( ^ω^) の最高速度は215キロのようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:23:45.76 ID:v26kqxz/0

蒸気機関が発明され、大量の輸送が列車により可能となった。

すぐさま工場が乱立し、製品の大量生産が求められ多くの工員が生まれた。

しかし、人々はそれだけでは飽き足らず

もっと軽量でもっとコンパクトでもっと力のある機関を開発していく。

そして、内燃機関が発明された。

内燃機関により人類の悲願であった空を飛ぶ機械が出来上がった。

そしてこれは、庶民の生活にまだ飛行機が浸透するかしないかの頃のお話。



            ( ^ω^) の最高速度は215キロのようです。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:26:40.87 ID:v26kqxz/0

航空機メーカーが乱立し、各社が最大限の技術を注ぎ込み性能を高めていく。
けれども、まだ飛行機の方向性が決まっておらず、また性能を表す基準も無かった。

そこで各社が思いついたのが飛行艇によるレース、VIPカップへの参加。
当時はまだ、アマチュア達が自らの技術だけで参加する、いわばお祭りだった。
しかし、VIPカップの優勝者は新聞の一面に載り広く知れ渡り、近隣諸国にまでそれは及ぶ。
自社の航空機技術をアピールするために、各社の精鋭たちが腕を奮ってフラッグシップモデル開発にいそしんだ。


木の根っこのように入り組んだ川を持つニューソクシティ。
その川沿いに建っている無数の家屋の中の一つ。
というよりは、歴史はあるが風格が無いといった倉庫に二人はいた。

( ^ω^)「おいすー、ドクオ。調子はどうだお。」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:28:29.49 ID:v26kqxz/0

 ('A`)「んああ?ブーンか。遅いじゃねぇか。
    せっかくエンジンのセッティングができたってのによ。」

( ^ω^)「じゃあ、早速機体に取り付けるお。」

 (:'A`)「一言ぐらい遅くなったことを詫びろよ。そして簡単に言うなよ。」

( ^ω^)「すまんこ、すまんこだお。そんなことより、早く取り付けるお。
      今ならまだVIPカップの下見ができるお。」

少しぽっちゃりした青年はブーンという。
顔色の悪い貧相な体格はドクオだ。


この二人にはお互いに共通していることがある。
それは、彼らの一番古い記憶はVIPカップを間近で見ていたということ。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:30:49.07 ID:v26kqxz/0

この二人にはお互いに共通していることがある。
それは、彼らの一番古い記憶はVIPカップを間近で見ていたということ。

そのときの年齢ははっきり覚えていないが
赤い飛行艇と青い飛行艇がデッドヒートしていたことをよく覚えている。

 ('A`)「ああそうだな。もう一週間もすると立ち入り禁止になっちゃうからな。」

( ^ω^)「参加する人たちは何回も飛んでるお。
      僕達も一回は飛んどかなくちゃ本番で周回遅れになっちゃうお。」

 ('A`)「周回遅れなんてみっともなくてたまんねぇからな。
    俺らが憧れた青い飛行艇はそんな無様な真似はしないよな。」

(♯^ω^)「なに言ってんだお。僕が憧れたのは赤い飛行艇だお。
       あんな気障ったらしい青なんか憧れないお。」

 (♯'A`)「んだと。あの青色は空の色だぞ。お前、空の色を馬鹿にすんのかよ。
      そっちこそなんだよ。あんな破廉恥な色を自慢げに見せてる奴のどこがいいんだよ。」

(♯^ω^)「うっさいお。大体あのレースで優勝したのは赤い飛行艇だお。」

 (♯'A`)「なに言ってんだよ青い飛行艇に決まってんじゃねぇかよ。」

幼い頃の記憶はとても曖昧で、ほんの一瞬の場面しか覚えていない。
ブーンとドクオはそれぞれの憧れている飛行艇が、相手を抜いてるときのことしか記憶していなかった。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:33:54.22 ID:v26kqxz/0

そのせいで、毎度毎度あのレースでは赤が勝った、青が勝ったと言い張っている。
いつも通りお互いを罵り合っているとき、入り口から髭を生やした男が日光と共に入ってきた。
男は鳥打帽を無造作にかぶりオーバーオールを着ている。
  _
( ゚∀゚)「邪魔するよ。お前らまたやってんのかよ。いい加減どっちでもいいじゃないかよ。」

いつも、笑っているような顔をしているのが、今日はいつにもまして頬が緩んで

( ^ω^)「ジョルジュさんこんにちわですお。」

 ('A`)「こんちわジョルジュさん。」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:36:22.78 ID:v26kqxz/0
  _
( ゚∀゚)「俺が貸してやったエンジンどうよ。中々調子いいだろ。」

 ('A`)「はい。おかげで今回のレースではいい線いけそうですわ。」

( ^ω^)「マジ感謝だお。ジョルジュさんのおかげでVIPカップ出れるようになったんだお。
      エンジンは高くて買えないから今回は諦めかけてたんだお。
      絶対優勝してトロフィーをこのジョルジュ工場に飾るお。」
  _
( ゚∀゚)「そうかそうか。そいつは頼もしいな。でもな今回のVIPカップはちと厳しいかも知れんぞ。
     ラウンジとか801とかの、名の知られていない中堅どころのメーカーが、会社を上げて参加するって話だからな。
     噂だがラウンジの新型機は250キロでるって話だぜ。」

