('A`)がコンビニ店員になったようです
- 61: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:32:23.34 ID:CUor4Esb0
-
―――――――川 ゚ -゚)「9だ。」―――――――
('A`)「……クー教官は休みなんですか」
事務員「有給休暇を取ってどこかに行くらしいです。
だからこれからの君の教習は別のものが担当させていただきます」
翌日、教習所を訪れた俺はそんな話を聞いた。
どうやらクーさんは年内いっぱい教習所には出てこないらしい。
その日は別の教官に教習をしてもらったが、何の面白味もないつまらないものだった。
それから俺は毎日のように通っていた教習所に出向く気が起きず、そのまま年が明けた。
- 63: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:33:54.25 ID:CUor4Esb0
- 正月というものがつまらないと感じたのは今年がはじめてだった。
その日の深夜、俺は訪れる人のほとんどいないコンビニでひとり時を過ごしていた
正月のコンビニはみんなから忘れられたように寂しかった。
でもまあ何もしないでも給料をもらえるならそれに越したことはない。
バックスペースでタバコを吸いながらそんなことを考えていた。
すると、数時間ぶりのお客が来店したようで、俺は店内へと出た。
('A`)「いらっしゃいま……」
川 ゚ -゚)「やあ、久しぶりだな」
- 64: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:34:24.96 ID:CUor4Esb0
- 正月早々彼女と会えるとは思っても見なかった。
今年はいい年になりそうだ。
なんてことを考えながらも、先日のバーボンハウスでの出来事を思い出し、
俺の浮かれた気持ちもしぼんでいく。
川 ゚ -゚)「突然休んで申し訳なかったな。教習は進んだか?」
('A`)「いえ……アレから教習には行っていないません」
川 ゚ -゚)「む……そうか」
そして沈黙。
………気まずい。
- 65: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:35:11.70 ID:CUor4Esb0
- 川 ゚ -゚)「そうだ。 これを君に……」
そう言って彼女は長方形の箱を取り出して俺に差し出す。
('A`)「なんですか、これ?」
川 ゚ -゚)「カステラだ」
('A`;)「カステラって……なぜにまた?」
川 ゚ -゚)「休んでいた間、長崎までツーリングに行っていてな。 その土産だ」
こんな真冬によくもまあ……
本当にクーさんはバイクが好きなんだな。
それを拒む理由もないので、俺は黙ってカステラを受け取った。
- 66: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:36:02.92 ID:CUor4Esb0
- ('A`)「しかし、なぜにまた長崎まで?」
川 ゚ -゚)「まあ……独りになりたくてな」
('A`)「……やっぱり、シャキンさんのことで?」
川 ゚ -゚)「ふ……そんなところだ」
そう言って彼女は寂しそうに少し笑う。
('A`)「……あの時はすみませんでした
まさかお二人がそんな関係だとは知らなかったものですから……」
川 ゚ -゚)「いや、君にはなんの非もないよ。
むしろ謝るべきなのは私のほうだ。 あの日のことは忘れてくれたまえ」
('A`;)「はぁ……」
あんなこと、忘れようと思っても忘れられない。
彼女も無理な注文をつけるものだ。
- 67: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:36:56.59 ID:CUor4Esb0
- それから彼女は数点買い物をした。
なんだか気まずい俺たちは、特にこれといった会話もすることなかった。
ただ彼女は去り際に俺のほうに振り返り
川 ゚ -゚)「正月が明けたらすぐに教習にきたまえ」
とだけ言った。
その言葉のおかげでわずかだけだが気まずさが消え、
俺はまた教習に行こうという気になった。
- 68: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:38:08.96 ID:CUor4Esb0
- それからの教習は順調すぎると言っていいほどスムーズに進んだ。
このころになると、教習の内容はもっぱら教習所内の決められたコースを
ひたすら走るというもので、特にこれと言って特別なことは無かった。
必然的にクーさんとの会話の機会も減った。
少なくなった会話の内容も教習に必要な事項についてばかりになり
それはまるで、お互いがあの日の出来事を無理やり無かったことにしようとしているかのように不自然なものだった。
やがて教習は終わり、残すは最後の技能検定のみ。
技能検定は週に二度の決められた曜日にしかなく、俺はその日をただ待つだけとなった。
そして技能検定を翌日に控えた深夜、
いつものようにコンビニで働いていた俺の元に、一人のお客がやってきた。
- 69: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:39:21.57 ID:CUor4Esb0
- (´・ω・`)「やあ」
そのお客は、この世で俺が絶対に逆らえない人だった。
それにしても、彼が一人でここを訪れるのはブーンが連れて行かれたあの日以来だ。
なんだかいやな予感を感じながらの、俺は平静を装いつつ対応する。
('A`)「あ、どもです。 今日は仕事お休みですか?」
(´・ω・`)「そんなことはない。 ただ君に渡したいものがあってね」
そう言って彼は一枚の封筒を俺に差し出す。
差出人は………聞いたことのある名の出版社だった。
('A`;)「あのー、これなんですか?」
(´・ω・`)「紹介状さ。 先日のクーさんの話をしたら先方がいたく興味を示してね。
それで一度、彼女から話を聞きたいとのことだ」
- 71: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:40:36.18 ID:CUor4Esb0
- ('A`;)「ほ、本当ですか!?」
(´・ω・`)「ああ。これをクーさんに渡してほしい」
('∀`)「お安い御用です! クーさんもきっと喜びますよ!!
