\(^o^)/ オワタの映画がはじまるようです

3: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:16:06.97 ID:aEMZ1DZU0

\(^o^)/ オワタの映画がはじまるようです



\(^o^)/ 「人生オワタ」

僕がそのセリフを言うと、僕の体は谷底へと落ち、そして、ティウンティウンしてしまった。
今日何度目のティウンティウンだろう。本当にしんどいな、でもこれで最後だ。
ティウンティウンした僕の体は、ゆっくりと画面から消えていく。そして、アニメーションは――消えた。

上映が終わると、この映画を見に来ていた数少ない客たちは、眠たい顔をしながら出ていく。
いつものことだ。どうせ、上映中に寝てしまったんだろう。



4: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:19:27.74 ID:aEMZ1DZU0

僕は暗い画面の奥から、出て行く客たちの顔をただ眺めていた。
やっぱり客の反応は気になるさ。だって僕が主人公の映画だもの。
でも、反応はいつも芳しくない。
客が出ていくときに言う言葉は、どれも似たようなものだった。
「つまらなかったね」 「糞映画発見」 「お金損したわ」

最初のうちは、その言葉に悔しさを感じ、僕は一生懸命頑張ろうとした。
でも、所詮自分の意思では作品の中を動き回ることはできない。
僕が段々とやる気をなくしていったことは、簡単に想像できただろう。

今日のすべての上映を終えた僕は、映画の中の自分の家へと帰る。
上映している間は自由に動けないキャラ達も、上映が終われば映画の中を自由に動くことができる。



5: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:22:46.00 ID:aEMZ1DZU0

\(^o^)/ 「でも、それって全然嬉しくないんだよなぁ……」

ハァと溜息をついたそのとき、後ろから僕を呼ぶ声がした。

*(‘‘)* 「ちょっと、オワタ君。待ちなさいなのです」

\(^o^)/ 「……ヘリカルさん」

この人、いや、キャラはヘリカル沢近。
一応、この映画のヒロイン役だ。映画の中では、僕の恋人役にあたる。
ヘリカルさんは、上映が終わると必ず僕のところにやってくる。
別に僕のことが好きなわけじゃない。ただ、説教をしにくるだけだ。ほら、今日もまたその時間がやってきた。



6: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:27:10.96 ID:aEMZ1DZU0

*(‘‘)* 「今日のオワタ君は、いつも以上にひどかったんです」

\(^o^)/ 「……すいません」

*(‘‘)* 「オワタ君がやる気をだしてくれないと、この映画は人気でないのです。一応、あなたが主役なのですから」

\(^o^)/ (どうせ、自分の意思で動くことはできないのに……)

*(‘‘)* 「やっぱ見せ場でもっと頑張るべきなんです。オワタ君は、いつも見せ場になるとやる気をなくすんです」

\(^o^)/ 「見せ場、ですか……」

ヘリカルさんの説教はうざったいが、言ってることはもっともなことばかりだ。
今言われた「見せ場」というのは、恐らく僕が谷に落ちて死ぬシーンのことだろう。確かにあそこはクライマックスで大事な場面だ。
だけど、ヘリカルさんに言われたとおり、僕はいつもそこでやる気をなくす。その理由は簡単だ。僕は悲しいことが嫌いなんだ。



7: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:29:50.53 ID:aEMZ1DZU0

*(‘‘)* 「まあ、いいんです。また明日からは頑張るんです」

\(^o^)/ 「……はい」

ヘリカルさんが自分の家にもどっていったので、僕も自分の家に帰る。
自分の家につき、ベッドの上に座ると、再び大きな溜息がでた。

\(^o^)/ 「なんでこんなことになっちゃったんだろう」

そもそも僕が誕生したきっかけは、全く無名の漫画家によるものだった。
その漫画家は、作品の進みが悪いと、いつも他のことに逃げる癖があった。
タバコ、酒、テレビ。色々あるが、4コマ漫画を書くことで気晴らしをすることが一番多かった。
そして、その4コマの中で生まれたのが僕だった。
その漫画家は、僕を主人公にして4コマを書くときは、いつも明るい話題のものを扱ってくれた。
「このキャラの笑顔にあう内容を」と言って。