 (;'A`)「まじっすか?このエンジンだと、どれくらい出ますか。」
  _
( ゚∀゚)「そうだなぁ。これだと上手く機体と合っても220がいいとこかな。
     でも噂だから心配すんなよ。この機体だって中々よくできてるぜ。
     俺が解体した飛行艇の寄せ集めだったとしてもな。うひゃひゃひゃ。」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:38:36.10 ID:v26kqxz/0

この三人が出会ったのは今から半年前のことだった。
学校帰りにいつものごとく、どっちの飛行艇が勝ったのかを言い争っていたとき
ジョルジュが話しかけてきたのだった。
そのとき、話の流れから二人はジョルジュにVIPカップへの想いを語った。

( ^ω^)「あそこは、ヒーローの集まりだお。男の夢だお。
      特に僕が見た赤い飛行艇は、最高のヒーローだお。」

 ('A`)「あれを見て興奮しないのは男じゃないですよ。
    俺が見た青い飛行艇は、俺の目標ですよ。」

それを聞いたジョルジュはどんな具合か、二人を気に入りVIPカップに参加することを促した。
訝しがる二人だったが、ジョルジュが営む飛行艇の修理解体工場に案内され言われた。
  _
( ゚∀゚)「この中から何でも、もっていっていいからよ、お前らで飛行艇作って出場してみろよ。
     エンジンは俺が持ってるのを貸してやるからよ。一から作るより簡単だと思うぜ。
     それに場所はここ貸してやっからよ。汚さなければ好きに使っていいぜ。」

そこには、ぼろぼろになった飛行艇が、山のように積んであった。
それをみたブーンとドクオは、その山から可能性を見つけ出した。
知り合ってまだ一時間足らずのことだったが、二人はすぐさまジョルジュに感謝し
VIPカップへの参加を決めた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:40:26.86 ID:v26kqxz/0

それ以来、ジョルジュとの親交ができ、今ではちょくちょくお互いの家を行き来したり
隣にあるもう一つの工場からジョルジュが遊びにきたりする。

 ノパ听)「あんたぁぁー。またこんなとこでサボってんのかぁぁぁ!
      仕事つっかえてんだから早くもどってこぉぉぉい!」

ジョルジュが開けっ放しにしておいた扉から、鼓膜を振動させるの十分な声が聞こえた。
三人が一斉に声の発生源を見つめると逆光でシルエットしか見えないものの、
広い肩幅に、色気を感じさせない大きな乳房を持ち、フライパンが世界で一番似合うであろうと思われる女
ヒートが立っているのがわかった。
  _
(;゚∀゚)「今行くよ。」

 ノパ听)「早くこぉぉぉい。でなきゃアレするぞぉぉ。」
  _
(;゚∀゚)「ひぃ、じゃあなお前ら。絶対優勝しろよ。」

挨拶もそこそこにジョルジュは出て行った、



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:42:40.26 ID:v26kqxz/0

その場に取り残された二人は首をお互いの方向へ向けた。

(;^ω^)「相変わらずあの奥さん怖いお。」

 (;'A`)「あれは、フライパン一つで軍隊潰せるぞ絶対。」





 ノパ听)「あんたらぁぁ!ここ汚すんじゃないぞぉぉ!」

(;^ω^) (;'A`)「はっはい。」

神経を緩ませていた二人に怒鳴るヒート。
聞こえていたかと心配したが、すぐに戻っていったため安堵のため息を吐いた。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:44:49.38 ID:v26kqxz/0

なぜこんなに、ヒートを怖がるのか。それはヒートに関する噂が恐怖を煽り立てていた。
代金を渋る業者の事務所に乗り込んで行き、気の荒い男10人を相手に大立ち回りをしたり
ジョルジュの浮気現場に現れ、無言でジョルジュにアイアンクローをかけて
レンガの壁に後頭部を押し当てたまま50メートル走ったりと
数えればきりが無いほどだ。


(;^ω^)「びっくりしたお。取り敢えずエンジンつけるお。」

 ('A`)「そうだな。そんで下見行こう下見。」

気を取り直して二人は寄せ集めの機体にエンジンを取り付け、燃料やスロットルなどの配線を済ませた。
倉庫の入り口とは正反対の位置にある、シャッターをあげて飛行艇を川に浮かべ
操縦席に乗り込んでエンジンテストをしつつ、会場となる場所まで運んでいった。

早く空に飛ばしたいという気持ちはあったが、この地域での飛行は禁止されている。
はやる気持ちを、ほんの一瞬だけスロットルを目一杯押し上げ、プロペラの回転速度を
わずかな時間だけ早めることでそれを抑えた。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:49:27.22 ID:v26kqxz/0

会場は川が集結する場所で、そこは大きな湖といった感じだった。
周りの陸地ではすでに開催に向けて準備がなされており、屋台までもが開店していた。
出場者登録所まで飛行艇を持って行き、その場で審査をしてもらう。

 (,,゚Д゚)「おお、参加希望者かい?じゃあこの紙に名前と所属の会社名書いてくれ。」

( ^ω^)「僕ら会社で出るんじゃなくて、個人で出るんだお。」

 (,,゚Д゚)「そうか、ちょっと困ったな。今年から一応スポンサーの名前を入れるようになったんだ。
      お前らなんか手伝ってもらってる会社とか工場とか無いか?」

