普通の人がエロゲーっぽい世界の主人公になったようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:21:02.83 ID:vU1AgEN30
目覚まし時計の音がうるさいので、とめた。
気付けば、ベッドの上で自分の生殖器が屹立しているのが分かる。
別に関係ないので、俺は着替えと洗顔を済ませた。

「そろそろ起きなさい。ごはんよー」

自分の部屋から少し離れた場所、そこから声が聞こえてくる。
老いさらばえたばあさん声だ。
自室のカーテンを開けて、陽光を体に浴びたのちに出る。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:27:35.43 ID:vU1AgEN30
リビングに到着した。
親父は、新聞を読んでテレビを見ながらごはんを食べている。
アメリカならば離婚ものの態度だろうが、ここは日本なのでンなの関係ない。

最近、小じわが目立ってきた母の顔を見、挨拶をすると同時に席についた。
そのまま朝食を摂取する。ピザトーストとインスタントスープとサラダ。
明らかに手抜きであるが、養われている身なのでえらそうなことは言えない。

もそもそと食べ物を詰め込みながら、母の愚痴を聞く。

「最近、お父さんがごはんのたびにテレビばかり見て……どうにかしてほしいわ」

多分、そういうのは一生直らないと思う。指摘されると嫌な顔しそうだし。
夫婦喧嘩は犬も食わぬ、として流しておく。高校生は朝早いから忙しい。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:35:13.61 ID:vU1AgEN30
トイレなどを済ませ、ひととおり状態を確認したと同時、玄関のチャイムが鳴った。



「おはようっ! 今日もいい朝だね。えへへっ」

いきなり朝っぱらからテンション高い女が俺の前に出る。
飾り気のないセーラー服をまとった、やや小柄な赤い髪の少女。よく校則違反にならなかったものだ。
というより、それ以前に、高校生にもなって『えへへっ』はねぇだろ、素直にそう思う。
そろそろ、黄色い救急車の情報を得るのも悪くないのかもしれない。

俺の目の前でその女は、ツインテールとかいう髪を揺らしながら、俺の手を引っぱってきた。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:40:52.47 ID:vU1AgEN30

「学校、一緒に行こう?」
「ふたりとも、いってらっしゃい」

家が近所だからって迎えに来るのはどうかと思う。世話焼き、というのはよく分からん。
俺のことを笑顔で送る母を見ながら、少しは不審がれと考えること数秒。

こんな年齢になってまで、稚気丸出しの態度と容姿を見せる赤ツインテール女。
ぶっちゃけ、そばにいるこっちの方が恥ずかしい。
汗顔の至り、忸怩たる思い、とかいうやつだろう。まあ、とにかく嫌だ、その思いだけは確かである。
だのにこの赤色ツインテール……あーもう面倒だから円谷でいいや。
とにかくその円谷は、俺の腕を引っぱって、駅前まで引きずりやがった。腕痛い、恥ずかしい。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:48:04.21 ID:vU1AgEN30
俺と円谷は電車に乗り、高校への道を急いだ。
途中、円谷がなんか痴漢に遭ったとか言ってたが、無視することにした。
いわれのないことを言われたサラリーマンの将来、テメェはどうなるのか予測してみろ、と言いたくなった。
でも円谷がなんか怖くて言えない俺、マジチキン。
というより、グドンのエサであるこの小娘のケツを、誰が触りたいと思うんだろう? 自意識過剰もいいところだ。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 21:55:20.82 ID:vU1AgEN30
いくつか電車を乗り換えて、俺と円谷は学校近くの駅にたどり着いた。
腕に巻かれた時計を見れば、時間はそれなりにある。
歩いて行けるのに、いつも落ち着かない円谷は小走りだ。そろそろ蹴り飛ばしたくなってきた。

歩道を歩いて、高校へたどり着く。
生徒の数もまばらだが、その中でも円谷は特に目立った。
赤い髪をしている時点で、どこぞのパンクロッカーと間違えられてもおかしくないのに、皆は知らん顔。

アレか、顔がいいからなのか。
容姿主義社会日本、万歳万歳。そんなこと考えている奴原は、みんな死ね。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:02:39.92 ID:vU1AgEN30
見慣れた教室に足を進める。
薄汚い廊下が目についたが、俺もあまり掃除は真面目にやらなかったので偉そうなこと言えない。
とりあえず、自分の席に座った。同時、そのまま突っ伏そうとするも、誰かに止められる。

「相変わらず遅いわね」

せっかくの眠気を癒そうとしたのに、俺の目の前に出たのは金髪女。
背もやや高く、やったらめったらきらきら光る髪が目立つので、ある日俺は聞いてみたことがある。

「その髪見て思ったんだけれど、お前さんってハーフか?」

まあ、ちょっと失礼な、詮索するような言葉かもしれないが、とにかくやってみたわけだ。
そしたらこいつの反応は、俺の想像の斜め後ろを飛びやがった。

「え? この髪が綺麗だなんて…そんな……。べ、別に照れてなんかいないんだからねッ!」

あんまり、人のことを差別したりするの好きじゃないんだけれど、俺はその時思った。

こいつ、基地外? 

つーか、こっちはハーフかどうかたずねただけじゃん。勝手に自己完結して照れる辺り、キモい以前に怖かった。
なんというか、原初の恐怖というものを味わった気がした。色々な意味で次元が違ってた。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:12:33.36 ID:vU1AgEN30

そんなコミュニケーションの出来ない女が、今、俺の目の前にいる。
うんざりするな、という方が無茶な話だ。つーか、寝かせろ。俺は日本語の通じる相手と対話したい。

「なによ、朝っぱらから元気ないわね」


それはテメェがいるからだよ、と言いたかったが、俺は怖くて言えなかった。

基本的に、相手を否定する言はつつしんだ方が良い。人間社会で生きるコツだ。
特に、日本という島国では。
言いたいことも言えない国ってやだ。マジで気力萎えるわ。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:20:39.12 ID:vU1AgEN30
コミュニケーション出来ない女が、俺の席を離れると同時に、ホームルームが始まった。
とりあえず、プリント類は整理してクリアファイルに入れておく。
あとで何か忘れたら困るし。



