( ^ω^)ブーンが機械と戦うようです

224: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 19:00:52.66 ID:vafhPJWa0
  
トレーダー港の沖合1qに潜水艦タシーロ号は浮上した。
浮上と同時に、体力のジャマーが散布される。
太陽光をキラキラと反射するジャマーの舞い散る中、三機のエア・スクーターが勢いよく発艦した。
ジョルジュ・荒巻バディは火山口へ。
流石兄弟はトレーダーの誘導とおとりとして。
そしてフサギコ・内藤バディは最も難しい地脈への爆弾設置に向けて。
三機のエア・スクーターを送り出したタシーロ号は再び潜行。深海近くで全ての動力を落として待機する。
次にタシーロ号が浮上するのは1時間30分後。それまで通信は不可能だ。
爆弾の爆発は時限式。作戦開始から1時間後にセットされたそれは、すでにカウントダウンが始まっている。
発見され、解除されることを防ぐため、安全キーは存在しない。
後戻りの出来ない作戦に、三組六名のVIPメンバーは突入した。



226: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 19:11:26.55 ID:vafhPJWa0
  
ミ.,,゚Д゚彡『設置予定場所はここから北北東10q、大きな亀裂が走っている場所だ』

失踪するエア・スクーターを狩りながら、フサギコが指向性通信で内藤に呼びかける。

ミ.,,゚Д゚彡『出来るだけ手早く済ませるぞ。そうすれば、俺たちも誘導と救出にまわれる』
( ^ω^)「了解だお!!」

内藤には爆弾設置の知識など存在しない。
それでもフサギコが説明するのは、そうすることによって意思を同調させる目的からだ。
もっと簡単に言えば、それはフサギコが内藤を信頼した証でもある。

ミ.,,゚Д゚彡『とはいえ、そこまでは磁場異常地帯が続いている地域だ。簡単にはいかない』
( ^ω^)「どういうことかお?」
ミ.,,゚Д゚彡『このエア・スクーターも機械共も、基本はリフターによって浮遊しているのは知っているな』

ばっちり初耳だったが、内藤はあえて頷いた。

ミ.,,゚Д゚彡『……知らないなら知らないと言え』
(;^ω^)「うぐっ」

ばっさり切り捨てられて、内藤は小さく知りませんでしたおと返した。



227: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 19:26:10.79 ID:vafhPJWa0
  
ミ.,,゚Д゚彡『リフターってのは、簡単に言えば鉄板に強い電気を流せば浮遊するって代物だ』
ミ.,,゚Д゚彡『原理はよく知らんが、こいつは周囲に強い磁力を発するものがあると、うまく働かなくなる』

例えば、電気コイルや磁力をもった岩なんかがそうだとフサギコは続けた。磁気嵐はその最たるものだという。
他にも強い電磁波にも弱いらしく、核爆発の際に発揮される強い電磁波は間違いなく機械をやることができるそうだ。

( ^ω^)「じゃあ、そのままこれを爆発させればいいんじゃないのかお?」
ミ.,,゚Д゚彡『やっぱり馬鹿だな、お前は』
(;^ω^)「自覚はしてるから、あんまり言わないで欲しいお……」
ミ.,,゚Д゚彡『まったく。そんなものを地表でそのまま爆発させたら、ここら一体が更地になるだろうが』

核兵器の四大効果。爆風、熱線、放射線、そして電磁波。
いくらトレーダーが放射線に強いとはいえ、全てをやいて吹き散らすその他の効果に耐性があるわけがない。

ミ.,,゚Д゚彡『だからこそ、磁気嵐を発生させて巻き込むって言う回りくどい方法を取るんだよ。おっと!!』

3Dマップに目を落としたフサギコが、急に方向転換を繰り返した。
どうやら磁場異常地帯に入ったらしい。危険地域に飛び込みそうになったのを回避したのだろう。

ミ.,,゚Д゚彡『しっかり掴まっていろ!! 落ちても助けることはできないからな!!』

磁場異常地帯は人間の体にも悪影響を及ぼす。
それ以前に、地表から5m、時速100qほどのエア・スクーターから落ちれば即死は間違いない。
だが、そんなことよりも。

(,,゚Д゚)『しっかり掴まってろよ!! 落ちても助けてる暇はねーぞゴルァ!!』

数日前に聞いたギコの声が思い浮かぶ。ああ、やはりこの人はギコの兄弟なのだと、内藤は改めて強く感じた。



232: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 19:38:30.03 ID:vafhPJWa0
  
一方の、ジョルジュ・荒巻バディは、大火山の麓で、機械に遭遇してしまっていた。
機械は三体。いずれも機動性に優れたサカナ型だ。
装甲は大したことがないためにライフルでも破壊可能だが、流線型の装甲は弾丸をそらしてしまう。

/ ,' 3『まったく、おまえさんの頼みを聞いてやったらこのざまじゃ』
(#゚∀゚)『だーかーら、ジェシカちゃんを探しに行ったのは関係ないだろ!!』

確かに、機械に遭遇したのはこの付近にたどり着いてからなので、港に立ち寄ったことは問題ない。
それに――

(#゚∀゚)『それにあんただってアリナちゃん探してただろーがよ!?』
/ ,' 3『まあ、アリナちゃんの美しい足なら機械共に掴まることはないだろうが、心配でのぉ』

アリナというのは荒巻がご執心のウサギ種の娘だ。
若干ウサギに近い風貌と、それを裏切らない脚力は折り紙付。
なんといっても、言い寄る荒巻は初日に蹴られて5mほど水平に吹っ飛んでいる経験を持つ。

