(´・ω・`)ショボンが悲しい夏を振りかえるようです

4: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:21:27.51 ID:DXpNuSU90

【絶望編】

祭りが終わってからの三日間、「KAKA」のメンバーは休養をとることにした。
それは僕とジョルジュが提案したんだけど、もちろん下心あってのことだ。
この三日間を使って――それぞれの彼女とデートをするのだ。
そんなことを知ってか知らずか、クーさんとしぃも賛成してくれた。
久しぶりの休みを手に入れた僕は、初日の休みをゆっくりと休養に使い、二日目にしぃと映画を見に行くことにした。しぃとの初デートだ。

(´・ω・`) 「やば、予定よりかなり早く来ちゃった」

僕としぃはVIP駅で10時に待ち合わせの約束をしていた。
しかし、僕の腕時計を見ると、まだ9時丁度であった。

(´・ω・`) 「なんかすることないかな……」



7: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:23:30.51 ID:DXpNuSU90

僕は適当に周りを見渡す。
駅前だけあって色々なものがある。コンビニ、本屋、カラオケ。

(´・ω・`) (ああ、そういえば)

VIP駅前には名物があることを思い出した。
それはホームレスによる露店街。通称「お宝通り」
「お宝通り」と呼ばれるようになったのは、その名の通りお宝がたくさんあるからだ。
ホームレスのおじさん達がどこから拾ってきたかわからないようなものを、格安で売ってくれる。
その中には、腕時計やアクセサリー、中にはどこから手に入れたのか、ブランドもののコーナーもあった。
そのお買い得な商品と、露店を開いているおじさん達のきさくで明るい性格。「お宝通り」が人気スポットになるのも当然のことだった。

(´・ω・`) (警察からはさいさん注意されてるみたいだけどね……ん?)



9: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:25:34.38 ID:DXpNuSU90

パッと「お宝通り」を見渡したときに、まずその店が目に入った。
周りの露店と比べると、一際小さく、みすぼらしく見える店の構え。そして、その店にマッチしている、哀愁の漂っているお爺さん。そしてその横に座っている少年。
僕は自然とその店に引き寄せられていった。

店の前まで来て気づいたのだが、この店には商品が並んでいない。
お爺さんの前にあるダンボール箱の上は、少し色褪せているだけだった。

(´・ω・`) 「すいません、ここは何のお店ですか?」

/ ,' 3 「……」

反応がない。ただの屍のようだ。

('A`;) 「あー、お兄さん。そのジジィいつも寝てるから気にしないで」

(´・ω・`;) (死んでるわけじゃなかったのね)

それにしても、僕に話しかけてきたこの少年。どう見ても中学生くらいである。
中学生がホームレスのおじさんの手伝いをしている店。なんとも怪しい。
ここには近づかないほうがいいかな、と思い、僕が店から離れようとした、その時――



12: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:27:45.74 ID:DXpNuSU90

/ ,' 3 「待たれい。そこの兄さん」

今まで寝ていたお爺さんが突然立ち上がった。
僕はいきなりの展開に驚いたが、お手伝いの少年のほうが更に驚いている様子だった。それほどこのお爺さんが起きることは珍しいのだろうか。

(´・ω・`;) 「えーと、なんでしょうか?」

/ ,' 3 「なーに、この店に興味があってきたんだろう? 今すぐ商品を出すからちょっと待ってなさい」

お爺さんはそう言うと、カッターを取り出し、ダンボール箱にゆっくりと縦に筋をつけていった。
そしてゆっくりと開けられたダンボール箱の中には―― 一つの指輪が入っていた。

/ ,' 3 「どうじゃ。これは年代物の指輪じゃぞい。本物のルビーを使っておる」

('A`;) 「おいおい、ジジィ。それは――」

/ ,' 3 「黙れ小僧。どうじゃ、そこの少年。三千円で売ってやろう」

(´・ω・`;) 「……



14: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:29:51.79 ID:DXpNuSU90

年代物とはいえ、なかなか綺麗な指輪だった。
本物のルビーを使っているのに、三千円。しぃに渡すのに最適じゃないか。
しかし、隣りにいる少年の態度からして、なにか裏がありそうだ。

/ ,' 3 「少年、わしはこれを気に入ったものにしか売らぬ。もちろん裏はあるのだが、今買わなきゃこれは一生手に入らないと思いなさい」

(´・ω・`;) (やっぱ裏あるんだ)

そりゃあおいしい話には、絶対裏がある。
でも、お爺さんの人柄を見ていると、決して僕にそれを押し付けようとしているのではなく、切実に僕に譲ろうとしていると感じられた。
その後、五分間僕は考えた。そして、散々迷ったあげく――僕は財布から野口英世を三人分取り出し、お爺さんに渡した。

/ ,' 3 「毎度ありじゃ、少年」

(´・ω・`) 「いえ、こちらこそ申し訳ないです」

('A`) 「あーあ。知らねえぞ、ジジィ」



17: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:32:26.20 ID:DXpNuSU90

お爺さんは野口英世を確認すると、僕に指輪を手渡す。
その指輪は年代物、と聞いたが全くすり減ってもいなく、新品に近い状態だった。恐らく良く手入れしてあったのだろう。
僕は指輪をポケットにしまうと、お爺さんに一礼して立ち去った。
去り際に、お爺さんがなにか呟いたような気がしたが、それは通りの蝉騒に掻き消され、聞き取ることができなかった。

いい買い物をしたな、と僕は上機嫌になりながら再び待ち合わせ場所へと向かう。
「お宝通り」はVIP駅からそう離れてはいない。僕は数分と経たないうちにVIP駅に着いたのだが――そこには既にしぃが待っていた。

(´・ω・`;) 「早いね、しぃ」

(*゚ー゚) 「あ、ショボン! ごめんね〜、ワクワクして早く来ちゃった」

僕はしぃの言葉に思わず笑みがこぼれてしまった。
僕とのデートを楽しみにしてくれていたなんて――すごく嬉しい。まあ、僕も同じくらい楽しみにしてたんだけど。



19: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:34:40.27 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`) 「じゃあ行こうか」

(*゚ー゚) 「うん!」

僕達が行く映画館は隣町にある。電車にすると、一駅分の距離だ。
僕は130円の切符を二枚買い、一枚をしぃに手渡す。ホームに出ると丁度良く電車が来ていたので、僕らはそれに乗った。
幸い、車内は混んでいなかったので、僕としぃは座席へ座ることができた。

(*゚ー゚) 「今日見にいく映画、なんて名前だっけ〜?」

(´・ω・`) 「ああ、【世界の中心でぬるぽと叫ぶ】だよ」

(*゚ー゚) 「ガッ!」

(´・ω・`;) 「どうしたの?」

(;゚ー゚) 「あれ、私どうしたんだろ……」



20: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:36:55.01 ID:DXpNuSU90

しぃとの会話を楽しんでいるうちに、電車はすぐに目的の駅に着いてしまった。
僕としぃは電車から降りて、改札を出る。
僕が歩こうと思った瞬間、しぃが立ち止まった。

(´・ω・`) 「ん? どうしたの?」

(*゚ー゚) 「今日は手、握ってくれないの?」

(´・ω・`*) 「あ、ごめん。気づかなかったよ」

僕は慌ててしぃの手を握る。
その手は少しの間震えていたが、すぐにその震えは止まった。



24: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:39:56.06 ID:DXpNuSU90

映画館は駅から徒歩十分のところにあるので、僕としぃはその間楽しく会話をする。
ライブのこと、学校のこと、色々話した。でも、どの話題も――必ず僕達四人に関わることだった。
それにしても、しぃが、クーさんとジョルジュが付き合ってるのを、知らなかったのは意外だったなあ。

