( ^ω^)と夏の日のようです

117: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:25:57.12 ID:i1nggAI80
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第十五話



その日も、太陽はぎらぎらとした光を降り注いでいた。

青い空が、どこかくすんで見える。
その空の色が、晩夏特有の寂しげな雰囲気を感じさせる。
涼やかな風が吹いてきて、僕の火照った顔を撫でた。


僕は今、あの美しい川に向かっている。


高鳴る鼓動は静まる気配すらなく、僕の呼吸を苦しくする。
それは、ばくばくという心音が聴こえてきそうなほど。

緊張と、照れが入り混じったような気持ち。
そんな微妙な気持ちを抱えて、僕は川を目指して歩いた。


その隣に、想いを伝える相手である、ツンを連れて。



119: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:28:09.04 ID:i1nggAI80
僕たちは川に到着し、冷たい水の中に足をつけて岸辺に座った。
時計に目をやると、2時を過ぎているのが分かった。

空を見上げると、今にも泣き出しそうに見えた。

僕はまず、世間話をすることから始めた。
つまらない話だったかもしれないな、と思いながらも、なんとか話を繋いでいく。
僕の話に、ツンは時折愛想笑いを浮かべながら耳を傾けていた。

僕はひたすら喋り続けた。

言葉が途切れるのが、怖かったから。
二人の間に沈黙が訪れるのが、怖くて仕方なかったから。

話すことがなくなり、少し間が開くだけで、胸が締め付けられそうになる。
早く本題を伝えなくちゃいけないのに、僕はただ言葉を探すだけだった。



121: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:30:35.15 ID:i1nggAI80
……あまり時間を取り過ぎると、ツンが不審に思うかも知れない。
僕はそう思い、一旦気持ちを落ち着かせる。


早く伝えてしまおう。
そうすれば、この苦しみからも解放される。
受け取ってもらえなくても、後悔なんてしない。


僕はこれまで、逃げてばかりだった。


高校を辞めたのだって、孤独から逃げ出したからだ。
孤独になった原因も、僕が人間関係の構築から逃げ出したからだ。

この町に来たのだって、都会の喧騒から逃げたかったからだ。
最初は反対していたのも、何年も会っていない親戚との関わりから逃げたかったからだ。


もう、逃げ出したりしない。
僕はそう決意し直して、ツンの顔をじっと見た。



124: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:33:18.78 ID:i1nggAI80

――――ツン。


えぇと……あまり見ないでほしいお……。


……実は、今日、告白したいことがあるんだお。


真剣に、聞いてほしいんだお。


……僕は……。


……君の事を、好きになってしまったお。


だから……、ツンの気持ちも聞かせてほしいお。


どんな答えでも、僕は嬉しいお。



126: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:36:14.90 ID:i1nggAI80
ツンの目に、僕はどんな風に映っただろう。
告白している時の僕は、心拍数は上がりっぱなしで、自分でも動揺しているのが分かった。

……きっと、ツンは僕以上に動揺してるだろうな。
突然、こんなことを告げられて、迷惑かも知れない。


熱くなった顔を、川の水で冷やした手でおさえる。
こんな風に、自分の気持ちを単刀直入に伝えたことは、生まれて初めてだった。


静けさが僕たちの間に流れた。
川の流れは、いつもどおり、ゆるやかだった。


僕はツンの顔を見る。

その顔は、意外なほど落ち着いていて、表情からは気持ちが読み取れなかった。



128: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:38:34.08 ID:i1nggAI80
僕は今、持てるすべての勇気を振り絞った。


僕は逃げ出すことを棄てて、ツンに恋心を告げた。
もし想いが届かなくても、絶対に後悔なんかしないと誓える。
こうして伝えられただけでも、僕は満足だった。


この夏、一番の思い出はツンのことばかりだった。


……もしかしたら、本当に自分は幼い頃からツンのことを好きだったのかもしれない。
すっかり色褪せてしまった少年時代の記憶。
思い出そうにも、頭の中の情景は霞みがかっていた。


ちらりと腕時計を見ると、告白してから数分が経っている。

二人は黙りあったままだ。

僕はただ、返事を待つだけだった。



131: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:40:37.48 ID:i1nggAI80
僕は待ち続ける。

待ち続けて、何分が経っただろう。
この川は時間を忘れさせてくれる。
そんな場所でも、僕は時の流れを感じていた。


僕は耐え切れず、口を開きそうになる。
その気持ちを、ぐっと我慢した。
まるで催促しているようで、ツンに悪いと思ったからだ。

人の気持ちを強制させてはいけない。
中学の頃、担任の先生にくどくどと言われた言葉だ。
僕はこの言葉の意味を、今になって理解できたような気がした。


ツンの気持ちが聞きたい。
ただそのことだけを考えながら、黙って待ち続けた。



136: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:43:41.24 ID:i1nggAI80
ようやく、ツンが動きを見せた。
……でも、唇は少しも動くことはなかった。


ツンは全く表情を変えずに立ち上がった。

僕はツンの顔を見た。
ツンは僕の顔を見ることはなく、目を伏せていた。


ξ゚−゚)ξ「――――――――」


この時僕は、やっと答えが聞けるのかなと思っていた。

期待と不安が、僕の心の中で交差した。



139: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:46:32.57 ID:i1nggAI80


でも実際に起きたことは、僕の予想を超えたことだった。


僕から目を逸らしたまま。


ツンは何も言わずに。


僕の目の前から、消えた。



144: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:48:44.30 ID:i1nggAI80
ツンは無言のまま走り去っていった。

僕は茫然として、しばらく動けなかった。

気付いた時には、もう横にツンはいなかった。
僕はただ一人、川辺に取り残された。


川のせせらぎが聴こえる。
まるで、僕を労うように。
だけどそれは、自分に都合のいい解釈だった。


(  ω )「――――――――」

残された僕は、何も考えられなくなって、ただ川を見つめていた。
悲しみも喜びも怒りも何も感じない。


僕は何もかもから取り残された気分になった。



148: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/21(土) 22:51:05.38 ID:i1nggAI80
川の水面を見つめ続けて、何分、何十分かが過ぎたころ。
ようやく僕は冷静さを取り戻して、頭の中を整理する。

……そして、一つの結論を下した。


僕はきっと、ふられたんだろうなって。


あれほど後悔しないと決めたのに、目からは自然と涙が零れた。

想いが伝わらなかったことが悲しかったんじゃない。
ツンの答えをちゃんと聞けなかったことが、悲しかったから。


打ちひしがれる僕の頭に、雨粒がぽつりと落ちてきた。
今にも泣き出しそうだった空は、堰を切ったかのように大粒の涙を流していた。



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