/ ,' 3『まあ、どちらの責任かはとりあえず追及すまいて』
( ゚∀゚)『そう言いながらも、きっちりこっちの責任にしようとしてね? まあいいや、作戦は?』

マスクをつけたまま怒鳴ったせいでどっと疲れたジョルジュは、それでも休まずに回避運動を行っている。
VIPメンバー随一のエア・スクーター乗り。バーチャルに居た頃は暴走族の頭をやっていたのは伊達ではない。



236: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 19:51:46.26 ID:vafhPJWa0
  
/ ,' 3『3Dマップによれば、この先に磁場異常地帯がある。そこにつっこんでまくしかあるまい』
( ゚∀゚)『……ついに惚けたか、じーさん』
/ ,' 3『返す返すも失礼な奴じゃな。まだ惚けるにははやいわい。ほれ、下も元気に……』
(#゚∀゚)『その汚らしいもんを押しつけたら、問答無用で放り出すぞ』
/ ,' 3『むぅ……冗談の通じないやつじゃの』

ジョルジュは若干の貞操の危機を感じながら話を促すと、荒巻は次の指示をジョルジュに与えた。

1 最高速まで引っ張れ
2 最高速のまま磁場異常地帯につっこめ
3 後は風に乗れ

(#゚∀゚)『だから、それのどこが作戦なんだよ!!』
/ ,' 3『若いもんは短気じゃのう。これだから困る』
( ゚∀゚)『さっきは自分だってまだ若いとか言ってた癖によぉ……』
/ ,' 3『そんな昔のことは忘れたわい。で、乗るのか反るのかどっちじゃ?』

ずっとマスクを着けて話すのは疲れるんじゃよ、とぼやく荒巻。
その飄々とした態度は、ジョルジュの中で信頼に足るものだと判断された。

( ゚∀゚)『仕方ねぇ……じゃあいっちょ、機械相手にチキンレースと行くか!!』

スロットルを限界まで上げて、エア・スクーターを最高速度まであげる。
過剰供給された電力つくる小さな雷の飛沫を散らしながら、エア・スクーターは磁場異常地帯にまっすぐにつっこんでいった。



238: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 20:07:11.03 ID:vafhPJWa0
  
(´<_` )「兄者」
( ´_ゝ`)「なんだ弟者」
(´<_` )「とりあえず作戦通りだな」
( ´_ゝ`)「ああ、作戦通りだ」
(´<_` )「うまくいったな」
( ´_ゝ`)「いきすぎるぐらいにな」

他のバディから数q離れた高原地帯。
磁場異常地帯や磁気嵐の発生場所に避難するトレーダー族を誘導し、時には襲いかかる機械を引きつけながら。
流石兄弟は作戦実行ポイントに早々と到着しようとしていた。
爆弾の起爆時間まで、残り30分はある。
いつも綿密に計画を立てて、二人の連携で任務を整斉と遂行してきた二人がどうしたことか?
その答えはエア・スクーターの背後を振り返ればすぐに判明する。

(;´_ゝ`)(´<_`;)「ところでこれ、どうしようか」

表情がよく見えるようにとマスクを外した状態で、二人は顔を見合わせた。
これというのは、流石兄弟を追尾する大量の機械群のことだ。
その数が50機を超えていることは間違いない。
途中から数えるのが困難になって、数えるのをやめたのが確か50機だった。
非難が完全に完了したのか、機械達はめぼしい獲物を発見することが出来ずに流石兄弟をひたすら追跡してくる。
人と違い声をあげることもなく静かに追跡する機械と高原を疾走するエア・スクーター。
周囲の風景と相まって、その異常な光景はいっそ平和なドライブ風景にすら見える。
だが、いずれバッテリーが無くなることを考えれば、いつまでもこのままではいられまい。
ただでさえ磁気嵐に巻き込まれれば自分たちの命は吹き散らされてしまうのだから。



240: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 20:17:35.58 ID:vafhPJWa0
  
( ´_ゝ`)「おぅけい、ときに落ち着け兄者」
(´<_` )「兄者、それは俺のセリフだ。ときに落ち着け」
( ´_ゝ`)「そうは言っても、どうする」
(´<_` )「そうだな……やはりここは誰かが生け贄になるとか」
( ´_ゝ`)「そんな……ダメだ弟者!! 自己犠牲なんて!!」
(´<_` )「さりげなく俺を生け贄に確定する辺り、流石だな兄者」

テンポ良く言い合いながらも、二人は既に覚悟を決めていた。
バッテリーとジャマーの続く限り。出来れば磁気嵐が発生するまで、ここで囮を引き受ける。
打つ手がないのなら、せめて最善の効果を。

( ´_ゝ`)「まったく。不出来な弟を持つと最後まで苦労させられるな」
(´<_` )「その言葉、そっくりそのまま兄者にかえすとしよう」
( ´_ゝ`)「口の悪さはだれに似たのだろうな」
(´<_` )「おそらく生まれたときから隣にいる誰かさんだろう」
( ´_ゝ`)「まあ、それでも」
(´<_` )「やっぱり」
( ´_ゝ`)(´<_` )「「流石だよな俺ら」」

――起爆時間まで、残り20分



243: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 20:31:11.84 ID:vafhPJWa0
  
ミ.,,゚Д゚彡『くそ、思ったよりも時間がかかったか』

フサギコ・内藤バディが目標地点に到着した時、カウントは既に20分を切っていた。
もうギリギリのタイミングだ。すぐにでも設置をすませて、この場を離れなければならない。