僕達が映画館に近づくにつれ、段々人が増えていくような気がした。
そして、映画館に着いたときには、それが勘違いじゃないことがわかった。
映画館の前にはすごい行列ができていたのだ。そして、その人たちはみんな【世界の中心でぬるぽと叫ぶ】のパンフレットを持っていた。

(*゚ー゚) 「多いね……」

(´・ω・`;) 「こんな人気のある映画だったなんて……」

完全に予想外だ。
11時上演の映画だけど、もしかしたらこの回は見れないかもしれない。



27: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:42:06.05 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`) 「しぃ、どうする? 他の映画を見ようか?」

(*゚ー゚) 「うん、そーだねー。他のやつ探してみようかー」

僕としぃは映画館に入り、なんの映画がやっているのか確認する。
しかしどれもあと一、二時間は待つものばかりで―― いや、一つだけあった。

(´・ω・`) 「もう、これでいいよね? ってあと一分で始まっちゃう!」

(*゚ー゚) 「え!? じゃあこれ観ようか!」

(´・ω・`) 「すいません! 大人二枚ください!」

僕は受け付けの女の人から、チケットを二枚もらう。
そしてしぃの手を引いて、上映されているロビーへ向かった。

ロビーに入ると、そこには数人の人がいるだけで、全く人気の無い映画であることが伺えた。
僕としぃは一番後ろの席に座る。そのとき丁度上演開始のブザーが鳴った。
あ、この映画は――



29: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:44:11.65 ID:DXpNuSU90

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


            \(^0^)/ 今オワタが会いに逝くよー      (凍宝)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



(*゚ー゚) 「……」

(´・ω・`;) 「……」

(*゚ー゚) 「……」

(´・ω・`;) 「ごめん」

どうやら僕達の初デートは出だしで躓いてしまったようだった。
映画館から出たあとのことが怖くてたまらないよ。そうだ、この映画が終わったらしぃに土下座しよう。
不貞腐れてるしぃの横で、僕はガックリと項垂れた。



33: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:46:57.33 ID:DXpNuSU90

映画を観終わった僕らは、近くの喫茶店に入った。
僕はちょっと格好つけてアイスコーヒーを、しぃは女の子らしくアイスミルクティーを注文した。
そして僕らが話す話題は――

(*゚ー゚) 「すっごい面白かったね!!!」

(´・ω・`*) 「うん! オワタが谷に落ちるところなんかすごいハラハラした!」

(*゚ー゚) 「そうそう! でもそのときに、あの人が――あ、ミルクティー来た」

注文の品がきてからも、僕らは「今オワタが会いに逝くよー」の話題で盛り上がった。
あの映画、予想以上に僕らのツボにはまったのだ。高クオリティーのアニメーションに、オワタのテンションと作品のストーリーのギャップがなかなか面白い。
気づけば語り始めて三時間が経っていた。



36: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:49:05.29 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`) 「あー、そろそろ出よう。次どこ行こうか?」

(*゚ー゚) 「あ……。ごめん、私このあとちょっと用事があるんだ」

(´・ω・`;) 「え? あ、そうなんだ。わかったよ」

(*゚ー゚) 「本当にごめんね。また今度絶対遊ぼうね」

普通彼氏とのデートより優先するものがあるだろうか、と少し疑問を持ったが、僕は素直にしぃの言葉を受け入れることにした。
しぃが先に席をたち、僕が二人分のお会計を済ませる。
そして、二人一緒に店を出たところで――僕はポケットの中に入っている指輪を思い出した。

(´・ω・`) (今渡さなくちゃいけないな……)



38: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:51:18.87 ID:DXpNuSU90

そう思えども、手はなかなかポケットへ向かわない。
喫茶店にいるときの僕なら躊躇なく指輪を渡せただろう。
しかし、デートの途中でしぃが帰ってしまうと言い出してから、指輪を受け取ってもらえないかもしれないと恐怖心を抱くようになってしまった。

(*゚ー゚) 「それじゃあ、そろそろ私行くね」

(´・ω・`) 「あ、うん」

しぃはそう言うと、僕に手を振りながら背をむけ、駅に向かって歩き始めた。

(´・ω・`;) (どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。ああ、もう――)

僕は考えることをやめて、しぃを全速力で追いかけた。
しぃとの距離はけっこう離れていて、長距離走の苦手な僕にとってはなかなか厳しかったが、なんとかしぃに追いつくことができた。

(´・ω・`) 「しぃ!」

(*゚ー゚) 「!?」



42: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:53:22.97 ID:DXpNuSU90

突然呼び止められたしぃは驚いた様子を見せて、ゆっくりと振り返った。
振り返ったしぃの表情は、少し凍りついているように見えた。

(´・ω・`;) (やっぱり呼び止めないほうが良かったかな)

(*゚ー゚) 「ショボン、どうしたの?」

(´・ω・`;) 「え、いやーあのー」

(*゚ー゚) 「なに?」

どうしよう。ああ、僕ってやっぱり意気地がないなぁ。もうどうにでもなれ。
僕は、手を乱暴にポケットに突っ込むと――指輪をしぃの前に差し出した。



44: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:55:29.41 ID:DXpNuSU90

(*゚ー゚) 「……」

(´・ω・`;) 「あの、これ指輪……しぃに……」

どうもイマイチ反応が薄い。やっぱりしぃは僕のこと嫌いなんじゃないのかな。
そう思った瞬間――しぃが僕に抱きついてきた。

(´・ω・`;) 「え、え、え。いきなりどうしたの?」

(*゚ー゚) 「ありがとう! 本当に嬉しい!」

そう言ったしぃの目はうっすらと滲んでいた。
僕はそのしぃの表情を見て、ああやっぱり渡して良かったなあ、と思えた。
街中だと言うのに、抱き合っている僕ら。周りで冷やかしてくる人もいるけど、僕は大丈夫だった。
だって、僕らはこの指輪で繋がっているから。この指輪は僕らの愛を具象化したものなんだ。
この時の僕はすごい幸せな気分だった。



46: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:57:40.01 ID:DXpNuSU90

三日間の休養期間を終えた僕は、「KAKA」の練習にいくために学校へ向かった。
久しぶりに四人で会えると思うと、ついワクワクしてしまい、三十分前に音楽室に着いてしまった。
僕はゆっくりと音楽室の扉を開ける。

(´・ω・`) 「やっぱ誰もいないよね……」

僕はボーっと昨日のことを思い出していた。
あの後、しぃは左手の薬指に指輪をはめていた。そして、何度も「ありがとう」って言ってたなぁ。
しばらく一人で浮かれていると、いきなり音楽室の扉が開かれた。

(´・ω・`;) 「わっ!」

川; ゚ -゚) 「どうした、ショボン」

(´・ω・`) 「ああ、いやなんでもないです。あれ、ジョルジュと一緒じゃないんですか」

川 ゚ -゚) 「別に一緒に来る必要はないだろう」

(´・ω・`) 「ふーん」



47: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 19:59:50.18 ID:DXpNuSU90

久しぶりに見るクーさんは、どこか疲れているように見えた。
でもそれも錯覚だと思うことにした。だって、楽譜を前にしたクーさんの表情はやっぱり生き生きとしているから。
それから十分ほど経って、しぃもやってきた。