一時限目は国語だった。
朝、眠いのに、クソつまらん日本語を聞かされるのもどうかと思うが、教師も大変なのだろうから黙っておく。
とりあえずそこそこ真面目に授業を受けたものの、誤字脱字が目立つプリントはさすがに萎えた。

先生は50過ぎのおばさん教師であるが、クラスでも人気の女子ばかり当てるのはどうかと思う。
答えられないとスゲェ罵るし。


女の嫉妬は醜いが、熟女飛んで半ババァの嫉妬は、もう見るに堪えなかった。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:29:36.66 ID:vU1AgEN30
二時限目は社会だった。
教師は、30くらいの若い男の人。
それなりに顔立ちも整っていて話術もあるので、生徒からの人気はなかなか高い。

俺もこの人の授業は好きだった。まあ、歴史の人物とか覚えるのは面倒なんだけれど。
普通に雑談しても面白い先生だし、正直、今回の授業も期待していた。



しばし楽しい授業を聞いていたら、いきなりクラスの中で女子がひとり、泣き出した。
いじめうんぬんとか言って、ごたごたになって、結局その授業は流れた。
あとでクラスメイトに話を聞いたら、ただ悪口書いてある紙飛行機を喰らっただけらしい。


悲劇のヒロインぶって人に迷惑かけるバカは、マジで死んだ方がいいと思う。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:37:26.42 ID:vU1AgEN30
三時限目と四時限目は普通だったが、二時限目が潰れてブルーな俺は、あまりやる気が出なかった。
学費無駄にしているみたいで親には申し訳ないが、まあ終わったことは終わったことなので、割り切ることにする。


中休みになったので、どこかで弁当を食わねばならない。食はエネルギーなり。
弁当もって食堂に行くのは、なんか気がひけるので教室内で食べることにした。

「よう! ひとりで寂しく弁当か?」

俺がもそもそと弁当を食べていると、いきなり寄ってくるのは男子生徒。一応、俺の友人である。
身長高い、顔が綺麗、文武両道、家が金持ち。だのにもてない不思議な人間だ。

高校生なら、顔と金さえあれば股を開くのに、おかしい。

俺がその友人と話をしていると、いつの間にやら、そいつは俺の近くにあった机をくっつけてきた。
特に断る理由もないので、俺は弁当、そいつは惣菜パン、互いに互いの食物をむさぼることにする。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:44:28.19 ID:vU1AgEN30
「そういやさ、お前、どんな子がタイプなの?」

いきなりその友人に話を振られた。まあ、内容的には男の子がよくするものだと思う。
俺は深く考えず、正直に言った。

「そういうの、あんまり考えたことないな」
「なんだよ? このクラスにはさあ、色々とかわいい子がいるじゃないか。たとえば…(ry」

俺がそう言った瞬間、その男はいきなり目を見開いて語り始めた。えんえんと。

ぶっちゃけ、死ぬほどウザかった。話題変えようとしても、こっちの言葉を無視するし。
こいつもコミュニケーションが出来ない男か、そう思って離れようとしても、引き止められる。

とみに思ったが、俺はなんでこいつと友人なんだろう? もう友人とかそういう呼び方したくない。つーか、一緒にいたくない。
でも社会的な視線が怖いので黙っている俺、あくまでチキン。

友人……もういいや、こいつ死ぬほど粘着質だから、接着剤って呼ぶ。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 22:54:25.40 ID:vU1AgEN30
「何の話をしているの?」

接着剤のトークが始まって五分後に、俺のご近所さんである円谷がやってきた。
赤い髪を流すその姿は、やっぱりパンクロッカーにしか見えない。ぶっちゃけちょっと怖い。

「いや、コイツの好みのタイプとかの話」

接着剤はそう言うが、俺は全力で否定したかった。
一方通行の言葉ブチ当てを、話と称するこいつのドタマに、俺のこぶしをブチ当てたかった。

でも俺は喧嘩が弱いから怖くて出来ない。暴力事件で退学になるのも嫌だ。就職口に困る。
やっぱりそれなりの経歴がないと、将来、楽が出来ないし。

人生プランをひとりのアホに破砕されるなど、まっぴらごめん。あー、やだやだ。



なんかよく分からんが、色々と話が転がって、気付けば俺の机の周りには、人が三人もいた。
あっという間だった。俺がぼうっとしすぎなのも、原因かもしれないけれど。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:09:36.67 ID:vU1AgEN30
現在、俺の周りには、基地外…まあ、人間が三人いる。

ひとりは、円谷。赤い髪のパンクロッカーもどきで、頭のネジが飛んだ人間だ。
そろそろ黄色い救急車を与えてやらないといけないかもしれない。
高校生にもなってツインテールとやらをやっている、正真正銘のキャットかぶりメルヒェン女だ。

ふたりめは、接着剤。顔立ちとかは良いが、人の話を聞かないウザい人間だ。
恋愛に興味あるというか、がっついている節がある。別にそれでも構わないんだが、俺を巻き込まないでほしい。
知らない趣味の話をえんえんとされるとむかつくよね? ぶっちゃけ、そんな感じです、こいつのトークは。

最後に、人の話を聞かない金髪仮ハーフ。こいつは、円谷と接着剤の悪いところ足して二で割ったような人間だ。
呼び名は思いつかんので、適当に金髪でいいや。こいつも黄色い救急車予備軍だし、名前なんて覚えてられない。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:25:19.85 ID:vU1AgEN30

「で、お前はどうなんだよ。あいつとか?」
「べ、別にアイツのこととか気にしているわけないじゃない!」
「えへへっ、顔が赤いよぉ〜?」


なんで俺、こんな奴らと近くにいるんだろう。
自分が分からなくなる今日この頃。
痛む胃を抑えて、母が作ってくれた弁当をかき込んだ。
ピーマンの肉詰めが美味かった。けど、いつもより塩味多めな気がした。



授業が全て終わったので、俺は帰路を急ぐ。円谷は部活なので、一緒に帰ることはない。正直、助かる。
特にやるべきこともないので、自室で復習でもしながらゆっくりまどろんでいるか、と考える俺は枯れているのかもしれない。