ミ.,,゚Д゚彡『よし、設置するぞ!! 内藤手伝え!!』
( ^ω^)「了解したお!!」

エア・スクーターの後部に固定していた爆弾を急いで取り外す。

ミ.,,゚Д゚彡『よぉーし!! 設置!! せぇーのぉーでっ!!』
( ^ω^)「ぃよいしょお!!」

目の前に広がる幅10mほどの亀裂。
その中に、核爆弾を無造作に投げ込む。

ミ.,,゚Д゚彡『設置完了!!』
(:^ω^)「核爆弾を放り込んで設置完了って、無茶苦茶だお……」

途中で爆発することはないにしろ、損壊する危険性などはないのだろうか。
もっとも、あのカプセルは大昔の大戦時に航空機からばらまかれ、地中に埋まり込むことを目的としたものらしいのだが。
とにかく、これで設置は完了した。あとは磁気嵐から逃れるだけだ。

急いでその場を離れようとしたフサギコと内藤。その背中に、鋭い声がかかる。

ξ゚听)ξ「内藤!!」



245: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 20:47:11.05 ID:vafhPJWa0
  
時間は少しさかのぼって、起爆まで残り30分。北東部のジョルジュ・荒巻バディ。

( ゚∀゚)『つっこむぞ!! カウント3!!』

目の前にあるのは、幅100mを越える火山裾野の磁場異常地帯。

( ゚∀゚)『2!! 1!! ゼロ!!』

磁場異常地帯に、エア・スクーターが。それに続いて、追跡してきたサカナ型3機もつっこんだ。
途端にリフターから迸っていた雷の飛沫が好き放題に飛び散り、浮力がみるみる失われていく。
機械の方も同じく、浮力を失った流線型の体は投擲された槍のように放物線を描き始めた。

(;゚∀゚)『う、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

ダメだ。出来るだけ上昇しながらつっこんだが、やはり飛距離は足りないようだ。
ぐんぐんと近づく地面を見ながらジョルジュは考えた。
火口に設置する予定の爆弾も、ここまで近づけば少しは効果があるだろう。
それにしても、あの地面は痛そうだ。あっちの世界ではバイクでよく転けたが、あれの何倍ぐらいだろうか。
ああ、やっぱりジェシカちゃんの写真もってこなくてよかった。こんな目に合わせられないもんな。
地面が近づくにつれて、磁場の影響が強くなっていく。
それにともなって、頭の中に縦波が生まれたように意識がどんどんと混濁し始めた。
くそ、こんなところでじじいと心中とはな。死ぬときはジェシカちゃんの胸の中って決めてたのによ……
子供の頃から負けまいと突っ張っていたジョルジュ。彼の人生は、常に身にまとわりつく自分の存在への不安感との戦いだった。
刺激的な事に挑戦し、空虚なアイデンティティを埋めようと戦い続けてきた彼。
だが、ついにその鋼の精神も、生存への炎を消そうとしたまさにその時。

/ ,' 3『ぽちっとな』

ふざけているのか真面目なのか。相変わらずよく判らないその声が、ジョルジュの意識を覚醒させた。



247: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 20:56:55.00 ID:vafhPJWa0
  
――ズバンッ!!

衝撃と共に、エア・スクーターの後部が破裂した。
いや、正確には装甲板を弾き飛ばして何かが飛び出してきたのだ。
平たく風を切るように設計されたそれは――

( ゚∀゚)『つば……さ?』

霞む目を必死にこじ開けて、ジョルジュはその正体を確認した。
翼だ。飛行機についているような可変翼が、エア・スクーターの後部から生えている。
同時に、落下するばかりだったエア・スクーターが落下を停止。滑るように滑空を始める。
その背後で、ついに地面に接触した3機の機械が爆発する。

/ ,' 3『もいっちょ、ぽちっとな』

――ズドゥンッ!!

先ほどの衝撃など比べものにならないほどの衝撃と音がジョルジュの体を貫いた。
同時に暴力的な加速、加速、加速。
一瞬で高度を30mほど稼いで、磁場異常地帯を突破。
その推力を稼いだのは

( ゚∀゚)『ジェットだあぁぁぁあ!?』

エア・スクーターの最下部が内から破壊され、その中からジェットノズルが顔を出している。
ごうごうと炎を吹き出すそれが、爆発的な推進力の答えだった。



249: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 21:08:13.33 ID:vafhPJWa0
  
/ ,' 3『いやー、絶妙のタイミングじゃったのう』
(;゚∀゚)『……』
/ ,' 3『こんなこともあろうかと、こっそり試作品のジェット装置を組み込んでおいてよかったわい』
(;゚∀゚)『いや、ちょっと待てよ』
/ ,' 3『よーし、あと数秒でジェット燃料は切れてしまうからの、操縦はしっかりな』
(#゚∀゚)『だからちょっと待てっつってんだろーがぁぁぁぁ!!』
/ ,' 3『おお、切れよった切れよった』

エア・スクーターのジェット推進が停止し、通常の速度がやっと戻ってきた。
怖い怖いとおどけて答える荒巻に、ジョルジュはショックから回復した反動で怒鳴りつける。

(#゚∀゚)『じじい!! てめぇ本当に正しくクソじじいか!!』
/ ,' 3『もはや日本語ですらないが、骨の髄まで失礼なやつじゃのおまえさんは』
(#゚∀゚)『ばっ……かやろう!! 俺の愛車に変なもんつけやがって!!』
/ ,' 3『変なもんとは失礼な。れっきとしたジェット推進の試作品じゃよ』
(#゚∀゚)『うるせぇ!! だったらこっそりつけるな!! 事前にちゃんと言えよ!!』
/ ,' 3『最初に教えたなら、お前さん面白がってすぐにつかっちまうじゃろうが』

