( ^ω^)ブーンが機械と戦うようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:14:57.20 ID:KuIhiy8Z0
  
?日前 朝
( ^ω^)「おいすー」

内藤はいつもの挨拶を交わしながら教室に入った。
ニュウソク市立第一共同高校。
第一と名前はついているものの、市内で共同高校はここだけだ。
国策として実施されたばかりの共同高校制度の普及率は未だに低いまま。
数年後の開校にむけて南に第二共同高校が建設中。
もっとも、数年前から同じことを言っているので、本当に進んでいるかどうかは怪しいものだが。

('A`)「おいっす」
(´・ω・`)「やあ、おはよう」

自分の席に近づいた内藤に、二人のクラスメイトが声をかけた。
ドクオとショボン。共に2−Bの仲間で、内藤とは最も仲が良い。
虚弱体質かつ低血圧のドクオはいつも通りにだるそうに机に突っ伏し、顔だけを向けている。
ショボンはドクオの前の席で、椅子に横座りをしながら雑誌を読んでいた。

( ^ω^)「おっおっおっ、ショボンそれ週刊ステップかお?」
(´・ω・`)「うん、今朝コンビニで買ってきたんだ」
( ^ω^)「最新号ktkrwwwwwww ボクにも後で貸してほしいお!」
(´・ω・`)「もちろんいいとも。後で『ブーン』にも貸してあげるよ」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:16:16.13 ID:KuIhiy8Z0
  
またか。表情には出さずに、内藤は心の中で小さく落胆した。
自分の名前は『内藤ホライズン』。確かに数日前まではそうだった。
しかし、数日前から周囲の自分に対する呼び名は一貫して『ブーン』になっている。
どういうことかはわからない。クラスで結託してあだ名をつけたわけでもなさそうだ。
朝起きて食卓につくと、両親までが自分のことをブーンと呼ぶ。
クラスメイトも、先生も。ついでに学生証までブーンという名前に変わってしまった。
ただ、内藤だけが自分の名前を、本当の名前を覚えている。
初日に両親やクラスメイトに名前のことで迷惑をかけて以来、内藤はそのことに触れていない。
周囲の目。あれはまるで、ちょっと可哀想な人を見るような目だった。
近しい友人はもちろん、親にまであの目で見られるのは、もうこりごりだ。

( ^ω^)「ショボンありがとうだお!!」

顔で笑いながら、心で傷つく。
今日は何度『ブーン』と呼ばれるのだろう。願わくば、少しでも少なくありますように。
このところ日課のようになった祈りを、内藤は誰にともなく無意識に祈った。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:17:02.30 ID:KuIhiy8Z0
  
同日 夜

異変は夜におこった。
いつものように内藤はインターネットを自室で楽しんでいた。
閲覧しているのは、巨大な匿名制掲示板群。数ある板のうちの一つだ。
ニュー速VIPと名付けられたその板は、様々な話題が方向も定められずに交わされている。

( ^ω^)「うはwwwwwwww今日のうpスレは神がいっぱいだおwwwwwww」

専用ブラウザで複数のスレをザッピングしつつ、内藤はスレを開いては閉じていく。
その手際は意識せずに自動化されたもので、ほとんど反射行動のようなものだ。
ほとんどが意味のないレスばかりの中、大量の情報に紛れて存在する必要な情報。
うpスレに集中していた内藤がそのレスを発見したのは、ある意味奇跡だった。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:200X/XX/XX(X) XX:XX:XX.XX ID:XXXXXXXX0
私はお前の本当の名前を知っている。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:17:34.43 ID:KuIhiy8Z0
  
心臓が跳ねた。
スレとは全く違う趣旨のレス。しかし、違和感の無いくらいにはネタ臭い。
ここで垂れ流される無意味なデータにそのまま埋まることが間違いない情報。
だが、内藤には判った。これはボクに当てられたメッセージだ。

私はお前の本当の名前を知っている。

画面の向こう、どれだけ離れているかわからない光ケーブルと電波の果て。
そこに、今の自分を知っている人物がいる。
なぜそう感じたのか? それはわからない。
ただ、内藤はこれを天啓などという偶然ではなく、必然であると感じた。
計算されたタイミングでこのレスは発言された。自分がこれを発見することを見越して。

(;^ω^)「す、すぐにレスしてみるお!」

内藤はアンカー付でレスを行った。しかし、エラーで書き込みは失敗してしまう。
サーバーダウン。VIPではよくあることだが、タイミングが悪すぎる。
内藤は歯がゆい気持ちを押し殺しながら、サーバーの回復を待った。

サーバーが回復したのは、それから1時間後。日付が変わってからのことだった。
同じスレはすでにdat落ちしており、もう一度見ることはかなわなかった。
IDを元に呼びかけようにも、日付をまたいだ時点でIDの効力は切れている。
サーバーダウンの理由は、スレの乱立。ただし、いつの間に乱立スレが立っていたのか。
それを知る者は一人として存在しなかった。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:18:20.36 ID:KuIhiy8Z0
  
