( ^ω^)ブーンと鬼のツンξ゚听)ξ のようです

44: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:50:02.06 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「ツン、一体何をどうして!」
ξ゚听)ξ「ツン、いしあたま」

 いつの間にか頭に木っ端を被っていたツンは、短く答えると断続的に跳躍し乍ら屋根を渡って行く。
隠の夫は代々担がれる運命にあるのかと皮肉を心中で唱え乍らも、ブーンは移ろい行く景色を唯
目で追っていた。

 暫くして立ち止まったツンは、後ろを振り返ると方向を直角に変えて跳躍、地面へと降りた。
腹にツンの肩がめり込んだブーンは短く身を悶えたが、いつまでも乗っているわけにはいかぬと、
直ぐに地面に降りた。すると何を思ったか、ツンが気色も優れぬブーンの背中に飛び付いた。

ξ゚听)ξ「こんどは、ブーンのばん」
( ;^ω^)「……まったく、何が何やら」

 ブーンは腹に響く痛みが引くのを暫く待っていたかったが、近づいてくる怒号を背に感じると
直ぐ様ツンを背負って走り出した。



45: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:52:00.69 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「いけー」

 腹の痛みを感じつつ走り乍ら、併しブーンは不思議と幸せを感じていた。
 状況は悪(あ)し。此の先に待っているのはまるで悲劇しかないと予想出来る。併し今此の瞬間、
ツンを背に走り、ツンの喜ぶ声が耳朶を擽(くすぐ)っている此の瞬間は、確かに幸せであると
ブーンは感じていた。

( ^ω^)「ツン、もっと速くするかお?」
ξ*゚听)ξ「うん! はやく!」
( ^ω^)「確(しっか)り掴まっているんだお! ほら、ブーン!」
ξ*゚听)ξ「わー!」

 ずっと走り続けられたなら。そう思わずには居られなかった。



48: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:54:15.86 ID:pvNpc7Oh0

 どれだけ走っただろうか。いつの間にか追っ手の声は聞こえなくなっていた。其れに気付き
走ることを止めると、背に乗るツンの立てる寝息が聞こえてきた。
 寝息が聞こえる程に静かな村の外れは、まるで此の世に二人だけになってしまった様に
感ぜられ心の休まる思いもしたが、併し同時に何処か心悲(うらがな)しい思いが滲んできた。

 だがブーンは決して後ろを振り向くことなく歩き続けた。勿論、今はそうするより他なかったからだ。
そうして前を見て歩き続けたブーンだが、ふと前方に仄暗い人影を見つけ立ち止まった。人影は、
声を上げるでもなく、腕を広げるでもなく、ただ静かに見詰めるだけで彼の行く手を阻んでいる様で
あった。

 ('、`*川「……」
( ^ω^)「……」

 此の様な夜更けに村の外れに居ると云うことは、彼女もブーンを探している一人なのだろうか。
ブーンは探る様にして言葉を吐く。



49: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:56:11.70 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「夜更けに一人、かお」
 ('、`*川「……えぇ」

 其れ限りまたお互いに黙ってしまう。先程までは気付かなかったが吐息は目に見えて白く、ブーンは
いつの日であったかこうして二人向かい合った日を思い出していた。

( ^ω^)「結局、君には最後まで許してもらえなかったお」
 ('、`*川「……」
( ^ω^)「出来るなら、一度しぃとも会って一言謝りたかったお。併し、もう其れも叶わなそうだお」
 ('、`*川「えぇ、そうですね」
( ^ω^)「……それじゃあ、僕は此れで失礼するお。風邪を引かぬよう早く帰るんだお」

 話が稚児(ややこ)しく為る前にと、そう云ってブーンが横を通り過ぎんとした将(まさ)に其の時、
視線一つ動かさず彼女が呟いた。


※将に=今にも



51: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:57:53.39 ID:pvNpc7Oh0
('、`*川「私が今あなたを見つけたと声を上げることは簡単です」

 ぴたり、とブーンの歩が止まった。やはり彼女も全ての事情を把握している一人であったのだ。
今すぐ駆け出そうか、或いは其れと無く説得してからの方が安全だろうか。ブーンは俄に思考を
巡らせた。

