('A`) ドクオが家出をするようです

461: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 23:52:22.78 ID:DXpNuSU90

('A`) 「なあ、ここにいてもいいよな?」

/ ,' 3 「勝手にせい」

こうして俺とジジィとの奇妙な生活は始まった。

俺はしばらくの間、周りを観察することにした。
周りを見ると、沢山の店がある。どれもジジィと同じホームレスのようで、ここはどうやらホームレスの出店通りとなっているようだった。
こんなところに人は来ないだろ、と思っていた。しかし、俺の予想に反して、ここの通りは大繁盛だった。
若い男女が中心となって、ここにやってくる。そして、ホームレスとか関係なく、楽しげに話して買い物をしている。

('A`) (まさかこんなところがあるなんてな。それにしても……)

/ ,' 3 「……」

このジジィ、ここに来てからずっと寝てやがる。
ダンボール箱だけ置いて、その上には一切の商品を置かないで。
当然、客なんて来るはずがなく、なにもない時間だけが過ぎていった。

('A`) (あー暇暇暇。おっ、誰かこっちにきた)



463: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 23:54:30.78 ID:DXpNuSU90

それはちょっと太った、人の良さそうな青年だった。
さきほどからこの通りを楽しそうに見ていて、ちょっと人目を引くものがあった。
そして、なにもないこの店にも寄ってきた。

( ^ω^) 「おいすー、この店はなんの店ですかお?」

/ ,' 3 「……」

('A`;) 「おい、ジジィ。客だぞ」

ジジィは全く起きる様子を見せない。全く呆れたやつだ。
しょうがないから、俺が相手をしようかな、と思ったそのとき、相手の様子が変わった。

( ;ω;) 「うっ、うっ、最近は良いことないお。ゲーセンに行ったら絡まれるし、彼女には冷たくされるし、店の人にもシカトされるお……」

('A`;) 「おいおい、泣くなよ。百円あげるからさ」

( ^ω^) 「おお! 君はなんていい子なんだお! 百円、ありがたく頂戴いたしますお!」

そう言うと、そいつは百円を受け取ってどこかへ行ってしまった。
なんなんだ、一体。
それにしてもこのジジィ、客がきても起きようとしないで、なんでこんなところに店を出してるんだ?
俺は段々とこのジジィを怪しむようになっていた。



469: >>467僕の感情を読まないでください>< ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 23:57:42.81 ID:DXpNuSU90

結局その日、夜になって通りに人がいなくなるまで、ジジィはずっと寝ていた。
ジジィにずっと張り付いて、俺は帰るタイミングを逃してしまった。仕方がないので、俺はまた、目を覚ましたジジィと一緒にテントに戻る。

晩飯は親子丼だった。
思ってたより、豪華な食事。昨日の昼からなにも食ってない俺は夢中で食べた。
そして、食べ終わったところでジジィに話しかけた。

('A`) 「あのさー、なんで店出してんの?」

/ ,' 3 「生活のためじゃ」

('A`) 「つってもずっと寝てたじゃん」

/ ,' 3 「昼間は寝るもんじゃ」

('A`) 「それに商品もないし……って、お、あるじゃん」

俺は、昼間ジジィが持っていたダンボールの上に指輪があるのを見つけた。なかなか綺麗だ。
俺はそれを手に取ろうとする。しかし、あと少しのところで手に痛みが走り、俺は思わず手を引っ込めた。



472: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/23(土) 23:59:53.47 ID:DXpNuSU90

/ ,' 3 「それに触るな」

('A`) 「なんでだよ」

/ ,' 3 「それは私の妻の、指輪だ。商品ではない」

その妻はどうしたんだよ、と喉まで出かかったが、あまりに不謹慎な発言だと気づいて、俺は聞くのをやめた。
その後、俺が眠ろうと寝転がってからも、ジジィはずっと眠る様子はなかった。なにをしているのかチラッと見たが、途中で俺はやっぱり眠りに落ちてしまった。

