( ^ω^)ブーンと鬼のツンξ゚听)ξ のようです

183: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:45:20.27 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「好いか、其の姿形など所詮は他人との係わりに於ける産物だお。そんなもの、変わらずとも
      少し態度を変えるだけで『君は君でなくなった』と云われる始末。自分が自分であると云う
      他人の評価が欲しいのならば僕が呉れてやるお! 其れで満足せんのなら、君はショボンで
      あると云うことを行動で示せば好い! ショボンがショボンたる為に相応しい行動をしたならば、
      君はやはりショボンであるお」
(´・ω・`)「……ショボンたる為に……」

 すると其の時、不意に此れ迄の嵐が嘘の様に静まり返った。目紛(まぐ)るしく変化する景色に翻弄され乍らも、
ブーンは凝っとショボンの顔を見た。

( ^ω^)「……ショボン?」
(´・ω・`)「……あぁ、そうか。そう云うことか……ならば若しやあの時の彼女も……」
( ^ω^)「……何が、だお」
(´・ω・`)「済まない……ツン、本当に済まなかった……」
( ^ω^)「ショボン!」
(´・ω・`)「……僕は……ショボンは、ツンの父親だ」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「なれば僕は娘の幸せを願うのだろう」

 ショボンの視線の先、其処に磔にされた鬼が、いつの間にかツンに戻っていた。其の体躯のしなやかさも、
其のふっくらとした顔つきも、全てが在りし日のツンの儘であった。



184: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:46:27.72 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「此れは……」
(´・ω・`)「……」
( ^ω^)「君は……いや……」

 何かを云おうとして、併し口を噤んだブーンの云わんとした言葉を理解したのか、やがてショボンが
ゆっくりと語り始めた。

(´・ω・`)「ブーン、此の力を鑑みるに僕は確かに鴉の様だ。併し今の言動、そして其の元となる心は
      ショボンのものだ」
( ^ω^)「ショボン……」
(´・ω・`)「僕はショボンだ。だから君、僕を殺せ」
( ;^ω^)「……な……どうしてだお! 君が君であるならば其れで好いではないか」
(´・ω・`)「僕を殺さねば山ノ神は退かん。ツンの幸せが来ないのだ。僕に僕として、ショボンとして
      死なせて呉れ」
( ;^ω^)「……莫迦な」

 其の言葉にブーンは頭痛を感じ、眉間の辺りに指を添えた。あまりにも考えることが多すぎるのだ。
併しショボンはまるで気にせず話を続ける。



186: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:48:08.81 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「……それに、だ。……僕の中から鴉が増えようとしている」
( ^ω^)「……何?」
(´・ω・`)「今肌に感じて解せた。鴉は移るのではなく、増えるのだ。僕の中に多くを占める何かが
      今外に出ようとしているのを感じる。縦令僕が残っても増えた鴉がツンを狙うかも知れん」
( ^ω^)「……」
(´・ω・`)「頼む」
( ^ω^)「僕に……君を殺せと?」
(´・ω・`)「ああ」
( ;^ω^)「……」

 其れを聞いてブーンは閉口した。結局先ほどと主張は何等(なんら)変わっていないではないかと。
ブーンは大いに悩み、大いに嘆いた。今こうしている間もツンの許には其の存在を亡き者にしようとする
粘液が迫っているのだ。併し乍ら、其の代わりに目の前の男を殺すなどと云う選択をしろと云うのだろうか。



190: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:50:31.25 ID:pvNpc7Oh0
 併し目の前の男は既に死することを決している様であった。自分が如何な道徳を説いたところで、
此の男の自尊心を傷付けるだけなのではないか。仕方の無いことなのかも知れない。と、そこまで
考えてブーンは穏やかな顔つきのツンを再び見た。そして意を決した。

( ^ω^)「……わかったお」

 ブーンは頷き、辺りを見回した。すると丁度好い事にショボンの煙管が落ちているのを見つけた。
ブーンは其れを拾うと暫し見詰め、後にショボンの顔を見た。其れを受けショボンが頷いた。

