( ^ω^)ブーンが機械と戦うようです

23: :2006/09/29(金) 21:32:19.96 ID:KuIhiy8Z0
  
1日目

暗闇の中。内藤の頭の中に響く声がある。
それは近く、遠く。
響く声は聞き慣れないものだが、それ意外にも違和感がある。
耳で聞いているハズなのに、耳で聞いているように感じない。
もっと正確な言い方をするなら『今までの耳の聞こえ方と違う』というところか。
混濁した意識の中、不明瞭ながら複数の声を意識がとらえた。

(  )「まだ目を覚まさないのか」
(  )「まだですな。まあ、各器官の以上は見られませんので」
(  )「ふむ。健康体とは聞いていたが、これほどとはな」
(  )「遺伝的なものでしょうな。時代が違えばオリンピック選手でしょう」

自分のことだろうか。よくわからない。
再び暗闇に陥りそうになる意識を必至に捕まえて、内藤は会話に耳をすませる。



25: :2006/09/29(金) 21:39:32.04 ID:KuIhiy8Z0
  
二人の会話は続いている。一方は強くはりのある声、もう一方は落ち着いた声。

(  )「数少ない同志だ。丁重に回復作業を実施てくれ」
(  )「わかっとりますよ。しかし……」

落ち着いた声、おそらく初老あたりの人物であろう声が言い淀むそぶりを見せた。

(  )「果たして彼にとって、こちらは幸せなのかどうか」
(  )「それを決めるのは彼ではない。我々だ」
(  )「それはエゴではないのですかな?」
(  )「そう呼びたくば呼べ。しかし、奴らの修正に気づいた以上、廃棄は近かった」

それが我らの正義だ。そう言い残して、若い声の男は去ったようだった。
残った初老の男が、ため息をつく。

(  )「すまんな……」

力ない謝罪。それは誰に向けられたものなのか、内藤は判断することができなかった。
再び意識が闇に落ちていくのを、彼は止めることが出来なかった。



32: :2006/09/29(金) 21:45:57.68 ID:KuIhiy8Z0
  
覚醒は光と激しい振動によってもたらされた。
目を射るような強い光。そして全身を包む倦怠感。

( つω-)「ん……つぅ……」

目をかばいながら、重苦しい体を持ち上げる。
徹夜明けのような苦しさ。とりわけ、息苦しさが際だっている。
胃のあたりがムカムカするのもかなりきつかった。

( -ω-)「こ……は……」

ここはどこだお? そう喋ろうとした内藤の口は、しかし擦れた音を漏らしたのみだった。
喉の奥にねばりつく感覚。唾が乾いてひりひりする。唇もかさかさ。
倒れる前に激しく嘔吐したことが思い出される。胃液で喉が焼かれてしまったのだろうか。
喉の不快感をこらえつつ、水を求めて内藤は半身を起こして――異常を確認した。



37: :2006/09/29(金) 21:52:07.81 ID:KuIhiy8Z0
  
自分の部屋じゃなかった。病院などでもない。
それどころか、部屋ですらないようだ。感覚としては独房といったところ。
もちろん内藤は独房に入ったことなどない。清廉潔白な身の上である。
しかし、それ意外にこの場所を表す言葉を、内藤は知らない。
水密扉に似た扉。ノブのついたパイプが走る壁。
寝ていた場所はベッドではなく、単に張り出した鉄板に毛布を乗せたものだ。
固い場所で寝ていたせいか、体中がギシギシと軋みをあげる。

(;-ω-)「い、いた……いたいお」

ようやくまともな声を発することができた。
ひっつく唇を無理矢理こじあけ、目やにのたまった目をこする。
ボロボロと落ちる目やにのすごさに驚いた。



39: :2006/09/29(金) 21:56:44.87 ID:KuIhiy8Z0
  
少しずつ、状況を頭が整理していく。
パソコンの前で昏倒した自分は、どうやら誰かによってここに運ばれてきたらしい。
そしてこの部屋に監禁(?)されている。
時間はわからないが、かなり長い時間眠っていた気分がする。

( ^ω^)「まったくわからんお……」

あまりにも少ない情報に頭をかかえてしまう。
実際に頭を抱えて――

( ゚ω゚)「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!??」

内藤は驚愕の叫び声をあげた。
ない。髪の毛がない。人並みにふさふさとしていた自分の髪の毛が。
あるのは短くツンツンとした髪のなごり。五厘刈りという状態だ。
昨今のスポーツ少年ですらしないような髪型に、内藤はなっていた。