10秒もジェットは持たないから貴重品なんじゃよ。そう言って荒巻はのほほんと答える。
それにしたって、あのタイミングは明らかに狙っていたものだ。
わざわざギリギリのラインまでひっぱって、ジョルジュの反応を楽しんでいたに違いない。
頼りにはなるが、そういった性根は信じられないほどねじ曲がっているのが荒巻という人間だ。



252: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 21:14:32.97 ID:vafhPJWa0
  
/ ,' 3『まぁ、そうカッカしなさんな。ほれ、火口が見えたぞい』
( ゚∀゚)『くそ……そうだ、気づくべきだったよ。修理を頼んだら、なんか機体が重くなってたことによ……』

ぶつぶつと呟くジョルジュの背中を、荒巻がぽんぽんと叩いて急かす。

( ゚∀゚)『金輪際、じじいのことは信用しねー……』
/ ,' 3『かまわんよ。儂は実験台が居れば文句なしじゃ』

最早マッド全開で開き直る荒巻に、ジョルジュはかける言葉が見あたらなかった。
火口付近で爆弾を設置。スクリーンを一応かけておいて、荒巻とジョルジュは全速力で島を離れた。
――起爆まで、残り15分。



256: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 21:25:05.00 ID:vafhPJWa0
  
(;゚ω゚)「つ、ツン!! どうしてここにいるんだお!?」

今の時間には、もう避難は完了していると思ったのに。
あ、しまった。それよりもまた馴れ馴れしく呼んでしまった。

(;゚ω゚)「あ、あわわわ、ごめんだお」

ツカツカと近づいてきたツンから身を守るように、頭を抱える内藤。
怒り狂った彼女に殺されそうになったのはつい昨日のことなので、その恐怖心もひとしおだ。
だが、ツンはそんなことには気もかけず、内藤の手を引っ張った。

ξ゚听)ξ「お願い、手を貸して!!」
(;^ω^)「おっおっおっ、どうしたんだお!?」
ξ゚听)ξ「長が……長が大変なの!!」
( ^ω^)「長??」

長というと、あの象種のトレーダー族のことか。

ξ゚听)ξ「長は体がお悪いの。だから、避難はせずに聖堂に残るって……」
( ^ω^)「聖堂っていうのは、前の洞窟のことかお?」
ξ#゚听)ξ「そうよ!! ああ、もうじれったい!! いいから手を貸しなさいよっ!!」

イライラを表現するように、ツンが足をバン!! と踏みならした。
金色の毛並みがゆらりと揺れる。

(;゚ω゚)「ひいっ!! わ、わかったお、手を貸すからすぐに案内してほしいお!!」
ξ゚听)ξ「最初からそう言えばいいのよ!! こっちよ!!」

お願いした最初の言葉はどこへやら。ツンは内藤を力ずくで引っ張っていった。



258: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 21:39:59.28 ID:vafhPJWa0
  
聖堂は、爆弾を投下した亀裂のすぐ傍に存在していた。
内藤は即座にここが危険であることを認識した。核爆発の衝撃に、天然洞窟が耐えられるわけがない。
それに加えて、その爆発によって地脈を刺激するという力ずくの作戦を行うのだ。
地表の被害はどれだけ広がるかすらわからない。
腕時計を見てみる。起爆時間まで、残り15分を切ったところだった。

ξ゚听)ξ「長!! 助けがきましたよ!!」

聖堂に入るなり、ツンが奥にねそべる長にかけよった。
近寄っておどろいた。その体は体の骨がところどころねじ曲がり、変形していたのだ。
長は400年近くの歳月を生きているという。
その年月が、長の体にこれだけの歪みをもたらしたのか。

ξ゚听)ξ「長!! 外に乗り物があります、早く!!」
長 「ツン……よくお聞き」

低く掠れた、だが優しい声で、長は手と同じくらいの長さを持つ鼻をツンの肩に乗せた。

長 「私はもう長くない。その私に付き合って、お前を危険に晒してしまった」
ξ゚听)ξ「長、そんな言葉は私、聞きたくありません!!」
長「聞き分けなさい、ツン」

鼻をもちあげ、ツンの毛並みにを優しくさする。
その慈愛に満ちた姿を見て、内藤は初めて長が女性であることに気がついた。



260: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 21:47:45.46 ID:vafhPJWa0
  
長「人間の若者よ。ここが安全である時間は、あとどのくらいですか」
( ^ω^)「……あと、15分もありませんお」

唐突な問いかけだったが、その深みのある言葉に押されるように、言葉は自然に滑り出た。
島からの離脱には全速力で5分もあれば十分だ。だが、長の巨体を搬送しながらでは何分かかるかわからない。
ツンのこともある。磁気嵐の影響は物理的なものだけであるとはいえ、ある程度は防げる場所につれていかないと。
全員を乗せて運ぶには、エア・スクーターは出力不足だし、定員オーバーだ。
フサギコに言われた『どうしようもない状況』。その状況に陥ったことを、内藤は認識した。

長 「人間の若者よ。ツンを、安全な所まで連れて行って下さい」
ξ゚听)ξ「何を言うんですか、長!!」

再び先ほどのやりとりが繰り返される。
こうなったら一か八か、全員を連れてエア・スクーターで脱出するしかない。
耐えかねた内藤がそう提案しようとした、まさにその時

――ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ

鋼の軋みをあげて、洞窟の入り口から機械が入り込んできた。



263: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 22:02:06.54 ID:vafhPJWa0
  
サカナ型が2体と、見たことのない型が1体。蛇のように細長い体をくねらせて、洞窟に進入してくる。

ξ゚听)ξ「機械がこんなところまでっ!?」
(;゚ω゚)「や、やばいお!!」

内藤が持っている武器といえば、体を隠すスクリーンしかない。
だがそれも、視認されてしまった今ではただのよく光る布。
携行火器の類はエア・スクーターに積んだままだ。
自分の段取りの悪さを、内藤は強く呪った。

長 「ゴアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

機械がこちらを認識した瞬間、長が吠えた。
その声は先ほどまでの慈愛に満ちた深い声の名残など無く野生の獣の咆吼そのものだ。
ついで、立ちつくす内藤とツンの間を走り抜ける黒い影。
先ほどまで立つことすら難しそうに見えた長の巨体が、周囲の風を渦巻かせてヘビ型に突進したのだ。

――ドゴン!!