 ('A`)「そっすか。じゃあジョルジュ長岡工場でお願いします。」

( ^ω^)「そうするお。じゃ登録よろしくお願いしますお。」

 (,,゚Д゚)「おう、長岡さんとこか。気ぃつけてな。ほい、コース図。」

( ^ω^)「ジョルジュさん知ってるんですかお?」

 (,,゚Д゚)「ああ、よろしく言っといてくれ。わかってると思うが当日は三週だからな。
      それと下見の最高速度は100キロ以下だかんな。」

 ('A`)「了解っす。」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:51:36.59 ID:v26kqxz/0

軽い応対の後、受付の男からコース図を受け取る。
それを確認してから、二人の飛行艇は300メートルほど水上を走った後、離水していった。
初フライトだったが、そのスピードからか、さほど興奮はしなかった。

( ^ω^)「うぇっうぇっ、飛んでるお。」

 ('A`)「たりめーだろ、俺が設計したんだから。」

( ^ω^)「スクラップを寄せ集めただけじゃないかお。それで設計ってww」

 (♯'A`)「お前一人で参加したいのか……」

(;^ω^)「正直すまんかった。」

伝声管を通して話す。そして、一分弱で飛行艇はコースに入った。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:55:10.70 ID:v26kqxz/0

VIPカップは川に沿って飛んで行くのだが、毎年コースが違う。
はっきりとしたコースがあるわけでは無いのだが、チェックポイントをたどっていくと形式により、おのずと一つの道になる。

空中からは、工場や学校、他にも建設中なのかレンガが規則正しく山になっているのも見える。
赤や褐色といった暖色系の民家と、それと同じぐらいある灰色の工場がこれからの技術に対する期待に応えているようだった。

一週目はそういった景色に目を取られていた。
自分達が生まれて、育った町を空から一望する。
せせこましく建物が乱立し、煙を吐き、荷物を積んだ船が行きかう。
それはとても広いように思えたが、どこか寂しく、そしてどこか遠くに行ってしまうような思いが湧いて出てきた。

何か大切なもの、そう水筒なんかを忘れて遠足に出かけてしまったような不安。
そんな感覚を二人は空で味わっていた。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 02:57:50.30 ID:v26kqxz/0

何回も飛び回り、気を取り直したドクオが、コースの特徴をノートにつけていく。
そして何週目か回ったとき、ある場所が目についた。
川から陸にコースが変わる場所なのだが、船を通すためのトンネルがある。
飛行艇が一機通れるぐらいの狭いトンネルだった。
コースを一周し、またそこにきたときドクオがブーンに伝える。

 ('A`)「おいブーン、ちょっとここで着水してくれ。」

( ^ω^)「おっ、どうしたんだお。」

 ('A`)「いいから、着水してくれ。確かめたいことがある。」

ドクオの言葉を聞き、わけのわからないまま着水する。
少し水しぶきが顔にかかった。


 ('A`)「なあ、ここのトンネルってさ、どこに続いてんだちょっと進んでみようぜ。」

( ^ω^)「了解したお。」

飛行艇を川に浮かべたままトンネルの中へと入っていく。
エンジンの轟音とプロペラの空気を切り裂く音がこだまして、皮膚を刺激する。
10分程、右に左に曲がっているトンネルを進むと、前方に太陽の明かりが見えてきた。
明かりの見える方向へと機体を進ませる。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:02:01.32 ID:v26kqxz/0

トンネルを出るとそこは、レースのチェックポイントだった。
まさかと思いドクオが慌てて地図を確認すると、大幅にショートカットができる。

それに気付き、少し興奮し早口になりながらもブーンに伝えた。

 ('A`)「おいブーン。ここかなりタイム縮められるぞ。
     川に沿っていくと、大きく回る所だけどここ入っていけばショートカットになるぞ。」

( ^ω^)「マジかお。でもそれだったら、ここに入らなくても上を飛んでけばいいんじゃないかお。」

 (;'A`)「お前大丈夫かよ、ルールブックぐらい読んどけよ。建物の上を飛ぶのは禁止されてるだろ。」

( ^ω^)「そうだったお。忘れてたお。」

本当に忘れていたのか元から知らなかったのか、ドクオには判別の仕様が無かった。
しかし、それよりもこの発見はそれを咎める隙間も無いぐらいにドクオの頭を占めていた。
優勝する気持ちはあるものの、実際は初参加の自分達が可能とは思っていなかった。
だからこそ、優勝への近道であるこの発見は大きかった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:04:34.20 ID:v26kqxz/0

 ('A`)「ここ、通っていけば俺らの飛行艇でも優勝できるんじゃないのか。」

考えを自分から切り離して、より客観的なものにしようとブーンに尋ねる。
だけれども、ブーンの返答はドクオにとって意外なものだった。

(;^ω^)「ドクオこそ大丈夫かお。飛びながらあそこ通るなんて自殺行為だお。
      僕はアクロバティックの操縦者じゃないんだお。」

 (;'A`)「ん、そういやそうだな。いやいやでも物は試しじゃないか。
      どうだブーン。俺見ててやっからお前ちょっと飛んでこいよ。」

(;^ω^)「いやいやいや。そんなこと言うドクオこそ飛んできたらいいお。」

 (;'A`)「いやいやいやいや。出場するのはブーンだろ。」

結局、飛ぶには狭すぎるということでこの案は却下になった。
もう1週ほどして空を見上げると、日が落ちる方には薄く雲が広がっている。
雲は夕暮れ時のオレンジ色した光を受け、それを伝えようとしているかのように
自身がオレンジ色に染まり空の青さと混じっていた。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:08:03.56 ID:v26kqxz/0