まあ、それはともかくとして、学校の最寄り駅に行こうとしたら、いきなり小さな女の子が出てきた。

いや、小さな女の子ではない。


『変な』小さな女の子だ。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:37:24.29 ID:vU1AgEN30
何故ならば、このやや暑いなか、なんかゴスロリと呼ばれるような服を着ていたから。
女の子の顔立ちは整いに整っていたが、それがますます痛々しさを加速させるというか。

流す髪の色は日本人っぽさの欠片もなく、肌も白い。美人って、大抵は変人なのかもしれない。
幼女っぽい女の子を美人と呼ぶのも変かもしれないけど。

俺は、その幼女のそばを素通りしようとした。周りに人がいないのが気になるが、ぶっちゃけどうでもいい。
と、いきなりその幼女、俺の服のはしをつまんできた。
これにはさすがに反応せざるを得ないが、ゴスロリ女と一緒だと思われるのは生理的に嫌だ。

文句のひとつでも言おうとして幼女の顔を見れば、いきなりそいつはにっこりと笑って、言った。


「あなたは……忘れているのね。そう、回るわ……運命は、どこまでも……」


瞬間、俺の背筋に悪寒が走り、鳥肌が立った。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/02(月) 23:50:58.17 ID:vU1AgEN30
こいつは。

こいつは、とんでもない……電波である。
なんか、どっかの宗教に入っていそうな発言だ。
やばい、一緒にいると、『幸運になるツボ(200万円)』とか買わされそうだ。

俺は、色々な意味で危機だと判断し、幼女……否、電波から間合いをとった。
電波はくすくすと笑っていた。それがいっそう、俺の恐怖を助長させる。

暑い道の中、くすくすとゴスロリ姿で笑う女を見かけたら、引くに決まっている。
こんなファッキンクレイジーな状況の中、俺は身動き出来なかった。

黄色い救急車の呼び方を、そろそろ切に考えていたからである。

「どうしたの? わたしが、こわいの?」

電波幼女は笑いながらそう言う。一方、俺は動けなかった。
実際、怖かったのだ。

何故ならば。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 00:01:00.11 ID:ufRg5Jdv0
何故ならば。

こんなゴスロリ女と対峙して、学校の奴らに情報が漏れて、近所の評判が落ちたらどうしよう、そう考えていたから。


外聞悪いと社会生活に支障が出るし、そうするとストレス解消とか大変だし。

それ以前に、幼女と知り合いということをいいがかりにして、あらぬことを言いふらされたら大変だ。
俺の人生プランがゴスロリ電波によって破砕される。そんなのはまっぴらごめんである。

そう考えると、怖くて怖くて仕方なかった。



とりあえず、俺はこの場から脱出せねばならない。

すぐさま俺は電波幼女から離れて、一目散に逃げ出した



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 00:13:26.08 ID:ufRg5Jdv0
怖いよ、電波はマジで怖いよ。何を考えているのか分からない辺りが怖い。

「怖いの? ねぇ、怖いの? ねぇ、ねぇ?」

俺が全速力で走って逃げているのに、幼女はにこにこ笑いながら俺を追跡してくる。
この幼女、足はえぇぇぇぇ! しかも、電波だけじゃなくてストーカー癖もあるのかよ!
俺は全身に氷をぶち込まれた感触に襲われた。ぶっちゃけちびりそうになった。

怖い。とにかく怖い。イカした……もとい、イカれた女がそこにいるという事実が怖い。
しかし、走り続けていると追いつかれる。
なので、発想の転換で止まってみた。と、次の瞬間、背中に小さな衝撃。

「いたっ!」

どうやら幼女は俺に衝突したらしい。その一瞬の隙をついて、俺は逃げ出す。
PTAとかにチクられたら、俺の人生は間違いなく終わる。
なので俺は走った。必至に走った。背後で「……もう」なんていう幼女の声なんて聞いてない。

どうして俺の周りは変な奴ばかりなのだろうか?
早急に人生プランを練り直さねばいけないのかもしれない。
そのまま俺は、電波の対処法を考えながら、家へと戻った。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 00:26:30.52 ID:ufRg5Jdv0
朝である。

学校行きたくない。けど、行かなきゃならない。
出席はもう充分なのだが、なんか行かなきゃならん強迫観念に狩られている。
昨日、わけの分からん電波幼女に追われたせいか、気分が悪い。つーか、俺を囲む環境が気分悪くなる元凶だけど。

サボりたいのでサボろうとした。出席はちゃんとしているから、単位平気だし。
親に、「学校さぼっていい?」と聞いてみた。
みぞおちにコークスクリューかまされた。今日の朝餉である、目玉焼きが逆流しそうだった。

仕方ないので、俺は涙目で着替える。
ほどなくして。

「ねえねぇ、学校いこうよっ!」

パンクロッカー円谷が出た。もうこの辺りのくだりは、記憶に残すのすら面倒だ。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 00:39:27.58 ID:ufRg5Jdv0
円谷と一緒に学校に行くのは、羞恥を通り越して屈辱ですらある最近。

なんで俺は、こんなピーターパンワールド永久滞在女と一緒に行かなければならないのか。
そんなこと考えても現状は変わらないので、とりあえず学校まで行った。


授業を消化。
やっぱりと言うべきか、教科書そのままなぞる授業はつまらない。
ノートだけ取っておいて、プリント区分けして、それで終わり。
予習はしていないが、復習はしているので、一応ついていける。



学校に行く、家に帰る、人生プランを練る。
そんな日が二回ぐらい続いた。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 01:03:17.82 ID:ufRg5Jdv0
なんか淡々とした日常だけれど、俺にとっては良い傾向にあると思う。パンクロッカーの介入以外、平和だったし。
そんなことを考えていて、ばちが当たったのだろうか。

昼休み、今日は食堂で食べるか、などと思ってそこに行った際、接着剤と鉢合わせた。
本当なら、会釈ひとつして、他の人と食べたい。けれど、接着剤は俺と食べる気まんまんでいる。

断りたい。けれど、断れない。
よくあるパターンだ。向こうはこっちのこと友達と思っているようだが、実はこっちは違う、という例。

まあ、社会的外聞を尊重する俺は、愛想笑いと適当な言葉で接着剤と接して、一緒に食事をする。
俺はからあげ丼で、接着剤はカレーである。学食なので、美味くも不味くもない。安いだけがとりえだ。
が、俺なんぞが味について文句を口に出して言えるはずもない。自重はしておこうと思う。