(*゚ー゚) 「クーさん、ショボン、おはよ〜」

川 ゚ -゚) 「うむ、お早う」

(´・ω・`) 「おはよー」

僕はしぃの左手をチラッと見る。
左手の薬指には、ちゃんと指輪がはめてあったので、僕はホッとした。

それから三人で話をしながらジョルジュを待ったが、三十分待ってもジョルジュは音楽室に姿を見せなかった。
クーさんとしぃに聞いても、二人は「知らない」の一点張り。
仕方がないので、三人で先に練習を始めることにした。



49: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:01:59.63 ID:DXpNuSU90

(*゚ー゚) 「う〜ん」

(´・ω・`) 「やっぱひさしぶりだからね」

川 ゚ -゚) 「……」

今僕らが演奏し終えたのは、もちろん僕らのオリジナル曲だ。
だが、久しぶりにやったからか、ドラムのジョルジュがいないせいか、イマイチしっくりこなかった。

(*゚ー゚) 「もう一回、やってみようか」

(´・ω・`) 「ああ」

その後何回も同じ曲を繰り返す。
しかし、やっぱりうまくいかない。段々と悪くなっていく感じだ。
どうもこのままだと悪循環になりそうだし、ジョルジュも来る様子はないので、今日の練習は早めに切り上げることにした。



53: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:05:04.29 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`) 「僕、このあとジョルジュの家に寄ってみるよ。クーさんとしぃはどうする?」

(*゚ー゚) 「あ〜私はいいや。先に帰るね」

川 ゚ -゚) 「私もちょっと行くところがある。パスだ」

どうも盛り上がらない雰囲気のまま、しぃとクーさんと僕は音楽室を後にした。
校門を出ると、しぃとクーさんは駅の方向へ。ジョルジュの家は逆方向なので、僕達はここで別れることにした。

僕は、前回しぃに教えてもらった道を辿っていく。
記憶力はいいほうなので、一度も迷わずジョルジュの家まで行くことができた。
僕はジョルジュの家の前に立つと、早速インターホンを押した。



54: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:07:05.41 ID:DXpNuSU90

「はい」

(´・ω・`) 「ジョルジュ君の友達のショボンです」

「……ショボンか、どうした」

(´・ω・`) 「なんだ、ジョルジュか。今日休んだけどどうしたのかな、と思って」

「とりあえずあがれよ。今家には誰もいないからさ。玄関あいてるから二階まであがってきて」

ジョルジュがそう言うと、インターホンは切れてしまった。
少し気が引けたが、僕はジョルジュの家のドアを開けることにした。

(´・ω・`) 「お邪魔しま〜す」

当然返事は返ってくるわけがないが、言わないと申し訳ないような気がした。
とりあえず、脱いだ靴を整え、二階への階段を昇る。階段を昇り終えると、そこにはジョルジュの部屋がある。
ドアが閉まっていたので、コンコン、とノックすると、「入れよ」とジョルジュの声が聞こえた。僕は、ドアの取っ手を掴み、ゆっくりと引く。



58: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:10:21.29 ID:DXpNuSU90

以前ジョルジュの部屋はサッカーで溢れていた。今のジョルジュの部屋はどうなっているんだろう。
僕がドアを開け、見た先にあったのは――あらゆるものが散乱した部屋だった。
破られた紙、皴になってしまっている服、真っ二つに割られたCD。そして、信じられないことに――半分焼け焦げてしまっているカカの直筆サイン。
ジョルジュの部屋は嵐が過ぎ去ったあとのような光景で、しかし、それらは人為的になされたことがよくわかる。

(´・ω・`;) 「おいおい、どうしたんだこの有様は」

(  ∀ ) 「……」

返事をしないジョルジュ。なんだか異様な雰囲気がする。
今ジョルジュを下手に刺激すると切れてしまいそうで――

(  ∀ ) 「怖がるなよ……」

(´・ω・`;) 「わ! い、いきなり人の感情を読んだりしないでくれよ」

(  ∀ ) 「勝手に流れ込んでくるんだから仕方がないだろ……」

また会話が途切れてしまう。
しかし、ジョルジュの身になにかが起こったことは絶対である。
ずっと黙ってても仕方がないので、僕は自分から切り出すことにした。



62: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:13:41.49 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`) 「ジョルジュ、一体なにがあったんだい?」

(  ∀ ) 「お前、休みの間なにしてた?」

質問を質問で返すな、と言いたかったが、ここは我慢だ。
僕は、初日の出来事から、二日目のしぃとのデート、三日目の過ごし方など、大雑把に話した。

(  ∀ ) 「お前もやっぱりデートしたんだな。俺ももちろん、昨日したよ」

(´・ω・`;) 「まあそれが目的だったしね」

(  ∀ ) 「お前もうヤッた?」

(´・ω・`;) 「え? いや、その……」



64: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:16:10.55 ID:DXpNuSU90

僕は自然と音楽室での出来事を思い出してしまう。
しぃとの初めての夜。しかし、それを思い出した瞬間それもすぐにジョルジュに読み取られてしまう。

(  ∀ ) 「なんだ、もう済んでたのか」

(´・ω・`) 「そ、そういうジョルジュはどうなんだよ」

(  ∀ ) 「昨日さ、クーと上野行ったんだよ。そんで、動物園行ったり、食事したり、プレゼント買ってあげたり。すごいいい雰囲気だった」

(´・ω・`) 「それで?」

(  ∀ ) 「夜になってさ、すごくいい雰囲気のまま公園に行ったんだよ。そしたらクーからはなにか期待しているような感情が感じられてさ、俺はクーの下のほうに手を入れたんだ。そしたら、あいつ俺の手をはねのけて、こう言ったよ」



66: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:18:20.46 ID:DXpNuSU90

(  ∀ ) 「やっぱりジョルジュとは付き合わなければ良かった、って」

( ;∀;) 「しかもその言葉にはよぉ! 全く嘘の感情は感じられなかったんだ!クーは本当に俺と付き合うのが嫌だったんだってさ!」

(´・ω・`;) 「落ち着けよ、ジョルジュ!」

ジョルジュが泣き叫びながら、暴れ始めたので、僕は一生懸命になってジョルジュを押さえつけた。
なるほど、こんな状態を繰り返して、部屋がこんな状態になってしまったんだろう。

それにしても休みの間にそんなことがあったとは。
人の感情が読める、いや流れ込むと言ったほうが正確か。
そんな毎日を送っているジョルジュがこうなることは当たり前だったのかもしれない。
そして今回最愛のクーさんからきつい一言を言われてしまって、相当のショックを受けたことだろう。



70: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:20:47.03 ID:DXpNuSU90

もともと素直なクーさん。
ジョルジュが人の感情を読めると知らないから、そこまできつく言ってしまったのだろう。
こうなるとジョルジュの力のことを素直に話してしまったほうがいいと思えるが、ジョルジュが僕のほうを睨んだので口に出すのはやめることにした。

しばらく経ってから、ジョルジュが段々と落ち着いてきたので、僕はジョルジュに提案をした。

(´・ω・`;) 「とりあえずさ、一回バンドの練習に来ないか? そのときクーさんと話し合ってみなよ」

( ゚∀゚) 「……わかった」

(´・ω・`) 「よかった。それじゃあ僕はとりあえず帰るよ。明日ちゃんと来てくれよ」

( ゚∀゚) 「お前としぃも来たほうがいいかもしれないな」

(´・ω・`) 「なに言ってんだよ? ちゃんといつも来てるから安心しろよ」

( ゚∀゚) 「いや、そういう意味じゃなくて……まあ、いい。また明日な」



73: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:23:59.37 ID:DXpNuSU90

僕はジョルジュの発言に少し違和感を覚えながらも、ジョルジュの家を後にした。
僕は帰り道、ジョルジュとクーさんのことについて考えていた。
明日ちゃんと話し合いはうまくいくだろうか、変な亀裂が入らないように仲直りできるだろうか。
僕は少し平和ボケしていたんだろう。この時は、なんだかんだいってきっとうまくいくと思っていた。他人事なんてその程度の扱いなんだ。
でもそれが自分の身に降りかかったとき、すべての状況は一変するってことを、後々知ることになったよ。

