( ^ω^)ブーンと鬼のツンξ゚听)ξ のようです

7: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:43:08.60 ID:pvNpc7Oh0
 ('、`*川「ツンちゃん、ちょっと好(い)いかしら?」
ξ゚听)ξ「あら、伊藤の小母さん。こんにちは」
 ('、`*川「このあいだ親戚からおうどんが届いてね、此(こ)れお裾分けにと思って」
ξ゚听)ξ「わぁ、小母さん有難う。今度家からも何かお返しをしなくちゃ」
 ('、`*川「いいのよ、まだいっぱいあって家じゃあ食べきれないの。それより、昨日の事なんだけど――」

 今ではツンも随分と此(こ)の村に馴染んでいた。元々、此の村自体が僻地(へきち)にしては開放的
であり、また良家の娘の様なツンの礼儀正しさや気配りの細かさも其れを助けていた。但(ただ)し、
ツンが隠であると云うことは公にはしなかった。

 対してブーンは、其の様な良妻を貰ったことを祝福されつつも、やはりしぃとの交友が有った
者からは疎まれることが少なくはなかった。併しブーンは其れを以ってもツンを娶(めと)った事に対して
後悔する様なことは一度たりとも無かった。



8: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:44:01.99 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「やぁ。未熟な果実の芳香に誘われて、また来てしまいましたよ」
( ^ω^)「いい加減其れも聞き飽きたお。ツンはもう廿(はたち)だと何度云ったら分かるんだお」
(´・ω・`)「いやなに、いつもの挨拶ですよ」
( ^ω^)「其の挨拶で何度ツンに叩(ぶ)たれたことか」

 年下の嫁を貰うこと自体此処(ここ)等では少しも不自然なことではないのだが、ショボンには
其れが度を行き過ぎると変態として認識される様であった。幼少の頃子を貰い受け、年頃を見て
婚姻をする、などと云う風習も以っての外と激しく非難されたこともあった。

ξ゚听)ξ「あなた、呼びましたか?」
(´・ω・`)「おや、此れは麗しの奥方。今日は昨日にも増してまた一段とお美しい」

 またいつもの様にショボンがツンの機嫌を取りにいく。此れだけを見るとショボンがただ
気障(きざ)な奴と云うだけだが、此れもどうやら計算の内らしかった。こう煽ててはツンを何時間も
捕まえて毎度色々な話を聞き出すのだ。



9: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:44:59.04 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「駄目です。今日はお買い物があるから話はまた今度お願い」
(´・ω・`)「……君は随分と強(したた)かに為(な)ったね」
( ^ω^)「そうなんだお。この間なんか僕が蒲団で寝ていたら、いきなりこう、がばっと……」
(´・ω・`)「へぇ、興味深い。其の話詳しく聞かせて貰いましょうか」
ξ#゚听)ξ「あなた! ……ちょっと来て下さいますか」
( ;^ω^)「お上より招集がかかった故、此れにて失礼……」

 奥の間に引き摺(ず)られていくブーンを見乍ら、ショボンは右手に持っていた煙管(きせる)に
煙草を詰め炭火で火を点けると、其れを咥えてゆっくりと目を閉じた。

 煙草を呑むほど暮らしに余裕がある者は少ない中、ショボンは取り分け風変わりな煙管を
持っていた。雁首(がんくび)から吸い口までが一繋ぎになっており、普通の物よりも幾許か長く、
一尺よりも更に二三寸はあろうかと云う代物であった。
 材質は金属で無ければ竹でもない。斑に黄みを帯びつつも嫋(たお)やかに白く伸びる其の煙管は、
綺麗に磨き上げられていてまるで宝石の様な光沢を帯びていたが、どうやら動物の骨で出来て
いるらしかった。


※一尺=約30 cm、一寸=約3 cm ※嫋やか=しとやかで上品である様



10: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:45:49.92 ID:pvNpc7Oh0
 ふわふわと漂ってくる枯れ草の匂いに煙草の匂いを混ぜ乍ら、ショボンは、ふぅ、と紫煙を
吐き出した。そして呆れる程の平安を感じ乍ら一度煙管をまじまじと見詰めた後、染みの出来た
天井を見上げた。
 そうして見上げること幾許(そこばく)、行きとは対照的に萎(しお)れたツンを引き連れてブーンが
戻ってきた。

