( ^ω^)ブーンと鬼のツンξ゚听)ξ のようです

14: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:14:04.31 ID:pvNpc7Oh0
    鴉 『怨ミニ報ユルニ徳ヲ以テス。我乍ラ……』
ζ(゚−゚ζ『……黙れ』
    鴉 『好イ好イ、感涙ニ咽ブガ好イ』
ζ(゚−゚ζ『黙れ、下郎が……反吐が出る』

 殺気立っていく二人とは対照的に、僕は何が起こったのかと理解に努めるのに精一杯でした。
併し乍ら、先程までデレの傍に居たツンが突如消え失せ、そしてデレが静かに色を作(な)しつつ
あるのを見ると、何か悪い予感に寒気を感じました。

    鴉 『分ヲ弁エロ、鬼ヨ。貴様ノ可愛イ子ハ我ガ手中ゾ』
ζ(゚−゚ζ『……殺してみよ』
    鴉 『……何?』
ζ(゚−゚ζ『汝、今迄に鬼を封じたことはあるか?』

 すると地を這う様な声を発するデレがいつの間にか、夕陽には決して混じらぬ薄い衣の様な青白い
光をゆらゆらと其の身に纏っていたのです。時が違えば其れは天女の衣にも見間違えたでしょう。
併し乍ら其れが禍々しく見えたのは、辺りを取巻く不穏な空気に因るところに他なりませんでした。


※色を作す=怒って顔色を変える



16: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:15:58.86 ID:pvNpc7Oh0
ζ(゚−゚ζ『否、訊く迄も無い。貴様が産まれて四百余年、其の様な隠は居ない』
    鴉 『我ハ勝(すぐ)レタル統治者ナレバ其モ亦(また)然リ』
ζ(゚−゚ζ『……空(うつ)けが。目に物見せて呉れる』

 そう吐き捨てると、デレは膝を突いていたのが嘘かの様にすっくと立ち上がり鴉を見据えると、
突如其の姿を消しました。
 そして間を置かず空から轟音。見ると先程まで鴉が止まっていた大木が見事に折れ、隣の木に
凭(もた)れ掛かろうとしていました。
 何が起こったのか全く分からずただ狼狽える僕を置き去りにして、何処からとも知れず彼等の
会話だけが聞こえてきました。

ζ(゚−゚ζ『先代はそこまで腑抜けでは無かったぞ!』
    鴉 『逆上(ノボ)セタカ! 苟(イヤシク)モ我ヲ倒シタトテ何ガ残ル!』
ζ(゚−゚ζ『何も残らぬ。此の身を縛ル鎖も、忌々シイ監視の目もナ!』
    鴉 『隠ガ何故隠タルカ、鬼ガ何故封ゼラルルカ。貴様ハ失念シタカ!』
ζ(゚−゚ζ『何故私が其レに従わなくてはナラヌ。何故其レは延々と変えられることナク続いたのダ。
      貴様ハ唯見テイタダケノ空ケ者ダ!』


※苟も=仮にも



17: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:18:05.43 ID:pvNpc7Oh0
 デレの語気が荒々しく、また其の声質も奇異なものへと変化した瞬間、辺りが一瞬光ったかと思うと
再び轟音が地を裂きました。此れは比喩でもなんでもなく、目の前の大地が乾いた粘土の様に裂けた
のです。
 唖然とする僕の視線の向こう、其の地割れの先に、仄光るデレの姿がありました。デレは此方を
向いて直立不動でしたが、僕を見ている風ではありませんでした。そして何より驚いたのが其の目の
色でした。

 虹彩はいつか見た緋色に間違いなかったのですが、其の内、瞳孔が琥珀色に変わっていたのです。
其の異質な眼光が若し此方を見たならと、相手がデレであるにも拘らず僕は震えを禁じ得ませんでした。

ζ(゚−゚ζ『鴉! 我ガ子ヲ返セ!』
    鴉 『鬼ガ我ニ楯突(たてつ)クト云ウノカ。我ハ鬼ヲ封ズル者ゾ!』

 依然として何処に居るかは分からない鴉でしたが、併しデレ目掛けて次々に辻風(つじかぜ)が舞い乱れ、
岩が飛び、木が倒れる様を見るに、何か鴉にも途轍もない力があることは解りました。
 併し見ている限り其れはデレの命を脅かす程のものではなく、程なく勝負の雌雄は決し、其の軍配は
デレに上がるだろう。そう思っていました。現に鴉の声音は次第に力無いものと為っていましたし。