次の日、僕はいつも通りの時間に起きると、学校へ行く準備をした。
ゆっくりと朝食をすませて、ゆっくりと身支度を整える。時計を見ると、まだ集合時間の一時間前だった。
余裕があるな、と思ったそのとき、携帯から着信音が鳴り響いた。

(´・ω・`) 「着信……クーさんからだ。なんだろう」

低血圧の僕は、朝はとてもボーっとしている。なので、昨日のことはすっかり忘れていた。
だから通話ボタンを押して、クーさんの声がいきなり耳に響いたときは、なんのことか全くわからなかった。



75: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:27:38.16 ID:DXpNuSU90

「ショボン!! 早く音楽室に来てくれ! ジョルジュが大変なんだ!」

(´・ω・`;) 「ジョルジュが!? なんで二人ともそんな早く来ているんですか!?」

「昨日、ジョルジュから話し合いをしたいとメールが来たんだ!」

ああ、そういえば僕が提案したんだっけ。
僕は昨日のことを思い出す。そして、今のクーさんの鬼気迫った声。
僕の頭が正常に活動し始めたときに、やっと僕はクーさんとジョルジュが今大変な状況にいることが理解できた。

(´・ω・`;) 「クーさん、すぐ行くから待っていてください!」

「わかった! 待っている!」



78: >>76後でkwsk ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:31:01.66 ID:DXpNuSU90


僕は通話を切って、急いで家を出る。
自転車を飛ばすこと5分、学校に着いた。
僕は上履きも履かずに、音楽室への階段をかけあがる。
やっと音楽室の前まで来た僕は、躊躇することなくドアを開けた。
そしてまず一番最初に目に入ったのは――泣いているクーさんだった。

(´・ω・`;) 「クーさん、大丈夫ですか!?」

川 ; -;) 「……ショボン」

(´・ω・`;) 「なにがあったんですか?」

川 ; -;) 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

クーさんは泣き叫びながら、僕に抱きついてきた。
普段あれだけ気丈なクーさんがこれほど取り乱すなんて、よほど怖いことがあったのだろう。
僕はクーさんを宥めながら、音楽室を見渡す。
恐らくこの事態を作ったであろうジョルジュは――ピアノの前に座っていた。



82: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:33:07.26 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`;) 「おい、ジョルジュ。これは一体どうゆうことだよ。説明しろよ」

( ゚∀゚) 「……」

(´・ω・`♯) 「黙ってないでなんとか言えよ!」

( ゚∀゚) 「もう少し、待ってくれ」

(´・ω・`;) 「なにを訳のわからないことを――」

( ゚∀゚) 「頼むから、もう少しだけ」

ジョルジュは静かな口調だったが、なにか危険な雰囲気を含んでいた。
僕は、仕方なくジョルジュに従うことにした。
しばらくの間、僕は泣いているクーさんを宥める。ジョルジュはその光景をつまらなそうに見ていた。

僕はジョルジュがなにを考えているのか全くわからなくなってしまった。
数日前までは、最高の仲間だったジョルジュ。しかし、この数日の間に豹変してしまったジョルジュ。
一体なんでこんなことになってしまったんだろう、そんなことを考えていると、目がうっすらと滲んできているのがわかった。



86: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:35:54.77 ID:DXpNuSU90

それからどのくらい経っただろうか。
少し待ってくれ、と言われたが、もう三十分は待ったような気がする。
僕はしびれを切らしてジョルジュに話しかけようとした。しかし、そのときいきなりジョルジュが立ち上がった。

( ゚∀゚) 「きた」

(´・ω・`) 「え?」

ジョルジュは開け放たれた音楽室のドアから、誰もいない廊下を見つめている。
その廊下からは、微かだが階段を昇ってくる音がする。その音は段々と大きくなり――しぃが階段から現れた。

(*゚ー゚) 「あれ〜、みんな早いね、ってどうしたの!?」

しぃは急いで音楽室へ入ってきた。
そこには、泣いているクーとそれを宥めている僕、そして、ピアノに前に立っているジョルジュ。
しぃが見てもわかるほど、異様な光景なんだろう。



93: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:38:35.87 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`;) 「僕にもよくわからないんだ……。ジョルジュ、説明してくれないか?」

( ゚∀゚) 「話し合いが決裂しただけだ」

川 ; -;) 「私はジョルジュを怒らせるような言葉は言ってないはずだ!」

泣きながら、クーさんがジョルジュに向かって叫ぶ。
しかし、ジョルジュはそんなクーさんを見て、ひとつ溜息をつく。

( ゚∀゚) 「言葉は、な」

(´・ω・`;) (なるほど、そうゆうことか……)



97: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:40:42.03 ID:DXpNuSU90

恐らく話し合いはうまくいっていたのだろう。言葉のやりとりだけなら。
しかし、途中でやっぱり――ジョルジュはクーさんの感情が読めてしまった。
そしてきっとそのとき、クーさんの真意がわかり、ジョルジュは再び傷ついてしまったのだろう。
そのあとジョルジュがどうゆう行動に出たのかは、想像に難くない。
そして、怖くなったクーさんが僕を電話で呼び出した。そんなところだろうか。

(´・ω・`) 「とりあえず、落ち着いて話し合わないか?」

( ゚∀゚) 「ショボン、どうせうまくいきやしないぞ」

(*゚ー゚) 「どうしてそんなこと言うの!? やってみなきゃわからないじゃない」

( ゚∀゚) 「だってこれ以上話し合ったら――お前らも仲違いすることになっちまうぞ」

(´・ω・`;) 「……」

ジョルジュの特異体質を知っている僕には、その言葉がすごく重たく感じられた。
でも、人間って不思議なもので、怖いものほど知りたがる習性があるみたいだ。その先の後悔も顧みずに。



101: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:42:48.92 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`) 「ジョルジュ、僕としぃを試しているのなら受けて立とう。君の知っていること、いや、知ってしまったことを話してくれないか?」

( ゚∀゚) 「知らねえぞ」

(´・ω・`) 「ああ」

訳のわからないクーさんとしぃは、ただただ僕とジョルジュのやり取りを見つめているだけだった。
僕もジョルジュの目をじっと見つめる。ジョルジュも僕の目をじっと見返してくる。
僕の感情を読み取ったのか――ジョルジュはゆっくりと話し始めた。

( ゚∀゚) 「俺たち四人は仲間だ。俺はそう思っている」

川 ゚ -゚) 「なら、なんでこんなことを――」

(´・ω・`) 「クーさん。黙っててくれ」

既に泣き止み、冷静さを取り戻したクーさんを僕が制止する。
クーさんも僕が真剣になっていることを読み取ってくれたようで、それ以上は言葉を続けなかった。
僕はジョルジュに合図をし、ジョルジュは話を続ける。



105: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:45:00.24 ID:DXpNuSU90

( ゚∀゚) 「けど仲間であって、それ以上ではないんだ。本来はな」

(´・ω・`) (……)

本来は、ということは僕らは既に一般的な仲間以上の関係になっているということなのだろうか。
それのどこが悪いことなのか僕にはよくわからなかった。
ジョルジュは、考え込んでいる僕をチラッと見て、話を続ける。

