( ^ω^)と夏の日のようです

107: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/04(土) 23:42:19.88 ID:siQeC2cx0
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第十九話



風で揺れる草木の音。
焼けた線路の鉄の匂い。


僕は駅のホームで電車を待っていた。


今日が最後の日。
いつか必ず訪れることだと分かっていたのに、それでもやっぱり悲しかった。

あんなに楽しかった夏も、電車が来てしまえば終わってしまう。
もう時間はほとんど残されていない。

僕はぐっと涙を堪える。
蝉の声はもう止んでいて、空は七月に見た時よりも高くなっていた。



108: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/04(土) 23:45:08.45 ID:siQeC2cx0
背中にリュックを担ぎ、両手には抱えきれないほどのたくさんのお土産。
時刻を気にしながら、僕は振り返って辺りを見回す。

お世話になった人たちが見送りに来てくれていた。


叔父さん、叔母さん。

モララーにしぃ。

ドクオさんとクーさんの二人。

ジョルジュさん、荒巻のお爺さんも。

……そして、ツン。


みんな、僕の毎日を鮮やかに彩ってくれた。
本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

僕は一人一人の顔を順番に見る。
それだけでたくさんの思い出が呼び戻されるような気がした。



110: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/04(土) 23:47:30.72 ID:siQeC2cx0
( ^ω^)「えと……今日までの間、ありがとうございましたお」


電車が来てしまう前に、お別れの挨拶を告げた。

何を言っていいのか、そんなことは思いつかなかったけれど、
自分の心の中にあることを、素直に伝えることにした。


( ^ω^)「僕は、本当に楽しくこの夏を過ごせましたお」

( ^ω^)「それもこれも、みんなのおかげですお」


少し口を開くだけで、込み上げてくる想いで胸がいっぱいになる。


( ^ω^)「僕は感謝の言葉を、一人一人に言いたいですお」

( ^ω^)「……きっと、うまく言葉に出来ないと思いますお」

( ^ω^)「それでも、聞いてほしいですお」



113: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/04(土) 23:49:55.78 ID:siQeC2cx0
( ^ω^)「叔父さん……」

( ^ω^)「叔父さんは、ずっと会っていなかった僕を本当の家族のように見てくれましたお」

( ^ω^)「それに叔父さんからは、とても大切なことを教えてもらいましたお」

( ^ω^)「本当に、お世話になりましたお」


(´・ω・`)「いやいや、僕の方こそありがとうと言いたいぐらいさ」

(´・ω・`)「また、君が来る日を楽しみに待っているよ」



116: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/04(土) 23:51:52.00 ID:siQeC2cx0
( ^ω^)「叔母さん……」

( ^ω^)「毎日食べた叔母さんの料理、とてもおいしかったですお」

( ^ω^)「それに、自分を変える手掛かりをくれましたお」

( ^ω^)「こうして元気でいられるのは、叔母さんのおかげですお」


('、`*川「ふふ、嬉しいことを言うわね」

('、`*川「あなたが来た時は、いつだっておいしいごはんを作ってあげるわね」



118: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/04(土) 23:54:01.60 ID:siQeC2cx0
( ^ω^)「しぃ……」

( ^ω^)「君がいてくれたおかげで、僕の日々は特別なものになったお」

( ^ω^)「僕はしぃと夏を過ごせてよかったお」

( ^ω^)「しぃの一言が、嬉しかったお」


(*゚ー゚)「うん……私も、楽しかったよ」

(*;ー;)「……おかしいな……どうして涙が出ちゃうのかな……」



119: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/04(土) 23:56:01.36 ID:siQeC2cx0
( ^ω^)「モララー……」

( ^ω^)「一緒に遊んで、心の底から笑えたお」

( ^ω^)「それに、モララーにはいろんな物の見方を教わったお」

( ^ω^)「そんなモララーと過ごす時間が楽しくて、仕方なかったお」


( ・∀・)「寂しいけど、さよならなんだよね……」

( ・∀・)「僕、お兄ちゃんといられて本当によかった! またね!」



121: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/04(土) 23:58:21.94 ID:siQeC2cx0
( ^ω^)「ドクオさん……」

( ^ω^)「きっかけは、いつもドクオさんでしたお」

( ^ω^)「導いてくれたのも、ドクオさんですお」

( ^ω^)「もし会えなかったら、僕はずっと駄目な自分のままでしたお」


('A`)「自分では、大したことはしてねぇと思うんだがな……」

('A`)「まっ、ここからはお前だけが歩く道だ。がんばれよ」



124: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:00:40.89 ID:/2fKFijt0
( ^ω^)「クーさん……」

