普通の人がエロゲーっぽい世界の主人公になったようです
- 344: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 17:21:27.19 ID:ufRg5Jdv0
- (番外編 そのいち 『いとことの遭遇』)
いとこ。
その単語を聞いた際、俺の脳裏にあの忌まわしい記憶が蘇ってきた。
あれは、俺が中学三年生の頃。
エスカレーター式の学校に通う俺は、受験もせずに高校へと行くことが決定した。
成績は真ん中以下になっていないし、ビバ、残り少ない中学生ライフ、とばかりに日々を満喫していた頃だ。
……いとこが俺の家に遊びにくるらしい。
しかも、そんな時に限って、俺の両親は出かけるときた。
- 349: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 17:37:17.70 ID:ufRg5Jdv0
- なんでこう、タイミング悪い時に俺の親は出かけるんだろうか。
俺も一緒に連れていってくれ、と言ったら心臓にコークスクリューくらった。伊達さんやめて。
なんでも、せっかく遊びに来てくれるんだから、あなたがいなくてどうもてなしするの、と。
いや、別にもてなしとか必要ねぇだろ。そんなに心配しているんなら、予定キャンセルしてあんたらだけで盛りあがってくれ。
そう言いたかったが言えない俺、マジでチキン。
暴力に屈した、というのもあるけれど。
やっぱり人間、手を出しちゃいけない。
せっかく言葉があるんだから、平和的に解決しなくちゃいけないのに。
でも、そんな簡単に人と人とがうちとけられるんなら、戦争なんて起きないよね。
地主に虐げられる民の気持ちが、そこはかとなく分かった一瞬だった。
- 353: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 17:56:07.29 ID:ufRg5Jdv0
で、問題の日。
お昼前ぐらいだったと思う。爽やかな陽光に洗濯物が照らされる中、俺の家のチャイムが鳴った。
ぴんぽーん、なんていう軽い音だったけれど、俺にとってみれば、それはギロチン用意の刃鳴り音にしか聞こえなかった。
なんつーか、ルイ十六世の気持ちが分かる気がする。今から処刑される人の気分って、マジ最悪。体、震えるんだが。
今から対峙するであろう女も、アントワネットのようなものだし。
テメェにはパンも菓子もやりたくねぇ。
そんな俺の考えをよそに、俺の体は玄関へと向かい、鍵もチェーンロックも開けちゃうという暴挙。
いや、だって、居留守つかっても親にばれたらコークスクリューくらうし。
恐怖政治の前には人ひとりの意思とかマジ無力。ファッキンシープだ、ヒットラー。
そうして。
扉が、開いた。
- 360: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 18:17:23.94 ID:ufRg5Jdv0
- 「よお、元気してたかー? また大きくなったね!」
俺の目の前にいるのは、長身痩躯、水色の髪を流した女性。
俺のいとこである。
正直、その容貌を見るなり、白髪染め渡して帰らせたかった。
でも門前払いすると親にチクられるので出来ない。この女、俺の両親のバックアップがあるから調子のってるのかもしれない。
だいたい、なんで水色の髪なんだよ。しかもポニーテールかよ。
七万歩ゆずってその髪型はよしとしても、なんでリボンみたいなのつけて結んでいるわけ?
もう大学卒業しそうなのに、ちっちゃなリボンでポニーテールとか。
こいつも円谷みたいにピーターパンワールド永久滞在女かよ。
ふたりともフック船長に殴り殺されてろ。
髪が水色とか、もうね。
円谷とならぶ、ヘンクツぶりだよ。パンクロッカーMkUだよ。
町中で出会ったら、絶対目線合わせたくないよね。
- 364: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 18:28:38.16 ID:ufRg5Jdv0
それから俺は、いとこが話しかけてくる際、適当にあいづちを返して時を過ごした。
すっげぇ苦痛な時間だった。時計の針が、サボタージュしているようにすら感じた。
分かりやすい例を言うならば。
途中退室を許さない教授の講義で、残り時間半分以上もある中、腹が痛くてウンコに行きたいような状況。
急行列車の中、停車して発信した直後に、猛烈な便意が来た時のような状況。
一秒一秒が超苦痛。ノコギリで精神、ガリュゴリュ切られてるみたい。
会話だけでこっちの精神を磨耗させるなんて、この女、マジで才能がある。でもそんな才能いりません。
- 369: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 19:14:53.22 ID:ufRg5Jdv0
- なんでいとこと話すのが苦痛かというと、この女、自身過剰っぷりが死ぬほどうざい。
なんか薄着で来たと思ったら、いきなり変なポーズで寝転がって、こっち見つめてきやがった。
「んふふ〜。ね、興奮したー? なんか目ぇやらしいよ?」
うるせぇネバーランドピーポー。ピープルじゃなくてピーポー。それは黄色い救急車のサイレンの音だ。
興奮したー? じゃねぇよ。変な格好で寝転がられると、掃除の邪魔なんだが。
だいたい、こういう行動とか言動とかするやつってマジで分からん。
だって、こういう行為って『自分に魅力があること前提』でやってんだろ?
