( ^ω^)と夏の日のようです

5: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 21:47:15.00 ID:uJ7PyqMC0
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第六話



朝の日差しが、カーテンの隙間から漏れてくる。

( ´ω`)「あと5分……いや10分ぐらい……」

もう少しだけ寝ていようと思い、タオルケットを掛け直す。
―――――すると、耳元で誰かの声がした。

ξ#゚听)ξ「さっさと起きなさい!!」

(;゚ω゚)「アッ―――!!」

ツンに思いっきり水をぶっかけられた。
うとうととした意識が一気に現実に引き戻される。

ξ゚听)ξ「ほら、もう朝ごはんよ。あんたが来ないと私たちが食べられないんだからね!」

(;^ω^)「分かったお。今すぐ起きるお」

目を覚ますと、びっしょりと寝汗をかいていることに気が付いた。
僕はそそくさと服を着替え、みんなの待つ一階へと下りて行った。



8: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 21:49:44.81 ID:uJ7PyqMC0
朝食を済ませて縁側で涼んでいると、戸を叩く音が聴こえた。

('A`)「ういーす。ブーンいるかー?」

玄関に行ってみると、そこにはドクオさんが立っていた。

( ^ω^)「ドクオさん、おはようございますおー」

('A`)「おう、おはようさん」

玄関先で軽い雑談をする。
どこまでも青い空を、二匹のシオカラトンボが駆けているのが見えた。


('A`)「ところでよ、お前、釣りに興味はあるか?」

( ^ω^)「お?」

話の途中でドクオさんが突然切り出した。

( ^ω^)「興味も何も、やったこともありませんお」



9: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 21:51:48.29 ID:uJ7PyqMC0
('A`)「そうか、そいつぁ丁度いいな」

ドクオさんは煙草を一本取り出し、火を点けながら言った。

('A`)「どうせ今日も暇だろ? 今から釣りに行かねぇか」

( ^ω^)「本当ですかお! ぜひ行きたいですお!」

('A`)「よっしゃ、そうと決まったらさっさと行くぜ」


ドクオさんが「何も持ってこなくていい」と言うので、手ぶらで家を出た。
釣りなんてしたこともなかったけど、海に出てみたいという気持ちはあった。

照りつける太陽の下、海沿いの道を歩いていく。
潮の香りが風に乗って運ばれてきた。



10: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 21:54:17.83 ID:uJ7PyqMC0
船着場に着くと、ドクオさんが誰かに声をかけた。


('A`)「よぉジョルジュ、アジ釣りに行くから船出してくれや」
  _
( ゚∀゚)「あ゛ーっ!? ふざけてんじゃねぇ、おめーが船出しゃあえぇやろが!」

いかにも漁師、といった感じの男の人がドクオさんに文句を言う。
タンクトップから日焼けした肌を覗かせている。


('A`)「ばっきゃろい、俺の船は聖域だ。そんな簡単に人を乗せられるかよ」
  _
( ゚∀゚)「ほれやったら俺の船は何なんや!?」

('A`)「気にするな。実はよ、こいつを海に連れて行きたいんでな」

そう言って、ドクオさんが僕を前に出した。
男の人が僕を訝しげにじろじろと見てくる。



12: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 21:57:08.70 ID:uJ7PyqMC0
しばらく睨み続けた後、男の人は口を開いた。
  _
( ゚∀゚)「おい、おめー名前は何て言うがか?」

(;^ω^)「お、内藤といいますお。ブーンと呼んでくださいお」
  _
( ゚∀゚)「おめーが海に行きたいっていうんか?」

(;^ω^)「そ、そうですお。初めて釣りをしに来たんですお」
  _
( ゚∀゚)「なんな、ほんなことなら最初っから言わんけ!」

不満そうな顔がいきなり笑顔に変わった。
  _
( ゚∀゚)「ほーかほーか! ほしたら船出したるけんのぉ! 若ぇもんに海見せたるわ!!」

男はそう言って船のロープを外す。どうやら許可を頂けたようだ。



14: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 21:59:38.86 ID:uJ7PyqMC0
船着き場を後にし、沖へと向かった。
きらきら光る海面を、僕たちを乗せた船が滑走していく。
  _
( ゚∀゚)「海はええぞー! 海には浪漫があるけんのー!」

