(´・ω・`)ショボンが悲しい夏を振りかえるようです

148: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:34:30.55 ID:JUWRz7gi0

川 ゚ -゚) 「君たちはあと2週間で――すべてを完成させなければいけなくなった」

クーさんはそう言うと、手にもっている紙切れを僕に渡した。
僕はそれを受け取り、ゆっくりと声にだして読む。

(´・ω・`) 「VIP市祭り……祭りを盛り上げてくれるバンド募集中……先着3組まで……実施日8月8日」

僕は音楽室にあるカレンダーを見た。7月25日。
僕はここで、冷静に考える。まだオリジナル曲はできていない、そして当然それを合わせることもしてない、というか無理。
つまり残り二週間で、曲を完成させ、かつ全部覚えて演奏できるようにしなくちゃいけない、って……

(´・ω・`;) 「えぇぇぇぇぇぇ! それは無理でしょ!!!」

川 ゚ -゚) 「私の広辞苑から不可能の文字は消してしまいました」

(*゚ー゚) 「先着3組までって……」

川 ゚ -゚) 「さきほど連絡を入れたら、快諾していただきました」

( ゚∀゚) 「じゃぁやるしかねぇな」

川 ゚ -゚) 「さすがジョルジュ。話がわかる」

(´・ω・`;) (最近ツッコミのポジションが僕になってきてるよ)

こうして僕らはVIP市祭りの盛り上げ役として出場することになってしまった。



154: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:37:30.86 ID:JUWRz7gi0

それからの日々は地獄だった。
毎日練習、練習、練習。作詞、作曲をしてない僕でさえ辛かったのに、作詞のしぃ、なにより作曲のジョルジュはどれだけ大変だっただろう。
夏休みに入ってから、二日目にしぃの作詞完成。五日目にジョルジュの作曲完成、と忙しいスケジュールでことは進んでいった。
しぃの作った歌詞は四人の仲間を歌うものだった。恐らく、僕らを模して作ったのだろう。心に染みる歌詞だ。
一方の作曲は――

川 ゚ -゚) 「これは……素晴らしい」

(*゚ー゚) 「信じられない……」

(´・ω・`*) 「すごいよ、ジョルジュ!」

( ゚∀゚) 「そうか〜? そんなに良かったか〜?」

ピアノの静かな前奏から始まり、そこにエレキギターの旋律が重なり、ドラムも静かに入っていく。
そこでソプラノから入るボーカル。そして、メロディはその状態を保っていき、サビに近づくにつれ徐々にテンションをあがていく。
そして、サビに入った瞬間――爆発した。それは、軽く人間の悲壮が入ったような音楽で、前半とは対象的だ。
例えるならば、前半は【希望】でサビは【絶望】。しかし、最後にもやがて新たな希望がさしこみ――そこで音楽は止んだ。



158: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:40:13.93 ID:JUWRz7gi0

聞き終わった瞬間の僕は、鳥肌たちまくりで、まさに名曲と巡り合った感じがした。
それは他の二人も同じようで――

(*゚ー゚) 「これはいけそうだね!」

川 ゚ -゚) 「ああ、これは是非歌ってみたい」

(´・ω・`) 「じゃあさっそく練習だ!」


その日の練習はかつてないほど盛り上がった。僕も指が壊れるんじゃないかと思うくらい弾き続けた。
練習が終わったのは、夜の八時くらいで、いつも通りみんなで一緒に帰った。今日の感想で盛り上がりながら。

( ゚∀゚) 「いや〜、我ながら本当いい曲だわ〜。おっと、俺こっちだから、じゃあの」

川 ゚ -゚) 「私も早く祭りで演奏したいと思っている。私もここでさらばだ。流れ的に、じゃあの」

ジョルジュとクーは同じところで曲がっていってしまった。僕らは二人に手をふって、そのまま歩き続ける。
気づけば、このシュチュエーション。しぃと二人きりだった。



163: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:45:38.25 ID:JUWRz7gi0

(*゚ー゚) 「……」

(´・ω・`;) 「……」

気まずい。非常に気まずい。なにを話していいかわからない。
しかし、近くでみるとやっぱりしぃは可愛い。それが余計に喋りにくくさせる。
そこで突然しぃが口を開いた。

(*゚ー゚) 「ねぇ、夏の夜ってなんか怖いよね」

(´・ω・`) 「そ、そう? 僕は別に思わないけど」

そこでしまった、と思った。
せっかくしぃが話題を振ってくれたのに、一行で終わらせてしまう。僕の馬鹿。
しかし、しぃは構わず続ける。

(*゚ー゚) 「私、今すごく怖い。だから……手握ってていい?」

え? 今なんて言いました? つまり、そのあの、フラグ?
とりあえずチャンスは掴まなきゃ、と僕は急いで返事をする。



166: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:47:42.71 ID:JUWRz7gi0

(´・ω・`;) 「 うん、いいよ」

(*゚ー゚) 「ありがとー」

しぃはそう言うと、そっと僕の手を握った。僕もその手を握り返す。
冷たい。そして小さい。それがなんか気持ちいい。対する僕の手はすごく熱くて、汗ばんでいた。

(*゚ー゚) 「……」

(´・ω・`*) 「……」

信じられないような状況。まるで夢のようだ。
僕はこの時間がずっと続いてほしい、と願った。しかし、やっぱり時の流れは残酷で――とうとう分かれ道まで来てしまった。
僕はそこで、そっと手を離す。そして、笑顔でしぃに言う。



