( ^ω^)ブーンと鬼のツンξ゚听)ξ のようです

69: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:21:19.50 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「ツン! おい、ツン!」
ξ゚听)ξ「……え?」

 途端、物の怪が去っていったのか其の眼に生気が宿り、其の髪もツンに従いサラサラと風に
靡(なび)くだけに為っていた。

――琳

 不意に聞こえた其れは風に乗って耳に飛び込んできた鈴の音であった。鈴の音はあの不自然な
雪の上を跳ね、ブーンに其の存在を知らしめた。其れは首輪に繋がれた鈴。そして首輪が繋ぐは
何とも知れぬ動物の遺骸(ゆいがい)。ほぼ其の原型は留めておらず、ブーンには其れが何かの
判断は付かなかったが、併し其れが何かによって喰らわれていると云うことだけははっきりと分かった。

( ;^ω^)「ツン……」
ξ゚听)ξ「……いや……違う……」

 時と云うものは何故斯くも残酷なものなのだろうか。どうして此の地に降る雪は、ただ降り積もる
だけで好しとして呉れぬのだろうか。



70: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:22:48.26 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「君は……君がやはり……」
ξ゚听)ξ「あなた……その……」
( ;^ω^)「……」

 風が止み、辺りは静かに雪が降るだけになった。そしてゆっくりと、ツンの口が開かれた。

ξ゚听)ξ「……其れは、犬です」
( ;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「御免なさい……。全て、私の仕業……なのです。私が、其の犬を喰らったのです」
( ;^ω^)「く、喰らった? ……莫迦な……どうしてだお……」
ξ゚听)ξ「今日だけではありません。昨日も一昨日も……私は犬を食らっていました」
( ;^ω^)「どうして……どうして其の様な……」   
ξ;;)ξ「……あぁ、私は、やはり化生(けしょう)なのです。私は、なんとも浅ましい化生の……あぁ!」

 嘆き崩れるツンに、呆然と立ち尽くすブーン。庭先に降る雪は確かに時を進めてはいたが、
徒(いたず)らに彼等を冷やす許りで、決して悲劇を覆い隠すことは無かった。



71: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:23:56.90 ID:pvNpc7Oh0
――冬が暮れ、浩々(こうこう)として静かな雪天(せってん)を窓から眺めては、牡丹雪の降る様に
春の訪いを予感していた。芽吹きの季節は如何な不安をも掻き消す程の生命に満ち溢れており、
やがて春が来た頃に彼等はまた二人、桜の下に愛を誓い合う筈であった。

 其れは永遠に変わらぬと思われた幾重にも重なる暮らしの一片(ひとひら)。矮小な存在にさえ
有為転変(ういてんぺん)を忘却せしむる程の甘い花蜜の香。

 併し乍ら早すぎる変異は、雪解けも待たずに忍び寄ってきていたのだ。そして芽吹いた冬の芽は
雪の許で確実に成長し、彼等からそっと春の芽吹きを奪い始めていたのだ。


※浩々=果てしなく広々としている  ※有為転変≒諸行無常



73: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:25:16.16 ID:pvNpc7Oh0


 其れからの日々、ツンは度々我を忘れて暴れるようになった。初めは数秒許りであったものが
いつしか数分、数時間、一晩と長くなっていき、次第にブーンの手には負えなくなっていった。

 そして終にはツンの変化が村に知られるようになり、ツンが隠であると噂が立つ様になった。
誰かがツンを隠であると云ったわけではない。其々の心にツンへの疑念が湧き、其れが昔からの
云い伝えと合致し、結果として村の者殆どが暗黙の内にツンを隠であると認めてしまったのだ。
 其の様な村人の意思に後押しされる様にして、終に村長がブーンを呼び出した。理由は云う迄も
無くツンの事であり、此の村から出て行って欲しいと云うものであった。