(´・ω・`)「早かったですね」
( ^ω^)「ちょっと不測の事態があったお」
ξ;゚听)ξ「はいあなた」

 するとどういう訳か、ブーンの左首筋より僅かに濃赤色をした血の滴るのが見えた。ツンは其の
傷口に優しく綿布を当て、申し訳なさそうに傷口とブーンの顔とを交互に見た。


※幾許=いくらか



11: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:46:45.89 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「此れはまた……奥方、相当恨みが深いと見える……」
ξ;゚听)ξ「その、私そんなつもりは……」
( ^ω^)「気にせんで好いお。ただ、今度からはちゃんと爪を切って呉(く)れお」
ξ;゚听)ξ「ごめんなさい。私ももうこんなに伸びているとは思わなくて……」

 話から察するにどうやら伸びた爪が引っかかってしまった様だが、果たして其れはどういう事かと
ショボンは首を傾げた。そうも長くなる程に爪を放置する癖など彼女に有っただろうか。

(´・ω・`)「あれかな、君があまり色々と苦労を掛けるからじゃないのかい?」
( ^ω^)「いや、僕はどちらかと云われれば苦労を掛けられる……」
ξ゚听)ξ「あら? 鋏みが無いわ。どこかで爪を磨ごうかしら、ねぇあなた」
( ^ω^)「……ショボン、早急に研究家として何か助言を」
(´・ω・`)「……残念です」

 あぁ、併しこういう遣り取りも楽しいなぁとショボンは再び心の中で笑った。



13: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:47:58.34 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「そうだ。取るに足らないことだとは思いますが、念の為切った爪をいただけませんか?」
ξ゚听)ξ「爪を?」
( ^ω^)「まったく、君の研究への熱意にはどこか狂気染みたものを感じるお」
(´・ω・`)「勿論、厭(いや)なら厭で結構ですが」
ξ゚听)ξ「別に此の儘捨てる物ですもの。好きにして下さって結構です」
(´・ω・`)「有難う御座います」

 そう言ってショボンは受け取った爪の欠片を懐から取り出した小さな巾着袋に仕舞い、再び
其の懐へと戻した。

( ^ω^)「そんなに面白いのかお?」
(´・ω・`)「面白い……と云うのはちょっと違いますね」
( ^ω^)「と、云うと?」
(´・ω・`)「君には説明する必要も無いでしょう」
( ^ω^)「ん?」

 今度は笑うことなく、ショボンはブーンの家を後にした。一度開いた扉の向こうからは朔風(さくふう)が、
すっと居間に差し込んで来た。其れは晩秋の事。


※朔風=北風



15: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:48:39.23 ID:pvNpc7Oh0
 時は更に進み、村には終(つい)に初雪が降った。思い起こされるは嘗(かつ)ての孤独の日々である。

( ^ω^)「終に冬が来たお……」
ξ゚听)ξ「そうね……」

 炉辺に座り乍ら窓から深々(しんしん)と降り積もる雪を見ていたツンは、一度立ち上がりブーンの
横に座り直すと、ゆっくりと体重を預けて目を瞑った。

ξ--)ξ「……大丈夫。私はもう一人でないのですから」
( ^ω^)「……」

 何も言わずブーンはツンを抱き寄せ、優しく其の頭を撫ぜた。パチパチと囲炉裏の炭の弾ける
音だけが、今はゆっくりと彼等の時を進めていた。



16: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:49:24.40 ID:pvNpc7Oh0

 更に雪は降り積もり、新雪は人々の足跡を刻み、其処に確かな瞬間があったことを記録していった。
降り積もる雪は只管に不偏(ふへん)であった。縦令(たとい)其の瞬間が如何に残酷なものだとしても、だ。

 早めの黄昏(たそがれ)に包まれ人々がぼんやりと見分けが付かなくなる様を眺め乍ら、
ブーンはかんじきの雪を踏み締める感触を味わっていた。『誰(た)そ彼(かれ)』とは古人も中々
洒落た事を考えるものだと感嘆しつつ、寒さに耐えかね袖を一振りし、ブーンは家を目の前に
し乍らもショボンの家へと上がった。

