V         (のようです)

251: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:30:40.28 ID:XbRaDYE30

最終日
やはり今日も 空はどんより曇っています

けだるい大学の講義を終え 自由を手に入れたのは
いつもとさして変わらない 夕刻


( ^ω^)「……」


わざわざ遠回りして 女の子のマンションの前を通り
これまた未練がましく 公園に寄ってから アパートに向かいました


( ^ω^)「あー……ネットの注文、キャンセル効いたっけお」


昨夜 ようやく繋がった電話の向こうで
雇い主の彼は やはり事務的に 今日の予定を告げました

いわく
最終日のバイト代は このアパートで 手渡しにすると

その際 いくつも湧き上がる疑問 ぶつけてもよいかと聞けば
別に構わないと 意外かつ よどみない返答



256: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:33:24.12 ID:XbRaDYE30

アパートに着く直前 メールにてそのことを連絡すると
彼は 少し遅れてくるらしく
いつも通り 中で待つように とのことでした


( ^ω^)「少しって……どのくらいだろうお」


左腕 自慢のそれで時刻を確認すると
すっかり慣れた手付きで 鍵を右側にひねります

金属のきしむ音を 耳元で聞きながら
白い顔した 部屋の主のもとへ


( ^ω^)「お邪魔しますおー……」


薄く漂う いぐさの香り
それに混じって ホコリの臭いとでも例えましょうか
独特のスメルが鼻につきました



264: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:35:57.88 ID:XbRaDYE30

昨日と同じく カーテンを引き 換気がてら窓を開けます


( ^ω^)「外も、あまり変わらない気がするお」


ベランダから見える景色もまた 実際より暗く感じられまして
あまり 清清しさはありません
相変わらず 人気のない 生気もない このアパート界隈


( ^ω^)「ふう……」


振り向けば やはり
一つ増えていた 赤いVのマーク 


( ^ω^)「契約期間満了。さしずめ、今日はバイト終了記念日かお」


ぱちり

それでもどこか薄暗いので 電灯のスイッチも入れました



272: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:38:25.87 ID:XbRaDYE30

ちっ ちっ ちっ


(;^ω^)「……はあ、遅いお」


いつでも帰れる という条件だった これまでの六日間より
まさに今日こそ 漫画など 時間を潰すアイテムを持ってくるべきだった
後悔先にたたずです


( ^ω^)「一体いつまで待たせるんだお」


ここへ来てから すでに三十分
何をするでもなく 外を眺めたり あぐらをかいて木箱を蹴ってみたり

さすがに いつ主が来るかわからない こんな状況で
台所やバスルームを漁るのも 気がひけます



281: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:41:04.12 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「まあ、こんな調子で日給貰えるんだし、文句言っちゃいかんかお……」


ちゃり ちゃり

アパートの鍵 てのひらで弄んでみます
指に引っ掛けて回したり 天井に放り上げてキャッチしてみたり

それもすぐに飽き ごろり 大の字に寝そべりました
横になった姿勢のまま 鍵を目の前に持ってきます


( ^ω^)「これを返すまで、僕のバイトは終わらない……はあ」


手首を返して 裏の文字を 目で追ってみたりもましたが
大丈夫 何の変哲もない ただのキーです


『これが合鍵だ。いつでも使っていい』


合鍵
あいかぎ ねえ

いつでも使っていい なんて言うけれど
こんな 何もない部屋
ましてや 他人が住んでいると思しきそれを 一体何に使えというのでしょう



291: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:43:40.55 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「いつでも使っていい、かあ……」


そう言えば この『Vの箱』
妙なかたちの南京錠が くっついていたんだった


( ^ω^)「がちゃっ、とね」


思い立ったが 吉日です

よいしょと立ち上がると
冗談まじりに 木箱の端についた 錠へ その先を合わせてみます


( ^ω^)「……お?」


意外や意外

鍵穴はぴたり その先にはまりました


( ^ω^)「……マジかお」



302: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:46:16.77 ID:XbRaDYE30

想定外の出来事に 心が躍ります

アパートの鍵は 薄手でよくある形をした 至って普通のシロモノです
これにぴったり合う 南京錠の鍵穴
ちょっと それは特殊だと 言わざるを得ません

ひょっとして
これは 箱の中身を見る チャンスかも知れない


( ^ω^)「これ……何のためについてるんだお?」


しかし
取っ手もない 引き戸もない そもそも扉が見当たらない

そんな 奇妙な形状の この箱
錠を外したからといって その先 一体どうしろというのでしょう


( ^ω^)「それに、もうすぐあの人が来るお。
        彼が来てからのほうが……いや、そもそも開けていいなんて聞いてないし……」


それでも 箱への興味は尽きません



319: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:49:15.88 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「……ちょっとだけなら、いいかお?」


窓の外
遠くから聞こえる 烏の鳴き声が 頭の奥で残響します


( ^ω^)「……」


ごくり

唾を飲み込み 深呼吸をひとつ

錠を持つ手に力を込め そのまま固定すると
ゆっくり 右手の鍵をさしこみました


( ゚ω゚)「!!」


途端 部屋の明かりがふっと消えます



331: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:51:12.48 ID:XbRaDYE30

(; ^ω^)「お……あれ?」


おそらくその瞬間
ぼくは 世界で一番 間抜けな顔をしていたことでしょう


(;^ω^)「停電……じゃあなさそうだし……」

( ^ω^)「……蛍光灯が切れたのかお」


わざと明るい方向に考え直し 咳払いを一つ
首を左右に ぷるぷると振ります


(;^ω^)「……」


ごくり
ごくり

もう一度 二度 口内に溜まった唾を飲み込みました

さきほどより 若干 汗ばんだてのひら



340: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:53:25.09 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「落ち着け、素数を数えて落ち着くんだお」


