( ^ω^)ブーンと鬼のツンξ゚听)ξ のようです

137: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:10:09.64 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「……」

 其れを見た途端、思わずブーンは踵を返そうとした。併し既(すんで)の所で背中を向けようと
するのを止めた。今此処で逃げてしまっては意味が無いのだと、何度も自分に云い聞かせ乍ら
確と前を向き、其の両の眼に彼女を捉えた。

――捉えた其の姿は最早彼女の面影も朧な、鬼であった。

( ;^ω^)「……あぁ……」

 鬼。其の言葉も存在も知られ乍ら、併しこうして対峙した者の話を聞くことは無い。何故ならば
其の全てが悉く鬼に殺されてしまうのである。

 異界の者の証とも呼べる全身に纏う青白い光は寒々と揺れ動き、静やかな威圧で近づいた者に
其の自由を亡失させる。
 金色に獲物を狙う瞳は琥珀よりも尚深く透き通り、奥に燻る緋色の殺意は視線を交わさずとも
其の質量を以って命と云う命に俗世からの乖離を予感させる。
 そして口元から今か今かと待ちきれぬ様に飛び出す歯牙に、筋張った両手から伸びる猛禽の如き
鉤爪は、見た者に切り裂かれた後を想像させる程の凶暴さを誇示し、果てには裂かずとも其の
振り下ろす圧によって人を喪神させる程の力を持つ。

 人とはまるで異質な空気を纏う其の化生の名こそ、鬼。万物を鏖殺(おうさつ)して尚、微塵の変化をも
受け入れぬ不条理の極である。


※喪神=気を失う ※鏖殺=皆殺し



139: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:12:07.03 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「……ツン」

 併し此の男と云えば、鬼を目の前にして出た最初の言葉が其れであった。微かに抱いていたのだ。
名を呼べば彼女が応えて呉れると云う希望を。よく見れば其の見目形は鬼と為れど、併しツンの容貌を
残しているではないかと。

ξ゚听)ξ「……」
( ;^ω^)「……ツン」

 二つ。ブーンは彼女の名を呼んだ。すると如何だろうか、ツンは其の声を聞いたのかブーンに
向かってゆっくりと歩き始めた。

( ;^ω^)「……」

 ゆっくり、ゆっくりと其の距離の縮まるのをブーンは感じていた。不安と期待と焦りと恐怖が綯い
交ぜになったものがブーンの心を締め上げる。ゆっくり、ゆっくり、ツンは距離を縮める。

ξ゚听)ξ「……」

 依然無表情のツン。笑うか、泣くか、怒るか。表情の変化は未だ訪れない。其の変化を見落とすまいと
ブーンは目を凝らす。

 ザ、と音がした。何の音か。地を蹴る音だ。ツンは居るか。居ない。居た。跳んでいた。鉤爪が見えた。
彼女に、表情は無かった。

 ブーンは瞬間手に持っていた刀をも抛り、身を縮こまらせた。駄目か。其の様なことを瞬間思い、
目を瞑った。



143: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:14:01.44 ID:pvNpc7Oh0
 併し次の瞬間に聞こえた音は肉を裂く音でもなく、骨を砕く音でもなかった。ザザァ、と地面と履物の
擦れる音が、僅かにしただけであった。其の音にブーンは怖々と目を開く。

(´・ω・`)「無事ですか?」

 其処にはツンの振り下ろした手を、右手に握った煙管で受け止めているショボンが居た。疾風の如き
速さの一撃であった筈だが、煙管は折れることなく、また左手を添えていたとは云えショボンが受け
止めているという事実がブーンには信じられなかった。

 其れを見たツンが目を丸くし、跳躍して後ろへ下がった。併し下がって尚、牙を剥き威嚇する姿を見て
ブーンは思わず、あぁ、と声を漏らした。

(´・ω・`)「……下がっていて下さい」

 其の声がして幾許。ツンが再び姿勢を変え飛び掛って来た。



144: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:15:59.11 ID:pvNpc7Oh0
 ショボンは襲い来るツン目掛けて、いつの間にか左手に握っていた砂を投げ付けると同時に踏み込み、
一糸の迷いも無く、喫煙するときとは逆に向こうへと吸い口を向けた右手の煙管で突きを繰り出した。
 併し其の一撃は鉤爪に弾かれ、在らぬ方向へと向かう。そして空いた胴へツンの右手が迫った。
其れに気付いたショボンは地を蹴り、脇腹を掠める風を感じ乍ら無理矢理躰を捻り側方に跳ぶと、
地面を転がり其の勢いが死なぬ内に跳ね、距離を開けた。