(´・ω・`)「おや、何用で?」
( ^ω^)「いやなに、大した用じゃないお」

 黴臭い本の匂いに、至るところに染付いた煙草の匂い。其れ等が混ざり怪しげな香りと為っている
此の屋敷に長居しようとは思わぬが、其れでも未だ躰が暖を求めていたので、ブーンは適当な話を
振った。


※不偏=かたよらず公正であること ※縦令=仮に



19: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:50:26.96 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「ショボン、最近はどうだお?」
(´・ω・`)「最近、ですか」

 ふぅ、と口から紫煙を吐き出し、ショボンは頭(かぶり)を振る。

(´・ω・`)「さっぱりですね。果てには便利屋か何かと勘違いした者が、迷い犬探しを依頼してくる
      始末ですよ」
( ^ω^)「はは、君の其の好奇心ならば、其の儘便利屋にでも為った方が好いのではないかお?」
(´・ω・`)「冗談を」

 ショボンは笑っていたが、ブーンにしてみれば、そうでもせんと此の男は孰(いず)れ餓死して
しまうのではないかと云う不安があった。

(´・ω・`)「併し、迷い犬など探して何になるのでしょうか?」
( ^ω^)「何とは……其れは迷い子を探す理由に変わらんだろうに」
(´・ω・`)「犬と子が同等なのですか?」
( ^ω^)「同等と云うのは少し云い過ぎかも知れんが、ここでは犬はとても大切にされてるお」
(´・ω・`)「野犬を捕って喰らったりは?」
( ^ω^)「薬になると云う話は聞いたことがあるけれども……此処では逆に其れが禁忌とされているお」
(´・ω・`)「成る程……中々興味深い話ですね」

 近くにあった紙切れを掴むと、ショボンは其れに目を通し何度か浅く頷いた。其れ限(き)り目線を
呉れなくなったのを潮時だと感じ、ブーンは一言云ってショボンの家を後にした。



20: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:51:22.09 ID:pvNpc7Oh0

( ^ω^)「今帰ったお」
ξ゚听)ξ「お帰りなさい」

 いつもの様に出迎えて呉れるツンを見乍ら、ブーンは其の様子に少しの違和感を覚えた。

( ^ω^)「……? ツン、こんな時に野良仕事かお?」
ξ゚听)ξ「え? どうして?」
( ^ω^)「着物の裾が濡れているし、それに頬がいつにも増して紅くなっているお」

 はっとした様子で頬に両の手を当てると、ツンは一層顔を紅くして困った様な顔をする。

ξ*゚听)ξ「もう、いやだ。今晩は美味しいお野菜であなたを驚かせようと思っていたのに。
       雪の下に埋まった野菜はとっても甘いのですよ」
( ^ω^)「それは楽しみだお。それじゃあ早速飯にするお」
ξ゚听)ξ「はい。今日は煮物にしてみました。すぐに出しますから待っていて下さい」
( ^ω^)「……煮物?」
ξ゚听)ξ「ええ。煮物はお嫌いでしたか?」
( ^ω^)「……いや、まさか」



22: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:52:15.07 ID:pvNpc7Oh0
 其の晩に食卓へ出された大根の煮物は絶品で、ブーンは此れを絶賛しツンは其れに対し
頬を紅らめては、照れ隠しに俯いて手を振った。
 そうしてゆらゆらと二つに纏められた髪が揺れるのを見乍ら、ブーンは甘い大根の味を
口の中で暫し堪能していた。

( ^ω^)「旨いお」
ξ゚听)ξ「好かった」
( ^ω^)「うん……旨い、お」
ξ゚听)ξ「……どうしたの、あなた」

 ただ旨いを繰り返すブーンを不思議に思い、ツンはそう尋ねた。其れに対しブーンは幾許かの
間を取り、箸を箸置に置くと俯き乍ら呟き始めた。



23: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:53:01.54 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「いや……君とこうして旨いご飯を食べているのだなと、改めて思っていたんだお」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……今でも、僕は不安で一杯なんだお。若しかして今此の目の前の君は、僕が見ている
      幻ではないのか、朝に目が覚めれば消えてしまうのではないかと。毎朝、毎晩……」