( ^ω^)「併し、僕は未だ解決策は別にあると思いますお。そう、例えば――」
   ('A`)「ならん」

 先程から幾らか案を出してはいるのだが、村長にはブーンの話を最後まで聞く様子は無く
どうにも決意は揺るがぬ様であった。



75: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:26:34.05 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「どうして。ツンは此の村の一員だお」
   ('A`)「わかっている」
( ;^ω^)「なれば!」
   ('A`)「……なれば他の者もまた此の村の一員。ブーン、儂は誰一人として傷付けたくは無い」
( ^ω^)「ツンは未だ人を襲ってないお」
   ('A`)「未だ、な」
( ^ω^)「……」
   ('A`)「ブーン、人は弱い。それも儂の様な爺ならば尚更だ」
( ^ω^)「でも……」
   ('A`)「君達が悪いんじゃない。……頼む、弱い儂等の為に、此処を離れては呉れまいか」
( ^ω^)「……頼む、なんて……」

 出て行って呉れと頭を下げられることは、ブーンにとって非常に衝撃的なことであった。
優しい拒絶は罪悪感に憎しみを生み出せず、ただ悔しさの流れる儘にするしか出来なかった。

   ('A`)「今直ぐに……とは云わん。何か人手が居るなら云って貰って構わない」
(  ω )「……解ったお。心遣い感謝しますお」

 膝に両手をつき一礼して立ち上がると、ブーンは其の儘村長に背を向け其の場を後にした。
手を掛けた戸には、夕陽の色がじわりと染みていた。



77: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:27:43.60 ID:pvNpc7Oh0
  (,,゚Д゚)「旦那! 話はもう終わったのか?」
( ^ω^)「……ギコ」

 外へ出るなり、木の枝を片手に持ったギコが目を輝かせて話しかけてきた。其の後ろでは
ジョルジュとちんぽっぽがツンと共に遊んでいるのが見え、ブーンは息が詰まりそうになるのを
感じ乍らも、ギコに向かって微笑んだ。

( ^ω^)「こってり絞られたお」
 (,,゚Д゚)「此れだからブーンの旦那は仕方ねぇ。此れじゃあ御内儀(おないぎ)さんが可哀想だ」
 ( ゚∀゚)「安心しな! ブーンが駄目でもツン姉ちゃんは俺がきちんと面倒見るからよ!」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」
ξ゚听)ξ「あら、有難う」
( ^ω^)「ジョルジュ、お前はもう少し年長者を敬うお」
 ( ゚∀゚)「歳だけじゃ敬えないってもんさ」


※御内儀=他人の奥さんを敬う言い方



78: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:28:44.16 ID:pvNpc7Oh0
 ふん、とジョルジュが鼻を鳴らしたところで、家の中から村長の三人を呼ぶ声がした。其れに従い
逃げる様にジョルジュが家の中へと飛び込んだ。
 其れを見ていたちんぽっぽは、ジョルジュの態度によって空気が悪くなると思ったのか、困った顔で
ブーンとツンの顔を何度も交互に見た後ブーンの傍に駆け寄ると、一所懸命天に向かって広げた
片手を伸ばした。

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」
( ^ω^)「なんだお?」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」

 小さく飛び跳ね乍ら先程から彼女が同じ言葉を繰り返すのは、多くの言葉を話すことが出来ない
からである。元々言葉を覚えるのが苦手なのではなく、どうやら途中で言葉を失ったらしい。其の
原因は推し量るのも野暮と云うものであるが、併し彼女には其れを補って余りある快活さがあった。



80: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:30:45.21 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「ははあ……ちんぽっぽは僕の事をちゃんと敬って呉れると云うことかお?」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」
( ^ω^)「嬉しいお。ちんぽっぽからもジョルジュによく云い聞かせてやって欲しいお」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」

 任せとけと云わん許りに大きく頷くと、ちんぽっぽは元気よく家の中へと駆けて行った。
そして始終(しじゅう)を見守っていたギコが最後に、静かにブーンに近寄ってきた。

  (,,゚Д゚)「それじゃあ旦那、お気を付けて。ジョルジュに云われっぱなしにならねぇ為にも、ここは
      一つ明日から心を入れ替えて頑張って下さい」
( ^ω^)「あ……あぁ、承知したお」