( ^ω^)「クーさんからは、僕の知らないことをいろいろ学びましたお」

( ^ω^)「それはとても貴重なことでしたお」

( ^ω^)「またいつか、お話を聞かせてほしいですお」


川 ゚ -゚)「私の話ぐらい、いくらでもしてやるさ」

川 ゚ー゚)「だがそれはまた今度、だな」



127: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:03:04.22 ID:Li84sgyw0
( ^ω^)「ジョルジュさん……」

( ^ω^)「海は、本当に刺激的でしたお」

( ^ω^)「船から見る景色は素晴しかったですお」

( ^ω^)「僕は太陽のようなジョルジュさんが、大好きでしたお」

  _
( ゚∀゚)「照れるけん、やめてくれんかのぉ」
  _
( ゚∀゚)「そんなことより、笑え笑えー!」



129: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:05:12.03 ID:/2fKFijt0
( ^ω^)「お爺さん……」

( ^ω^)「お爺さんと歩いてびっくりしましたお」

( ^ω^)「あんなに険しい道を歩いて、大変ですお」

( ^ω^)「お爺さんの考え方も、凄く心に残りましたお」


/ ,' 3「ほっほっ、そかそか」

/ ,' 3「わしもお前さんのことは忘れんよ」



131: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:07:22.86 ID:/2fKFijt0
( ^ω^)「ツン……」

僕はツンの方を見る。
ツンは背中の後ろで手を組んで、もじもじしていた。


( ^ω^)「ツン……必ず、帰ってくるお」


それ以上の言葉は必要ないと思った。


ξ゚ー゚)ξ「……うん、待ってるから」


ツンもまた、そう思っていたのだろう。

簡単で、だけど正直な気持ちのやり取りを僕たちは交わした。



133: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:10:04.81 ID:/2fKFijt0
挨拶を済ませたのとほぼ同時に、電車がホームに入ってきた。

ドアがゆっくりと開かれる。
少しだけ乗り込むのをためらいそうになった。

けれどこの電車に乗らないと、僕はこの最高の夏の最後を飾れない。

いろんな気持ちが混ざり合ったまま、僕は電車に乗り込んだ。
ドアが締まりきる前に、僕は最後の挨拶をする。

( ^ω^)「……みんな、本当にありがとうだお」

( ^ω^)「僕は帰っても、絶対に、絶対にこの夏の出来事を忘れないお」


( ^ω^)「それじゃ、バイバイですおー!」


涙を我慢して、笑顔で手を振り別れを告げる。
最後は笑って別れよう、そう決めていたから。

発射のベルが鳴り響き、ドアが閉まる。
ツンが駆け寄って、ドアの窓越しに僕たちは見つめあった。

だけどやはり、言葉は必要なかった。
二人で共に笑って、いつかの再会を誓いあった。



135: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:12:37.25 ID:/2fKFijt0
電車は駅を発ち、長い長い線路の上を走り出した。
僕は窓際の席に座り景色を眺めた。

きらりと光る海が見える。
木々の緑は薄くなっていて、ところどころ色づき始めていた。

僕は電車の揺れに身を任せる。

ふとしたきっかけで目を閉じると、すぐに情景が広がった。
海、空、雲、木々、川、風、太陽、星、池、夕日、月、大地。
そのすべてが鮮明に映っている。

そして何よりも、僕に接してくれた人の思い出が蘇ってくる。

みんながくれた例えようもない宝物の数々は、僕の心の奥で輝いている。
ツンとの思い出は、その中でも特に一番深い所できらめいていた。

舞い戻る鮮やかな記憶。
それはこの夏、一番のお土産だった。



140: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:15:09.04 ID:/2fKFijt0
やがてトンネルに入った。
暗い一本道。
この長いトンネルを抜けると、あの町とも本当にお別れなんだという気がした。

夢から覚めるかのような気分に襲われる。
だけど夢じゃなかったことは、ペンダントを握るだけで理解できた。


しばらくして電車はトンネルを抜け、目の前には違う景色が広がった。
それはまるで別世界であるかのように感じられた。

振り返るともう町は見えない。
僕はとうとう、思い出の最後の一ページにピリオドを打った。


もう自分の中での夏は終わってしまった。

けれど寂しいだなんて言わない。
これからは、新しい僕の、新しい生活が始まるんだ。


そんな事を考えながら、窓の向こう側を眺めていた。
その光景はやはり、新しかった。



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