('A`)がコンビニ店員になったようです

38: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/08/31(木) 23:20:29.03 ID:GTK4CwVR0
  

 ――――――( ^ω^)「2だお。」――――――――


ブーンと出会ったのは、高校に入学して間もない頃だった。

地元では割と有名な進学校に入学した俺は、
コンプレックスであったひ弱な体を改善しようと、
心機一転、空手部に入部しようという決心を固めていた。


今思えば、まるで大気圏にすっぽんぽんで飛び込むように、無謀な事だったと思う。


だけど、その時の俺の決心は固かった。

俺は、入部届けを握りしめ、
緊張と不安、そして、ほのかな期待を身にまとわせながら部室へと向かった。

部室が見えるところまで着くと、
部室の扉の前には、おどおどとした、太めの人物の姿があった。


そいつが、ブーンだった。



39: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/08/31(木) 23:22:24.77 ID:GTK4CwVR0
  
ブーンは、扉の前を行ったり来たりして、百歩譲っても挙動不審だった。


扉のノブに手をかけ、「いよいよ行くのか?」と思わせておいて、頭を抱えて扉から後ずさる。

大きく息を吸い込んで、勢いよく扉に向かったかと思えば、回れ右をして、また頭を抱える。


正直、見ていて面白かったし、
「こんなピザでも、空手部に入ろうとするんだな」と、安心したりもした。

しかし、俺もあのときは若かった。

数分に渡り、扉の前で右往左往を繰り返すブーンにしびれを切らし、俺はブーンに近づいた。



42: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/08/31(木) 23:28:23.36 ID:GTK4CwVR0
  
('A`)「あの・・・・・・」

(;^ω^)「は、はひですお!
     僕、新入生の内藤ホライズンといいますお!
     か、空手部に入部したいんですお!
     こここ、これを受け取ってくださいお!」


まるで、女の子が初めて好きな男にラブレターを渡す時のように、
ブーンは俺に向かって、深々と頭を下げながら、両手で入部届けを差し出した。


('A`)「・・・・俺も新入生なんだけど。」

(;^ω^)「・・・・・・・・お? なんですと?」

('A`)「だから、俺も新入生なの!」

( ^ω^)「・・・・・・・・あちゃー。」


ブーンは、指で頭をポリポリとかきながら、間抜けな声を出した。



44: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/08/31(木) 23:29:18.70 ID:GTK4CwVR0
  
その姿があまりにおかしくて、俺はこらえきれず、笑い声をあげてしまった。


('A`)「ふひひwwwwwwwwww」

( ^ω^)「お?・・・・・・おっおっおwwwwww」

(´・ω・`) 「ぶち殺すぞ。
      君たち、新入生かい?」

(;'A`)(;^ω^)「びっくりくりくりクリトリス!!」


これが、俺とブーンの出会いだった。



45: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/08/31(木) 23:30:23.26 ID:GTK4CwVR0
  
俺達の高校の空手部は、
県大会ではそれなりの実績は持っており、それなりにレベルは高かった。

練習は、きつかった。
組み手は、めちゃくちゃ怖かった。
他校との練習試合に至っては、恐怖で何も考えられなかった。


そんな、苦痛と恐怖をともに味わってきたのだ。
必然的に、俺とブーンは急激に親しくなった。

俺とブーンは、まるで数多の戦いをくぐり抜けてきた戦友の様な関係だった。


お互いに励まし合い、時には先輩の陰口も言い合いながら、
なんとか俺達は、部活を続けていた。



46: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/08/31(木) 23:31:41.84 ID:GTK4CwVR0
  
やがて、自分の体つきが変わった事を自覚し始め、
別の友だちから「雰囲気が変わった」と言われるようになると、
俺達は、空手にのめり込んでいった。

この頃になると、毎日の部活とは別に、月に3〜4度くらいの割合で、道場にも通ったりした。
他の新入生の部員より努力しているという自信は、確信に変わっていた。

練習試合で他校の選手を倒せるようになると、ますます練習にも身が入った。


そして、高校2年の夏が訪れた。



49: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/08/31(木) 23:34:21.05 ID:GTK4CwVR0
  
先輩が引退し、俺達が部活の主役となって、初めての公式戦。
俺とブーンは、その試合が公式戦初出場だった。


( ^ω^)「おっおっお。 
     僕の個人戦一回戦の相手は、格下の高校の選手だお!」

('A`)「俺もだ。 これはもらったな。」


試合の組み合わせが発表されたとき、こんな会話をしたのを今でも思い出す。
この自信は、自分たちの練習量に裏付けされていたものだった。



しかし、俺達は、負けた。



50: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/08/31(木) 23:37:34.36 ID:GTK4CwVR0
  
今思えば、敗因はたいしたことはない。
俺達が、公式戦に伴う緊張でガチガチだったこと、
そして、なにより相手の選手が俺達より強かったこと、ただそれに尽きる。

たとえ所属する高校は格下でも、空手の経験者はゴロゴロいる。
高校から空手をはじめた俺達が、そう簡単に勝てるものではなかった。

そんなこと、頭ではわかっていたが、それでも俺達はショックだった。


さらに追い打ちをかけたのが、運動神経とセンスがいいだけで、
俺とブーンの3分の1も練習していないヤツが、ベスト16まで進んだことだった。


体から、力が抜けた。

「俺達が練習しても、こんなもんなんだ。」

そう思うと、力だけでなく、やる気も抜けていった。


それから、俺とブーンは部活に出なくなり、
その後、退部届けを提出した。


その瞬間、何か大切なモノが、
心の中からすっぽりと抜け落ちていくのを、俺達は感じた。



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