( ゚∀゚) 「俺が言いたいのは、そうゆう意味じゃない。この四人からカップルができることがおかしい、という意味なんだ」

(´・ω・`) 「……」

( ゚∀゚) 「本来この仲間内の恋愛は、すれ違いで終わるはずだったんだよ。なぜなら――」



111: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:47:10.15 ID:DXpNuSU90

( ゚∀゚) 「ショボンはしぃのことが好きで――」

(´・ω・`) 「ああ」

( ゚∀゚) 「俺はクーのことが好きで――」

川 ゚ -゚) 「……」

ジョルジュは一旦そこで言葉を切る。
僕は、ジョルジュの言ってることが当たり前すぎて、少し拍子抜けしてしまった。
しかし、次にジョルジュが言った言葉は、思わぬものであった。

( ゚∀゚) 「クーはショボンのことが好きで――」

(´・ω・`;) 「え!?」



116: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:49:39.95 ID:DXpNuSU90

僕は慌ててクーさんのほうを見るが、彼女の表情からはなにも感じられない。
僕は思わぬ事実に度肝をぬかれた。
まさか、クーさんが僕のことを好きだったなんて。これ以上なにを言われても驚くことはない、と思った。
でもいつも思いは裏切られるものなんだ。ジョルジュが次に言った言葉は、僕をどん底に突き落とすものだった。

( ゚∀゚) 「しぃは……俺のことが好きなんだ。つまり……究極のすれ違いってやつだな」

(´・ω・`;) 「嘘だ……。じゃあなんでしぃは僕に告白してきたんだよ?」

( ゚∀゚) 「なんだ、しぃから告白したのか。まあ、落ち着いて考えろ。しぃがお前に告白する前に、俺がクーに告白したことは知ってるだろう?」

(´・ω・`;) 「ああ」

( ゚∀゚) 「それをクーがしぃにメールで知らせたんだよ、すぐにな。俺のことが好きだったしぃは……きっとヤケクソになったんだろうな」



120: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:51:53.82 ID:DXpNuSU90

僕と映画を見に行ったとき、しぃはクーさんとジョルジュの関係を知らないって言ったはずだ。
そしてデートの途中で帰ったのも――まさかジョルジュと会うためだったのか?
僕に嘘をつきながら、僕と一緒の時間を過ごしていたのか?
僕はしぃの目を見る。しぃも僕の視線に気づいて、一瞬目があったが――すぐに逸らした。

( ゚∀゚) 「まあ、それぞれ実るはずのないものが、なんで実ったか。全部、俺のせいなんだわ」

(´・ω・`) 「……話してくれ」

川 ゚ -゚) 「……」

(*゚ー゚) 「……」

( ゚∀゚) 「一応、その前に俺のことについて話しておく。本当は嫌だったけど」



122: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 20:53:57.88 ID:DXpNuSU90

ジョルジュは自分の特異体質について説明した。
既に知っていた僕は驚かなかったが、しぃとクーさんの驚きようは半端なかった。特にクーさんは、全く信じようとしなかった。
しかし、ジョルジュがクーさんの今の感情を言うことによって、流石のクーさんも信じないわけにはいかなくなってしまったようであった。

ジョルジュの話は、至って簡潔であった。
しぃと僕とジョルジュ。僕ら三人が出会ってからというもの、日を追うにつれて、しぃがジョルジュに、僕がしぃに魅かれていくのがわかったそうだ。
しぃに恋愛感情を抱けなかったジョルジュは、当初はしぃと僕が付き合うように画策していたらしい。しかし、そこにクーさんが現れた。
ジョルジュはクーさんに一目惚れした。一目惚れといっても見た目にじゃない。感情の持ち方にだ。
しかし、クーさんは僕に好意をもっていた。そこで、ジョルジュはクーさんに――僕がしぃを好きだということを何度も言ったらしい。
そしたらクーさんの僕に対する感情は、段々と小さくなっていったそうだ。そこで、ジョルジュがクーさんに告白をする。後は知っての通りだ。



149: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:29:54.67 ID:DXpNuSU90

ジョルジュの話を聞いてからも、僕はしぃに関してだけは信じられなかった。
いつも僕と手を握りたがった、しぃ。
僕とのデートを楽しみだったと言った、しぃ。
僕から指輪を受け取って、涙を流した、しぃ。
そのすべての行動は全部偽りだったのだろうか。僕は一人で浮かれていただけなんだろうか。
僕は再びしぃのほうを見る。

(´・ω・`) 「しぃ、僕はジョルジュの言ったことを信じている。だけど、君に関してだけは信じられないんだ」

(*゚ー゚) 「……」

(´・ω・`) 「僕のことは好きじゃなかったのかい? ジョルジュの代わりだったのかい?」

(* − ) 「……」

(´・ω・`) 「黙ってても、わからな――」

(*;−;) 「もうやめて!!」



151: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:32:53.37 ID:DXpNuSU90

突然、しぃが泣き叫んだ。
それは追い詰められての行動なのか、それとも本当に悲しくての行動なのか。
そんなことを考えてしぃを見ていたら、しぃの体がグラリと揺れた。そして、そのまま――倒れてしまった。

(´・ω・`) 「しぃ?」

(*‐−‐) 「……」

(´・ω・`) 「ねえ、しぃってば」

(*‐−‐) 「……」

返事をしない、しぃ。
僕の頭はこんがらがってしまい、なにがなんだかわからなくなってしまった。
しかし、それとは対照にジョルジュとクーさんは冷静であった。
ジョルジュはしぃの口と手首に手をあて、クーさんは携帯電話を取り出す。



153: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:35:21.45 ID:DXpNuSU90

(; ゚∀゚) 「息はしてるけど……脈が乱れてる」

川;゚ -゚) 「救急車を一台お願いします! ええ! ○○高校の音楽室です!」

(´;ω;`) 「しぃ、しぃ、しぃ……」

それから数分して、救急車はやってきた。
隊員の人達は、馴れた様子でしぃを担架に乗せる。そして、そのまま救急車へと運んでいく。
僕たちはそれを必死に追いかける。しかし、次第に離されていき――しぃを乗せた救急車は行ってしまった。

(; ゚∀゚) 「ごめん、本当にごめん。俺はなんて最悪なことを……」

(´;ω;`) 「僕がしぃを問い詰めたりしなければ……」

自責の言葉を放っているジョルジュと僕を見て、クーさんはふぅ、と溜息をつく。

川 ゚ -゚) 「済んでしまったことは仕方ない。さっさと病院へ行くぞ。おそらくVIP病院だ」



160: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:38:00.48 ID:DXpNuSU90

クーさんの言葉で目が覚めたジョルジュと僕、そしてクーさんは自転車にまたがった。
高校からは自転車で二十分ほどの距離だ。急げばもっと早く着くだろう。
僕は必死にこいだ。ジョルジュよりも、クーさんよりも速く。とにかく早くVIP病院でしぃに会いたかった。
そしたら、絶対こう言おう。

(´;ω;`) (ごめんね、しぃ――)

僕らがVIP病院に着き、看護婦さんにしぃの居所を聞いたら、既に病室へ移されたとのことだった。
病室のナンバーを教えてもらい、そこへ向かう。
僕らがしぃの病室に着いて、中を覗いてみると、しぃの傍らに中年の女の人が座っていた。恐らくしぃの母親だろうか。
僕らはその人に挨拶をし、中へ入る。



161: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:40:49.20 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`) 「こんにちわ、しぃの友達のショボンです」

