( ^ω^)と夏の日のようです

147: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:24:45.66 ID:/2fKFijt0
『( ^ω^)と夏の日のようです』   第二十話



七月末。
僕は電車に揺られながら、叔父さんの家に向かっていた。


あの夏の日から、早4年。


その年の秋始め、僕は写真美術の専門学校に入学した。
毎日必死で勉強し、自分を鍛え直した。

……そして、僕は今雑誌の新米カメラマンとして働いている。
この町に来たのも、撮影のために長期滞在することになったからだ。

まだまだ駆け出しだけども、自分の進む道は見つけられたと思う。


長い旅路の末駅に到着し、またこの道を歩いていく。

目の前に広がるのは、あの時と変わらない景色。
青い空は澄みわたり、木々の緑は色鮮やかだった。



149: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:26:32.84 ID:/2fKFijt0
照りつける太陽が眩しい。
道中、見知った顔に出会った。


あの夏、一緒に歩いた道を僕は覚えている。


「おや、あんたは……」

「ほっほっ、しばらくぶりじゃの」

「今日は、何をしに来たのかのぉ」

「何をするために、今日という日が来たのかのぉ」



151: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:28:45.90 ID:/2fKFijt0
少し寄り道をして、海沿いの道を歩いた。
船着場へと続く道の上で、トロ箱を担いだ男を見つけた。


あの夏、船の上から見た夕日を僕は覚えている。


「おっ、おめーは……」

「はっはっはっ、よー来たのぉ!」

「また釣りにでも行くか!」

「海が、おめーを待っちょるけぇのー!」



154: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:30:52.82 ID:/2fKFijt0
別れた後、僕は船着場を目指した。
荒々しい潮風が舞う中に、あの人はいた。


あの夏、追いかけ続けた背中を僕は覚えている。


「ん、お前は……」

「よぉ、久しぶりだな」

「お前が向こうに帰っちまってから、もう4年か」

「……見ないうちに、いい顔になったな」



157: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:33:03.27 ID:/2fKFijt0
暫しの間近況報告をしていると、後ろから女性の声が聞こえた。
僕は振り返り、軽く会釈をする。


あの夏、教えてもらった言葉を僕は覚えている。


「むっ、君は……」

「ようやくやってきたか」

「君がいなくなってから、いろんな事があったぞ」

「また、ゆっくりと話をしてやろう」



160: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:35:15.71 ID:/2fKFijt0
二人に別れを告げ、僕はひたすらに山道を進んでいく。
上り始めてしばらくすると、一人の可憐な少女と出会った。


あの夏、伝えられた想いを僕は覚えている。


「あっ、あの人は……」

「久しぶり、だね」

「……私ね、好きな人が出来たんだ」

「今度、紹介するね」



163: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:37:39.43 ID:/2fKFijt0
僕はまだ歩き続けた。
途中、自転車に乗った少年が僕の手前で車輪を止めた。


あの夏、無邪気に遊んだ日々を僕は覚えている。


「あっ、あれは……」

「来てくれたんだ!」

「僕、中学で水泳部に入ったんだ」

「毎日、一生懸命がんばってるよ!」



165: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:39:47.96 ID:/2fKFijt0
道なりに進んでいくと、一軒の家が見えてきた。
玄関先で車を洗っていた男の人が、微笑みながら僕に目を向けた。


あの夏、語りあった夜を僕は覚えている。


「おや、君は……」

「やあ、待っていたよ」

「あの頃みたいに、ゆっくりしていってよ」

「この町は、君の訪れを待ち続けていたんだからね」



168: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:41:40.05 ID:/2fKFijt0
家に上がると、掃除をしていた女の人に声をかけられた。
窓辺の風鈴が、一度だけちりんと鳴った。


あの夏、見上げた星空を僕は覚えている。


「あら、あなたは……」

「ふふ、やっぱり来たのね」

「今日の夕ごはん、腕によりをかけちゃうから」

「……あの子なら、川にいるわよ」



173: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:44:20.38 ID:/2fKFijt0
僕は挨拶を済ませ、急いで川に向かった。
彼女に教えてもらった、とっておきの場所に。


山道を下っていく途中で、少しだけ足を止めた。


空は、どこまでも青く。

新葉は、どこまでも鮮やかで。

海は、どこまでも広がっている。


目に映る風景のすべてが、あの夏の思い出を呼び覚ましてくれる。

僕たちの、大切な思い出を。



177: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:46:51.00 ID:/2fKFijt0
蝉の声が響く中、小道を抜け川に辿り着いた。

川辺には一人の女の子。
白いワンピースに身を包み、ぼぉっと水の流れを見ていた。


いろんなことがあった。


泣いた日もあったし、笑った日もあった。


色褪せることのない、数え切れないほどの記憶。



あの、一緒に過ごした夏を、僕は覚えている。



181: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:48:56.01 ID:/2fKFijt0
僕は大声で彼女の名前を叫んだ。
耳だけじゃなく心にも届くように、僕は大声で叫んだ。


( ^ω^)「――――ツン!!」


彼女が振り向く。


ξ゚听)ξ「…………」


一瞬の沈黙の末。


ξ゚ー゚)ξ「――――ブーン!!」


僕の名を呼んだ。



182: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:51:32.43 ID:/2fKFijt0
静けさの漂う川辺で、二人の声が一際大きく響いた。


僕はツンの元に駆け寄り、ぎゅっとその体を抱きしめる。
再開を喜ぶ大粒の涙の雫が、ツンの頬をそっと伝う。

生憎、僕は気の利いた台詞の一つも持ち合わせていなくて、
ただ自分の素直な気持ちを、真っすぐに伝えるだけだった。


ξ;ー;)ξ「バカ……こんなに、待たせて……!」

( ^ω^)「……ごめんだお。本当に、ごめんだお」

ξ;ー;)ξ「でも、もういいの! ちゃんと、迎えに来てくれたから……!」

( ^ω^)「ツン……ずっとずっと、大好きだお」


それ以上の言葉なんか必要なかった。

僕の腕の中で、きらりと光る涙を流すツン。
壊れてしまわないように、優しく、抱きしめた。



186: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:53:48.99 ID:/2fKFijt0
お互いのペンダントが触れ合う。


天高くで輝く太陽の下、僕とツンは口づけを交わした。


時が止まったかのような世界の中で、二人の針だけが動いている。



川のせせらぎは、もう聴こえてこない。



僕は夢見る。

あの夏の日のような、飛びっきりの毎日を。



187: ◆zS3MCsRvy2 :2007/08/05(日) 00:55:35.21 ID:/2fKFijt0

七月末。
僕は電車に揺られながら、叔父さんの家に向かっていた。


窓の外に広がる景色を見る。

今年もまた、この町にやってきた。

気のいい人たちと過ごす最高の夏。

それはどんなに楽しいことだろう。

僕は期待に胸を膨らませ、電車の到着を待ち続けた。


その隣に、愛するツンを連れて――――。





        『( ^ω^)と夏の日のようです』   おわり



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