V (のようです)
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:04:56.55 ID:XbRaDYE30
( ^ω^)「……」
ぼくはその異様な光景に 絶句するほかありませんでした
八畳一間のアパート 部屋の真ん中に鎮座するそれは
どう見ても 畳張りの生活空間には似つかわしくない
奇妙な物体でありまして
(´・ω・`)「期限は一週間。簡単だろう?」
( ^ω^)「……ええ、でも、本当にこれを見張るだけでいいんですかお?」
(´・ω・`)「ああ、それだけだ」
( ^ω^)「はあ……」
話しながらも ぼくの視線は釘付けです
妙な威圧感をもって その心を支配し
不安という名の翳をねじり込む
直感的に 禍禍しいものを覚えました
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:07:26.51 ID:XbRaDYE30
(´・ω・`)「そうだ、鍵、鍵」
そう言うと 大柄な中年男性は
黒いコートのポケットをまさぐり
そいつを ぼくに手渡しました
(´・ω・`)「これが合鍵だ。いつでも使っていい」
( ^ω^)「あ、はいですお」
受け取ってから しげしげと眺めてみましたが
目の前のそれとは違い
鍵のほうは どこにでもあるような 普通のものに相違ありませんでした
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:10:14.25 ID:XbRaDYE30
(´・ω・`)「じゃあ、僕はこれで」
(;^ω^)「え? もう行ってしまうんですかお?」
(´・ω・`)「色々と忙しい身でね」
( ^ω^)「何度も言うようですが、そのう……」
(´・ω・`)「ここに来るまでに説明した通りだよ」
( ^ω^)「は、はあ……」
できるだけ平静を装ったつもりでしたが
その時のぼくは さぞ訝しげな表情をしていたことでしょう
溜息とともに 眼前のそれを再度眺めてみます
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:14:55.30 ID:XbRaDYE30
ばたん
彼が出て行ったことを ドアの音で確認しました
しかし ぼくの視線はそちらには向きません
その物体から 目を離すつもりがなかったからです
いえ 離せなかったというほうが 正しいでしょうか
( ^ω^)「……」
家具のない 生活臭のかけらもない
この空間に 一人居座る 巨大な木箱
それを
呆けた顔で見つめる ぼくの呼吸音だけが 響きます
外の陽光に なおも抗うような暗さを保ちつづける 八畳一間のまんなかで
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:16:10.89 ID:XbRaDYE30
『 V 』
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:19:35.58 ID:XbRaDYE30
( ^ω^)「こいつは、一体何なんだお?」
ペンキでしょうか
上と下は確認できませんが おそらく六面 真っ白で
手品師が脱出に使うそれを ちょっと粗末にしたような
そう まさに 人が一人
いや 二人は 閉じ込められるくらいの大きさです
さすがに 100人乗るのは 大丈夫ではなさそうです
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:23:45.34 ID:XbRaDYE30
ぼくの引き受けたアルバイトとは
一週間 この箱を見張ることでした
何度も聞き返しました 見張ってどうするのか
他に何をしたらいいのか
彼は表情をくずすことなく 言ってのけました
何もしなくていい 好きにくつろいでいい
ただ 見ていればいい
いつなんどき来ればいいのか どのくらい見張ればいいのか
彼は答えました
一日一回 この部屋にくる そして 見る
あとは好きなだけ 飽きるまでいて 好きな時に帰ればいい
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:27:02.50 ID:XbRaDYE30
( ^ω^)「……」
不審には思いました もちろん思いましたが
ああ その破格の給料を知ってしまうと ぼくの心は傾いてしまいました
つくづく 弱い自分です
幸い 大学のほうは 大丈夫
夕方まで食い込む講義はないし サークルもありません
これからぼくは一週間 毎日 この箱を眺めることになるでしょう
( ^ω^)「……明日は、漫画持ってこようかお」
質素なカーテンと 白い木箱だけが 存在感をしめすこの空間
傾きかけた太陽の光を 二人で 必死に 遮ろうとしているみたいです
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:30:52.37 ID:XbRaDYE30
さすがに 来て十分足らずで帰るのも なんだかなあという気持ちです
部屋を探索しましょう
まずは台所へと向かいます
( ^ω^)「お? 一通りの道具が揃っているお?」
居間と違い ここには 生活臭があふれていました
ぶーんという音の発信源 冷蔵庫の横には ガスレンジと流し台
ぴかぴかの鍋に おたま 包丁 まな板
調味料は見当たりませんが 材料さえあれば 何でもできそうです
ぼくのアパートと すこし つくりが似ていました
( ^ω^)「あの人、ここに住んでいるのかお?」
はしたないこととは知りつつ 冷蔵庫をチェック
期待に反して 中は空っぽでした
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:34:02.68 ID:XbRaDYE30
あとは バスルームとトイレを見てみます
洗面所には 山のようなタオルの束
風呂なんて 見たところで しょうがありませんが
トイレに紙があるかだけは 確認しないといけない