「ここのカレー、なんか美味くねぇんだよなー!」

接着剤は声がでかい。
人を本気で殴りたいと思ったのは久しぶりだ。



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 01:13:30.68 ID:ufRg5Jdv0
「どうしたのよ? 男ふたりで」

俺が内心唾棄しながらからあげ丼を食べていたら、金髪が寄ってきた。
とたん、何か周りから色々と視線が向けられる。俺に対しての哀れみのそれかと思ったら、違った。
なんで視線が来るのか接着剤に聞いたら、整った顔をゆがめて語った。

「いや、あいつ、結構目立つ容貌だろ? 顔だけなら綺麗だし。羨望の視線だな」
「ちょっと、顔だけってどういうことよ!」

にやにや笑いで言う接着剤に、食ってかかる金髪。わざわざ噛みつくこともないのに。金髪はカルシウムが足りないと思う。
たまには仏心でも出してやるか、などと思い、俺はカバンの中にあった牛乳パックを金髪によこした。
金髪は、きょとんとした顔で俺のことを見ている。

「なに、これ?」
「いや、カルシウム摂取した方がいいんじゃないかな、と」

俺がそう言うと、金髪は自分の胸を見、いきなり顔を真っ赤にしながら、俺の頭を殴った。
痛い。クソ痛い。一瞬、火花が飛んで、目の前が真っ暗になった。所持金半分になりかけた。
何をするんだ、と俺が講義してみたら、金髪は頬を赤く染めて俺のことをねめつける。

「失礼ね! 小さくなんかないわよ! むしろ大きめよ! なに、アンタ巨乳好きなの!?」



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 01:28:25.42 ID:ufRg5Jdv0

あまりにわけの分からんことを言われて、俺の時間が止まった。周りの時間も。
つーか、金髪の言葉は脈絡がなさすぎる。それにすぐ噛みつくところも問題だ。
一回、落ち着いた大人の方を見習ってほしい。

やっぱり余計な仏心は出すものじゃない。そう思った俺は、金髪に渡せなかった牛乳を、自分で飲んだ。
飲みたくなさそうだったし、俺は牛乳好きだし。

「なに飲んでるのよ! くれるんじゃなかったの!?」

理不尽だ、金髪。
こいつは情緒とか道徳の面だけ、小学校からやり直した方がいいと思う。



学食から帰ったら、教室内の何人かに「おい、巨乳好き」と言われて死にたくなった。



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 01:37:18.67 ID:ufRg5Jdv0
放課後になった。
特にやることもないが、天気が良かったので、俺は学校内を散歩することにした。
校内よりも校庭とかを散歩する方が好きなので、あてもなく歩いた。

丁度、裏庭のような場所にさしかかった際、ひとりの女子生徒がぽつりとウンコ座りで座っていた。
何かを見ているようだった。
邪魔するのも悪いので、通り抜けようとしたら、いきなりその女子生徒は口を開いた。

「あなたは……」

周りを見ても誰もいない。
俺はそこで、ようやく自分に声がかけられたのだと気付き、吐き気を覚えた。
なんでまた、こんな電波っぽい人に声をかけられなきゃならないのか疑問だった。しかもこの女、髪が緑色だし。



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 01:44:31.93 ID:ufRg5Jdv0

緑色の女……もう抹茶でいいや。抹茶は、なんか地面に咲いた花に向かって、一心不乱になんかボソボソ言ってる。
こいつもどっかの宗教に入っているのかもしれない。そう考えると恐ろしくて逃げたくなる。だのに。

「あなたは、この地面に咲いた花を、どう思いますか?」

こんなことたずねられたら、怖くて動けない。
なんで俺の出会う人間は、常識的じゃない奴らが多いんだろう。もうマジで人間関係全部洗いたくなってきた。

洗剤で汚れが取れるんなら、俺につきまとう奴ら全部落とせると思う。

「さあ……。まあ、その花、綺麗だとは思うけど」



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 01:53:00.49 ID:ufRg5Jdv0
地面に咲いた花はタンポポだった。
が、俺はあまり花など注視せんので、とりあえず当たり障りのないことを言ってみた。
この手のタイプは、玄人ぶるとキレそうで怖い。
電波を相手にするのが怖いのは、相手がいつキレるか分からないからだ。心の琴線とか、マジで把握無理。

「いいですよね、綺麗ですよね、花……。
 この、誰にも見られぬところで咲き誇る、一抹の美はことに映えて……」

俺は、逃げた。
怖かった。何が怖いって、あの抹茶は電波じゃなくて、メルヒェンポエマーだった。
ぶっちゃけた話、痛い子だった。はじめてのバイオハザードでゾンビと出会った時より怖かった。

なんで、初対面の相手にあそこまで話すことが出来るのだろう?
普通、初対面の相手には、まず自己紹介とか、そういうぎこちないところから始まって、猫かぶってるもんだと思う。
で、少しずつ自分をさらけ出すのが基本、俺はそう思っている。

だのにあの抹茶といい、電波といい、何故に『自己』をフル稼働してこちらに話しかける?
恐ろしい。何が恐ろしいって、「拒絶されねぇだろ」ということ前提の話し方が恐ろしい。でも、それを指摘しないで、表面上だけで対応している俺はやっぱチキンだ。



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:00:35.29 ID:ufRg5Jdv0

散歩をやめた俺は、グロッキーになりながら帰路を急いだ。

しゃれにならない、というか、もうなんか嫌だ。精神的に磨耗して磨耗して、もう駄目駄目だ。
砥石でがりがり削られすぎて、ちびた日本刀状態である。

というより、何故に俺は今までこんな環境下に置かれて平気だったのか疑問である。
意図的に忘れようとしていたのか、意図的に気にしないようにしていたのか。
それが何かのはずみによりて、俺に鋭敏な感受性を植え付けるに至ったのか。