 ゆらり、と煙管が持ち上げられた。其れを見てショボンは目を閉じる。一瞬間全てが停止した様な
併し乍ら穏やかな時が訪れた。そして煙管はゆっくりと下ろされ、ずぶり、と深く肉を突いた。間違いなく
命を奪う一撃であった。



192: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:52:29.07 ID:pvNpc7Oh0
(´・ω・`)「……君、何を」
( ^ω^)「……」

 但(ただ)、付け加えるならば、奪われた命はショボンのものではなかった。煙管はブーンの胸に
深々と刺さり其の白を真赤に染め上げていたのだ。

( ;^ω^)「……ぐ、ぶ!」
(;´・ω・`)「何をしているんだ!」

 びちゃり、とブーンが地面に褐色の血を吐いた。そして尚も止まる気配の無い出血に其の手が
濡れているのを見て彼は微笑んだ。

( ;^ω^)「……考えてもみるお。君が居なくなったとして、此の先誰がツンを支えていくんだお」
(;´・ω・`)「何を云う! 君が死んでしまっては……」
( ;^ω^)「あのようなことを云って何だが……やはり僕は……鬼でない彼女が好いのだ。ハハハ……」
(;´・ω・`)「君は……まさか……」

 其の言葉に答えるが如くブーンは紅を差した様に真赤な口元を綻ばせた。そして其の手を差し出し、
何も持たぬショボンに云った。



194: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:55:03.90 ID:pvNpc7Oh0
( ^ω^)「さあ、ショボン。其れを……寄越すお」
(;´・ω・`)「君は……其の意味を解っているのか!」
( ^ω^)「併し君……最早手遅れだお」
(;´・ω・`)「……」

 暫し黙ったショボンは其の後頷きブーンに近寄った。そして青白いブーンの顔を凝っと見つめ、問うた。

(´・ω・`)「一つ……一つ訊かせて呉れ。君は、自分が人でなくなってしまうことに恐怖しないのか?」
( ^ω^)「何、ツンは隠だ。……僕が人でなくなったからと云って……大したことはないお」
(´・ω・`)「君でなくなってしまってもか?」
( ^ω^)「今、君は……ショボンは、立派に彼女を救おうと……しているお」
(´・ω・`)「……有難う」

 其の声を聞くと、息も絶え絶えなブーンは地面に膝を突き、ばたりと倒れた。死に際と云うのは
動(やや)もすれば惨めに泣き叫ぶものであるが、彼の死に顔は実に晴れやかであった。

 其れを見届けるとショボンはブーンに向けて両の翼をゆっくりと広げ、高らかに啼いた。啼いて後、
ショボンは漸次(ぜんじ)体から力の抜けていくのを感じたが、それでも微動だにしなかった。自分が
自分たる為に、又恥じることの無い清らかな決意を示す為に、決して其の翼を畳まなかった。


※動もすれば=とかくなりがちである ※漸次=次第に



196: ◆HGGslycgr6 :2007/07/29(日) 23:57:00.51 ID:pvNpc7Oh0
 そうして全身の力が抜けきったのを感じると、ショボンは安らかに眠る二人を見た後、山ノ神を見上げ、
最後は天を仰ぎ呟いた。

(´・ω・`)「……こんな夜は、喉が渇く。君もそうだろ? なぁ、デレ」

 答えは無く、迅雷が天を裂いた。瞬間稲光に照らされた山は、併し再び暗闇に包まれる。其処に
最早山ノ神の姿は無かった。

 而して後、寂寥とした景色に雪が降り始める。音も無く、ただ深々と降る泡雪が全てを覆い、白く
染め上げていく。其の皎白(こうはく)な世界には既に誰の影も無い。雪華(せっか)咲き誇る山の夜が、
ただ蕭々(しょうしょう)と更けていく許りであった。


※皎白=真っ白 ※雪華=雪を花に喩えたもの ※蕭々=物寂しいさま



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