僕は咄嗟に「友達」と言ってしまった。今の僕が「彼氏」と名乗るには、図々しすぎると思ったから。
中年の女の人は、僕らを見るとうっすらと笑った。その笑顔はどこか寂しげであった。

((σ_σ,)) 「あら、しぃの母です。よく来てくれたわね」

( ゚∀゚) 「あの、しぃは大丈夫なんですか?」

((σ_σ,)) 「お医者様によると、ストレスショックによる失神ですって」

川 ゚ -゚) 「……すいませんでした」

((σ_σ,)) 「いいのよ、謝らなくても。人と関わる以上は必ずストレスは溜まるわ。ただ、しぃの場合それが人より早く爆発しちゃっただけ」

( ゚∀゚) 「もしかして、入学当初休んでいたのも?」

((σ_σ,)) 「ええ、これが原因だったの」



162: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:43:56.43 ID:DXpNuSU90

僕は、ベッドの上で仰向けで寝転がっているしぃを見る。しぃは静かな寝息をたてていた。
寝ているしぃを見つめていると、しぃの左手が布団から出ていることに気づいた。僕は布団の中に閉まってあげようとして、しぃの左手を掴んだ。
すると僕の手に、小さな金属の感触が伝わる。僕は手を離して、再度しぃの左手を見た。

(´・ω・`) (僕があげた指輪だ……)

僕はそっとしぃの指から指輪を外す。
やっぱり新品みたいに綺麗で、ルビーがとても輝いていた。

(´・ω・`) (あれ?)

買ったときは気づかなかったのだが、僕は指輪の内側に、なにかが彫ってあるのを見つけた。
僕はそれをゆっくりと読む。

(´・ω・`) (N、A、G、A、O、K、A……ナガオカ。長岡!?)



167: >>165同じく ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:46:03.65 ID:DXpNuSU90

僕は思わずジョルジュのほうを見る。
ジョルジュはしぃのお母さんとなにかを話していて、僕のほうを見てはいなかった。

あの店主がこの指輪に「NAGAOKA」と彫ったのだろうか。
それにしては、あまりに偶然すぎて現実的とはいえない。
となると――しぃがこれを彫った?
その文字をよくよく見てみると、それはところどころ荒削りで、素人が彫ったものということが伺えた。

(´・ω・`) (一体どうゆうことだろう……)

僕はとりあえず指輪をしぃの指に戻す。
そして、しぃの左手を布団の中にしまった。



171: >>165同じく ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:48:43.66 ID:DXpNuSU90

その後、ジョルジュとクーさんはしぃのお母さんと話をして、僕はただずっと指輪について考えていた。
病室から出て、帰り道にジョルジュとクーさんが僕になにか話しかけていた気がしたが、僕は全く覚えていない。
結局その日は、家に帰ってからも、しぃと指輪のことについて考えていた。しぃから本音も聞けなかったし、モヤモヤは大きくなるばかりだった。

それから僕はなにも無い日々を過ごした。
変化がない日々、じゃなくて本当になにもしない日々。
僕はひたすら部屋に引きこもって、ずっと思慮に耽る。食事はとらなかった、いや、とる気になれなかった。流石に水分は補給したが。
最初のころは、毎日父が僕の部屋をノックしてきた。しかし、僕がそれを無視しているうちに、最近父が僕の部屋の前に来ることは無くなった。



172: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:50:52.70 ID:DXpNuSU90

ジョルジュからも、クーさんからも、もちろんしぃからもメールは来なかった。
自分からメールする気にはなれなかったので、向こうから送ってこない限りメールは来ないだろう。
多分このままずっと来ないんじゃないかな、と思っていたが、ある日突然クーさんからメールが来た。


08/17 8:34

From 須名クー
Sub 件名なし

しぃの母親から、しぃが退院したと連絡があった。
一緒にしぃの家に行かないか?



175: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:53:22.31 ID:DXpNuSU90

それは淡々としたメールだったが、引きこもった僕を家の外に出させるには、充分すぎるメールだった。
クーさんに了解のメールを送ると、僕は久しぶりの私服に着替える。
そして、数日ぶりに部屋からでると、真っ先に洗面所へ向かった。
そして洗面所の鏡を見る。そこに映ったのは――少々やつれて髭がうっすらと生えている顔。一瞬、自分の顔じゃないと思ってしまうほどだった。

(´・ω・`)「はは、「お宝通り」で店を出しても、違和感なさそうだ」

僕は自分の風貌を自嘲し、ひげを剃りはじめる。
全部剃り終わり、冷たい水で顔を洗うと、幾分かましな顔になったような気がする。
なんにもしてないはずなのに、なんだか疲れたなあ。僕はヨロヨロと家を出て、自転車にまたがる。
待ち合わせ場所は、僕らの通っている高校だ。



177: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:56:04.64 ID:DXpNuSU90

僕が高校に着いたときには、すでに二人、正門の前で待っていた。
近づくにつれて、顔がはっきりしてくる。ああ、やっぱりクーさんとジョルジュだ。

( ゚∀゚) 「……よお」

川 ゚ -゚) 「ひさしぶりだな、ショボン」

(´・ω・`) 「……うん」

それ以降、会話を交わすことは無かった。
しぃの家を知ってるクーさんに、僕とジョルジュは黙ってついていく。
十五分ほど自転車をこぐと、ここらでは有名な高級住宅街に入った。しぃの家は、ここら辺にあるのだろうか。
すると、やっぱりクーさんは住宅街の途中で自転車を止めた。僕とジョルジュもそれに続く。
表札に「椎名」と掲げられたその家は、とても大きくて洋風建築の綺麗な家だった。
そして、クーさんがインターホンを押す。



180: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 21:58:11.86 ID:DXpNuSU90

「……はい」

川 ゚ -゚) 「クーです。しぃさんのお見舞いに来ました」

「ちょっとお待ちください」

インターホンが切れるのとほぼ同時に、玄関が開く。
そこにはしぃのお母さんがいた。

((σ_σ,)) 「どうぞ、あがって……三人いるのね」

(´・ω・`) (三人いる……?)

僕らはしぃのお母さんに案内されて、しぃの部屋の前まで来た。
扉には「しぃの部屋」とボードがかけてあり、そこには「ノック必須!」と書いてあった。



181: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:00:17.89 ID:DXpNuSU90

((σ_σ,)) 「それじゃあ、私はこれで」

そう言うと、しぃのお母さんはどこかへ行ってしまった。
残された僕らは無言で立ちすくんでいる。仕方ないので、僕がノックをすることにした。
コンコン、とドアを叩き、しぃに呼びかける。

(´・ω・`) 「しぃ、入ってもいいかい?」

するとドアの奥から、小さな声で「どうぞ」と聞こえてきた。
その声は弱弱しくて、しぃも色々と大変だったんだろうと思った。
僕はゆっくりとドアを開ける。そこはピンク中心の色合いの部屋で――ベッドの上にしぃがいた。



184: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:02:24.17 ID:DXpNuSU90

(*゚ー゚) 「ひさしぶり」

(´・ω・`) 「……」

久しぶりに見たしぃの顔は、やっぱりどこかやつれていた。
僕はしぃに申し訳なくて、本当に申し訳なくて、最初の言葉はしぃへの謝罪だった。

(´;ω;`) 「本当にごめん、しぃ」

(*゚ー゚) 「ううん、こっちこそごめんね」

そういってしぃは微笑む。久しぶりに見たしぃの笑顔は――やっぱりしぃの笑顔だった。



188: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:04:52.99 ID:DXpNuSU90

川 ゚ -゚) 「あのー入りづらいのですが」

クーさんが顔だけ出して、こっちを見ている。僕としぃはそれを見てついつい笑ってしまった。
クーさんも少しはにかんで、部屋に入ってくる。なんだが久しぶりに良い雰囲気だった。