( ^ω^)「そろそろ帰るお。」

 ('A`)「んだな。もう10分もすれば沈むな。」

飛行艇を川に着水させ、タキシングしながら戻っていく。
青から紫、そしてオレンジに色を変えていく空を見ながらゆるゆると進んでいく。

二人は機体の上から町並みを眺めていた。
大きなフランスパンを袋から覗かせる人。
ボールを持って走り回る子供達。
少しだけ背を丸めながら、バーに入っていく男。


今いる場所と、それを飾る時間に、どこか違う世界へ来てしまいもう戻れない風景を眺めるような
そんな郷愁的な気分になりながら二人は倉庫へと帰っていった。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:11:02.11 ID:v26kqxz/0

次の日の学校。ブーンとドクオの教室は違う。
ドクオは休み時間も授業も、ボゥっと窓から空を見ていた。
今度の日曜日にはVIPカップに出れるのだという期待もあったが、何故かいつも話している友達とは話す気になれなかった。


特に学校でこれといった出来事も無く、また何をしたのかもわからないまま下校の時間になった。
鞄にノートや教科書をしまいこんで、のろのろと席を立つ。
開け放しにしてある教室の扉を出て、ブーンを迎えに行こうとしたとき、クラスの女子が話しかけてきた。

 (*゚ー゚)「ねぇドクオ君。昨日さ飛行艇に乗ってたよね。青い奴。」

 (;'A`)「えっ、んああ、はいそうです。」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:14:47.47 ID:v26kqxz/0

急に声をかけられ敬語になってしまったドクオ。
こういう場合、次からどんな口調で話せばいいか大いに迷う。
このまま敬語を貫こうか、さっきの返事を無かったことにしようか
少し宙に目を泳がせて思案していると、しぃがドクオに話しかけた。

 (*゚ー゚)「ねぇ、もしかして今度のVIPカップ出るの。」

 ('A`)「ああ、でるよ。何で知ってるの?」

取り敢えずさっきの失態はどこか遠くに追いやって返事をする。
だけれども、しぃはその微妙な違いを逃さなかった。

 (*゚ー゚)「あははは、ねぇさっき敬語になってたよね。
      何で急にぶっきらぼうになっちゃたの?」

 (;'A`)「いや、ほらあれだよ。急に話しかけてきたからさ。そういのってあるじゃん。」

 (*゚ー゚)「またさっきと同じ顔になっちゃった。だけど今度は普通だね。
      ねぇねぇ、それよりもVIPカップに出るの本当?」

わずかな会話だが、ドクオはすでに主導権をしぃに握られた。
これからなにを言っても、しぃには敵わないんだと漠然と感じ情けない自分を少し恥じた。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:16:40.02 ID:v26kqxz/0
 ('A`)「出るよ、なんで知ってんの?誰にも言ってないのに。」

 (*゚ー゚)「昨日友達と見たの。日が落ちるぐらいのときに青い飛行艇にドクオ君が乗ってるの。
      それでもしかしたらなと思ったんだけど、やっぱりそうなんだ。ねぇ見せてよ。どこにあるの?」

 ('A`)「ん〜、まぁいいかな。でもちょっと待って。隣のクラスのブーンって奴に一言、言ってくるから。」

一応断っておこうと考え、ブーンの教室に顔を出そうとした。
そのとき丁度ブーンが、ドクオを見つけ廊下に出てきた。

(;^ω^)「ごめんだおドクオ。ちょっと今日は補習で遅れるお。
      悪いけど先にいっておいてくれお。」

それだけ言い、教室に戻っていった。
クラスの中を覗き込んでみると、ブーンを含め何人かの生徒が残っており、黒板には大きく補習という字が書かれている。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:20:14.64 ID:v26kqxz/0

 ('A`)「なんか、ブーンの奴補習らしいから先に行こうか。」

 (*゚ー゚)「いいの?置いていって。」

 ('A`)「いいよ、じゃ行こうか。」

二人が、校内を出てガレージへと足を進めていく。
ドクオはよく考えれば女の子と二人っきりというシチュエーションは初めてのことだと気付いた。

横にいるしぃとは教室では何回か話したことはあるけれども
それはお互いクラスメイトという距離があったからこその会話だった。
こんな状況ではどう接すればいいのか見当がつかない。

気まずい空気を一人で漂わせていたドクオだが、しぃを見るとそんな素振りはなかった。
学校のことを小出しに話しながら歩き、ガレージに着いたときは、自分の居場所を見つけたかのよう
ほっとした。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:23:40.78 ID:v26kqxz/0

シャッターを開けて、中に入っていく二人。
カーテンを開けると、太陽の光が差し込んできて青い機体の存在を確かめるかのように照らした。

 (*゚ー゚)「すごい。」

太陽の光の演出のおかげか、それだけ呟く。
ドクオはそんなしぃを見てどこか誇らしい感覚を抱いた。
これ俺が作ったんだよと、自慢したい気持ちを押さえつける。

 (*゚ー゚)「ねぇ、ちょっと乗ってみていい?」

 ('A`)「いいけど、乱暴にしないでくれよ。」

 (*゚ー゚)「了解、了解ー。」

しぃは機体に足をかけて前席へと滑り込むように入っていく。
スカートと白く細い太ももの隙間から、下着がドクオの目に映った。
そのとき、外で車が事故を起こした。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:26:22.57 ID:v26kqxz/0