※辻風=つむじかぜ



18: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:20:00.76 ID:pvNpc7Oh0
 が、勝負はここで僕と云う男の存在に因って急展開を迎えます。

 固唾を呑んで勝負の行く末を見守っていた僕の頭上を長い影が蔽ったのです。何事かと見上げると、
其れは今にも僕を下敷きにせんとする巨木でした。此の様に激しい戦いが行われているのだから
其の迸(とばし)りを食うのは予想が出来た筈でした。此れが出来なかったことが僕の一つ目の失敗でした。
 そして二つ目にして最大の失敗が、此の時逃げることを忘れ声を上げてしまったことです。困難や
危機を前にして声を張り上げるだけでは不幸は襲い掛かるのを止めません。僕の前に降りかかった
危機は声を上げることによって回避することが出来ましたが、併しやはり不幸は回避できませんでした。
 回りくどいことを云っていますね。申し訳ないです。併し、此の時の事を思い出すと何故か頭が混乱して
しまうのです。

(;´・ω・`)『……』
ζ(゚−゚ζ『……何と、云うことだ』

 あれほど遠くに居たデレが、今僕の目の前で巨木を支えて立っていました。それも差し向かいで。
詰まるところ、倒れてきた巨木は僕が声を上げることで駆けつけたデレに依って食い止められたのです。
 体験者の僕にとっては其の瞬間がとても長く感じられました。まるで飛び掛ろうとする獣の、
其の脚の溜めの様に、時間が次の瞬間へ進む前に一度止まったのです。


※迸り=巻き添え



20: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:22:19.09 ID:pvNpc7Oh0
 其の後、跳ね除けられる巨木がデレの手を離れた瞬間、鎌鼬(かまいたち)がデレの顔面を掠めて
飛んで来て、あろうことか巨木と共にデレの右腕までもが離れてしまったのです。
 そして痛みに加え、其の傷口から溢れた血潮が眼にかかったことにより、デレは思わず目を瞑って
しまったのです。

ζ(-、-;ζ『ッ!』

 一瞬の出来事でした。併し僕が其の出来事を見間違いか否か判断するよりも早く、鴉は叫んだのです。

    鴉 『鬼ノ眼ハ封ゼラレタ! 山ノ神ヨ、今此処ニ山ノ安寧(あんねい)ヲ紊乱(ぶんらん)スル鬼ヲ
       差シ出ソウ! 現レヨ! 山ノ神ヨ!』

 耳障りな声だと僕は其の時始めて思いました。一瞬にして右腕を失い、苦悶の表情で蹲ろうとする
デレを見乍らも、併し僕は何をして好いか全く分からず、ただ目の前の光景が現実であるかどうかの
判断に追われていました。


※安寧=平穏無事なこと ※紊乱=秩序、風紀などが乱れること



23: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:24:19.73 ID:pvNpc7Oh0
 そして、突如躰を引き裂かれん許りの激しい地鳴りが起きました。時間にして四五秒程度でしょうか。
併し其の僅かの間にデレはいつの間にか地面に大の字になっていました。一目見るに決して其の姿は
自発的なものではなく、宛ら磔刑(たっけい)を受ける下手人の様でした。

(;´・ω・`)『デレ!』

 慌てて僕はデレに駆け寄ったのですが、デレは其の様な僕を見ることもなく、また起き上がろうと
することもなく、ただ空の上を見詰めていました。其の眼の色は朱を帯びようとも先程と変わらず
でしたが、併し其の眼差しは随分と弱々しいものでした。

(;´・ω・`)『デレ! 大丈夫ですか?』
ζ(゚−゚ζ『ショボン? ……まさかな、死に行く幻でも見ているのか』
(;´・ω・`)『……』
ζ(゚−゚ζ『まったく……此の期に及んで其の様な顔をするな』

 平然と僕に答えるデレは、僕の記憶の儘何事にも動じぬデレの儘でした。何と声を掛けたら
好いか。腕はやはりデレの躰から途切れていましたが、出血は不思議なことに既に止まって
いるようでした。


