駅へと向かう。そこから約一時間電車に揺られて、目的の駅へ。そこからバスに三十分乗り、会場へと着く。

会場に着いたときには、既に開会式の直前であった。
急いで控え室で着替えをすませ、演奏のイメージトレーニングに入る。いまいち集中できない。

(´・ω・`;) (僕の出番は5番目か……)

早い。今の僕には早すぎる。全く準備もできていないし、なにより心が落ち着いていない。
落ち着け、落ち着け、と僕は自分にいい聞かせる。このままでは本番でいい演奏ができなくなってしまう。僕はかなり焦っていた。

そうこうしているうちに控え室の扉が叩かれる。
どうやら僕の出番らしい。さきほどから僕を呼ぶ声がする。
だけど、もうちょっと待ってくれ。まだ、準備ができていないんだ。頼むからもうちょっとだけ――



25: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:05:09.96 ID:JUWRz7gi0

(´‐ω‐`) (……)

それはかつてないほどひどい演奏だった。まるで自分の指が自分の意思とはうらはらに鍵盤を叩き続けているようだった。
僕は悔しくて、涙を流した。
僕が今まで頑張ってきたものはなんだったんだろう。ジョルジュとしぃとの時間を削ってまで、練習してきたものはなんだったんだろう。

結局答えは出なかった。
トボトボと家路につく。きっと家に帰れば、両親からは怒鳴られ飯抜きにされることだろう。ピアノのコーチからは見限られてしまっただろう。家に帰るのがとても怖かった。

地元の駅でおりて、ゆっくりと家へ向かう。
皮肉なことに、家は駅から近くて、あっという間に家の門の前まで来てしまった。
僕は無駄だと知りながらも、インターホンを鳴らさないように、音をたてないように気をつけて玄関をあける。
そしてゆっくりと顔をあげると――そこには鬼の形相をした父がいた。

(`・ω・´) 「ショボン、結果はもう知っている」

(´・ω・`) 「情報が早いですね」

(`・ω・´) 「コーチの先生から聞いた。そして先生はもう家には来ない、と言っていた」

(´・ω・`) 「そうですか」

(`・ω・´) 「……どうやらショボンには練習量が足りなかったようだな」

(´・ω・`) 「それでどうされるんですか?」

(`・ω・´) 「新しいコーチを雇った。毎日塾の後に5時間の練習だ。わかったな」



28: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:08:43.48 ID:JUWRz7gi0

僕の我慢は限界まできていた。一回もコンクールを見に来ないくせに。僕がどれだけ努力をしたか知らないくせに。
僕はもうピアノなんてやりたくない!
心の中でそう叫んだつもりだったのだが、自然に言葉としてでていたらしい。父の顔が激昂しているのがわかった。

(`・ω・´♯) 「いい加減にしなさい、ショボン! お前は誰のお陰で今の生活ができていると思っているんだ!」

(♯´・ω・`) 「僕が望んで今の生活をしているわけじゃない!」

(`・ω・´♯) 「なんだと! じゃあお前は今の生活に満足していないというのか!」

(♯´・ω・`) 「ええ、してませんよ! 勉強もピアノもお金もすべて糞くらえだ!」

僕はそう叫ぶと、強引に父を押しのけて、一階にある自分の部屋へと閉じこもった。
遠くからなにか父の叫び声が聞こえたが、すべて無視していた。

(´・ω・`) (初めて父さんに口答えしたな……)

初めての親子喧嘩に、僕の心臓は未だにドクドクいっている。やっぱり僕って度胸ないんだね。
きっと明日からも結局、勉強とピアノをひたすらやるのだろう。僕は自分の未来に絶望して、枕を濡らしていた。

どのくらい時間が経ったのだろう、僕はいつの間にか寝ていたらしい。
目覚まし時計を見ると、もう夜の8時になっていた。



30: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:11:39.58 ID:JUWRz7gi0

(´・ω・`) (なんで目が覚めたかなぁ)

僕は疑問に思いつつ、トイレに行こうと起き上がった。
と、そこで携帯が光っているのに気づいた。部屋に入るとき、つい習慣で充電していたのだ。
僕は携帯を充電器から外して、開く。

(´・ω・`;) 「メール20件……」

そこにはジョルジュとしぃからおびただしい量のメールが届いていた。しかもどれも件名のみだ。
一番新しいものは、つい2分前に届いたばかりだった。僕は、新しいものから順に10件ほど開いていった。

(´・ω・`) (窓!……気づいて! ……ショボン!! ……しぃだよ! ……あけろー! ……おっぱい!)

どのメールも超短文で、要領を得ていなかった。
しかし、そのひとつひとつを繋げていくと――

(´・ω・`) (しぃだよ! おっぱい! 気づいて! ショボン! 窓あけろー! )

(´・ω・`;) (しぃだよ! おっぱい!ってちがぁぁぁぁぁぁう!!!)

僕は急いで、部屋の窓を開けた。
するとやっぱりそこにはジョルジュとしぃがいた。



34: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 22:14:53.69 ID:JUWRz7gi0

(´・ω・`;) 「なにしてるんだよ。こんなところで」

( ゚∀゚) 「おいおい、迎えにきてやったんだぞ。感謝しろ」

(*゚ー゚) 「そうだよ〜。昨日ジョルジュ君から打ち上げやるって聞かなかった〜?」

(´・ω・`) 「あっ」

僕は急いで、昨日のメールを見直す。そこには確かにジョルジュからの打ち上げの誘いと、僕の了承した送信メールがあった。
しかし、昨日だって僕はそれを本気にしていなかった。まさか本当にやろうと思っていたなんて。
僕は嬉しくて、思わず顔が火照るのがわかった。二人にばれないように下を向いていたけど。

(*゚ー゚) 「じゃぁ行こうか〜」

(´・ω・`) 「え、でも……」

( ゚∀゚) 「だいじょーぶだって! さっさと行くぞ! 駅で待ってるから急いで着替えろ! なるべく大人っぽい格好でな!」

そう言うと、ジョルジュとしぃは窓を閉めて行ってしまった。
残された僕はどうしようか、と考える。
今から家を出たりして、もし父にばれたら大変なことになるだろう。飯抜きじゃ済まされないかもしれない。
しかし、今ジョルジュたちについていったら――とても楽しそうな気がする。
僕は無意識のうちに着替え始めていた。滅多にきることのない私服に。
そして、音を立てないように玄関に靴を取りにいく。そして、部屋にもどると窓を開けて――僕は家から飛び出した。



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