( ゚∀゚) 「あれ、俺は蚊帳の外ですか?」

遅れてジョルジュが入ってくる。その顔はやっぱり笑顔で――

(*゚ー゚) 「来ないで!!」

(; ゚∀゚) 「え?」

突然のしぃの豹変ぶりにクーさんと僕も反応が追いつかなかった。
気づいたときには、しぃは泣きながら、手当たり次第に部屋にあるものをジョルジュに投げつけていた。



190: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:07:00.78 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`;) 「しぃ、落ち着いて!」

(*;−;) 「うるさい! 来るな! あんたが全部悪いんだ!」

(; ゚∀゚) 「……」

ジョルジュは両手で顔をカバーしながら、しぃの罵声を一身に受けていた。
僕とクーさんでなんとかしぃを押さえたときには、ジョルジュの両腕は傷だらけになっていた。
しかし、しぃは体を押さえられても叫び続ける。

(*;−;) 「勝手に自分で全てを造って、そして勝手に全てを壊して! あんた自分がなにをしたかわかってるの!?」

(; ゚∀゚) 「本当に悪かった……」



201: >>194マルチEDで採用したい ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:10:14.05 ID:DXpNuSU90

しぃは冷静さを失っていて、訳のわからない言葉を叫び続けている。
それに対してジョルジュも、ただもごもごと謝っている。
そして、とうとう――しぃが言ってはいけない言葉をジョルジュにぶつけてしまった。

(*;−;) 「あんたが変な力なんか持ってるからいけないのよ! あんたなんか――その力と一緒に死んじゃえばいいのに!」

( ゚∀゚) 「……」

ジョルジュはゆっくりとクーさんを見る。
しぃを押さえながらもクーさんは、ジョルジュを睨んでいた。
そしてジョルジュは次に僕を見た。
そして、その目は――あの日の約束を思い出させた。



206: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:12:32.18 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`) (必ず君を支えると約束したけど――今は無理そうだ)

僕はそう思っただけであったが、恐らくジョルジュには伝わっただろう。
ジョルジュはもう一度だけ、僕の顔を見ると、くるりと背を向けて部屋を出て行った。

ジョルジュが出て行くと、しぃも段々と落ち着いてきた。そしてそのままベッドの上で寝てしまった。

川 ゚ -゚) 「疲れていたんだな……」

(´・ω・`) 「うん。それにしてもちょっと言い過ぎたんじゃないかな?」

川 ゚ -゚) 「いや、あいつにはあれくらい言わないとダメだろう」



208: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:14:40.24 ID:DXpNuSU90

これ以上いても迷惑だろう、とクーさんが言ったので、僕らはこれで帰ることにした。
帰り際に、しぃのお母さんを見たときに、やっとさっきの言葉の意味が理解できた僕は、やっぱり鈍いんだろうか。
とりあえずしぃは、なんとか大丈夫そうだ。ただジョルジュは……。
期待はいつも裏切られることは、僕はよく知っている。だけど、不安がいつも的中することは――この時はまだ知らなかった。

翌日、僕はひさびさに家族と会話をしながら夕食をとった。
だいぶ痩せた父と、反対に段々と丸くなってきた母。
話すことは他愛もないことばかりだったけど、これが家族の会話、と思えるものだった。
段々とすべてが元に戻ってきてる、ひさびさにそう感じることができた。
だから、部屋に戻ってジョルジュから着信履歴があったのを見たときも、仲直りの電話かな、としか思わなかった。



211: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:17:00.29 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`) 「とりあえず掛けなおしてみるか」

何回かの呼び出し音。
わりと早くジョルジュは電話に出た。

(´・ω・`) 「ジョルジュ、なんか用があったのかい?」

「あ―、ちょっ―な」

(´・ω・`) 「なんだい?」

「い―や、もう―いんだ」

(´・ω・`) 「なんか聞こえづらいけど、どこにいるの?」

「学校の、お――う」

(´・ω・`) 「え?」

「学校の、―くじょ―」

(´・ω・`) (学校の……お、くじょ、う……おくじょう)



222: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:20:08.67 ID:DXpNuSU90

(´・ω・`;) 「学校の屋上!? なんでそんなところにいるんだ!?」

それまで雑音で聞こえづらかったがジョルジュの声が、最後ははっきりと聞こえたのはなんでだったのかな。
そのあとジョルジュが言った言葉が――僕が最後に聞いたジョルジュの言葉だった。

僕は急いで、自転車に乗り学校へ向かう。
途中でしぃとクーさんに、「学校に来るように」とだけ伝えた。
そして、僕が学校に着いたときには、正門の前に一台の救急車と、一台のパトカー。それが僕にすべてを悟らせた。

(´・ω・`) 「ジョルジュ……」



229: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:22:20.20 ID:DXpNuSU90

くだらない高校生活の中で、唯一僕が心から親しくできた。
ピアノの全国コンクールで僕が落ち込んだときも、僕を外の世界に引っ張っていってくれた。
僕のことは信頼してくれて、自分の不思議な力のことも話してくれた。
僕たちはずっと友達だろう? 一緒に支えあおうって約束したのに――

(´;ω;`) 「僕がジョルジュを裏切ってしまったんだ……」

しぃとクーさんが来たのは、それからすぐのことだった。
僕らは警察の人に遺書を手渡された。証拠品だからすぐ持っていかなければならないけど内緒だよ、と言って。
遺書は封筒に入っていて、その封筒には「親愛なる三人の仲間たちへ」と書いてあった。

僕は中にある遺書を取り出し、ゆっくりと読み始めた。



233: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:24:27.18 ID:DXpNuSU90

遺書

しぃへ

しぃには本当に申し訳ないことをしてしまいました。
本当は何回謝っても足らないくらいなのですが、この書面をもってもう一度謝罪します。
本当にすみませんでした。
サッカー部の人数が少なくて、困っていたときに、しぃがマネージャーとして入部してくれたときは本当に嬉しかったです。
その後、僕の力不足でサッカー部は潰れてしまいましたが、部活をやってる間はとても楽しかったです。
本当にありがとうございました。



235: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:25:32.72 ID:DXpNuSU90

クーへ

クーは本当はショボンが好きだったはずなのに、僕なんかと付き合いをしてもらって本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
夏休みのあの夜の僕はどうにかしていたのでしょう。本当に悔やんでも悔やみきれません。
本当にすいませんでした。
僕は本当にクーの歌声と、性格と、全てを愛していました。ただ僕にはその愛を届ける資格がなかっただけです。
短い間でしたが、僕の相手をしてくれてありがとうございました。



239: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:26:53.27 ID:DXpNuSU90

ショボンへ

高校へ入学してからというもの、僕の生活はショボンを中心に回っていました。
周りからは白い目で見られていて、いつ仲間はずれにされるかわからない僕でした。
しかし、ショボンと友達でいれたお陰で平穏な生活を送ることができました。
本当にありがとうございました。
最後に、ショボンとの約束のことについてです。
ショボンがこの手紙を読むときには、僕はもうこの世にはいないでしょう。
なので、僕にはもう約束を果たすことができません。最後までそれが心残りでしたが、僕の心の中はそれ以上に絶望でいっぱいでした。
本当にすいませんでした。ショボンと過ごした半年は、とても輝いていました。