※磔刑=はりつけの刑



24: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:26:07.60 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)『とにかく傷の手当てをしましょう。今すぐ町へ降りて……』
ζ(゚−゚ζ『……無駄だ。後ろを見よ』

 云われる儘に振り向いた其処に、森の木々よりも、否、其の奥に連なる山々よりも巨大なものが
静かに横たわっていたのです。其の容姿は何とも形容し難いものでした。見たときは紅く仄光る
粘液であったのですが、時に其れは透き通り、併しそう思ったときには透き通っておらず、時に
深みの有る臙脂(えんじ)色になり、併しそう思ったときには其の色も僅かに分かる程度の鴇(とき)色
をしている。其の様な奇怪な現象の塊が其れであったのです。

/ ,' 3 『鬼よ。其の命、貰い受けに来たぞ』

 柔らかな声は辺り一帯から湧き出る様にして耳へと飛び込み、躰中から力を奪い去っていくのを
感じました。未だ全てを把握したわけではなかった僕でしたが、目の前の強大な存在と、其れに今
掻き消さんとされるデレの存在があることは理解できました。



26: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:27:59.63 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)『何故デレを連れて行こうとするのですか!』
 / ,' 3 『……私は呼び出されたまでだ。山の安寧を望む者の声を聞くのみ』
(´・ω・`)『ですが!』
ζ(゚−゚ζ『ショボン』

 声を荒げ反論せんとする僕でしたが、デレに名を呼ばれ思わず言葉を飲み込んでしまいました。

ζ(゚−゚ζ『……ショボン、もうよい。鴉を殺しでもせん限り、山ノ神は帰らぬ』

 其の時のデレの表情は僕にとって耐え難いものでした。柔らかく、そして儚い其の表情を見て、
僕の中のデレが揺らめき、消え去っていきそうになりました。



27: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:30:10.83 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)『好いものか! 僕は絶対にデレを渡さない。此れから僕はあの日の罪を、君に対して
      償なっていかなければならぬのです』
 / ,' 3 『さすればどうする。お前が鬼を屠(ほふ)るか』
(´・ω・`)『何故僕が彼女を屠る必要があるのですか』
 / ,' 3 『好いか。鬼は鬼だ。死人が死人の運命を避けられぬ様、鬼も鬼の運命に従うしかないのだ』
(#´・ω・`)『彼女を愚弄するな!』
 / ,' 3 『……何と云われようと最早手遅れだ。鬼を見よ』

 苛立ちを胸に抱え乍らも僕は云われる儘にデレの方を見ました。すると彼女の足先から臍の辺り
迄が山ノ神と同じ色、質感を持った粘液に塗れていたのです。併し其れ以上に僕を驚かせたのは
其の粘液が彼女を消化していたことです。
 どろどろと彼女を足先から飲み込んでいる其の粘液は僅かに透けていたのですが、其の奥、
其処に有る筈の彼女の膝から足先にかけてが全く見当たらないのです。



28: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:32:04.00 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)『デレ!』

 慌てて駆け寄り其れを退けようとしてみたのですが、幾等掴めどもまるで追いつかず、気付けば
更に其れはデレの躰を這い上がり次々にデレを消化していっているのです。

(;´・ω・`)『何故! 何故!』

 狂乱し、未だ残るデレの躰をしっかと其の手に掴んだのですが、確かに掴んでいる筈の掌は
併し何もデレの存在を伝えては来ませんでした。眼では掴んでいるのに、掌では掴んでいない。
其の様に奇妙な感覚に、僕は更に心の中を掻き乱されました。
 併し取り乱す僕とは対照的に当のデレは酷く落ち着いた様子で僕に視線を向けてきました。

ζ(゚−゚ζ『……ショボン』
(;´・ω・`)『デレ……僕は……』
ζ(゚−゚ζ『……もうよい、ショボン。畢竟(ひっきょう)するに、之は鬼が得る天命だ。……併し、
      罰を与うる天在るならば、どうかあの子だけは幸せにと、そう願いたいものだ……』