 矮躯(わいく)を折り曲げ一礼すると、ギコも静かに家の中へと入っていった。ちんぽっぽよりも
一二寸低い身の丈は、ジョルジュに比べれば更に三四寸足りぬものだが、やはり年長者は経た
歳の数だけ其れなりに礼節を知っている。或いは自分が纏め役でありたいと云う心からなのだろうか。


※矮躯=背丈の低い体



81: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:32:01.55 ID:pvNpc7Oh0
 ブーンはそうしている内に、我知らず過去にあの子等と戯れあった日々を想い始めていた。
併しツンの顔が視界に入るや否や、其れ等を振り払い、今度は気持ちを切り替える為に
短く息を吐いた。

ξ゚听)ξ「それじゃあ、帰りましょう。色々と此れからの準備もありますし」
( ^ω^)「……此れから、とは?」
ξ゚听)ξ「私は直(じき)此処を離れなくてはなりませんでしょう?」
( ^ω^)「……聞いていたのかお」
ξ゚听)ξ「いえ、聞かずとも分かります。それに誰に咎められずとも、其れに甘んじていては
      いけないと云うものです」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「長い間、本当にお世話になりました」
( ^ω^)「ツン?」
ξ゚听)ξ「幾許の心残りもありますが、また元の生活に戻るだけと考えれば、思い出の数だけ
      前よりも私は幸せです」

 斜陽を背に微笑むツンの姿は、此れ迄に無いほど心許なく見えた。此の儘日が沈んで
しまったら果たして明日は来るのだろうかと、そう思わせる程に。



82: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:32:58.10 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「何を、云っているんだお……」
ξ゚听)ξ「言葉の通りです」
( ^ω^)「ツン……」

 其の時全てが自分から消え失せ往く様な錯覚にブーンは恐怖した。併し其の不安に抗う為、
ブーンは強い口調でツンに云った。

( ^ω^)「本当に此処を離れる積りなのかお」
ξ゚听)ξ「……はい」
( ^ω^)「……それならばツン。二度と其の顔を僕に見せないと約束するお」
ξ゚听)ξ「……はい。約束……しましょう」

 俄に曇るツンの表情を見てブーンは表情を和らげると、ツンの肩にぽん、と手を置いた。



83: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:33:55.05 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「じゃあさっさと引越しの準備をしに帰るお。いやなに、僕も一度静かなところでのんびり
      過ごしたいと思っていたところだお」
ξ゚听)ξ「……はい?」
( ^ω^)「君の悪い癖だお。心の中は悲しい癖に無理矢理笑う。其の様な偽りの顔、僕に二度と
      見せるなお。僕には何も力になれないのかと、寂しい気持ちになるお」
ξ゚听)ξ「あ――」

 西日の射したツンの顔が更に紅く染まり、気付けば彼女は驚いた顔の儘ほろほろと涙を流していた。
そして終には滔々(とうとう)と涙に暮れてしまった彼女は其の後、陽がすっかり沈んでしまってもブーンの
胸の内から離れることは無かった。


※滔々=とどまることなく流れるさま



85: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:35:26.98 ID:pvNpc7Oh0

 引越しの準備は万事恙(つつが)無く進んでいた。村の者には全て事情は伝わっており、あの子等
にはツンの療養の為の転地であると伝えた。渋い顔をしていた彼等も、ツンの事を思い不平を口に
することは無かった。

 新居は山の奥深く。人も稀々(まれまれ)で子等の近寄れぬ所にあった小屋に、幾らか手を加えて
住む事になった。決して住み心地がいいとは云えぬ環境であったが、二人にはあまり関係が無い様
であった。まるで幼い頃に返った様だと笑いさえしたのだ。

 其の様な日々の中でブーンは自ら吐いた嘘である療養と云う言葉に、また自ら納得していた。
若しや人里離れて暮らしていれば、本当にいつかツンは治るのではないか。何も心配せず暮らして
いたあの日々が戻るのではないか。此の頃になるとブーンは毎日の様にそう思っていた。