長の巨体がヘビ型の頭部にぶつかる。
そしてそのまま背後の壁に衝突し、半ばまでめり込ませた。
同時に響く鈍い音。長の骨があげる悲鳴だった。
長すぎた生の年月は、その巨体と力を支えるだけの堅さを失って久しい。
全身の骨が折れる音を聞きながら、それでも長は機械を岩壁にめりこませ、へしゃげさせていく。
その目は敵を見ようともせず、ただ涙目になったツンがこちらに駆けてくる姿だけを優しく映していた。
まるで、網膜にその姿を焼き付けようとするかのごとく、瞬きもせず。



265: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 22:09:39.30 ID:vafhPJWa0
  
ξ;凵G)ξ「おさああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ツンは制止しようとした内藤を押しのけて、長に駆け寄ろうとした。
長はツンが幼くして死んだ両親の代わりになってくれた人だった。
血筋ゆえにやがて巫女を受け継ぐことになるツンに、優しく、時には厳しく声をかけ続けた。
巫女になってからはその重責に対する理解者となり、よくその足下に抱きついて話を聞いて貰った。
低く深く優しい声を聞いていると、胸の疲れが全て流れていく気がした。
楽しいことも悲しいことも、秘密にしていたことも。
長にはすべて包み隠さず話した。
つい昨日の夜だって、変な人間が来たことを話したばかりだった。
真っ赤な顔で必死に喚く人間の話を、長はいつも通り穏やかに頭を撫でながら聞いてくれた。
親であり、先生であり、理解者である。その長が――

――ゴズンっ

目の前でヘビ型の機械の尻尾に払われ、壁に激突した。



266: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 22:18:21.34 ID:vafhPJWa0
  
ヘビ型にむかっていくツンを、内藤は必死においかけた。
いくらツンの力が強いとはいえ、相手は巨大な機械だ。
巨体を誇る長の渾身の攻撃すら、奴には大したダメージになったようには思えない。
くそ、くそ!! もっと早く走りたいのに!!
ツンの長い足は抜群のバネでもって、彼女の体を前へ前へと進めていく。
どれだけ伸ばしても、手が届かない。
どれだけ足を回転させても、たどり着けない。
やがて来る破綻。それがこんなに早く来るなんて。

――ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ

軋みをあげてヘビ型がツンに狙いを定める。
もう、だめだ。ボクの手は、足は間に合わない。
ツンの場所に届かない。
内藤はついに諦めた。そして、叫んだ。

( ゚ω゚)「フサギコォォォォォォォォォ!!」

――いつか必ずその手で、足で届かない人が出てくる
――その時は……俺を呼べ。手が空いてれば、駆けつけてやる

ミ.,,゚Д゚彡『呼んだか、内藤』

マイクから流れるフサギコの声。そして爆発音が轟いた。



268: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 22:28:02.20 ID:vafhPJWa0
  
耳をつんざくような爆発音。そして爆風。
爆風に押されて、内藤は数mほども吹っ飛ばされた。

ξ゚听)ξ「きゃあああああああああああああああ!!」

その上に飛ばされてきたツンをしっかりキャッチ。
柔らかい体の感触にドギマギする暇もなく、内藤はフサギコに呼びかけた。

( ^ω^)「フサギコ!! 来てくれたのかお!!」
ミ.,,゚Д゚彡『何度も呼ぶんじゃない。それに、来るも何も俺はお前を追いかけてきただけだ』

そういえば、ツンに引っ張られて忘れていたがフサギコを放置したままだった。
そりゃあ呼べば来るというものだ。

(;^ω^)「それもそうだお。ちょっと感動して損したお」
ミ#,,゚Д゚彡「……あぁ? 何ふざけた事いってんだゴルァ!! しかもどさくさにまぎれてタメ語か!!」

キレるフサギコ。どうやら一度キレてから、沸点がかなり低くなったようだ。
しかし、今は言い合いをしている場合ではない。



270: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 22:38:14.10 ID:vafhPJWa0
  
( ゚ω゚)「フサギコ!! 上だお!!」
ミ.,,゚Д゚彡『フサギコ『さん』だゴルァ!!』

内藤に怒鳴り返しながら、フサギコは肩に構えたロケットランチャーを上に向けて発射した。
ロケットは白煙を吹き出しながら直進、壁の一角に着弾する。
上空から降下しようとしていたサカナ型2体は、その爆風に巻き込まれて爆発した。
閉所だからこそ出来た芸当だ。もしも開けた場所なら、こうはうまくいかなかっただろう。