翌日 夜

パソコンの前に座り、内藤は考え込んでいた。
昨日の書き込みが頭について離れない。
あのタイミングでのレス。その後のサーバーダウン。スレのdat落ち。
全てが意図的に感じられて仕方がない。
まるで誰かの発言を、巨大な意思がもみ消すような。

( ^ω^)「とはいえ、確認することはどうやら不可能のようだお」

無駄とは知りつつも、昨日のIDを元にスレを立ててみようとしてみた。
だが、必ずエラーによりスレ立ては失敗してしまう。
関係のないスレにマルチ投稿もしてみたが、それも全てがエラー。それも、無関係なレスまでが。
不信感はぬぐい去られるどころか、ますます強くなっていく。
もう間違いない。誰かが自分の発言を規制している。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:19:08.94 ID:KuIhiy8Z0
  
( ^ω^)(VIPへの能動的な発言はすべて規制されているお……)

どうするべきだろうか。あの発言者がVIPを閲覧していることは間違いない。
しかし、コンタクトをとる方法がない以上、こちらができることは同じ発言者を見つけることだけ。
とはいえ……

(;^ω^)「この膨大な量のスレとレスを見るのは無理だお」

ただでさえ活発なVIP。しかも今は正体不明の妨害まで存在する。
一度のレスを発見してサーバーダウンを実行するような組織だ。
その目をかいくぐるためには、直接コンタクトを取るしかないだろう。
せめてメッセンジャーアドレスでも交換できれば話しは別なのだが……

( ^ω^)「お?」

無数のスレを開いては閉じていた内藤の目に、一つのスレが映った。

キ ン タ マ 晒 し



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:19:52.87 ID:KuIhiy8Z0
  
キンタマウィルス。最近よく聞く名前だ。どうやらその感染者をウォッチするスレらしい。
感染者のデスクトップ画面をネット上に流してしまう、恐ろしいウィルス。
自分の意思にかかわらず、強制的に。

――強制的に?

( ^ω^)「これだお! これしかないお!」

内藤はアンチウィルスソフトにより隔離されていたウィルスを実行。あえて感染した。
途端にLANのランプが激しく点滅する。ハードディスクもガリガリと不穏な音を奏で始めた。
内藤のPCの中身は今、ネットに無作為に垂れ流されている。
これでよし。さっそく先ほどのスレを確認すると、新しくウォッチ対象となったPCがあった。
間違いなく内藤のPCだ。これでよし。

( ^ω^)「後はメッセンジャーアドレスを……」

メモ帳とメッセンジャーを起動させ、メモ帳にアドレスを記入してデスクトップに表示する。
反応は激烈だった。次々と登録申請が到着する。
片っ端から許可をすると、無数の発言ウィンドウが開く。
ほとんどが煽りや嵐。内藤を罵倒する内容だった。
それでも内藤は辛抱強く、一つ一つを確認していく。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:20:31.71 ID:KuIhiy8Z0
  
数十のウインドウを確認した頃。そろそろ勢いも弱まってきた頃に、その申請は到着した。

[true_name@hotmail.co.jp]

――私はお前の本当の名前を知っている。

( ゚ω゚)「!!!!!11!!!!!」

あの日感じた衝撃が、内藤の心臓を直撃した。
震える手でクリック、登録許可。
すると即座に新しい発言ウインドウが開いた。

(゚Д゚)の発言:
http://www.vip.com



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:21:29.95 ID:KuIhiy8Z0
  
たったそれだけの発言を残して、接続は切断された。発言者はオフラインになっている。
だが、内藤は不思議には思わなかった。妨害か、意図的に切断されたのか。
どちらにしろ、長々とコンタクトを取ることは出来ないだろうことは覚悟していた。
それでも、その成果は十分なものだった。おそらくこのアドレスが全てを解決してくれる。
早鐘のごとく鳴り響く心臓の音を耳の奥で聞きながら、内藤はアドレスをクリックした。
ブラウザが立ち上がり、即座にサイトが表示される。
文章のみのシンプルなサイト。


下記の文章を音読せよ
[ 幾つもの墓が開き,眠りについていた聖者たちの体が数多く起こされた。]



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/29(金) 21:22:04.22 ID:KuIhiy8Z0
  
( ^ω^)「幾つもの墓が開き、眠りについていた聖者たちの体が数多く起こされた……」

何かの一節であると思われるその文を、指示通り音読する。内藤は宗教に詳しくない。
何の意味があるのだろう? 内藤が首を傾げようとしたその瞬間、内藤の中に違和感が膨れあがった。
まるでボクサーのボディブロー。強すぎる違和感のあまりに吐き気すら覚える。

(;;;゚ω゚)「う……うげ、うげぇぇぇぇぇぇぇ!!」

実際に胃が痙攣し、内藤は激しく嘔吐した。夕食に食べた物が半固形物となって逆流した。
吐く物がなくなってからもはき続け、胃液しかでなくなっても吐き気は収まらない。
意気を吸う暇もなく続く嘔吐感に痙攣しながら、内藤の意識は薄くなっていった。
自分の吐瀉物にまみれたキーボードに突っ伏す内藤。
暗転する意識が最後に見たのは、画面に表示される一文。

Wellcome to V.I.P.

そして暗転――――



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