 ('、`*川「ですが私は簡単で済ませる積りはありません」
( ^ω^)「……どういうことだお」
 ('、`*川「今あなたに鉛の楔を打って、私の中の怨恨の区切りとします」
( ^ω^)「……」

 びゅう、と北風が地面の粉雪を巻き上げた。位置を入れ替えて再び相向き合った二人。
はためく着物の裾と袖を軽く押さえ乍ら、ゆっくりと、唇の動き一つ一つに注意する様に、
彼女は云った。



53: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 21:59:58.79 ID:pvNpc7Oh0
('、`*川「しぃは、死にました」

 舞い上がった粉雪が、はらはらと二人の間に降り、やがて辺りは寂寞(せきばく)として音も無くなった。
背中から全身を包み込まんとする寒気が走ると、心臓が一回大きく跳ねる。ブーンは目眩を起したが、
倒れまいと地面の在り処を必死で足の裏で確かめ、踏み留まった。

( ;^ω^)「いつの……ことだお」
 ('、`*川「未だ雪の降る前、秋の中頃です」
( ;^ω^)「そんな……随分と前の事じゃないかお……」
 ('、`*川「服毒自殺でした。気付いた時には、既に……」
( ;^ω^)「いや併し、しぃは僕に葉書を寄越しているお。此れでは辻褄が……」

 ふと、ブーンの中に残っていた違和感が芽を出した。しぃにしては綺麗であったあの字は、果たして
しぃのものであったのか。こんなにも短期間で字が綺麗に為るなどと云うこと自体おかしくないか。


※寂寞=ひっそりとしてさびしいこと



55: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:02:05.67 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「まさか……あの葉書は……」
 ('、`*川「私が書きました。……あなたが、しぃを忘れない様に」

 途端ブーンの中で保っていた平常な心が崩れ落ちた。しぃの笑顔と共に無尽蔵に罪悪感が
湧き出てくるのを感じていた。胸を締め上げる痛みが呼吸を縛り上げ、見た筈の無いしぃの
亡骸が瞼の裏に浮かんでは消える。

( ;^ω^)「僕は……」
 ('、`*川「さようなら。あなたは、お元気で」

 そう云い残して可憐な復讐者は姿を消した。
 自らの選択に何か間違いがあったのか。ツンと幸せに為ることは許されることではないのか。
今、自分は非道を歩んでいるのか。ブーンは此れからの行いに対して一切の自信を失ってしまった。



56: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:04:03.72 ID:pvNpc7Oh0

ξ-听)ξ「……ん、ブーン」
( ^ω^)「……おはよう」
ξ゚听)ξ「おはよう」

 ツンが目を覚ました時、二人は山の雑木林に居た。ただ静かな風が吹くだけで、追っ手は
撒いた様であった。

ξ゚听)ξ「こわいひとたちは?」
( ^ω^)「もう声も聞こえないし大丈夫だお」
ξ゚听)ξ「ふーん」

 ブーンは今のところは大丈夫だろうと踏んでいたが、併し此の先どうするかは未だ五里霧中と
云ったところであった。
 引っ越す予定であった家にももう行けないだろう。なれば違う集落へ、いや、もっと規模の大きい
町へ姿を眩ませるのが好いか。其の様なことを考えていた。


※五里霧中=物事の判断がつかず、どうしたらいいか迷うこと



59: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:06:04.82 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「ブーン、おなかすいた」
( ^ω^)「……そう云えば。ごめんお、もう少し待って呉れたら食べさせてあげるお」
ξ゚听)ξ「わかった」

 語調に似合わず聞き分けが好いなとブーンは思ったが、既にツンは廿であったではないかと思い
直した。そこでふと、ブーンはある質問を投げかけてみた。

( ^ω^)「ツンは何歳だお?」

 ツン自身、今の自分はどういった状態にあると認識しているのかが気になったのだ。質問を受け
ツンは二つ下げた髪をゆら、と揺らして首を傾げると、人差し指を立ててブーンの唇に添えた。

