( ^ω^)と夏の日のようです

23: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 19:51:17.59 ID:i1nggAI80
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第十二話



その日は特に何もなく、ただ時間が過ぎていくだけだった。


朝の散歩を終え、昼食を取り、しぃとモララーの宿題を見てあげる。
その後は一日中、くだらないテレビ番組を見て過ごした。


夕食は天麩羅だった。
さくさくの衣に包まれた海老のぷりっとした身が堪らない。
キスのほどけるような身と、イカの小気味よい歯応えも楽しめる。
揚げられた茄子は旨味が増し、独特の食感も相まって最高だった。


夕食を済ませた後は、お風呂に入り、縁側で涼む。


平凡で、だけど穏やかな日。
僕は、このまま今日という日が終わるものだと思っていた。



24: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 19:53:17.78 ID:i1nggAI80
(´・ω・`)「ブーン君、ちょっと来てくれないか」


闇夜に鳴くみみずくの声に耳を傾けていると、背後から叔父さんの呼び声がした。
僕は声に反応し、体ごと振り返った。

( ^ω^)「なんですかお?」

(´・ω・`)「いや、悪いんだけどね、また仕事の手伝いをしてほしいんだ」

( ^ω^)「おー、全然構わないですお」

(´・ω・`)「それは良かった。それじゃ、裏の倉庫まで付いてきてくれるかな」

( ^ω^)「了解ですお」

僕は日頃の恩返しと思って、快く頼みを引き受けた。


僕は叔父さんの後ろを付いていき、家の裏にある倉庫に入る。
倉庫の中は、蓄えられた柑橘類の甘酸っぱい香りが充満していた。



25: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 19:56:28.40 ID:i1nggAI80
(´・ω・`)「よし、早速始めようか」

( ^ω^)「何をすればいいんですかお?」

(´・ω・`)「ここにある果実を、出荷分だけ箱詰めしてほしいんだ」

( ^ω^)「任せてくださいお!」

(´・ω・`)「じゃあ、よろしくお願いするよ」


僕たちは作業に取り掛かった。
ダンボール箱に5kgずつ、みかんやら八朔やらを放り込む。
時々重さを計りながら、微調節しつつ詰めていく。

(;^ω^)「これはきつい」

4箱ほど箱詰めしたところで、腰が悲鳴を上げた。
何せ前屈運動が多いので、腰にかかる負担は相当なものだ。
慣れているはずの叔父さんも額から汗を垂らしている。



26: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 19:59:29.21 ID:i1nggAI80
僕たちは休むことなく箱詰めの作業を続けた。
滴り落ちる汗を首にかけたタオルで拭う。
風のない閉鎖された空間の中で、ただひたすらに作業に集中した。


(;´・ω・`)「ふぅ……、ちょっと休憩にしようか」

(;^ω^)「そうしますお」

僕たちは先程まで果実が入っていたプラスチックの箱に腰かけ、一息ついた。

ひどく汗をかいている。
もう一度お風呂に入らなきゃな、と思った。


(´・ω・`)「ありがとうね、泣き言一つ言わずに手伝ってくれて」

( ^ω^)「いえいえ、このぐらい何ともないですお」

僕は以前、叔父さんの帳簿を手伝ったことを覚えている。
その時の自分は情けなくて、すぐに音を上げていた。
そんな僕に叔父さんは教えてくれた。「苦しくてもやらなくてはいけない」ということを。
だから、今回は弱音なんか吐いたりせず、無心で作業に打ち込んだ。

手うちわで顔を扇ぐ。
気休め程度にしかならないけど、少しだけ安らげた。



28: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:02:53.94 ID:i1nggAI80
(´・ω・`)「……ブーン君、ちょっといいかい」

( ^ω^)「おっ?」

突然、叔父さんが話を切り出してきた。

(´・ω・`)「この数年の間に何があったのか、聞かせてくれないかな」

(;^ω^)「っ!?」

一瞬、心臓が止まりそうになった。


(´・ω・`)「昔の君はあんなに明るかったし、今の君は明るさを取り戻しつつある」

(´・ω・`)「……なのにどうして、高校中退なんかしてしまったんだい?」

(;^ω^)「…………」

僕は答えなかった。
答えるのが怖かった。


(´・ω・`)「ブーン君……答えて、くれるかな」



29: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:05:14.15 ID:i1nggAI80
僕は、怖くて、口を閉ざしたままでいた。
……ずっと、こうして押し黙っていたい。

(´・ω・`)「……辛いことかもしれないけど、教えてほしいんだ」

叔父さんが優しい目をして諭す。
――――僕は決心して、重い口を開いた。


( ^ω^)「……僕も、中学校までは毎日が楽しかったんですお」

心の奥に押し込んだ記憶を思い出す。
たどたどしい言葉遣いで、昔話を続けた。

( ^ω^)「気の合う友達と一緒に、毎日のようにふざけあっていましたお」

( ^ω^)「いつもいつも、皆は僕のそばにいてくれましたお」

( ^ω^)「いつしか、それが当たり前の事に思うようになったんですお」



31: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:07:40.07 ID:i1nggAI80
( ^ω^)「……卒業後、僕は両親の薦めで、私立の進学校に通うことにしたんですお」

( ^ω^)「いつもいた友達はそこにはいなくて、周りは知らない人ばかりでしたお」


( ^ω^)「その時初めて、『ああ、あの時間はあんなに貴重なものだったんだ』って気付きましたお」


(´・ω・`)「…………」

ショボンさんは黙って僕の話を聞いていた。
一時も、僕から目を逸らすことなく。


( -ω-)「――――そして、もう一つのことに気が付いたんですお」

( -ω-)「……僕は、こんなにも消極的な人間だったんだって」



32: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:10:08.79 ID:i1nggAI80
そこで一瞬だけ言葉に詰まってしまった。

