( ^ω^)と夏の日のようです

45: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:17:45.23 ID:+xDvCRSJ0
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第十七話



八月ももう残り一週間を切り、残暑も終わりを迎える時期。
あれほど長いと思っていた一か月が、駆け抜けるように過ぎていった。

蝉の声は徐々に治まり、静けさと侘しさが辺りに漂う。
一日の長さが短く感じられて、実際にもそうだった。
僕はいつもより早めに目覚める。
朝日の昇る時間は、だんだんとずれてきていた。


僕がこっちに居られるのも、今日を含めてあと三日。
残された時間はあと僅か。


その間に、僕はもう一度だけ、ツンに聞かなくちゃいけない。
この夏が、終わってしまう前に。



47: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:21:25.44 ID:+xDvCRSJ0
とはいえ、なかなか上手く言い出せないのが実情だ。

強引に詰め寄るのもいくらなんでも失礼だと思うし、
おどおどしながら聞くのも、以前の自分のようで嫌だった。

どんな切り口で入るべきなのか、それが僕にはよく分らなくて――――。


('A`)「……で、俺のところに来たわけか」

(;^ω^)「あうあう」

……僕はまた、ドクオさんに助言を貰いに来ていた。
本当は、自分で決めるべきことなのに。
少しだけ、自分を叱責した。


('A`)「……しかしまぁ、答えが無かったとはな……」

ドクオさんが煙草の煙をふっと吐く。

('A`)「……問題外だったんじゃね?」

(;^ω^)「ちょwwwwwwwwwwww」



49: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:23:26.28 ID:+xDvCRSJ0
('A`)「まぁまぁ落ち着け、ただの冗談だ」

(;^ω^)「タチの悪い冗談ですお……」

燃ゆる灰をとんと落とし、表情を崩さずに話を続ける。

('A`)「まぁあれだ、照れてるんじゃないのか」

( ^ω^)「でも、そういう感じには見えませんでしたお」

('A`)「……んじゃ、答えるのも嫌だった、っつーことか?」

( ^ω^)「……やっぱりそうなのかも知れませんお」

('A`)「それはねぇと思うがな……ツンちゃんの性格からいって、うやむやにするのは嫌いだろうしな」

ドクオさんが腕を組んで考え込む。
僕の私事なのに、親身になって考えてくれる。
僕は心の底から感謝した。



50: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:25:54.03 ID:+xDvCRSJ0
('A`)「……いかんな、どうも俺は女心には疎くてな……」

( ^ω^)「でも、結婚する時はどうだったんですかお?」

('A`)「あー、そいつはクーにでも聞いてくれ。俺が言うもんでもねぇし」

ドクオさんは、文字通り事の顛末を煙を巻く。
吸っていた煙草は、もうほとんどが灰に変わっていた。


('A`)「そいじゃ、俺は出掛けますよっと」

( ^ω^)「おっ? どこに行くんですかお?」

('A`)「煙草が切れちまったからな……ちょっと買ってくる」

('A`)「一応、俺もいろいろと考えてやるけど、あんま期待すんなよ?」

腰を上げたドクオさんはそう言って、煙の匂いを残して家を後にした。
後姿が、やけに大きく見えた。


ドクオさんが出ていった後すぐに、部屋の戸がすっと開かれる。
入れ替わりでクーさんが居間に入ってきて、机を挟んで僕の対面に座った。



53: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:28:18.82 ID:+xDvCRSJ0
川 ゚ -゚) 「話は済んだか?」

澄んだ瞳で見つめられる。
僕は何もかも見透かされているような気がした。

( ^ω^)「……いえ、まだですお」

川 ゚ -゚)「そうか……」

(;^ω^)「……あの」

僕は、思い切ってクーさんにも打ち明けることにした。

こうして人の意見を伺ってばかりで、自分が考えつくことは信用しないで。
それはきっと褒められたことではないだろう。

だけど今の僕は、少しでもきっかけが欲しかった。
情けないと思われても構わない。

最後の最後まで足掻きたい、そのことだけを切に思っていた。



54: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:30:27.28 ID:+xDvCRSJ0
これまでのこと、起こったこと、これからのこと。
僕はこの町に来てからの一切をクーさんに話した。

クーさんは時々頷きながら、僕の話を黙って聞いていた。


川 ゚ -゚)「ふむ……そういうことか」

(;^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「そうか……むぅ……」

神妙な顔つきで、思考を広げるクーさん。

長い沈黙の後、机上に置かれたお茶を少し含み、ゆっくりと口を開く。



55: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:32:41.30 ID:+xDvCRSJ0
川 ゚ -゚)「……そうだな、一つ昔話をしてやろう」