本当にありがとうございます!!」
俺はショボンさんに向かって深々と頭を下げた。
その俺の頭を「ぽん」と叩くと、ショボンさんは何も言わずに出口のほうへと向かう。
すると出口の前で立ち止まり、こちらを振り返らずに言った。
(´・ω・`)「感謝されるべきなのは僕ではないよ」
('A`;)「え……? それじゃあこの紹介状は誰が……?」
その問いに答えることなくショボンさんはコンビニから出て行った。
('A`)「まさか、シャキンさんが……」
俺は手渡された紹介状を見つめながら、答えられることのない疑問をつぶやいた。
- 73: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:41:47.55 ID:CUor4Esb0
- 翌日の午前中に技能検定は終わった。
クーさんの指導のおかげか、俺は無事にそれをパスした。
そして昼休みを挟んで、そのまま卒業式を迎えた。
卒業式は教習所の所長が長々と安全運転の心得を述べるだけの退屈なものだった。
そんな卒業式も終わり、最後に俺はクーさんのもとを訪れた。
川 ゚ -゚)「おめでとう。免許を更新すれば君も晴れてライダーの仲間入りだ」
('A`)「ありがとうございます。これもクー教官のご指導のおかげです」
川 ゚ -゚)「そんなにかしこまるな。 私はただ職務を全うしただけさ」
そう言ってクーさんはわずかに微笑む。
その笑顔はやっぱりどこか寂しそうで、俺が見たい笑顔とは程遠いものだった。
- 74: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:43:01.41 ID:CUor4Esb0
- それから教習所が終わるまで、俺は外で時間をつぶした。
ころあいを見計らって教習所に戻ってくると、終わりまでまだわずかに時間があった。
俺は初日にクーさんと出会った喫煙所でタバコをすいながら、彼女が現れるのを待つ。
やがてその日最後の教習の終わりのチャイムが鳴り、教習生の群れがわらわらと帰っていくのが見えた。
その群れが引いてしばらくして、喫煙所にクーさんが現れる。
('A`)「……どうもです」
川 ゚ -゚)「驚いたな…こんな時間までどうしてここに?」
そう言いながらクーさんは俺の横に腰掛けてタバコを吸う。
しばらく無言で俺たちはタバコを吸った。
タバコも短くなったところで、俺はジャケットの内ポケットから例の封筒を取り出す。
- 75: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:44:23.36 ID:CUor4Esb0
- 川 ゚ -゚)「なんだこれは?」
('A`)「とにかく読んでみてください」
彼女は俺から封筒を受け取ると中身を取り出して静かに読み始めた。
その間、俺はもう一本タバコを取り出しそれを吸う。
やがてそれを詠み終えたのか、クーさんは中身を封筒に戻した。
そしてタバコを一本取り出し、それに火をつけた。
川 ゚ -゚)「……これはどういうことだ?」
彼女は吐き出した煙が流れていくのを眺めながら、表情を変えずに言う。
('A`)「そういう事ですよ。 出版社の人が、あなたの話を聞きたいそうです」
川 ゚ -゚)「………誰の差し金だ?」
('A`)「さあ? 俺はある人からその封筒を渡せとだけしか言われていません」
- 76: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:45:08.26 ID:CUor4Esb0
- すると彼女は立ち上がり、俺を見下ろしてその封筒を差し出す。
川 ゚ -゚)「なぜ、こんなことをする?」
('A`)「はい?」
川 ゚ -゚)「私と君は教習所の教官と生徒、ただそれだけの関係だ。
それなのに、なぜこんなことをする」
クーさん厳しい表情で俺の顔を見据える。
俺も負けじとクーさんの顔を見据え返す。
クーさんの黒く透き通った瞳に、俺の姿が映っているのが見えた。
