V         (のようです)

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:00:40.75 ID:XbRaDYE30

さらに次の日の 昼休み
ぼくは学食で 友人に アパートでの話をしていました


( ^ω^)「そんなわけで、楽でしょうがないんだけど……腑に落ちない点が多いお」

川 ゚ -゚)「へえ……」

( ^ω^)「まあ、おいしいことには変わりないんだけどお」

川 ゚ -゚)「それはね、お決まりのパターンさ。余計な詮索をすると……」

(;^ω^)「……どうなるんだお?」

川  - )「ふっふっふ……」

「ばきゅーん!」


友人は口の端を上げると
人差し指にて作ったピストルで ぼくの眉間 その真ん中をこづきました

突然だったし ちょっと痛かった 痛かったぞ



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:03:06.98 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「……いまどき 『ばきゅーん』 はないだろうに」

川 ゚ ー゚)「ん? 表現が古かったか」


笑いあいながら 牛丼の残りを胃におさめます

ちなみに 彼女が食べたぶんも 全部支払う羽目になりました
バイト代の額に関しては 若干少なく伝えるべきだったと あとで後悔


( ^ω^)「じゃあ、ぼくはそろそろ行くお」

川 ゚ -゚)「お、午後の講義はないのか?」

( ^ω^)「おっお。今日は午前中だけなんだお」

川 ゚ -゚)「そうか、お昼付き合わせて悪かったな」

( ^ω^)「お? おごらせといて良く言うお。どうせ思ってないお?」

川 ゚ -゚)「ばれたか」


 「じゃあ、これで」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:06:32.18 ID:XbRaDYE30

アパートに着いた時間は だいぶ早く 午後二時を回ったくらいでした

いつもは静かすぎるこの界隈ですが 今日は違いました
どこかから 子供の笑い声がします

これはなかなか 風情があってよいです
何の風情なのかはよくわかりませんが


タラップのような どことなく頼りない 鉄の階段を登り 
着いた部屋の前 インターフォンを鳴らします


( ^ω^)「おー。誰かいらっしゃいますかおー?」


今日は早めに着いたので 住人がいるかも知れない
と考え しばらく待ってみましたが 中からの返事はなく

合鍵を差し込むと いつものように部屋へ入り 電灯のスイッチをつけました



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:09:05.51 ID:XbRaDYE30

四日目となると ぼくのほうも 慣れたものです


( ^ω^)「よいしょーっ」


ばさばさっ

ばかばかしい話ですが 家から持参した この青いレジャーシート
これを敷けば お菓子のカスに神経を払う必要はない
我ながら 完璧な作戦です


( ^ω^)「さーて、三十分もしたら帰るかお」


薄暗い部屋の中 シートに寝そべってジュースを煽るぼく
むろん ちっとも ピクニック気分なんて 味わえませんが



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:11:42.79 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「……」


横目でちらり 木箱を見上げます

バツの悪い顔をするぼくを プレッシャーによって 咎めるように
そいつは 白い顔でこちらを見下ろします


( ^ω^)「……異常なーし!」


しかし そんなこと 気にしていてもはじまりません
ごろり寝転んで 新しい漫画のページをめくりました



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:13:42.12 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「……さて、帰るお」


シートをたたみ 帰りじたくを整えたのはよかったのですが
いまさらになって 湧き上がる疑問


( ^ω^)「……さすがに、来るのが早すぎたかお?」


左腕をまくって時間を確認すれば まだ三時にもなっていません
いつもより だいぶ早い帰宅です

もし どこかで雇い主が見ているとするならば

ひょっとしたら ぼくが昼間にやってきて 昼のうちに帰ったこと
気付かないかも知れない

夕方になっても ぼくが現れないことについて
サボりだと 勘違いされるかもしれない

そんな 漠然とした不安が よぎりました



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:16:38.74 ID:XbRaDYE30

(;^ω^)「……うーん、もうちょっと居たほうがいいのかお?」


これが どうでもいいようなバイトだったら
あまり気にせず さっさと帰るところなのですが

今や その破格の待遇 というか給料
それはぼくにとって なくてはならないものです

ちょっとした勘違いや 行き違いから
残りの期間を 棒に振りたくはありません
できるだけ 不安な材料は 払拭しておきたい


( ^ω^)「はあ……せめて夕方までは居ようかお」


そうと決まれば 追加の買い出しが必要になります

娯楽に乏しい この空間
せめて漫画をもう一冊 それと ジュースをもう一本

あーあと お菓子も追加で よろしくね



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:19:24.68 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「しょうがないお……面倒だけどもっかい戻ってくるお」