別段、珍しいことではないが、後年ドクオはこのときのことをこう語った。

 ('A`)「二人っきりで女の子といるのは初めてでとても緊張しました。
    ましてや、よく知らない子です。ただ、まったくというわけではなく、ほんの少し時間を共有しただけ。
しかし、薄暗いガレージということが、私の陰徳な感情を刺激しました。
思春期ですからふしだらな妄想をよくしましたが、それが目の前にあるのです。
    さらに、スカートの中を見せられて私のボルテージはMAX、そして破裂寸前。
    燃え盛る私の煮えたぎる体を鎮めれるのは、若い女性の曲線しかないと思いました。
    もし、外で車の衝突音が聞こえなければ私はしぃを襲っていたでしょう。」

我に返り、誰から言われたわけでもないが、自分に与えられた痴漢の烙印を甘んじて受けた。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:28:45.52 ID:v26kqxz/0

 (*゚ー゚)「ねぇー、操縦間が無いよ。どうやって飛ぶのこれ?」

 ('A`)「操縦席は後ろだよ。前は人が入れるようにしただけ。」

 (*゚ー゚)「じゃあ、後ろ行く。」

今度は機体の上を四つんばいになって、操縦席へと進む。
女豹という単語がちらついたが、そこまで肉感的ではなかった。
ただ、それでもドクオの目には十分刺激的であった。

 (*'A`)(あんなこと〜、こんな〜こと〜あーったでしょ〜)

昔覚えさせられた、歌。
多分今が、あんなことなんだろう。
こんなことは、一体いつやってくるのかなと思った。

 (*゚ー゚)「ねぇ、これ動かしてもいいの?」

 (*'A`)「ん、ああはい。いいよ。」

 (*゚ー゚)「また、敬語になった。ドクオ君っておかしいね。」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:32:16.86 ID:v26kqxz/0

しぃが操縦桿をいじくり回し、それに合わせてラダーやエルロンが上下左右に振られる。
そのうち、どう動かせばどこが動くのかがわかったようで、大分満足したように見えた。

 (*゚ー゚)「これさ、飛ばさせてよ。どう動くかわかったし。」

 (;'A`)「駄目。ちょっと触ったくらいで操縦できる筈無い。空中に上がると結構振れるんだから。」

 (*゚ー゚)「いいじゃん。ちょっとだけ。お願い。」

 (;'A`)「駄目、絶対。もし壊れたらVIPカップ出れなくなる。」

 (*゚ー゚)「けち。じゃあさ。せめて前の席でいいから乗らせてよ。
     一度でいいから乗ってみたかったんだ。それならいいでしょ。」

 (;'A`)「えっ。俺が操縦するの?」

 (*゚ー゚)「操縦できないの。自分で作ったものなのに?」

実際、ドクオは操縦できなった。
ブーンは小さい頃に少しだけ操縦したことがあり、それを体が覚えていたからできた。
しかし、ドクオは昨日まで一度も乗ったことがなかった。まして操縦なんてできない。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:39:15.02 ID:v26kqxz/0

 (;*゚ー゚)「もしかして、本当に操縦できないの。」

さっき言ったのはドクオに対する挑発だったのだろう。
ただ、ドクオの顔には不安と迷いの表情が深く表れていた。
しぃはそれを見て、まさかという目つきでドクオを見る。

 (;'A`)「俺が作ったんだぜ。できるに決まってんじゃん。
     いいよ、乗せてやるよ。ちょっと待ってろ。準備するから。」

自分が作ったものなのに、自分では使えない。
それでは一体何のために作ったんだろう。
少しばかりの見栄と、大きな疑問が浮かんだ。
そして表に現れたのは見栄の方だった。

操縦ができるかわからないまま、川へのシャッターを開けて川に浮かべる
そしてエンジンをかけて、操縦席へと戻る。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:42:11.00 ID:v26kqxz/0

辺りに弾性のある音が響く。

 (;'A`)「よし、じゃあいくぞ。ベルトはしたか。」

 (*゚ー゚)「いいよー。」

 (;'A`)(大丈夫、落ち着いてやればできる。)

機首を、川の流れに合わせてスロットルを押しあげる。
プロペラが回転速度を増した。

徐々に加速していき、川の波がまるで地面の凹凸のように感じる。
操縦桿が震えだし、押さえつけるために全身の力を込めた。

離水速度に到達するも、失速が不安で操縦桿を引けない。
もう十分な筈だった。飛べる速度だ。

 (*゚ー゚)「まだとばないのー?」

しぃが声をかけるが、轟音にかき消されるまでもなく、ドクオには聞こえなかった。
握る力を少し緩めるだけで、操縦桿が手から飛び出してしまうように思えた。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:43:06.37 ID:v26kqxz/0

 (;'A`)(飛んだ途端に失速しないよな……)