ぼくにとっての 死活問題
( ^ω^)「あったお」
幸い その心配は杞憂におわりました
まあ 近くのコンビニに行けばいいだけの 話ですが
( ^ω^)「さーて……」
いくら使えそうでも 台所で料理するのは 気がひけます
第一 その理由がありません
これから毎日 好きな時間にここに来て
箱を眺めて 帰るだけです
一週間 ここでカンヅメになるわけではない
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:37:05.69 ID:XbRaDYE30
居間に戻り 足を止めると またも不気味な静寂
いや 一つだけ音を出すものが ありました
ちっ ちっ ちっ
お気に入りの腕時計で 時間を確認
( ^ω^)「はあ……まだここに来て20分も経ってないお」
部屋の探索が終わると
すでに 飽きという名の感情が ぼくの心に去来します
暇だ 別にここでやることなんてない
( ^ω^)「帰ろうかお……」
こんな箱 眺めていても しょうがありません
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:39:15.07 ID:XbRaDYE30
( ^ω^)「しかし……」
やっぱり もっとも気になるのは この中身です
できるだけ触らないように とは言われているものの
( ^ω^)「こんな奇妙なバイトで、こんな妙なもの見せられちゃ……」
気にならない わけがない
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:42:08.16 ID:XbRaDYE30
( ^ω^)「これは一体、どういう仕組みなんだお?」
見れば見るほど 奇妙な物体です
中型のクロゼットを 白塗りの のっぺらぼうにしたような
板に木目があるから 木箱のはず
なのに 継ぎ目が見当たらない
(;^ω^)「……むぅ、よくわからん」
左右にまわりこみ 側面を確認します
ちょうつがいはあるのに 扉はない
錠はあるのに 取っ手がない
( ^ω^)「……これ、本当に箱なのかお?」
あれはあるのに これはない
なんだか 昔流行った あるなしクイズみたいです
その物体に足はなく
ぼろい畳に 遠慮無く その巨体を食い込ませていました
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:45:50.36 ID:XbRaDYE30
( ^ω^)「……」
同じような賃貸アパートで 一人ぐらし中のぼく
畳をだめにしたら 引き払うとき どのくらいお金を取られるのだろう
なんて心配は 杞憂だ わかってます
箱の見張りだけで あれだけの給料を払うと のたまう 気前のよさ
学生のぼくが お金の心配なんて
余計なお世話 ってやつに 違いありません
( ^ω^)「ふしぎだお、ふしぎだーおだお」
誰もいない寂しさから ついつい独り言を発してしまう その気持ちを知ってほしい
これまた誰に言うでもなく
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:47:08.33 ID:XbRaDYE30
こんこんこん
ノックする要領で 軽く叩いてみました
当然 返事はありません
( ^ω^)「ワープゾーンかも知れんお」
扉が開けば その先はきっと 別世界
湯煙もうもう たちこめる しずかちゃん家のバスルーム
( ^ω^)「きゃー! のびたさんのえっちー!」
言いながら 木箱の後ろに回ります
うん くだらない 今日はもう帰ろう
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:49:34.41 ID:XbRaDYE30
( ^ω^)「明日から少しづつ探索していけば……お?」
今日チェックし過ぎると 明日以降の楽しみがなくなる
いや もともと楽しみなんて なさそうだけど
そう考えながら カーテンを閉め 振り返ったと同時に
ようやく気付きました 箱の後ろを見ていなかった
( ^ω^)「なんだお? ……これ」
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:51:45.90 ID:XbRaDYE30
安そうなのに ブラインド効果はしっかりある この部屋のカーテン
意外だな いや 問題はそんなことではないのです
さらに薄暗さを増した 部屋の中
なおも はっきりと存在感をあらわす クロゼットのお化け
ようやく確認した こちら 窓側
つまり ドアからみて 裏側の側面には
赤いインクで 妙なマークが 幾つも描かれていたのです
V V V V V V V
V V V V V V V
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:54:36.26 ID:XbRaDYE30
( ^ω^)「……『V』かお?」
それは 殴り書きのような『V』マーク
チェックマークと 言い換えても よいかも知れません
( ^ω^)「1、2、3……」
数えてみると 全部で14
七つづつ 二段に分かれて一直線 横並び
( ^ω^)「……気持ち悪いお」
さきほど閉めたカーテンを 少しめくって 確かめました
白いキャンバスに踊る それらのマーク
色はやはり 目に焼きつく 鮮烈な赤
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 18:56:48.06 ID:XbRaDYE30
( ^ω^)「今日のところは……これで、帰るお」
何かにつけ 不可解な出来事が この空間には溢れています
もう一度カーテンを閉めると 後ろを振り返ることなく 玄関へと向かいます
ドアを閉める際 チラリと中を覗けば
何もない空間に 不気味な長方形のシルエット
( ^ω^)「……」
心なし ノブを握る手に力が入りました
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