V         (のようです)

130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:56:27.26 ID:XbRaDYE30

翌日はというと 時間を合わせるのに一苦労でした
もちろんそれは バイトではなく 女の子のほうです


(;^ω^)「ふおー! あの熊、見つからないお!」


結局 よく知ったアニメキャラの フィギュア
もとい おにんぎょう

これらだけは よどみなく おもちゃ屋にてゲット
約束の時間に間に合うよう アパートへの道のり 急ぎました


( ^ω^)「参ったお……ぬいぐるみのほうはもうちょっと待ってもらうお」


ひとまずこの人形を渡し 今日のところは 許してもらいたいところです
しかし
ことさら 親御さんに怪しまれそうな予感も しないでもない



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 20:59:17.22 ID:XbRaDYE30

ξ゚听)ξ「……」


その姿を確認し いったん歩を止めます

アパートの前 階段の下
クマを両手で抱えた女の子が ぼおっとした表情で 座り込んでいました


( ^ω^)「おいすー。お待たせしたお」

ξ゚听)ξ「……べーだ」


僕の顔をみるやいなや 眉間にしわ 顔いっぱいの しかめっつら
さらに ベロを出しての ありがたいお出迎えです


( ^ω^)「お? おかあさんと、妹の……でれちゃんだっけ?」

ξ゚听)ξ「うん、でれだよ」

( ^ω^)「二人は来てないのかお?」

ξ゚听)ξ「おかあさん、おしごとだもん」

( ^ω^)「でれちゃんは?」

ξ゚听)ξ「しらないの。たぶんおうち」



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:01:21.19 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「知らないって……」

ξ゚听)ξ「かくれんぼかも」


今日は 一人できたのでしょうか
それとも また喧嘩したのかな


( ^ω^)「そうかお……とりあえず、これ」

ξ*゚听)ξ「あーっ! きゅあぷりだー!」


ぼくが人形の包みを手渡すと
女の子は 飛び上がりそうな勢いで 喜んでいました
うん これでこそ 苦労した甲斐があったというもの



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:03:24.17 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「はい、でれちゃんのぶんも。あとででれちゃんにあげるお?」

ξ゚听)ξ「うん、でれにあげるー!」

(* ^ω^)「よしよし、いいこだお」


頭を撫でてあげると 女の子は照れ臭そうに 上目遣いで見上げてくるのです


ξ*゚听)ξ「……べーだ」


素直に ありがとうと言わないところも また かわいい
いかん すっかり毒されています



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:06:08.94 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「じゃあ、気を付けて帰るお。でれちゃんによろしくお」


軽く頭に乗せた手を ぽんぽんと弾ませ それから離します

最後にもう一度 よしよし してあげたあと
ぼくは てのひらを振りながら 階段を登ってゆきました

うん 我ながらかっこよく決まった
そう思った矢先でした


たんたん

たんたん


はて
階段をあがる足音が 残響しているのです
わかりやすく言うと うん ちっちゃい足音がついてきている


ξ゚听)ξ「……」

( ^ω^)「……お?」



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:08:26.46 ID:XbRaDYE30

(;^ω^)「ちょ……帰らなくていいのかお? でれちゃん待ってるお?」

ξ゚听)ξ「おじちゃんとあそぶもん」


ぼくは おじちゃんではありません


( ^ω^)「早く帰らないと、もうすぐ暗くなるお?」

ξ゚听)ξ「やだあ! おじちゃんのおうち!」

(;^ω^)「おっお……だめだお、帰らないとだお」


そして ここはぼくの家ではありません



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:10:27.07 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「君のお家はどこだお?」