ξ゚听)ξ「め」

 そして短くそう云った。

( ^ω^)「め?」
ξ゚听)ξ「じょせいに、としをきくのは、しつれいですよ」
( ^ω^)「……此れは、失礼しましたお」

 何処で其の様な言葉を覚えたか。いや、彼女はそもそも廿なのだから当然か。ブーンの頭の中を
ぐるぐると思考が巡り、結局は謎が増えただけになってしまった。



60: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:08:07.39 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「よし、それじゃあそろそろ行くお」
ξ゚听)ξ「ごはん?」
( ^ω^)「そうだお。ご飯は歩いてきて呉れないお」

 そう云ってブーンはツンの手を引いて歩き出そうとした。ところが、どういうことかツンがまるで
足に根が生えた様に動かない。何事かとブーンが振り向くと、ツンは口角を落とした真剣な
顔つきで辺りの気配を探る様に真直ぐ何処かを見ていた。

ξ゚听)ξ「……待って」
( ^ω^)「どうしたんだお?」

 併しブーンには其れがどういうことなのか理解できない。少なからず逃げ果(おお)せたと云う
意識が、今置かれている状況に対しての危機感を薄れさせていたのだろう。果して其れは
村の者か、はたまた山賊か。兎に角ブーンは自らに迫る兇刃(きょうじん)に気付かなかったのだ。



62: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:09:56.14 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……え?」

 背を走る細く冷たい感触に、ブーンは初め何か金属の棒で背を撫ぜられたのだと思った。
着物を着ているのにおかしいなあ、と。そうして振り向いてみると何者かが刀を手に自分の方を
向いているではないか。

ξ;゚听)ξ「ブーン!」

 ツンの声を聞き、ブーンは背に走った冷たい感触が俄に熱く為るのを感じた。焼ける様な
熱さだ。そして其れは次第に激しい疼痛(とうつう)へと変わっていき、ブーンは堪らず声を上げる。

( ;^ω^)「う……あ……ぁぁあああああ!」

 蹲り、後に転げ回る。兇漢を前にしても、無防備な姿を晒すしかない程に其の痛みは強烈であった。
そして、ニ撃目。今度はブーンの腹に蹴りが入った。


※疼痛=ズキズキする痛み



65: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:12:27.56 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「ぐっ!」

 続け様に三、四、五、と同じ箇所へ蹴りが入った。時に其れは場所が逸れ、胸骨、肋骨に当たる。
併し当のブーンはと云うと、背と腹に襲い来る痛みに耐え乍らも、一方で此れからのツンの安否を
心配していた。

ξ#゚听)ξ「やめて!」

 『大声を上げるな』、『逃げろ』と、叫ぼうと思えども声が出ないことにブーンは焦燥した。若し矛先が
ツンに向かったらと考えると、其れだけで自分の痛みなど考えていられなくなるのだ。

ξ゚听)ξ「なんで……」
( ;^ω^)「ぐ! ツ……ツン……が! あ!」
ξ゚听)ξ「どうしていじめるの……」

 併し、確固たる思いとは裏腹に、ブーンは段々と意識が遠のいていくのを感じていた。霞む視界
の中聞こえる音は、兇漢の土を踏む音と自分の腹が蹴られる度に出る音の繰り返しのみであった。



67: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:14:16.21 ID:pvNpc7Oh0
ξ゚听)ξ「……だめだよ……わたしだめだよ。……ブーン、ごめんね」
( ;´ω`)「……ツ、ン……逃げっ! う!」

 繰り返される暴行にブーンは激しく嘔吐した。併しそれでも暴行は止まない。胃の中身を
吐き出した途端にブーンの躰から力が抜け、意識が闇と混濁していく。

ξ゚听)ξ「……いま、たすけるよ」

 落ち行く意識の中、ブーンは獣が哮るのを聞いた。



68: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:15:50.79 ID:pvNpc7Oh0

 ブーンは奇妙な感覚の中に漂っていた。両手は地面についている。併し、首から先だけが
其れよりもずっと下、暗闇の底に沈んでいる。腕は重く、足も上がりそうに無い。地面に伏せて
いると思うのだが、まるで甲冑を着ている様に全身が重い。辺りは暗く、所々に白く細かい点が
ちらついている。併し、眼は開いていない。