( ;^ω^)「ショボン!」

 併しショボンが離れるよりも早くツンは接近し、体勢を戻す隙を与えることも無くショボンの顔に
鉤爪を振り下ろした。
 咄嗟に防ごうと出された煙管も、併し不完全な体勢では其の勢いを殺しきれずに、ショボンは
反射的に左腕で顔を庇ってしまった。鋭利であり乍ら鈍器で殴られたかの様な衝撃を受け、
簡単に切り裂かれた病葉(わくらば)の様な腕を見て、他人事乍らブーンは肝が冷えるのを感じた。


※病葉=虫や病気で変色した葉



148: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:18:02.18 ID:pvNpc7Oh0
 併し其の直後に切り裂いた当人のツンが、ゆらと後ろにたじろぎ、そして叫び声を上げた。

ξ#゚听)ξ「亞阿唖ァ阿亞ァア唖亞亞ア阿ァ亞!」

 まるで意味を成さない言葉を、腹の底へ響く様な声でツンが哮(たけ)る。見ると其の腹から
ポタリポタリと血が滴っているのが分かった。どうやらショボンは左腕を引き裂かれたにも拘らず、
ツンに一撃を食らわせたらしかった。
 だが同時にブーンは目の前が闇よりも尚、昏く為っていくのを感じた。

( ;^ω^)「ショボン! もう止めろ! 止めて呉れお!」

 掠れる様な叫び声を上げるも、併し其の声などまるで聞こえんと云った風にショボンは笑った。

(´・ω・`)「……そう云えば、君には未だ此れは話していなかったね」

 視線はツンに向けて、併し其の言葉は二人に向かって同時に投げかけられている様にも思われた。
ショボンは切られた左腕を高々と月に向かって突き上げると、其の腕に痛みを感じていないことを
示すかの様に滴る血を振り払った。



151: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:20:03.96 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「鬼を喰らった者は幾許の鬼の力を得ることが出来るのだ」

 云い、ショボンはブーンが先程抛った物であろう一振りを手に取った。そして抜刀すると鞘を捨て、
持った右手を一本突き出す様に構え、高らかに叫んだ。

(´・ω・`)「此の煙管は骨より出来ている。其れは他でも無く御前の母のものだ、鬼よ。そうだ、御前の
      母を己(おれ)は喰らったのだ! どうだ、己が憎いか! 鬼よ!」

 一刹那、静寂が辺りを支配したかと思うと、突如空を裂く様な咆哮。其の意を理解したか、自らの
腹を刺された怒りか、鬼は哭いていた。

(´・ω・`)「……夜鳴きの煩い子だ」

 ショボンは呟き刀を上段に構えると、ジリジリと摺足で間合いを詰めていく。一方ツンは歯牙を剥き、
目を剥き、態とらしく肩を聳(そび)やかしてショボンを睨み付ける。其の姿は正に獣其の物であった。


※聳やかす=高くする



153: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:22:16.31 ID:pvNpc7Oh0
 威圧するように距離を詰め行くショボンであったが、ツンは動かなかった。唯ショボンの顔を睨み付け
唸る許りで、次にどのような行動を起こすかがまるで知れない。

(´・ω・`)「……っ!」

 先に仕掛けたのはショボンだった。地を蹴ると、一息にツン目掛けて跳躍。其の人離れ甚だしい
脚力に任せて刀を振るった。振るわれた後刀身は衝撃に震え、辺りに透き通った音を響かせる。

ξ゚听)ξ「……ァ」

 併しツンは其の一撃が振るわれても尚動いてはいなかった。動く必要が無かったのである。
ツン目掛けて繰り出された一撃は、鉤爪に阻まれ傷一つ付けるに能(あた)わなかったのだ。