あと少しだけ速度を出そう。そう考えて、スロットルをさらに押し上げる。

 (;*゚ー゚)「ちょっ、ちょっと。もうすぐ川の合流地点よ。」

後百メートルぐらいで、船が交差しあう場所に出る。
当然、そこにはいつも何隻かの船が川に浮かんでいる。
しぃの目にはすでに三隻の船が見えていた。
瞬きするほど船は大きくなっていく。
このままの速度でぶつかったらと想像をする。助からない。そう感じた。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:46:30.19 ID:v26kqxz/0
 (;*゚ー゚)「とばないの?ねぇ?どうしたの?」

後50メートル。

 (;'A`)(大丈夫だ。ギリギリまで……)

後40メートル。

 (;*゚ー゚)「冗談だよね?ここで一気に飛ぶんだよね?びっくりさせるんだよね?」

後30メートル。

 (;'A`)(速度はもう離水速度なんだ。後はこれを思いっきり引くだけだ。)

後20メートル。

 (;*゚ー゚)「ねぇ、さっきのこと怒ってるの?ごめん。謝るからもうやめてぇ!」

後10メートル。

 (;*∩∩)「ぃやぁああああああああああああああああああああああああ!」

後5メートル。

 (;'A`)「ぅおりゃあああああああああああああああああああああああああ!」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:49:00.41 ID:v26kqxz/0

全体重をかけて操縦間を引いた。
機首は一気に持ち上がり空を向く。
一気に上昇し、体にGが目一杯かかる。

 (;'A`)「飛んだ飛んだ飛んだぞー!」

ほとんど地面と垂直になっている。
勢いが重力で殺されて、徐々に速度が落ちる。
今度はゆっくりと操縦桿を押す。
水平飛行に入った。

 (;'A`)「はぁ、なんとかなったな。」

 (*;ー;)「ふぇ、えっぐ……」

しぃは恐怖で泣いてしまった。
その声を聞いてドクオの心に罪悪感が芽生えた。
自分のせいで不安な思いをさせた。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:50:37.64 ID:v26kqxz/0

どうしようもないかも知れないが、一応声をかけてみる。

 (;'A`)「あー大丈夫?」

 (*;ー;)「大丈夫なわけないじゃない!殺す気?!ばっかじゃないの、ちょっと挑発されたぐらいでこんなことするなんて。」

 (;'A`)「いや、ごめん。本当は俺……ぅお!」

謝ろうとしたそのとき、鳥が真横からドクオの顔を襲った。
突然のことに、操縦桿を倒してしまうドクオ。
機体は右にロールしつつ、高度を下げていく。

 (*;ー;)「いやぁああああ!」

しぃの叫びが空に伝わる。
操縦桿を左に倒し、機体が水平になったところで、今度は高度を取るために引く。

 (*;ー;)「もういい加減にしてよ!下ろしてよ!」

 (;'A`)「わ、わかった。ちょっとまって……ぅお。ぬおおおおおおおお!」

さっき顔に当たった鳥が、座席の中にいる。
鳥は、そこから抜け出そうと狭い座席の中で暴れまわった。
もう一度、機体がロールしつつ飛んでいった。

 (*;ー;)「いやぁああああああああああああ!」



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:52:58.19 ID:v26kqxz/0

その頃学校では。

 ( ゚д゚ )「つまりだな、蒸気機関の発明以降……」

( ^ω^)(あ〜あ。退屈だお。早く飛びたいお。)

ブーンは窓際の席で、ミルナ先生の言葉を右の耳から左の窓へと飛ばすことに専念していた。
ミルナ先生の目を盗んで時折、空へと視線を向ける。
ゆっくりとため息を吐こうと視線を落としたとき、ブーンの目に青い飛行艇が映った。
川の上を猛スピードで走っている。

 ( ゚д゚ )「おい、ブーン聞いてるのか。お前留年してもいいのか。」

(;^ω^)「まずいお、もう飛んでもいいお。」

 ( ゚д゚ )「そうだまずいな。しかし、こっち見て喋らんか。第一なにが飛んでるんだ。」

(;^ω^)「はっはい。失礼済ましたお」

(;^ω^)(ドクオが飛ばしてるのかお。あいつ操縦したこと無いのに。)



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:55:48.09 ID:v26kqxz/0

 ( ゚д゚ )「それでだなあ、蒸気機関は産業に大いに恩恵をもたらしたわけだ。」

(;^ω^)「だぁ、急上昇しすぎだお。」

 ( ゚д゚ )「そうだ、急激に成長しすぎたために、経済のバランスが崩れてしまった…」

(;^ω^)「だぁあぁ、きりもみになってるお!!」

 ( ゚д゚ )「そう、まさにきりもみ状態だったわけだ。よく聞いてるのは嬉しいがいちいち叫ぶな。」


 ( ゚д゚ )「そうしてだな、政府のとった政策により何とか立て直したわけだ。」

(;^ω^)「ああ、よかったお。」

 ( ゚д゚ )「うむ。まさにそのおかげで、安定した社会が育ったわけだからな。しかし、今度は内燃機関の……」

(;^ω^)「あああぁ、ループしてるお。」

 ( ゚д゚ )「そのとおり。歴史は繰り返すってやつだな。何か革命的なものができれば急速に成長していく。これは昔からずっと変わらない。」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 03:59:21.76 ID:v26kqxz/0

やっとのことで、鳥を座席から追い払い着水した。
あれから何度か曲芸まがいのことをし続け、しぃはずいぶん前に気絶してしまった。
飛行艇をガレージに入れてから、震える足で地面へと降り立った。