そこの辺りは考えてもとかく詮無いことであろう。
最近、変な電波に追われたから、気がおかしくなっているのかもしれない。



「――こんにちは」



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:06:37.89 ID:ufRg5Jdv0
だのに、ねぇ。
どうして駅に急ぐ俺の前に、あの電波幼女が現れるのか。なんかもう、泣きたくなってきた。

電波は、相変わらずゴスロリ着用だし、犯罪的なぐらいに似合っている。バタ臭い容色も整いに整っている。
誰が見ても可愛らしいと称するであろうが、俺はそう思わない。だって、電波って怖いもの。
網膜に映る美醜を超越した存在なのである、この電波は。ゆえに俺は警戒したまま。

「あなたは」

話しかけられたので、無視して通り過ぎる。いや、だって電波怖いし。
俺は、意思を伝え合うことの出来る人間をこそ希求しているのだ。電波はどっかでミステリーサークルでも作ってくれ。
そう考えて早足で駅へと向かうも、ゴスロリ電波は俺をストーカーする。怖い、マジ怖い。ストーカーパワーはフレンジー。

「胸の大きい人が好き?」

こけた。
俺は思いっきり盛大にこけた。ズッシャアアァァァッ、と擬音が付きそうな勢いで。
幼女のくせに、なんつーませた言をするんだろうか。
奇しくも俺が昼休みの後に言われた言葉みたいだ。

「……! お前、まさか」

俺は、そこでひとつの答えを出した。否、出してしまった。
何の根拠があって思ったでもない。幼女は、俺の目の前で微笑んでいる。
だが、俺の言葉が放たれた際、まるで狙った鳥を銃でブチ殺したような凄惨なる笑みを浮かべたのだ。
それは、根拠ではなく、動かぬ証拠の領域であった。まさしく、幼女の笑みが、それだった。



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:12:28.73 ID:ufRg5Jdv0
……間違いない。

「お前、学校に盗聴器かカメラを仕掛けているな!? いくら将来通いたい学校のことを調べたいからって、そんな手段は駄目だぞ」

「……え?」

俺の言葉に、何故か電波幼女は面食らったようで、しばしの間、ほうけた表情を見せる。
その顔だけは、仏蘭西人形が熱をもったようで、人ならざるほどの美しさを見せていたが、やっぱり電波なので怖かった。

「今なら回収が可能だ。俺は黙ってやる。場所を指定してやれば取りにいくぞ?」

人に親切にするのはあまり好きじゃないが、人の夢がついえていくのを見るのは嫌なものだ。
変なところでおせっかいなのである、俺は。まったく、今日の仏心といい、どうかしている。
このままだと犯罪になるであろう幼女の所業だが、俺はむしろその行為を微笑ましいものと感じた。

人間、いくらでも間違いはあるのだ。たとえそれが電波だとしても。
そう、今からなら、正しい道に進ませることだって出来る。

「え、あの、いや、その……。私、そんなのしかけてないんだけれど」


……ゑ?



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:19:43.18 ID:ufRg5Jdv0
しかし、俺の予想に反して、電波が放った言葉はそれだった。
どういうことだろう? 普通の幼女なら隠しカメラとか無理そうだが、俺は、この電波ならやれそうだ…と素直に思った。

だからあんな発言をしたのだが……いや、勘違いだったとは。
俺も人のことを言えない。反省しよう。先入観だけで物事を決めては、いけない。

これからも、社会にもっと馴染んでいかなくては。
人の話をよく聞いて、ちゃんと自分なりの意見を、謙虚に、それでいて強く伝えなくては。
そうしないと俺の人生プランが破綻してしまう。それは非常によろしくないことだ。

これ以上、幼女に付き合うのも面倒なので、俺は人生プラン再構造計画のために家へ戻ることにした。

途中まで幼女がついてきて恥ずかしかった。

何故か持っていたべっこうあめをふたつあげたら、にこにこしながら舐めたので、その間に逃げた。
お前は口裂け女かよ、と言いたかったが、あの電波具合はマジで都市伝説になりそうだと思った瞬間、急に怖くなった。
ゆえに俺は走って家に戻り、復習を済ませたのちに人生プランを練った。

……やはり公務員が堅実だろうか。



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:27:08.42 ID:ufRg5Jdv0
週末の朝だが、起きる時には起きる。
やっぱり体がだるい。心も重い。
昨日は恥ずかしい勘違いをしたのと、痛い人間である抹茶に出会った、そのせいだ。
母の呼び声が聞こえないのを訝りながら、リビングに下りる。


……ふたりして、旅行しやがった。なんでも、世界一周だとか。

高校生の息子ひとりを家に置いておくなんてどないなこったい、とも思ったが、置手紙にあたっても仕方ない。
やばくなったらいとこに頼め、と置手紙にはあったが、あの人もちょっと電波っぽいので怖いから会いたくない。
リビングに残った置手紙と預金通帳を手に、俺はただただ茫然自失。

やはり、親がいないと心細いものである。最近、電波系の人が多いから、余計に。
朝は適当に栄養食で済ませて、これからの計画を考える。が、寝ぼけ頭のせいか、思いつかない。

そもそも、どっかのゲームじゃあるまいし、高校生ひとりを家に残すのは変だ。
が、文句言っても現状は好転しないので、学校行く準備をする。
本当はさぼりたかったんだけれど、出席日数を親に見られたらくびり殺されそうなので怖くて出来ない。

よくよく考えてもみれば、俺の行動って、大抵が恐怖とか社会的外聞とか、そういったことに後押しされて成り立っている。
それ、つまらない人生かもしれない。とみにそう思う。
でも、つまるとかつまらないとか、ンなこと言っても成績あがらんし、金ももらえん。現実って苛烈だし。

だから堅実に行くしかない。厄介な世の中である。
胸糞ちょっと悪くなったんで、トイレで痰を吐いた。かーっぺっ。



152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:34:48.15 ID:ufRg5Jdv0
円谷と一緒に学校に行った。
途中の電車で、円谷の後ろにいたおっさんがスカートの中に手を入れているような気がした。
円谷が俺に視線を向けてくるが、俺は見て見ぬふりをした。