それって、自己顕示欲のかたまりって言わない?
だいたいさ、自分の容姿を評価するのは勝手だけれど、自分の評価は結構色眼鏡ついちゃうもんなの。
ぶっちゃけ、テメェじゃなくてもメスなんてどこにでもいるんだよ。
やらしい目、とか言うけれど、今の俺の目は50歳超過のAV女優見る目と変わりません。
つまりは、哀れみとかそういう目線です。
もちっと観点、巨視的にしてください。自分がどうしようもないアホだって認識してくれ。切に願うよ、俺。
- 372: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 19:28:24.97 ID:ufRg5Jdv0
- 俺がそう思っているのに、この女、いきなり乳房を俺にすりつけてきやがった。
本当、この女、人の気持ちを考えない。
あのさ、こういう場合、「もしかするとこの人いやがっているのかな…?」とか考えるもんだろ?
なんで押し売り行為ばっかすんの? そこまで自分に魅力あるとか思ってんの? 勘違いもはなはだしいんだが。
頼むから、自分の考えに沿うような人ばかり、と考えないでくれ。
「ほらほら、興奮しちゃう? しちゃうでしょー?」
だからしねぇよ馬鹿。
つーか、近寄んな、こっち来んな。
厚化粧が粉ふいていてけむたいし、香水の匂い……否、臭いがどぎついんだよ。
この女が電車に入ったら、絶対に車内の空気を悪くすると思う。
もう嫌だ。だからこいつと一緒になるの嫌だったんだ。
正直な話、講義でウンコ我慢する方がまだましなのかもしれない。
香水くせぇ。自重しろ。
もうこいつ、いとこと思いたくない。厚化粧のせいでむせそうになったので、この女…ああもう、小麦粉でいいや。
- 373: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 19:34:15.76 ID:ufRg5Jdv0
- 小麦粉と地獄の時間をしばし過ごしていると、やにわにチャイムが鳴った。
誰かが来たようだ。それが分かると同時、俺は先程のチャイム音が、天使の鳴らすラッパの音に聞こえた。
捨てる神あれば拾う神とはこのことだろうか。
けれど。
まあ、嫌な予感は、少なからずしてたんだ、うん。
「やっほー、遊びにきたよーっ……って、だれ? その人…」
来訪者は、赤い髪を流した女、円谷だった。
- 377: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 19:45:24.03 ID:ufRg5Jdv0
- つーか、人の家にアポなしでいきなり来るって、どこまで偉いんだこの女。
しかも扉を開けるなり部屋の中に入ってくるし。小麦粉の姿を見た瞬間、顔けわしくして指さすし。
人に向かって指さすな。あと、初対面の相手には敬語を使うだろ、常識的に考えて…。
こいつ、情操教育とか前に常識と礼儀がなっちゃいないと思う。
まあ、そんなこんなで、はからずとも二体のパンクロッカーが我が家に来ることになってしまった。
赤い髪の女と水色の髪の女が俺の目の前に。なに、この異次元時空。
なんつーか、テメェらもう帰ってくれ。目が痛い。ちかちかする。
視覚面でトゥインロード喰らったみたい。はやく助けてゼオライマー。
- 382: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 19:58:15.64 ID:ufRg5Jdv0
- なんか俺が戸惑っている間に、二体のパンクロッカーは言葉を交わしていた。
何回も交し合ううちに、何故か険悪なムードぷんぷんと。
「だからぁ、こいつは私のものだってばぁ」
「ちがうよっ! 私のだもん! ぷんぷん!」
ぷんぷん、じゃねぇよ円谷。オノマトペを口に出すな。キモいを通り越してあきれるわ。
あと、そこの小麦粉。俺がいつからお前のものになったのかどうか疑問なんだが。円谷も自重しろ。
なんかよく分からんが、一般的には修羅場と呼ばれるような光景だと思う。
だが、俺は恐怖に震え、身動きが出来なかった。
- 388: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 20:10:14.97 ID:ufRg5Jdv0
何故ならば、こいつらのあまりの傍若無人っぷりに、あきれを通り越して恐ろしくなってきたから。
人のことをもの扱いするのもさることながら、相手に絶対拒絶されないこと前提の物言い。
他者をかえりみない者のひどさを、垣間見たような気がした。
つーか、相手に拒否されないこと前提って、お前らどんだけ偉いんだよ。
よもや、自分のやることなすことすべて批判されないと思っているんじゃなかろうな?