46: :2006/09/29(金) 22:04:57.14 ID:KuIhiy8Z0
  
(#゚ω゚)「だ、誰だお! ボクのフサフサヘアーをこんな、こんな……」

あまりにも興奮して叫んだ内藤は、激しく咳き込んで涙目になってしまった。
喉がひりつき、鮮明な痛みが頭の中で爆発する。
流れ出る涙は痛みのせいだけではない、失われた髪の毛に対する悔やみも含まれている。
特に髪型などに気を遣っていた訳ではないが、やはり無くなると悲しい。

( ;ω;)「げほ、げほっ!! うっうっ、うぐっ」

泣きながら痛みに呻くという器用な仕草を見せていると、それ意外の違和感にも気づいた。
手が白い。元々白いとは言われていた内藤だが、今の内藤の肌は青白い。
病人のごとく白い腕。そして、明らかにやせ細った腕。
腕だけではない。触って確認した限り、全身の筋肉が薄くなっている。
寝たきりの老人でもここまで細くはなるまい。そう思うほどに内藤はやつれてしまっていた。
髪の毛に続いて失われていた筋肉。もはや声にもならない。
全身を揉むようにして確認して内藤が異常を確認していると、水密扉が軋みをあげた。



49: :2006/09/29(金) 22:17:32.58 ID:KuIhiy8Z0
  
/ ,' 3「やあ、お目覚めかな」

入ってきたのは初老の男だった。
おだやかな風体。身に纏ったボロとその物腰が相まって、仙人か修験者のような雰囲気だ。
そこで、内藤の来ていた服も男と大して変わらないボロであることに気づく。

/ ,' 3「色々と聞きたいことはあるだろう。が、まずは着いてきてくれんかな」
( ^ω^)「わ、わか……たお」
/ ,' 3「ああ、無理に話そうとしなくてもいい。まだ喉が動かないだろうから」
( ^ω^)「……」

内藤は頷き、了解の意を示した。
男はついてきなさいと言い、内藤を部屋の外に連れ出した。
そこは細長い廊下で、部屋の中と変わらない雑然さがあった。
通常の風景を期待していた内藤は大きく落胆したが、
狭くてすまんねと謝る男に気にしないといった風に首を振った。

( ^ω^)「あ、あの……み……み、じゅ」

あまりにも強い喉の渇きに負けて、喋るなという男の忠告を無視して内藤は口を開いた。
先ほどから感じる喉の痛みを、少しでも潤したかった。

/ ,' 3「すまんがもう少し我慢してくれ。まだ君は水が飲めないのでな」
( ^ω^)「な、ぜ」
/ ,' 3「君は、砂漠の遭難者が、水を飲んで死んだ話しをしっとるかな?」

頷く内藤。

/ ,' 3「そういうことだ。ま、もう少しの我慢さね」



50: :2006/09/29(金) 22:26:33.28 ID:KuIhiy8Z0
  
男に連れられて狭い廊下を抜けた先は、今までより少しだけ広い部屋だった。
窓はないが、天井の明かりは今までより数段強い。
そこで気づいたのだが、今までの廊下も、最初の部屋も、窓は一切存在しなかった。
ここは地下なのか? 内藤はさすがに不安が隠しきれなかったが、男に害意がないことを信じて黙っていた。

/ ,' 3「連れてきたぞ」
(  )「ああ、ありがとう」

男が部屋の奥で背を向けたもう一人の男に声をかけた。
体格のしっかりした若い男だ。その男が、こちらを振り向きつつ内藤に話しかけた。

(゚Д゚)「ようこそ、内藤。楽園へ」

いささか芝居がかったセリフ。だが、男の目はそれを笑い事ではないと信じ込ませる強さがあった。

(゚Д゚)「君はまだ喋ることが辛いだろう。そのままでいいから聞いてくれ」

内藤に、そばにあった椅子(とおぼしき物体)を薦めながら、男は自己紹介に入った。
男の名前はコッチ・ミルナ。先ほどの初老の人物は荒巻スカルチノフ。
年齢はわからないという。

(゚Д゚)「何しろ昼夜の区別が曖昧な上に、覚えている最初の年齢も怪しいのでな」

そう言うミルナは30前後といったところか。荒巻はおそらく50前後。
高校生の内藤には、それ以上の判断はつかなかった。



53: :2006/09/29(金) 22:34:40.93 ID:KuIhiy8Z0
  
(゚Д゚)「まず最初に、君の疑問に答えよう。『ここはどこか?』だ」
(゚Д゚)「これに答える言葉を私は持っていない。しかし、これだけは言える」
(゚Д゚)「現実。そして楽園だ」