……それでも、僕は続けた。
すべてを吐き出してしまいたかった。


( -ω-)「ある日、勇気を出して隣の子に話しかけてみましたお」

( -ω-)「……でもその時、僕は冷たくあしらわれましたお」

思い出す。
あの日々の記憶を。

( -ω-)「クラスメイトの頭の中は、みんな勉強のことばかりでしたお」

( -ω-)「授業中も、休み時間も会話はないまま、半年が過ぎていきましたお」



33: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:12:27.10 ID:i1nggAI80
僕は記憶を掘り起こし、話し続ける。

( -ω-)「半年もすると、少しずつクラスの中でグループが出来ていましたお」

( -ω-)「でも、最初みたいにあしらわれるのが怖くて、僕はその輪に入れませんでしたお」

( -ω-)「僕は誰とも打ち解けることなく、一人教室の隅にいましたお」

( -ω-)「……その時、僕は自分が嫌になったんですお」

( ;ω;)「友達が欲しいのに、自分からは何もできなくて……!」


僕は溢れる涙を堪えられなかった。

こぼれ落ちた涙がダンボール箱に落ち、染みになってしまった。
出来た染みは、だんだんと広がっていった。



35: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:15:09.44 ID:i1nggAI80
( ;ω;)「……それ以来僕は、ますます消極的になっていきましたお」

( ;ω;)「誰かと目を合わせるのも怖くて……、孤独でしたお」

( ;ω;)「……次第に高校も休みがちになって……」

( ;ω;)「……気が付くと、僕は引きこもるようになってましたお」


静寂が僕の周りの世界を覆う。
とめどなく流れる涙が、また一つ、ダンボール箱に染みを作った。


(´・ω・`)「……すまなかったね、辛い事を思い出させちゃって」

泣き続ける僕に、叔父さんは優しい言葉をかける。
僕にはそれが嬉しかった。

( うω;)「……でも、今はもう気づいているんですお」

( -ω-)「……あの時の僕は、本当に情けなかったって」

右手で涙を拭い、一旦気持ちを落ちつけてから、再び話を始めた。



36: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:18:17.52 ID:i1nggAI80
( -ω-)「あの時は、周囲の人を恨みましたお」

( -ω-)「だけど本当に恨むべきは、僕の弱い心でしたお」

( -ω-)「……こっちに来る時だって、最初は反対したんですお」

( -ω-)「何年も会っていない人と、暮らせるわけないと思ったから……」


僕はそこで目を開いた。
真っ赤になった目で、叔父さんの顔を見た。

( ^ω^)「……でも、叔父さんたちはこんな僕を優しく迎えてくれましたお」

( ^ω^)「僕は安心しましたお」

( ^ω^)「その日からは、毎日が楽しかったですお」

( ^ω^)「……そのおかげで、僕は少しだけ昔の自分を取り戻せたような気がしますお」

( ^ω^)「だから、叔父さんには、とても感謝していますお!」



38: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:20:58.88 ID:i1nggAI80
――――僕はそこで話を切った。


(´・ω・`)「……君は、強い子だね」

それに合わせるように、叔父さんが口を開いた。

(´・ω・`)「辛い過去を受け止めて、それでなお自分を変えようとしている」

( ^ω^)「そんなことありませんお……。弱いからこそ、変わろうとしているんですお」

(´・ω・`)「うん、君は本当に立派だ」

叔父さんは僕の目を見続けて、そう言った。
僕は何だか照れくさくなった。



42: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:23:15.83 ID:i1nggAI80
少し間をあけて、叔父さんがまた話を切り出してきた。

(´・ω・`)「もしかしたら、君は変わろうとしているんじゃないのかも知れない」

( ^ω^)「おっ?」

(´・ω・`)「……君は取り戻そうとしているんだ、昔の君らしさを」

(´・ω・`)「あの明るくて、希望に満ちた君の姿を」

( ^ω^)「……そうかもしれませんお」


……なんとなく、思い出してきた。

昔の自分を。

あの頃の、純粋で、真っすぐな自分を。



44: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:26:02.59 ID:i1nggAI80
僕は、変わろうとしているんじゃない。
変わってしまった自分を、取り戻そうとしているんだ。
僕が目指す自分は、失ってしまった、あの頃の自分なんだ。

叔父さんの言葉で、はっきりとそう気付けた。


(;^ω^)「でも、女の子に対して消極的なのは昔も同じですお」

(´・ω・`)「ははは、本当にそうかな」

叔父さんは朗らかに笑う。

(´・ω・`)「昔の君とツンを見ていたら、そうは思えないけどね」

(;^ω^)「……本当ですかお」

(´・ω・`)「間違いないよ。昔の君たちは、本当に楽しそうだった」

僕はなぜか恥ずかしくなってしまった。


(´・ω・`)「さて、と……」

叔父さんはそう言って、箱の中から二つの夏みかんを取り出す。
そのうちの一つを僕に放り投げた。



46: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 20:29:13.55 ID:i1nggAI80
(´・ω・`)「のどが渇いただろう? これでも食べて、また作業に戻ろう」

(;^ω^)「ちょ、これ売り物じゃないんですかお?」

(´・ω・`)「構わないよ、このぐらいならね」

( ^ω^)「……ありがとうございますお」

僕は叔父さんに、たくさんの意味を込めて感謝の言葉を述べた。

あれほど流れていた涙は、もう乾いてしまった。


ゆっくりと皮を剥いて、一かけらを口に放り込む。
袋が破れ、果汁が口の中に溢れる。

甘酸っぱいその味は、今の僕の心境に似ていた。



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