ドアに鍵をかけ 今一度 近くのコンビニへと向かいます

タラップを降りて 振り返ると
日に照らされたアパートは 第一印象のそれより ことさらボロく映りました

あの中には 得体の知れないデカブツが 我が物顔で居座っている
そう考えると 一層 奇妙な感覚が押し寄せてきます

あんなところ 好き好んで戻りたくはないが
ま これもカネの為だ 我慢してやるぜ

どことなくかっこいいセリフをつぶやき 歩き始めました



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:22:48.29 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「アイル・ビー・バック」


立ち読みで 多少 時間を潰し
アパートに戻ったのは いつも来るより ちょっと早い程度の時間でした


( ^ω^)「おっおっおっ。これから続きを読むお」


階段を登ろうとしたところで

ふと 数件先 小さな公園のほう
そこから聞こえる声に 耳を留めます

お昼にも聞こえた 子供の声
男の子か はたまた女の子か

だがしかし 子供の声は 判別が難しい
それが びーびーという泣き声であれば なおさらです


( ^ω^)「お……?」



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:25:06.60 ID:XbRaDYE30

ζ(;o;*ζ「わー! おねえちゃんのいぢわるー!」

ξ;凵G)ξ「わたしの! わたしのくまさんだもん!」


道路の端 コンクリ塀の脇にうごめく ちっこい二人
ぬいぐるみの 手と手を引っ張り合い 泣き喚いている 声の主たち


( ^ω^)「お……」

(;^ω^)「道路脇だし、車がきたら危ないお」


優しいお兄ちゃんが 彼女たちの喧嘩を 仲裁しなければならない
正義に萌える いや 燃えるぼくの行為は 誰にも止められません

時節柄 不審者として通報される恐れあり

辺りに人気がないゆえ なおさらその不安がありましたが
そんな心配をしている場合ではないのだ



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:28:16.88 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「きみたち、そこで喧嘩すると危ないお」


ζ(;o;*ζ「わたしもー! くまさんほしい!」

ξ;凵G)ξ「だめ! いやだもん! わたしのなの!」


(;^ω^)「いや、あの……」


ぼくの存在は 五秒で否定されました


ζ(;o;*ζ「くまさん! くまさんー!」

ξ;凵G)ξ「わたしの! わたしのだもん!」


(;^ω^)「困ったお……」


そのとき そんなわめきを掻き消すほどに 耳障りなエンジン音



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:30:04.97 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「! あぶないお!」