ξ゚听)ξ「きみじゃないもん、つんだよ!」

( ^ω^)「ツンちゃんかお? わかったお、ちょっと待ってくれお」


しょうがない 鍵を開けて中の様子を確認したら
すぐに女の子を 家まで送り届けよう

そう思いながら 差し込んだ鍵を捻り 鉄の扉を開きました

しかし


ξ*゚听)ξ「ただいまー!」

(; ^ω^)「あ、ちょ……」



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:12:33.81 ID:XbRaDYE30

気付いた時には遅く 女の子は居間へと駆け出していました

ドアの隙間をすり抜けるスピード 瞬時に靴を脱ぐスキル
これは将来が楽しみです

いや それどころではありません
幼女を言葉巧みに 部屋に連れ込む 不審な男
そんな 既成事実ができてしまっては 大変です


( ^ω^)「ツンちゃーん、出て来るおー!
        お兄さんと一緒にお家へ帰るお!」

「ここがおうちー!」

(; ^ω^)「こら、どこに行ったお……」


日はだいぶ傾き 薄闇といっていいほどの暗さが 部屋の中を支配していました

電灯のスイッチに手を伸ばします
ぱちんという音とともに 視界が明滅しました



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:14:47.00 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「かくれんぼかお? お兄ちゃんが見つけたらすぐ帰るお」


盛り上がったカーテン 下からはみ出す ちっちゃな足
さらに 脇からは 人形の包装が見えています
小さな両手で 二つも抱えてるから ちょっと持ちにくそうです


( ^ω^)「ほーら、見つけたお」


なんの猶予も与える気はありません
間髪入れず 端のほうからめくり上げると

彼女は ぬいぐるみと人形 ぎゅっと抱えた姿勢
窮屈そうな様子で じっと 息を潜めていました


ξ゚听)ξ「うー」



153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:17:07.98 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「見たかお? 隠れんぼの鬼と呼ばれた僕の目にかかれば……」

ξ゚听)ξ「かくれるところないもん」

( ^ω^)「まあ確かにお。
        ほんとにね、何もない部屋だから……」


ツンちゃんは ぴょこんと 大仰な仕草で カーテンから出てきました


ξ゚听)ξ「おじちゃん、これなーに?」


人形の包みを降ろすと
小さな腕をいっぱいに伸ばし 木箱のほうを指差します


( ^ω^)「おっお、これはね……」


はてさて どう説明したものか
そう考えつつ お化けクロゼットの方に向き直ります

そのとき ぼくはその異変に気付きました



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:20:07.18 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「……え?」


白い側面に書き殴られた 薄気味の悪い『V』マーク

ぼくの記憶違いでしょうか いや そんなはずはありません
あんなインパクトある出会いを いまさら 間違うことはないと思います


  V V V V  V V V

  V V V V V V  V

  V V  V V


( ^ω^)「増えてる」


初日に確認したときより マークの数が多い気がしたのです

一つ咳払いをし 数えなおしてみると

上下二列 7個×二で 計14個 あったはずの その印が

さらにもう一列 その下に4つ増えており
全部で 18個



161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:22:35.25 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「……これ、一体、何の意味が……」


アパートの住人 つまり この部屋の持ち主
ひょっとしたら それは雇い主の男性かも知れませんが

彼が 日数の経過とともに マークを増やしていったのでしょうか


( ^ω^)「……きっとそうだお。
        ぼくがここに来て、今日で五日目……」


きっと カレンダーに×印をつける あんな感覚なのだろう


(; ^ω^)「でも、それって。
        記念日とかに向けて、一つずつ日付けを消していく
         ……そういうマークだお?」


ぼくとの契約がおわる 七日目が 楽しみで仕方ないのでしょうか
それに ×印ではなく Vである意味がわかりません

ボックス すなわち箱に チェックマーク
そういう しゃれのつもりなのかな



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:25:30.87 ID:XbRaDYE30

ξ゚听)ξ「……おじちゃん?」

( ^ω^)「お?」


女の子の甲高い声が ぼくを現実へと引き戻します


ξ゚听)ξ「おじちゃんち、なんにもないねー」

( ^ω^)「そうだお。おもちゃもゲームもないお。楽しくないお?」

ξ゚听)ξ「おなかすいたー」

( ^ω^)「お、すまんお。お家に帰るお」


このまま ごねられてもたまらないので
すぐにその体を抱え 玄関へと連れていきます



167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:27:43.85 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「ほら、人形はお兄ちゃんが持っててあげるお」