(´・ω・`)「ふ!」

 だが阻まれて尚ショボンは引かず、咄嗟に刀から手を離すと其の勢いの儘身を捻り、確と地を
踏み締め後ろ回し蹴りを繰り出した。


※能う=できる



156: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:24:16.00 ID:pvNpc7Oh0
 ツンの左眼窩(がんか)目掛けて蹴りが放たれる。併しツンは其れを読んでいたのか、身を反らすと
其の儘後方宙返りをし、復もショボンの攻撃は不発に終わる。

ξ#゚听)ξ「亞亞!」

 瞬間完全にツンに背を向けてしまったショボンは慌てて身を屈めようとするが、ツンは着地すると
同地に其の足の溜めを前面へ飛び掛る力へと変え、跳躍。其の儘追い掛けるようにして
ショボン目掛けて鉤爪を振るった。

(;´・ω・`)「ぐっ! は……ぁ!」

 背中に一撃を喰らい、ショボンは受身も碌に取れず其の儘地へ叩き付けられた。背にどっぷりと
血を付け乍らも、追撃を免れる為にショボンは素早く体勢を立て直す。

ξ゚听)ξ「……」

 併しツンにはまるで其の意思が無いのか、先程受けた刀を抛ると、ショボンが其の体勢を立て直す
のを凝っと見ていた。



158: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:26:26.18 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)「……只では済まさない、と云った所かな」

 呟きつつも其の意を理解出来ぬ儘、ショボンは刀を拾い上げる。

 (´・ω・`)「固いね。まるで普通に立ち向かっても歯が立たないよ。あぁ、背が痛い」
ξ゚听)ξ「……」

 云ってショボンは再び構えを取った。併し次なる構えは上段でも中段でも、況(ま)してや下段でも
ない。左手は遊ばせた儘、右手のみで刀を持ち、真直ぐと突き出したのだ。

(´・ω・`)「此れも、もう要らないな」

 懐から煙管を取り出すと、ショボンは見せ付けるようにして掲げた後、其れを後ろへと抛った。

ξ#゚听)ξ「……」
 (´・ω・`)「気に障った……かな?」

 左足を引き、刀を持った手を幾許か曲げると、ショボンはツンの顔を見据えた。両者どちらも
微動だにせず、ただ風が吹くのみに時が流れていく。

 変則的な構えを取っているショボンであるが、其の思惑は刺突をせんとするものだった。
下手に刀を振り回しても自らに勝機が無いことを悟り、唯ツンの眼を潰すことのみを念頭に、
此の構えを取った。
 其の眼さえ潰してしまえば此方の価値なのだ、とショボンは口元を僅かに吊り上げた。

 そうして対峙すること幾許。不意に風に乗って一本の黒い羽根が舞って来た。月明かりを浴び
夜を舞う羽根は次第に勢いを失い、力尽きるようにして地面へ落ちていく。

 其れを合図に、地を蹴る音がした。



162: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:28:38.02 ID:pvNpc7Oh0
ξ#゚听)ξ「ァ阿!」

 先に踏み込んだのはツンであった。叫号(きょうごう)と共にショボン目掛けて地を蹴り、一直線に
向かっていく。其れに対しショボンは構えた儘微動だにしない。

 やがて状況は切迫。月光を静かに反射していたショボンの刀が闇を裂き光芒一閃(こうぼういっせん)、
ツンの顔目掛けて放たれた。目も絢な白刃の反照(はんしょう)は確かにツンの右眼を貫いた。
 やったか。そうショボンが安堵したのも束の間、併しツンの目は光を失わず、ショボンへ袈裟懸けに
其の鋭利な鉤爪が振り下ろされた。

(;´・ω・`)「ぐ……」
ξメ听)ξ「亞……阿ァ」

 其の儘ショボンは押し倒され、上と下で力比べをする形になった。信じられないことに右眼に刀を
刺された儘のツンがジリジリとショボンを圧して行く。左手で押さえてはいるものの、肩には右の爪が
ぐいぐいと食い込み、刀は左の爪に掴まれ、ショボンは眼前に迫る鬼の形相に恐怖を感じていた。