次の日もやっぱり、ジジィは店を出す。
それでもやっぱりジジィは寝ているばかりで、俺はその隣りでボーっとしているだけだ。
しかし、俺がボーっとしていると、一人の高校生くらいの兄ちゃんが目に入った。ずっとこっちを見ている。

('A`) (あ、こっちに来る……)



477: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:02:33.54 ID:aEMZ1DZU0

その兄ちゃんは困った表情をしながら、いや、もともとの顔の作りなのだろうか、こっちへ向かってくる。
そしてやっぱりこの店の前で止まると、昨日の青年と同じことを言う。「すいません、ここは何のお店ですか?」と。

/ ,' 3 「……」

それでもやっぱりジジィは反応しない。
俺は昨日のことみたいになっちゃかなわんと思い、兄ちゃんに早めに声をかけた。

('A`;) 「あー、お兄さん。そのジジィいつも寝てるから気にしないで」

するとその兄ちゃんは更に困ったような顔をしながら、俺のほうを訝しげに見ている。
なんだよ、文句あるか、と言おうとした。
だけど、中学生くらいの子供がホームレスのジジィの出店の店番をしている光景を見ると、やっぱりそういう目で見るんだろうな。
その兄さんもこの店に興味をなくしたようで、店から離れようとした。その時――

/ ,' 3 「待たれい。そこの兄さん」

今まで寝ていたジジィが突然立ち上がった。
俺はいきなりの展開に驚いた。このジジィ、起きるときがあるとは。
立ち去ろうとした兄ちゃんも驚いたようで、歩きかけていた足を止める。「えーと、なんでしょうか?」と情けない返事。



482: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:05:23.18 ID:aEMZ1DZU0

/ ,' 3 「なーに、この店に興味があってきたんだろう? 今すぐ商品を出すからちょっと待ってなさい」

普段全く客の相手しないくせに良く言うよ、このジジィは。
俺が呆れた目でジジィを見ていると、ジジィはカッターを取り出し、ダンボール箱にゆっくりと縦に筋をつけていった。
そしてゆっくりと開けられたダンボール箱の中には―― 昨日の指輪が入っていた。

/ ,' 3 「どうじゃ。これは年代物の指輪じゃぞい。本物のルビーを使っておる」

('A`;) 「おいおい、ジジィ。それは――」

/ ,' 3 「黙れ小僧。どうじゃ、そこの少年。三千円で売ってやろう」

相手の兄ちゃんは困っているようだった。
そりゃ、そうだ。いきなりこんなものを三千円で売ってやるだなんて。なにか裏があると思うだろう。
それにしても、このジジィ。昨日は俺に、触るな、商品じゃないって言ったばっかりなのに。早速売りに出すのかい。
しかも、すごい大事そうにしてた。
妻の指輪、と言っていたが、おそらく形見かなんかだろうか。それを三千円で売るなんて馬鹿げてる。
そんなことを考えている俺をよそに、ジジィはどんどん相手の兄ちゃんを落としにかかっている。



485: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:08:04.78 ID:aEMZ1DZU0

/ ,' 3 「少年、わしはこれを気に入ったものにしか売らぬ。もちろん裏はあるのだが、今買わなきゃこれは一生手に入らないと思いなさい」

巧みな話術だな。
相手の兄ちゃんも悩んでいるようだったが、少し経つと、財布を取り出して、千円札を三枚ジジィに差し出した。

/ ,' 3 「毎度ありじゃ、少年」

('A`) 「あーあ。知らねえぞ、ジジィ」

ジジィは札を確認すると、兄ちゃんに指輪を手渡した。
そしてその兄ちゃんは指輪をポケットにしまうと、一礼して立ち去っていった。
すると、ジジィは小さな声で一言呟いた。



489: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:10:09.58 ID:aEMZ1DZU0

/ ,' 3 「その指輪、君にどのような影響を与えるかはわしにもわからぬ。だが大事にしておくれ」

('A`) 「……」

そしてジジィはダンボールを持って立ち上がり、もと来た道を辿っていった。
俺も黙ってついていくが、ジジィの異様な雰囲気に話しかけることはできない。
結局、無言のままテントまで歩いていった。