250: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:29:03.72 ID:DXpNuSU90

「KAKA」としてのみんなへ

たった一ヶ月程度のバンドでしたが、本当に最高のバンドでした。
僕に作曲を任さてくれたときは、すごい嬉しかったです。
僕が作ったあの曲に例えるならば、僕の人生はサビで止まってしまったようです。
でも三人は必ずあの曲の最後のように、生きぬいてください。
本当に楽しい一ヶ月をありがとうございました。



255: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:30:31.09 ID:DXpNuSU90

最後に、僕の意思をここに示したいと思います。
僕は小さいころからこの不思議な力をもっていたせいで、周りに色々と迷惑をかけてしまいました。
今回も同じで、この力があるところには、必ず不幸が訪れることを、僕は悟ることができました。
なので、この力が二度と後世に残らないように、自らの命をもって、この力を根絶やしにすることにします。
最後にこれだけは伝えておきます。
本当にありがとうございました。

長岡ジョルジュ



260: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:32:42.55 ID:DXpNuSU90

ジョルジュの遺書は、いつもは使わない敬語で書かれていて、すごくよそよそしい感じがした。
いや、もしかしたらこれがジョルジュの本当の姿なのかもしれない。

(´;ω;`) 「なんで謝罪とお礼ばっかりなんだよ……。もっと他に言うことはなかったのかよ」

川 ; -;) 「ジョルジュ……。私も君から思いを告白された時は、偽りなく嬉しかったぞ……」

(*;−;) 「私があんなことを…うっ…うっ…言わなければ……」

(´;ω;`) 「僕が約束を破ったのに……なんでお前が謝るんだよ。謝るのは俺のほうじゃないのかよぉぉぉぉ!」

僕ら三人はその日ひたすら泣き、叫んだ。
涙は枯れるというが、それは嘘みたいだ。その日僕らの涙は一切止まらかった。



268: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:35:56.80 ID:DXpNuSU90

その後、ジョルジュの葬式が行われ、学校でも緊急集会が開かれたりした。
どちらも、決して自殺の具体的な原因は言われることはなかった。
しかし、僕らはわかっている。ジョルジュを殺したのは、間違いなく――僕らだ。
僕らは一生罪を負って生きることとなるだろう。周りに知られることはない、僕ら三人だけの秘密。
だけど、もし、その罪をジョルジュが許してくれるのなら、もう一度、ジョルジュに会えるならこう言いたい。

「ありがとう。君と友達になれて良かった」と。

そしたら、ジョルジュはきっとこう言うだろう。
最後にジョルジュが言った言葉。それは――



275: エピローグに続くよー ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:38:15.43 ID:DXpNuSU90

「最後にショボンと話すことができて、俺は希望を見ることができたよ。ありがとう」

なんだよ、ジョルジュの人生はサビで終わってないじゃないか。
最後にちゃんとあの曲のとおりに、希望で終わることができたじゃないか。

高校一年生の夏、僕の最愛の友ジョルジュは――希望を抱いたまま眠った。



278: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:40:30.15 ID:DXpNuSU90

エピローグ

今年の夏もやっぱり暑い。
やっぱり夏は好きになれそうにないな。

「そのあと僕とお母さんは結婚したんだ。なんせ翌年の五月につーが生まれてしまったからね。大変だったよ、高校生の父と母になったんだから」

そう言ってつーを見ると、既にもうスヤスヤと眠っていた。
ずっと一人で思い出を語っていたのか、と思うと、ついつい苦笑してしまう。
じゃあそのついでに独り言でもさせてもらおうかな。



283: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:42:49.21 ID:DXpNuSU90

なあ、ジョルジュ。聞こえるか。
ジョルジュと一緒に過ごした夏は、希望で溢れていた。
ジョルジュがいなくなった後の夏は、絶望が渦巻いていた。
その後数ヶ月の間は、特になにもなかったよ。希望も絶望も。
でも、僕は新たな希望を見つけたんだ。それは――僕としぃとの間に生まれた可愛い娘、つー。
つーがいれば僕は一生頑張れるような気がするよ。
そしたら、ジョルジュとの約束は守れそうだ。あの曲の最後のように、希望をもって生きぬける。
だから、ジョルジュ。お前はゆっくりと休んでくれ。休むのが飽きたなら――また一緒にバンドを組もう。
そのときは、僕がそっちへ行くまで待っててくれないか。いつも申し訳ないな。
最後に――本当にありがとう、ジョルジュ。



288: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:44:44.68 ID:DXpNuSU90

僕はゆっくりと空を見上げる。
そこには、雲ひとつない夏の空が広がっていた。

「夏も意外と悪くないかな」

そう僕が呟いた瞬間、隣の部屋からしぃがやってきた。

「あら、今なんて言ったの?」

「いや、なんでもないよ」

僕らは静かに、笑った。



292: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:45:58.29 ID:DXpNuSU90

それにしてもこんな昔話を実の娘にするなんて、ひどいお父さんにもほどがあるな。
いや、待てよ。そもそも、つーが「悲しいから?」なんて言い出すからいけない――え?

僕は昔、こんな感じの体験をしたことがあるぞ。
そう、あれは……ジョルジュ。ジョルジュと一緒にいたときのことだ。
バンドを組むのに踏み切れない僕に対して、ジョルジュが僕の感情を読み取った。
それと同じ感覚だ。

僕は少し考え込む。
隣でしぃが「どうしたの?」と聞いてくるが、無視をする。

僕が適当な理由をつけたのに、つーはそれを見破った。
僕はそれを子供の直感だと思ったが、まさか――

僕は急いで書斎からジョルジュの遺書を取り出す。
それを何回も読み返す……あった。



299: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:48:03.59 ID:DXpNuSU90

「しぃには本当に申し訳ないことをしてしまいました。
本当は何回謝っても足らないくらいなのですが、この書面をもってもう一度謝罪します。」


ここだ。
僕はこれを、あの音楽室での出来事だと思っていた。しぃが倒れてしまったときの。
だが、それなら僕とクーさんも同じことをされたから、しぃだけに謝るのはおかしい。
まさか、本当に申し訳ないことっていうのは――

僕はつーを見る。すやすやと寝息を立てている。可愛い寝顔だ。
しかし、よく見ると僕に似ているところは全くない。
パッチリした目と、赤く染まった頬は、しぃによく似ている。そして、いつも元気な声を発するこの口は――



314: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:50:21.51 ID:DXpNuSU90

僕はしぃを見る。しぃは僕を見て微笑んでいる。
そして、そのしぃの左手の薬指にはあの指輪がはめてある。
なあ、しぃ。
その指輪の裏にはなんて彫ってあるんだっけ?
なんでつーは俺に全く似てないんだろうな?
なんでつーには――ジョルジュと同じ力があるんだろうな?



322: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:52:37.37 ID:DXpNuSU90

ジョルジュ、最後にもう一度だけ独り言を言わせてくれ。
あの曲には、続きがあったんだな。驚いたよ。
希望の後に絶望。そして、新たな希望。ここまでだと思っていたよ。
まさか、その続きに――新たな絶望があったなんて。
なあ、ジョルジュ。やっぱりお前が約束を破ったんだな。
だって、お前の力――しっかり受け継がれているぞ。



334: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 22:55:00.60 ID:DXpNuSU90

僕は再びしぃを見る。そして寝ているつーを見る。
僕はどうすればいいんだろうな。ああ、やっぱり夏って嫌いだよ。
だってまた新たな悲しみが生まれてしまったからね。

なあ、僕はどうすればいい?
この力はまた回りを不幸にするのかな?
いや、もうすでに――不幸になった人がいるみたいだ。

僕はゆっくり、しぃとつーを両手で包み込んだ。


(´・ω・`)ショボンが悲しい夏を振りかえるようです END



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