 (;'A`)(上手く歩けねぇ……)

しぃが座席で気絶している。抱きかかえて下ろすことは、膝が笑っているドクオには無理だった。
とにかく、気を落ち着けようとポケットから煙草を取り出してそれを咥える。
マッチを擦る。
震える手のおかげで、いつもより火が大きいように見えた。
煙を大きく吸い込み、肺に刺激を与える。
鼻腔を通して煙を吐く。戻ってきたんだなと、渦を巻く煙を見ながら、そう実感した。



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:01:11.66 ID:v26kqxz/0

少したち、ガレージ内に薄い雲が形成された頃にしぃが目を覚ました。
ドクオは、翼に震えの収まった足をかけ、しぃの顔を覗き込む。
寝起きの少しぼやけた、現実と夢の狭間にいる虚ろな顔をしていや。

 ('A`)「だいじょう…」

声をかけようとしたドクオにしぃが抱きついた。
よほど怖かったのか、生きている喜びか、大きな声で泣きドクオの胸に顔を押し付けた。

 (*'A`*)「……」

柔らかい肉、異性の異性を惹きつける香り、肌をくすぐる髪。
それらが織り成してつくる、至福の感情を味わっていたドクオは、黙って抱き付かれていたが、突然しぃの束縛が無くなり体が軽くなった。
一瞬だけ見えた。般若のような顔が。
ドクオの視界が右に90度ずれた。

 (♯*;ー;)「この馬鹿!死ぬかと思ったじゃない。」

 (♯)'A`*)「ごめんなさい」



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:03:53.49 ID:v26kqxz/0

 (♯*;ー;)「だいたいねぇ、できないならできない……ん」

 (♯)'A`)「えっ」

 (*;□;)「オボェエェェェェエ」

抱きつき、平手打ち、嘔吐。
女性と何年間か付き合ってから見れるすべてを、ドクオは30秒で済ませた。

 (*つー;)「着替え持ってきなさいよ。汚れちゃったじゃない。」

 (♯)'A`)「はい。」

翼から降り、急いでガレージの中にあった着替えを持ってくる。
それを、しぃへと渡した。

 (*゚ー゚)「……見ないでよ。」

 ('A`)「見ねぇよ。」

しぃに背を向けて、また煙草を取り出し火をつける。
衣擦れの音がする。
普段なら異性のその音で興奮するところだが、今はそんなことなかった。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:06:40.15 ID:v26kqxz/0

よいしょという掛け声のあとに、タタンと歯切れのいい音が響いた。
しぃは粗末なテーブルと、すえた匂いのする椅子をガレージの隅から持ってきた。

 (*゚ー゚)「服洗うから乾くまで居させてよね。」

 ('A`)「ああいいよ。」

叩かれて、怒鳴られて、吐瀉物を吐きかけられて、崩れた泣き顔を見せられて、命令されて。
つくづく女とはよくわからん生き物だと感じた。
そしてほんの十数秒、いや、多分数秒の沈黙。その沈黙の間にしぃの目が変わっていた。

 (*゚ー゚)「これ、ありがとね。それと叩いたりしてごめん。」

薄汚れた作業着を抓まんで、伏目がちに感謝の言葉を口にする。
自分の行為に許しを乞うニュアンスではなく、自分を恥じているような言い方だった。
つい先程までの激しい感情の起伏は、一時的なものだったのだろうか。
とにかくドクオは、悪い気はしなかった。

 ('A`)「いや、気にしてないよ。」

そしてまた沈黙。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:08:06.91 ID:v26kqxz/0

ドクオは1秒、2秒、3秒と、沈黙の時間を数えてみる。
8まで数えたとき、しぃがドクオの方に首だけ向けてゆっくりと話し出した。

 (*゚ー゚)「ドクオ君てさ、本当は操縦できないんでしょ。」

 ('A`)「うん。」

 (*゚ー゚)「見え張ったの?」

 ('A`)「そう。俺もごめん。くだらない見栄で危ない目にあわせた。ごめん。」

 (*゚ー゚)「うん、ほんと怖かった。」

 (;'A`)「ごめん。」

 (*゚ー゚)「なんで、男の子ってそういう見栄張るの?」

 ('A`)「さあ、なんでだろうな。じゃあ何で女の子は化粧するの?」

 (*゚ー゚)「ん〜、やっぱかわいく見られたいからかな。」

 ('A`)「男もそうじゃないかな。格好よく見られたいから見栄張るんじゃないかな。」

 (*゚ー゚)「ふ〜ん。まあ似たようなもんかな。でも迷惑かけないだけ女の子の方がましね。」

唇のふちを心持ち上げてドクオを流し目で見つめる。
そのままの口ならフルートが綺麗に吹けるんじゃないかなとドクオは思った。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:10:27.73 ID:v26kqxz/0

ドクオから視線を外したしぃは、自分の服へと向かった。
服は日光に当たる所に干してある。それを触り感触を確かめる。
まだ湿っぽいのか、日光に当てる方向を変え、またドクオの方へ戻ってきた。