※叫号=大声でさけぶこと ※光芒=尾を引くように見える光の筋 ※反照=照り返し



164: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:30:35.49 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)「流石は至純(しじゅん)の鬼と云ったところか。参ったよ」
ξメ听)ξ「アァ……」
(;´・ω・`)「併し、何故鬼は人を欲したのだろうね」
ξメ听)ξ「……」
(;´・ω・`)「考えてみれば人が混ざっては至純とはいかない。君は何故生まれたんだろうね」
ξ#メ听)ξ「阿……」

 徐々に右眼を突き刺していた刀がツンによって引き抜かれていく。此れが完全に引き抜かれれば
ショボンは両手を押さえつけられた儘ツンの歯牙に掛かることだろう。ショボンは顔面に滴り落ちて来る
血液の温かさを感じ乍ら思いを巡らせていた。

(;´・ω・`)「僕は、君は、何故……」
ξ#メ听)ξ「阿ァァ!」

 将に引き抜かれんとした時、不意に刃が甲高い音を立てて折れた。其処に生まれた僅かな隙に
ツンは一撃を喰らわせんと其の右の手を振り上げたが、対してショボンは左手で剣指を作り、
其の儘引くことなくツンの左眼を突き刺した。

ξ;メ-)ξ「ッ!」

 そして此の瞬間、鬼の眼が二つ閉じられた。ショボンは此の時を待っていた。否、出来るなら
彼も此の時など来なければいいと思っていた一人なのかも知れないが。
 どちらにしろ、ショボンは言霊を吐いた。其れは、山ノ神を呼ぶ言霊。


※至純=この上なく純粋なこと



166: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:32:08.58 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「鬼の眼は封ぜられた! 山ノ神よ、今此処に山の安寧を紊乱する鬼を差し出そう! 
      山ノ神よ、鬼の眼は封ぜられた! 現れよ!」

 言霊を吐いて瞬刻。森も動物も風も土も、全てが時間を止められたかの様に静止した。
連続よりも遥かに永い停止の中で、人は笑い或いは叫び、鬼は戦慄(わなな)いた。

 そして、烏が唖唖(ああ)と鳴いた。

ξ;メ-)ξ「――ッ!」

 引き攣った声だけを残し、ツンは地面に背中から叩き付けられた。撥音(ばちおと)の様な響きが
辺りに木霊し、森が俄に騒ぎ始めた。


※唖唖=カラスの鳴き声 ※撥音=バチで弾き鳴らす音



168: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:34:12.32 ID:pvNpc7Oh0
 風が叫び、森が鳴く。月は隠れ、地は黙る。而して後、其れはゆっくりと姿を現した。

 / ,' 3 「鬼よ。其の命、貰い受けに来たぞ」

 夜天を仰ぐ彼等の目に映ったのは、紅く仄光る巨大な存在であった。此れが山ノ神かと呆ける
ブーンであったが、併し其れを予見している筈のショボンさえもどういうことか、天を仰いだ儘
呆けていた。

(;´・ω・`)「……違う」

 其の声音は明らかに怯えていた。鬼を目の前にしても果敢に立ち向かった彼が、今自ら呼んだものに
恐怖していた。



173: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:36:23.95 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)「そんな……まさか……」
( ^ω^)「ショボン、君は此の期に及んで何を……」
(;´・ω・`)「嘘だ……嘘に違いない。そんな筈がない。何を莫迦げたことを考えているんだ。僕は……」
( ;^ω^)「どうしたんだお? ……ショボン、君、其の手は……」
(;´・ω・`)「え?」

 ブーンが指差した先、ショボンの両の手に何時の間にか黒い羽が沢山乗っていた。否、乗って
いるのではなく、其れ等は生えていた。手は疎(おろ)か腕にかけてまで、びっしりと黒い羽が生えて
いたのだ。