だって、もしも痴漢冤罪だったらどうすんだ。その人、社会的に地位を失うんだぞ。
俺は、他人の家庭を壊したくないし、路頭に迷う家族を見るのも嫌だ。

円谷の視線に反応すれば、俺はなんかアクションしなきゃならんだろうし。
他力本願やめろ。ここで俺が行動しないと、どうせなんか言ってくるんだろう。
もうちょっとバッシング発言ひかえろ、マスコミュニケーション。


だいたい、何が悲しくて、グドンのえさを(ry
なんてことを考えながら、俺と円谷は学校に行った。

途中、円谷が

「なんで……たすけてくれなかったの?」

なんて、恨みがましい目でこっちを睨みつけながら言いやがった。

つーか、助けられること前提の発言されると、マジで怒り湧くんだが。
最近、なんか理不尽なことで怒られてばっかりだ。ぶっちゃけ、死にたい。でも死ぬの怖いから死にたくない。

とりあえず、人の力をあてにしている馬鹿は、一回殴られた方がいいと思う。グドンに食われてろ、円谷。



161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:41:00.95 ID:ufRg5Jdv0
もうやだ。
なんか、毎日がやってらんない。
最近、変な人間に遭遇しまくる。すっげぇ憂鬱だ。

こっちは両親いねぇから、精神的に不安なのに。
心労と疲労で机につっぷせば、接着剤が声をかけてくるし。こいつ、空気って字が読めねぇのか。


授業を消化する。ちょっと分からないところがあった。
先生に聞きたかったが、なんか優等生ぶっていると思われるのが怖くて出来ない。
成績よりも社会的外聞。実際、学校なんてそんなもんだ。

自分が異端になりたくないから、皆、同じ行動をする。
異分子排除は基本的な行動だ。
いじめ、なんてくだらん言葉だが、まあそういうのがあることを知ってて、生徒たちは通っているんだ。

チキンな俺は、分からないところを教科書見て調べた。
やっぱ分からなかった。ちょっと泣きたくなった。



169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:47:44.76 ID:ufRg5Jdv0
昼休み。
頼んでもいないのに、接着剤と金髪と円谷がこっちに来て、一緒に食うことになった。
食堂で食べてたら、なんか抹茶がひとりでカレーうどん食ってた。
接着剤はそれを見るなり、「ひとりで食べているなんてかわいそうだ!」なんて言い出した。

あれよあれよと話が進んでいって、気付けば、なんか抹茶と一緒に飯を食うことになった。
なんか、金髪とかが抹茶に話しかけているけれど、基本的に無視されている。

だからさ、行き過ぎた好意とかは迷惑だし、こういう偽善精神の対象にされることって、他の何にも増して屈辱なんだっつーの。
つーか、接着剤たちの考えはわけ分からん。普通にほっときゃいいのに。


なんか一緒に飯を食べることすら、超絶的な苦痛を感じてきた。
仕方ないので窓の外を眺めていたら、なんかあの電波幼女が見えたような気がした。
幻覚を見てしまう辺り、俺の疲れも相当なもんだと思う。



昼休み終わり前に、抹茶と円谷の食っていたカレーうどんが跳ねて、俺の服についた。
もうやだ。精神的に理不尽な思いしてきたけれど、物理的なのはマジ勘弁してください。

もう、怒るとか怒らないとか許すとか許さないとかどうでもいいから、俺のこと放っておいてくれ。



173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 02:54:04.19 ID:ufRg5Jdv0
そろそろ精神的に磨耗してきたので、なんか気晴らしのようなことをしてみようと思う。
学校が終わり、接着剤がこちらのことを見てきたが、こいつと一緒にいるとパントテン酸の減少が著しい。
ストレスのせいでハゲになりたくないんで、無視して教室を出て、廊下を歩く。

その途中、金髪がこっちの姿を見るなり、そっぽを向いて

「あ、アンタがいいなら、一緒に帰ってやってもいいけど……」

なんてことを言いやがった。


あー、もうね。ウザいとかそういうレベルの話じゃないね。
つーか、俺、ひとつ疑問なんだけれどさ。



どうして、こいつら、自分のやることなすことに疑問をもたないの?
普通、自分が間違っていることしているかそうじゃないかって、相手の反応見て決めるもんだろ。
そうやって手探りの術でいって、少しずつ相手が不快に思っちゃう態度とか理解して、ゆっくり関係を築くもんだろ。

どうしてこいつらは、自分のことをそこまで正しいって認識出来るんだ?

自分という存在って、自分が思っている以上に無能なのに、何故にこんな自信がもてる?
もうわけ分からん。こいつら気が狂っていやがる。同じ空間の空気、吸いたくない。



178: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:00:49.22 ID:ufRg5Jdv0
俺は、金髪のことを見て見ぬふりして通り過ぎ、廊下を走った。
ぶっちゃけた話、逃げたってことだ。

やだ、もう嫌だ。
なんで俺の周りには、こんな一方通行人間しかいないんだ?
マジで憂鬱になってきた。



学校を出て、俺はぶらぶらと歩く。
やはり散歩はいい。柔らかい日差しを浴びながら、適当に闊歩するだけなのに。
散歩というのがいかに偉大か分かった気がする。うるせぇのがいないのも原因のひとつなんだろうけれど。

なんつーか、俺はもう疲れた。
歩いている時は感じないんだけれど、円谷とか接着剤とか金髪とか抹茶とかと一緒にいると、頭の中がおかしくなる。
あの電波幼女もおっそろしいし。

あれか? 俺は誘蛾灯か? 人の話を聞かないやつばかりを集め寄せる道具か?
そう考えるとすごい憂鬱になったので、とりあえず道を歩くアリを五匹ほど踏み潰した。
あ、靴が汚れる。アリってうざい。



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:08:48.15 ID:ufRg5Jdv0
適当にぶらぶら歩いていると、俺はいつの間にやら、森の中にいた。
風にさやぐ枝葉の音が気持ちよく、思わず眠ってしまいそうになるも、自粛。
こんな場所で寝ていたら、虫とか口の中に入りそうで怖い。