8: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:32:47.17 ID:aEMZ1DZU0

僕はこの4コマの中で生きているときが、一番楽しかった。
楽しい内容、面白いオチ。僕のキャラ人生はとても明るかった。
しかし、ある日、一人の男が漫画家の家に訪れてから、僕のキャラ人生は一変した。
その男は漫画家の男と同じく、売れない映画監督だった。どうやら漫画家の男とは古いつきあいらしく、とても仲良しに見えた。
漫画の男は、ほんの些細なキッカケで、僕が主人公の4コマを、その映画監督の男に見せた。
すると、映画監督の男はニヤリと笑って、こう言った。

「この笑顔で、悲惨なことをさせれば、そのギャップで笑いがとれそうだな」

映画監督の男は、漫画家の男に、「このキャラを是非映画で使わせてくれ」と頼んだ。
漫画家の男は、すぐに承諾したよ。僕なんてたいして思い入れのあるキャラじゃなかったんだろうな。
それからだ。僕のキャラ人生が悲惨なものに変わっていったのは。
毎日、トゲに刺されてはティウンティウンし、谷に落ちてはティウンティウンし、おまけに映画の評判は最悪。
小さな世界でも、あの楽しい4コマ漫画にいるときのほうが絶対楽しかった。
もちろん、僕は映画監督という存在を嫌いになっていったよ。



9: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:35:49.26 ID:aEMZ1DZU0

\(^o^)/ 「もうやめたい……。こんな映画にでるくらいなら存在しない方がましだった」

そんなことを思っても、必ず明日の上映はやってくる。
僕は明日にそなえて早く寝ることにした。サラリーマンみたいだ、と自嘲しながら。

次の日、僕は今日も映画の中で動き回る。
僕のやる気のなさは相変わらずだが、客の見る気のなさも相変わらずだ。
しかし、今日は少しだけ様子が違った。
熱心に映画を見ている客がいるのだ。それも二人。
片方は男で、片方は女。ガラガラの映画館の中で、隣りに座っているところを見ると、カップルだろうか。

僕がドジな行動をすれば、二人は笑い、緊張したシーンになると、二人は息をのむ。
これほど、真剣に見てくれる客がいると思うと、僕のテンションも次第にあがっていった。



11: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:39:00.03 ID:aEMZ1DZU0

\(^o^)/ 「人生オワタ!」

僕は、そう言うと谷底へ落ちて、ティウンティウンしてしまった。
その瞬間の、二人の顔には――涙の筋がついていたなぁ。

夕方になって、今日の上映がやっと終わった。
そして恒例のイベント、ヘリカルさんが僕のほうにやってくる。
しかし、今日のヘリカルさんは、僕に一切説教をしなかった。

*(‘‘)* 「今日のオワタ君、良かったんです」

\(^o^)/ 「え? え、あ、ありがとうございます」

*(‘‘)* 「今日みたいにいつもやってくれれば、きっとこの映画も人気が出るんです。一緒に頑張るのです」

\(^0^*)/ 「はい! 頑張りましょう!」

僕のテンションはたった一日で変わった。
それもこれも、あの二人のカップルのお陰だ。本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。



12: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:42:00.11 ID:aEMZ1DZU0

それからの僕は、毎日一生懸命頑張るようになった。
すると、今まで眠るようになっていた客も、だんだんと映画を見てくれるようになった。
日に日に客足も増えていき、良いときでは座席の半分以上が埋まることもあった。

それからの僕の毎日は、少しだけ楽しくなった。
毎日、毎日同じことの繰り返しだけど、客は毎日違う。僕は、客の表情を変化させることに快感を覚えた。
しまいには、僕をこの映画に採用した、あの映画監督にさえも好感を抱くようになっていた。

しかし、不幸はある日突然訪れる。
その日も、僕はすべての上映を終えて、出て行く客の表情を見ているところだった。
そして、客が全員いなくなったところで、映画館の清掃係がやってくる。今日は二人の男の人だった。
そして、その二人の男は信じられないことを話していた。



13: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:44:44.01 ID:aEMZ1DZU0

清掃の男A 「なあ、知ってるか?」

清掃の男B 「ん? なにが?」

清掃の男A 「ん、いや。実はこの映画、残り3週間の上映期間あるんだけどさ」

清掃の男B 「うん」

清掃の男A 「なんでも、人気がなさすぎて明日に打ち切られるらしいよ」

\(^o^)/ (……打ち切り?)