テントにもどると、ジジィは魂が抜けたようにボーっとしていた。
大事にしてた指輪を売ってしまったからだろう、売らなきゃいいのに。
ジジィに話しかけずらかったが、俺は押し寄せてくる好奇心には勝てなかった。



491: >>490「お前にサンが守れるか」 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:12:09.96 ID:aEMZ1DZU0

('A`) 「なあ、なんで売っちゃったんだ?」

/ ,' 3 「……」

('A`) 「あれ、大事な指輪なんだろ? 昨日見たぞ、ジジィが一生懸命指輪磨いてたの。あれを夜通しするために昼間寝てたんだろ?」

/ ,' 3 「見てたのか」

('A`) 「そんなことはどうでもいい。なんで売ったんだ?」

/ ,' 3 「わしはな、ただ眠るために店を出してたわけじゃない。あの指輪を譲るものを探していたんだ」

('A`;) 「寝てたら探せないだろ」

/ ,' 3 「わしはできるんだじゃ、小僧とは違うからな」

ジジィがとうとう訳のわからないことを言い出した。指輪のショックでボケたのか。
しかし、ジジィの表情はいたって真剣だ。俺はよくわからないけど、ジジィは嘘をついてないような気がした。
しばらく沈黙が続いた。すると、突然ジジィが口を開いた。
それはジジィの過去についてだった。



493: >>492すいません、自重します ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:15:00.09 ID:aEMZ1DZU0

/ ,' 3 「わしは若いころに妻をなくしてのぉ。そりゃもう絶望じゃった」

('A`;) 「なんで死んじゃったの?」

/ ,' 3 「妻の体は生まれつき弱くてな、耐え切れなかったんだ、出産に。あいつは自分の命と引き換えに、新しい命を産み落としたんじゃ」

('A`;) 「それで?」

/ ,' 3 「わしと妻は駆け落ち恋愛でな、両方の家族からは絶縁状態じゃった。わしは子供の育て方もわからん。頼る人もおらん。苦悩の末、子供を施設にあずけたんじゃ」

('A`) 「……」

/ ,' 3 「そして、子供も失ったときわしは気づいたよ。妻もおらん、子供もおらん、家族もおらん、友人もおらん。完全な孤独だってな」

そこでドクオは自分の環境を思い返した。
俺にはカーチャンとトーチャンがいる、プギャーもいる。それは当たり前のことだと思った。けど、ジジィのように孤独なやつも当たり前にいるんだ。



496: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:17:35.08 ID:aEMZ1DZU0

/ ,' 3 「そのとき、わしを支えたのは、生前妻がしておったあの指輪じゃ。あれはわしが渡した婚約指輪での。あいつはたいそう喜んだよ。三日しか指にはめることはできなかったが」

('A`) 「じゃあなんで売っちゃったんだよ」

/ ,' 3 「ある日気づいたんじゃよ、この指輪の孤独に」

('A`) 「……?」

/ ,' 3 「わしはこの指輪さえあれば生きていけた。しかし、この指輪は――わししか側にいない。可哀想じゃないか、こんなに綺麗で人を惹きつける輝きがあるというのに」

('A`) 「……」

/ ,' 3 「だから、わしはなるべくこの指輪を必要としてそうなやつに譲ることに決めた」

それがあの兄ちゃんか。
ジジィの決断は、自分の孤独を顧みないものだった。自分を孤独にしてまで、あの指輪を譲る必要があったのだろうか。
自分を孤独にして――今の俺も同じ状況じゃないか。俺も自分を孤独にしてまで、あの生活から抜け出そうとした。
それはなんで?後に残ったのはなに?
それは――寂しさ。



501: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:19:42.85 ID:aEMZ1DZU0

('A`) 「ジジィ……。指輪譲ってからどうよ?」

/ ,' 3 「……生きる希望をなくした。再び孤独になった」

('A`) 「俺も同じ心境だ。でも……」

ジジィには戻る場所がない。でも、俺には――戻る場所がある。
俺はジジィを本当に可哀想だと思った。そして、自分がなんて甘えていたんだろうと痛感した。
俺には支えてくれる人達がいるのに、それを跳ね除けたりして。俺は本当に馬鹿野郎だ。
今気づいた。当たり前のものは、一番大事なものだったんだ。