ξ )ξ『ごめんなさい』

 ツンの声が響いた。ブーンは其れをただ認識するだけで返事はしない。確かにツンの外形が見える
気がするのだが、はっきりとしない。

ξ )ξ『ありがとう』

 再度声が響いた。声は泣いていた。悲しみを真直ぐに表現していた。其れを聞いてブーンは
「あぁ、よかった」と、安心した。未だ自分は役に立てる、其の様な気がしたのだ。
 さぁ其の涙を今拭いてやろう、と重い腕をブーンは伸ばした。併し其れと共にツンがどんどんと
遠ざかって行く。

ξ )ξ『サヨウナラ』

 呟く様にして放たれた言葉を残しツンは遠ざかっていく。ブーンは其れを追いかけようとする。
併し立ち上がれない。おかしいと思いもう一度眼を凝らしてみると、彼には足が無かった。
消え失せた其の足は、遠ざかるツンの、其の真赤な口に銜えられていた。



70: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:18:15.44 ID:pvNpc7Oh0

(´・ω・`)「……目が覚めましたか」
( ^ω^)「……ん?」

 一転して眩しい光にブーンが目を開くと、其処は見知らぬ民家の様であった。併し先程知り合いの
声が聞こえた気がしたなと横を向くと、確かに其処にはショボンが居た。そしてブーンは自分が蒲団の
中で仰向けに寝ていることに気付いた。

(´・ω・`)「よく生きていましたね。躰中酷いことに為っていますよ」
( ^ω^)「此処は……」
(´・ω・`)「空家の様です。今何か食べる物を持って来ましょう」

 ショボンが立ち上がり何処かへと歩いていった。ブーンは其の足音を聞き乍ら、眼球だけを
動かして、ぐるりと辺りを見回した。
 空家だとショボンは云ったが、其れにしては掃除が行き届いており、まるでそうは見えなかった。
ブーンは少し間躊躇ったが、意を決して敷蒲団に手を突き、やおら上半身を起こしてみると、
先程のショボンの言葉が大袈裟だと思える程に躰は痛みを伴わなかった。



72: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:20:12.65 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「君、怪我人は大人しくしていないと駄目だ」
( ^ω^)「併し、ほら、此の通り全く平気なんだお」

 そう云って右腕を振り回したところで、ブーンは急に頭が後ろに引っ張られるのを感じた。ゆっくりと
糸か何かで引かれる様にブーンは倒れ、抵抗することも出来ず再び目覚めた時の体勢に戻った。

( ^ω^)「……お?」
(´・ω・`)「貧血ですね。安静にしてなさい」

 躰の力がすっかりと抜けたのを感じ乍ら、ブーンはショボンの声を漫然と聞いていた。そして急に
世界がぐらぐらと揺れ始めた。揺れは収まるどころか次第に勢いを増し、終いには天井が引っ繰り
返って蒲団が宙を暴れまわった。
 掛け蒲団が落ちない様にとブーンは其の両手で捕まえていたのだが、世界はいつの間にか
ぐるぐると独楽(こま)の様に回転を始め、存在を忘れていた胃が自己主張を始めた。



74: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:22:00.41 ID:pvNpc7Oh0
( ;-ω-)「あぁ、あぁぁ……うぅ……」

 目を閉じ落ち着きを取り戻そうとするが、回転は止まらない。次第に筋肉痛を起こしたかの様に
痛み出した胃がどくどくと拍動し、其れはやがて食道を伝い喉の奥にまで達した。そしてブーンは
嘔吐した。

 流動物が内壁に擦れる水っぽい音を聞き乍ら、ブーンはぐるぐると回る世界では果して嘔吐物までも
舞ってしまわぬかと心配をした。
 一頻り中身が出た後も胃は痙攣を繰り返し、さらに悪いことには、其の痙攣が引き金となったのか
急にブーンの全身を激しい疼痛が襲い始めたのだ。

