( ^ω^)と夏の日のようです

99: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 20:38:17.79 ID:/YDuLUAZ0
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第四話



(;^ω^)「おー……」

朝を過ぎたというのに、外は灰色に染まっていた。
今日は生憎の雨模様。
こちらに来てから初めての雨。僕は少し憂鬱な気分になった。
日課の散歩に行くことができないからだ。


( ^ω^)「今日は家でじっとしておくお」

窓を閉じて机に向かい、デジタルカメラを手に取った。
最近、散歩にはこのカメラを持っていくようになった。

――――――この大自然を、余すことなくレンズに収めたい。
そう思ったのがきっかけだった。


( ^ω^)「この写真はよく撮れてるお」

メモリーに記録された、山のふもとから見た海の写真を眺める。
空の青が海の青を際立たせている。
僕のあいまいな記憶が、記録によって蘇ってきた。



102: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 20:40:58.97 ID:/YDuLUAZ0
しばらく写真を眺めていると、しぃとモララーがやってきた。

( ・∀・)「兄ちゃん、お出かけしようよ!」

( ^ω^)「お?雨が降ってるから今日はやめた方がいいお」

( ・∀・)「大丈夫。雨ぐらいへっちゃらだよ!」

(*゚ー゚)「ねえ、行こうよ」


二人が強引にねだってくる。
僕は誘いを断れなかった。



104: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 20:43:44.66 ID:/YDuLUAZ0
(;^ω^)「分かった、分かったお。でもなんでよりによって今日なんだお?」

(*゚ー゚)「実はね、自由研究をするために行くの」

( ・∀・)「やっと雨が降ったんだ!夏休みの間降らなかったらどうしようかと思ったよ」

( ^ω^)「自由研究?」

(*゚ー゚)「私たちね、雲の形の観察をしてるの」

( ・∀・)「晴れの時と雨の時の雲って違うでしょ?それをスケッチしてるんだ」

( ^ω^)「おー、そういうことかお」


よく見ると、二人は手に画材の入った鞄を提げていた。



107: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 20:46:37.81 ID:/YDuLUAZ0
( ^ω^)「そういうことなら、喜んで付き合うお」

( ・∀・)「やった!じゃあ早く準備してきてね!」


そう言い残すと、モララーは階段を駆け下りていった。


(*゚ー゚)「じゃあお兄ちゃん、下で待ってるね」


しぃも続いて階段を下りて行った。
外を見てみると、雨足はさらに強くなっていた。

僕は着替えを済ませ、カメラを持って一階へ急いだ。



108: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 20:49:46.08 ID:/YDuLUAZ0
叔母さんにお弁当を作ってもらい、僕たちは空がよく見える場所を目指した。
目に鮮やかなしぃとモララーの黄色い傘が、雨の中で一際目立っている。

( ・∀・)「もう少し上に行けばよく見えるよ!」

(;^ω^)「相変わらずモララーは元気がよすぎるお」

先を行くモララーの背中を僕としぃが追いかけていく。
水たまりを長靴で踏みつけながら、モララーは大はしゃぎで歩いていた。


(*゚ー゚)「お兄ちゃん、無理言っちゃってごめんね」

( ^ω^)「おっおっ、気にすることないお。僕もいい気分転換になるお」


今日は蝉の声が聴こえず、代わりにしとしとと雨音が響いている。
木々の葉っぱは宝石のような雫で濡れていた。

見るもの全てが新鮮で、雨の日にしか堪能できないことだった。
僕は、雨の中の散歩も悪くないなと思った。



109: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 20:52:33.38 ID:/YDuLUAZ0
モララーの後を付いていくと、視界の開けた場所に出た。
そこには古びた家が建っていて、雨宿りもできそうだ。

海が見える。いつもよりも波が激しかった。


( ^ω^)「ここなら雲もよく見えるお」

( ・∀・)「でしょ?さあ書くぞー!」

(*゚ー゚)「その前にお昼にしない?もう午後を回ったよ」

張り切るモララーをしぃが制止した。

( ^ω^)「賛成だお!」


廃屋の縁側に座り、お弁当を広げた。
二人の好みに合わせたのか、エビフライや粉ふきいも、プチトマト等が入っていた。
ご飯には鶏、卵、ほうれん草の三色そぼろが乗せられている。