その言葉は、漫画家の男の家にいるときに、よく耳にした言葉だ。
漫画家の男が、その言葉を聞くたびに悔しそうな表情をしていたのを覚えている。
あの時は、僕は漫画家の男を慰めるためにいたが――まさか自分が打ち切りにされてしまうなんて。
再び、その二人に会話に聞き入る。



15: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:48:34.37 ID:aEMZ1DZU0

清掃の男B 「あーあ、それにしてもこの映画を作った監督可哀想じゃない?」

\(^o^)/ (そうだ……あの男も悔しい思いをしているはずだ)

僕は、映画監督の男を思い出す。
映画を作っているときは、すごく一生懸命だった。そして、完成したときは飛び切りの笑顔だった。
あの男が、悔しがらないはずがない。
しかし、僕の期待をよそに、問いかけられた清掃員の男は、信じられない言葉を口にした。

清掃の男A 「いや〜、それがね。その監督のほうからお願いしたらしいよ。「こんなくだらない映画は打ち切りにしてください」って」

清掃の男B 「まじかよ!? うわー性根の腐ったやつだな」

\(^o^)/ (……)



18: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:51:36.86 ID:aEMZ1DZU0

そのあと、二人の清掃員は他の話題に移っていった。
僕は呆然と立ちすくむ。
信じらなかった、映画に対して一生懸命だった、あの映画監督の男がそんなことを言うなんて。
僕は、再び――映画監督という存在が嫌いになった。

僕がトボトボと家に帰っていると、突然目の前にヘリカルさんが現れた。

*(‘‘)* 「この映画、明日で終わるって本当なんですか……」

\(^o^)/ 「……本当みたいです」

僕がそう言うと、ヘリカルさんは悲しい表情をして、俯いてしまった。
やっぱり、自分が出ている作品が打ち切られてしまうのは悲しい。ましてや、最近はこの作品に出ることに面白みを感じてきていたというのに。



21: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:54:40.51 ID:aEMZ1DZU0

*(‘‘)* 「悲しいのです……」

\(^o^)/ 「……」

今までの僕なら、ここで同調して一緒に悲しんでいただろう。
でも、僕はあの二人のカップルを思い出して、少し勇気がわいてきた。

\(^o^)/ 「明日で終わりになるのはしょうがない」

*(‘‘)* 「そんな! なにを言ってるのですか!」

\(^o^)/ 「なら、明日の上映は最高のものにしませんか?」

*(‘‘)* 「……」

\(^o^)/ 「明日で終わりだから、悲しむ。ではなく、明日で終わりだから、一生懸命にやりましょう。後悔しないように」

*(‘‘)* 「……うん!」



25: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 16:56:51.87 ID:aEMZ1DZU0

僕とヘリカルさんは、指きりげんまんをした。
明日は、絶対最高の上映にする、って。
その後、僕とヘリカルさんは、そのままそれぞれの家にもどった。

\(^o^)/ 「明日……やっぱり怖い」

\(^o^)/ 「でも、絶対最高の上映にしてみせる!」

僕は今までにないくらい、この映画に対して一生懸命な気持ちになっていた。
これが、最初からできたなら。何度思ったことだろう。
しかし、もう過ぎてしまったことはしょうがないんだ。
だって、もうすぐに明日はやってくるのだから――



28: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 17:00:27.08 ID:aEMZ1DZU0

次の日、僕とヘリカルさんは一生懸命になって、映画の中を駆け回った。
この映画館のオーナーも、「打ち切りセール」と称し、この映画のチケットを半額で売っていた。なので、客席も毎回満席だった。
そして、いよいよ最後の上映がやってきた。