とりあえず、俺は散歩を続けることにする。
すると、深い深いしげみの中に、あるひとつの山小屋があることに気付いた。
木製の、ログハウスみたいな感じのやつだ。

思わず感嘆の息が漏れた。
こんな深い場所にあるのならば、他の人は気付かないだろう。
どこか貧乏くさいつくりだが、それも情趣を醸しているからよしとする。

俺は、その小屋に足を進めていた。
何を考えていたわけでもない。ただ、そのログハウスみたいな家に、興味をもっただけのこと。



187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:14:20.95 ID:ufRg5Jdv0
小屋の中は、くもの巣とほこりばっかりだった。
机とか椅子とか、白いほこりで彩られていて、とかくとかく酷いったらない。
ただ、そこで俺が着目したのは、台所。

そこだけ、ほこりがはがれていた。つまりは、最近、誰かが来たという形跡の証左。
俺はその場所に近寄った。

そこにあったのは、日記のようなものだった。
いや、A4用紙に書かれていたものが束になっていただけだから、簡易的レジュメのようなものかもしれない。

こういうものを見た際、男は少なからず、その謎やらを追及してみたい、と思うものだ。
多分に漏れず、俺もそう。

すぐさま、その紙の数々を見た。
あと、くもうぜぇ。踏みつけた。内臓出た。ざまあみろ、死ね。



193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:21:36.72 ID:ufRg5Jdv0
レジュメの内容は、なんつーか、論文というよりかは、小説みたいなものだった。


『私は、記録する。
 この、不思議な少女のことを。
 いささか興奮気味なので、文体がくずれにくずれているかもしれないが、それは我慢してほしい。
 願わくば、この文が、良心的な人間に見られることを願って。

 寒い、夜のことだった。
 私は、ひとりの赤子を拾った。
 赤子は、衰弱していた。だから私は赤子を庇護した。

 戸籍も何もない、よく分からない少女。されど、ひとりで暮らす偏屈者の私には、一服の清涼剤になった。

 数年が経過しても、私は、この娘を、この少女を、警察に突き出さなかった。
 否、突き出せなかった。


 この少女を、皆、視認することが出来なかったのだから。


 まるで、その少女の存在がはじめからなかったみたいに。
 誰も、誰も、その少女に着目しない。



198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:26:38.94 ID:ufRg5Jdv0
……私は気付いた。
 この少女は、人間の知覚領域の埒外を歩む…いや、難しい話は置いておこう。

 とにかく、この少女は、皆に、認識されない存在だったのだ。
 皆、この少女の方を見ても、誰も誰も、彼女の存在に気付かない。


 当初、私は、この少女の運命を呪った。
 私が支えてあげなくては、そう思った。
 女だてらに、この少女に、母性のようなものを与えていたことは否定出来ない。




 ……体が重い。
 もともと、私は、体が強くなかった。
 仕方ないことだ。いつか人は死ぬ。

 ただ、この少女はどうするべきだろうか?
 誰にも視認されぬ、透明の女。
 たったひとりの理解者たる私が消失する際、彼女の困惑はいかばかりか、語るべくもなかろう。

 だが、ある日、彼女は言った。



201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:30:31.69 ID:ufRg5Jdv0
 「おかあさん、おかあさん! 私と話してくれた男の子がいたんだよ! すごく優しいの!」


 涙が出た。
 悲しくなった。
 彼女は、愛を知らなかった。
 だから、小さな愛でも、ひたすらに、ただひたすらに喜んだ。


 ……もう、ペンを、うまく、にぎれない。
 かんたんに、かく。


 大衆に、認識 されない   彼女は
 愛が   愛を  もと め      


 しあ わ せ     に   な   て』


俺は、レジュメもどきの文を読み終えた。
これは、これはなんという……。



205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:35:20.98 ID:ufRg5Jdv0

…なんという。

なんという、サナトリウム文学のような、ライトノベルなのだろうか。

大衆の心をつかむ、エンターテインメント性もさることながら、人の感心を誘ってやまない描写。
うん、すべてが勉強になる。小説とか、やってみたくなる。

こんな廃屋にライトノベルを置くなんて、なんて偏屈な人だろう。
その意思を受け継ぎ、作家になるのも良いかもしれない。いばらの道だろうが。

俺がそんなことを考えていると。


「……うふふ、見たのね? そのレジュメ」


あの電波幼女が、俺の、背後に、いつの間にかいた。



210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:40:36.09 ID:ufRg5Jdv0
俺は、恐怖に身を震わせた。
何が怖いかって、俺のあとをつけていたように現れる、この女が。
もしかしてストーカーか? そう考えると、体が震えて震えて。

とかく怖い。震えに震えて、何も言えない。



「うふふ、そう。他者に視認されえぬ存在、それが私」

「誰にも見られないのに。ママは、私の存在を認識してくれた。……嬉しかったわ」

「でも、ね? 小さい頃、本当に小さい頃、あなたと出会って。私のことを、『見て』くれた」

「……好きよ。一緒にいたいわ。私を、見て。私を見て、見て、見て!
 ママ以外なの! 私を見てくれる人は! もう死んじゃった、ママ以外なの!
 ね? ……そいとげ、ましょう? ずっと、学校で、あなたのことを見ていたんだから!」



俺は。
俺は……。



219: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:45:39.97 ID:ufRg5Jdv0
俺は、この幼女を、蹴りたくなった。
電波にも程があるだろ、常識的に考えて……。
なにこいつ、ここにあるライトノベルみたいな内容のこと語っているんだ? ンな展開は現実的にねーだろ……。

ああ、それがいわゆる厨二病ってやつか。
自分を崇高な存在に見せたいことは分かるけれどさ。そういう発言、どうかと思う。
つーか、ゴスロリ着ていることに意味あんの? そろそろ俺も怒りたくなる。つーか、話しかけんな。

なんか、この幼女は円谷とか接着剤よりもたちが悪い。
自分の発言に絶対の自信をもっている。そこの辺りがマジで怖い。
もう少しバッシングされて、世間を知った方がいいと思う。だのに、この幼女は自信まんまん。

俺がそんな幼女の態度に絶句していると、幼女はいきなり悲しそうな顔をした。
そういう顔、やめれ。PTAにうったえられたらどうすんだっつーの。


「お、覚えてないの…? ひどい、わたし、学校であなたのことを見ていたのに!
 ずっと、ずっと見ていたのにいぃぃぃぃっ!」


幼女は何故かいきなり地団駄を踏み始めた。
なんてこったい。これがいわゆる、ヒステリー、というやつだろうか。
だから女は怖いんだ。特に若い世代は。もうちょっと論理的に怒りの意味を証明してくれ。