舵を取る男の人の名前はジョルジュと言うらしい。
ドクオさんと同じでこの辺りで漁師をやっているそうだ。


('A`)「あいつ頭おかしいからな。あんまり関わるんじゃねぇぞ」

(;^ω^)「……というか何を喋っているのか分かりませんお」

('A`)「あいつの方言はきついからな……あんな古い言葉使ってんのあいつぐらいだぜ」

ドクオさんが呆れ顔を作りつつも、最後にこう付け加えた。


('A`)「でもよ、あいつの海に対する情熱だけは、本物だぜ」



17: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:02:29.22 ID:uJ7PyqMC0
1時間ほどの船旅の末、船は目的の沖に到着した。
日差しはきつく、潮風が肌に染みる。

  _
( ゚∀゚)「よっしゃ、ほしたら始めよか!」

開口一番、ジョルジュさんは用意した仕掛けを海に落とした。

  _
( ゚∀゚)「――――ほれ来た!」

勢いよく竿を引くと、仕掛けには二匹のアジがかかっていた。
ジョルジュさんは針を手際よく外していく。

( ^ω^)「凄いお! 僕もやるお!」

僕は竿を構え、釣り糸をたらした。
頭の上を飛ぶウミネコの鳴き声が、潮騒に混じってこだまする。

心地よい船の揺れを感じながら、魚がかかるのを待ち続けた。



19: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:05:13.21 ID:uJ7PyqMC0
('A`)「よーし喰った」

ドクオさんがリールを巻き、アジを釣り上げる。

('A`)「うし、今日の海はご機嫌だな」

そう言ってクーラーボックスにアジを放り込む。
その中には、既にたくさんのアジが入っていた。


(;^ω^)「……全然釣れないお……」

一方僕はと言うと、未だに一匹も釣れてなかった。
巻いては投げ、巻いては投げを繰り返すだけだった。



20: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:07:34.27 ID:uJ7PyqMC0
  _
( ゚∀゚)「あ゛―ちげぇちげぇ! サビキはそうやってやるんじゃねぇが!」

見かねたジョルジュさんが僕の元にやってきた。
  _
( ゚∀゚)「ええか? サビキってのは仕掛けを落としたらそこで止めるんよ」

僕の竿を使って釣りをする。
  _
( ゚∀゚)「んでカゴの餌をまいたら、後は竿に集中せぇ」

サビキ釣りというのは枝分かれした釣り針を使う釣り方のことだ。
そこにサビキカゴという撒き餌入れを繋げて、餌をばらまいて魚を呼び寄せる。

そして、魚が針にかかるのをひたすら待つ。これがポイントらしい。

  _
( ゚∀゚)「ほぅれ、かかったぞー!」

手に伝わる引きを感じ取り、ジョルジュさんは釣り糸を勢いよく巻き上げる。
数匹のアジが海からあがり、空中でぴちぴちと跳ねた。



21: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:10:07.62 ID:uJ7PyqMC0
  _
( ゚∀゚)「ほれ、やってみんか!」

ジョルジュさんは僕に竿を渡し、「おっしゃー引いとるわ!」と叫びながら戻っていった。


( ^ω^)「……よし」

僕は竿を握り、波立つ海に仕掛けを落とした。
波に揺られ、カゴの中の撒き餌が広がっていく。
教えてもらった通り、アジがかかるまで竿に集中した。


( ^ω^)「……お?」

しばらくの間じっと待ち続けていると、釣り竿が、くんっ、と反応する。

握りしめた手に、確かな引きを感じた。



23: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:12:51.29 ID:uJ7PyqMC0
('A`)「おいっ、ぼさっとするな! 引いてるぞ!」

(;^ω^)「おおおおおおっ!?」

ドクオさんの声を聞いて急いで糸を巻き上げる。
重い手ごたえが伝わる。間違いない、仕掛けに魚がかかった。

('A`)「よし、あげるぞ!」

ドクオさんが網を用意し、海面に浮いてきたアジをすくいあげた。


(*^ω^)「やったお! 初めて釣れたお!」

('A`)「見てみろよ、5匹も釣れてやがるぜ」

見ると、仕掛けに付けられた5本の針全部にアジがかかっていた。


('A`)「すげーじゃねぇか。いきなり5匹とはな」
  _
( ゚∀゚)「おぉーやるのう! 才能あるんじゃねぇか!?」

(*^ω^)「ふふふだお」

僕は、素直に嬉しかった。



24: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:15:11.60 ID:uJ7PyqMC0
一度コツを攫んでからは、入れ食い状態だった。
仕掛けを落とすたびにアジが釣れる。