ぼくは 多少強引に 彼女たちの間へ割って入り
ぬいぐるみを むりやり取り上げました


ζ(;o;*ζ「いやー! くまさんー!」

ξ;凵G)ξ「あー!」


同時に 二人の手をとり 公園のほうへと引き込みます
いや もちろん 性的な意味ではなく



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:33:13.92 ID:XbRaDYE30

けたたましい爆音を奏でつつ 一台のスポーツカーが
ぼくらの横 スレスレを通り抜けていきました


( ^ω^)「危なかったお、たく最近の若者は運転マナーが……」


しかし ほっと胸を撫で下ろす間もなく
新たな爆音が ぼくの両耳をつんざきました


ζ(;o;*ζ「くまさんー! やあああああ!!!」

ξ;凵G)ξ「かえしてよー! かえせえええ!!!」


(;^ω^)「いで、いででで……」


片方は 腕を振り上げて ぼくのおなかを叩き
もう片方は 力まかせにつねりあげます

両手に花とはこのことですが
どうやらそれは 薔薇の花だったようです



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:36:04.84 ID:XbRaDYE30

(; ^ω^)「喧嘩しちゃだめだお!
        ええと……その、
         お、お兄ちゃんが、同じくまさんを買ってあげるから!」


ζ(;。;*ζ「……くまさんを?」

ξ;凵G)ξ「……」


その言葉を聞いた途端 ぴたりと泣き止む両の声
うん やはり子供は 元気で 現金だ


( ^ω^)「おんなじくまさんだお!
        ……いや、ひょっとしたら同じものじゃないかも、多少違うかも……」


後半は 小声になりました


ζ(;。;*ζ「うー……ほんとう?」



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:39:06.52 ID:XbRaDYE30

ξ;凵G)ξ「……わたしは?」

( ^ω^)「お?」

ξ;凵G)ξ「くまさんわたしのだもん!
       でればっかり かってもらったら ずるいもん!」

(;^ω^)「……そ、そうかお
        ……じゃあ、くまさんとは別に、お人形を買ってあげるお!」

ξ;凵G)ξ「……おにんぎょう?」

ζ(;。;*ζ「えー! おねえちゃんずるい!」


子供をたしなめるのは 想像以上に難しい事だと 思い知らされました



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:42:37.48 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「だ、だいじょうぶだいじょうぶ!
        ちゃんと二人に買ってあげるお!
         くまさんとおにんぎょう、おそろいだお!」


これで 今日のバイト代は パーです

まあ ぼくは彼女たちが笑顔を取り戻せるなら それでいい
それでいいのです とほほ


ξ;凵G)ξ「おそろい……」

( ^ω^)「だから、喧嘩しちゃあ、めっ、だお?」


ζ(;。;*ζ「……きゅあぷりがいい。しろのほう」

ξ*゚听)ξ「……わたし、くろのきゅあぷりー!」


( ^ω^)「キュアプリの白と黒ね、把握したお」


なぜぼくが 女の子用のアニメと そのキャラを
名前だけで瞬時に理解できたのか
それは 愚問



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:45:09.48 ID:XbRaDYE30

ζ(゚ー゚*ζ「いつ? いつかってくれるの?」

( ^ω^)「おー……お兄ちゃん今日はちょっと忙しいお……」

ξ*゚听)ξ「やだー! はやくかってきてよー!」

(; ^ω^)「す、すまんお。
        おもちゃ屋さんももうすぐ閉まるから、今日は無理だお」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあいつー!?」

( ^ω^)「明日買ってくるお……ええと、夕方の五時くらい。
        君たち、お家はこの近くかお?
         明日、お母さんといっしょにここで待っててくれないかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「ぜったいだからねー! うそついちゃだめだよー!」

( ^ω^)「わかったお。
        だから今日は、二人で仲良く、一緒にくまさん使うお?」

ξ*゚听)ξ「……」



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:48:15.90 ID:XbRaDYE30

勝手に物を買い与えると 親御さんに怪しまれたりしそうだし
本当は 了解をとりたいところだったのですが
この様子だと どうやら 買うまで納得してくれそうにありません

せめて 親御さんに事の次第を 『うまく』 伝えてくれるといいのですが


ζ(゚ー゚*ζ「あしたのごじー! おかあさんにいってくるー!」

( ^ω^)「そろそろ日が暮れるお。おうちに帰るお」

ξ゚听)ξ「……べーっだ!」


片方は にこにこ顔で 手を振っています

もう片方の子供は つんけんした表情を崩さず
ベロを出しながら 妹の手を引いていきました


( ^ω^)「ふむ……子供は無邪気でいいお」


脇にあった コンビニ袋を持ち上げると
ちっちゃな二つの背中 眺めながら バイト先へと戻ります

その後ぼくは 女の子用のおもちゃが
想像以上に 高価なものだと 思い知らされることになる



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:51:18.71 ID:XbRaDYE30

予想外のことに 疲れを覚えたぼくは
アパートに戻っても 長居する気は起きず


( ^ω^)「ふぃー……なんか色々あったお」


木箱の様子を一瞥すると 何分も経たないうちに 部屋を出ます


どこからか 梅雨の終わりを告げようとする 気の早い蜩(ひぐらし)
かなかなかな

おぼろ雲による 赤と灰色のコントラスト 空を覆っています

そんな夕暮れ
ぼくは コンビニの袋を抱えたまま 帰路についたのでした



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