('A`)がコンビニ店員になったようです

5: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 21:16:30.82 ID:QSe0OOW80
  
エピローグ


それから三つの季節が過ぎ去り、街には再び冬の足音が聞こえ始めていた。

どこで聞いたかは忘れたが、人間の精神的な時間の流れは、
二十歳を過ぎると折り返しに差し掛かるという。
それを証明するかのように、季節は驚くほど足早に過ぎ去っていった。

そんな季節の流れの中で、俺のもとにクーさんからの手紙が届いた。


ξ゚听)ξ「へー、クーさん今オーストラリアにいるんだ」

('A`)「南半球はこの時期暖かくて旅しやすいんだろう」

ξ゚听)ξ「ドクオ、冬休みに会いに行っちゃえば?」

('A`)「……んな金ねーよ」


バーボンハウスの中で、俺は持ってきた手紙をツンに見せる。
クーさんと別れて以来、俺はちょくちょくこのバーボンハウスに顔を出しては
こんなふうに会話を楽しんでいる。



6: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 21:19:20.92 ID:QSe0OOW80
  
(`・ω・´)「ツンちゃん、ドクオ君の相手ばっかりしてたらぶち殺すよ?」

ξ゚听)ξ「あ、すみませーん」


営業用の甘い声を出しながらツンは仕事に戻る。
一方店の裏手の方を覗くと、ブーンとショボンさんが楽しそうに会話している。


(´・ω・`)「ブーン。 こんなにテキーラを発注した覚えはないが?」

(;^ω^)「あちゃー。 発注ミスりましたお」

(´・ω・`)「うふふ。 ちょっとトイレに行こうか」

( ;ω;)「いやああああああああ! ご堪忍を! ご堪忍をおおおおおおお!!」


そうやって、二人の姿はトイレへと消えた。

いつ来ても変わらない光景。
いつ来ても変わらない人たち。

そんな光景を眺めて、俺はクスリと笑う。
そんな人々に囲まれて、今日も俺は元気でやっている。



7: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 21:22:17.22 ID:QSe0OOW80
  
拝啓、クー様。


お手紙拝見しました。
旅の調子はいかがですか?
オーストラリアはもうすぐ夏だそうですが、
見知らぬ土地で体調を崩されてはいないでしょうか?

あなたの旅の様子を雑誌でいつも拝見させてもらっています。
写真に写っているとても楽しそうなあなたの姿を見て、
うれしさと憧れを感じながらもそこに少しの嫉妬も感じてしまうのは、
きっと相変わらずやりたいことを見つけられない自分がここにいるからなのでしょう。

こちらはもうすぐ本格的な雪の季節を迎えます。
街はすっかり冬の色に染まり、バイクに乗るのがつらくなってきました。

これからしばらくは、ヤックルも冬眠に入りそうです。



9: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 21:25:14.98 ID:QSe0OOW80
  

先日、といっても秋の初めのころですがシャキンさんとツーリングに行きました。
その時、クーさんの話をしました。

結局肝心なことはシャキンさんから聞き出せませんでしたが、
クーさんの話をしているシャキンさんの顔が、
心なしかうれしそうだったことだけは、今もはっきりと覚えています。

そんなシャキンさんは、相変わらずバーボンハウスでグラスを磨いています。
ショボン先輩とブーンも相変わらずで、いつも楽しそう?にじゃれあっています。
ツンは結局大学を辞めることになってしまいましたが、
バーボンハウスで働きながら、独学でファッション関係の資格の勉強をしているようです。

結局のところ、バーボンハウスのみんなは相変わらずで、ほとんど何も変わっていません。

そして俺はというと、4月から大学に復学しましてそれなりに単位も取れています。
だけど正直言って、大学は楽しくありません。
周囲には相変わらずなじめず、キャンパスライフのほとんどを一人で過ごしています。

しかし、そんな毎日にも少しずつではあるけど慣れてきました。
今はクーさんの言葉を信じ、つらい大学生活を何とか頑張って過ごしているところです。



12: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 21:27:13.85 ID:QSe0OOW80
  

「続けていれば、必ず素晴らしい出会いがある」

あなたの言葉が、今も胸に残っています。
いつの日か、あなたとの出会いと同じくらい素晴らしい出会いがあることを信じて、
その日までこのつらい毎日を頑張り続けようと思います。

そして、頑張ることに慣れようと思います。

これからもあなたが無事に世界を走り続けられることも心より祈っています。
どうか病気や怪我、そして事故に気をつけて、いつまでも夢を追い続けてください。

                                              敬具

追伸

日本に帰国するときには必ず教えてください。
会いに行くよ。ヤックルに乗って。



14: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 21:29:57.58 ID:QSe0OOW80
  
('A`)「無事に届けよ」


そうつぶやいて、俺は手紙をポストに投函した。
「カコン」という音が鳴って、手紙はポストの中に吸い込まれていく。

この手紙が海を越え、遠いあの人の下に届くと考えるとなんだかロマンを感じる。

郵便屋になるのもいいかもしれない。
そんなことを考える自分に苦笑しながら携帯を覗き込むと、バイトまでまだ少し時間があった。


時間をもてあました俺はバイト先のコンビニの前の公園に入り、
いつもと同じベンチに座る。
いつものようにタバコに火をつけて、一口目を思いっきり吸い込む。


………うまい。


やっぱり最初の一口は最高だ。



15: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 21:33:55.48 ID:QSe0OOW80
  
夜の公園は意外にも静かだった。

いつもは朝日に照らされている公園も、今は月明かりの下で薄暗い。
人の姿もほとんどない。

同じ場所でも、時間や条件が違えばこんなにも異なる顔を見せる。


……それは人間も同じなのだろう。


あの時、空港で見せたツンの泣き顔。
そのツンを優しく受け止めたブーンの顔。
紹介状を持ってきたショボン先輩の真剣な顔。
去年のクリスマスに見せた、シャキンさんの寂しそうな顔。


そして、写真の中に写っていた、本当に楽しそうなクーさんの顔。


人と付き合い続ければ、こんな風にその人の新たな一面と出会う。

それもまた、出会い。
何も新しい人と出会うことだけが出会いではないのだ。

「続けていれば、必ず素晴らしい出会いがある」

クーさんはそのことも含めて、この言葉を使ったのだろうか?



16: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 21:34:51.23 ID:QSe0OOW80
  
('A`)「そろそろ時間か」


俺はタバコを灰皿に投げ捨て、立ち上がる。
そして、全ての出会いの場であったコンビニへと向かう。

大学に復学して、バイトに入る回数はすっかり減ってしまった。
正直、昔と違い深夜のシフトはきつい。
しかし、クーさんやみんなと出会ったこのバイトをやめる気には慣れなかった。

ふと、この公園で履歴書に志望動機を書いたことを思い出す。
適当に書いたその内容は忘れてしまったけど、俺はそれを叶えられたのだろうか?


空を見上げると、今年初めての雪が舞い降りてきた。



19: 78 ◆pP.8LqKfPo :2006/10/01(日) 21:38:10.70 ID:QSe0OOW80
  
('A`)「今日は肉まんが売れそうだな」


そうつぶやいて、俺はコンビニへと入る。
バックスペースで制服に着替えてタイムカードを押す。


これから朝の六時まで頑張りますか。


俺は襟を正すとバックスペースのドアを開け、店内へと出る。
そして、いつものセリフを口にする。






('∀`)「いらっしゃいませ!!」








('A`)がコンビニ店員になったようです   <完>



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