- 77: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:46:02.23 ID:CUor4Esb0
- ('A`)「俺は、あなたがうらやましいんです」
川 ゚ -゚)「………?」
('A`)「俺にはあなたのように、目指すべき目標も、追う価値のある夢も持っていません。
そんな俺には、素敵な夢を持っているあなたの姿がまぶしくてなりません」
川 ゚ -゚)「……答えになっていないな」
まったくそのとおりだ。
俺は自分に対して苦笑する。
('A`)「とにかく、それは受け取れません」
クーさんに差し出された封筒を見つめながら俺は立ち上がる。
- 78: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:47:06.31 ID:CUor4Esb0
- ('A`)「あなたどう思おうがかまいませんが、
その紹介状はあなたの夢をかなえるチャンスの一つであることは間違いありません。
そのチャンスを活かすか不意にするかは、あなたの自由です
もし、あなたに夢を追う意思があるなら、その紹介状に書いてあるように
明日の深夜、バーボンハウスに行ってください。」
川 ゚ -゚)「………」
('A`)「ただ、夢をかなえるチャンスをつかみながら
それを不意にすることは腰抜けのすることだと思います。
……俺が言いたいことはそれだけです」
俺はそれだけを言い残すと、振り返らずに喫煙所を出た。
- 80: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:48:53.65 ID:CUor4Esb0
- 教習所を出た俺は、真冬の夜の寒さに身を震わせた。
今日は麻子を使わずに教習所に来ていた。
理由は特にない。ただなんとなく、冬の街を歩いてみたかったからだ。
俺が通っていた教習所は街の郊外にあり、辺りは街頭もあまり無く薄暗い。
そんな道を歩きながら、俺は自分のへたれ加減に辟易していた。
川 ゚ -゚)「私と君は教習所の教官と生徒、ただそれだけの関係だ。
それなのに、なぜこんなことをする」
そのクーさんの問いに、俺はお茶を濁す発言しか出来なかった。
俺には夢も何もない。 それは本当だ。
しかし、クーさんの夢の応援するのはそれだけが理由ではない。
あなたに憧れているから……。
あなたが俺にバイクを教えてくれたから……。
そんなあなただから、夢をあきらめてほしくなかった。
そんなあなただから、あなたが夢を追う姿を出来るだけ近くで見ていたかった。
- 81: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:50:19.56 ID:CUor4Esb0
- なぜそれが言えなかったのだろう?
いや、理由はわかっている。
俺は何もしてない。
俺はただ、預かった封筒を渡しただけ。
俺は彼女に何もしてやれない。
出来ることといえば、無責任に応援することだけ。
彼女の夢への切符を手配したのは俺じゃない。
俺がしたことといえば、自分にない夢を彼女の夢に重ねただけ。
そんな俺に、彼女は……クーさんは釣り合わない。
- 83: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 03:51:15.76 ID:CUor4Esb0
- ('A`)「ふひひ……俺ってちっちゃいな…」
自分の情けなさに嫌気がさす。
そうさ……俺にクーさんは釣り合わない。
彼女を支えるには、俺はあまりに小さすぎる。
彼女を支えられるのは俺じゃなくて、シャキンさんのような頼れる大人の男なんだ。
('A`)「……雪だ」
俺は立ち止まり空を見上げた。
星が輝く真冬の空から、今年初めての雪が舞い降りる。
その雪を見つめながら、俺の視界は涙でにじんだ。
第3部:完
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