それ、社会では通用しないっつーの。
相手の顔みて、必死にへーこら頭さげて、使いたくもないおべんちゃらを頭の悪い上司に用いて。
意地悪な言にも耐えて耐えて、感情殺して、怒りとかを酒や趣味で発散させて。
それが社会に身を置くということなんじゃないのかな? かな?
妥結に次ぐ妥結が人生なのに、なにこいつら、傍若無人のかたまり? 自我を通しすぎだ。
身勝手もきわまるんだけれど。テメェらどこの独裁国のお偉いさんだよ。
- 391: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 20:18:22.93 ID:ufRg5Jdv0
- もう嫌だ。同じ空間の空気どころか、目すら合わせたくない。
うざったいとかそういう時限の話じゃなくて、本能レベルで、原初レベルでこいつらと一緒にいることを拒否している。
体が、こいつらと一緒にいるとマジで死ぬ、とうったえかけている。
怖かったので逃げようと思った。
でもなんか、逃げられなかった。小麦粉に襟首つかまれた。首の骨痛い。
それでなんか、あれよあれよという間に話が進んで。
「ねぇ、アンタは」
「どっちが好きなの!?」
こんな展開になりやがった。
どっちも嫌いだよクソ馬鹿、と言いたかったが、言った瞬間に殺されそうで言えなかった俺、マジでチキン。
- 395: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 20:32:52.55 ID:ufRg5Jdv0
- ……なんで、俺の人生で出てくる選択肢って、どちら選んでも破滅型のばっかりなんだろう?
しかも、ほとんどが拒否権とかないし。なんか強制的に従わされているし。
円谷も小麦粉も、少しは俺の人権とかを尊重してくれ。
つーか、お前らはまず、社会勉強しろ。基本的人権のページを七万回読め、そして死ね。
好きとか嫌いとか以前に、俺はちゃんとコミュニケーション出来る相手がほしいのだが。
人の話を聞いてほしいのに、このダブルパンクロッカーズは、ちっともこっちの意思をかんがみねぇ。
もう、マジで憂鬱になってきた。なんで俺、こんな奴らばかりにつきまとわれるんだ?
俺の人権とか、紙以下か?
俺の発言とか、大学で嫌われ者の教授が垂れ流す講釈レベルのものでしかないのか?
もうこんな人生、嫌だ。
ふたりの基地外に問われながら、俺は窓の外を見つめた。
ぶっちゃけた話、現実逃避した。
- 398: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/03(火) 20:41:05.62 ID:ufRg5Jdv0
- そこから先は覚えていない。というより、覚えたくもなかったというのが本音だ。
俺にいとこなんていない、と言いたかったが、言ったら親にコークスクリューぶちかまされそうで言えない。
もうやだ。
マジであいつらどっかに消えてほしい。
片腕一本なくす代わりに『どくさいスイッチ』くれるというのなら、俺は喜んで差し出すね。
……なんか俺、そろそろ、人と人との関係を見直した方が良いのかもしれない。
それでも何も出来ない俺、マジで、マジでチキン……。
(オチ考えつかなかったので唐突におわり)
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