(;A;) 「うっ、うっ、うっ、みんなのところに戻りてぇ……」

/ ,' 3 「……わしが途中まで案内してやろう」

ジジィは俺を、一昨日祭りがあった場所まで連れてってくれた。
ここまで来れば俺にも道はわかる。俺はジジィに礼を言った。



506: >>503四行目だけ飛ばしてよみますた ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:22:55.21 ID:aEMZ1DZU0

('A`) 「ジジィ、ありがとな」

/ ,' 3 「なーに、気にすることはない」

('A`) 「いや、ジジィのお陰で少し自分を見つめなおすことができたよ」

/ ,' 3 「はっはっは。わしはなんもしとらんよ、というかむしろわしは孤独になっちまったがな」

('A`) 「はは、ありがとう、それじゃあ俺行くよ」

/ ,' 3 「ああ、気をつけるんじゃよ。お前はまだ若い。わしと違って未来があるんじゃから」

('A`) 「バーカ、ジジィもちゃんと未来はあるよ」

このとき俺らは初めてお互いの笑顔を見せた。
また、いつか会おうと約束をして、俺は自転車を――かっ飛ばした。



513: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:25:44.33 ID:aEMZ1DZU0

家に着いたのは夜中だった。
約三日ぶりの家。俺が家に入ると、トーチャンとカーチャンは泣きはらした顔で俺を迎えてくれた。
俺になにかあったのだろうと思って、俺が家出をした夜、警察に捜索届けを出してきたのだという。
そこまで俺を心配してくれていたのかと思うと、すごい嬉しかった。

次の日、俺はゆっくりと眠った。
ここ数日間の疲れをとるために。目が覚めて、リビングにいったのは夕方になってのことだった。
トーチャンは丁度夏休み期間で、今はニュースを見ている。そういや、最近ニュース見てなかったわ。どんなのがやってんだ?
俺はトーチャンの隣りに座って、ニュースを見ることにした。



516: >>514はい!>>515鬼才あらわる ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:28:05.15 ID:aEMZ1DZU0

アナウンサー 「それでは、次のニュースです。VIP県で起きている、連続ホームレス襲撃事件ですが、とうとう死者がでてしまいました」

('A`) (そういやジジィのとこも、そんな事件起きてるって言ってたな)

アナウンサー 「被害者の名前は、長岡スカルチノフさん、70歳です。長岡さんは胸など数箇所を刺されており……」

そう言って、画面にでてきた写真。
それは――

('A`) 「ジジィ……」

その写真はだいぶ昔のものだったが、俺にはすぐジジィだということがわかった。
その写真のジジィは、希望に溢れた表情をしていて――おそらく妻を亡くす前のものだろう。
おい、ジジィ。こんな表情もできんだな、アンタ。

俺は思わず、家から飛び出した。そこにジジィがいるような気がして。
でも、そこには当然ジジィはいなかった。でも、そのかわりにいたのが――



521: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:30:14.06 ID:aEMZ1DZU0

('、`*川 「あら、ドクオ。あんた行方不明になったんじゃなかったの?」

('A`) 「ペニサス……」

俺はジジィの言った言葉を思い出す。
なあ、ジジィ。俺には本当に未来があるのかな?
俺はそれを掴みにいっていいのかな?そこに本当の幸せがあるのかな?
俺はペニサスにゆっくりと近づいていった。

('、`*川 「……なに?」



529: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 00:32:21.40 ID:aEMZ1DZU0

なんだか警戒しているペニサス。いい返事は期待できないかもしれない。
だけど、俺は勇気を出して―― 一歩踏み出した。

('A`) 「なあ、今度俺と一緒に映画でも観に行かないか?」

ペニサスは驚いた表情を見せたあと――最高の笑顔を見せてくれた。


('A`) ドクオが家出をするようです END



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