僕も小さい頃大好きだったおかずばかりだった。



113: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 20:55:56.60 ID:/YDuLUAZ0
( ・∀・)「ごちそうさま!よーし、がんばるぞー」

お弁当を食べ終わるなり、モララーは手提げ鞄からスケッチブックを取り出した。
雲の様子を観察しながら、集中して鉛筆を走らせる。


(*゚ー゚)「私も始めよっと」

しぃも自由研究に取り掛かった。
しぃの描く絵はモララーよりも繊細で、雲の特徴も詳しく書き込まれていた。


雨雲は空全体に広がっていた。
何層にも積み重なったその姿はどこか気持ちを不安にさせる。

僕はカメラを構え、雲に覆われた空と、二人の様子を撮影した。



115: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 20:58:12.70 ID:/YDuLUAZ0
(;・∀・)「うーん、うーん」

ふと目をやると、モララーの手が止まっていた。

( ^ω^)「どうしたんだお?」

(;・∀・)「雲の色が決まらないんだよー」


スケッチを見せてもらうと、なるほど絵はよく描けている。
晴れの日の雲との違いも十分に説明されている。

ただその雲には色がなかった。



119: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 21:01:00.56 ID:/YDuLUAZ0
モララーが悩む。
自分の中の雲のイメージが表現できなくて、もどかしく感じているようだ。


(*゚ー゚)「私は黒を使って塗ってるよ」

しぃの絵は、黒の濃淡を使って巧く雲の様子が表現されていた。

(;・∀・)「お姉ちゃんは絵がうまいからいいなー」


困り果てたモララーは、仕方ないなというような顔をして色鉛筆を漁った。



120: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 21:03:36.83 ID:/YDuLUAZ0
(;・∀・)「もう適当に塗ろっかな……」

( ^ω^)「モララーには、雲が何色に見えるのかお?」

( ・∀・)「うーん、灰色っぽいけど、ちょっと違うかなって……」

( ^ω^)「それじゃあ、ちゃんと自分の感じた通りに塗るんだお」

(;・∀・)「でも……いい色がないよ……」

モララーはそう言って13色の色鉛筆のケースに目を落とす。


( ^ω^)「目に映るものの色なんて、最初から用意されてないお」

僕はモララーの顔を見つめて言った。


( ^ω^)「この世界には完璧に絵にできる景色なんか一つもないお」

( ^ω^)「僕はカメラを通してそのことに気付いたんだお」

( ^ω^)「だから、完璧じゃなくてもいいから、自分が感じたままに表現するんだお」



121: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 21:06:36.73 ID:/YDuLUAZ0
( ・∀・)「……うん、そうだね。僕の感覚で塗るよ!」

そう言ってモララーは紙一面を水色で塗った。

( ^ω^)「お?」

( ・∀・)「僕には、こう見えたんだ!」

水色がかった雲に黒の色鉛筆を薄く広げるように塗っていく。
それはまるで空を覆っていくようだった。

立ち上る煙のような雲ではなく、恵みの雨を降らせる雲を、モララーは描いた。


( ^ω^)「たった2色でこれだけ表現できるなんて凄いお!」

(*・∀・)「え……そっ、そうかな」

(*゚ー゚)「うん、よくできてるよ!」

本来は観察のスケッチなのだから、ここまでこだわる必要はないのかもしれない。
だけども、僕は二人にこの風景を忘れてほしくなかった。
僕たちの夏の思い出として。



124: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 21:08:59.22 ID:/YDuLUAZ0
( ^ω^)「おっ?」

空を見上げると、雲の切れ間から日が差し込んできた。
気が付くと、もう雨はだいぶ収まっていた。


(;・∀・)「あっ、まだ全部出来てないのに!」

( ^ω^)「カメラに撮ってあるから大丈夫だお」

( ・∀・)「さすが兄ちゃんだ!」

(*^ω^)「おっおっおっ」



126: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/08(日) 21:11:01.78 ID:/YDuLUAZ0
雲が晴れると空に虹がかかった。

どんな筆でも表現できないだろう、幻想的な七色の橋。


僕はすぐにカメラを構えて、その姿をレンズに収めた。
淡い色をした虹は、ピントがずれて少しぼやけた。



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