※畢竟=色んな経過を経ても最終的には、結局



29: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:34:06.26 ID:pvNpc7Oh0
 そう云って再び天を仰ぐデレの顔を見て、僕の心は躰から完全に乖離し指一本ぴくりとも
動かなくなってしまいました。デレの其の表情は、終ぞ見たことの無い表情であったのです。

ζ(゚−゚ζ『ショボン……何を泣いているのだ』
(´;ω;`)『泣いてるのはデレだって同じじゃないですか』
ζ(゚−゚ζ『……私が?』

 頬に一筋の涙を流し乍らデレはきょとんとした顔で僕を見て、瞬きをすること数回。右、左、と
首を動かさずに視線を泳がせ、再び視線を僕の方へ向けました。

ζ(゚−゚ζ『そうか、私は泣いているのか』
(´;ω;`)『……』
ζ(゚−゚ζ『ショボン』
(´;ω;`)『なんですか?』
ζ(゚−゚ζ『好いものだな。家族と云うのは』

 即座に僕は其れを否定しようとしました。デレは未だ『家族』を何一つとして享受していない。
更に好いと思えるものが数え切れぬ程ある筈だ、と。



31: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:36:07.53 ID:pvNpc7Oh0
(´;ω;`)「デレ――」

 併し其の瞬間には既にデレは目の前から消え失せていました。後に残ったのは露に濡れた青草と、
切り離されたデレの一部のみでした。

(´;ω;`)「……デレ、僕は……」

 静かな空間で一人、僕はデレの温もりを求めて其れを拾い上げると胸に掻き抱きました。
そうしてデレの声や表情を思い出すこと幾許。今となってみると我乍ら正気の沙汰とは思えませんが、
僕は其れを持ち帰りました。気持ち悪いと思って戴いても構いません。当時の僕は其れでしか
心の均衡を保てなかったのですから。

 其れから後、僕は唯々隠の研究に没頭しました。隠は鬼に為り得る、其れを抑制する者が居る。
鬼に為った者は山ノ神の元へ。色々な事が分かり始めました。

 そしていつの間にか月日は流れ、噂に流される儘に辿り着いた村で君と出会った――



32: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:38:28.25 ID:pvNpc7Oh0

(´・ω・`)「以上が僕の体験した全て。隠であるツンの母、鬼に為ったデレについてのことです」

 しん、と静まり返った空気は、ブーンに何か言葉を求めていた。併しいきなり其の様なことを
聞かされて何を話せばよいと云うのか、ブーンは未だ其の言葉が見つからなかった。

(´・ω・`)「一つ、はっきりさせておきましょう。ブーン、君が見たツンの瞳は金色でしたか?」
( ^ω^)「……お。金色に近い、琥珀色であったお」
(´・ω・`)「其れは、内側でしたか。それとも外側でしたか?」
( ^ω^)「外側だお」
(´・ω・`)「やはりそこに関係があるのか……」

 低く呟きショボンは質問を続けた。

(´・ω・`)「それで、彼女は今何を為出(しで)かしましたか」
( ^ω^)「人を……殺したお」
(´・ω・`)「此れから先、其の様な事態が絶対に起こらないようすることが、君には出来ますか?」
( ^ω^)「……」

 未来の事柄に対して絶対を保証できる者など居るわけがない。ショボンも其れを把握し乍ら
此の質問をしたのだが、其れ以上にブーンは未来に自信が無かった。特に今の鬼の話を聞けば
尚の事であった。



35: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:39:56.67 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「無言、ですか。……ならば僕は鑑みるに結論をこう下します。山ノ神を呼ぶべきだ、と」
( ;^ω^)「なっ! 莫迦なことを云うなお! ツンは、君の娘なのだろう? 手放したくないと、
      そうは思わないのかお!」
(´・ω・`)「……血の池で溺れる我が子を見、其の存在を確かめることで自らの心を満たす。
      其の様なことは僕には出来ません」
( ;^ω^)「ならば助ければ好いお!」
(´・ω・`)「……物事を研究したとして、必ず幸せな答えが出てくるとは限らないのです」
( ;^ω^)「何を……」
(´・ω・`)「大昔から在る習慣は改善されていないのではなく、改善する余地が無かったのです」
( ;^ω^)「君は、ツンに死ねと……死ねと云うのかお」
(´・ω・`)「……僕は人様を殺してしまった娘の親として、責任を取らなければいけません」