※稀々=ごくまれなこと



87: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:36:40.05 ID:pvNpc7Oh0
 そして、いざ引越しを明後日に控えた晩。村長が折角だから宴を開こうと云ったのをブーンは
断り、ツンと二人静かに家で過ごしていた。
 静かな夜は否応無しに此れ迄の生活を振り返らせ、また此れからの生活に想いを向かわせる。
一言も交わされる言葉は無く、併し沈黙は身を刺す様に辛かった。

( ^ω^)「……今日は、明日に備えてもう寝るお」
ξ゚听)ξ「はい」

 残り少ない我が家での夜だと云うのに、たった其れだけの言葉を残して二人は蒲団の中へと
潜っていった。



91: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:46:39.25 ID:pvNpc7Oh0
 ブーンは蒲団の中で此れからの事について考えていた。
 やはり不安はあった。此れから先、ツンが鬼と為った儘戻らなくなることが無いとも限らない。
其の時一体自分はどうすれば好いのだろうか。思う気持ちだけでは彼女を救うことが出来ない。
手を伸ばせば届く位置に居る彼女だが、全身で彼女を包み込んだとしても救うことが出来ぬのだ。

( ^ω^)(……いかんお)

 暗闇は心を不安にさせる。外から与えられる刺激が少なくなると、自然と内なる刺激を求めて
考え事に嵌(はま)ってしまう。ブーンは纏わり付く厭な思考を振り払う様に寝返りを打った。

 其の寝返りを打った先、目の前に疎(おろ)見える白い塊があった。目を凝らしてみると、其れは
折り曲げられた膝であり、白を辿り見上げた先には寝衣(しんい)よりも尚白いツンの細面(ほそおもて)
があった。


※疎見える=ぼんやりと見える ※寝衣=寝間着



93: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:48:41.25 ID:pvNpc7Oh0
 視線の合わぬ儘にツンはやおら三つ指をつくと、深くそして緩やかに音も立てず頭を下げた。
其の姿は、寝衣姿だと云うのに宛(さなが)ら豪奢な振袖を着ているかの様な荘厳さを纏っており、
思わずブーンは、ぐっと息を飲んだ。
 やがて静々(しずしず)と顔を上げたツンの表情は、眉から目、頬、口の端に至るまでが其れ迄
人に感じたことの無い美を感じさせ、其の放つ気高さにブーンは思わず茫(ぼう)としてしまう。

( ^ω^)「……夜更けに其の様に改まって、どうしたんだお」
ξ゚听)ξ「……」

 ツンの瞳は暗夜と同じ深い黒色にも拘らず、まるで夜の入り江に流れ着いた二つの黒真珠の様に
決して周りに溶けることなく其の輪郭を保ち、又しっとりと濡れた儘ブーンを見詰めていた。


※荘厳=重々しく、おごそかで気高い様 ※茫と=ぼうっと



95: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:50:36.70 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「私は幸せでした」
( ^ω^)「……何」
ξ゚听)ξ「貴方様に添わせて戴くことが出来て、本当に幸せでした」
( ^ω^)「……ツン? 一体どういうことだお」

 暗闇の中を惑う二対の瞳は、併し言葉とは裏腹に其の意する所を理解していた。今其の口から
放たれるは確認の儀であり、そうあってはならぬと云う儚い人の想いを留める錆びた鎹(かすがい)
である。

ξ゚听)ξ「本当に……」
( ^ω^)「……止めるお」
ξ;;)ξ「本当に幸せでした」
( ;^ω^)「ツン!」

 見るとツンの髪はゆらゆらと白く仄輝き、其れに呼応するかの様に涙に濡れる瞳は、水へ油が
混ざっていくが如く、深い黒色が粘稠(ねんちゅう)な金色に侵されていく。


※粘稠=粘り気があり、密度が濃いさま



97: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:52:38.48 ID:pvNpc7Oh0
ξ;;)ξ「……あァ……ァァ……」
( ;^ω^)「ツン!」
ξ;;)ξ「!」

 呼号一声。ブーンは乱暴にツンの肩を掴み、二三度揺さぶると其の儘躰をきつく抱きしめた。
明らかに変異が始まっていた。今彼女が鬼に為ったとして、次戻るのはいつなのだろうか。否(いや)、
果たして戻るのだろうか。其の様な不安がブーンを掻き立てる。