*(‘‘)* 「これで……最後なんですね」

\(^o^)/ 「……はい」

*(‘‘)* 「私ははじめ、オワタ君に好感が持てませんでした。いつもやる気のない態度にイライラもしました」

\(^o^)/ 「……すいません」

*(‘‘)* 「でも、日を追うにつれて、オワタ君は一生懸命頑張るようになりました。好感ももてるようになりました。そして、特に昨日のオワタ君は――かっこよかったです」



30: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 17:02:41.07 ID:aEMZ1DZU0

\(^0^*)/ 「……はい」

*(‘‘)* 「それじゃあ、最後の上演、頑張りましょう」

\(^o^)/ 「はい!」

こうして僕らの最後の上演はやってきた。



32: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 17:05:02.93 ID:aEMZ1DZU0

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            \(^o^)/ 今オワタが会いに逝くよー      (凍宝)


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客席からは、冷めた笑いが起こる。やっぱりこの映画はイロモノ扱いされてるんだな。
でも、話が進むにつれて、客のみんなも真剣にこの映画を見るようになっていた。
そして、話はとうとうクライマックスへ――



34: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 17:07:54.76 ID:aEMZ1DZU0

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 オワタ……私はあと三日で死ぬの>*(‘‘)*      \(^o^)/<な、なんだってー!


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 最後に綺麗な山の景色が見たい……>*(‘‘)*     \(^o^)/<わかった!


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37: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 17:10:46.85 ID:aEMZ1DZU0

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 綺麗、ありがとうオワタ>*(‘‘)*     /(^0^)\<フッジサーン、どうだい?ヘリカル?


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 ありがとう…さような…ら>*(‘‘)*   \(^o^)/<なんてこったい!こうなったら僕も死ぬ!


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40: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 17:12:50.70 ID:aEMZ1DZU0

映画の中の僕はそう叫ぶと、一目散に谷に向かって走り出した。
僕は、走っているうちに段々と目頭が熱くなってきているのがわかった。もうこれで終わりなんだな、本当にこれで終わりなんだ――
僕は最後に一言呟いた。

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                \(^o^)/ 人生オワタ


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43: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 17:15:17.08 ID:aEMZ1DZU0

上映が終わると、客はみんなさっさと席をたってしまった。
だけど、みな笑顔である。
客がみんないなくなったな、と思ったら、まだ二人客席に残っているのを見つけた。
片方は男で、片方は女。カップルだけど、どうもこの間のカップルとは違うようだ。
そして、男のほうがゆっくりと立ち上がってこう言った。

「この、映画……。最高だな」

ありがとう、本当にありがとう。
あれ、段々と眠くなってきたよ……。おかしいな、目が開けられない……。
ああ、わかった。もう、打ち切られたんだな……。ごめん、最後に一言だけ言わせて……。

じんせい……おわ……た

そして僕は長い眠りについた。



45: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 17:17:57.54 ID:aEMZ1DZU0

長い長い闇。
僕という存在は、すでにこの世から忘れ去られていた。
誰も、覚えていない。なんて悲しいことだろう。僕はきっと永遠に目覚めることはないだろう。
そのときだった、広がる闇の中に―― 一筋の光がさしこんだ。

「あれ……この映画、懐かしいな。十年ぶりだ」

どこか聞き覚えのある声だ。不思議と安らぐ。

「うん、俺の監督初作品、これのリメイクにしよう」

え……?今、なんていった。
リメイク?もしかして、僕はもう一度蘇ることができるのかい?



47: 1 ◆bAt3E3sVXo :2007/06/24(日) 17:20:27.92 ID:aEMZ1DZU0

この男、おそらく駆け出しの映画監督だろう。
映画監督――なんと憎い存在だろうか。
だけど、今はとても、この男のそばにいると安心できる。

なあ、君顔を見せてくれないか?
君は一体誰なんだい?

光が闇を完全に照らしだしたとき――その男の顔を見ることができた。

君はあのときの――

僕の人生、ハジマタ


\(^o^)/ オワタの映画がはじまるようです END



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