( ^ω^)「おっ?」


川 ゚ -゚)「……私とドクオが、まだ子供だった頃の話だ」


クーさんがもう一口お茶をすする。
遠くを見ているかのような目をしながら、懐かしむように言葉を紡いでいく。

僕はそれを追っていった。



57: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:35:04.50 ID:+xDvCRSJ0
川 ゚ -゚)「あれは6歳の頃……小学校の入学式の日だ」

( ^ω^)「おっ、その日にドクオさんと出会ったんですかお?」

川 ゚ -゚)「そうだ。私の隣に座っていた真っ黒に日焼けした少年、そいつがドクオだった」

川 ゚ -゚)「子供のくせにひねくれていて……今思うと可愛げがなかったな」

なぜか嬉しそうに過去を語るクーさん。

川 ゚ -゚)「だが話してみると、これが結構面白い奴でな」

川 ゚ -゚)「……その日以来、私たちは行動を共にするようになった」

( ^ω^)「いつも一緒だったんですかお?」

川 ゚ -゚)「一学年に一つしかクラスが無かったからな……切っても切れぬ縁だったよ」

ドクオさんとクーさんが幼馴染ということは前に聞いていた。
だけど、詳しい事はほとんど聞いていない。

この話が僕とどう繋がるのか、その事にも興味を惹かれつつ耳を傾けた。



58: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:38:16.48 ID:+xDvCRSJ0
川 ゚ -゚)「あの頃は楽しかった……毎日、二人でいろんな事に夢中になった」

川 ゚ー゚)「幼き日々の記憶は、いつになっても忘れる事が出来ないな」

ふっ、と軽い笑みを浮かべる。


川 ゚ -゚)「小学校だけじゃなく、中学校も同じだった。この辺りには一校しかないからな」

川 ゚ -゚)「もう何年も、一緒にいて……それが当たり前になっていったよ」

僕は聞き手に回ることに専念して、クーさんの次の言葉を待つ。


川 ゚ -゚)「ところが、だ。私たちが15歳の時の事だ」

川 ゚ -゚)「当然、あいつも地元の高校に行くものだと思っていたが、そうじゃなかったんだ」

川 ゚ -゚)「あれほど漁師を継がないと言っていたのにな」


そこで、嬉しそうな語り口調が少しだけ陰った。

川 ゚ -゚)「……その時分かったよ、いつもそばに居た人が、居なくなることの辛さを」



60: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:40:31.93 ID:+xDvCRSJ0
川 ゚ -゚)「……私は知らず知らずのうちにドクオに依存していたんだ」

川 ゚ -゚)「漁師になることはあいつ自身の決断なのに、私はそれを責めたりもした」

川 ゚ -゚)「……完全なお門違いだというのにな」

ふっ、と今度は自嘲気味に笑う。


川 ゚ -゚)「私は学校に、あいつは海に……会う時間もどんどん減っていった」

川 ゚ -゚)「次第に、今までになかった感情が私の中に湧いてきてな……」

川 ゚ -゚)「……いや、元々あったものなのだろうな」

(*^ω^)「それは……もしかして……」

僕は興味津々な顔をする。

川 ゚ -゚)「……まあ、言わずとも分かるだろう」

クーさんが湯呑みの中のお茶を飲み干した。



61: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:44:11.30 ID:+xDvCRSJ0
クーさんは一息入れて、今度は僕を諭すような口調で続けた。

川 ゚ -゚)「いつもいた人間が、そこにいない――――」

川 ゚ -゚)「それは本当に悲しい事だ」

川 ゚ -゚)「……今の君も、それを感じているんだろう?」

( ^ω^)「……」

確かに、クーさんの言うとおりだ。

いつも隣にいたツンが、いない。

僕は以前にもこんな経験をしたことがある。
いつもそばにいてくれた友達がいなくて、孤独だった高校生活。
それは寂しくて、辛くて、悲しかった。

今も、同じような心境で毎日を過ごしている。



63: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:46:45.40 ID:+xDvCRSJ0
川 ゚ -゚)「……そして、それを感じているのは恐らく君だけではないな」

( ^ω^)「おっ?」

川 ゚ -゚)「……いや、正しくは『感じていた』か」

独り言のように呟くクーさん。

誰に聞かせるでもないような小さな声だったが、僕にはその言葉がよく聞こえた。


窓の向こうに見える海は、今日は普段にも増して穏やかだった。



64: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:48:53.45 ID:+xDvCRSJ0
川 ゚ -゚)「聞いた話だと、君とツンは小さい頃仲が良かったらしいな」

( ^ω^)「そうですお。毎日のように遊んでいたのを覚えていますお」

川 ゚ -゚)「そう、毎日のように遊んでいた」


川 ゚ -゚)「まるで、昔の私たちのようにな」


(;^ω^)「……あっ」

クーさんの語尾が強くなる。
僕ははっとして、ぐらついた頭の中を整理する。


川 ゚ -゚)「会えなくなってから、私は自分の気持ちに気が付いた」

川 ゚ -゚)「……君はツンと会えなくなって、どう感じたんだ?」

( ^ω^)「……それは……」



66: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:51:14.83 ID:+xDvCRSJ0
――――どうしてだろう?