 云って、ショボンは懐から折り畳まれた薬包紙を静かに取り出した。



37: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:42:06.18 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「或いは、今の大人しい儘の彼女ならば山ノ神を呼ばずとも……」
(#^ω^)「君は――!」

 其の言葉にブーンは憤激し、勢いよく立ち上がるとショボンの手に有った包みを叩き落した。

(#^ω^)「君は一体何の為に今まで研究をしていたのだお! 此の子を、ツンを救う為では
      なかったのかお!」

 一方でショボンは床に落ちた包みを茫と見詰め乍ら、視線を向けずに呟いた。

(´・ω・`)「……此の子は孰れ正気を失います」
( ^ω^)「……何?」

 ショボンは包みを拾い上げ汚れを払い落とすと、再び懐に仕舞いブーンへ視線を向けた。



40: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:44:09.78 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「其の時、君はツンに殺されるでしょう。そしてツンはあらゆる者をも殺すでしょう。
      其れを一体誰が望むと云うのですか?」
( ^ω^)「併し、何故正気を失うと云い切れるのだお。現に今ツンはとても大人しいお」
(´・ω・`)「ええ、此の状態が続けば其れは其れで好いでしょう。併し、ツンが再び鬼に為らない
      と云う確証は無く、また鬼に為ったとして其れを解決する術が君には有るのですか?」
( ^ω^)「だが為ると云う確証も無いお」
(´・ω・`)「君らしい危弁だ。為ることに確証は要りません」
(#^ω^)「だからと云って今大人しい彼女をどうにかするのは間違っているお!」
(´・ω・`)「鬼に為ってからでは遅いと、先程から僕は何度も云っている筈ですが」

 ショボンの冷静な態度にブーンの顔は怒りで見る見る赤くなっていった。ブーンも云われている
ことが正論であると頭では分かっているのだが、だからこそ余計に腹立たしくもあった。

 詰まり、自らの感情は道理から外れており、ツンを救う手立てがまるで義に適わないと云うことを
示していたからである。



41: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:46:06.37 ID:pvNpc7Oh0
(#^ω^)「僕は――」
     「――夜分遅くに済まん。少し尋ねたいことがあるんだが」

 尚も抗おうとした其の瞬間、突然第三者の声が飛び込んできた。其れは戸の向こう、外からの
声であった。ショボンはブーンに目配せをして戸に近寄ると、咳払いを一つした。

(´・ω・`)「今は、取り込んでいます。明日の朝にはならないでしょうか」
     「あぁ、あんたの話は明日の朝でもいいだろう。併し其処に居る二人は今直ぐに引き渡して
      貰えんと、あんたもどう為るか分からんぞ」

 低い男の声は怒りを帯びている様にも聞こえた。男が何を望んでいるかは容易に分かった。
恐らくは先のツンの凶行を目撃したのだろう。となると踏み切るのに時間が掛かったのは手当たり
次第に人を集め、今捕縛する積りなのだろう。そう考えた途端にブーンにはまるで家を取巻く人の
息遣いが聞こえてくるようであった。



42: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:48:03.01 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「……見られていたのか」
( ;^ω^)「ショボン……」
(´・ω・`)「君は其の子を連れて逃げなさい。ほら、君達の履物だ」
( ;^ω^)「併し逃げると云っても……」
ξ゚听)ξ「ねぇブーン、行こ」
( ^ω^)「……ツン?」

 いつの間にか奥の間から姿を現していたツンがブーンの袖を引っ張っていた。

( ^ω^)「ツン、行こうにも皆が囲んで通せんぼしてるんだお。僕が出て行って話をしてくるお。
      だから――」

 そこまで云った時、ブーンは急に頭の上から何か巨大なものによって抑え付けられたかの様な
激しい圧迫感を受けた。地面に埋まったのではないかと云う予想が瞬時頭を駆けたが、気付くと
其れとは逆にブーンは屋根の上に居た。
 そして次に襲ってきた感覚はふわふわと落ち着かない浮遊感であった。併し其の全ての理由は至極
簡単であった。単にツンがブーンを担いだ儘天井を破り、屋根の上に飛び上がったのである。



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