( ;^ω^)「往くな。もう僕を置いて往かないで呉れお。そんなに何度も僕は……」
ξ゚听)ξ「ブー……ン……」

 そしてやおら其れに応える様にブーンの背中へと回されたツンの手であったが、本人の意思とは
逆様(さかさま)にいつの間にか伸びていた鋭利な爪を以って其の肉を傷付けていく。
 併し、縦令着物に赤い染みが滲もうともブーンが苦痛や不平に声を漏らすことは無かった。


※呼号=大声で呼ぶこと



99: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:54:25.18 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……ツン」
ξ゚听)ξ「ブーン……あァ……御免なさい」
( ^ω^)「大丈夫だお。だから、もっと躰を預けて欲しいお。何があっても絶対に離さないお」

 其の名を呼ぶほどに、ブーンは心の中でツンに対する愛情が膨れ上がっていくのを感じていた。
そして其れは抑えられぬ衝動となり、よりツンを抱きしめる手に力が篭る。併し其れと同時に背を刺す
痛みもまた大きくなっては、じっとりと着物が張り付くのを感じ、どうしたものかと遣り切れぬ思いで
頭がおかしく為りそうであった。

ξ゚听)ξ「ブーン……お願い……離さ……ないで」
( ^ω^)「ツン、大丈夫だお。僕はここに居るお」

 言葉は併し儚く、錆びし鎹は頼りなく、其処に心を繋ぎ安心せしむる程の力は到底無かった。
其れを二人は何より緊々(ひしひし)と感じており、其の身を取巻く不安を如何にして消さんと
思い乍らもただ抱き合っていた。



101: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:56:11.91 ID:pvNpc7Oh0
 暫時(ざんじ)して、今までブーンが抱きしめていた柔らかな躰が、其の熱を残してゆるゆると離れた。
するとツンは不意に其の身を纏っていた寝巻きの前を開(はだ)けさせ、鋭利な犬歯を覗かせ乍ら云った。

ξ゚听)ξ「最後の、我が儘です……私が、私が消えてしまう前に……どうか……」

 言葉尻を浮かせた儘視線を向けるツンの其の肌は、仄明かりの下でも絹の如く滑(すべ)やかに見え、
また熱を帯びて紅く色付いた様は扇情的な魅力に満ちていた。光と影、山と谷。其の滑らかな起伏の
一つ一つにブーンの目を惹き付けて止まぬ艶があった。

 然れども尚、其の視線に対し面映(おもはゆ)さを微塵も感じていないかの如く見詰め続けるツンの
眼差しに、ブーンは其の真意を一瞬計り兼ねた。


※面映さ=決まりが悪い様、照れくさい様



105: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 02:57:47.28 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」

 だがブーンは其れを確かめようなどとはしなかった。ただ心の赴く儘に、右手をツンの頬に当て
其の唇から覗く犬歯を親指の腹で優しく撫ぜると、其の儘ゆっくりと唇を重ねた。

 一度唇を重ねてからは、其の柔らかな感触に思考が侵され、ただ快楽へと転がり落ちていく。
 夜を乱れる吐息の中で、重ねられた唇は其の後何度も離れては付き、離れては付きを繰り返し、
互いが其の内側にある何かを欲し続けた。やがて口内から誘い出されたかの様に舌が現れ、
うねり、絡み合い、真赤な唇を粘つく唾液でしとどに濡らし乍ら、其処彼処(そこかしこ)を暴れまわる。

 そうして舌から送られてくる刺激に頭が慣れてきた頃、二人は口を離しもう一度見詰めあった。
 ツンの其の斑に金色の混ざる潤んだ瞳や、てらてらと艶めく犬歯、それに何かを堪える様な
其の悲痛な面持ちに、ブーンは不謹慎だとは知りつつ、此の上ない色気を感じていた。
 短く漏れる熱を帯びた甘やかな吐息も、しがみ付く様に袖を掴む其の仕草も、呼吸をする度
上下する肩から鎖骨にかけての動きも、どれも全てがブーンを捕らえて離さなかった。


※しとど=ひどくぬれるさま



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