ξ゚听)ξ「うん。でも、あれなーにー?」


そうやって さっきの質問を繰り返すのですが

残念ながら
当のぼくにも 納得のいく答えは提示できそうにありません


( ^ω^)「箱のおばけだお。いい子にしてないと食べられちゃうお」

ξ゚听)ξ「おばけなんていなーいもーん」


靴を履かせると 弾かれたようにいきおいよく 立ち上がる彼女
ドアを開けるや否や 元気に 外へ駆け出します
このバイタリティ やはり将来が楽しみじゃ

施錠したのち
階段の下で待っていた 彼女の手を引きながら
アパートをあとにしました



214: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:02:50.77 ID:XbRaDYE30

ξ゚听)ξ「ここだよ」

( ^ω^)「おー……でかいお」


しばらく歩いたあと
空き地の向こう 近くのマンションを前にして 彼女が立ち止まりました

ものの五分の距離 けれど
こんな小さな体では あの公園や アパートまでは遠いはず
まさに大冒険です


( ^ω^)「何号室かお? 送っていくお」

ξ゚听)ξ「ううん、いい!」

( ^ω^)「あ、ちょ……」


駆け出す背中 すぐに声をかけ呼び止めます


( ^ω^)「わすれものだおー」


振り返った彼女にむけ 人形の包みを ふりふり



218: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:05:43.98 ID:XbRaDYE30

ξ*゚听)ξ「……!」


ツンちゃんは 入り口の前で ぴたり止まり
恥ずかしそうに戻ってくると ぼくの手から それらをひったくりました


( ^ω^)「ほら、忘れてたら、でれちゃんがっかりするお」

ξ゚听)ξ「うん、きゅあぷりあげなきゃ」


やはり 人形二つにぬいぐるみを抱えているその姿
いささか持ちにくそうです


( ^ω^)「ほら、貸すお。お兄ちゃんが持っていくお」

ξ゚听)ξ「いい! がんばる!」

(;^ω^)「おー……」


よたよた歩くのが ちょっと心配
けれど 思ったより器用に
ナンバーロックのボタンを押し 自動ドアをすり抜けていきます



221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:08:12.43 ID:XbRaDYE30

そこで止まり くるっとこちらを振り返ります


ξ゚听)ξ「……おじちゃん、あしたもいる?」

( ^ω^)「お? おー。いるお」


バイトの期限は 明後日まで
つまり 明日もぼくは アパートへと足を運びます


ξ゚听)ξ「いつ?」

( ^ω^)「えーと、明日も大学は休みだし……。
        そうだね、三時半には公園に来れるお」

ξ*゚听)ξ「うんっ!」


それを聞くと どこか満足げ
頬をほころばせ エレベータへ駆け出します
転ばないか 見ていてハラハラしますが そんな心配は無用のようです



224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:11:23.54 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「じゃあねツンちゃん、でれちゃんと仲良くね」

ξ゚听)ξ「……」

ξ*゚听)ξ「……べーっだ!」


どうやらそれは 彼女にとって 親交の挨拶でもあるようです
はてさて 本当にバカにしている時もありそうだし 真意はわからないけれど


( ^ω^)「おっおっ……バイトの楽しみが増えたお」


小さなお友達との再会を 楽しみにすることにしましょう

いやしかし 彼女にとってぼくが 大きなお友達だと表現すると
ちょっと 危険なニュアンスになってしまう

それが はがゆくもあり どこかおかしくもあり


( ^ω^)「……さて、僕も帰るお」


きびすを返し てくてく帰路を辿ります
あんな風に 無邪気に駆け出せたらなあと 思いました



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