168: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:50:43.85 ID:JUWRz7gi0

(´・ω・`*) 「祭りの演奏、頑張ろうね。バイバイ」

(*゚ー゚) 「うん、ショボンと一緒に帰れて、怖くなくてすんだよ。ありがとう。バイバイ」

そこで、僕はしぃに手を振ってダッシュで帰った。

(´・ω・`;) 「家まで送ればよかった……」

時すでに遅し。僕がそれに気づいたのは、自分の部屋に戻ってからだった。
さきほどまでの時間を思い返すと、ついついにやけてしまう。僕は習慣どおり携帯を充電器に接続して――新着メールがきている。
僕は急いで携帯を開いた。

(´・ω・`) 「新着2件……。ジョルジュとしぃからだ」

お楽しみはあとに残しておいて、まずはジョルジュのメールから見よう。
そのメールに件名はなく、なにか異様な雰囲気をもっていた。


07/31 21:24

From 長岡ジョルジュ
Sub 件名なし

ショボン、実は俺……


そこから長い空白。何回も下へスクロールするが、なかなか本文がでてこない。



172: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:52:45.99 ID:JUWRz7gi0

(´・ω・`;) 「一体なんなんだ……」

僕が汗をかくほど下へスクロールしたところで、やっと本文がでてきた。
僕はその内容を見て――驚いた。


ショボン、実は俺……














クーさんと付き合うことになったぜぇぇぇえええええええい! いやっほっううう!次回もVIPクオリティ!


(´・ω・`;) 「mjd?」



176: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:55:17.89 ID:JUWRz7gi0

答える人などいないのに、僕はついつい問いかけてしまった。それほど驚きの報告だった。
ジョルジュがクーさんに気があるのはわかっていた。しかし、クーさんもジョルジュを好きだった、いや、まず彼氏がいない、ということが信じられなかった。
僕は焦ってうまく動かない指を精一杯駆使して、ジョルジュに返信をする。

(´・ω・`) (おめでとう! ちなみにどっちから凸したの? ……よし、送信)


07/31 21:35

From 長岡ジョルジュ
Sub それはもちろん

俺に決まってるだろーが!!!
クーのキャラを考えろ!!


予想通りの返信に、僕は少し安心したが、たった一回のやりとりで「クーさん」から「クー」に変わっていることが、ちょっとうざくてちょっと可笑しかった。



177: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/19(火) 23:57:54.95 ID:JUWRz7gi0

(´・ω・`) (明日から少しやりにくくなるかもな……)

僕はそんなことを考えながら、ジョルジュに適当に返信する。
すると一分とたたずにメールが返ってきた。


07/31 21:40

From 長岡ジョルジュ
Sub お前も

頑張れよ(´▽`)
A,B,C!B,C!C,C,C!


(´・ω・`*) (こいつわかっていたのか……)

僕は自然と頬が赤くなるのがわかった。やっぱり僕はしぃが好きなんだろう。
そういえば、しぃからもメールがきてたはずだ。僕は急いで、メールを確認した。
そこには――

(´・ω・`) 「……」

(´゜ω゜`) 「くぁzwせrtgyhぶじこlp;」



183: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:00:00.93 ID:AYIjeT/n0

07/31 21:23

From 椎名しぃ
Sub 件名なし

私気づいたんだ。
さっきショボン君と一緒に帰ってすごく安心した。
私多分、いや絶対……ショボン君のことが好き。
私と付き合ってくれませんか?


(´・ω・`;) (落ち着け、これは孔明の罠だ)

僕はあまりにタイミングの良すぎるメールに焦った。
一旦冷静に考えよう、そうしよう。

(´・ω・`;) (こうゆうときは素数を数えて落ち着くんだ。A,B,Cってこれアルファベットだぁぁぁぁぁぁ)

僕は多分かなり舞い上がってるんだと思う。今すぐにOKの返事をしたくてたまらなかった。
しかし、あまりにジョルジュとのタイミングが良すぎる。これは一体どうゆうことなんだろう。
僕は考え――るのをやめて、神速でメールを打ち、返信をした。



189: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:02:46.64 ID:AYIjeT/n0

それから十分ほど待っただろうか、携帯が軽やかに鳴り響いた。
その十分が一時間ほどに感じたような気がする。僕はそれほど返信を待ちわびていたんだろう。
すぐに携帯を取り出し、手を震わせながらメールを確認した。

07/31 22:00

From 椎名しぃ
Sub ありがとう!

じゃぁこれから「ショボン」って呼ぶね!
ショボンは私のことなんて呼びたい?