いつの間にか、僕のクーラーボックスはアジで溢れかえっていた。

  _
( ゚∀゚)「おーし、そろそろ飯にするけ!」

1時を過ぎたところで、ジョルジュさんが声を上げた。

('A`)「お前に海の男の料理、食わせてやるよ」

(*^ω^)「楽しみだお!」



26: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:18:01.58 ID:uJ7PyqMC0
釣り上げたアジを、ジョルジュさんが華麗な手つきでさばいていく。
厚めに切られたアジの身を、大皿に豪快に並べた。

まずは一品目、アジの刺身。


さらにジョルジュさんは、「これがうめーんだ」と言いながら残ったアジの身をタタキにした。
それを熱々のご飯にのせ、ネギとしょうがをのせたら醤油をぶっかけて食らいつく。
漁師めし、ってやつらしい。

(*^ω^)「やべぇwwwwww超うめぇwwwwwwww」
  _
( ゚∀゚)「ほぉやろが! かーっ、たまんねぇなこいつぁ!」

僕は夢中でがっついた。
口いっぱいに新鮮なアジの甘味が広がる。
とれたてのアジの身は風味もよく、脂の乗りも抜群だった。



27: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:20:53.09 ID:uJ7PyqMC0
('A`)「ほれ、こっちもできたぞ」

僕たちが先に食べていると、ドクオさんが鍋を運んできた。

('A`)「つみれ汁だ。遠慮せずに食ってくれ」

(*^ω^)「ありがたくいただきますお!」


蓋を開けると、美味しそうな匂いの湯気が立ち上った。
味噌ベースのだしにアジの旨みがじんわりと溶け込んでいる。
つみれに歯を入れると、ほんのりとしょうがの香りがした。


(*^ω^)「UMEEEEEEEEEEEE!!!!」
  _
( ゚∀゚)「ええ食べっぷりやのぉ! ばんばん食えや!」

(*^ω^)「もちろんですお!」


僕たちは少し遅い昼食を夢中になってがっついた。
海の上での食事は初めてで、ちょっとだけ興奮した。



30: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:24:00.58 ID:uJ7PyqMC0
昼食を終えて、僕たちは釣りを再開した。
空が赤く染まる頃、僕の隣にジョルジュさんがやってきた。
  _
( ゚∀゚)「よぉ釣るのー。どや、漁師にならんか?」

(;^ω^)「さすがにそれは難しいですお」
  _
( ゚∀゚)「かーっ! そんだけ釣っといてよぉ言うわい!」

ジョルジュさんが肩をばんばんと叩く。
僕たちは大声で笑いあった。


( ^ω^)「でも、海は楽しいですお! 浪漫がありますお!」
  _
( ゚∀゚)「おっ、俺の言葉じゃねぇか」


そう言うと、豪快に笑っていたジョルジュさんは少し複雑そうな顔をした。

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( ゚∀゚)「でもよぉ、本当のこと言うとよぉ、俺の海には浪漫なんかねぇんだわ」

( ^ω^)「お?」



33: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:26:37.29 ID:uJ7PyqMC0
それまでとは違う雰囲気で、ジョルジュさんは語りだした。
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( ゚∀゚)「浪漫なんてのぉ、結局は失敗した時の都合のいい言い訳なんだわ」

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( ゚∀゚)「俺の海にはよ、『成功』しかねぇ」
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( ゚∀゚)「最初っから『失敗』なんて考えねぇ……ほぉやろが?」


僕はジョルジュさんの言葉を噛みしめる。

最初から、『失敗』なんて考えない。
ただひたすらに『成功』を追い求める。

僕にはそれがとても大切なことのように思えた。


( ^ω^)「僕も、その通りだと思いますお」
  _
( ゚∀゚)「はっはっはっ! ほーかほーか!」

さっきまでのように、ジョルジュさんは陽気な声を上げた。
僕たちは沈んでいく夕日を眺めながら、しばらくの間船に揺られていた。



35: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/14(土) 22:28:55.81 ID:uJ7PyqMC0
( ^ω^)「今日は、ありがとうございましたお!」


岸に戻った後、僕はドクオさんとジョルジュさんに感謝の言葉を述べた。

('A`)「喜んでもらえてよかったぜ」
  _
( ゚∀゚)「また来ーや! いつでも連れてっちゃるけんのー!」

( ^ω^)「楽しみにしてますお!」


二人に見送られながら、クーラーボックスを担いで家路についた。

辺りは薄暗くなってきている。

船の上から見た夕日は、もう思い出になってしまった。
思い出の中の夕日はどこか切なくて、僕の心をきゅっと締め付けた。



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