 (*゚ー゚)「もう少し居させてね。」

ドクオの返事を待たず、椅子をわずかだけ引いて座った。
そんな一連の仕草が、急に女性らしさを取り戻したかのようで、ドクオは少し見とれた。


 (*゚ー゚)「ブーン君遅いね。」

 ('A`)「んっ、ああそうだね。」

 (*゚ー゚)「ねぇ、何でブーン君が出るの。ドクオ君はVIPカップに出たくないの?」

 ('A`)「俺か、俺は別にいいんだ。あいつを飛ばしてやりたいんだよ。」

 (*゚ー゚)「何で?」

 ('A`)「あいつさ、親がパイロットで小さい頃乗せてもらうのが好きだったんだって。
    でも、ブーンが小さい内に死んじまったんだ。その所為か知んないけど
    あいつ、空を見るときすげえ遠くを見るんだ。いっつも、へらへらしてっけどさ。」

 (*゚ー゚)「遠く?」

 ('A`)「そ、遠く。焦点が定まってるけど、他人からはどこを見てるのかわからない感じ。
    だから、そこに連れてってやりたいなって思ってさ。まっ、叔父さんの影響かな。」



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:12:12.95 ID:v26kqxz/0

そのとき話しているドクオも、自分では気付かずに、今言ったような遠くを見ていた。
曖昧なようで、それでもどこか、視線が一本の張り詰めた糸の先を見る目。
糸の先は見えないが、それでもその先を見つめようとする目。

そんなドクオを見ながら、しぃは言った。

 (*゚ー゚)「それは見栄?」

 ('A`)「なんのこと?」

視線を糸の先からしぃへと移し変えて、ぼんやりとした目で見る。
その変化にしぃは気付いたようだった。

 (*゚ー゚)「ふ〜ん。そういうのカッコいいね。」

 ('A`)「へ?」

突然の言葉に声が出せず変わりに、吐く息がすっとぼけた音を出した。

 (*゚ー゚)「だから、そういうのカッコいいねって。」

 (;'A`)「ななな、何が?」

 (*゚ー゚)「あはははは、なにびっくりしてるのよ。」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:14:30.99 ID:v26kqxz/0

ドクオはしぃの言葉の意味が理解できなかった。
容姿について言われたのだと思ったが、自分では中の下だと考えていた。
だから、しぃの言葉にそんなわけあるか、と、戸惑いどう返事を返せばいいのかに困った。

 (;'A`)「そ、そういうしぃだって可愛いじゃん。」

多分、褒められたのだからお返しにと思いしぃの容姿を褒めた。
特に、意味は無い。挨拶をされたから挨拶を返したようなもの。

 (*゚ー゚)「!」

しぃにとって、ドクオの言葉は予期しないものだった。
ドクオの場合とは逆に、ストレートにその意味を取った。

 (;*゚ー゚)「な、なに言ってるのよ急に。」

 (;'A`)「いやいや、本当本当。かわいいと思うよ。うんかわいいよ。」

とにかく場を取り繕うと必死でしぃの容姿を褒める。
しぃが恥ずかしげに俯いた。
ドクオはしぃの動きを怒りの表れだと解釈し、その感情を逸らそうとまた口を開く。

 (;'A`)「クラスのみんなも言ってるしさ。かわいいと思うよ。
     髪型もよく似合ってるし、女の子らしいし顔も整ってるし。
     正直今日声かけてもらったのっだって嬉しかったし。それにそれに……」



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:17:08.90 ID:v26kqxz/0

まだ続けようとするが言葉が中々でてこない。
ドクオは次の文句を言おうと口をもごもごさせていた。

 (*゚ー゚)「……本当?」

頭だけをドクオの方に向け、俯いた顔を少し上げ上目遣いで尋ねる。
怖がっているような、それでも確かめたいような。目にうっすらと水分がコーティングされていた。

ドクオはその顔を見て、今言ったことが、しぃについて自分が考えていたことだと思った。
そして、しぃの方に顔を向けて、目を見ながら言った。

 (;'A`)「うん、本当。」

さっきとは違う種類の沈黙が流れる。
お互いに視線から相手の顔をはずす。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:18:42.95 ID:v26kqxz/0

ガレージ内に肌を震わせる音が充満した。
床をこすりながら、しぃの椅子がドクオの椅子に近づいたからだ。

しぃの体温や息遣い、心臓の鼓動が聞こえてくる。そんな気がした。

どちらも口を開かない。
一秒、二秒。また時間を数えてみる。

三秒、四秒。しぃの顔を見てみる。
それに気付きしぃもドクオの顔を見る。

五秒、六秒。お互いに目を見つめあう。

七秒、八秒。しぃが目を閉じた。

九秒、十秒。ドクオもゆっくりと閉じる。

十一秒。二人の距離が縮まる。

十二秒。お互いの目標到達まで二十センチ。

十三秒。しぃの息がかかった。次の瞬間には目標到達。

十四秒。ガレージに外の風が入った。

二人は同時に同じ方向を向いた。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:20:07.72 ID:v26kqxz/0























( ^ω^)「おいすー。遅れてスマンお!!」



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/30(土) 04:26:27.60 ID:v26kqxz/0

閉じていた目を、今度はこれ以上ないくらいに大きく開いた。そこにはブーンの姿が。
何回も挑戦し完成することのなかったトランプタワーが、完成間近で壊されたような気分だった。

 ('A`)「はぁ……」

止めていた息を一気に吐き、新しい空気を吸い込んで言った。

 ('A`)「お前死ね。」





            ( ^ω^) の最高速度は215キロのようです      前編終わり



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