僕はもちろんOKした。ああ、当たり前だろう。
OKしたので、このメールの内容はやや予想通りの返信だったが、やっぱりすごく嬉しかった。

(´・ω・`*) (やっぱり今まで通り、しぃ。いや、しぃちゃん、しぃぽん、C−R75……)

僕は色々迷ったあげく、やっぱり現状の呼び方をすることにした。
呼び方をいきなり変えるのは抵抗あったし、ちゃん付けは一歩遠くなるような感じがした。



192: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:05:23.21 ID:AYIjeT/n0
僕は、それからずーっとしぃとのメールを楽しんだ。
いつもと内容は変わらないはずなのに、楽しさも嬉しさも全然違った。
気づけば全部で100件くらいしたんじゃないかと思う。ジョルジュに返信も報告もするのを忘れていたくらいだから、かなりうつつをぬかしていたんだと思う。
しぃからメールを終わらせたときには、既に三時になっていた。
僕は明日からの生活に淡い期待を抱き、急速に眠りに落ちていった。その日は疲れていたせいか、全く夢は見なかった。



199: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:07:54.12 ID:AYIjeT/n0

高校一年生の夏休み、気づけば大事な仲間たちが出来ていた。
それを得るために捨てたもの。
塾、勉強、親、才能、それは他人から見ればある程度羨まれるものだろう。
しかし、僕はそれらを引き換えに得たものに――全く不足は感じていなかった。
むしろそれを得たことによって、以前は感じられなかった、充実した日々を送れるようになっていた。
そして今日は「充実」だけでなく「最高」の日となるだろう。そう、今日の日付は――八月八日だ。

(´・ω・`) (まさか市の祭りごときで市民ホールを使わせてもらえるとは思わなかったよ)

僕は早朝から、今日のライブ会場である市民ホールを視察にきていた。
祭りといえば、屋外で二段矢倉を囲みながら踊りを踊ったり、たくさんの出店を人の流れに従いながら見て回ったり、というイメージしかなかった。
なので、果たしてどこでライブをするのか疑問に思っていた。ましてや僕のピアノなんて屋内じゃなきゃ音も響かない。
その疑問を解決するためにここまで足を運んだのだが、この市民ホール思ったより大きい。



204: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:10:28.20 ID:AYIjeT/n0

(´・ω・`;) (これ400人は入れるんじゃないか?)

このライブ企画自体、意外と目玉なのかもしれない。少なくとも張り紙の量からして期待はされているようだった。

僕はしばらくぼんやりと市民ホールを見上げていた。
視察のために来たのもあるが、流石の僕もそれだけの用事でわざわざ早起きしたりしない。
もうひとつの用事、それは待ち人だ。相手がわざわざ僕を朝っぱらから呼び出したのだ。
そして今、指定の時間より三十分遅れて、悪びれる様子もなく手を振りながらやってきた。
それはもちろん愛しのしぃ――だったら許せたのに。

( ゚∀゚) 「わりぃな、ショボン! ちょっと寝坊しちまった!」

(´・ω・`) 「ぶち殺すぞ」

( ゚∀゚) つ[] 「粒粒オレンジ100%」

(´・ω・`*) 「それは予想してなかったわ」



211: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:12:46.54 ID:AYIjeT/n0

心の広い僕はジュース一本で、ジョルジュの大遅刻を許してやった。
まあ流石に僕の大好きな粒粒オレンジ100%を出されたら、これは許さざるをえない。
ジョルジュは僕にジュースを渡すと、「少し散歩でもしよう」と言って歩き出した。
僕もプルタブに指をかけながら、ゆっくりとジョルジュの横を歩く。


( ゚∀゚) 「……」

(´・ω・`) 「……」

歩き出してから、すでに30分経っていた。
その間ジョルジュは全くの無言で、僕はずっとジュースを飲んでいた。あまりに気まずいので、ジュースが無くなっても飲んでるふりをしていた。
そしてそろそろ40分経過するぞー、と言うところで、ジョルジュがいきなり僕に問いかけてきた。

( ゚∀゚) 「なあ、ショボン。人の感情がわかることってあるか?」

(´・ω・`) 「え、ちょっと待って……」



213: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/20(水) 00:15:03.01 ID:AYIjeT/n0

僕はなにも答えを用意していなかったので、あたかもジュースを今飲み終わってかのようにふるまい、ゴミ箱へ捨てることで時間を稼いだ。
しかし、ジョルジュもおかしなことを聞いてくる。まさかこれのために呼び出したのではあるまい。
僕は考えながら、ジョルジュの顔を見る。その表情は真剣そのものだ。僕も真剣に返事をしたほうがいいのだろう。

(´・ω・`) 「今この人は怒っているだろうな、とか、今この人は悲しいだろうな、とか表情とか雰囲気でなんとなくわかる時もある」

( ゚∀゚) 「……」

ジョルジュは僕の答えを聞くと、考え込むように手を額にあてはじめて、近くのベンチに座った。僕も慌てて隣りに腰を下ろす。
ジョルジュは手を額に当てたまま、僕のほうをゆっくりと向き、更におかしなことを口にした。

( ゚∀゚) 「表情とか雰囲気を一切無視して、その人の近くにいるだけで感情がわかったりすることはあるか?」

(´・ω・`;) 「そんなことあるわけないじゃないか、そんなことできたら超能力者だよ」



戻る次のページ