 小さく背を丸め怯える様に語るブーンを見て、ツンは其の傍らに座るとブーンの手を取り、其れを
自らの頬に当てた。其の頬はしっとりと絹の様で、そして温かく、ブーンは思わずツンの顔に目が
釘付けになってしまった。

ξ゚听)ξ「……私は、貴方に会うまでずっと貴方の幻を見ていました。併しやはり今こうして見る貴方は、
      幻よりも遥かに、私の心を安らかにします。縦令……縦令貴方が見ている私が幻だとしても、
      貴方を思う私は、確かに此処に存在します。だから、どうか安心して下さい」
( ^ω^)「……済まん。手間を掛けさせるお」

 眉間に皺を寄せ目を伏せるブーンを見て、ツンは優しく微笑んだ。そうして二人はまた食事は始めた。
雪の下から出てきた大根は、時間が経っても甘やかであった。



26: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:54:05.17 ID:pvNpc7Oh0

 翌日、ブーンは仕事に退屈しショボンの家へと来ていた。名目上は昼休みらしいが、其の匙加減は
全てブーンの一存によるものである。
 併しブーンが来ても相変わらずショボンは一人乳鉢だの薬匙(やくさじ)だのを相手に何かをする
許りで、ブーンなど全く相手にもしなかったのだが。

( ^ω^)「なぁ、ショボン」
(´・ω・`)「何ですか?」

 視線を向けることなくショボンは答え、作業を続ける。

( ^ω^)「其の、研究とやらはそんなに面白いのかお?」
(´・ω・`)「其の問には以前答えた憶えがありますね」
( ^ω^)「僕は君を見る度に思うんだお」
(´・ω・`)「其れは、何故」
( ^ω^)「何故と問われても、そこまで打ち込む様を見せ付けられては、何か途轍もない魅力が
      あるのではと思わざるを得ないお」
(´・ω・`)「成る程。そこまで私に興味があったのですか」

 そう言うとショボンは手に持っていた物を置き、ずい、と近寄りブーンを見つめ頷いた。其の様子に
身震いし、ブーンは顔を背け、手を翳した。



27: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:54:47.06 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「止せ。近寄るなお」
(´・ω・`)「ハハハ、いや、冗談です。なに、私とて流石に衆道(しゅうどう)に興味などありませんよ。
      何よりそう云うのは大抵相手が少年だ。君は……なぁ」
( ^ω^)「はん、歳を食っていて好かったお」

 其の言葉に再びショボンは目を細めて笑い、うんうんと呟くと、箪笥の上に飾ってある時計の
針を煙管で差してブーンに云った。

(´・ω・`)「ところで君、そろそろこんな所で油を売っていないで仕事に戻ったらどうだい」
( ^ω^)「然(さ)こそ云え、中々此の躰が云うことを聞かなくて」
(´・ω・`)「……併し、此処にはよくあの子たちも来るのですよ」
( ^ω^)「あの子たちとは、若しやあの三人組かお」

 ブーンが云うところの三人組とは、ギコ、ジョルジュ、ちんぽっぽ、と奇天烈な名前の三人組で、
此の村の村長の子と云うことになっている。


※衆道=男色



29: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:55:43.58 ID:pvNpc7Oh0
 なっている、と云うのは、此の内ギコ、ちんぽっぽは孤児(みなしご)であったものを村長が引き取った
為である。なので、年長のギコを差し置いて嫡子(ちゃくし)は唯一血の繋がっているジョルジュとなる。
 古い慣わしに縛られて、ジョルジュに其れ相応の器が有るかの判断をせず血の繋がりだけを重視
することは愚鈍だと云う声もあるが、何分当の村長が高齢である為其れを判断出来る迄の時間が無く、
又やはり何を差し置いても自分の子と云うものは可愛いらしい。それも晩年の子ならば尚更の様だ。

(´・ω・`)「ええ、君と違って働き者の子たちですよ」
( ^ω^)「莫迦(ばか)な、あの三人組が此の様に陰気な場所に? ある筈がないお」

 そう話していた矢先、壊れん許りの音を上げて戸が開いた。見ると寝癖も其の儘に口を半開きに
してブーンを見るギコの姿があった。そうかと思うと彼はいきなり後ろを向き、大声を張り上げた。