楽園? この状況とこの場所が?
狭苦しく、息苦しいこの場所が楽園であるとは、内藤には到底信じられない。

(゚Д゚)「信じられないのも無理はない。だが、今から話すことを知ればわかることだ」

よっぽど疑心に満ちた表情をしていたのだろう。ミルナはこちらの心情を読み取った。

(゚Д゚)「どこから話すべきか……やはり、君の名前から入るべきかな」
( ^ω^)「!!」
(゚Д゚)「薄々感づいているとは思うが、君の見た掲示板の書き込みは我々のものだ」

それはなんとなく判っていた。次に知りたいのは、何故そのことがわかったか、だ。

(゚Д゚)「我々はあの掲示板、及びネットに繋いだ人間をモニターしている」
(゚Д゚)「方法は気にしなくていい。ある条件を満たす者を探しているのだ」
(゚Д゚)「君の場合は『本当の名前を知っていること』だった」



56: :2006/09/29(金) 22:46:04.83 ID:KuIhiy8Z0
  
ミルナは内藤が理解できる速度で、淡々と話を続ける。
(゚Д゚)「君の名前が変わってしまっていたのは『修正』を受けたからだ」
(゚Д゚)「あの世界では度々修正が行われている。そして、それは認識することが出来ない」
(゚Д゚)「それでもたまに、その修正に気づく者がいる」

君が良い例だ。そう言ってミルナは内藤を指さした。
あの世界? 修正? 認識? それは一体――

( ^ω^)「な……んおことか、わから……ないお」
(゚Д゚)「喋るなと言った筈だ。まあ、初日からそれだけ話せるのは評価するが」

ミルナの話し方は、あえて核心の周囲から埋めていくような話し方だ。
端的に言えば、回りくどい。不安感からくるイライラに耐えきれなくなって、内藤はついに爆発した。

( ゚ω゚)「わけわからんお!! あんたら何者だお!! ここはどこだお!!」

喉の痛みが激しくなり、若干涙目になる。しかし、それでも内藤は泣かず、咽せなかった。
泣いてしまえば、咽せてしまえば、目の前にいる男に負けた気になってしまう。
子供っぽいプライドだが、内藤にはそのちっぽけなプライドしか頼れるものがなかった。
ミルナも荒巻も、内藤をじっと見つめる。
それは内藤を見極めようとしている目だ。

(゚Д゚)「なら話してやる。だが、三つだけ誓え」
(゚Д゚)「一つ、疑うな。二つ、笑うな。三つ、泣くな」

真剣そのものでミルナが要求する。
その目は内藤を高校生の子供ではなく、一人の人間として認めての発言であると語っている。
内藤は、若干の後悔を感じ、それを認めないように強く頷いた。



58: :2006/09/29(金) 23:08:06.01 ID:KuIhiy8Z0
  
沈黙が辺りを包み込む。小さな機械音と振動が沈黙を満たし、やがてミルナが口を開いた。

(゚Д゚)「お前が今まで生きていた現実は、機械によって見せられていたバーチャルだ」
(゚Д゚)「お前が会った友人、接していた両親、全ての人間が機械によって作られたNPC(ノンプレーヤーキャラクター)」
(゚Д゚)「数十億を超える人間で存続していた世界は、その実おまえ一人しか存在していなかった」

SF。そう、SFでこんな話があった。
今の世界は、実はバーチャルリアリティで。実は現実は他にあったとかいう。

(゚Д゚)「信じられないだろうが、信じろ。それが現実だ」
(゚Д゚)「そして、自分の管理からはずれた人間の生存を、機械は許さない」
(゚Д゚)「我々は人間が現実で生きるために戦う、自由獲得のための勇士だ」

ああ、思い出した。なんかあったねこういう映画。
三部作くらいでさ。最後は難しくなりすぎたけど、なんか面白かったっけ。

(゚Д゚)「我々の名前はVIP。バーチャルからの独立を獲得するための組織だ」
(゚Д゚)「我々は適正のある君の参入を望み、楽園に招待した。ようこそ内藤」

まじめくさった顔で話が打ち切られる。
内藤は……信じられなかった。馬鹿馬鹿しい話だ。信じられるわけがない。
だって――信じたら今までの記憶は、全部無意味になってしまう。初恋の思い出も、友人との楽しみも、全てが。

(゚Д゚)「……どうやら信じたようだな」

内藤の顔を見て、ミルナが話しかける。

(゚Д゚)「泣くなと言ったのは守れなかったようだ。だが、その涙が信じたことの証なら、許可する」

ミルナと荒巻に見守られながら、内藤は泣いた。静かに。戻ってこない日々を想って。



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