(;´・ω・`)「違う! 違うぞ! 僕には記憶がある! デレと過ごした日々の記憶があるんだ! 
      両親だって居る! 僕の両親は――」

 天を仰いだ儘一息に叫ぶと、ショボンは唐突に黙ると涙を流した。其の涙も頬から生える羽に
隠れてしまったが。

(´・ω・`)「僕の両親は……どんな顔をしていたんだ?」

 気付けば体は折り畳まれる様に縮み、其の体躯には大きくなった着物がするりと脱げると、
既にショボンは全身を黒い羽毛に包まれていた。



176: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:38:10.57 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「僕は……あの時……死んで?」
( ;^ω^)「……」

 其の姿は正に烏其の物であった。何が起こったか解からないと云った風のブーンを置き去りに、
ショボンは崩れる様に地面に倒れた。

ξ;メ-)ξ「ァ! 亞ァ!」

 そして一方では叫び、藻掻くツンの足元にドロドロとした粘液が迫っていた。其れに気付くや否や
ブーンはツンに駆け寄り、近くに落ちていた刃の折れた刀を手に取り粘液を散らそうと振り回し始めた。

( ;^ω^)「くそっ、近寄るなお! ツンに、近寄るなお!」

 併し幾ら散らしたところで粘液の出るのが収まるわけもなく、また収まったとしてツンを解放すれば
ブーンは殺される身である。
 だがそうせずには居られなかった。縦令此の後直ぐに命を落とすとしても、今抵抗をせずに死ぬ
ことは決してしたくなかったのだ。



179: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:40:11.21 ID:pvNpc7Oh0
(;´・ω・`)「ブーン!」

 不意にショボンの声が響いた。其の声色も前のものより幾許か変質していたが、其の抑揚は
未だショボンの様であった。声の方をブーンが見ると、羽ばたき自分に向かって来ているショボンの
姿があった。
 そうして近づいてきたショボンがブーンの傍らに着地すると、突如として落雷が起こった。
落雷は地を裂き、辺りの粘液を何処かへとやってしまった。併し未だ其の存在も顕(あらわ)な
山ノ神を見るに、直ぐに復ツンを取り込もうとする粘液が湧くのは目に見えていた。

(;´・ω・`)「ブーン、お願いだ! 僕を殺して呉れ!」
( ;^ω^)「な、何を云っているんだお!」
(;´・ω・`)「僕は、僕はショボンだ! 決して鴉なんかではないんだ!」
( ;^ω^)「落ち着けお!」
(;´・ω・`)「頼む! 頭がおかしくなりそうだ! 殺して呉れ!」

 気付けば狂乱するショボンに呼応する様に、辺りは荒れ始めていた。辻風が舞い、霰(あられ)が
降り、雷鳴が轟き、木が燃える。加えて正体の掴めぬ不気味な粘液が地を這い、背にはツンの
空を裂く様な悲鳴が聞こえてくる。そしてショボンの殺して呉れと懇願する声。其の光景はブーンには
まるで地獄図の様に感じられた。



180: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:42:09.78 ID:pvNpc7Oh0
( ;^ω^)「気を確かに持てお! 好いか、どの様な形(なり)でも君はショボンだ! ツンの父親だ!」
(;´・ω・`)「僕は! 此の手は!」
( ;^ω^)「ショボン!」
(;´・ω・`)「僕はショボンなのか! なぁ、ブーン! 教えてくれ!」
( ;^ω^)「云うまでもない! 君はショボンだ! 君自身よく解っている筈だ!」
(;´・ω・`)「あぁ、駄目だ……駄目だよ、君。僕には、此の躰を一生知らぬ振りして生きていくなんて……
      そんなことは無理だ」
( ;^ω^)「今こうして話しているのは君ではないか!」
(;´・ω・`)「そんなもの……誰に保証が出来ようか。僕の頭が狂ってしまえば、あぁ、お終いだ」
( ^ω^)「僕が保証するお」
(;´・ω・`)「それじゃあ此の躰は何だって云うんだ! ショボンの躰は畜生だったと云うのか!」
( ^ω^)「形が何だと云うんだお。君は毎朝自分の姿を見ては自分であると確認しているのかお」
(;´・ω・`)「危弁を弄するな!」
( ^ω^)「危弁などでは無いお!」

 慌てふためくショボンを一喝すると、ブーンは云い聞かせる様にして捲くし立てる。



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