薄暗い中 手元の穴を見失いそうになりながらも あたりをつけまして
そう アパートの扉を 開く時のように
手にした鍵を ゆっくり 右側にひねります


( ^ω^)「!」


かちゃり

小さな音をたてて 錠のとっかかりが浮きました


( ^ω^)「開いた……」


そのまま指先をひねり 刺さった鍵ごと 南京錠をはずします


気の早い蜩が かなかなかなかな 鳴き声を響かせました


かなかなかなかな



352: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:55:23.97 ID:XbRaDYE30

( ^ω^)「……え?」


錠が外れた途端 それは起こりました

ちょうつがいのついた こちら側の側面
木箱の上のほうから ゆっくりと 黒い何かがおりてきます

影のような 煙のような
うぞうぞ蠢く 得体の知れない 黒い染み


(;^ω^)「?」


もやが畳のほうまで降りきると
板はすっかり 染みに塗りつぶされて
まるで 扉が外れたかのように 漆黒の空間が覗いています

窓からみて反対側 つまり Vマークの描かれた裏

電気の消えた室内
こちらは本当に 薄闇に隠されて 中の様子が窺い知れません



358: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:57:33.34 ID:XbRaDYE30

白い木箱 その一面に ぽっかり開いた黒い口 


(;^ω^)「……この箱、一体、何が……」


しかしよく見ると
暗闇の中に うっすら 何かが積み上げられているのがわかりました


( ^ω^)「なんだお……?」



366: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:59:05.53 ID:XbRaDYE30

目を凝らして それらを確認しようとした矢先

どさどさどさっ


(; ^ω^)「うわっ……!?」


扉という支えを失ったせいでしょうか
積まれた物体が 勢いよく 足元に転がり出てきました


ぱっ

図ったようなタイミングで 蛍光灯が明滅し 視界が開けます


( ^ω^)「え? ええ? あれ?」


明るくなった室内
それらの姿が ぼくの目に勢いよく 飛び込んできました


「……!!」


まぶたの裏まで 焼き付くように はっきりと



380: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:01:26.85 ID:XbRaDYE30

 それはあまりにも 現実味にとぼしく
 はじめは つくりものかと 目を疑いました

 でも その例えようもない臭気は
 毒素となって鼻腔から侵入
 徐々に 徐々に 脳を冒してゆきます


 「う……!?」


 木箱から 転がり落ちてきた ものたち


 「……な、なんだ、これ」


 断面から ピンクの肉を覗かせる 靴を履いた 足首

 臓物を繋げ 肋骨のはみ出した 胴体

 眼鏡の奥 にごった視線を傾ける 人の頭部


 「……あ、あ」



390: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:03:18.18 ID:XbRaDYE30

 これまでの人生で培ってきた 常識という名のフィールド

 その範疇を 明らかに超越した
 おぞましく よどみ ただれた世界


 「う……うわああああああああああ!!!!!!」


 どす黒い赤が 乱雑に詰め込まれた タオルの山を染め
 異臭はすでに 部屋中へと充満し 鼻を覆わんばかり


 他にも


 透明な袋に入った 耳のようなもの

 視神経をていねいに結んである 両の目玉


 瓶の中 黄色い脂にまみれた 女性の乳房

 髪の毛のような 黒い糸で縛られた 数本の指



406: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:05:17.80 ID:XbRaDYE30

 実に 実に さまざまでした


 「あ……あああ、あああああ……!!」


 それらは そう


 生きたまま

 切り取ったかのような


 人間の





 部位



424: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:08:13.03 ID:XbRaDYE30

 地獄のような光景

 白い木箱からぶちまけられた
 赤のまだら 茶褐色 くすんだ黒
 散乱したヒトのパーツ

 何故だか ぼくには目が逸らせませんでした

 見つけてしまったのです
 そこには どこかで覚えのある 熊のぬいぐるみ


 しかし その口もとに 違和感


 (; ゚ω゚)「あ、あああああ……」


 御丁寧に あっかんべえの形で 縫い付けてありました


 ちいさな

 人間の




 舌が



438: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:10:24.31 ID:XbRaDYE30

止まらない震え 一歩一歩あとずさりする ぼく
ねばっこい汗が こめかみから顔全体 絡み はり付きます

そのとき
ふいに目の前を 黒い何かが横切りました


「!!」


それは
がちがち音を立てていた ぼくの顎ごと 押さえつけ
そのまま 宙に浮くかのような勢いで 締め上げます


「あ……!? ぐ、うう」


ぶ厚い布地を通して 与えられる力は なお一層強く

それが
何者かの腕であると わかったときには もう遅い

低い くぐもった声が 脳に直接ねじ込まれました



448: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:12:29.99 ID:XbRaDYE30


 『一週間、ご苦労さま』


 『見たよね? ほら。
    たくさん、溜まったよ』



 『ところで……』




               『君は、どこがいい?』



459: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:14:03.01 ID:XbRaDYE30











 かなかなかなかなかな



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