大事な記憶だったはずなのに、思い出す事が出来ない。
ツンと離れ離れになった時の自分を、見失ってしまっている。


( ^ω^)「……思い出せませんお」

川 ゚ -゚)「そうか……」

川 ゚ -゚)「……それじゃあ逆に、君がいなくなった時ツンはどう感じただろうな」

(;^ω^)「……!」

川 ゚ -゚)「予測だが……幼心なりに、寂しさを覚えただろうな」

川 ゚ -゚)「それが今、君に再会できた。喜ばないはずがなかろう」

こちらに来た日の事を思い出す。

……あの時、ツンはそっけない態度を取っていた。
僕は混乱する。
クーさんの予想通りだとしたら、あれは照れ隠しだったのだろうか?



67: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:53:16.43 ID:+xDvCRSJ0
そんな僕のことはお構いなしに、クーさんは話を進める。

川 ゚ -゚)「ところが、当の君が覚えていたことはツンの名前と簡単な記憶だけ、だったのだろう?」

(;^ω^)「……そうですお」


僕はあの時の事をまた思い出し、自分の行動をなぞる。
確かに自分は名前と、よく遊んだという事しか思い出せなかった。
それも、かろうじて。


川 ゚ -゚)「……ツンからしたら、自分のことは忘れられたのかと思っただろうな」

( ^ω^)「そうかもしれませんお……」

川 ゚ -゚)「そんな中で、突然君に告白された。動揺しないはずがないだろう」

川 ゚ -゚)「もっと言えば、自分の上辺しか見られていないと思ったかもしれないな」

川 ゚ -゚)「自分を忘れかけていた人間に、好きだなんて言われてみろ。どんな風に感じるか……」

(;^ω^)「……」



69: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:57:03.56 ID:+xDvCRSJ0
川 ゚ー゚)「……君は、女心がよく分かっていないようだな」

クーさんが優しく微笑む。


何もかもクーさんの言うとおりだ。

僕は気持ちを伝えたんじゃなくて、押し付けていただけ。
ツンの心境も考えないで、答えを無理に求めていた。


――――そして。

( ^ω^)「……僕は、ツンに謝らなくちゃいけませんお」

川 ゚ -゚)「そうだな。まずはそこから始めなくてはならない」

僕は机の下で、ぎゅっと汗ばんだ掌を握る。
握られた拳で、何かを掴んでいるように感じた。



71: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 00:59:36.63 ID:+xDvCRSJ0
('A`)「ありゃ? クーと話してたのか?」

戸が開かれ、いつの間にか帰ってきたドクオさんの姿が見えた。

時計に見ると、僕たちは一時間近く話をしていたことに気付く。
ドクオさんの手には1カートン分の煙草と、ビニール袋が握られていた。

川 ゚ -゚)「遅かったじゃないか」

クーさんがすぐに反応して、席をすっと空ける。
ドクオさんがそこに座り、買ってきた物を乱雑に机の上に置く。

('A`)「いやな、こいつを選んでいたら時間がかかっちまって……」

そう言ってドクオさんが袋の中の物を取り出す。
冷気を放つ、何種類かの色とりどりのアイスが広げられた。



74: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 01:01:59.91 ID:+xDvCRSJ0
('A`)「ほれ、適当に食え」

(*^ω^)「いただきますお!」

('A`)「……んでな、俺も考えたんだが……」

ドクオさんが、これまでに見たことがないような表情で僕を見る。


('A`)「あれだ、もう襲っちまえ! それが手っ取り早ぇ!」


クーさんの右の拳が、ドクオさんの顎を威勢良く打ち上げた。
呆れた様子でクーさんはアイスの包みを剥がす。


咥えたアイスの甘さが疲れを癒し、冷たさが熱を下げてくれる。

暑い日の長い午後。
僕たちはこうして、ゆったりとした空気の中で過ごした。



75: ◆zS3MCsRvy2 :2007/07/29(日) 01:04:21.70 ID:+xDvCRSJ0
ドクオさんたちに別れを告げて、帰路につく。
帰る道は、来た時よりも長く感じられた。

僕はポケットからペンダントを取り出し、星をぎゅっと握る。
それだけで希望が湧いてくるような気がした。

もう夏が終わる。
だけど、このまま終わらせたくない。

この夏の思い出の中で、たった一つだけピースが埋まっていない出来事。
足りないピースは、どんな色で、どんな形かは分からない。

それでも僕は結末を知りたかった。
もう明日しかチャンスは残されていない。
僕の全部を、ツンにぶつけよう。

僕はそう思いながら、ペンダントを再び首に掛ける。
それは太陽の光を浴びて、きらりと輝いた。



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