ミ.,,゚Д゚彡『ちっ……虎の子のロケットだったんだぞ』

ぼやきながら空になったランチャーを放り捨てる。

ミ.,,゚Д゚彡『よし、片づいたな。とりあえず無事なようで何より……』

内藤の無事を確認したフサギコが、そこで言葉を切る。

ミ.,,゚Д゚彡『あー……まあ、おおむね無事だった、と言うべきか』
( ^ω^)「おっ?」

なんのことか判らない内藤が聞き返すよりも早く、内藤の手が柔らかい物体を感知する。
柔らかなふよふよとした物体。この感触は、まさしく

( ゚ω゚)「漫画の王道、ドサクサ・デ・ムネタッチだおブベラァッ!!」

ツンの強烈なひじ鉄をくらって、内藤は悶絶した。



275: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 22:50:35.59 ID:vafhPJWa0
  
――起爆時間まで、残り6分。

内藤とツンは、長の亡骸を丁寧に横たえた。
服の端切れで綺麗に長の顔を拭ったツンは泣かず、長の埋葬も、却下されるとそれ以上食い下がろうとはしなかった。

( -ω-)ξ--)ξ「……」

内藤とツンは、長に短いながらも深い黙祷を捧げた。

ミ.,,゚Д゚彡『内藤、そろそろ行くぞ』

一足早く黙祷をすませたフサギコが、洞窟入り口でこちらを呼んでいる。

( ^ω^)「今行くお。ツン、もう時間だお」
ξ゚听)ξ「うん……」

歩き始めた内藤だが、元気のないツンが気になって立ち止まり、振り返る。
だから、内藤にはヘビ型の尻尾がかすかに軋みをあげて動いたことがわからなかった。

ミ.,,゚Д゚彡『内藤っ!!』

フサギコの声が聞こえると同時に、内藤の体は激しい衝撃にはねとばされた。



276: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 22:58:19.66 ID:vafhPJWa0
  
( +ω+)「うぐ、ぐ?」

跳ね飛ばされた衝撃で打った頭が痛い。
だが、今の衝撃はいったい何なのか。

ミ.,,゚Д゚彡『く……内藤、逃げろっ!!』

フサギコの切迫した声が聞こえる。
はっとした内藤がフサギコを見ると、フサギコの太股にはヘビ型の尻尾が貫通していた。
その場所は、自分が今まで立っていた場所だった。
フサギコは内藤を突き飛ばし、身代わりとなったのだとそこで気づく。

( ゚ω゚)「ふ、フサギコっ!?」
ミ.,,゚Д゚彡『俺のことはいい、俺のことは自分で何とかする!! いいから行け、時間がない!!』
(;゚ω゚)「何言ってるんだお、ボクが言ったらフサギコは、フサギコは……」
ミ.,,゚Д゚彡『何度も言わすんじゃねぇぞゴルァ!! いいからお前はツンを連れて逃げろ!!』

ヘビ型はロケットの直撃により半壊しており、素早い行動が起こせるのは尻尾だけらしい。
だが、フサギコを諦める気は毛頭無いようだ。ヘビ型はじりじりとフサギコを体に巻き込みつつある。



278: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 23:10:22.11 ID:vafhPJWa0
  
内藤の目の前に提示された選択肢は3つだ。

1 フサギコを残してツンと逃げる→おおむね良好
2 フサギコを助けるために300m離れたエア・スクーターから武器を取ってくる→時間切れ
3 皆で昇天→現実は非常である

あまりにもふざけている。二重丸をつけたくなる選択肢は一つとしてない。
理屈としては1しか選択できそうにない。ツンを守りたい気持ちは強い。
だが感情としては2あたりを選択したい。フサギコを残していくことはしたくない。

ミ.,,゚Д゚彡『何を迷ってんだゴルァ!!』
(#゚ω゚)「あんたこそ何言ってるのかわからんお!! あんたはボクを助けてくれるんじゃなかったのかお!!」
ミ.,,゚Д゚彡『あれは手が空いてればって話だろうが!! 今は手一杯だ、諦めろ!!』
(#゚ω゚)「だからって……置いてなんかいけるかお!!」

フサギコに話しかけられなかった理由。
それは、彼の弟であるギコを見捨てたという罪悪感から来るものだった。
ギコの最期とフサギコの今が重なる。もうあんな思いはごめんだった。

(#゚ω゚)「ボクは誰かを見捨てることなんてもう嫌なんだお!! だから、だからっ」
(#゚ω゚)「だから助けたい人は皆助けたいんだおーっっっっっっ!!」

内藤は今まで燻っていた気持ちを爆発させるように叫んだ。



281: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 23:22:24.68 ID:vafhPJWa0
  
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ?」

くり、と首を傾げる仕草。
気づけば、いつの間にかぽっぽが内藤の目の前にいた。

(;゚ω゚)「ぽ、ぽっぽちゃん?」
ξ゚听)ξ「ちんぽっぽ!?」

内藤とツンの言葉が重なる。

(;゚ω゚)「ぽ、ぽっぽちゃんの名前はちんぽっぽちゃんなのかお?」
ξ゚听)ξ「そこに居るのは、ちんぽっぽ。普段は絶対に姿を見せない存在」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!!」

自分の話になったちんぽっぽがピョンピョンと飛び跳ねる。
そして――そのままヘビ型機械に勢いよく体当たりをした。

――ゴインっ

にぶい音がしてちんぽっぽがはじき返される。
ぼてんと転がったちんぽっぽは、頭を押さえようとして短い手を頭に伸ばす。



284: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 23:32:57.20 ID:vafhPJWa0
  