 (,,゚Д゚)「おい、旦那がまたこんな所で怠けているぞ!」
( ;^ω^)「な、しまった……」

 ブーンとて好んで此の場所を休憩に利用したわけではない。いつもなら山に行って川辺やら
大木の木陰やらにて昼寝をするのだが、どうもツンが其れを快く思っていないらしく、近頃は
三人組をして見張りをさせているのだ。



31: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:56:36.04 ID:pvNpc7Oh0
 今日は隠れ家として敢えてショボンの家を選んだにも拘(かかわ)らず、どうも子供の行動範囲
と云うのは広いらしい。そのようなことをブーンが考えていると、外から更に溌剌(はつらつ)とした
声が聞こえてくる。

  ( ゚∀゚)「ツン姉ちゃんに云い付けに行こうぜ!」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」
 ( ;^ω^)「な、待てお!」
  (,,゚Д゚)「おっと、通せんぼだ。ブーンの旦那」

 引き止めんと立ち上がったブーンの前に、其の躰を大きく広げ(とは云え、其の身の丈四尺三寸
許りでは隙間だらけであるが)ギコが立ち塞がった。
 其の得意げな様子にブーンは諦めを付け、さてどうしたら好いものかと頭の中で言葉を捏(こ)ね回し
始めた。だが、唯の一言も考え付かぬ内に、二人の子を引き連れたツンが現れてしまった。

ξ゚听)ξ「あら、あなた。奇遇……ですね」

 何故大の男が真昼の村で此の様に汗を掻かねばならぬのかとブーンは静かに嘆いた。
射抜く様な眼差しは、幼い頃遭遇した山の主の様に鋭く、吐き出された言葉は喉元に押し
付けられた抜き身の様に冷たかった。



32: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:57:30.13 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「ツン、先ずは話し合おう。そうだ、この間欲しがっていた髪飾りはどうだお。あれをやろう。
      きっと君に似合う筈だお」
ξ゚听)ξ「ええ、頂きましょう。それで、あなた。どうして此の様な所にお出でで?」
( ;^ω^)「な、まだ足りんと云うのかお! いや、併し……あぁ、待て!」

 静かに歩み寄るツンの姿にブーンは錯乱し、尻餅をついて後退る。其れを静かに見守る子たちを、
ショボンは自らと共にそっと家の外へと運んだ。

(´・ω・`)「君達は帰りなさい。今夜悪い夢を見るよ」
 ( ゚∀゚)「承知!」
  (,,゚Д゚)「次どこ行く?」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」

 元気に山の方へと駆けていく彼等の背を眺め、ショボンは晴れ渡る大空を見上げた。其の後
頭を一掻きすると、其処に何かが乗っているのに気付いた。

(´・ω・`)「……羽根? ハハハ、彼も全身の毛を毟(むし)られなければ好いが」

 背に縋(すが)る様な悲鳴に目を閉じ、手に持っていた黒い羽根を捨てると、ショボンは火の
点いていない煙管を加え歩き出した。そして何とは無しに笑った。



34: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 01:58:23.52 ID:pvNpc7Oh0

 明くる日、再びブーンはショボンの家に行き、将棋を打っていた。とは云え将棋は御負(おま)け
の様なもので、本懐は前日が大変であったと云う愚痴を零(こぼ)すことであった。

(´・ω・`)「其れも此れも、君が真面目に働けば全て丸く収まることじゃないか」
( ^ω^)「まぁ……そう云われてしまえば、僕はただ黙るしか出来んお」

 ショボンの指した一手に、ブーンは閉口し腕を組んだ。うんうんと唸り乍ら盤を見詰めるブーンを
見て、ショボンは長くなりそうだと溜息を吐いた。

(´・ω・`)「そうだ、この間の犬の話、わかりましたよ」

 其の言葉に思考中のブーンがだらしなく相槌を打った。が、直後何の話かと思い直し顔を上げた。

( ^ω^)「犬の話? ……そのようなもの、いつ話をしたお」
(´・ω・`)「ほら、禁忌がどうのと云っていた話です。あれが僕は凄く気になって」
( ^ω^)「……あぁ。君は本当に物好きな奴だお」

 首に手を当て頭をぐるりと回すと、ブーンは大きく欠伸をした。そして再び視線を盤に戻すと
彼(あ)れや此れやと云い訳をし乍ら駒を進めた。



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