( ;-ω-)「あぁぁぁ! はぁぁ! あぁ……う……」

 時には痛みのあまり脱力した声を上げ、また時には周期的に襲いかかる吐き気に黙る。蒲団を
握る手に幾等力を入れても回転は止まらない。落ち、上り、吐き、唸り。ブーンは、いつ終わるとも
知れぬ責め苦に耐え続けた。



76: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:24:09.12 ID:pvNpc7Oh0

 ブーンが落ち着きを取り戻し一休みした頃、辺りは真赤な夕暮れに包まれていた。昔、子供の頃は
夕陽は暖かな橙色だと感じてものだが、今は刺す様な赤色に見えるものだとブーンは溜息を吐いた。
 併し心を揺らす程に赤い其の真朱(しんしゅ)色は、差す光の帯がまるで一級の反物の様に見える
程に品位が感ぜられ、ブーンは或る人物を思い出した。

( ^ω^)「……」

 心の中に滲み出る様に彼女の顔が浮かんできたが、ブーンは突然叫ぶ様なことはしなかった。
まるで、悪夢がひたひたと悟られぬ様に近づいているのに気付き乍らも、其れをさも知らぬと云った
風に装いショボンを呼んだ。

( ^ω^)「ショボン、居るかお」

 返事が無い。怖気が背を包み、ブーンは身震いをした。何かがひたひた、ひたひた、と近づいて来る。



77: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:26:05.89 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「ショボン」
      「あぁ、起きたのですか。今行きます」

 返事が聞こえた。焦ってはいけないものだとブーンは簡単に深呼吸をした。斜陽が心を冷やす。

(´・ω・`)「気分はどうですか?」
( ^ω^)「良好だお。君には本当に世話をかけたお」
(´・ω・`)「いえ、気にしないで下さい」

 あぁ、そうだ。此の頃好くない予感許りが当たるのだ。意思とは関係無しにブーンの心がそう呟いた。

( ^ω^)「……その、なんだ」
(´・ω・`)「はい」

 ブーンは言葉を出そうと思った。聞き出そうと思った。併しひたひたと近づいてきた何かはもう
ブーンの背を包み、後ろからゆっくりと首を絞めて其れを邪魔するのだ。



79: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:28:04.34 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「あぁ、いや……」
(´・ω・`)「……あの子、ですか」

 だのに目の前の男が其れを助けたのを受けて、ブーンは途方もなく絶望してしまったのだ。
聞きたくない。そう思ったのだが、併しやはり言葉が出ない。もう首を絞める陰は消えているのに。

( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「……いや、君には有りの儘を云おう」

 其の言葉が既にブーンの心を凍えさせた。あぁ、悲しみがやってくる匂いがする、と。

(´・ω・`)「あの子は鬼に為りました。最早手がつけられない状態で、今も暴れ回っています」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「此の家も、元は住んでいた者が居た。だが鬼が暴れ始めたからか、出て行ってしまった様です」

 結末を聞いて、併しブーンはやはり言葉を出すことが出来なかった。
 手を伸ばせば彼女が居た。苦しみ乍らも今迄は隣に彼女が居た。併し、今を以って其の手から
彼女の温もりが逃げていったのをブーンは感じたのだ。離れてしまった、と。



81: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 22:30:22.06 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「併し……僕が……」
(´・ω・`)「君、ここまで待ったんだ。もう厭とは云わせんよ」

 ブーンの呟きを殺し、ショボンはぴしゃり、と云い放った。其の眼は何時にも増して真剣其の物で
今にも行動に移してしまいそうな程の決意が宿っていた。
 其の様なショボンの様子にブーンは気圧されつつ、ショボンに語りかける。

( ^ω^)「……呼ぶのかお」
(´・ω・`)「ええ。今彼女は山の方へ行っている様です。それならば舞台としても悪くない」
( ^ω^)「……」

 確かにブーンとて仕方無いとは思っていた。ここ迄来たのならもう自分にはどうすることも出来ない。

 淡い夢は今弾け、其の散りたるを見てただ涙する。人である自分には其の程度しか出来ないと
彼は分かっているのだ。併し分かっていても、人であるが故、其の散り行く一片に手を伸ばさずには
居れぬのだ。



戻る次のページ