224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:51:07.87 ID:ufRg5Jdv0
後先のことを考えないのは、若い世代にありがちだ。
刹那的な快楽ばかりを優先する。そういう人って、いわゆる『馬鹿』なんだろうけれど。
まあ、若者って基本的に馬鹿だから仕方ないのかもしれない。
俺も若者だから、大人たちにバッシングされそうな行動をしたかもしれない。

つーか、この電波は一体、なんなんだ?
押し付けの愛をやって、本気で相手が自分に向いてくれると思ってんのか? だからストーカーは怖いんだ。
まったく、最近のガキの考えることはよく分からない。それがストーカーならなおさらだろう。

俺が沈黙を保っていると、幼女はいきなり決意したような表情で、俺のことを見た。
すっげぇ美人だけれど、俺は電波に興味ない。


「ねぇ、いいのよ? あなたになら、全てを捧げられるから。そう、すべてを……」


そんなことを幼女が言えば、やにわに彼女は服を脱ぎ始めた。
俺は、それを見て、とてもとても恐ろしくなった。

いや、だって、外見幼女に変なことしたら、児童ポルノ法とかうっせぇだろ。
それ以前に、体で男を引きとめようなんて、なんてサノバビッチな考えなんだろうか。

でも、それよりも、俺が怖かったのは別のこと。



228: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:53:34.68 ID:ufRg5Jdv0
大体、今の若者って、セックスの重要性を知らないよね。
セックスすれば子供が出来るかもしれないのに。中学生とかそういうのをしているところ見ると、マジで怖くなる。

もしも子供が出来たら、どう責任とんのさ?
親に庇護されている立場なのに、子供出来たとか……自分で稼げもしないくせに、何やってんだよ。
もうちょっと社会的に地位が安定してから、そういう行動に走るべきじゃないのか? そう思う。
だって、子供出来たりしたら、色々と金がかかるじゃないか。
そんなところまで、親のすねをかじってなんとかするのか? そういうのってひどくないか?

仮に、子供が出来たとして。
中絶手術するのは、悪くないけれどさ。
人殺ししているって自覚、ある? 中絶って人殺しじゃん。

どんな理由とかがあっても、人殺しは人殺しだっつーの。
殺したくない、と言って人を殺すのと、殺してやる、と言って人を殺すのと、一体どんな違いがあるのさ。
とかく、赤子をおろすことは、人殺しと同義です。そして、俺は人殺しになんてなりたくないです。

そりゃ、眼前に女が裸、というのは欲情するかもしれないけれどさ。
俺はロリコンじゃないし、社会的外聞を尊ぶの。

だからセックスなんて出来ないんだよ。怖くて出来ねぇよ。
やっぱり就職してから、だよね。



235: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 03:58:23.24 ID:ufRg5Jdv0
というわけで、俺はその幼女の行動を無視し、そこにあったレジュメもどきをもって、小屋を出た。
ロリに興味はない。それよりかは、このライトノベルみたいなレジュメもどきに、俺の興味は向いていた。



「ひどい……。あなたが、あなたが見てくれないのなら、わたし……もう、生きるの、やだ……」




背後で肉の潰れるような音したけれど、俺はレジュメもどきに興味むいていたので、そんなの関係なかった。



うん、ちょっと不安定な職業だけれど、小説家というのも悪くないかもしれないな。
らんららーん、ひゃっほおいっ。

俺は、気分良いままに、家へと帰った。




(あっさりとおわり。エピローグに続く)



240: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 04:00:28.44 ID:ufRg5Jdv0
(エピローグ)


あれから、十年の月日が経過した。

俺は、小説家として、社会に身を置いている。
あのレジュメもどきをもとにして小説を描き、出版社にもっていった結果がそれだ。

最初は、あまりに下手なので、つっぱねられた。
それがなんか悔しくて、書いて書いて勉強して……気付けば、こんな立場になっていた。

俺の小説は、あまり売れていないが、少しだけならば見てくれる人はいる。
文を書くことにやりがいを見つけた。それだけで、素敵なことだと思う。


人は、変わることが出来る。


社会的外聞は相変わらず気にする俺だけれど、こんな不安定な職に就いた辺り、ちょっと変わったんだと思う。
昔、うざったく思っていたやつらも、今は変わったのかもしれない。



245: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 04:03:01.49 ID:ufRg5Jdv0
金髪は……噂によると、抹茶と一緒に、施設に入れられたらしい。
なんでも、人に馴染めない、精神的な病があるそうだ。
まあ、だいたいそんなことになると思っていたけれど。

しかし、ふたりは楽しくやっているようなので、良しとする。


接着剤は、この世にはもういない。
深夜のファーストフード店で喧嘩した奴を、変な正義感触発されて止めた結果、肋骨折られて、それが内蔵に刺さったらしい。
病院をたらい回しにされることもなく、逝ったそうである。



円谷は、その子供っぽい性格をとがめられてか、修道院に入れられたらしい。
親に、そのパンクロッカー髪を全て両断されて。なんでも、俗なほどに長い髪は煩悩の証左、らしい。
坊主円谷の行方はしれないが、それでも彼女は彼女なりの道を見つけた。それでいいと思う。



人は、それぞれに自分の道を見つける。

俺も、自分の道を見つけた。



249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 04:04:52.65 ID:ufRg5Jdv0
この世界に生きる人に、言いたい。言葉を、進呈したい。


生きましょう。

人は、変わることが出来ます。人は、色々な道に進むことが出来ます。
他人に庇護されても、決して恥じることはありません。

自分が、自分のままに生きる。

それだけで、尊い財産である、俺は、そう思います。


――どう転ぶか分からない、人の生に、一抹の祝福を。


どうか、皆、生きてください。
ゆっくりと、それでいて、忙しく。

人は……。

人は、変わることが、出来るのだから。




(やたら美辞麗句ならび立てて、サナトリウム文学的におわり。
つーか、主人公、説得力ねえぇぇぇぇ! あっははははは!)



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