(;゚ω゚)「な、なにやってるんだおちんぽっぽちゃん……」
ξ゚听)ξ「馬鹿ね、あれを見なさい!!」

ツンが指さした先。
先ほどまで禍々しく軋みを上げてフサギコを締め付けていたヘビ型が、機能を停止していた。

ミ;,,゚Д゚彡『な、なんだ?? いきなり動かなくなったぞゴルァ』

捉えられていたフサギコも何のことか判らず、呆然としている。

ミ.,,゚Д゚彡『いや、それよりも!! 時間がやばいぞ!!』
(;゚ω゚)「そ、そうだったお!! 時間は……」

フサギコと同時に時計を確認する。残り時間――わずかに3分。

( ゚ω゚)「そんな……せっかく助かったのに」
ミ.,,゚Д゚彡『くそ……時計が壊れてやがる。内藤、残り何分だ』

ぼやくフサギコに残り時間を告げて、同時に思いついた作戦を告げる。
ツンを乗せて、磁気嵐と地震の影響の外に連れて行く。
その後に、全力で島を離脱する。それが作戦。



287: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 23:40:32.00 ID:vafhPJWa0
  
ツンは残り時間の意味が理解できずにいるが、この作戦は決定的に破綻した部分がある。
今からでは真っ直ぐに島を離脱しようとしても、起爆時間までに間に合うことはないだろう。
磁気嵐の発生はそれよりも若干遅れるとはいえ、島全体を覆うことになる磁場異常は瞬時に現われる。
起爆した瞬間にエア・スクーターは飛べなくなり、後は磁気嵐に体と脳を犯されて死ぬ。
それが確定した作戦だった。

ミ.,,゚Д゚彡『内藤……それで本当にいいのか』
( ^ω^)『もちろんだお。ボクは助けたい人は皆助けたいんだお』
( ´ω`)『でも、ごめんだお……フサギコは……』
ミ.,,゚Д゚彡『そんなことは気にするな。バディを組んだときに、こうなることも覚悟の上だ』

指向性通信のみで会話を終了し、ツンに顔を向ける。

( ^ω^)「ツン。ボクは、ボクの助けたい人を全員助けたいんだお」
( ^ω^)「だから、今から一緒にエア・バイクに乗って……」

くいくい、と。
話を遮るように、内藤の袖がひかれた。

(*‘ω‘ *)「ちんぽっぽ!!」

そこには短い手で胸を叩くちんぽっぽの姿。
内藤とフサギコはわけがわからず、ツンはちんぽっぽに何かを期待するかのような目を向けていた。



290: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/09/30(土) 23:49:56.04 ID:vafhPJWa0
  
――兄者・弟者バディ

(´<_` )「そろそろだな、兄者」
( ´_ゝ`)「そろそろだ、弟者」

そろそろ、エア・バイクのバッテリーがなくなる。
ジャマーも使いつつだましだましこの辺りを周回していたが、もういいだろう。
起爆時間までもあとわずか。いまここでやられても、そのあと機械共も磁気嵐の餌食だ。

(´<_` )「兄者、この次も兄者でいてくれるか」
( ´_ゝ`)「もちろんだ。お前の兄は、俺だけだし、俺の弟はお前しかいない」
(´<_` )「兄者……」
( ´_ゝ`)「弟者……」

起爆までのカウントが秒単位に切り替わる。
エア・スクーターが徐々に速度と高度をおとし始めた、その時。

(*‘ω‘ *)「ちんぽっぽおぉぉぉぉぉぉ!!」

大きな放物線を描いて、小さな生き物が二人に激突してきた。
ぱすん、と音をたてて、その瞬間にエア・スクーターが停止する。

(´<_` )「な、なんだ!! 何がとんで来た!?」
( ´_ゝ`)「あ、兄者!! あれを見ろ!!」

そこには、猛烈な勢いで機械の群れに体当たりを繰り返す小さな生き物の姿があった。
バレーボールほどの大きさの生き物は、体当たりをしては跳ね返されて、また果敢に体当たりをしていく。
奇妙な事に、あの生き物に体当たりをされた機械は次々と機能を停止しくようだった。



294: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/01(日) 00:13:28.53 ID:pE19Khno0
  
(´<_`;)「わけがわからん……」
(;´_ゝ`)「とにかく、我々を守ってくれていることだけは確かなようだが」

弟者の言葉通り、その生き物は二人に近づく機械を優先的に止めているようだった。
二人が呆然とその行動を眺めていると、遠くから地響きが伝わってきた。

(´<_`;)「はじまったか!!」
(;´_ゝ`)「く、おおぉぉぉぉ!!」

猛烈な不快感が脳を揺らす。磁場異常が脳に走る信号を乱れさせているのだ。
混濁していく意識。強まる不快感。それが、唐突に和らいだ。

(´<_`;)「な、なんだ?」
(;´_ゝ`)「見ろ弟者!!」

兄者の指さす方向。
あの小さな生き物が、二人に寄り添うようにして毛を逆立てていた。

(*‘ω‘ *)「ぽっぽっぽおおぉぉぉぉぉぉ!!」

どうやら生き物の周囲だけ、磁場異常が中和されているらしい。
その証拠に、その範囲外にいる機械達は次々と浮遊能力を失い、地面に墜落していく。
やがて遠くから磁気嵐と思しき渦が近づいてきた。
それを確認して、二人は不快感に耐えきれずに昏倒した。
後には毛を逆立て続ける生き物――電磁場操作型トレーダー、ちんぽっぽ種のみが残った。



296: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/01(日) 00:31:31.06 ID:pE19Khno0
  
(*‘ω‘ *)「ぽっぽっぽおおぉぉぉぉぉぉ!!」
( ^ω^)「す、すごいお、ちんぽっぽちゃん」

内藤の目の前にいるちんぽっぽも、同じように毛を逆立て続けていた。
あの後、ちんぽっぽは地震の影響の及ばない高原までエア・スクーターを誘導。
その場で驚くことに『分裂』した。
少し小さくなったものの、見た目は分裂前と全く同じちんぽっぽ。
二人はまったく同じ動作で頷き合うと、一方は高く高く飛び跳ねて、やがて見えなくなった。
おそらく内藤の言う「助けたい人」を助けに行ったのだろう。
そして片方のちんぽっぽはその場に残り、起爆によって引き起こされた磁場異常と磁気嵐を中和しつづけていた。

( ^ω^)「一体、ちんぽっぽちゃんは何者なのかお?」
ξ゚听)ξ「彼らのことは私達にもよくわからない。普段は絶対に姿を見せないの」

ただ、たまに姿を現しては、磁場異常地帯を中和したり、逆に増やしたり。
磁気嵐から農作物やトレーダー族を守ったりすることが確認されているのみなのだという。
一種の妖精のような存在として認知されていると、ツンは話を続けた。

ξ゚听)ξ「言葉は通じているみたいだけど、意図的に彼らとコンタクトを取れた者は私達の中にも希にしかいない」
ξ゚听)ξ「人間の中では……内藤、アンタが初めてよ」
(*^ω^)「おっおっおっ、ボクが人類初なのかおwww照れるお」

やっぱり優しく話しかけたのがよかったんだお。そう続ける内藤。
だが、それだけでちんぽっぽが内藤を認めるとは思えない。
単純に喜ぶ内藤を見て、ツンは内藤の持つ資質を一つ、発見することができた気がした。



298: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/01(日) 00:38:40.01 ID:pE19Khno0
  
作戦開始から1時間30分後。
潜水艦タシーロ号は、予定されたポイントに浮上した。
予想した通り、島全体を覆っていた磁気嵐と磁場異常は去り、島は平穏を取り戻していた。

唯一島から離脱していたジョルジュ・荒巻バディは島を捜索し、広原地帯で倒れている流石兄弟を回収。
その後に、森の側で何かに向かって手を振る内藤、フサギコ、そしてツンを発見した。

流石兄弟とフサギコ・内藤バディのエア・スクーターは、磁気嵐に飲み込まれて使い物にならなくなった。
だが、ミルナはそれらの損耗を気にせずに、帰ってきた六名に対して最大限の労いの言葉をかけた。

今回の地上の物的被害はかなりの物だが、もともと自然回帰を旨とするトレーダー族には大した被害ではないだろう。
燃料棒の再補給はトレーダー族の施設再開まで延期され、タシーロ号は二日続けて同じ港に接岸することになった。
上陸の際に、ミルナはしばらく停泊することを宣言。メンバーには次回招集までの休暇が与えられた。

長を失ったトレーダー族の悲しみは深かったが、せめてもの救いは巫女が無事だったことだろう。
巫女を守ったことはツンの口から全体に伝えられ、トレーダー族はVIPメンバーを賓客としてもてなすことを約束した。

ちなみにこの話を聞いたジョルジュは、株が上がったことをこれ幸いにと、休暇にはいると同時にジェシカにアタック。
その成果を聞くことはできなかったが、ジョルジュの部屋には笑顔のジェシカが写った写真が追加された。

ついでに、この話を聞いた荒巻もアリナにアタックしたようだが、これは見事に玉砕。
今度の記録は斜め45度方向に10mの飛距離を記録したことを、ここに記しておく。

そしてツンと内藤はというと――



299: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/01(日) 00:44:37.77 ID:pE19Khno0
  
ツンと内藤は、長の墓参りに来ていた。
長の墓は、生前の遺言通り、島で最も大きな木の根本に作られた。
墓標はない。大木そのものが彼女の墓標そのものだからだ。
眠った後は、静かに一族の暮らしを見守りたいという彼女の遺志は、ここに果たされた。

( -ω-)ξ--)ξ「………………」

さわさわと葉擦れの微かな音に包まれながら、二人は並んで長に黙祷を捧げていた。
内藤は合掌の形だが、ツンは指を組み合わせる形だ。
だが、形は問題ではない。大切なのは個人を偲び、想う気持ちだからだ。

ξ゚听)ξ「……ありがとう」
( -ω^)「んお?」

先に黙祷を終えたツンが、内藤に声をかけた。
木漏れ日がツンの横顔を優しく照らしている。

ξ゚听)ξ「あの時、内藤がいてくれてよかった。私だけじゃどうにもならなかったもの」
( ^ω^)「ボクは助けたい人を皆助けたかったんだお。ツンを助けられて良かったお」
ξ゚听)ξ「あなたはそうかもしれない。でも、私は……」
( ^ω^)「おっ?」

ツンは小さく首を振り、独占はエゴよね、と呟いた。
内藤はただ首を傾げるだけだ。
首を傾げる内藤とその背後を見て、ツンは思わず吹き出した。
内藤のその背後、木の陰にちんぽっぽが隠れて、内藤の真似をして首を傾げていたのだ。



300: 機械 ◆DIF7VGYZpU :2006/10/01(日) 00:50:45.82 ID:pE19Khno0
  
( ^ω^)「な、なんだお??」
ξ゚听)ξ「なーんでもないわよ、馬鹿」

馬鹿は酷いおーとか抗議する内藤を余所に、ツンは目の前の大木を見上げた。

――長。私達はかつて我々の祖先を迫害した者達の子孫に助けられました。
だから、ってわけじゃないですけど。もう、許してもいいですよね。だって、私はもう――

ξ゚听)ξ「ねー、内藤」
( ^ω^)「なんだお?」
ξ゚听)ξ「私はもう、許してるからね」

何でもないことのようにツンが言う。
内藤はその言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。



戻る5日目-前編